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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1242336
審判番号 不服2009-4214  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-02-26 
確定日 2011-08-25 
事件の表示 平成11年特許願第227532号「文書データ作成装置、文書データ作成方法、及び記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 2月23日出願公開、特開2001- 51997〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成11年8月11日の出願であって、平成20年2月15日付けで拒絶理由通知がなされ、同年4月24日付けで手続補正がなされ、平成21年1月21日付けで拒絶査定がなされ、同年2月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年3月30日付けで手続補正がなされたものである。


第2 平成21年3月30日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年3月30日付けの手続補正(以下、「本件補正」と呼ぶ。)を却下する。

[理由]
1.補正内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、
「【請求項1】 処理対象となる原文を解析し、前記原文を各形態素に分けるとともに、各形態素についての形態素情報を自動的に付加する処理を行う形態素処理手段と、
前記原文の文書構造を解析し、前記原文に階層的な文書構造を示す文書構造情報を自動的に付加する処理を行う文書構造処理手段と、
前記原文に、前記原文内の文書部分間における参照関係を示す参照情報を自動的に付加する処理を行う参照関係処理手段と、を備えることで、
前記原文に、前記形態素情報、前記文書構造情報、及び前記参照情報が付加された文書データを作成できるようにするとともに、
前記形態素処理手段において、ユーザの入力に応じて、前記形態素情報の変更、追加、修正を行う形態素情報決定手段を、
前記文書構造処理手段において、ユーザの入力に応じて、前記文書構造情報の変更、追加、修正を行う文書構造情報決定手段を、
前記参照関係処理手段において、ユーザに入力に応じて、前記参照情報の変更、追加、修正を行う参照情報決定手段を備え、
前記形態素処理手段は、表示部に、前記原文上に形態素の区切り、品詞、形態素情報、参照情報を示した表示、及び各形態素に付加すべき形態素情報の候補を示す表示が行われるように表示制御を行うとともに、表示された形態素の区切の変更、及び形態素情報の候補の中からの選択決定を行い、
前記文書構造処理手段は、表示部に、前記原文上に階層的な文書構造を示した表示、及び文書構造情報の候補を示す表示が行われるように表示制御を行うとともに、表示された文書構造情報の候補の中からの選択決定もしくは文書構造情報の追加を行い、
前記参照関係処理手段は、表示部に、前記原文上に参照関係を示した表示が行われるように表示制御を行うとともに、表示された参照関係の修正もしくは参照情報の追加を行う
文書データ作成装置。」
に変更する補正内容を含むものである。

2.本件補正が、特許法第17条の2第3項の規定に適合するか否かについて
当審は、以下の理由で、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合しないものであると判断する。
すなわち、上記本件補正後の請求項1には、「前記形態素処理手段は、表示部に、前記原文上に形態素の区切り、品詞、形態素情報、参照情報を示した表示、及び各形態素に付加すべき形態素情報の候補を示す表示が行われるように表示制御を行うとともに、表示された形態素の区切の変更、及び形態素情報の候補の中からの選択決定を行い」との記載(以下、「問題記載事項」と呼ぶ。)があるが、本願の願書に最初に添付した明細書若しくは図面(以下、「当初明細書等」という。)に、上記問題記載事項に対応する技術的事項のうち、「『形態素処理手段』が『参照情報』を示した表示が行われるように表示制御を行う」という技術的事項、及び、「同『形態素処理手段』が『品詞』と『(品詞とは異なるものとしての)形態素情報』の両方について、それらを示した表示が行われるように表示制御を行う」という技術的事項、を示す記載があったとは認められないし、それらの技術的事項は、いずれも当業者に自明な事項とも認められないから、特許請求の範囲の請求項1を上記補正後の請求項1とすることを含む本件補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。
なお、この点は、当審による平成23年3月7日付けの審尋書に添付した前置報告書で第一に指摘されていた点であり、請求人には、それに対する十分な反論、釈明の機会があったはずであるが、請求人は何らの反論も釈明も行っていない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 上記補正却下の決定を前提とした本願についての検討
1.本願発明
上記のとおり本件補正は却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」と呼ぶ。)は、平成20年4月24日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 処理対象となる原文を解析し、前記原文を各形態素に分けるとともに、各形態素についての形態素情報を自動的に付加する処理を行う形態素処理手段と、
前記原文の文書構造を解析し、前記原文に階層的な文書構造を示す文書構造情報を自動的に付加する処理を行う文書構造処理手段と、
前記原文に、前記原文内の文書部分間における参照関係を示す参照情報を自動的に付加する処理を行う参照関係処理手段と、を備えることで、
前記原文に、前記形態素情報、前記文書構造情報、及び前記参照情報が付加された文書データを作成できるようにするとともに、
前記形態素処理手段において、ユーザの入力に応じて、前記形態素情報の変更、追加、修正を行う形態素情報決定手段を、
前記文書構造処理手段において、ユーザの入力に応じて、前記文書構造情報の変更、追加、修正を行う文書構造情報決定手段を、
前記参照関係処理手段において、ユーザに入力に応じて、前記参照情報の変更、追加、修正を行う参照情報決定手段を備える
文書データ作成装置。」

2.引用例記載発明および引用例に示される技術的事項
原査定の拒絶の理由に引用された、「「形態素・構文・意味タギング」第21回言語・音声理解と対話処理研究会資料(SIG-SLUD-9703),p.33-p.40(1998.02.27)」(以下、「引用例」と呼ぶ。)には以下の記載がある。

(1)
「1 はじめに
計算機の処理能力の飛躍的な向上により,大量の音声・言語データに対して統計的手法を利用した音声認識や自然言語処理が成功をおさめてきている.さらに,データからより正確な知識を獲得し,より高精度な処理を実現するために,形態素情報から談話情報に至るまでのさまざまなレベルで,データへの情報付与(タギング)が広く行われている.」(p.33左欄)

(2)
「本稿では,このような言語・談話タギングのうち,形態素・構文・意味レベルでの情報付与について,それぞれ,言語・談話タグワーキンググループ,京都大学テキストコーパスプロジェクト,GDAでの活動を中心に最近の動向を紹介する.
2 形態素タギング
2.1 形態素タグ付きコーパスの現状
形態素タグとは,各単語の見出し語および品詞・活用形などの情報であり,分かち書きの習慣のない日本語の場合には,単語分割の情報も含む.形態素タグは,構文・意味・談話などあらゆるレベルの言語処理の基礎となる情報であり,これまで作成されたタグ付きコーパスの多くのものが形態素タグを含んでいる(表1).」(p.33右欄)

(3)
「3.2.1節で詳述するように,タギングの際には,一貫性の保持と作業の効率化のために,自然言語処理システムを利用した半自動化が必須となる.形態素タギングの場合にも,形態素解析システムと視覚的ユーザインターフェースを利用したタグ付け作業の効率化がいくつかの機関でなされている[12,31].」(p.34左欄)

(4)
「3 構文タギング
3.1 構文タグ付きコーパスの現状
タギングの1つの目的は,現在のプログラムでは自動付与(解析)が難しい情報を人手によって付与し,その結果を種々利用することによって将来のプログラム改良に役立てようというものである.
その意味では,構文タギングはこれまでのところタギングの中心的なものであったといえるだろう.自然言語処理において構文解析は古くから重要かつ困難な問題と認識され,構文タグ付きコーパスの作成とそれを用いた構文解析の改良は最近最も盛んな研究分野である.これまで作成された構文タグ付きコーパスには表1のようなものがある.

3.2 構文タギングにおける問題点
コーパスにタギングを行う上で最も重要なことは,与える情報に一貫性があることである.これを達成するのは容易なことではないが,そのためには少なくとも次のことに注意を払う必要があるだろう.

1.人間の作業をできる限り軽減する.
2.与える情報の明確な基準を設ける.

以下では筆者の一人が作成に関わってきた京都大学コーパスにおいて,これらの点についてどのような工夫がなされたかを述べる.

3.2.1 人間の作業の軽減
人間の作業の軽減に関して,京大コーパスの作成で工夫してきた点は次のようにまとめられる.

・コーパス全体のタギングを行ってから機械学習的手法によって解析システムを改良するのではなく,タギング(人手作業)中に問題を発見するたびにシステムの改良(文法規則,優先規則などの整備)を随時行った.このような方法の妥当性に関する議論は別の機会に譲るとして,この方法が人間の負担を減らす点で有効であることはいうまでもない.(各時点で解析システムが高精度であればあるほど人間の作業は軽減されるから)」(p35右欄?p36左欄)

(5)
「・作業の効率化のためにマウスベースのユーザインターフェースを用意した.図1に例を示すが,係り受け木の右上の三角部分がマウスセンシティブになっており,この部分をマウスで選択するだけで係り受け構造の修正ができる.」(p36左欄)

(6)
「4.3 照応

照応に関するタギングは文章の意味構造を決定するのに必須だから,意味に関するタギングの中でも重要性が高い.照応のタギングを大規模に行った例としては,ランカスター大学のコーパス[6]の他,MUCの情報抽出課題のためのシステム開発および評価用に作られたコーパスなどがある.ランカスター大学でもMUCでも,代名詞による直接照応に限らずさまざまな現象を扱っているが,それらの範囲はかなり異なる.言語・談話タグワーキンググループおよびGDAでは,これらの成果を踏まえ,照応に関するタグの設計を進めている.」(p38右欄)

ここで、上記記載事項(3)を、引用例のそれ以外の記載事項と技術常識に照らせば、該記載事項(3)は、「処理対象となる原文を解析し、前記原文を各形態素に分けるとともに、各形態素についての形態素情報を自動的に付加する処理を行う形態素処理手段を備えることで、前記原文に、前記形態素情報が付加された文書データを作成できるようにするとともに、前記形態素処理手段において、ユーザの入力に応じて、前記形態素情報の変更、追加、修正を行う形態素情報決定手段を備える、文書データ作成装置。」といえるもの(以下、「引用例記載発明1」と呼ぶ。)がいくつかの機関で実施されていた事実を表しているものと認められる。

また、上記記載事項(3)?(5)を引用例のそれ以外の記載事項と技術常識に照らせば、引用例には、「処理対象となる原文の文書構造を解析し、前記原文に階層的な文書構造を示す文書構造情報を自動的に付加する処理を行う文書構造処理手段を備えることで、前記原文に、前記文書構造情報が付加された文書データを作成できるようにするとともに、前記文書構造処理手段において、ユーザの入力に応じて、前記文書構造情報の変更、追加、修正を行う文書構造情報決定手段を備える、文書データ作成装置。」といえるもの(以下、「引用例記載発明2」と呼ぶ。)も記載されているといえる。

さらに、上記記載事項(6)を引用例のそれ以外の記載事項と技術常識に照らせば、該記載事項(6)でいう「照応に関するタグ」は、「原文内の文書部分間における参照関係を示す情報」であって、「参照情報」とも呼び得るものと認められるから、引用例には、「原文に、前記原文内の文書部分間における参照関係を示す参照情報を付加する」という技術的事項(以下、「引用例記載技術事項」と呼ぶ。)も記載されているといえる。

3.対比
本願発明と引用例記載発明1とを対比すると、両者の間には、以下の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「処理対象となる原文を解析し、前記原文を各形態素に分けるとともに、各形態素についての形態素情報を自動的に付加する処理を行う形態素処理手段を備えることで、前記原文に、前記形態素情報が付加された文書データを作成できるようにするとともに、前記形態素処理手段において、ユーザの入力に応じて、前記形態素情報の変更、追加、修正を行う形態素情報決定手段を備える、文書データ作成装置。」である点。

(相違点)
本願発明は、上記一致点に係る構成に加えて、「前記原文の文書構造を解析し、前記原文に階層的な文書構造を示す文書構造情報を自動的に付加する処理を行う文書構造処理手段と、前記原文に、前記原文内の文書部分間における参照関係を示す参照情報を自動的に付加する処理を行う参照関係処理手段と、を備えることで、前記原文に、前記文書構造情報、及び前記参照情報が付加された文書データを作成できるようにするとともに、前記文書構造処理手段において、ユーザの入力に応じて、前記文書構造情報の変更、追加、修正を行う文書構造情報決定手段を、前記参照関係処理手段において、ユーザに入力に応じて、前記参照情報の変更、追加、修正を行う参照情報決定手段を備える」という構成をも有するものであるのに対し、引用例記載発明1は、それに対応する構成を有するものではない点。

4.判断
(1)上記相違点について
下記ア.?ウ.の事情を勘案すると、引用例記載発明1に「前記原文の文書構造を解析し、前記原文に階層的な文書構造を示す文書構造情報を自動的に付加する処理を行う文書構造処理手段と、前記原文に、前記原文内の文書部分間における参照関係を示す参照情報を自動的に付加する処理を行う参照関係処理手段と、を備えることで、前記原文に、前記文書構造情報、及び前記参照情報が付加された文書データを作成できるようにするとともに、前記文書構造処理手段において、ユーザの入力に応じて、前記文書構造情報の変更、追加、修正を行う文書構造情報決定手段を、前記参照関係処理手段において、ユーザに入力に応じて、前記参照情報の変更、追加、修正を行う参照情報決定手段を備える」という構成を追加し、本願発明の構成とすることは、当業者が容易に推考し得たことというべきである。

ア.上記引用例記載技術事項でいう「参照情報」についても、引用例記載発明1でいう「形態素情報」や引用例記載発明2でいう「文書構造情報」と同様に、装置による自動付加とユーザによる変更、追加、修正ができることが望ましいことは、当業者に自明であり、そのようなことを実現し得る「処理対象となる原文に、前記原文内の文書部分間における参照関係を示す参照情報を自動的に付加する処理を行う参照関係処理手段を備えることで、前記原文に、前記参照情報が付加された文書データを作成できるようにするとともに、前記参照関係処理手段において、ユーザの入力に応じて、前記参照情報の変更、追加、修正を行う参照情報決定手段を備える、文書データ作成装置」と呼び得る装置(以下、「参照情報付加装置」と呼ぶ。)を構成することは、当業者が容易になし得たことである。

イ.上記「2.」の「(1)」、「(2)」に摘記した引用例の記載事項からも明らかなように、引用例記載発明1でいう「形態素情報」と、上記引用例記載発明2でいう「文書構造情報」と、上記引用例記載技術事項でいう「参照情報」とは相互に密接な関連を有するものであり、単一の装置で、原文に対して該「形態素情報」と「文書構造情報」と「参照情報」の全てを付加できるようにすることが望ましい場合があることも当業者に自明であるし、そのようにできない理由はない。
ウ.上記ア.、イ.のことは、引用例記載発明1に上記引用例記載発明2と上記参照情報付加装置の構成を付加すること、換言すれば、引用例記載発明1に「前記原文の文書構造を解析し、前記原文に階層的な文書構造を示す文書構造情報を自動的に付加する処理を行う文書構造処理手段と、前記原文に、前記原文内の文書部分間における参照関係を示す参照情報を自動的に付加する処理を行う参照関係処理手段と、を備えることで、前記原文に、前記文書構造情報、及び前記参照情報が付加された文書データを作成できるようにするとともに、前記文書構造処理手段において、ユーザの入力に応じて、前記文書構造情報の変更、追加、修正を行う文書構造情報決定手段を、前記参照関係処理手段において、ユーザに入力に応じて、前記参照情報の変更、追加、修正を行う参照情報決定手段を備える」という構成を追加することが当業者にとって容易であったことを意味している。

(2)本願発明の効果について
本願発明の構成によってもたらされる効果は、引用例の記載事項や技術常識から当業者が予測可能なものであり、格別なものではない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例記載発明1、2及び引用例記載技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例記載発明1、2及び引用例記載技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-20 
結審通知日 2011-06-21 
審決日 2011-07-07 
出願番号 特願平11-227532
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
P 1 8・ 561- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 成瀬 博之和田 財太  
特許庁審判長 小曳 満昭
特許庁審判官 長島 孝志
久保 正典
発明の名称 文書データ作成装置、文書データ作成方法、及び記録媒体  
代理人 脇 篤夫  
代理人 鈴木 伸夫  

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