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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1242700
審判番号 不服2010-3592  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-02-19 
確定日 2011-09-01 
事件の表示 特願2006-243134号「電子機器とマルチパスフェージング軽減方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年6月14日出願公開、特開2007-150256号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成18年9月7日(優先権主張平成17年11月2日)の出願であって、平成21年11月12日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成22年2月19日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに明細書及び特許請求の範囲についての手続補正がなされたものである。

II.平成22年2月19日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年2月19日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「内面が複数面で構成されている筐体と、
前記筐体内に収容され、無線通信を行う通信部を有する複数の構成ユニットと、
前記筐体の内面で面積が最大である一つの面のみに設けられ、前記構成ユニット間の無線通信で用いられる電波を吸収する電波吸収体とを備え、
前記電波吸収体の形状は、シート状またはピラミット状である電子機器。」(なお、下線部は補正箇所を示す。)
上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「電波吸収体」について、「筐体の内面で面積が最大である一つの面に設けられ」との事項を「筐体の内面で面積が最大である一つの面のみに設けられ」と限定したものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-220264号公報(以下、「引用例」という。)には、「電子機器」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「【発明の属する技術分野】
この発明はパーソナルコンピュータや家電製品などの電子機器に係り、特に筐体内の周辺機器や電子回路基板などの機器構成ユニット間のデータのやり取りを無線通信にて行う電子機器に関するものである。」(段落【0001】)
イ.「図1はこの発明の実施の形態1による電子機器の構成を概略的に示す図であり、パソコンを例に挙げている。CPUやメモリなどの周辺回路を実装するマザーボード4及びこれとデータ通信する周辺機器6aは、パソコンの本体ケース(筐体)1に内蔵される。マザーボード4及び周辺機器6aは、本発明における機器構成ユニットに相当する。ここで、機器構成ユニットとは、電子機器を構成する電子回路基板や電子回路装置をいうこととする。電子機器としてコンピュータを例に挙げると、CPUやメモリなどの周辺回路を実装するマザーボード、ディスクドライブ装置、入力装置、出力装置、通信ポートやその周辺制御回路を有するボードなどが該当する。
また、本体ケース1内には、UWBの極短パルスの周波数帯域の電磁波を吸収してその反射を防止する電波吸収体2を設ける。この電波吸収体2は、例えばUWBの極短パルスの周波数帯域に高い吸収特性を有するフェライトやウレタンなどを材料とした電波吸収体を使用する。電波吸収体2は、例えば上記のようなフェライトやウレタンを材料とする板状の電波吸収体2をケース1内壁に適宜貼り付けていくことで設置する。なお、ケース1内壁部の他、ケース1に内蔵されたマザーボード4や周辺機器6aなどのUWB無線通信チップセット3,5の通信用アンテナを除く部位に設置してもよい。つまり、ケース1内での無線通信のノイズとなる電磁波を吸収させるのに効果的な部位であればよく、特に設置箇所を限定するものではない。」(段落【0013】?【0014】)
ウ.「さらに、マザーボード4及び周辺機器6aには、UWB無線通信チップセット(無線通信部)3,5がそれぞれ設けられる。UWB無線通信チップセット3,5は、UWB無線通信を実行する無線通信チップとこれを制御する制御コントローラLSIから構成される。これらUWB無線通信チップセット3,5は、例えば半導体製造技術であるCMOSプロセスを利用して製造され、従来のケーブル通信で用いられるコネクタと比較して占有面積が格段に小さい。
図2に示すように、無線通信チップは、通信用のアンテナ(通信用アンテナ)7、スイッチ8、フィルタ9a,9b、LNA(Low Noise Amplifier;低雑音増幅器)10、受信機11及び送信機12から構成される。」(段落【0015】?【0016】)
エ.「上述したような本体ケース1内部で無線通信を行うと、伝送媒体となる電磁波がケース1の内壁や周辺機器6aの外表面で反射してマルチパスフェージングが生じる可能性がある。特に、ボードや周辺機器などの電磁波を反射する媒体が近接して配置されているケース1内では、その影響が顕著になる。そこで、本発明では、ケース1内に電波吸収体2を配することで、電磁波の不要な反射を抑制する。これにより、マルチパスフェージングを抑制することができ、高速のUWB無線通信が可能になる。」(段落【0021】)
オ.「以上のように、この実施の形態1によれば、本体ケース1に内蔵したマザーボード4や周辺機器6a、ドーターボード6bなどの機器構成ユニットに設けられ、ケース1内におけるユニット間のデータのやり取りを、UWB無線通信にて中継するUWB無線通信チップセット3,5を設けたので、従来のケーブル通信より高速にデータ伝送することができる。また、ケース1内に電波吸収体2を配したので、近距離のUWB無線通信チップセット間におけるマルチパスフェージングを抑制することができる。」(段落【0026】)
カ.図1及び図4には、内面が上面と底面と側面で構成されている本体ケース1が図示されており、本体ケース1の内面で側面と面積が最大である上面及び底面に電波吸収体2を配した態様が図示されている。

これら記載事項及び図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに倣って整理すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「内面が上面と底面と側面で構成されているパソコンの本体ケース(筐体)1と、
前記本体ケース1内に収容され、無線通信を行うUWB無線通信チップセット(無線通信部)3,5を有するマザーボード4や周辺機器6a、ドーターボード6bなどの機器構成ユニットと、
前記本体ケース1の内面で側面と面積が最大である上面及び底面に設けられ、前記機器構成ユニット間の無線通信で用いられる電波を吸収する電波吸収体2とを備え、
前記電波吸収体2の形状は、板状である電子機器。」

3.対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、その意味、機能又は作用などからみて、後者の「上面と底面と側面」は前者の「複数面」に相当し、以下同様に、「パソコンの本体ケース(筐体)1」又は「本体ケース1」は「筐体」に、「UWB無線通信チップセット(無線通信部)3,5」は「通信部」に、「機器構成ユニット」は「構成ユニット」に、「マザーボード4や周辺機器6a、ドーターボード6bなどの機器構成ユニット」は「複数の構成ユニット」に、「電波吸収体2」は「電波吸収体」に、それぞれ相当する。 引用発明の「前記本体ケース1の内面で側面と面積が最大である上面及び底面に設けられ」と本願補正発明の「前記筐体の内面で面積が最大である一つの面のみに設けられ」とは、「前記筐体の内面で面積が最大である一つの面に設けられ」ている限りにおいて、共通する。
してみると、両者は、本願補正発明の用語を用いて表現すると、
「内面が複数面で構成されている筐体と、
前記筐体内に収容され、無線通信を行う通信部を有する複数の構成ユニットと、
前記筐体の内面で面積が最大である一つの面に設けられ、前記構成ユニット間の無線通信で用いられる電波を吸収する電波吸収体とを備えている電子機器。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
本願補正発明は、電波吸収体が「筐体の内面で面積が最大である一つの面のみ」に設けられているのに対して、引用発明は、電波吸収体2が「本体ケース1の内面で側面と面積が最大である上面及び底面」に設けられている点。
[相違点2]
本願補正発明は、電波吸収体の形状が「シート状またはピラミット状」であるのに対して、引用発明は、電波吸収体2の形状が板状である点。

4.判断
上記各相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用例には、「電波吸収体2は、例えば上記のようなフェライトやウレタンを材料とする板状の電波吸収体2をケース1内壁に適宜貼り付けていくことで設置する。なお、ケース1内壁部の他、ケース1に内蔵されたマザーボード4や周辺機器6aなどのUWB無線通信チップセット3,5の通信用アンテナを除く部位に設置してもよい。つまり、ケース1内での無線通信のノイズとなる電磁波を吸収させるのに効果的な部位であればよく、特に設置箇所を限定するものではない。」(上記摘記事項イ.参照)と記載され、電波吸収体2は、電波を吸収させるのに効果的な部位であれば、本体ケース1内のどこに設置してもよいことが記載又は示唆されている。そして、ケース内の内面の全面に電波吸収体を設置するとそれだけコスト高となることは当然のことであるから、コスト低減という一般的な課題を考慮すると、電波を吸収させるのに効果的な部位があればその部位を選択しようとする動機付けは十分にあるといえる。
しかも、電波吸収体を筐体内に設けるに当たり、電波吸収体を筐体の内面の面積が最大である一つの面のみに設けることは、例えば、特開平10-163669号公報(段落【0028】には「このシールド部材6は、図19にように、ノイズ源となる電子回路等を被った金属フレーム10の全体、或いは、一部を被うように筐体9の内側に接着剤4を用いて貼り付けられ」と記載され、段落【0012】には「6は電波吸収体1と導電性ペースト19からなるシールド部材」と記載され、図19には筐体9内の面積が最大である上面のみにシールド部材6が設けられている態様が図示されている。)や特開平11-307974号公報(段落【0002】には「そこで図8に示すように従来では、電磁波吸収材110がケース104の内側であって電子部品と対面する面に固定されている。」と記載され、段落【0020】には「電磁波吸収材30は、好ましくは図1と図2に示すように内面22の内の最も広い第1面22a、4つの側面22bの全面に渡って形成することが望ましい。」と記載され、上面が最も広い面であることが記載されている。そして、図8にはケース104内の上面に電磁波吸収材110が設けられている態様が図示されている。)などに示されるように、従来周知の技術である。
そうすると、引用発明において、電波吸収体を設置する部位を選択する際に、上記周知技術を適用して、相違点1に係る本願補正発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到できたことである。

(2)相違点2について
一般に「シート」とは、「薄板や紙などの1枚」(広辞苑第六版)を意味するので、引用発明の「板状」は本願補正発明の「シート状またはピラミット状」に相当するから、相違点2は実質的には相違点ではない。
しかし、仮に「板状」が「シート状」に相当するものではないとしても、電波吸収体の形状を「シート状またはピラミット状」とすることは、例えば、特開2003-60383号公報(段落【0002】には「従来における広帯域の電波吸収体には、多数の四角錐体を併設するいわゆる連続ピラミッド型、フェライト系の吸収体、および積層シート型などがあり」と記載されている。)や特開2003-218580号公報(段落【0003】には「電波吸収体としては、従来より種々のものが提案されており、例えば、発泡ウレタンにカーボンを含有させたピラミッド形状のもの、フェライトタイル焼結型のもの、フェライト粉末あるいはカーボン粉末を含有するゴムまたは塗料などの薄型のもの、導電性繊維を用いた織布または不織布などが挙げられる。」と記載され、段落【0005】には「例えば、シート状を呈し、接着剤を介して壁面に貼り付けるタイプの電波吸収体では、壁面への接着剤の全面塗布に手間がかかる。」と記載されている。)などに示されるように、従来周知の技術にすぎない。
そうすると、引用発明において、電波吸収体の形状を上記周知技術にならって「シート状またはピラミット状」とし、相違点2に係る本願補正発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到できたことである。

そして、本願補正発明の効果は、引用発明及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

なお、審判請求人は、審判請求書において、「引用文献1(審決注:本審決の「引用例」に相当する。以下同様)には、請求項1に記載の本願発明(審決注:本審決の「本願補正発明」に相当する。以下同様)における上述した特別な技術的特徴を想到する動機付けとなる記載については、開示は勿論、示唆もされていない。すなわち、引用文献1には、単に、『電子機器の筐体の内面の全面に、電波吸収体を設ける』ことが記載されているだけであって、この記載からは、『筐体の内面で面積が最大である一つの面に電波吸収体が設けられる』ことは推認できるが、そのような構成であったとしても、『筐体の内面のその他の面(すなわち、全面)にも電波吸収体が設けられる』ことには変わりない。一方、請求項1に記載の本願発明では、『筐体の内面で面積が最大である一つの面のみに電波吸収体が設けられる』ため、『筐体の内面で面積が最大である一つの面以外の面には電波吸収体が設けられない』こととなり、この点において、引用文献1に記載の発明とは相違している。そして、請求項1に記載の本願発明では、筐体の内面で面積が最大である一つの面のみに電波吸収体を設ける構成を有することから、安価に、かつ、電波吸収体を容易に設けることができるという顕著な作用効果を奏するのである。」(「(d)本願発明と引用文献との対比」の項参照)と主張する。
しかしながら、「面積が最大である一つの面のみ」に電波吸収体を設けるという動機付けに関する主張については、上記「(1)相違点1について」で述べたとおりであるから理由がない。また、「面積が最大である一つの面のみ」に電波吸収体を設けることによる作用効果については、電波吸収体をケース内の全面に設ける場合に比べて使用する電波吸収体が少なくて済むので安価となるのは当然であり、設置作業がそれだけ容易になることも当然であるから、審判請求人の主張する作用効果は、当業者が予測できないような格別顕著な作用効果とはいえない。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成18年11月6日付け及び平成21年7月13日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「内面が複数面で構成されている筐体と、
前記筐体内に収容され、無線通信を行う通信部を有する複数の構成ユニットと、
前記筐体の内面で面積が最大である一つの面に設けられ、前記構成ユニット間の無線通信で用いられる電波を吸収する電波吸収体とを備え、
前記電波吸収体の形状は、シート状またはピラミット状である電子機器。」

2.引用例の記載事項
引用例の記載事項及び引用発明は、前記II.2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、「電波吸収体」についての限定事項である「筐体の内面で面積が最大である一つの面のみに設けられ」との事項を「筐体の内面で面積が最大である一つの面に設けられ」とし、前記II.1.の本願補正発明の発明特定事項を拡張したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、発明特定事項を限定したものに相当する本願補正発明が、前記II.3.及び4.に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
そうすると、本願発明が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-01 
結審通知日 2011-07-05 
審決日 2011-07-19 
出願番号 特願2006-243134(P2006-243134)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05K)
P 1 8・ 575- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 飛田 雅之  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 所村 陽一
常盤 務
発明の名称 電子機器とマルチパスフェージング軽減方法  
代理人 稲本 義雄  

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