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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1242044
審判番号 不服2008-20936  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-14 
確定日 2011-08-18 
事件の表示 特願2000-400686「離形フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 7月16日出願公開、特開2002-200701〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件審判に係る特許出願は、平成12年12月28日に出願されたもので、平成18年6月20日付け拒絶理由通知書が送付され、願書に添付した明細書についての同年8月25日付け手続補正書及び同日付け意見書が提出されたものの、平成20年7月8日付けで拒絶査定されたものである。
そして、本件審判は、この拒絶査定を不服として請求されたものである。

2.拒絶理由通知書の拒絶理由
平成18年6月20日付け拒絶理由通知書で示した拒絶理由の1つは、以下のとおりの拒絶理由Aであると認める。

拒絶理由A;この出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された特開平10-113383号公報に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

なお、ここにおける「特開平10-113383号公報」を、以下、「引用例」という。

3.当審の判断
平成18年6月20日付け拒絶理由通知書は、審査において、送付され、同書により、出願人に対して拒絶理由Aが通知されたものであるが、この手続きは、特許法第158条の規定により、審判においても、その効力を有するものである。
そこで、上記拒絶理由Aの妥当性について検討する。

3-1.本件の発明

1)本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の、特許請求の範囲の請求項1に記載の事項により特定されるものであって、同項の記載は、以下のとおりのものと認める。

「ポリエステルフィルムの少なくとも片面にはアルミ蒸着層を設け、さらに少なくとも片面の最表面層にはシリコーン層を設けたことを特徴とする高温処理工程用離形フィルム。」

そして、この記載によれば、本件発明に係る離形フィルムは、「高温処理工程用」と特定されているので、その技術的内容について、以下に見ていくことにする。

2)「高温処理工程用離形フィルム」とは、高温処理工程に用いられる離形フィルムとの意味であるが、請求項1の記載からでは、その「高温処理」が、どの程度の温度を伴う処理であるのかが不明である。そこで、本件明細書を見ると、その段落【0003】には、以下の記載が認められる。

「【発明が解決しようとする課題】
ポリエステル離形フィルム面上に樹脂あるいは基材の形成を行う場合、積層された離形フィルムに、熱や圧力が加えられ、積層体が形成される。この工程において高温処理が行われると、積層樹脂や基材からガスが発生する場合がある。腐食性のあるガスはポリエステル離形フィルムを透過し反対面側へ放出され、工程内に悪影響を及ぼすこともある。またポリエステルフィルム自身が高温環境下に長時間おかれると、ポリエステル内部の低分子オリゴマー成分が表面に析出し、工程内を汚染し製品そのものに悪影響を与える可能性もある。このような課題に関し、低オリゴマー化やガス透過性の改良を検討しているが、特性的に十分なものがない。」

この記載は、本件発明が解決しようとする課題を記載するものであるが、記載に曖昧な部分もあり、その課題が生じる場合(工程)を、厳密な意味で、認定はできないものの、ここには、大凡、以下の2つの工程A及びBが記載されていると認められる。

A;離形フィルム面上に樹脂あるいは基材を形成して積層体を形成する際に、該離形フィルムに熱や圧力を加える工程。
B;離形フィルムを高温環境下に長時間おく工程。

3)そこで、これらの工程A及びBについて見ると、工程Aは、高温処理工程といえるものの、工程Bは、単に、高温環境下に放置することとも解せ、これが高温処理工程といえるかどうかは、疑問が残るが、いずれにしても、高温処理が、どの程度の温度を伴う処理であるのかが不明である。
また、他の、本件明細書の記載を精査しても、同様に不明である。
してみると、「高温処理工程用」にある「高温」の意味は、本件明細書全体を見ても、明確でないと言えなくもないが、常温よりは、それなりに高い温度と解せない訳ではない。

4)なお、これまで述べたことから明らかなように、本件発明を特定する事項である「高温処理工程用」の意味は明確ではないとも判断されるおそれがあるものである。
また、「高温処理工程用」にある「高温処理工程」に技術的に包含される対象も、これまで述べた工程A(曖昧ながら工程Bも含まれるかも知れない。)しか、本件明細書の記載からでは、理解することはできないから、上記対象の範囲も明確ではないとも判断されるおそれがあるものである。
更に、願書に最初に添付した明細書(以下、「本件当初明細書」という。)には、「高温処理工程用」にある「高温処理工程」としては、工程A(曖昧ながら工程Bも含まれるかも知れない。)しか、記載がなかったのであるから、本件発明は、本件当初明細書に記載がなく、平成18年8月25日付け手続補正書による手続補正は、本件当初明細書に記載された事項の範囲内でなされたとは言えないとも判断されるおそれがあるものである。
しかしながら、これらの点は、本審決の趣旨ではないので、その判断は、別の機会に譲ることとする。

3-2.引用例の発明
引用例には、以下の記載a?cが認められる。

a;「特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリエステルフィルムの少なくとも片面にアルミニウム蒸着層を設け、さらにその層の表面に硬化型シリコーン樹脂層を設けてなる医療用離形フィルム。」
b;「【0012】前述のアルミニウム蒸着層の表面に設けられる離形層は、硬化型シリコーン樹脂により形成される。」
c;「【0020】(4)薬効成分の蒸散性
離形フィルムの離形層側表面に、薬効成分としてプロゲステロン2重量%を含有するアクリル系粘着剤を乾燥後の厚みが15μmとなるよう塗布し70℃、3分間乾燥し薬効成分を含有する粘着剤層を設けた。」

そして、記載aによれば、引用例には、「ポリエステルフィルムの少なくとも片面にアルミニウム蒸着層を設け、さらにその層の表面に硬化型シリコーン樹脂層を設けてなる医療用離形フィルム」についての発明が記載されていると認められる。
そこで、更に、引用例を見ると、記載b及びcが認められ、記載bによれば、上記発明の硬化型シリコーン樹脂層が離形層であることが窺え、このことを踏まえて記載cを見ると、ここには、大凡、上記発明は、その硬化型シリコーン樹脂層側表面に、薬効成分を含有するアクリル系粘着剤を塗布し、70℃、3分間乾燥する工程に用いられることが記載されていると認められる。
以上のことを踏まえると、引用例には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ポリエステルフィルムの少なくとも片面にアルミニウム蒸着層を設け、さらにその層の表面に硬化型シリコーン樹脂層を設けてなる医療用離形フィルムであって、硬化型シリコーン樹脂層側表面に、薬効成分を含有するアクリル系粘着剤を塗布し、70℃、3分間乾燥する工程に用いられる、前記医療用離形フィルム」

3-3.対比判断
引用発明の「硬化型シリコーン樹脂層」が、医療用離形フィルムの最表面層を構成していることは、引用例記載全体から明らかである。
また、引用発明の「医療用離形フィルム」は、その硬化型シリコーン樹脂層側表面に、薬効成分を含有するアクリル系粘着剤を塗布し、70℃、3分間乾燥する工程に用いられるもので、70℃は、常温よりは、それなりに高い温度といえ、また、乾燥する工程は、処理工程といえるから、先に「3-1.」での検討を踏まえれば、上記「医療用離形フィルム」は、高温処理工程用ということができる。
そして、以上のことを踏まえて検討すると、本件発明は、引用発明と対比して、相違する点は見当たらない。
してみると、本件発明は、引用発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、拒絶理由Aは妥当である。

4.結び
拒絶理由Aは妥当であって、原査定は、相当である。
よって、結論のとおり審決する。

5.補足

1)本件審判に係る特許出願は、先に「1.」で述べたように、平成20年7月8日付けで拒絶査定されたものであって、送付された「拒絶査定」には、「この出願については、平成18年6月20日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。」と記載されている。なお、この理由2とは、概要、以下のとおりのものと認められる。

「この出願の請求項1、2、4、5に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された引用例、特開2000-334885号公報又は特開平5-25303号公報に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」

その一方で、本審決は、先に「3.」の冒頭で述べたように、拒絶理由Aの妥当性について検討し、その結果、妥当であると判断し、先の「4.」にあるように、審決するものである。
そこで、このように審決したことについて、以下に、触れておく。

2)本件審判に係る、平成20年11月6日付けで補正された審判請求書には、以下の記載A及びBが認められる。

A;「<刊行物1の内容>
刊行物1には、ポリエステルフィルムの少なくとも片面にアルミニウム蒸着層を設け、さらにその表面に硬化型シリコーン樹脂層を設けてなる離形フィルムが記載されています(請求項1)。
ただし、刊行物1に記載された離形フィルムは、「医療用」をその用途とする離形フィルムであり(請求項1)、さらに詳しくは、貼付薬等の粘着剤層を保護し、かつ薬効成分の透過率が低い「医療用」離形フィルムに関するものです(段落[0001])。」(平成22年11月6日付け手続補正書(方式)の「(3-2)」、参照。)
B;「<刊行物1について>
本願の離形フィルムは、「高温処理工程用」の離形フィルムです。これに対して刊行物1に記載された離形フィルムは、「医療用」をその用途とするものです。したがいまして、本願発明と刊行物1に記載された発明とは、用途が異なるものであり、本願発明と刊行物1に記載された発明とは、離形フィルムに求められる要求物性が異なることから、その技術分野が異なっているといえます。
また、刊行物1に記載された発明の課題は、「医療用貼付剤」において、「貼付薬の薬効成分が徐々に浸出し、薬効の有効期限が短くなる(段落[0003])」ことを抑制し、「薬効をさらに長寿命化させる(段落[0003])」ことにあります。すなわち、刊行物1に記載された離形フィルムにおいては、通常の医薬品の保管におけるある程度の期間継続する「ガスバリヤー性」のみが意識されているのであり、「高温処理時」における「ガス遮断性」は、一切認識されていません。
一方で、本願発明は、「高温処理工程」が実施されることによって初めて起こりうる弊害(ガス遮断性、オリゴマー溶出抑制)を、その課題とするものです。
したがいまして、本願発明と刊行物1に記載された発明とは、課題をまったく異にしているといえます。
また、刊行物1に記載された「医療用」離型フィルムにおいては、通常の使用環境においては考え難い「高温処理工程」をまったく想定しておらず、このため、本願発明の「高温処理工程用」離型フィルムとは、その作用・効果も異なっています。また、「高温処理工程」についての示唆すら存在していません。
以上より、本願発明と刊行物1に記載された発明とは、技術分野、課題、作用・効果の全てにおいて共通しておらず、また、刊行物1には、「高温処理」の示唆すら存在していません。このため、刊行物1には、本願発明に到達するための動機付けが存在していないものと思料いたします。
ここで、審査官殿は、拒絶査定謄本において、「特開平11-156824号」を新たに例示され、「ポリエステルフィルムの片面にシリコーン層を形成した離形フィルムをセラミックグリーンシート製造(「高温処理工程」)に相当)に用いること(及びオリゴマーの析出、汚染)は周知のことであり、引用文献1に記載された離形フィルムをセラミックグリーンシート製造のような高温処理工程に適用することに格別の困難性は認められない」と認定なさっています。
しかしながら、出願人は、このご認定には承服できかねます。」(平成22年11月6日付け手続補正書(方式)の「(3-3)」、参照。)

そして、記載A及びBによれば、請求人は、拒絶査定を受けた後、改めて、刊行物1を精査した上で、本件に係る発明と刊行物1に記載された発明との対比を行い、本件審判を請求していることが窺える。

3)また、請求人は、拒絶理由Aが通知されたのを受けて、請求項1の記載につき、「ポリエステルフィルムの少なくとも片面にはアルミ蒸着層を設け、さらに少なくとも片面の最表面層にはシリコーン層を設けたことを特徴とする離形フィルム。」を「ポリエステルフィルムの少なくとも片面にはアルミ蒸着層を設け、さらに少なくとも片面の最表面層にはシリコーン層を設けたことを特徴とする高温処理工程用離形フィルム。」と補正すると共に、明細書の段落【0001】、【0004】及び【0028】を補正するもので、これらの補正は、同項に係る発明の対象である「離形フィルム」につき、その用途が特定されていなかったものを、高温処理工程用へと補正するもので、また、それに尽きるものといえる。
してみると、請求人は、高温処理工程用へと補正する当たっては、拒絶理由Aにある引用例に開示された医療用離形フィルムにつき、それが何らかの処理工程に用いられているか、更には、用いられている場合には、それが高温処理であるかどうかを、慎重に検討すべきであったし、しかも、引用例は、詳しく見ると、請求人に係る先行公開特許公報であることも見て取れる。
以上のことから、先に「3-2.」で摘示した記載cを、引用例から、発見するは、きわめて、たやすいことといえ、そして、本件に係る明細書を補正するに際し、単に「高温処理工程用」と補正するだけではなく、その高温処理工程が、記載cに記載されたものと区別できるように補正することなどができたばずであり、少なくとも、釈明ができたはずであるが、平成18年8月25日付け意見書、更には本件審判に係る、平成20年11月6日付けで補正された審判請求書で、このような釈明は、なされていない。

4)以上の事情を踏まえると、当審において、拒絶理由Aを、再度、通知し(なお、この通知は、いわゆる、最後の拒絶理由の通知とするべきものとも解している。)、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならないとする特段の理由があるとはいえない。
 
審理終結日 2011-06-14 
結審通知日 2011-06-21 
審決日 2011-07-06 
出願番号 特願2000-400686(P2000-400686)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 正紀  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 豊島 ひろみ
熊倉 強
発明の名称 離形フィルム  
代理人 三原 秀子  

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