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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1242339
審判番号 不服2009-8788  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-04-23 
確定日 2011-08-25 
事件の表示 特願2002-326267「ゼーベック係数測定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 6月10日出願公開、特開2004-165233〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年11月11日の出願であって、平成21年3月17日付けで拒絶査定がされ、それに対して、同年4月23日に審判が請求されるとともに、同年5月19日に手続補正書が提出され、平成22年12月6日付けで審尋がされ、平成23年1月28日に回答書が提出された。その後、平成23年3月30日付けで当審により拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、これに対して、同年5月30日に意見書が提出されたものである。


第2 本願発明
請求項1?3に係る発明のうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
物質のゼーベック係数を測定するための装置であって、高温側接点と低温側接点とを有する一対の熱電対により形成される検出部、熱電対の一方を加熱するヒーター、個々の熱電対の温度と両熱電対間に生じる物質試料の熱起電力とをそれぞれ測定する計測部、および物質試料の熱起電力を両熱電対間の温度差で除することによりゼーベック係数を計算する演算部を備え、
熱電対の一方を加熱するヒーターが該熱電対に巻かれたニクロム線である、装置。」


第3 引用例の記載と引用発明
1 引用例とその記載内容
当審拒絶理由で引用した、本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭61-86642号公報(以下「引用例」という。)には、「金属分析装置」(発明の名称)について、次の記載がある(下線は当審で付加したもの。以下同じ。)。

(1)産業上の利用分野等
「[産業上の利用分野]
本発明は、金属試料中の主成分、例えば銑鉄中における硅素含有率を熱起電力法によって測定する金属分析装置に関するものである。」(1頁右下欄10行?13行)
「[発明の目的]
本発明の目的は、簡単な操作により迅速かつ確実に金属試料中の成分含有率を測定し得る金属分析装置を提供することにある。」
[発明の概要]
上述の目的を達成するための本発明の要旨は、熱伝導性が良好で異なる温度を有する2個の金属製電極間に金属試料を挟着し、該金属試料に発生する熱起電力を測定して該金属試料の成分含有率を測定する装置であって、前記2個の電極を棒状として同一軸線上に配置し、少なくとも一方の電極を前記軸線に沿って移動自在とし、前記両電極間の温度差を検出する手段を設け、少なくとも一方の電極に電極温度を上昇させるための加熱手段を設け、前記検出手段と加熱手段を基に前記両電極の温度差を所定温度差とする調節手段を設け、前記両電極を介して金属試料に発生する熱起電力を測定する手段を設けたことを特徴とする金属分析装置である。 」(2頁右上欄2行?最下行)

(2)発明の実施例
「[発明の実施例]
本発明を第1図、第2図に図示の銑鉄中の硅素含有率を測定する場合の実施例に基づいて詳細に説明する。
第1図は本実施例の要部断面図であり、第2図はブロック回路構成図である。電極1a、1bはそれぞれ熱伝導性の良好な例えば銅より成る棒状体とされ、その先端を半球状とし、同一軸線上に相対向して配置されている。・・・電極1a、1bにはそれぞれ後部から挿通孔が穿孔され、この中に熱電対素線8a、8bが挿通され、電極1a、lbの温度を検出するようになっている。これらの熱電対素線8a、8bの一端ずつは直結され、他端同志は温度調節計9に接続され、両電極1a、lbの温度差が検出できるように結線されている。また、電極1aには電熱線10が巻回され、温度調節計9の出力により電極1aを介して、両電極1a、1bの温度差を一定に制御し得るようになっている。更に両電極1a、lbにはそれぞれ補償導線11a、11bが接続され、両電極1a、lb間に金属試料Sが介在した場合に、この金属試料Sと両電極1a、lb間の温度差により発生する熱起電力を測定できるようになっており、補償導線11a、11bの他端は測定回路12に接続され、測定回路12の出力は更に熱起電力を硅素含有率に変換する演算回路13を経て、表示装置14に含有率が表示されるようになっている。・・・銑鉄試料Sとこれを挟着する電極1a、lb間に発生する熱起電力は、銑鉄試料Sの特有の性質と電極1a、lb間の温度差に依存し、温度差を一定にすれば銑鉄試料Sの特性のみが求められ、これは第3図に示すように硅素の含有率となる。この温度差は大きいほど測定感度は大となるが、電極温度が300°C以上になると電極の酸化が激しくなり、更には電極から試料Sに熱が移動し易く、測定値が不安定になる虞れがある。」(2頁左下欄1行?3頁右上欄20行 )

2 引用発明
上記(1)及び(2)によれば、引用例には、次の発明が記載されているといえる(以下、この発明を「引用発明」という。)。

「熱起電力法によって測定する金属分析装置であって、電極1a、1bにはそれぞれ、熱電対素線8a、8bが挿通され、電極1a、lbの温度を検出するようになっており、電極1aには電熱線10が巻回され、両電極1a、1bの温度差を一定に制御し得るようになっており、金属試料Sと両電極1a、lb間の温度差により発生する熱起電力を測定できるようになっており、熱起電力を硅素含有率に変換する演算回路13を備えた、金属分析装置。」


第4 対比
1 本願発明と引用発明とを対比すると、
ア 引用発明の「熱電対素線8a、8b」は、本願発明の「一対の熱電対」に相当する。そして、引用発明は、「電極1a、1bにはそれぞれ、熱電対素線8a、8bが挿通され」、「電極1aには電熱線10が巻回され、両電極1a、1bの温度差を一定に制御し得るようになって」いるから、前記「熱電対素線8a、8b」は、高温側接点と低温側接点とを有するものであることが分かる。
イ 引用発明は、「電極1a、lbの温度を検出」しているから、上記アを参酌すれば、個々の「熱電対素線8a、8b」の温度を測定するものであることが分かる。
ウ 引用発明の「電熱線10」は、本願発明の「ヒーター」に相当し、「電極1aには電熱線10が巻回され、両電極1a、1bの温度差を一定に制御し得るようになって」いる。
したがって、引用発明の「電熱線10」は、上記アを参酌すれば、「電極1a」に挿通されている「熱電対素線8a」を、加熱する「ヒーター」といえる。
エ 引用発明の「金属試料S」は、本願発明の「物質試料」に相当し、引用発明の「両電極1a、lb間の温度差により発生する熱起電力」は、両「熱電対素線8a、8b」間の「温度差により発生する熱起電力」であることは、当業者にとって明らかである。
そうすると、引用発明は、「両熱電対間に生じる物質試料の熱起電力」を測定するものであることが分かる。
オ 引用発明の「金属分析装置」は、「装置」である点で本願発明と共通する。

2 したがって、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりとなる。

〈一致点〉
「高温側接点と低温側接点とを有する一対の熱電対により形成される検出部、熱電対の一方を加熱するヒーター、個々の熱電対の温度と両熱電対間に生じる物質試料の熱起電力とをそれぞれ測定する計測部を備え、熱電対の一方を加熱するヒーターが該熱電対に巻かれた線である、装置。」

〈相違点〉
相違点1
本願発明では、「物質のゼーベック係数を測定するための装置」であって、「物質試料の熱起電力を両熱電対間の温度差で除することによりゼーベック係数を計算する演算部」を備えるのに対し、引用発明では、「熱起電力法によって測定する金属分析装置」であって、「熱起電力を硅素含有率に変換する演算回路13」を備えるものの、「物質のゼーベック係数を測定するための装置」及び「物質試料の熱起電力を両熱電対間の温度差で除することによりゼーベック係数を計算する演算部」について特定がない点。

相違点2
本願発明では、ヒーターが、「ニクロム線」からなるのに対し、引用発明では、「電熱線10」の材料について特定がない点。


第5 相違点についての検討
(1)相違点1について
ゼーベック係数は、測定対象となる物質の2点間で生じる温度差1℃当たりの熱起電力であって、物質毎に特有の値を持つものであり、これを基に熱起電力から試料を分析することができる。
そして、引用例の「銑鉄試料Sとこれを挟着する電極1a、lb間に発生する熱起電力は、銑鉄試料Sの特有の性質と電極1a、lb間の温度差に依存し、温度差を一定にすれば銑鉄試料Sの特性のみが求められ、これは第3図に示すように硅素の含有率となる。」(3頁右上欄12行?16行)との記載からも明らかなように、引用発明においても、測定対象となる物質の特有の性質を、温度と起電力から求めているものであるから、実質的にゼーベック係数を測定しているのと認められる。
一方で、ゼーベック係数を算出するために、測定された熱起電力を測定された熱電対間の温度差で除することによりゼーベック係数を算出する方法及び、それらを計算する演算部を備えることは、例えば、以下の周知例1及び2に記載されているように、本願の出願日前の周知技術である。
したがって、引用発明において、ゼーベック係数を算出するために、上記周知技術を採用することは、当業者が容易に想到し得たものである。

(周知例1:特開平4-125458号公報、当審拒絶理由で引用。)
上記周知例1には、次の記載がある。
「〔産業上の利用分野〕
本発明は熱電能(ゼーベック係数)の測定器および測定方法に関する。 〔従来の技術〕
半導体集積回路が高集積度化するに従い、動作時の発熱が問題になっている。発熱の形態には、主としてジュール発熱とペルチェ発熱とがある。ペルチェ発熱は異種材料の界面に発生する局所的な発熱であり、熱応力発生の原因となる。ペルチェ発熱は材料のペルチェ係数の差に比例し、ペルチェ係数は熱電能(ゼーベック係数)に比例する。従って、半導体回路設計上、熱電能は重要な物性値であり、その高精度な測定方法が望まれている。
一般に、熱電能の測定し、Rev.Sci.Instrum.57(2),1986に記載のように、測定対象物の少なくとも一点を加熱もしくは冷却し、測定対象物の二点間に発生する熱起電力と温度差を、測定対象物に接触させた電極と熱電対により測定する。
〔発明が解決しようとする課題〕
しかし、電極と測定対象物の接点、熱電対と測定対象物の接点における放熱条件の違いから、電極の接する部分と熱電対の接する部分の温度が一致しないことが多い。」(1頁右下欄下から7行?2頁左上欄下から5行)
「第6図は本発明の測定システムを示す。これは、第1図に示した熱電能測定器に、測定結果のデータ処理と電源4,5の制御を行なう制御・表示装置30を接続し、その結果をプリンタ32、フロップ-ディスク31に出力するシステムを示す。本発明によれば、熱電能の計測を自動化できる効果がある。
第7図は、本発明の測定方法のフローチャートを示す。まず、第1図のヒータ2およびヒータ3により測定対象物1を加熱し、測定対象物に5?10度の温度差をつけ、電圧-温度変換器6および8により測定対象物の二点の温度T_(A),T_(B)を測定する。次に、電圧測定器7により電圧Vを測定し、T_(A),T_(B)の値をもとにリード線12と13に生じている熱起電力値を求め、VからV_(12)とV_(13)を減じることにより、測定対象物1の点Aと点B間に発生している真の熱起電力V_(0)を求める。次に次式に従って、熱電能Sを求める。 S(T)=V_(0)/T_(A)-T_(B) ・・・(2)
T=(T_(A)-T_(B))/2 」
(3頁左下欄12行?右下欄下から9行)

(周知例2:特開平6-300719号公報、当審拒絶理由で引用。) 上記周知例2には、次の記載がある。
「【0027】上記のようにして、試料片の加熱された金属体と当接する部位は高温部となり、当接しない部位は低温部となる。そして、これらの部位の間の温度差によって、かかる2点間に電位差即ち熱起電力が発生する。 【0028】本発明において、温度差を有する部位の2点間の温度差及び電位差の測定は、該各部位に熱電対端子を接触させて行うことができる。
【0029】上記熱電対は、公知のものが特に制限なく使用される。例えば、日本工業規格で提示されているB(白金ロジウム合金-白金ロジウム合金)、R(白金ロジウム合金-白金)、S(白金ロジウム合金-白金)、K(ニッケルクロム合金-ニッケル合金)、E(ニッケルクロム合金-銅ニッケル合金)、J(鉄-銅ニッケル合金)、T(銅-銅ニッケル合金)などが挙げられ、これらの中より試料片との反応性、熱電対の熱伝導性などを考慮して最適なものを選択すれば良い。」
「【0032】上記試料片の高温部と低温部との温度差(△T)は、各部位にその端子が接触する2対の熱電対の電気回路をそれぞれ零点補償回路またはそれに相当するものを付属した電圧-温度変換器に接続し、測定された温度即ちT_(1)(高温部)及びT_(2)(低温部)から算出することができる。
【0033】また、試料片の高温部と低温部との電位差(E)の測定は、2対のそれぞれの熱電対端子を構成する金属線の内、同種類の金属線の間に電圧計を接続して行うことが好ましい。このとき補償用導線などにより、熱電対端子の各金属線を電圧-温度変換器と電圧計に同時に接続しておけば、温度差と電位差の同時測定が可能である。勿論、各部位に別途金属線を接触させ、これに電圧計を接続して電位差を測定することも可能である。
【0034】上記のように測定された試料片の高温部と低温部の各部位間の温度差及び電位差から次式を用いてゼーベック係数(S)が算出される。
【0035】S=E/△T (単位;V/K)本発明の方法を実施するために好適な熱電変換特性の測定装置をも提供する。」

(2)相違点2について
電熱線の材料として、ニクロムを採用することは、例えば、以下の周知例3及び周知例4に記載されているように、本願の出願日前における常套手段である。
したがって、引用発明において、電熱線の材料としてニクロムを採用することは、当業者が容易になし得たものである。

(周知例3:特開昭62-93639号公報、当審拒絶理由で引用。)
上記周知例3には、次の記載がある。
「ヒータ4としては直径が0.02mm?0.2mm程度のニクロム線、コンスタンタン線、白金線、ニッケル線など金属抵抗線等が用いられる。要はヒータとなるような電気抵抗を有するものであればよい。そして、ヒータ線は管体7の外周に巻きつけるので電気絶縁被覆されたものが通常用いられる。」(6頁左上欄下から1行?右上欄6行)

(周知例4:実願平2-36107号(実開平3-127251号)のマイクロフィルム、当審拒絶理由で引用。)
上記周知例4には、第1?3図とともに、次の記載がある。
「第1図、第2図はこの考案にかかる水分センサーを示し、第3図はその回路構成を示している。
図において、・・・円柱20の外周に一定間隔に巻回されたヒータ用のニクロム線30と、・・・」(5頁1行?6行)

(3)意見書における審判請求人の主張について
平成23年5月30日に提出された意見書において、審判請求人は、「(iii) 本願発明では、熱起電力と試料温度を測定する手段として熱電対を用い、この熱電対にニクロム線が直接巻かれており、ニクロム線により加熱された熱電対を測定用試料に直接接触させて、試料を加熱することが重要な特徴となっています。」と主張する。
しかしながら、本願の請求項1には、「高温側接点と低温側接点とを有する一対の熱電対により形成される検出部」、「熱電対の一方を加熱するヒーター」、「熱電対の一方を加熱するヒーターが該熱電対に巻かれ」と規定されているにとどまり、前記「直接巻かれており」、前記「熱電対を測定用試料に直接接触させ」るとはされていないから、審判請求人の上記主張は、特許請求の範囲の記載に基づかないものである。
本願明細書の記載を見ても、段落【0016】に記載の実施例として、「本実施例装置では、熱電対として0.7mm径のK型熱電対を用いた。また、ヒーターとしては0.4mm径、長さ450mmのニクロム線を高温側熱電対に50巻きした。この際、熱電対をセラミックスの保護管(鞘)の中に入れ、管の外側にニクロム線を巻き付けて、電気的に絶縁した。」と記載されており、熱電対にニクロム線が直接巻かれていないものが説明されている。
仮に、審判請求人の主張のように、測定用試料に直接接触させると理解したとしても、「熱電対を測定用試料に直接接触」させることは、例えば、上記周知例1の「測定対象物の二点間に発生する熱起電力と温度差を、測定対象物に接触させた電極と熱電対により測定する。」(2頁左上欄9?11行)、上記周知例2の段落【0029】の「上記熱電対は、公知のものが特に制限なく使用される。例えば、日本工業規格で提示されているB(白金ロジウム合金-白金ロジウム合金)、・・・などが挙げられ、これらの中より試料片との反応性、熱電対の熱伝導性などを考慮して最適なものを選択すれば良い。」に記載されていることからも明らかなように、本願の出願日前の周知技術であり、容易想到であるとの結論は変わらない。

(4)以上検討したとおり、本願発明は、周知技術を勘案することにより、引用発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第6 結言
以上のとおりであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-15 
結審通知日 2011-06-21 
審決日 2011-07-12 
出願番号 特願2002-326267(P2002-326267)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 浩一河口 雅英  
特許庁審判長 相田 義明
特許庁審判官
松田 成正
西脇 博志
発明の名称 ゼーベック係数測定装置  

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