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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09J
管理番号 1242758
審判番号 不服2008-16874  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-03 
確定日 2011-09-08 
事件の表示 特願2001-128357「被着物の加熱剥離方法及び被着物加熱剥離装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年11月 8日出願公開、特開2002-322436〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年4月25日の出願であって、平成19年12月12日付けの拒絶理由通知に対して、平成20年2月6日に意見書及び手続補正書が提出され、同年2月29日付けの拒絶理由通知に対して、同年5月2日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、同年5月2日付けの手続補正については同年5月30日付けで補正却下の決定があり、そして、同日付けで拒絶査定がされた。
これに対して、同年7月3日に審判請求がされ、同年7月30日付けで手続補正書が提出され、平成22年10月26日付けの審尋に対して、同年12月24日付けで回答書が提出されたものである。


第2 平成20年7月30日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[結論]
平成20年7月30日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成20年7月30日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、旧請求項1の「熱膨張性微小球」を「体積膨張率が5倍以上となるまで破裂しない強度を有する熱膨張性微小球」とする補正事項を含むものである。

2.補正の目的
旧請求項1についての補正は、旧請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「熱膨張性微小球」を「体積膨張率が5倍以上となるまで破裂しない強度を有する熱膨張性微小球」に限定するものであって、旧請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件の検討
そこで、本件補正後における請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(この補正が平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものであるか)について検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、平成20年7月30日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「被着物を接着させる層であって体積膨張率が5倍以上となるまで破裂しない強度を有する熱膨張性微小球を含有する熱膨張性粘着層を備えた加熱剥離型粘着シートに貼着した複数個の被着物のうち一部の被着物を、該粘着シートを部分的に加熱する加熱手段により加熱して選択的に剥離することを特徴とする被着物の加熱剥離方法。」

(2)引用刊行物
ア.引用刊行物一覧
刊行物1.特開2000-86994号公報(原査定で引用された引用文献1)
刊行物2.特開平11-3875号公報(原査定で引用された引用文献2)

イ.刊行物1に記載された事項
本願の出願日前に頒布された刊行物1には、以下の事項が記載されている。
・摘示事項1-a:
「【請求項1】 常温において、動的弾性率が50万dyne/cm^(2) 以上500万dyne/cm^(2) 以下の高弾性率アクリル系ポリマーと常温で液体のオリゴマーと熱により発泡する微粒子を配合してなることを特徴とする熱発泡型粘着剤。
【請求項2】 支持基板の片面又は両面に、請求項1に記載の熱発泡型粘着剤からなる粘着剤層を設けたことを特徴とする粘着部材。」
・摘示事項1-b:
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、熱発泡型粘着剤及び粘着部材に関し、特に半導体ウエハーやセラミックシートを切断処理する際に使用されるのに好適な熱発泡型粘着剤及びそれを用いた粘着部材に関する。」
・摘示事項1-c:
「【0002】
【従来の技術】従来より、加熱処理により粘着剤層の接着力を低下もしくは消失させて、使用目的を終えた粘着部材を被着体から容易に剥離することを目的とする熱発泡型粘着部材が様々提案されている。この剥離容易な粘着部材の用途の一つとしては、シリコーンウエハー、セラミックシート又はグリーンシート積層体等のダイシング時の仮固定があり、この部材により、ウエハー等の切断片を歩留りよく、効率的に回収できるというものである・・・ かかる熱発泡型粘着部材に要求される性能は日々高度化し、特に仮固定用部材については、1(審決注:丸数字)タック(初期接着力)に優れ、作業の初期段階から密着性良く被着体を貼り合わせることができて貼り易さに優れ、かつ、被着体の加工時の仮固定に必要な接着力を有すること、2(審決注:丸数字)被着体に損傷を与えることなく固定位置の修正等のための貼り直しができ、また、作業後には、加熱処理によりスムーズに被着体の剥離が可能であること、が必要とされる。」
・摘示事項1-d:
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、様々の被着体、特にシリコーンウエハーやセラミックシート、グリーンシート積層体等の半導体ウエハーを密着性良く貼り合わせることができ、貼り易さに優れると共に、被着体を破損することなく貼り直しでき、しかも加熱処理下において、接着力の低下に優れる剥離性の良好な粘着剤及び前記粘着剤の粘着部材を提供することにある。」
・摘示事項1-e:
「【0010】本発明における熱発泡型微粒子としては、有機溶剤等をマイクロカプセルに封入させたものを用い、粘着剤との分散性がよいものを使用する。この熱発泡型微粒子の粒径は5?40μm程度のものを用いることができる。また、80?180℃の加熱で当初の数十倍に膨張するものが好ましく用いられる。熱発泡型微粒子としては、例えば松本油脂製薬社製マイクロスフェアー(商品名:F-20D、F-30D、F-40D)などの市販品の微粒子を用いることができる。」
・摘示事項1-f:
「【0016】本発明の熱発泡型粘着部材を用いる例として、シリコンウエハーを切断して半導体チップを得る場合や、セラミックシートを切断してコンデンサーチップを得る場合の仮固定用部材が挙げられる。」
・摘示事項1-g:
「【0017】上記の構成により、動的弾性率の高いベースポリマーと常温で液体の低軟化性オリゴマーと熱発泡型微粒子を配合してなる粘着剤及び該粘着剤からなる粘着剤層を設けた粘着部材に関する本発明によれば、タック性に優れ、貼り合わせ時における気泡巻き込みが少なく、貼り易さに優れた粘着剤を提供することができる。また、上記粘着剤及び該粘着剤からなる粘着剤層を設けた粘着部材では、半導体ウエハー等の被着体を切断処理する際に必要な接着力を有し、しかもその接着力は大きすぎないため、被着体の固定位置を修正する様な貼り直しをするときでもそれを破損することなく容易に剥離できる。更に、上記粘着剤及び該粘着剤からなる粘着剤層を設けた粘着部材では、加熱処理によって、熱発泡型微粒子の発泡が起こり、粘着剤表面が凹凸になり、粘着剤表面と被着体表面との接触面積が低下することにより、粘着剤の接着力を低下、又は消失させることが可能となるため、被着体を容易に剥離させることができる。」
・摘示事項1-h:
「【0018】
【実施例】以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下に挙げる実施例に限定されるものではない。
実施例1
アクリル酸エチル-アクリル酸2-エチルヘキシル共重合体(分子量:70万)からなる動的弾性率が25℃で200万dyne/cm^(2) のベースポリマー100重量部に25℃で液状のテルペン-フェノール系オリゴマー(分子量:270、重合度:2、YP-90LL:商品名、ヤスハラケミカル(株)製)10重量部と、熱膨張性樹脂粒子(マイクロスフェアー、F-30D)15重量部と、イソシアネート系架橋剤1重量部を添加し、溶剤としてトルエン50重量部を加え、均一になるように混合調製し、熱発泡型粘着剤のトルエン溶液を得た。次に、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを支持基材とし、該フィルム上に変性ポリエステル(バイロン:商品名、東洋紡績(株)製)層を設けることによりアンカー処理した面上に上記で作製した溶液を塗布し、70℃で約1分間乾燥処理し、その後、粘着剤層の厚みを40μmとなるように調製して、熱発泡型粘着部剤を得た。」
・摘示事項1-i:
「【0019】〔被着体〕シリコンウエハーを被着体とし、該ウエハーの粗面に対する粘着部材の接着力、タック性、貼り易さ、貼り直し易さ、熱処理後の剥離性につき、以下の方法により測定、評価を行った。」
・摘示事項1-j:
「【0020】〔接着力の測定と評価〕実施例、比較例で得た粘着部材につき、被着体に対する常温と加熱処理後における接着力をJIS Z 0237に準拠して測定した。尚、加熱処理条件はオーブン温度110℃で10分間とした。」
・摘示事項1-k:
「【0024】〔熱処理後の剥離性の測定と評価〕実施例、比較例で得た粘着部材を被着体と貼り合わせ、110℃のオーブン中に約10分間放置した後、オーブンからこれを取り出し、手剥がしにより力をかけずに被着体から粘着部材を剥離できるか否かについて、評価した。尚、手剥がしした際に力をかけずに剥離できた場合を「良好」と評価した。」
・摘示事項1-l:
「【0025】上記の評価結果を表1に示した。
【0026】
【表1】

【0027】
表1から分かるように、実施例1又は2のように、動的弾性率の高いべースポリマーと常温で液体の低軟化性オリゴマーと熱発泡型微粒子を配合してなることを特徴とする本発明によれば、タックに優れ、貼り合わせ時に気泡巻き込みがなく、貼り易さに優れると共に良好に貼り直しが行え、熱処理後の剥離性にも優れた粘着剤及び粘着部材を提供することができる。又、本発明によれば、特に、セラミックシートのような表面の粗い被着体に対しても、タックに優れるため、密着性良く貼り合わせが可能であり、貼り易さ、貼り直し易さに優れた粘着剤及び粘着部材を提供することができる。」
・摘示事項1-m:
「【0030】
【発明の効果】本発明は高弾性率ベースポリマーと熱により発泡する微粒子と常温で液体の低軟化性オリゴマーを配合してなる粘着部材を使用したことにより、様々の被着体に適用でき、貼り易さに優れると共に、位置修正等における貼り直しが容易であることから作業性に優れ、しかも加熱処理下に被着体に対する接着力が低下、もしくは消失することにより、被着体を容易に剥離させることができる。特に、半導体ウエハー等を切断処理する際の仮固定用粘着部剤として使用した場合、切断片を効率よく回収できることから、製造工程の高速化及び自動化に役立つ粘着部剤を提供することが可能となる。」

ウ.刊行物2に記載された事項
本願の出願日前に頒布された刊行物2には、以下の事項が記載されている。
・摘示事項2-a:
「【請求項1】 少なくとも一層の収縮性フィルムと粘着剤層から構成されるダイシングテープに前記粘着剤層を介して貼着されたウェハをダイシング工程で多数のチップに切断分離した後、これら多数のチップを保持しているダイシングテープを加熱手段を備えたテーブル上に載置するとともに、このダイシングテープを構成している前記収縮性フィルムを前記加熱手段で収縮させて前記チップと前記接着剤層との接着面積および接着力を小さくし、その後、上方に配置された吸着コレットで所定間隔置きに配列されたチップを一つずつ吸着分離するようにしたことを特徴とする電子部品のダイボンディング方法。」
・摘示事項2-b:
「【請求項4】 前記加熱手段は、前記ダイシングテープの下面に水平方向に移動可能に配置されており、前記吸着コレットと同期して水平方向に移動して小領域を選択的に加熱することを特徴とする請求項1に記載の電子部品のダイボンディング方法。」
・摘示事項2-c:
「【0001】本発明は電子部品のダイボンディング方法・・・に関し、さらに詳しくは半導体チップ等の小型電子部品の製造工程において、ダイシングテープ上のチップを取り外すに際し、従来から行われていた、ピンによる突き上げをを行うことなく、チップを一つずつ吸着分離することを可能にした電子部品のダイボンディング方法・・・に関する。」
・摘示事項2-d:
「【0026】一方、この装置で使用するダイシングテープ20としては、図4に示したように、収縮性フィルム21とその上面に設けられた粘着剤層22と、収縮性フィルム21の下面に接着剤層23を介して貼着された非収縮性フィルム24から構成されるダイシングテープ20を用いるのが好ましい。なお、非収縮性フィルム24を設けず、収縮性フィルム単層からなるものでもよいが、好ましくは複層からなるプラスチックフィルムの基材である。すなわち、1種または2種以上の収縮性フィルムを組み合わせたものであってもよく、また収縮性フィルムと非収縮性フィルムとを組み合わせたものであってもよい。」
・摘示事項2-e:
「【0042】なお、上記第1の実施例および第2の実施例において、内周側ヒータテーブル7全体を加熱するようにしたが、内周側ヒータテーブル7を選択的に部分的に加熱することによって、ダイシングテープ17を加熱して収縮させて、チップ16を部分的にダイシングテープ20より剥離しやすくして、吸着コレット19にて吸着することも可能である。」
・摘示事項2-f:
「【0043】図8は、本発明のダイボンディング装置の第3の実施例の断面図である。この実施例のダイボンディング装置では、外周側ヒータテーブル3を省略して、固定テーブル2のみとするとともに、内周側ヒータテーブル7を、チップ16の一つの寸法の大きさとほぼ同じ小型のヒータテーブル7’としてあり、このヒータテーブル7’が左右上下動可能となっている。これにより、ヒータテーブル7’によって加熱して収縮させて剥離すべきチップ16の位置に、このヒータテーブル7’と同期して吸着コレット19がその上方に移動して、吸着コレット19によって、剥離しやすくなったチップ16を個々に吸着することができるようになっている。」
・摘示事項2-g:
「【0044】これにより、第1の実施例と比較して、部分的にダイシングテープ17を加熱して収縮させて、チップ16をを剥離しやすくして、個々にチップ16を吸着コレット19にて吸着できるので、全体を収縮した場合に比較して、配置の乱れに起因するチップの吸引ミスが低減することになる。」

エ.刊行物1に記載された発明
刊行物1には、従来技術として、「加熱処理により粘着剤層の接着力を低下もしくは消失させて、使用目的を終えた粘着部材を被着体から容易に剥離することを目的とする熱発泡型粘着部材」の用途としては、「シリコーンウエハー、セラミックシート又はグリーンシート積層体等のダイシング時の仮固定があり」、その作業の初期段階で、「被着体を貼り合わせ」、「被着体の加工時の仮固定」をし、「作業後には、加熱処理によりスムーズに被着体の剥離」をする(摘示事項1-c)ことが記載されており、この記載を書き換えると、
「シリコーンウエハー、セラミックシート又はグリーンシート積層体等のダイシング時の仮固定において、
熱発泡型粘着部材を、
作業の初期段階で、半導体ウエハーなどの被着体を貼り合わせ、被着体の加工時には、被着体を仮固定し、
作業後は、加熱処理により、粘着剤層の接着力を低下もしくは消失させて、半導体ウエハーなどの被着体を熱発泡型粘着部材から剥離させる」ことについて記載されている。
また、刊行物1には、熱発泡型粘着部材としては、熱発泡型微粒子をポリマーに配合してなる熱発泡型粘着剤からなる粘着剤層を支持基板上に設けた熱発泡型粘着部材が記載され(摘示事項1-a)、被着体の加工としては、半導体ウエハーやセラミックシートの切断処理が例示され(摘示事項1-b)、本発明の熱発泡型粘着部材を用いる例として、シリコーンウエハーを切断して半導体チップを得る場合や、セラミックシートを切断してコンデンサーチップを得る場合の仮固定部材が挙げられている(摘示事項1-f)。そして、「ダイシング」は「切断処理」のことである。

これらの記載事項から、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「半導体ウエハーやセラミックシートのダイシング時の仮固定において、
熱発泡型微粒子をポリマーに配合してなる熱発泡型粘着剤からなる粘着剤層を基板上に設けた熱発泡型粘着部材により、
作業の初期段階では、半導体ウエハーなどの被着体を貼り合わせ、被着体の切断処理時には、被着体を熱発泡型粘着部材に仮固定し、
作業後は、加熱処理により、粘着剤の接着力を低下、又は消失させて、
半導体ウエハーなどの被着体を、熱発泡型粘着部材から剥離させる方法。」

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「熱発泡型微粒子」として、具体的には「熱膨張性樹脂粒子」を使用している(摘示事項1-h)から、本件補正発明の「熱膨張性微小球」に相当する。
また、引用発明「半導体ウエハーなどの被着体」、「熱発泡型粘着剤からなる粘着剤層」、「熱発泡型粘着部材」は、それぞれ、本件補正発明の「被着物」、「熱膨張性粘着層」、「加熱剥離型粘着シート」に相当する。
よって、引用発明の「熱発泡型微粒子をポリマーに配合してなる熱発泡型粘着剤からなる粘着剤層を基板上に設けた熱発泡型粘着部材」は、本件補正発明の「被着物を接着させる層であって熱膨張性微小球を含有する熱膨張性粘着層を備えた加熱剥離型粘着シート」に相当する。
引用発明の「半導体ウエハーなどの被着体」は、切断処理された後には、加熱剥離型粘着シートに複数個の被着体が仮固定されることになる。この状態は、本件補正発明の「複数個の被着物」が「加熱剥離型粘着シート」に貼着した状態に相当する。
引用発明において、「加熱処理」により半導体ウエハーなどの「被着体」を、「熱発泡型粘着部材」から「剥離させる」に際しては、具体的に、オーブン(加熱手段)で加熱する(摘示事項1-j、1-k)から、引用発明の「加熱処理により、半導体ウエハーなどの被着体を、熱発泡型粘着部材から剥離させる方法」は、本件補正発明の「加熱剥離型粘着シート」を「加熱する加熱手段により加熱して」、「剥離する」ことを特徴とする「被着物の加熱剥離方法」に相当する。
そうすると両者は、
「被着物を接着させる層であって熱膨張性微小球を含有する熱膨張性粘着層を備えた加熱剥離型粘着シートに貼着した複数個の被着物を、該粘着シートを加熱する加熱手段により加熱して剥離することを特徴とする被着物の加熱剥離方法」
において一致するが、次の点で相違する(以下、「相違点1」、「相違点2」という。)。

相違点1
「熱膨張性微小球」について、
本件補正発明においては、体積膨張率が5倍以上となるまで破裂しない強度を有するものであるのに対して、
引用発明においては、体積膨張の破裂強度について限定されていない点

相違点2
「被着物の加熱剥離方法」について、
本件補正発明においては、「加熱剥離型粘着シートに貼着した複数個の被着物のうち一部の被着物を、該粘着シートを部分的に加熱する加熱手段により加熱して選択的に剥離する」ものであるのに対して、
引用発明においては、「加熱剥離型粘着シート」を「加熱する加熱手段により加熱する」ものの、加熱手段が「粘着シートを部分的に加熱する加熱手段」ではなく、「加熱剥離型粘着シートに貼着した複数個の被着物のうち一部の被着物を」、「選択的に剥離する」ものではない点

(4)相違点についての検討
ア.相違点1について
引用発明の「熱発泡型微粒子(熱膨張性微小球)」として、刊行物1には、「80?180℃の加熱で当初の数十倍に膨張するものが好ましく用いられる」ことが記載され(摘示事項1-e)、これは、数十倍まで膨張しても破裂しないことを意味する。
そうすると、引用発明において、引用発明の「熱発泡型微粒子(熱膨張性微小球)」として、刊行物1の記載に基づいて、当初の数十倍に膨張するもの、すなわち、本件補正発明の「熱膨張性微小球」のような「体積膨張率が5倍以上となるまで破裂しない強度を有する」ものを用いることは、当業者が容易に想到し得ることにすぎない。

イ.相違点2について
刊行物2には、「収縮性フィルムと粘着剤層から構成されるダイシングテープに前記粘着剤層を介して貼着されたウェハをダイシング工程で多数のチップに切断分離した後、これら多数のチップを保持しているダイシングテープを加熱手段を備えたテーブル上に載置するとともに、このダイシングテープを構成している前記収縮性フィルムを前記加熱手段で収縮させて前記チップと前記接着剤層との接着面積および接着力を小さくし」、「チップを一つずつ吸着分離するようにした」方法(摘示事項2-a)であって、その加熱手段としては、
「前記ダイシングテープの下面に水平方向に移動可能に配置されており、前記吸着コレットと同期して水平方向に移動して小領域を選択的に加熱する」もの(摘示事項2-b)を使用できることが記載されている。
そして、「小領域を選択的に加熱する」を加熱手段として使用する具体例として、「内周側ヒータテーブル7を選択的に部分的に加熱することによって、ダイシングテープ17を加熱して収縮させて、チップ16を部分的にダイシングテープ20より剥離しやすくし」(摘示事項2-e)、あるいは、「内周側ヒータテーブル7を、チップ16の一つの寸法の大きさとほぼ同じ小型のヒータテーブル7’としてあり、このヒータテーブル7’が左右上下動可能となっている。これにより、ヒータテーブル7’によって加熱して収縮させて剥離すべきチップ16の位置に、このヒータテーブル7’と同期して吸着コレット19がその上方に移動して、吸着コレット19によって、剥離しやすくなったチップ16を個々に吸着することができるようになっている。」(摘示事項2-f)と記載されるように、被着物である複数の「チップ」のうち、吸着分離(剥離)する「チップ」に対応するダイシングテープ(加熱剥離型粘着シート)を加熱するヒータテーブル(加熱手段)によって選択的に加熱して、複数のチップのうち、吸着分離する「チップ」を選択的に剥離しやすくすることが記載されている。
一方、刊行物2に記載される「ダイシングテープ」(加熱剥離型粘着シート)は、「図4に示したように、収縮性フィルム21とその上面に設けられた粘着剤層22と、収縮性フィルム21の下面に接着剤層23を介して貼着された非収縮性フィルム24から構成されるダイシングテープ20を用いる」と記載され(摘示事項2-d)、本件補正発明あるいは引用発明の「被着物を接着させる層であって熱膨張性微小球を含有する熱膨張性粘着層を備えた加熱剥離型粘着シート」とは、加熱剥離時における接着力の低下の発現プロセスが異なるものであるが、ともに、加熱により「粘着剤の接着力を低下」(接着層の接着力を小さく)して、被着物(チップ)を剥離しやすくするものであるから、刊行物2と引用発明との間にはその機能に共通性があり、このことは、加熱による粘着シートの接着力の低下に関する刊行物1、2の記載事項から当業者が自明の事項として導き出すことができたといえる。
また、加熱剥離型粘着シートに貼着した複数の被着物の一部を、該シートの一部を部分的に加熱して、選択的に剥離するとの機能は、加熱による粘着力の低下の発現プロセスにかかわらず、同様にその機能が発揮されることも当業者にとって自明のことと認められる。
ところで、刊行物2に「半導体チップ等の小型電子部品の製造工程において、・・・チップを一つずつ吸着分離することを可能にした電子部品のダイボンディング方法」と記載される(摘示事項2-c)ように、半導体チップの製造において、切断後の複数のチップから一つずつチップを剥離する方法の提供は、同じく半導体チップの製造工程に関する引用発明においても、共通する技術課題の一つであり、引用発明においても当然考慮される自明の技術課題であったと認められる。
してみると、引用発明において、被着物を加熱剥離型粘着シートから剥離するに際して、切断された個々の被着物を一つずつ剥離するとの半導体チップの製造工程に共通する自明の技術課題を解決するために、加熱によって粘着シートから被着物を剥離しやすくする点で引用発明と機能が共通する刊行物2の「加熱剥離型粘着シートを部分的に加熱する加熱手段により加熱して」、「加熱剥離型粘着シートに貼着した複数個の被着物のうち一部の被着物を」、「選択的に剥離する」との構成を採用し、本件補正発明のように構成することは、当業者が容易に想到し得たことと認められる。

(5)本件補正発明の効果
平成20年7月30日付けの手続補正で補正された本願明細書には、「本発明の方法によれば、熱膨張性微小球を含有する熱膨張性層を備えた加熱剥離型粘着シートから被着物を加熱により剥離する際、複数個の被着物のうち所望する一部の被着物のみを簡単に且つ精度よく剥離でき、残りの被着物については粘着シートに貼着した状態を保持できる。」と記載されている(段落番号[0059])。
しかしながら、この「複数個の被着物のうち所望する一部の被着物のみを簡単に且つ精度よく剥離でき、残りの被着物については粘着シートに貼着した状態を保持できる」という効果は、刊行物2の剥離する被着物に対応する加熱剥離型シートを部分的に加熱する加熱手段によって選択的に加熱して、複数の被着物のうち、剥離する被着物を選択的に剥離しやすくするとの上記記載(すなわち、剥離対象以外の被着物は剥離しにくいので粘着シートに保持されたままといえる)からして、刊行物2に記載の加熱手段を引用発明に適用した構成によって、当然に得られるものであって、当業者が予測できる自明の効果にすぎない。

(6)請求人の主張
請求人は審判請求書及び審尋に対する回答書において、以下ア.?エ.のような主張をしている。
ア.「本願発明の目的は、熱膨張性層を備えた加熱剥離型粘着シートから被着物を加熱により剥離する際、複数個の被着物のうち所望する一部の被着物のみを簡単に剥離でき、残りの被着物は粘着シートに貼着した状態で保持できる被着物の加熱剥離方法を提供することであるのに対し、引用文献1(審決注:刊行物1)に記載の発明の目的は、半導体ウェハーの貼り易さに優れると共に、被着体を破損することなく貼り直しができ、しかも加熱処理下において、接着力の低下に優れる剥離性の良好な粘着部材を提供することであり、両者は明確に相違します。
引用文献1記載の発明は、作業効率や切断片の回収効率の向上、製造工程の高速化・自動化を追求することを目標としており(段落0002、0003、0030)、複数個の被着物のうち所望する一部の被着物のみを簡単に剥離し、残りの被着物は粘着シートに貼着した状態で保持するという課題は示唆すらありません。」

イ.「引用文献1に記載の発明は、熱発泡型粘着剤からなる粘着剤層を設けた粘着部材ですので、引用文献2(審決注:刊行物2)に記載の発明のように全体を収縮した場合に生じる配置の乱れに起因するチップの吸引ミス(段落0044)という不具合は生じません。・・・引用文献1に記載の発明において、全体を収縮した場合に生じる配置の乱れに起因するチップの吸引ミスを無くすために部分的に加熱して収縮性フィルムの一部のみを収縮させる引用文献2に記載の技術を適用する動機付けは全くありません。
さらには、チップを1つずつ部分的に加熱してピックアップする作業を繰り返すことは、引用文献1記載の発明の課題、効果である作業効率・切断片の回収効率の向上、製造工程の高速化及び自動化に反することになるので、採用しようとは思いません。
また、引用文献2には、全体を収縮した場合に生じる配置の乱れに起因するチップの吸引ミスを低減するために、部分的にダイシングテープを加熱して収縮させることは記載されていますが、本願発明のような、複数個の被着物のうち所望する一部の被着物のみを剥離し、残りの被着物は粘着シートに貼着した状態を保持するという課題は全くありません。すなわち、引用文献2では、部分的に加熱してその部位のチップを剥離するという操作を順次繰り返して全てのチップを吸引ミスすることなく回収することを想定しており、特定の所望するチップのみを選択的に回収し、所望しない残りのチップは粘着シートに貼着したままの状態に保持しておくということは想定していません。」
「引用文献2に記載の方法において、ダイシングテープを部分的に加熱するは、ダイシングテープ全体を加熱する方法ではチップの配置が乱れ、それに起因してチップの吸引ミスが生じるという問題を解決するためであります。より詳しくは、熱収縮性フィルムの延伸の度合いはフィルム全体で均一ではなく、しかも収縮は水平方向に起こるので、切断後のダイシングテープの全体を加熱すると、各チップは縦横整然と並ぶことは少なく、配置が乱れ、該配置の乱れに起因してチップの吸引ミスが生じます。これに対し、切断後のダイシングテープを部分的に加熱すると、特定の断片化された積層体「チップ/粘着剤層/熱収縮性フィルム」のうち、まず断片化された熱収縮性フィルムが収縮し、該収縮に同伴して該熱収縮性フィルム上の断片化された粘着剤層が変形しますが、他の断片化された積層体「チップ/粘着剤層/熱収縮性フィルム」の熱収縮性フィルム及び粘着剤層は熱収縮、変形しないので、全体を収縮させた場合と比較して、配置の乱れに起因するチップの吸引ミスが低減されます(段落0042?0044、図8)。
一方、引用文献1に記載の発明では、上記のように剥離の作用機構が異なり、水平方向に収縮することがないので、引用文献2に記載の発明のような熱収縮性フィルムの収縮に伴うチップの配置の乱れという問題は生じません。従って、ダイシングテープを部分的に加熱する動機付けは生じません。仮に、引用文献1に記載の発明において、チップを1つずつ部分的に加熱してピックアップする作業を繰り返すことをすれば、作業が煩雑化し、引用文献1記載の発明の作用効果である作業効率、製造工程の高速化及び自動化(段落0030)に反することになるので、当業者はそのような操作をむしろ敬遠します。」

ウ.「引用文献2に記載の加熱収縮型の粘着シートを用いる方法においても、ダイシングテープ全体を加熱する場合はおろか、例え部分的にダイシングテープを加熱したとしても、個々のチップの高さレベルは同一であります。このため、所望する切断片を回収するには上方に垂直に上げざるを得ず、ピックアップ操作の自由度及び安全性が低いという欠点を有します。
また、引用文献2に記載の方法では、粘着剤層だけでなく収縮性フィルム自身にも切り込みを入れる必要があります。収縮性フィルムに切り込みを入れないと、収縮している周囲のチップの位置ズレが起こります(図5、図6参照)。また、粘着剤層の粘着力を低下させた後でなければ、収縮時にチップに負荷がかかりチップの割れ等の原因にもなるため、通常、粘着剤層を紫外線硬化型粘着剤層とし、熱収縮させる前に紫外線を照射して該粘着剤層の粘着力を低下させる必要があります(段落0034)。
これに対し、本願発明では、粘着層の加熱膨張により被着物(半導体ウエハー切断片等)を剥離させるので、粘着層のみに切り込みを入れれば充分で、基材フィルムにまで切り込みを入れる必要はありません。また、紫外線照射の必要はなく一度の加熱で粘着層の必要な部分のみの粘着力をゼロとすることができ、容易にチップのピックアップが可能となります。もちろん、部分加熱している周囲のチップは粘着層に貼着したままですので、位置ズレ等も起きません。」

エ.「引用文献1に記載の発明と引用文献2に記載の発明において、ダイシングテープの機能は共通するといっても、その機能発現に到る作用機構が全く異なります。しかも、引用文献2に記載の発明において、ダイシングテープを部分的に加熱する方法を採用する理由(解決すべき課題)が引用文献1には存在しません。従って、引用文献1に記載の発明に引用文献2に記載の技術を適用することは困難であります。
すなわち、引用文献1に記載の発明では、加熱処理により熱発泡型微粒子の発泡が起こり粘着部材の粘着剤表面が凹凸になり、粘着剤表面と被着体表面との接触面積が低下することにより粘着剤の接着力が低下又は消失して被着体が剥離します(段落0017)。
これに対し、引用文献2に記載の発明では、加熱により、チップと共に切断されたダイシングテープを構成する熱収縮性フィルムを収縮させ、該収縮に同伴して熱収縮性フィルム上の粘着剤層を変形させ、チップと粘着剤層との接着面積を減少させ、チップを剥離しやすくします(段落0033、図6)。
すなわち、前者の作用機構は、熱発泡型微粒子の発泡→粘着剤層表面の凹凸→接触面積の低下という順序でチップの剥離を生じさせるものであるのに対し、後者の作用機構は、チップと共に切断された熱収縮性フィルムの収縮→チップと共に切断された粘着剤層の変形→接着面積の減少という順序でチップの剥離を生じさせるものであり、両者は最初のドライビングフォースが「発泡」と「収縮」で全く異なります。」

上記請求人の主張について検討する。
主張ア.は要約すると、刊行物1に記載の発明の目的は、作業効率や切断片の回収効率の向上、製造工程の高速化・自動化を追求することを目標としており、複数個の被着物のうち所望する一部の被着物のみを簡単に剥離し、残りの被着物は粘着シートに貼着した状態で保持するという課題は示唆されていないとの趣旨と認められる。
刊行物1に、複数個の被着物のうち所望する一部の被着物のみを剥離し、残りの被着物は粘着シートに貼着した状態で保持するという課題の記載がないことは請求人の主張のとおりであるが、引用発明のような半導体チップの製造工程においては、刊行物2に記載されるように、切断されたチップを1つずつ吸着分離(剥離)する方法を提供するとの半導体製造工程に共通する自明の技術課題があり、引用発明においても、このような技術課題を考慮すべきことは、上記(4)イ.で述べたとおりである。
よって、上記主張ア.は採用することができない。

主張イ.は要約すると、刊行物2記載の発明は、配置の乱れに起因するチップの吸引ミスが低減されるのに対し、引用発明では、剥離の作用機構が異なり、水平方向に収縮することがないので、刊行物2記載の発明のような熱収縮性フィルムの収縮に伴うチップの配置の乱れという問題は生じず、引用発明に刊行物2の加熱手段を適用する動機付けがない、
引用発明において、チップを1つずつ部分的に加熱してピックアップする作業を繰り返すことをすれば、作業が煩雑化し、引用文献1記載の発明の作用効果である作業効率、製造工程の高速化及び自動化との引用発明の目的に反することになるので、引用発明と刊行物2を組み合わせることは当業者は行わない、
さらに、刊行物2記載の発明は、部分的に加熱してその部位のチップを剥離するという操作を順次繰り返して全てのチップを吸引ミスすることなく回収することを想定しており、特定の所望するチップのみを選択的に回収し、所望しない残りのチップは粘着シートに貼着したままの状態に保持しておくものではないとの理由から、
刊行物2記載の発明を引用発明に適用できないとの趣旨と認められる。
請求人が主張するように、刊行物2には、配置の乱れに起因するチップの吸引ミスが低減されるとの効果があることが記載されてはいる(摘示事項2-g)が、刊行物2には、剥離するチップに対応する部分的な加熱手段で複数のチップが貼着したシートを部分的に加熱して、選択したチップを剥離することも記載されている(摘示事項2-e、2-f)。そして、これらの記載から、剥離対象のチップが剥離しやすくなり、その他のチップは依然として加熱剥離型粘着シートに保持されることは当業者にとって自明のことであるから、配置の乱れに起因するチップの吸引ミスが低減されるとの効果の有無にかかわらず、剥離対象のチップを他よりも剥離しやすくするために、引用発明において、刊行物2記載の部分的に加熱剥離型粘着シートを加熱する加熱手段を用いることは当業者にとって容易に想到し得たことと認められる。
また、刊行物1には、作業効率や切断片の回収効率の向上、製造工程の高速化・自動化の追求もその効果として記載されているが、刊行物1のこれらの記載は、特定の粘着剤からなる粘着材層を設けた粘着部材を使用することによって、貼り易さに優れ、貼り直しが容易、加熱処理で容易に被着体を剥離できることから、切断片を効率的に回収でき、製造工程の高速化及び自動化に役立つことが記載されている(摘示事項1-d、1-f、1-i、1-l、1-m)にすぎない。してみると、これらの記載は、刊行物1の特定の粘着剤による粘着力の効果を製造工程の効率化、高速化、自動化に生かすことができるという趣旨で記載されたものであって、切断片の剥離工程を繰り返すことは作業工程が煩雑化するので避けるべきであるとの趣旨をこの記載からくみ取ることはできないし、また、引用発明において、切断したチップを一つずつ剥離する工程を採用することは、チップへの加熱剥離型粘着シートの粘着性、加熱剥離性に関する性能を向上させるとの引用発明の技術課題と何ら矛盾するものではないから、刊行物1の上記記載が引用発明に刊行物2に記載の加熱手段を適用することの阻害要因にはならない。
さらに、刊行物2に記載の発明が、「部分的に加熱してその部位のチップを剥離するという操作を順次繰り返して全てのチップを吸引ミスすることなく回収することを想定するもの」で、「特定の所望するチップのみを選択的に回収し、所望しない残りのチップは粘着シートに貼着したままの状態に保持しておくものではない」としても、本件補正発明は「加熱剥離型粘着シートに貼着した複数個の被着物のうち一部の被着物を、該粘着シートを部分的に加熱する加熱手段により加熱して選択的に剥離する」との構成要件を含むのみであって、「部分的に加熱してその部位のチップを剥離するという操作」は、この構成要件を満たすものである以上、請求人の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかないものといわざるを得ない。
よって、主張イも採用することができない。

主張ウ.は要約すると、刊行物2の発明では、個々のチップの高さレベルは同一で、所望する切断片を回収するには上方に垂直に上げざるを得ず、ピックアップ操作の自由度及び安全性が低いという欠点、粘着剤層だけでなく収縮性フィルム自身にも切り込みを入れる必要があり、粘着剤層の粘着力を低下させた後でなければ、収縮時にチップに負荷がかかりチップの割れ等の原因にもなるため、通常、粘着剤層を紫外線硬化型粘着剤層とし、熱収縮させる前に紫外線を照射して該粘着剤層の粘着力を低下させる必要があるのに対して、本件補正発明では、粘着層の加熱膨張により被着物(半導体ウエハー切断片等)を剥離させるので、粘着層のみに切り込みを入れれば充分で、刊行物2のように、基材フィルムにまで切り込みを入れる必要はなく、紫外線照射の必要はなく一度の加熱で粘着層の必要な部分のみの粘着力をゼロとすることができ、容易にチップのピックアップが可能となること、部分加熱している周囲のチップは粘着層に貼着したままで、位置ズレ等も起きないとの、刊行物2記載の発明に比べて格別の効果があるという趣旨と認められる。
まず、引用発明において、刊行物2に記載される部分的に粘着シートを加熱する加熱手段を採用すると、その構成は、「熱発泡型微粒子をポリマーに配合してなる熱発泡型粘着剤からなる粘着剤層を基板上に設けた熱発泡型粘着部材」を部分的に加熱して、複数の被着物の一部を選択的に剥離するとの構成となる。そして、そのような構成においては、請求人が主張するような、刊行物2記載の収縮性フィルムを用いた加熱剥離型粘着シートに起因する、ピックアップ操作の自由度及び安全性が低いという欠点、粘着剤層だけでなく収縮性フィルム自身にも切り込みを入れる必要性、粘着剤層を紫外線硬化型粘着剤層とし、熱収縮させる前に紫外線を照射して該粘着剤層の粘着力を低下させる必要性といった問題点がそもそも生じないことは明らかである。
したがって、請求人が主張するような本件補正発明の効果は、引用発明に刊行物2の加熱手段を採用したことによって、その構成から当然に得られる効果というほかはなく、当業者が十分予測し得るものであって、格別顕著な効果であるとは認められない。

主張エ.は要約すると、引用発明と刊行物2記載の発明において、ダイシングテープの機能は共通するといっても、その機能発現に到る作用機構が全く異なり、刊行物2に記載の発明において、ダイシングテープを部分的に加熱する方法を採用する理由(解決すべき課題)が刊行物1には存在しないので、引用発明に刊行物2に記載の技術を適用することは困難であるとの趣旨と認められる。
刊行物2と引用発明における粘着シートの粘着性低下の機能発現に至る作用機構が異なることは、請求人の主張のとおりであるが、上記(4)イ.で述べたように、加熱による加熱剥離型粘着シートの粘着性を低下させるという機能の点で見ると、刊行物2に記載の発明と引用発明との間には共通性があり、このことは、刊行物1、2の記載事項から当業者が自明の事項として導き出すことができたといえる。また、部分加熱により、加熱剥離型粘着シートの粘着力を低下させて、貼着した被着物の一部を選択的に剥離するとの機能は、加熱による粘着力の低下の発現プロセスにかかわらず、同様に発現する機能であることも当業者に自明のことである。
してみると、粘着シートの粘着性低下の機能発現に至る作用機構が異なることが、引用発明において、刊行物2に記載の加熱手段を適用することの阻害要因とはならない。
また、刊行物1に部分的に加熱する方法を採用する理由(解決すべき課題)がないとの主張については、上記主張ア.に対する検討で述べたとおり、引用発明においても、刊行物2に記載されるように、切断されたチップを1つずつ剥離する方法を提供するとの半導体製造工程に共通する自明の技術課題があり、引用発明においても、このような技術課題は当然に考慮されるべき事項と認められる。
よって、主張エ.もこれを採用することができない。

(7)小括
以上検討したところによれば、本件補正発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

4.補正却下の決定のむすび
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 当審の判断
1.本願発明
平成20年7月30日付けの手続補正は上記のとおり却下された。また、請求人は、同年5月30日付けでなされた同年5月2日付け手続補正についての補正却下の決定に対しては、審判請求において不服を申し立てていない。
してみると、本願発明は、同年2月6日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、下記のとおりのものである。
「被着物を接着させる層であって熱膨張性微小球を含有する熱膨張性粘着層を備えた加熱剥離型粘着シートに貼着した複数個の被着物のうち一部の被着物を、該粘着シートを部分的に加熱する加熱手段により加熱して選択的に剥離することを特徴とする被着物の加熱剥離方法。」

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願請求項1に係る発明は、先の拒絶理由で引用した引用文献1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないという理由を含むものである。

3.引用刊行物
前記「第2の3(2)」の「刊行物1(特開2000-86994号公報)」は、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1である。
前記「第2の3(2)」の「刊行物2(特開平11-3875号公報)」は、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2である。

刊行物1、2の記載事項は、前記「第2の3(2)」の「イ?ウ」に記載したとおりである。
刊行物1に記載された発明は、前記「第2の3(2)」の「エ」に記載したとおりである。

4.対比・検討
本願発明1は、前記「第2の3(1)」に記載した本件補正発明における、「熱膨張性微小球」の限定事項である「体積膨張率が5倍以上となるまで破裂しない強度を有する」という構成がないものである。
そうすると、本願発明1の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本件補正発明は、前記「第2の3(独立特許要件の検討)」に記載したとおり、刊行物1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、同様の理由により、刊行物1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.まとめ
したがって、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。
そして、本願は、その余の請求項に係る発明を検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-08 
結審通知日 2011-07-12 
審決日 2011-07-25 
出願番号 特願2001-128357(P2001-128357)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C09J)
P 1 8・ 121- Z (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松原 宜史中島 庸子  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 細井 龍史
木村 敏康
発明の名称 被着物の加熱剥離方法及び被着物加熱剥離装置  
代理人 後藤 幸久  

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