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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1241907
審判番号 不服2010-20083  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-07 
確定日 2011-08-08 
事件の表示 特願2005-203518「動圧軸受装置およびモータ」拒絶査定不服審判事件〔平成19年2月1日出願公開、特開2007-24089〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成17年7月12日の出願であって、平成22年6月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年9月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

II.平成22年9月7日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年9月7日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、補正前の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
内周面を有する外側部材と、外側部材の内径側に配置され、焼結金属製の軸受スリーブ、及び、軸受スリーブと別体に金属材料で形成され、軸受スリーブの内周に固定した軸部材を有する内側部材と、外側部材の内周面と軸受スリーブの外周面との間に形成されたラジアル軸受隙間と、内側部材の回転時に、ラジアル軸受隙間に潤滑流体の動圧作用を発生させるラジアル動圧発生部とを備えた動圧軸受装置。」から、
補正後の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
内周面を有する外側部材と、外側部材の内径側に配置され、焼結金属製の軸受スリーブ、及び、軸受スリーブと別体に金属材料で形成され、軸受スリーブの内周に固定した軸部材を有する内側部材と、第1のスラスト部材と、第1のスラスト部材と軸方向に離間した第2のスラスト部材とを備え、
外側部材の内周面と軸受スリーブの外周面との間に形成されたラジアル軸受隙間と、軸受スリーブの一方の端面と第1のスラスト部材の端面との間に形成された第1のスラスト軸受隙間と、軸受スリーブの他方の端面と第2のスラスト部材の端面との間に形成された第2のスラスト軸受隙間とを有するものであって、
内側部材の回転時に、ラジアル軸受隙間に潤滑流体の動圧作用を発生させるラジアル動圧発生部と、第1のスラスト軸受隙間に潤滑流体の動圧作用を発生させる第1のスラスト動圧発生部と、第2のスラスト軸受隙間に潤滑流体の動圧作用を発生させる第2のスラスト動圧発生部とを設けた動圧軸受装置。」と補正された。なお、下線は対比の便のため当審において付したものである。
上記補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「外側部材」及び「軸受スリーブ」に関して、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)の図2及び4の記載、並びに「軸受スリーブ8の上側端面8bの第1のスラスト動圧発生部T1が第1のスラスト部材9の下側端面9bと所定幅の第1のスラスト軸受隙間を介して対向し、軸受スリーブ8の下側端面8cの第2のスラスト動圧発生部T2は、外側部材7の底部を構成する第2のスラスト部材11の上側端面11aと所定幅の第2のスラスト軸受隙間を介して対向する。」、及び「上記第1および第2のスラスト動圧発生部T1、T2が、各スラスト軸受隙間の潤滑油に動圧作用を発生させ、内側部材13が上記スラスト軸受隙間内に形成される潤滑油の油膜によってスラスト両方向で回転自在に非接触支持される。」(いずれも、段落【0030】)の記載を根拠として、「第1のスラスト部材と、第1のスラスト部材と軸方向に離間した第2のスラスト部材とを備え」、「軸受スリーブの一方の端面と第1のスラスト部材の端面との間に形成された第1のスラスト軸受隙間と、軸受スリーブの他方の端面と第2のスラスト部材の端面との間に形成された第2のスラスト軸受隙間とを有するものであって」、及び「第1のスラスト軸受隙間に潤滑流体の動圧作用を発生させる第1のスラスト動圧発生部と、第2のスラスト軸受隙間に潤滑流体の動圧作用を発生させる第2のスラスト動圧発生部とを設けた」とその構成を限定的に減縮するものである。
結局、この補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当し、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項追加禁止に該当するものではない。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1:特開2001-241443号公報
(2)刊行物2:特開2003-247536号公報

(刊行物1)
刊行物1には、「焼結含油軸受及びスピンドルモータ」に関して、図面(特に、図1を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(a)「本発明は、起動時と停止時にはすべり軸受として機能し、回転時には流体動圧軸受として機能する焼結含油軸受に関する。」(第2頁第1欄第20?22行、段落【0001】参照)
(b)「図1に示す如く、本発明の一実施形態の焼結含油軸受は、円柱部2とリング部3とを有する焼結多孔質部材のフランジ付シャフト1と、フランジ付シャフト1が回転自在にして嵌合されるスリーブ4と、スラスト板5と、これら軸受構成部材間に形成された微小隙間RR1、RR2、RS1、RS2、RV、S並びに油循環孔Q1、Q2、Q3に充填され更に焼結多孔質部材のフランジ付シャフト1の焼結孔に含浸された潤滑油Fとから構成されている。
微小隙間RR1はフランジ付シャフト1のリング部3の外周面とスリーブ4の大径円筒部の内周面との間に形成された環状微小隙間であり、微小隙間RR2はフランジ付シャフト1の円柱部2の下部の外周面とスリーブ4の小径円筒部の内周面との間に形成された環状微小隙間である。また、微小隙間RS1はフランジ付シャフト1のリング部3の上面とスラスト板5の下面との間に形成された円盤状微小隙間であり、微小隙間RS2はフランジ付シャフト1のリング部3の下面とスリーブ4の大径円筒部の底面との間に形成された円盤状微小隙間であり、微小隙間RVはフランジ付シャフト1の円柱部2の下端面とスリーブ4の小径円筒部の底面との間に形成された円盤状微小隙間である。
更に、微小隙間Sはフランジ付シャフト1の円柱部2の上部の外周面とスラスト板5のテーパー付内周面との間に形成されたテーパー付環状微小隙間であって、毛細管現象と表面張力を利用して軸受装置内に充填されている潤滑油が外部に漏出しないようにシールするキャピラリーシールとして機能するものである。
微小隙間RR1、RR2、RS1、RS2の隙間幅は軸受装置のサイズ、回転数、潤滑油の粘度によって異なるが、数μから数100μ程度である。また、潤滑油溜りとして機能する微小隙間RVの隙間幅は微小隙間RR1、RR2、RS1、RS2の隙間幅の数倍又はそれ以上である。
油循環孔Q1はフランジ付シャフト1のリング部3に円周上に等間隔に配置され且つ軸方向に穿設された複数の縦循環孔である。油循環孔Q1が配置される円周は、フランジ付シャフト1の円柱部2の外周円に近接したものである。また、油循環孔Q2はフランジ付シャフト1のリング部3に穿設された複数の斜循環孔であって、その一端は環状微小隙間RR1と円盤状微小隙間RS1との境界部分C1に連通し且つその他端は縦循環孔Q1に連通している。更に、油循環孔Q3はフランジ付シャフト1のリング部3に穿設された複数の斜循環孔であって、その一端は環状微小隙間RR1と円盤状微小隙間RS2との境界部分C2に連通し且つその他端は縦循環孔Q1に連通している。これらの油循環孔Q1、Q2、Q3は、負圧発生防止孔として作用するものである。即ち、もしこれらが設けられていないならば、焼結含油軸受が流体動圧軸受として機能している場合に、微小隙間の境界部分C1、C2には負圧が発生する。潤滑油がスラスト動圧とラジアル動圧の両方の動圧を発生させるのに使われるために、これらの境界部分C1、C2には負圧が発生するのである。
ヘリングボーン溝の如きラジアル動圧発生溝G1はフランジ付シャフト1のリング部3の外周面に形成され、且つスパイラル溝の如きスラスト動圧発生溝G2はフランジ付シャフト1のリング部3の上面と下面に夫々形成されている。
上述の如き構成のフランジ付シャフト1は、材料コストが安く且つ成形加工が容易な焼結粉末合金を型成形して所定形状の焼結多孔質のシャフト部材を製造する。この焼結多孔質のシャフト部材の製造工程において、縦循環孔Q1は同時に形成される。斜循環孔Q2は、焼結多孔質のシャフト部材にドリルで穿設される。焼結多孔質のシャフト部材のリング部の上面と下面には、図3や図4に示す如きパターンのスラスト動圧発生溝G2がボール転造による溝加工によって形成される。ボール転造で溝加工した場合、焼結多孔質のシャフト部材のリング部の上面と下面に形成された溝部は、その部分の焼結孔Hが目潰しされるので、潤滑油がシャフト部材内に戻ることはない。ところが、スラスト動圧発生溝G2をエッチングで形成した場合には、図5に示す如く、その溝部の表面に樹脂SRを含浸させる必要がある。また、ラジアル動圧発生溝G1は、焼結多孔質のシャフト部材の型成形による製造工程において同時に形成される。」(第2頁第2欄第47行?第3頁第4欄第24行、段落【0008】?【0014】参照)
したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
【引用発明】
内周面を有するスリーブ4と、スリーブ4の内径側に配置され、焼結粉末合金製のリング部3、及び、リング部3と一体に形成され、リング部3の内周に円柱部2を有するフランジ付きシャフト1と、スラスト板5と、スラスト板5と軸方向に離間したスリーブ4の大径円筒部とを備え、
スリーブ4の大径円筒部の内周面とリング部3の外周面との間に形成された微小空間RR1と、リング部3の上面とスラスト板5の下面との間に形成された微小隙間RS1と、リング部3の下面とスリーブ4の大径円筒部の底面との間に形成された微小空間RS2とを有するものであって、
フランジ付きシャフト1の回転時に、微小空間RR1に潤滑油Fの動圧作用を発生させるラジアル動圧発生溝G1と、微小空間RS1に潤滑油Fの動圧作用を発生させるリング部3の上面のスラスト動圧発生溝G2と、微小空間RS2に潤滑油Fの動圧作用を発生させるリング部3の下面のスラスト動圧発生溝G2とを設けた焼結含油軸受。

(刊行物2)
刊行物2には、「動圧軸受、及びモータ」に関して、図面(特に、図2を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(c)「本発明は動圧軸受、及びモータに関し、例えば、ハードディスクなどのディスクドライブ用に用いられるものに関する。」(第2頁第1欄第50行?第2欄第2行、段落【0001】参照)
(d)「図2は、本実施の形態のモータの一変形例を示す軸線方向断面図である。モータ70は、リング構造と呼ばれる動圧軸受部55を有する。以下では、モータ30とモータ70の主な相違点である動圧軸受部55の構造を中心に説明する。また、モータ70を構成する要素のうち、ステータコイル4、外縁部16、永久磁石3、ロータ7、及びオイル11は、モータ30と同様であるので同じ符号を付し、説明を省略する。なお、ステータコイル4は、外縁部16に固定されている。
モータ70の動圧軸受部55は、ステータ部42側に形成されたベース67、アッパープレート58、及びロータ部41側に形成されたリング部材60、回転軸36、及び、これらの部材の間隙を満たすオイル11を備えている。
リング部材60は、円環状の部材であって、上端面のラジアル方向中央部に回転軸36を取り付けるための貫通孔が形成されている。リング部材60の外周面には、ラジアル方向の動圧力を発生するためのラジアル動圧溝64、65が形成されている。ラジアル動圧溝64、65は、軸線方向に対して互いに異なる方向に傾いた2段の斜線状の溝である。
リング部材60が回転すると、ラジアル動圧溝64、65によって、リング部材60の両エッジ部から外周面の軸線方向中央付近にオイル11が輸送され、ラジアル方向の動圧力が発生する。ただし、リング部材60の回転方向は、紙面に向かって、モータ70を見下ろした場合、反時計方向である。
また、図示しないが、リング部材60の両端面には、それぞれスラスト方向の動圧力を発生させるためのスラスト動圧溝(例えばヘリングボーン溝)が形成されている。そして、リング部材60が回転すると、スラスト動圧溝のポンプ作用によって、スラスト方向の動圧力が発生するようになっている。」(第6頁第9欄第6?38行、段落【0044】?【0048】参照)

2.対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「スリーブ4」は本願補正発明の「外側部材」に相当し、以下同様に、「焼結粉末合金製」は「焼結金属製」に、「リング部3」は「軸受スリーブ」に、「円柱部2」は「軸部材」に、「フランジ付きシャフト1」は「内側部材」に、「スラスト板5」は「第1のスラスト部材」に、「スリーブ4の大径円筒部」は「第2のスラスト部材」に、「大径円筒部の内周面」は「内周面」に、「微小空間RR1」は「ラジアル軸受隙間」に、「上面」は「一方の端面」に、「下面」は「端面」に、「微小隙間RS1」は「第1のスラスト軸受隙間」に、「下面」は「他方の端面」に、「底面」は「端面」に、「微小空間RS2」は「第2のスラスト軸受隙間」に、「潤滑油F」は「潤滑流体」に、「ラジアル動圧発生溝G1」に、「ラジアル動圧発生部」に、「リング部3の上面のスラスト動圧発生溝G2」は「第1のスラスト動圧発生部」に、「リング部3の下面のスラスト動圧発生溝G2」は「第2のスラスト動圧発生部」に、「焼結含油軸受」は「動圧軸受装置」に、それぞれ相当するので、両者は、下記の一致点、及び相違点を有する。
<一致点>
内周面を有する外側部材と、外側部材の内径側に配置され、焼結金属製の軸受スリーブ、及び、軸受スリーブの内周に軸部材を有する内側部材と、第1のスラスト部材と、第1のスラスト部材と軸方向に離間した第2のスラスト部材とを備え、
外側部材の内周面と軸受スリーブの外周面との間に形成されたラジアル軸受隙間と、軸受スリーブの一方の端面と第1のスラスト部材の端面との間に形成された第1のスラスト軸受隙間と、軸受スリーブの他方の端面と第2のスラスト部材の端面との間に形成された第2のスラスト軸受隙間とを有するものであって、
内側部材の回転時に、ラジアル軸受隙間に潤滑流体の動圧作用を発生させるラジアル動圧発生部と、第1のスラスト軸受隙間に潤滑流体の動圧作用を発生させる第1のスラスト動圧発生部と、第2のスラスト軸受隙間に潤滑流体の動圧作用を発生させる第2のスラスト動圧発生部とを設けた動圧軸受装置。
(相違点)
前記軸部材に関し、本願補正発明は、焼結金属製の軸受スリーブと「別体に金属材料で形成され」、軸受スリーブの内周に「固定」されているのに対し、引用発明は、焼結粉末合金製のリング部3と一体に形成されている点。
そこで、上記相違点について検討する。
(相違点について)
軸受スリーブと軸部材とを別体に形成することは、従来周知の技術手段(例えば、刊行物2には、図2とともに、「リング部材60は、円環状の部材であって、上端面のラジアル方向中央部に回転軸36を取り付けるための貫通孔が形成されている。」[上記摘記事項(d)参照]と記載されている。)にすぎない。
また、軸部材を金属材料で形成することは、従来周知慣用の技術手段にすぎない。ちなみに、本願明細書には、「軸部材は通常金属製である」(段落【0009】参照)と記載されている。
引用発明において、仮に、リング部3(軸受スリーブ)と円柱部2(軸部材)とを別体に形成した場合、円柱部2(軸部材)の外周面の加工精度がラジアル軸受隙間に影響することはないことから、引用発明のフランジ付きシャフト1のような複雑な形状を焼結金属で型成形により製造するのではなく、リング部3(軸受スリーブ)と円柱部2(軸部材)とを別体として、それぞれの部品形状を単純化するとともに、円柱部2(軸部材)の材料(例えば、軸部材に要求される強度、剛性、耐衝撃性などに優れた金属材料)を自由に選定して製造すれば、構成部品点数は多くなるものの、軸部材に求められる加工精度が緩和され、その分加工コストは安く、製造も容易となるであろうことは、当業者が普通に着想し得る設計的事項にすぎない。
してみれば、引用発明の円柱部2に、上記従来周知の技術手段を適用して、焼結粉末合金製のリング部3と別体に金属材料で形成して、リング部3の内周に固定することにより、上記相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
本願補正発明が奏する効果についてみても、引用発明及び従来周知の技術手段が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な作用効果を奏するものとは認められない。
以上のとおり、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、当審における審尋に対する平成23年2月7日付けの回答書において、「引用文献1(注:本審決の「刊行物1」に対応する。以下同様。)の発明は、部品点数を削減することを目的とするものであることは明らかです。かかる目的に反して、一体成形されている焼結金属製のフランジ付シャフトの円柱部(シャフト)とリング部(スリーブ)とを別体に形成して部品点数を増加させ、さらに、円柱部をリング部と別体の金属材料で形成し、本願発明(注:本審決の「本願補正発明」に対応する。)の特徴である『焼結金属製の軸受スリーブ、及び、軸受スリーブと別体に金属材料で形成され、軸受スリーブの内周に固定した軸部材を有する内側部材』という構成とすることが容易であるとは言えません。
また、審査官は、軸受スリーブと軸部材とを別体に形成することは、本願出願前周知の技術であるから、引用文献1の発明に上記周知技術を採用して本発明(注:本審決の「本願補正発明」に対応する。)とすることは当業者が容易になしえたことである、と認定されています。しかし、上記周知刊行物には、単に軸部材と軸受スリーブとを別体とした構成が示されているに過ぎず、別体とすることによる効果は一切示されていません。従いまして、上記周知刊行物の記載に基づいて、引用文献1に記載のフランジ付シャフトの円柱部とリング部とを、同文献の発明の趣旨に反して部品点数を増加させてまで別体とすることが容易であるとは言えません。」(「(2)引用文献1と周知刊行物の組み合わせの容易性について」の項参照)と主張している。
しかしながら、上記(相違点について)において述べたように、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるところ、本願補正発明の構成を備えることによって、本願補正発明が、従前知られていた構成が奏する効果を併せたものとは異なる、相乗的で、当業者が予測できる範囲を超えた効果を奏するものとは認められないので、審判請求人の上記主張は採用することができない。

3.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
平成22年9月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?7に係る発明は、平成22年4月14日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
内周面を有する外側部材と、外側部材の内径側に配置され、焼結金属製の軸受スリーブ、及び、軸受スリーブと別体に金属材料で形成され、軸受スリーブの内周に固定した軸部材を有する内側部材と、外側部材の内周面と軸受スリーブの外周面との間に形成されたラジアル軸受隙間と、内側部材の回転時に、ラジアル軸受隙間に潤滑流体の動圧作用を発生させるラジアル動圧発生部とを備えた動圧軸受装置。」

1.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項は、上記「II.1.」に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、上記「II.」で検討した本願補正発明の「外側部材」及び「軸受スリーブ」の関係に関する限定事項である「第1のスラスト部材と、第1のスラスト部材と軸方向に離間した第2のスラスト部材とを備え」、「軸受スリーブの一方の端面と第1のスラスト部材の端面との間に形成された第1のスラスト軸受隙間と、軸受スリーブの他方の端面と第2のスラスト部材の端面との間に形成された第2のスラスト軸受隙間とを有するものであって」、及び「第1のスラスト軸受隙間に潤滑流体の動圧作用を発生させる第1のスラスト動圧発生部と、第2のスラスト軸受隙間に潤滑流体の動圧作用を発生させる第2のスラスト動圧発生部とを設けた」という構成を省くことにより拡張するものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに構成を限定したものに相当する本願補正発明が、上記「II.2.」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は、同様の理由により、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
結局、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?7に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-23 
結審通知日 2011-02-24 
審決日 2011-06-27 
出願番号 特願2005-203518(P2005-203518)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀬川 裕  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 常盤 務
大山 健
発明の名称 動圧軸受装置およびモータ  
代理人 熊野 剛  
代理人 城村 邦彦  

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