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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K
管理番号 1242080
審判番号 不服2010-9413  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-05-01 
確定日 2011-08-18 
事件の表示 特願2003-427899号「小型コアレスモータ並びに無線操縦式模型遊戯具」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 7月14日出願公開、特開2005-192280号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願の発明
本願は、平成15年12月24日の特許出願であって、平成22年 2月 4日付けで拒絶査定がなされ、この査定を不服として、同年 5月 1日に本件審判請求がなされるとともに、手続補正(前置補正)がなされた。
一方、当審において、平成23年 2月24日付けで拒絶理由を通知し、これに対して、応答期間内である同年 4月29日に意見書が提出されたところである。
そして、この出願の請求項1,2に係る発明は、平成22年 5月 1日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
円筒状のコイルと、コイルを片開放端寄り径内に固定する外周縁で保持する円盤状のハブと、ハブを中心部に挿通する片軸端寄りで保持する回転シャフトとから組み立てられるカップ型のロータを備えるサーボ用の小型コアレスモータにおいて、銅線よりも導電率と熱伝導率が小さい銅クラッドアルミニウム線により円筒状に巻線したコイルと、アルミニウムまたはアルミニウム合金により円盤状に形成したハブと、ハブの中心部に設けた絶縁樹脂の整流子台で保持する回転シャフトから組み立てたカップ型のロータを備え付けてなることを特徴とする小型コアレスモータ。」

2.引用例の記載事項
当審の拒絶理由で引用した特開2002-17066号公報(以下「引用例」という。)には、「小型円筒コアレスモータの放熱構造」に関して、以下の事項(ア)?(カ)が記載または示されている。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はコアレスモータ、特にカップ型ロータ巻線コイルを備えた円筒コアレスモータに関するものであり、さらに特殊な測定機器内部、またはラジコン模型などの過酷な動作駆動部分に利用される小型コアレスモータとして、より詳細には、モータユニット外径φ30mm以下で、正・逆転を常に繰り返すような過酷な使用に耐える小型コアレスモータユニットの熱対策に関するものである。」

(イ)「【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記課題を解決するため、円筒状巻線コイルの軸方向開口他端部を回転軸に固定しているカップ型ロータを備えるコアレスモータにおいて、ロータ部巻線コイルの開口部他端側に位置する回転軸と巻線コイルとの間に介在する樹脂モールド体の一部または片面全域に、一体又は別体の熱伝導性に優れた放熱板を新規に取り付けるものである。
【0010】これにより、ロータ部の回転動作に伴うモータ内部空気との間接的な接触、及び内部空気中への熱発散のみならず、巻線コイルに直接接する放熱板から回転軸へ、さらに回転軸からステータ側ベアリングハウス及びそれに続く外装のハウジングへと接触に伴う熱伝導が自然と行われ、最終的に外部との被接触表面積が一番大きな外装ハウジングの表層面で、巻線コイルからの発熱が効率よく放熱されることとなる。さらに前記放熱板を熱伝導率の良い銅系又はアルミニウム系合金又はカーボン系の材質部材として用いると、なおいっそう効果的である。
・・・
【0012】また、ステータ側の回転軸を軸支するベアリング及びベアリングハウス、及び前記ベアリングハウスを保持固定するハウジング全体が、熱良伝導性の放熱材料で構成されているとよい。例えば銅系又は軽量化を目的としたアルミニウム系合金をしてもよい。
【0013】また例えばハウジングケース外周表面に、凹凸状の冷却フィン形状を施すことも、放熱効率を向上させる一手段として有効であり、加えてハウジング開口端に組み込まれるエンドキャップのブラシ台の外装面の一部または全面に、熱伝導性の優れた凹凸状の冷却フィン部材としてのヒートシンクを備えることも有効である。当然ながら前記冷却フィン部分及びヒートシンク部分は銅系の材質部材であることが望ましいが、成形加工上又はコスト・軽量化に伴い、他の熱良伝導体材料(アルミニウム系合金等)に変えても、本発明の目的・作用・効果から大きく外れるものではなく、仕様として特に問題はない。」

(ウ)「【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態の一例について説明する。図1はロータ部に放熱板を設置した形態のコアレスモータの側断面図であり、図において、1は金属製のハウジング、2は同じく金属製のベアリングハウス、3は円筒型の希土類マグネット、4はベアリング、5は回転軸のシャフト、そして回転軸のシャフト5には、一端に整流子7が円周方向に均等配置され、巻線コイル6と前記シャフト5を連結する樹脂モールド体10が一体に設けられ、この円板状の樹脂モールド体10の支持台部分には、放熱板30が絶縁シート31を挟んで一体に設けられている。
【0016】放熱板30は図に示すように、一端が巻線コイル6の内周面で接し、他方中心部では圧入によって回転軸となるシャフト5に固定され、上記樹脂モールド体10の円盤状に接する面の部分には、図2(a),(b)で示すような送風用のフィン32形状または開口穴33を多数備え、形成された巻線コイル6の一端内周面で接着固定され、巻線コイル6と整流子7におけるセグメント部分とが電気的にブラシ8と接続されて駆動ロータ部が形成されている。」

(エ)「【0024】さらに前記放熱板を熱伝導率の良い銅系又はアルミニウム系の材質部材として用いると、放熱効果の向上が見られた。」

(オ)「【0028】これらの熱対策により、特殊な測定機器内部、またはラジコン模型などの過酷な動作駆動部分に利用されるモータユニット外径φ30mm以下で、正・逆転を常に繰り返すような過酷な使用に耐える小型コアレスモータユニットが量産可能となり、高過負荷の使用状態に対しても安定した動力特性が得られる。
【0029】また、これらの冷却機構を備えた小型コアレスモータにあっては、発熱対策が十分に施されているため、例えば4輪車ラジコン自動車模型用として用いたとしても、駆動モータの発熱の問題が発生せず、また動力性能の劣化がなく、高信頼性、高耐久性が著しく向上し、高トルク運転時にもその発熱による内部温度の上昇に伴うモータ効率の低下問題が解消でき、モータ動作不良問題となっていた操作不能の重大な欠点が無くなり、前記ラジコン模型のような限界使用領域での駆動用高性能小型コアレスモータが実現できた。」

(カ)上記摘記事項(イ)、(ウ)の記載からみて、図1からは、「放熱板30が円盤状であること」、「(巻線コイル6と、放熱板30と、)放熱板30を中心部では圧入によって片軸端寄りで固定する回転軸のシャフト5とから組み立てられるカップ型ロータ」及び「放熱板30の中心部に近接して一体に設けられた、整流子7が均等配置された樹脂モールド体10の中心部分で回転軸のシャフト5を保持したもの」が看て取れる。

これらの記載からみて、上記引用例には、
「円筒状巻線コイル6と、巻線コイル6の一端側内周面で接着固定され一端で接する円盤状の放熱板30と、放熱板30を中心部では圧入によって片軸端寄りで固定する回転軸のシャフト5とから組み立てられるカップ型ロータを備える小型コアレスモータにおいて、
円筒状巻線コイル6と、アルミニウム系の材質部材により形成した円盤状の放熱板30と、放熱板30の中心部に近接して一体に設けられた、整流子7が均等配置された樹脂モールド体10の中心部分で保持される回転軸のシャフト5から組み立てられたカップ型ロータを備えた小型コアレスモータ」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

3.発明の対比
本願発明と引用発明を対比すると、後者の「円筒状巻線コイル6」は前者の「円筒状のコイル」に相当し、以下同様に、「放熱板30」は「ハブ」に、「回転軸のシャフト5」は「回転シャフト」に、「カップ型ロータ」は「カップ型のロータ」にそれぞれ相当する。
また、後者の「巻線コイル6の一端側内周面で接着固定され一端で接する円盤状の放熱板30」は、前者の「コイルを片開放端寄り径内に固定する外周縁で保持する円盤状のハブ」に相当し、後者の「放熱板30を中心部では圧入によって片軸端寄りで固定する回転軸のシャフト5」は、前者の「ハブを中心部に挿通する片軸端寄りで保持する回転シャフト」に相当する。
そして、後者の「円筒状巻線コイル6」と、前者の「銅線よりも導電率と熱伝導率が小さい銅クラッドアルミニウム線により円筒状に巻線したコイル」とは、「円筒状に巻線したコイル」という概念で共通し、後者の「アルミニウム系の材質部材により形成した円盤状の放熱板30」と、前者の「アルミニウムまたはアルミニウム合金により円盤状に形成したハブ」とは、「アルミニウム系材料により円盤状に形成したハブ」という概念で共通する。
さらに、後者の「整流子7が均等配置された樹脂モールド体10」と、前者の「絶縁樹脂の整流子台」とは、「樹脂の整流子台」との概念で共通するから、後者の「放熱板30の中心部分に近接して一体に設けられた、整流子7が均等配置された樹脂モールド体10の中心部分で保持される回転軸のシャフト5」と、前者の「ハブの中心部に設けた絶縁樹脂の整流子台で保持する回転シャフト」とは、「ハブの中心部に設けた樹脂の整流子台で保持する回転シャフト」という概念で一致する。
そうすると、両者は、
「円筒状のコイルと、コイルを片開放端寄り径内に固定する外周縁で保持する円盤状のハブと、ハブを中心部に挿通する片軸端寄りで保持する回転シャフトとから組み立てられるカップ型のロータを備える小型コアレスモータにおいて、
円筒状に巻線したコイルと、アルミニウム系材料により円盤状に形成したハブと、ハブの中心部に設けた樹脂の整流子台で保持する回転シャフトから組み立てたカップ型のロータを備え付けてなる小型コアレスモータ」
の点で一致し、以下の各点で相違すると認められる。

<相違点1>
小型コアレスモータが、本願発明では、「サーボ用」であるのに対して、引用発明では、そのような特定はなされていない点。

<相違点2>
円筒状に巻線したコイルが、本願発明では、「銅線よりも導電率と熱伝導率が小さい銅クラッドアルミニウム線により」なるのに対して、引用発明では、そのようなものでない点。

<相違点3>
円盤状に形成したハブが、本願発明では、「アルミニウムまたはアルミニウム合金により」なるのに対して、引用発明では、アルミニウム系材料からなる点。

<相違点4>
整流子台が、本願発明では、「絶縁樹脂」であるのに対して、引用発明では、「樹脂」であるものの、それ以上の明記がない点。

4.相違点の検討・当審の判断
<相違点1について>
サーボ用のモータは、慣用されており、上記引用例にて例示された「4輪車ラジコン自動車模型用」としてサーボ用のモータを用いることに格別の困難性はない。

<相違点2について>
まず、上記引用例では、摘記事項(イ)の段落【0012】、【0013】に記載されるように、モータの軽量化も課題としている。
そして、リニアモータの可動部のコイル線材に、可動部の軽量化を課題として、銅線よりも導電率と熱伝導率が小さい銅クラッドアルミニウム線を用いることは、本願出願前に周知の技術である(必要があれば、特開2002-233127号公報の段落【0038】、【0043】?【0045】を参照のこと。)。
よって、モータの軽量化という課題についての示唆のある引用発明の「小型コアレスモータの円筒状巻線コイル」に、可動部の軽量化を課題とする上記周知の技術を適用して、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

<相違点3について>
アルミニウム系材料として、アルミニウムまたはアルミニウム合金は代表的なものであるから、引用発明において、相違点3に係る本願発明の構成とすることに格別の困難性はない。

<相違点4について>
モータの整流子を支持するホルダ(整流子台)を絶縁樹脂で構成することは、慣用手段に過ぎない(必要があれば、特開平7-308049号公報の段落【0024】、図1、特開平10-248227号公報の段落【0005】、図13、特開2001-258213号公報の段落【0002】、図4を参照のこと)から、引用発明の整流子が均等配置された樹脂モールド体10を絶縁樹脂とすることに格別の困難性はない。
そして、上記相違点1?4を併せ備える請求項1に係る発明の作用効果を検討してみても、引用発明、上記周知の技術、上記慣用手段から予測し得る程度のものであって格別のものとはいえない。

なお、審判請求人は、平成23年 4月29日付け意見書にて、本願発明は、「軽量化」のみを課題としたものではなく、「耐熱性を高め、ロータイナーシャが低く、機械的時定数が小さく、応答性を高めること」などを課題としており、合わせて複数の課題を解決した結果として、サーボ用のコアレスモータにおいて、優れた性能と信頼性を実現するなどの顕著な効果を得ている旨の主張をしている。
しかしながら、引用発明の放熱板により耐熱性が高められ、引用発明の「小型コアレスモータの円筒巻線コイル」に可動部の軽量化を課題とする上記周知の技術を適用することにより、「ロータイナーシャが低く、機械的時定数が小さく、応答性を高めること」という課題が解決されるものと認められることから、審判請求人の上記主張は失当である。
また、審判請求人は「小型コアレスモータのカップ型円筒状巻線コイル」に敢えて「銅線よりも強度的にも劣り、」「銅線よりも導電率と熱伝導率が小さい銅クラッドアルミニウム線を用いること」には、阻害理由がある旨の主張をしているが、銅に比較して導電率と熱伝導率や強度を少し犠牲にしても、軽量化に起因する様々な効果を課題として「銅クラッドアルミニウム線」を適用することに何ら阻害理由があるものとは認められないから、審判請求人の上記主張は失当である。

したがって、本願発明は、引用発明及び上記周知の技術、上記慣用手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
したがって、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明及び上記周知の技術、上記慣用手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-14 
結審通知日 2011-06-20 
審決日 2011-07-04 
出願番号 特願2003-427899(P2003-427899)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安食 泰秀  
特許庁審判長 大河原 裕
特許庁審判官 藤井 昇
倉橋 紀夫
発明の名称 小型コアレスモータ並びに無線操縦式模型遊戯具  

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