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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1242736
審判番号 不服2008-21542  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-22 
確定日 2011-09-02 
事件の表示 特願2008- 23486「種子特異的プロモーターおよびその利用」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 5月15日出願公開、特開2008-109946〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯 ・本願発明
本願は,平成15年10月31日に出願した特願2003-373815号の一部を分割出願した特願2006-345624号を,特許法第44条第1項の規定により,平成20年2月4日にさらに分割出願したものであって、同年7月16日付で拒絶査定がなされ(発送同月23日),同年8月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものであり,その請求項1に係る発明は,同年6月23日付で補正がなされた明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める(以下「本願発明1」という。)。

「【請求項1】下記(a)もしくは(b)に記載の、種子においてプロモーター活性を有するDNA。
(a)配列番号:4に記載された塩基配列からなるDNA
(b)配列番号:4に記載された塩基配列に1または数個の塩基が付加、欠失、置換、または挿入された配列からなるDNA」

第2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された,本願の出願日前の2003年(平成15年)1月3日に頒布された国際公開第03/000905号(以下「引用例」という。)には,以下の事項が記載されている。

(1)「この発明は,植物バイオテクノロジー分野のものである。特に,この発明は,イネにおける穀粒の充実プロセスにおいて増産制御され,栄養上区別された異なる代謝経路において活性である発現産物の一連の遺伝子に関する。この発明は,また,該遺伝子を植物穀粒の組成及び栄養的形質を変更するために使用することに関する。」(1頁2?5行)
(2)「適切なプロモーター及び/又は調節配列は,特に,植物の穀粒組織,例えば胚乳又は胚において優位かつ特異的に活性なものを含む。」(3頁18?20行)
(3)「配列番号643-883はプロモーター配列である。」(7頁23行)
(4)「『調節配列』及び『適切な調節配列』は,それぞれ,コード領域の上流(5’非翻訳配列),内部又は下流(3’非翻訳配列)に位置する塩基配列に係るものであり,転写,RNAのプロセッシング又は安定性,または関連するコード配列の翻訳に影響する。調節配列は,エンハンサー,プロモーター,翻訳リーダー配列,イントロン及びポリアデニル化シグナル配列を含む。それらは,天然及び合成の配列や,合成及び天然の配列の組合せを含んでもよい。上記したように,『適切な調節配列』は,プロモーターに限定されない。
『5’非翻訳配列』は,コーディング配列の5’側(上流)に位置する塩基配列のことである。それは,完全にプロセッシングされたmRNAにおいて,開始コドンの上流に存在し,mRNAの当初転写物のプロセッシング,mRNAの安定性又は翻訳効率に影響を与える(…)。」(10頁12?23行)
(5)「『プロモーター』は,通常コーディング配列の上流(5’)にあり,RNAポリメラーゼ及び適切な転写のために必要な因子に認識されることにより,コーディング配列の発現をコントロールする。」(11頁9?11行)
(6)「『組織特異的プロモーター』とは,植物の全ての組織の細胞で発現するのではなく,特定の器官(例えば葉又は種子)又は特定の組織(胚又は子葉)における一またはそれ以上の細胞型,あるいは特定の細胞型(葉の柔組織又は種子の貯蔵細胞)のみにおいて発現する調節プロモーターである。」(12頁下から3行?末行)
(7)「本発明の塩基配列は天然のものとミュータント(変異体)のものの双方を含む。そのような変異体は,所望の活性,すなわち,プロモーター活性,あるいは変異していない塩基配列のオープンリーディングフレームによりコードされる生産物の活性を維持するだろう。」(22頁下から2行?23頁2行)
(8)「特定の具体例において,本発明は,単離された核酸分子であって,植物又は植物細胞中において,結合された核酸セグメントの転写を誘導する植物の塩基配列,例えば,構造蛋白又は調節蛋白をコードするオープンリーディングフレームを含む結合された核酸分子であって,種子特異的または種子優先的に誘導されるものを提供する。特に,本発明の植物の塩基配列は,本質的に種子と比較して栄養組織では低活性であり,胚乳で最も活性が高い。転写誘導活性は,種子の発達と共に増大し,穀粒の充実時またはその間に最大のピークに達する。」(78頁3?9行)
(9)「本発明のプロモーターは,配列番号643-883のいずれかの,50?500又は100?250を含む約25?2000,例えば40?750,60?750,125?750,250?750,400?750,600?750に渡って連続する部分,又はそのオルソログのプロモーターであって,最小限のプロモーター領域を含む部分,を含む。」(78頁20?24行)
(10)「例えば,種子特異的プロモーターは,遺伝子を発現させて大量の蛋白を生産したり,所望の油脂又は蛋白,例えば抗体を発現したり,種子などの栄養価が高める遺伝子を発現したりするために有用であり得る。特に,例えば,配列番号643-883で示された本発明による種子特異的又は種子優先的プロモーターは,配列番号1-461及び501-511の核酸配列で示されるオープンリーディングフレームを発現させるために有用である。」(80頁3?8行)
(11)「特に,本発明により,本発明に係るプロモーターのいずれかを,そのままで又は変更して用いることができることが予想できる。配列番号643-883のような本発明のプロモーターの変異は,潜在的に,植物中導入遺伝子の発現のための要素の利用性を改善することができるであろう。これらの要素への変異導入は,ランダムに行うことができ,変異プロモーター配列は試行錯誤の手続により活性に関してスクリーニングできる。」(80頁14?19行)
(12)「本発明に従ってプロモーターを含むクローンが単離された場合,該クローンの本質的プロモーター部分の境界を決定することが望まれるかもしれない。変異プロモーターを調製するための効率的手段は,プロモーター配列中の推定調節要素の特定に基づくものである。これは,類似の組織特異的に,又は発達において特徴的な仕方で発現することが知られているプロモーターの配列の比較により開始することができる。類似の発現パターンを示すプロモーター間で共有されている配列は,転写因子の結合候補であり,したがって発現パターンをもたらしている要素の見込みがある。これらの推定調節要素の確認は,各推定調節領域の欠失分析と,それに続く,欠失後の各構成物に機能的に連結されたレポーター遺伝子を用いた,欠失構成物の機能分析により行うことができる。そのように,一旦最初のプロモーター配列が提供されれば,その多くの異なる欠失変異体も容易に調製できる。
このような欠失変異体,すなわち本発明のプロモーターの欠失変異体は,ランダムに調製してアッセイすることもできるであろう。この戦略によれば,一連の構成物が調製され,それぞれは,クローン(サブクローン)の異なる部分を含み,それからこれらの構成物は活性についてスクリーニングされる。活性のアッセイに適した手段は,欠失したプロモーター又は欠失した断片を含むイントロンの構成物を,選択又はスクリーニング可能なマーカーに結合させ,マーカー遺伝子を発現する細胞のみを単離するというものである。この方法で,多くの異なる欠失プロモーター構成物であって活性が保持又は亢進されたものが特定される。選択された構成物の比較により,活性を有する最小の断片が特定される。この断片は,外来遺伝子の発現のためのベクター構成物に使用することができるであろう。」(83頁6行?下から3行)
(13)「例1:DNA断片の単離及び配列決定
1.1 ゲノムDNA断片の単離及び配列決定
Oryza sativa L.のジャポニカ種『日本晴』の核からゲノムDNAが単離され,約500bpの断片に切断された。…二重鎖DNAはpSC101に由来するノバルティス社の適切な中程度の増殖ベクター中に結合及びクローニングされた。…ベクターインサートは,PCRで増幅され,MegaBACE配列決定システム(Molecular Dynamics Amersham)を用いて配列決定された。」(123頁14行?124頁12行)
(14)「1.2 cDNA断片の単離及び配列決定
イネcDNAライブラリーの構築 …
イネcDNAライブラリーの配列決定 E.coliコロニーから単離されたプラスミドにクローニングされたcDNAのDNA配列は,通常のジデオキシ配列決定法により決定された。」(124頁19行?125頁4行)
(15)「例2:ジーンチップ(登録商標)の標準プロトコール
ジーンチップ(登録商標)を用いた標準プロトコールにより,植物の遺伝子発現の定量的測定が行われた。」(125頁下から6?4行)
(16)「例4:遺伝子発現プロファイルの特徴付け
4.1 データ分析1
異なる組織及び発展段階のものから抽出されたイネRNAに基づくイネの遺伝子アレイ及びプローブが,チップ上の遺伝子の発現プロファイルを特定するために用いられた。イネアレイは,23000以上の遺伝子(約18000のユニークな遺伝子)又はイネゲノムのほぼ50%を含み,16のオリゴヌクレオチドプローブセットがミスマッチプローブセットを含まない点を除いて,シロイヌナズナジーンチップ(アフィメトリクス社)と同様のものである。したがって,発現レベルは,各遺伝子に対する16プローブセットの強度レベルを解析する内蔵ソフトウエアによって決定される。予め定められた統計基準に適合しない場合は,最強及び最弱のプローブは除外され,残りのセットが平均されて発現値が決定される。最終的な発現値は,以下に示すようにソフトウエアにより正規化される。そのような分析におけるジーンチップの利点は,全体的な遺伝子発現分析,定量的結果,高度に再現可能なシステムを含むこと,及びノーザン分析以上の高い感度を有することである。
4.2 データ分析2
データ分析は,GeneSpring(シリコンジェネティクス社,カナダ)及びAlignAceにより行われた。ジーンチップの配列は,ACのイネコンティグ配列に対してblastサーチされた。最も一致するコンティグが抽出され,それぞれのコンティグに対し5つの遺伝子予測プログラムが実行された。プログラムは,シロイヌナズナ及びトウモロコシについてはGenscan,イネとシロイヌナズナについてはGmhmm,イネについてはFgenesh及びGlimmerが用いられた。推定CDSs(コーディング領域)の全てについて,一番ヒットした推定CDSを選ぶために,ジーンチップの配列に対して再びblastサーチを行った。Perlによるスクリプトが用いられ,推定プロモーター配列である2kbが抽出された。」(131頁下から13行?132頁10行)
(17)「例11:プロモーター分析
例3及び4に記載したジーンチップ分析により,穀粒充実の間に種子組織において発現している遺伝子が明らかになった。関連の転写物の発現プロファイルからプロモーター候補が特定され,それらは配列番号643-883として提示されている。
プロモーター候補はPCRによって得られ,イントロンを含むGUSレポーター遺伝子に融合される。組織化学的及び蛍光化学的なGUSアッセイが,安定に形質転換されたイネ及びトウモロコシ植物において行われ,形質転換体のGUS活性が検出される。」(182頁12行?19行)

また,引用例に記載された配列番号816の塩基配列については,WIPO(世界知的所有権機関)により引用例の国際公開と同日に,その電子データが公開されている(http://www.wipo.int/published_pct_sequences/publication/2003/0103/WO03_000905/WO2003-000905-001.zip)。

上記の記載事項から,引用例には,イネ由来の種子においてプロモーター活性を有するDNAとして,配列番号816の配列(以下,「引用配列」という。)からなるDNAが記載されているものと認められる。
そして,上記の電子データによれば,この引用配列は全1999塩基からなり,その1067?1999位は,本願発明に係る配列番号4の配列(以下,「本願配列」という。)の全940塩基のうちの1?931位に相当している。そしてこの領域においては,引用配列の1382位はCであるが本願配列では対応する塩基が欠失している(315位と316位の間)点と,引用配列の1465位はCであるが本願配列では対応する塩基が欠失している(397位と398位の間)点で相違するほかは,塩基配列は一致している。
また,本願配列のうち,3’側の932?940位の塩基配列は,引用配列には含まれていないが,それらはすべて,開始コドンで始まるコーディング領域(ORF)であって,プロモーター部分ではない。

第3 対比
上記のように,引用配列は,そのうちの本願配列と対応する部分についてみると,本願配列に塩基を2個挿入したものに相当する。
また,本願発明1は,その選択肢(b)に係る部分においては,本願配列からなるDNAのみならず,それに1または数個の塩基が付加,欠失,置換または挿入された配列からなるDNAであってプロモーター活性を有するものをも包含するものである。そして,本願配列は,上記のようにプロモーター活性に関係のないコーディング領域の配列も含んでいるところ,該選択肢(b)は,本願配列において,それに包含される3’側のコーディング領域を除いた部分,すなわち1?931位の部分が,引用配列の対応する部分,すなわち1067?1999位と同一の塩基配列となるものも,本願配列に2個の塩基が挿入された配列からなるDNAであってプロモーター活性を有するものとして含んでいることになる(以下,この態様を「本願発明1’」という。)。
そして,引用配列からなるDNAも,実際に種子で発現している遺伝子の上流側に存在するDNAであり,本願明細書で実際にそのプロモーター活性が確認されている本願配列からなるDNAと高度の相同性を有するものであるから,種子におけるプロモーター活性を有しているものと強く推認される。
そこで,この本願発明1’を,引用例に記載された事項と比較すると,両者は,
種子においてプロモーター活性を有するDNAであって,その包含する配列(本願配列の1?931位からなる部分配列であって,その315位と316位の間,及び397位と398位の間にCを挿入(付加)した配列と,引用配列の1067?1999位からなる部分配列)が共通するDNAである点で一致し,以下の点で相違する。

相異点1:
本願発明1’のDNA配列は,その5’側に,引用配列の1?1066位の塩基配列を含まず,かつ,引用配列の3’末端(1999位)の下流に9塩基からなる塩基配列(本願配列の932?940位)が付加されたものである点

相異点2:
本願発明1’の元となる本願配列のDNAについては,そのプロモーター活性が確認されているのに対し,引用例には,引用配列のDNAについては,一般的なプロモーター活性の確認法についての記載はあるが,具体的にそのプロモーター活性を確認した記載はない点

第4 当審の判断

上記相違点について検討する。

(1)相違点1について
請求人も,本願の原出願の特願2006-345624号の審判請求書の請求の理由(平成20年3月10日付補正書)の(3-4)において,「そもそもプロモーター領域が遺伝子コード領域の上流に位置することは、出願時において既に当業者に周知でありました。」と認めるとおり,引用配列にプロモーター活性に必須の配列が含まれるであろうことは,当業者であれば容易に予想しうることである(なお,引用配列中には,プロモーターに特有なTATAボックスや,種子貯蔵蛋白質のプロモーターにおいて保存されているProlamin box,GCN4モチーフやACGTモチーフ(The Plant Journal, 1998, 14(6), p.673-683を参照。)の存在も認められる。)。
また,種子特異的なプロモーターが有用であることは,引用例にも記載されている(例えば前記記載事項(10))ように周知であり,引用例には,欠失変異体を用いて本質的プロモーター部分の境界を決定する手法や,引用配列を始めとするプロモーター候補について,その活性を確認する方法も記載されている(例えば前記記載事項(12),(17))。
したがって,引用配列について,そのプロモーター活性を確認すること,及び,どの部分がプロモーター部分であるかを決定するために各種の欠失体を製造し,その活性を試験することは,当業者が容易になし得たことである。従って,引用配列について,そのような試験のために,ORFの直近である3’側とは反対側の5’の配列を適宜欠失させることは,当業者であれば容易に想到することである。
また,引用配列は,コーディング領域の5’側に位置する推定プロモーター配列であり,その3’側にコーディング領域の一部分の配列が付加されることは,例えばクローニングの際に使用した制限酵素による切断等により,しばしば起こり得ることであって,この点に特に技術的な困難性はない。
したがって,引用例に記載された事項から,本願発明1’の配列に至ることは当業者であれば容易になし得ることである。

(2)相違点2について
前記したように,引用例には,引用配列のDNAが種子特異的プロモーターの候補として記載され,そのプロモーター活性を確認することやその手法についても記載されているのであるから,その記載どおりに種子特異的なプロモーター活性を確認することは,当業者がきわめて容易に行うことができることである。

(3)本願発明1’の効果について
上記したように,本願発明1’は,プロモーター活性に影響しうる非コーディング領域の配列に関しては,引用配列と比較すると,その5’側の1066塩基が欠失している点で相違している。
しかし,本願明細書の記載をみても,本願配列については,種子においてプロモーター活性を有することは記載されているものの,1066塩基の欠失により予想を超えた顕著な効果が奏されることは記載されていないし,この1066塩基の配列の存在によってプロモーター活性が向上するのか抑制されるのかは本願明細書の記載をみても不明であるから,本願発明1’のプロモーターが引用配列からなるものと比較して顕著な効果を奏するものとは認められない。また,本願発明1’を包含する本願発明は,さらに塩基が付加,欠失,置換又は挿入されたものも包含し,それによってそれらの活性も変化すると考えられるから,なおさら,顕著な効果を奏するものとはいえない。

(4)請求人の主張
ア 請求人は,審判請求書の「請求の理由」において,概ね以下のように主張している。

(ア)引用文献は、各遺伝子の上流2kbの配列がプロモーターであろうとの推定を行なっているに過ぎない。ワトソンほか著「遺伝子の分子生物学(第5版)」にも記載されているように,現実には、真核多細胞生物の転写調節領域は一般に複雑な構造を有しており、単に遺伝子の上流2kbの配列を開示しただけでは、プロモーター配列を開示したことにはならない。
(イ)引用文献1では、開示されたプロモーター配列が実際に機能するか否か、実際に有効に機能する配列の範囲、また、その活性の程度等について、まったく何も明らかにされておらず,また、実際にプロモーターとして利用する際に重要となる時間的、空間的な発現パターンの詳細に関する知見も十分に明らかにされていない。
(ウ)引用文献1は単に、プロモーターを含むと推定される配列を240個も羅列したものに過ぎず、当業者に対して何ら有益な示唆を与えるものではない。また特に、引用配列が有益なプロモーターを含むものであることについては、記載していないことはもちろんのこと、示唆するところもない。
(エ)本願明細書の記載によれば,本願発明に係る10kDaプロラミンプロモーターは、ユビキチンプロモーターの約5.2倍、1.3kb GluB-1プロモーターの約18.5倍という高い活性を示すが,このことは、先行技術からはまったく予測不可能であり、本願発明は、種子特異的プロモーターとして、予想外の優れた効果を有する。

イ 請求人の各主張について判断すると以下の通りである。
(ア)及び(イ)について
前記の相異点についての判断で示したとおり,引用例には引用配列が種子特異的プロモーターとして記載され,そのプロモーター活性を確認することやその手法,及び,欠失変異体を用いて本質的プロモーター部分の境界を決定する手法についても記載されているのであるから,その記載どおりに種子特異的なプロモーター活性を確認したり,その活性部分を特定することは,当業者がきわめて容易に行うことができることである。

(イ)について
時間的、空間的な発現パターンについては,プロモーターによって,そのパターンが様々であることは,当業者にとって技術常識であり,本願の明細書に記載された本願発明1のプロモーター活性の経時的推移が,特に有用なものであるともいえないし,そもそも,本願発明1は,選択肢(b)として,種子におけるプロモーター活性を有する限り,本願配列とは配列が一部相違するものも含むのであるから,そのような変異を有するものが本願配列のものと同様のプロモーター活性の経時的推移を示すということもできず,このような効果があるとしても,それは本願発明1の全体に関するものではないない。

(ウ)について
引用文献に,他に多くのプロモーター候補となる配列が記載されていたり,本願出願日当時において,大量のゲノム情報が存在していたとしても,引用例には,プロモーターの候補となる配列が,それぞれが個別に,塩基配列という化学構造が特定された物質として,当業者が認識でき,製造できるように開示されているのであるから,引用例記載の引用配列を始めとする各配列について,そのプロモーター活性を確認することは当業者が容易に行うことができることである。特に,引用例記載の引用配列について,そのプロモーター活性の確認を困難とするような格別の事情は認められない。

(エ)について
請求人は,本願発明1のプロモーターの活性の高さは,先行技術からまったく予測不可能であり、本願発明1は予想外の優れた効果を有すると主張している。しかし,先行技術と比較した場合に,本願発明1の進歩性の存在を推認するためには,先行技術の奏する効果と比較して本願発明の効果が顕著であることが求められるが,その場合の先行技術の奏する効果とは,先行技術で明らかにされている効果ではなく,先行技術が本来有する(内在する)効果であるというべきである。そもそも,顕著な効果が存在する場合に進歩性の存在を推認するのは,一見,容易と判断される発明であっても,それにより先行技術にはない効果が奏され,それが開示されたことに,技術的な貢献があるためであるからである。
そして,このような顕著な効果があるか否かは,本願の出願時の技術常識を参酌しつつ,本願明細書の記載から判断する必要があるところ,本願明細書の記載からは,本願発明1が引用発明と比較して,5’側の塩基が1066塩基欠失していることにより顕著な効果があるか否かは不明である。
また,仮に本願発明1の効果が引用発明の効果よりも優れたものであったとしても,引用例には引用配列からなるDNAが種子特異的プロモーターの候補として記載され,その欠失変異体についてのプロモーター活性の確認法も記載されているのであるから,当業者であれば,その活性を確認してみようと強く動機づけられるものであり,その結果としてある程度の効果があったとしても,それは進歩性の判断を左右するものではない。

したがって,請求人の主張(ア)?(エ)は,いずれもこれを採用することができない。

(5)小括
以上のとおりであるから,本願発明1’は,引用例に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり,それを包含する本願発明1も,同様に,引用例に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
したがって,本願の請求項1に係る発明は,引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-07 
結審通知日 2011-07-11 
審決日 2011-07-22 
出願番号 特願2008-23486(P2008-23486)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 佑一  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 引地 進
平田 和男
発明の名称 種子特異的プロモーターおよびその利用  
代理人 渡邉 伸一  
代理人 新見 浩一  
代理人 小林 智彦  
代理人 清水 初志  
代理人 井上 隆一  
代理人 大関 雅人  
代理人 刑部 俊  

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