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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20076728 審決 特許
不服200713448 審決 特許
不服200731056 審決 特許
不服200811730 審決 特許
不服200818981 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1242647
審判番号 不服2008-20741  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-13 
確定日 2011-08-31 
事件の表示 平成9年特許願第270571号「ストレス状態改善剤」拒絶査定不服審判事件〔平成11年4月6日出願公開、特開平11-92390〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成9年9月17日の出願であって、平成20年4月4日付けの拒絶理由通知書に対して、その指定期間内である同年6月13日付けで手続補正がなされたが、同年7月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年9月11日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成20年9月11日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成20年9月11日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正の概略
本件補正は、特許請求の範囲の補正を含むものであり、補正前の特許請求の範囲(平成20年6月13日付け手続補正書を参照。):
「【請求項1】夾膜を除去したビフィドバクテリウム属細菌の菌体を有効成分とするストレス状態改善剤。」
を、以下の補正後の特許請求の範囲(平成20年9月11日付け手続補正書を参照。):
「【請求項1】夾膜を除去したビフィドバクテリウム属細菌の菌体を有効成分とする密飼いストレス状態改善剤。」
にする補正を含むものである。

(2)補正の目的
本件補正は、補正前の請求項1における「ストレス状態改善剤」を、「密飼いストレス状態改善剤」に限定する補正を含むものであり、そしてこの補正は、改善剤の対象である「ストレス状態」について、「密飼い」を原因とすることに限定する補正であり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前の特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するといえる。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて以下に検討する。

(3)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である、特開平2-11519号公報(以下、「引用例A」という。)には、以下の事項が記載されている。
A-1
「莢膜を除去した菌体を有効成分とする体重増加及び免疫増強剤。」(【請求項1】)
A-2
「前記菌体はビフィドバクテリウム属に属する細菌の菌体である請求項1記載の体重増加及び免疫増強剤。」(【請求項2】)
A-3
「菌体を界面活性剤で処理することから成る請求項1又は2記載の体重増加及び免疫増強剤の製造方法。」(【請求項4】)
A-4
「この発明は、家畜及び家禽の体重を増加し、免疫機能を増強する効果を有する体重増加及び免疫増強剤、その製造方法並びにそれを含有する飼料に関する。」(第1頁左下欄下から第3行?右下欄第1行)

原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である、特開昭62-70398号公報(以下、「引用例B」という。)には、以下の事項が記載されている。
B-1
「IL-2は免疫機能の重要な調節剤であり、また家畜の治療とりわけストレスにより誘発されたウシの免疫不全の場合に有効でありうる。」(第3頁左下欄第9?11行)
B-2
「ウシが放牧地への輸送または放牧地から飼育地への輸送の際に受けるストレスはステロイドホルモンの生産を高め、そのステロイドホルモンが免疫応答の低下へと導くという仮説はしばしば認められている。動物が飼育地へ到着するとき、それらは低下した免疫反応性ゆえに普通の細菌やウィルスの感染の犠牲になってしまう」(第3頁左下欄第12?18行)

原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である、特開平3-34933号公報(以下、「引用例C」という。)には、以下の事項が記載されている。
C-1
「[産業上の利用分野]
本発明は免疫機能賦活剤・・・に関する。」(第1頁左下欄下から第2行?右下欄第2行)
C-2
「免疫機能を高める効果とは、生体の防御機能を高め、人間ないし動物の免疫機能不全による疾患及びこれに伴う心身ストレスの増大を予防・治療するものである。」(第2頁左下欄下から第12行?下から第9行)

原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である、特表平9-504803号公報(以下、「引用例D」という。)には、以下の事項が記載されている。
D-1
「類属免疫誘導剤は、特に以下の場合に予防的に使用するのに適している。
即ち、・・・
-予期されるストレス状態の前に(引っ越し、精神的ストレス、達成を高める時など、」(第8頁下から第2行?第9頁第3行)

本願出願日前に頒布された刊行物である、生化学辞典(第2版第2刷、1991年、株式会社東京化学同人発行)(以下、「引用例E」という。)には、以下の事項が記載されている。
E-1
「ストレス[stress]・・・生理学的には動物体に有害な作用因(ストレッサー)によりひき起こされる非特異的・生物学的な緊張状態の現象一切をいう。・・・作用因のいかんによらず常に同一の生体反応であるのが特徴で、本来適応的な意味をもち、視床下部・脳下垂体・副腎系が主役を演ずる。これらの活動が高まりホルモン分泌が増加するが、ストレスが強すぎる場合・・・この系の活動が低下し、適応不全症候群・・・を起こすことになる。視床下部・脳下垂体・副腎系は免疫系の活性にも影響し、生体防御機構にも欠くことができない。」(第696頁「ストレス」の項目)

本願出願日前に頒布された刊行物である、特開平8-301777号公報(以下、「引用例F」という。)には、以下の事項が記載されている。
F-1
「【従来の技術】・・・近年、免疫学の進歩により、ヒトおよび動物等の種々の感染症の原因および憎悪因子は免疫機能の不全または免疫力の低下によると考えられてきた。さらに畜産や水産業界においては大規模多数飼育により、密飼いなどによるストレスのため、免疫力が低下した家畜等が感染症に罹りやすい問題が提起されている。」(【0002】)
F-2
「・・・免疫力・感染防御能物質を飼料に配合することにより、動物の免疫力を高めかつ感染防御効果を高めるものである。」(【0004】)

(4)対比
引用例Aの上記A-1、A-2及びA-4の記載より、引用例Aには、
「莢膜を除去したビフィドバクテリウム属細菌の菌体を有効成分とする、家畜及び家禽の免疫増強剤。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「莢膜」は、菌体を界面活性剤で処理することで除去されるものであり(上記A-3参照。)、そして、この除去手段は、本願発明の詳細な説明【0008】?【0010】に記載されている本願補正発明の「夾膜」の除去手段と同じであるから、引用発明の「莢膜」は、本願補正発明の「夾膜」に相当する(なお、正しくは、「莢膜」と表記すべきものであるといえるから、以下そのように表記する。)。
よって、両者は、
「莢膜を除去したビフィドバクテリウム属細菌の菌体を有効成分とする薬剤。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]本願補正発明は、薬剤が「密飼いストレス状態改善剤」であるのに対し、引用発明には、家畜及び家禽の「免疫増強」のためであることは記載されているものの、「密飼いストレス状態改善」のためであることは特定されていない点。

(5)判断
[相違点]について
まず、ストレスについて、動物体は有害な作用因を受けると、作用因のいかんによらず常に同一の生体反応を示して、適応するものの、受けるストレスが強すぎると、適応不全症候群が生じ、免疫系の活性や生体防御機構にも影響することは、ストレスに関する周知の知見である(引用例Eの上記E-1を参照のこと。)。
また、家畜については、密飼いがストレスの原因になり、それにより免疫力が低下して、感染症をひき起こしてしまうことは、引用例Fの上記F-1に記載されるように、当業者に公知の課題であるといえる。
そして、ストレスが原因となる免疫系の問題の対処法として、ヒトや家畜に対して、免疫機能を高めたり、調整する物質を用いることは、引用例Bの上記B-1、引用例Cの上記C-1、C-2、引用例Dの上記D-1、及び、引用例Fの上記F-2に記載されるように、周知の対処法であるといえる。
よって、上記したように、家畜の密飼いによるストレスに対処することは、当業者に公知の課題であることに加え、免疫機能に作用する物質を用いることでストレスによる問題に対処することは、周知の手段でもあるから、引用発明において、上記周知の課題の解決を目的として、家畜及び家禽の免疫増強剤を「密飼いストレス状態改善」のために用いてみることは、当業者が容易になし得ることである。
そして、本願補正発明が奏する効果について検討すると、引用例Aには、免疫機能を増強する効果があることが記載されており(上記A-4参照。)、また、上記したように、免疫調節・増強剤によりストレスに対処できることは周知の事項であり、さらに、引用例Eの上記E-1に記載されるように、ストレスによる生体反応は、作用因によらず常に同じであることを考慮すれば、引用例Aに記載の免疫増強剤を用いることで、密飼いストレス状態下でも、免疫活性の低下を防止できることは、当業者が予測し得る程度のものであるといえ、格別な効果を奏するものであるとはいえない。

なお、審判請求人は、
(a)平成23年4月28日付け回答書において、「引用文献1(審判注:「引用例A」)・・・には、本願発明と同じ成分が免疫増強作用を有することが示されてはいるものの、上記のように予防的な効果であるか・・・長期間摂取させた場合の効果しか示されていない。」と主張している。
しかし、本願発明の詳細な説明【0017】には、「・・・密飼いストレス状態になると予想される環境下で飼育される、ブタ・・・に対して投与することができる。」と記載されており、また、【0028】には、「密飼いの期間中、ずっとPG(審決注:「ストレス状態改善剤」)20ppm添加飼料を給与した試験を実施した。」と記載されているように、本願補正発明も、治療のみならず、予防も目的としており、また、長期間摂取するものでもあるから、この主張(a)により、上記進歩性の判断が変わることはない。
(b)平成20年10月28日付け手続補正書(方式)において、「密飼いストレス状態にある動物に対し、わずか1回のストレス状態改善剤の投与でストレス状態が改善されるという、顕著な効果が奏される。」と述べ、上記回答書においても、「PGをたった1回経口投与しただけで継続的なストレス負荷状態を改善できるほどの顕著な効果は、当業者は予想し得ないものと思料する。」と述べ、ストレス状態改善剤の1回投与による効果について主張している。
しかし、ストレス状態改善剤の1回投与による効果について開示している、本願発明の詳細な説明の実施例3をみれば、薬剤投与後の免疫活性の各値を示しているにすぎず、ストレス状態改善剤を1回投与するだけで、その効果が長期にわたって維持し続けるような結果が示されているわけでもない。
そして、引用例Aに記載される免疫増強剤を1回でも投与すれば、それより免疫増強効果が得られることは、当業者が予測し得る程度のことであるから、この主張(b)によっても、上記進歩性の判断は変わらない。

したがって、本願補正発明は、引用例Aに記載された発明及び引用例B?Fに記載されるような周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(6)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。

3.本願発明について
平成20年9月11日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願請求項1に係る発明は、平成20年6月13日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める(以下、「本願発明」という。)。
「莢膜を除去したビフィドバクテリウム属細菌の菌体を有効成分とするストレス状態改善剤。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例A?Dの主な記載事項は、上記「2.(3)」に記載したとおりであり、また、ストレスに関する一般的な知見を示すために提示する引用例Eの主な記載事項も、上記「2.(3)」に記載したとおりである。

(2)対比
上記2.(4)で述べたように、引用例Aには、
「莢膜を除去したビフィドバクテリウム属細菌の菌体を有効成分とする、家畜及び家禽の免疫増強剤。」
の発明(「引用発明」)が記載されている。
よって、両者は、
「莢膜を除去したビフィドバクテリウム属細菌の菌体を有効成分とする薬剤。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]本願発明は、薬剤が、「ストレス状態改善」のためのものであるのに対し、引用発明には、家畜及び家禽の「免疫増強」のためであることは記載されているものの、「ストレス状態改善」のためであることは特定されていない点。

(3)判断
[相違点]について
上記2.(5)で述べたように、引用例Eに記載されるように、ストレスが免疫系の活性や生体防御機構にも関係することは周知の事項であり、また、家畜についても、ストレスによって、免疫力が低下し、感染症をひき起こしてしまうことは、引用例Bの上記B-2に記載されるように、当業者に周知の課題であるといえ、さらに、免疫機能を高めたり、調整する物質をヒトや家畜に用いてストレスに対処することは、引用例Bの上記B-1、引用例Cの上記C-1、C-2、及び、引用例Dの上記D-1に記載されるように、周知の対処手段である。
よって、引用発明において、家畜のストレスによる問題に対処するという、当業者に周知の課題の解決を目的として、家畜及び家禽の免疫増強剤を、「ストレス状態改善」のために用いてみることは、当業者が容易になし得ることである。
そして、本願発明が奏する効果について検討しても、引用例Aには、免疫機能を増強する効果があることが記載されており(上記A-4参照。)、また、上記したように、免疫調節・増強剤によりストレスに対処できることは周知の事項であるから、格別な効果を奏するものであるとはいえない。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例Aに記載された発明及び引用例B?Eに記載されるような周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-17 
結審通知日 2011-06-28 
審決日 2011-07-11 
出願番号 特願平9-270571
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐久 敬  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 平井 裕彰
渕野 留香
発明の名称 ストレス状態改善剤  
代理人 谷川 英次郎  

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