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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B21D
管理番号 1241804
審判番号 不服2010-11655  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-01 
確定日 2011-08-11 
事件の表示 特願2004-253846「液体噴射ヘッドの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月16日出願公開、特開2006- 68767〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成16年9月1日の特許出願であって、同21年11月18日付けで拒絶の理由が通知され、同22年1月19日に手続補正がなされ、同年2月23日付けで拒絶査定がされ、同年6月1日に本件審判の請求とともに手続補正がなされ、当審において同23年3月16日付けで拒絶理由が通知され、同年5月20日に意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成22年6月1日に補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりと認められる。

「複数の圧力発生室が列設された圧力発生室基板と、複数のノズル開口が列設されたノズルプレートと、を備える液体噴射ヘッドの製造方法であって、
金属基板に、複数のポンチからなるポンチ列が形成された第1雄型を押込み、複数の溝状窪部を形成する工程と、
前記溝状窪部が列設され、前記溝状窪部の列設方向に対して湾曲形状を有する前記金属基板に、第2雄型に形成された複数のポンチからなるポンチ列を、前記複数の溝状窪部に対して前記複数のポンチの押込み時期が略同じになるよう押込み、前記溝状窪部の底部に連通口を形成する工程と、を含み、
前記第2雄型は、前記ポンチ列の中央部のポンチの先端が、前記ポンチ列の端部のポンチの先端より突出していることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。」

3.刊行物記載の発明
(1)刊行物1
これに対し、本願出願前に頒布された刊行物であって、当審で通知した拒絶理由に引用された特開2004-98672号公報(以下「刊行物1」という。)には、次のように記載されている。

ア.段落0001
「【0001】
本発明は、圧力発生室形成板に鍛造加工が施される液体噴射ヘッドおよびその製造方法に関するものである。」

イ.段落0045?0046
「【0045】
次に、上記の流路ユニット4について説明する。この流路ユニット4は、圧力発生室形成板30の一方の面にノズルプレート31を、圧力発生室形成板30の他方の面に弾性板32を接合した構成である。
【0046】
圧力発生室形成板30は、図4に示すように、溝状窪部33と、連通口34と、逃げ凹部35とを形成した金属製の板状部材である。・・・。」

ウ.段落0051
「【0051】
溝状窪部33は、圧力発生室29となる溝状の窪部であり、図5に拡大して示すように、直線状の溝によって構成されている。本実施形態では、幅約0.1mm,長さ約1.5mm,深さ約0.1mmの溝を溝幅方向に180個列設している。・・・。」

エ.段落0080?0089
「【0080】
次に、上記記録ヘッド1の製造方法について説明する。・・・。また、圧力発生室形成板30の素材として使用する帯板は、上記したようにニッケル製である。
【0081】
圧力発生室形成板30の製造工程は、溝状窪部33を形成する溝状窪部形成工程と、連通口34を形成する連通口形成工程とからなり、順送り型によって行われる。
【0082】
溝状窪部形成工程では、図8に示す第1雄型51と図9に示す雌型52とを用いる。この第1雄型51は、溝状窪部33を形成するための金型である。この第1雄型には、溝状窪部33を形成するための突条部53を、溝状窪部33と同じ数だけ列設してある。・・・。
【0083】
また、雌型52には、その上面に筋状突起54が複数形成されている。この筋状突起54は、隣り合う圧力発生室29,29同士を区画する隔壁の形成を補助するものであり、溝状窪部33,33同士の間に位置する。・・・。
【0084】
そして、溝状窪部形成工程では、まず、図10(a)に示すように、雌型52の上面に素材であるとともに圧力発生室形成板である帯板55を載置し、帯板55の上方に第1雄型51を配置する。次に、図10(b)に示すように、第1雄型51を下降させて突条部53の先端部を帯板55内に押し込む。このとき、突条部53の先端部分53aをV字状に尖らせているので、突条部53を座屈させることなく先端部分53aを帯板55内に確実に押し込むことができる。この突条部53の押し込みは、図10(c)に示すように、帯板55の板厚方向の途中まで行う。
【0085】
突条部53の押し込みにより、帯板55の一部分が流動し、溝状窪部33が形成される。ここで、突条部53の先端部分53aがV字状に尖っているので、微細な形状の溝状窪部33であっても、高い寸法精度で作製することができる。すなわち、先端部分53aで押された部分が円滑に流れるので、形成される溝状窪部33は突条部53の形状に倣った形状に形成される。このときに、先端部分53aで押し分けられるようにして流動した素材は、突条部53のあいだに設けられた空隙部53b内に流入し隔壁部28が成形される。さらに、先端部分53aにおける長手方向の両端も面取りしてあるので、当該部分で押圧された帯板55も円滑に流れる。従って、溝状窪部33の長手方向両端部についても高い寸法精度で作製できる。
【0086】
・・・。
【0087】
・・・。
【0088】
このようにして溝状窪部33を形成したならば、連通口形成工程に移行して連通口34を形成する。この連通口形成工程では、図11に示すように、第2雄型57と第3雄型59とを用いる。ここで、第2雄型57は、第1連通口37の形状に対応する角柱状の第1連通口形成部56を複数本櫛歯状に設けたもの、即ち、複数の第1連通口形成部56…をベースから立設したものである。また、第3雄型59は、第2連通口38の形状に対応した角柱状の第2連通口形成部58を複数本櫛歯状に形成したものである。なお、第2連通口形成部58は、第1連通口形成部56よりも一回り細い形状に作製されている。
【0089】
この連通口形成工程では、まず、図11(a)に示すように、第2雄型57の第1連通口形成部56を帯板55における溝状窪部33側の表面から板厚方向の途中まで押し込んで第1連通口37となる窪部を形成する(第1連通口形成工程)。第1連通口37となる窪部を形成したならば、図11(b)に示すように、第3雄型59の第2連通口形成部58を溝状窪部33側から押し込んで第1連通口37の底部を打ち抜いて第2連通口38を形成する(第2連通口形成工程)。」

これらを、図面、特に図10、図11を参照しつつ、技術常識を踏まえ、本願発明に照らして整理すると、上記刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「複数の圧力発生室29が列設された圧力発生室基板30と、複数のノズル開口48が列設されたノズルプレート31と、を備える液体噴射ヘッドの製造方法であって、
ニッケル製帯板55に、複数の突条部53からなる突条部列が形成された第1雄型51を押込み、複数の溝状窪部33を形成する工程と、
前記溝状窪部33が列設された前記ニッケル製帯板55に、第2雄型57に形成された複数の第1連通口形成部56からなる第1連通口形成部列を、前記複数の溝状窪部33に対して押込み、前記溝状窪部の底部に第1連通口37を形成する工程と、を含む、
液体噴射ヘッドの製造方法。」

(2)刊行物2
同じく、実願昭59-155254号(実開昭61-72323号)のマイクロフイルム(以下「刊行物2」という。)には、次のように記載されている。

ア.明細書第2ページ第13?15行
「本考案は、プレスワークの曲面部分を含む複数個所に対して同時に穴明け加工するためのプレスワークの穴明け加工装置に関するものである。」

イ.明細書第5ページ第2?6行
「前記パンチ押圧体は、前記セット工具の数に応じた数のパンチ押圧部を有して、該各パンチ押圧部は、対応するセット工具におけるパンチ頭部にほぼ同時に当接可能となるようにその高さ位置が個々に設定されている。」

上記記載を、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえ整理すると、刊行物2には、以下の事項(以下「刊行物2事項」という。)が記載されていると認める。

「プレスワークの曲面部分を含む複数個所に対して同時に穴明け加工するため、各パンチ押圧体の高さ位置が個々に設定されているもの。」

4.対比・判断
刊行物1発明の「ニッケル製帯板55」は本願発明の「金属基板」に相当し、同様に、「突条部53」は「ポンチ」に、「第1連通口形成部56」は「ポンチ」に、「第1連通口37」は「連通口」に、それぞれ相当する。

そうすると、本願発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致する。
「複数の圧力発生室が列設された圧力発生室基板と、複数のノズル開口が列設されたノズルプレートと、を備える液体噴射ヘッドの製造方法であって、
金属基板に、複数のポンチからなるポンチ列が形成された第1雄型を押込み、複数の溝状窪部を形成する工程と、
前記溝状窪部が列設された前記金属基板に、第2雄型に形成された複数のポンチからなるポンチ列を、前記複数の溝状窪部に対して押込み、前記溝状窪部の底部に連通口を形成する工程と、を含む、
液体噴射ヘッドの製造方法。」

そして、以下の点で相違する。
第2雄型の押し込みにあたり、本願発明は、金属基板が「溝状窪部の列設方向に対して湾曲形状」であり、「複数のポンチの押込み時期が略同じになるよう」「第2雄型は、前記ポンチ列の中央部のポンチの先端が、前記ポンチ列の端部のポンチの先端より突出している」が、刊行物1発明はそのようなものではない点。

相違点について検討する。
刊行物1発明においても、第1雄型の押し込みに伴う内部応力により、金属基板が湾曲することは、技術常識として十分に考えられ、そのような金属基板の湾曲により、穴あけの加工精度が低下するという課題を内在していたと言える。
刊行物1発明は、穴あけの加工精度低下の課題を、ある程度許容していたと解されるところ、そもそも加工精度の向上を図ることは、当業者にとって普遍的な課題である。
刊行物2事項は、曲面ワークの複数箇所に、同時に穴あけを行うものであり、同時でない場合と比較して、加工精度の向上が期待できることから、刊行物2記載事項を刊行物1発明に適用し、「複数のポンチの押込み時期が略同じになるよう」にすることに困難性は認められない。
「複数のポンチの押込み時期が略同じになるよう」にするためには、湾曲した金属基板に対応する工具形状とすることは、刊行物2事項において、各パンチ押圧体の高さ位置を個々に設定しているごとく、自然なことであり、しかも、複数工具列の中央部が端部よりも突出する工具形状は、拒絶理由で引用した特開平10-15899号公報の図1、実願昭56-194030号(実開昭58-102097号)のマイクロフイルムの第4図、特開昭50-144778号公報の第6図にみられるごとく周知である。
よって、工具である第2雄型を「ポンチ列の中央部のポンチの先端が、前記ポンチ列の端部のポンチの先端より突出している」ものとすることは適宜なしうる事項にすぎない。

請求人は、意見書で、各刊行物には、金属基板が湾曲するという事実が記載されておらず、かかる課題は認識されていなかったから、動機付けがない旨、主張する。
しかし、「認識」の明示にかかわらず、穴あけの加工精度の低下という課題は、当業者が当然に予測しうるものである。その場合に対応が必要なことは当然であるから、請求人の主張は、採用できない。

5.むすび
本願発明は、刊行物1発明、刊行物2事項、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-08 
結審通知日 2011-06-14 
審決日 2011-06-27 
出願番号 特願2004-253846(P2004-253846)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村山 睦  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 刈間 宏信
藤井 眞吾
発明の名称 液体噴射ヘッドの製造方法  
代理人 宮坂 一彦  
代理人 上柳 雅誉  
代理人 須澤 修  

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