• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2009800029 審決 特許
無効2007800138 審決 特許
無効2010800100 審決 特許
無効2012800042 審決 特許
無効200580069 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61K
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
管理番号 1243622
審判番号 無効2010-800191  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-10-20 
確定日 2011-09-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第3547755号発明「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.本件発明
本件特許第3547755号の請求項1?9に係る発明(1995年8月7日(優先権主張1994年8月8日 スイス)国際出願、平成16年4月23日設定登録)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された次のとおりのものと認める(以下、請求項1?9の各発明を、それぞれ、「本件発明1」?「本件発明9」という。)。

【請求項1】 濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液からなり、医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである、腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。
【請求項2】オキサリプラティヌムの濃度が約2mg/ml水であり、水溶液のpHが平均値約5.3である、請求項1記載の製剤。
【請求項3】オキサリプラティヌム水溶液が+74.5°ないし+78.0°の範囲の比旋光度を持つ、請求項1または請求項2記載の製剤。
【請求項4】すぐ使用でき、密封容器に入れられたオキサリプラティヌム水溶液の形である、請求項1ないし3の何れか1項記載の製剤。
【請求項5】容器がオキサリプラティヌム50ないし100mgの単位有効用量を含み、それが注入で投与できることを特徴とする、請求項4記載の製剤。
【請求項6】容器が医薬用ガラスバイアルであり、少なくともバイアルの内側に広がる表面が上記溶液に不活性な栓で閉じられていることを特徴とする、請求項4または請求項5記載の製剤。
【請求項7】上記溶液と上記栓の間の空間に不活性ガスが充填されていることを特徴とする、請求項6記載の製剤。
【請求項8】上記容器が輸液用可撓性袋またはアンプルであることを特徴とする、請求項4または請求項5記載の製剤。
【請求項9】容器が注射用マイクロポンプを持つ輸液装置の構成部分であることを特徴とする、請求項4または請求項5記載の製剤。

2.請求人の主張
請求人は、「特許第3547755号特許は、これを無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、以下の無効理由a、b(b-1?b-3)、c、dにより、本件特許は無効とされるべきであると主張し、証拠方法として下記の書証を提出している。

(無効理由a)
本件発明1?9は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、その特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。

(無効理由b-1)
本件発明1?9は、甲第1?5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。

(無効理由b-2)
本件発明1?9は、甲第1、3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。

(無効理由b-3)
本件発明1?9は、甲第1?3、8号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。

(無効理由c)
発明の詳細な説明が、当業者が本件発明1?9の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきである。

(無効理由d)
本件発明1?9は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきである。

(証拠方法)
甲第1号証:CANCER RESEARCH 49、June 15、1989、第3362?3368頁
甲第2号証:DRUGS OF THE FUTURE Vol.14、No.6、1989、第529?532頁
甲第3号証:特開平6-211883号公報
甲第4号証:表解注射薬の配合変化、株式会社薬業時報社、昭和61年11月10日改訂3版、第3頁
甲第5号証:医薬品ノート、日本医事新報社出版局、昭和54年4月15日、第58?79頁
甲第6号証:平成13年(行ケ)第67号判決文全文
甲第7号証:平成17年(行ケ)第10189号判決文全文
甲第8号証:1安定性試験ガイドラインについて、薬務公報第1634号、平成6年9月11日、第(1011)7?(1017)13頁
甲第9号証:平成17年(行ケ)第10042号判決文全文

3.被請求人の主張
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、請求人が主張する無効理由a、b(b-1?b-3)、c、dはいずれも成り立たないと主張し、証拠方法として下記の書証を提出している。

(証拠方法)
乙第1号証:平成22年(行ケ)第10122号判決文全文
乙第2号証:WO94/12193号
乙第3号証:米国特許第6673805号明細書
乙第4号証:米国特許出願公開2006/0063833号明細書
乙第5号証:Salvatore Turco、M.S.and Robert E.King、“Sterile Dosage Forms”、3rd Edition、Lea & Febiger、Philadelphia、1987、第32?33頁
乙第6号証:Gilbert S.Banker and Christopher T.Rhodes、“Modern Pharmaceutics”、Second Edition、Revised and Expanded、Marcel Dekker, INC.、New York and Basel、1990、第514?516頁
乙第8号証:第十五改正日本薬局方、第1599?1602頁
乙第9号証:実験成績証明書、平成23年4月27日、株式会社ヤクルト本社 相山律男により作成
(なお、乙第7号証は、平成23年5月13日に実施した口頭審理において、取り下げられた。)

4.当審の判断
(1)無効理由aについて
(ア)請求人の主張
請求人の主張は、本件発明1?9は、甲第1号証に記載された発明であるというもので、具体的理由は下記のとおりである。
・「請求項1に記載の「医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである」(以下、本件の貯蔵安定性ということがある)というのは発明の効果であり、これは発明の構成要件とはなり得ないものである。」(審判請求書第4頁下から第5行?最下行)
・「オキサリプラテイヌムの濃度が決まればそれに付随(依存)する固有のpH値であり、結局、濃度=pH値であり、pH値に特許性があるものではない」(審判請求書第6頁第1?3行)

(イ)甲号証
甲第1号証には以下の記載がある。
甲1-1
「新規な白金類縁体である1,2-ジアミノシクロヘキサン(trans-1)オキサラト白金(II)(l-OHP、L-OHP)のマウス寛容性における24時間周期リズムのメカニズムの研究を12時間light-12時間darkの条件下、404匹の雄性C57BL/6xDBA/2F3マウスを用いて行った。
・・・腎毒性は見られなかった。・・・l-OHPの投与後24時間における18種の組織における白金の合計濃度を調べた。」(第3362頁左欄ABSTRACT)
甲1-2
「l-OHPの原体はRoger-Bellon Laboratoriesから供給を受けた。所望の濃度の溶液を得るために適切な量の蒸留水を試験の当日に加えてフレッシュな溶液を得た。単一の投与量(17mg/kg)が規定のfluid volume (5ml/kgbody weight)でマウスの投与した。この投与量は事前の試験より致死量の50%に相当する。薬物溶液(3.4mg/ml)または溶媒単独のいずれかを各マウスの眼窩後副鼻洞にi.v.(静脈内投与)注射した。」(第3362頁右欄Drug)

(ウ)対比
甲第1号証の上記甲1-1?甲1-2の記載事項より、甲第1号証には、
「濃度が3.4mg/mlの1,2-ジアミノシクロヘキサン(trans-1)オキサラト白金(II)(l-OHP、L-OHP)の水溶液からなる、静脈内投与用注射剤。」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

本件発明1と甲1発明とを対比する。
本件発明1の「オキサリプラティヌム」について、本件明細書の発明の詳細な説明には、「トランス-1-1,2-ジアミノシクロヘキサンの白金IIシスオキサラト錯体、または・・・(1R,2R)-1,2-シクロヘキサン-ジアミン-N,N'の(オキサラト(2-)O,O')白金体である。」(特許第3547755号公報(以下、「本件特許公報」という。)第2頁第14?18行)と記載されており、甲1発明の成分と本件発明1の成分とは一致する。
また、甲1発明の「静脈内投与」は、本件発明1の「腸管外経路」に相当するといえ、さらに、甲1発明の濃度は、本件発明1の濃度の範囲内である。
よって、両者は、
「濃度が3.4mg/mlのオキサリプラティヌムの水溶液からなり、腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの製剤。」
である点で一致するが、本件発明1は、
・「pHが4.5ないし6」であり、
・「医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである」
のに対し、甲1発明には、これらpH及び貯蔵安定性の事項については明記されていない点で相違する。

(エ)判断
そこで、甲1発明が、これらpH及び貯蔵安定性の事項を満たすものであるか否かについて検討する。

(pHについて)
pHに関して、請求人は、「濃度=pH値であり、pH値に特許性があるものではない」と主張しているから、この主張を踏まえつつ、以下検討する。
甲第1号証に記載されたオキサリプラティヌムの水溶液において、使用したオキサリプラティヌムの純度、水の純度、温度等の各調製条件が同じであるのならば、甲1発明のpHは、本件発明1のpHの範囲内であるという請求人の主張は納得し得るものであるが、請求人は、両者の各調製条件が同じであることを示す証拠を提出していない。
ここで、いずれも本願出願日以降に頒布された刊行物ではあるものの、
・乙第3号証の第8欄38?64行の記載によれば、オキサリプラチン(オキサリプラティヌム)の2mg/mlの水溶液のpHは6.7であり、
・乙第4号証の[0033]?[0035]の記載によれば、20?25℃で保存したオキサリプラチン(オキサリプラティヌム)の2mg/mlの水溶液のpHは6.6であるから、
オキサリプラチン(オキサリプラティヌム)の濃度2mg/mlの水溶液といっても、各調製条件の違いによって種々のpHの値になることが把握できる。
そうすると、オキサリプラティヌムの水溶液の各調製条件によっては、pHが異なることも想定されるので、甲1発明のpHは、「4.5ないし6」であると結論づけることはできない。
したがって、請求人の主張する理由及び証拠では、甲1発明のpHが「4.5ないし6」であるとはいえない。

(貯蔵安定性について)
貯蔵安定性に関して、請求人は、「発明の効果であり、発明の構成要件とはなり得ない」と主張しているから、まず、貯蔵安定性に関する事項は、発明の構成要件であるか否かについて検討する。
「医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである」との事項は、特許請求の範囲の請求項1に記載されている技術的に意味のある事項であり、本件発明1を特定する事項であることは明らかである。
さらに、この判断に関しては、本件特許に対する先の無効審判事件(無効2009-800029号事件)の審決についての、審決取消請求事件(平成22年(行ケ)第10122号)の判決の判決理由の中でも、「・・・以上のとおりであり,本件発明1の貯蔵安定性に係る構成は,独立の構成であると理解すべきであり,これに反する原告の主張は,採用できない。」(乙第1号証の第5当裁判所の判断 1(2)判断)と判示されている。
よって、貯蔵安定性の事項は、「発明の構成要件とはなり得ない」という、請求人の上記主張は採用できない。
そして、甲第1号証には、貯蔵安定性に関する事項は記載されていないから、請求人の主張する理由及び証拠では、甲1発明が、「医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである」との事項を満たすものであるとはいえない。

(オ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。
さらに、本件発明1をさらに限定するものである本件発明2?9も同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。


(2)無効理由b-1について
(ア)請求人の主張
請求人の主張は、本件発明1?9は、甲第1?5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるというもので、具体的理由は下記のとおりである。
・「注射剤の分野においては、有効成分の安定性を優先的に考慮してpHを調整することが技術常識であり、本件特許においてもpHの範囲を適切な範囲に設定することは医薬品に携わる当業者にとって容易であり、その際甲第4?5号証等により4.5ないし6とすることは容易になし得ることである。」(審判請求書第7頁第17?20行)

(イ)甲号証
甲第1号証の記載事項は、上記4.(1)(イ)甲1-1?甲1-2に記載したとおりである。

甲第2号証には、以下の記載がある。
甲2-1
「オキサリプラチン」(第529頁左欄第1行)
甲2-2
「無色結晶、20℃の水への溶解度は7.9mg/ml。水中で1週間以上大変安定であり、HPLCによる測定では、生理食塩中、半減期は11.2時間である。」(第529頁左欄Description)
甲2-3
「L1210、P388白血病、ルイス肺がん、B16メラノーマ、結腸癌colon26、colon38、M5076、MX1等の種々のマウス腫瘍に対して抗腫瘍活性が試験され、シスプラチンよりも優れた抗癌作用を示した(Tables I及びII)。」(第529頁右欄第13?17行)

甲第3号証には、以下の記載がある。
甲3-1
「光学的に高純度なシス-オキザラート(トランス-l-1、2-シクロヘキサンジアミン)白金(II)」(【請求項1】)
甲3-2
「本発明における光学的に高純度なシス-オキザラート(トランス-l-1、2-シクロヘキサンジアミン)白金 (II)は、腫瘍leukemia L1210に対して活性であり、抗癌剤として有用である。」(【0010】)
甲3-3
「また表4はシス-オキザラート(トランス-l-1、2-シクロヘキサンジアミン)白金(II)の急性毒性試験(LD_(50))及びL1210に対する抗腫瘍性を示したものであり、動物CDF_(1) マウス6匹/1群にL1210(移植細胞はマウス当り 10^(5)個)を腹腔内に投与後、第1日目、第5日目、第9日目に薬剤を腹腔内に投与してテストした。」(【0023】)
甲3-4
【0026】【表3】には、比旋光度が74.5°を超えるL-OHPが記載されている。

甲第4号証には、以下の記載がある。
甲4-1
「注射剤のpHに関しては、なるべく血清のpHに近いことが望ましいのであるが、主成分の溶解度を高めるため、あるいは酸、アルカリによる分解を考慮して、一般にその主成分が安定な領域に調整されているのが普通である。」(第3頁第19?21行)

甲第5号証には、以下の記載がある。
甲5-1
「pHについても同様で、医薬品を注射剤とする場合、酸性やアルカリ性でないと溶解しないもの又は安定性の上からpHを酸性側やアルカリ性側にしなければならないものなどがあり、実際にそのような注射剤が用いられている。」(第63頁第11?14行)

(ウ)対比
上記4.(1)(エ)で述べたように、本件発明1と甲1発明とは、以下の2点で相違する。
[相違点1]本件発明1は、「pHが4.5ないし6」であるが、甲1発明には、pHについては特定されていない点。
[相違点2]本件発明1は、「医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである」ものであるが、甲1発明には、この貯蔵安定性については特定されていない点。

また、甲第2号証の上記甲2-1?甲2-3の記載事項より、甲第2号証には、
「オキサリプラチン(オキサリプラティヌム)の水溶液製剤。」
の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえ、甲第3号証の上記甲3-1?甲3-4の記載事項より、甲第3号証には、
「光学的に高純度なシス-オキザラート(トランス-l-1、2-シクロヘキサンジアミン)白金(II)(オキサリプラティヌム)を含み、腹腔内投与用製剤。」
の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
そして、本件発明1と甲2、3発明とを、それぞれ、対比しても、少なくとも、上記[相違点1]及び[相違点2]で挙げたpH及び貯蔵安定性については、甲2、3発明でも特定されていない点で相違する。

(エ)判断
そこで、これら相違点について、当業者が容易になし得たものであるかどうかについて検討する。

[相違点1](pH)について
pHに関して、請求人は、「甲第4?5号証等により4.5ないし6とすることは容易になし得ることである」と主張しているから、この主張を踏まえつつ、以下検討する。
水溶液である医薬品の製剤化に際して、水溶液のpH値は有効成分の濃度とともに検討すべき事項の1つであるといえ、そして、甲第4号証の上記甲4-1の記載事項及び甲第5号証の上記甲5-1の記載事項より、本件特許出願時の注射剤のpHに関する技術常識として、注射剤のpHは、なるべく血清のpHに近いことが望ましいものの、溶解性や安定性の点から、酸性側、あるいは、アルカリ性側にすることが認められる。
しかし、オキサリプラティヌムに関して記載されている甲第1?3号証をみても、オキサリプラティヌムの水溶液のpH値について何ら記載されておらず、しかも、オキサリプラティヌムの水溶液は、酸性である方が好ましいということを示唆する記載もない。

[相違点2](貯蔵安定性)について
甲1発明が上記貯蔵安定性の事項を満たすものであるとはいえないことは上記4.(1)(エ)(貯蔵安定性について)で既に述べたとおりである。
また、甲第2号証には、「1週間以上大変安定であり」(上記甲2-2の記載事項)と記載されているだけであり、上記貯蔵安定性の事項は記載されていないし、甲第3号証には、貯蔵安定性に関しては何ら記載されていない。
そして、このような貯蔵安定性を有するオキサリプラティヌムの水溶液を調製する方法については、甲第1?5号証及び請求人の提出したいずれの証拠にも記載されていないし、さらに、技術常識であるともいえない。

ここで、そもそも、甲1発明は、試験の当日に、オキサリプラティヌムの原体に蒸留水を加えて溶液を調製し、マウスに投与するものであるから(上記甲1-2の記載事項参照。)、オキサリプラティヌムの水溶液の状態での長期の保存安定性を向上させるという動機付けは生じない。また同様に、甲2、3発明においても、オキサリプラティヌムの水溶液の状態での長期の保存安定性を向上させるという動機付けは生じない。
したがって、甲1?3発明において、「pHが4.5ないし6」を採用して、「医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである」という物性を有するオキサリプラティヌムの水溶液を調製することは、当業者に容易であったということはできない。

そして、本件発明1が奏する効果について検討すると、本件明細書の発明の詳細な説明の実施例3には、「50℃で3か月以上貯蔵した後においても、回収したオキサリプラティヌムの百分率と要求される値より少ない不純物のそれから考えて、医薬的に許容されると考えられることを示した。また、pHは安定なままであった。さらに、すべての溶液は、澄明、無色で、肉眼で見える固体粒子を含まなかった。最後に、溶液は光学的純粋のままであり(異性化なし)、測定したオキサリプラティヌムの旋光度は約+75.7°ないし約+76.2°の範囲、すなわち、充分必要な限界内(+74.5°ないし+78.0°)にあった。室温および40℃で行った別の一連の測定においても、オキサリプラティヌム水溶液の安定性が10か月を超える期間にわたり確認された。」(本件特許公報第4頁第32?40行)との、本件発明1による効果が記載されており、この効果は、甲第1?5号証の記載からでは、当業者が予測できないようなものであるといえる。

(オ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1?5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
さらに、本件発明1をさらに限定するものである本件発明2?9も同様の理由により、甲第1?5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。


(3)無効理由b-2について
(ア)請求人の主張
請求人の主張は、本件発明1?9は、甲第1、3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるというもので、具体的理由は、下記のとおりである。
・「甲第3号証の比旋光度が74.5°を超えるL-OHPは本件特許発明の請求項3のL-OHPと同じ高純度のものであり、このようなL-OHPを甲第1号証の教示に従って3.4mg/mlの濃度で腹腔内投与して抗腫瘍性の試験をすることは容易に想到される。」(審判請求書第7頁下から第2行?第8頁第2行)

(イ)甲号証
甲第1号証の記載事項は、上記4.(1)(イ)甲1-1?甲1-2に記載したとおりである。

甲第3号証の記載事項は、上記4.(2)(イ)甲3-1?甲3-4に記載したとおりである。

(ウ)対比
甲3発明は、上記4.(2)(ウ)で認定したとおりである。
そして、本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「腹腔内投与」は、本件発明1の「腸管外経路」に相当するといえるから、両者は、
「オキサリプラティヌムからなり、腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの製剤。」
である点で一致するものの、以下の2点で相違する。
[相違点1]本件発明1は、「濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液」であるが、甲3発明には、この濃度及びpHに設定した水溶液を調製することについては特定されていない点。
[相違点2]本件発明1は、「医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである」ものであるが、甲3発明には、この貯蔵安定性については特定されていない点。

(エ)判断
そこで、これらの相違点について、当業者が容易になし得たものであるかどうかについて検討する。

[相違点1](濃度及びpHを特定した水溶液の調製)について
濃度に関しては、請求人は、「甲第1号証の教示に従って3.4mg/mlの濃度で腹腔内投与して抗腫瘍性の試験をすることは容易に想到される。」と主張しているから、この主張を踏まえつつ、以下検討する。
上記4.(1)(ウ)で述べたように、甲第1号証には、濃度3.4mg/mlのオキサリプラティヌムの水溶液製剤を調製することが記載されているから、甲3発明において、この濃度の値に設定した水溶液を調製することには特段の困難性は見い出せないといえる。
しかしながら、光学的に高純度なオキサリプラティヌムを用いて、濃度が3.4mg/mlの水溶液を調製したとしても、上記4.(1)(エ)(pHについて)で既に述べたように、用いる水の純度等によっては、本件発明1で特定するpHの範囲以外にもなるといえる。

[相違点2](貯蔵安定性)について
上記4.(2)(エ)[相違点2](貯蔵安定性)についてで既に述べたように、甲第1、3号証には、貯蔵安定性については記載されておらず、また、このような貯蔵安定性を有するオキサリプラティヌムの水溶液を調製する方法についても、甲第1、3号証及び請求人の提出したいずれの証拠にも記載されていないし、さらに、技術常識であるともいえない。

そして、上記4.(2)(エ)で既に述べたように、甲3発明には、オキサリプラティヌムの水溶液の状態での長期の保存安定性を向上させるという動機付けはないから、甲3発明において、「pHが4.5ないし6」を採用して、「医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである」という物性を有するオキサリプラティヌムの水溶液を調製することは、当業者に容易であったということはできない。

また、本件発明1が奏する効果について検討すると、上記4.(2)(エ)の中で記載した本件発明1による効果は、甲第1、3号証の記載からでは、当業者が予測できないようなものであるといえる。

(オ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1、3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
さらに、本件発明1をさらに限定するものである本件発明2?9も同様の理由により、甲第1、3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。


(4)無効理由b-3について
(ア)請求人の主張
請求人の主張は、本件発明1?9は、甲第1?3、8号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるというもので、具体的理由は下記のとおりである。
・「知財高裁の判決、(例えば・・・甲第6号証及び甲第7号証)では、数値限定に臨界的意義が示されていない場合には新規性が認められないとされ、また別の判決では数値限定発明において臨界的意義が示されていない発明については進歩性が無いとされている。
以上より、本件特許発明は数値限定の無い部分では甲第1?3号証に記載された発明であり、該数値限定の範囲は当業者にとって容易に設定し得るものであり、濃度も甲第1号証の記載され、pHを酸性側に設定することも技術常識に反するものではなく、更に、数値限定においても何ら臨界的意義が示されていない発明である。」(審判請求書第8頁下から第2行?第9頁第6行)
・「上記において述べたように・・・という本件の貯蔵安定性は、発明の効果であり構成要件ではなく、このような効果により発明が特定されるものではない。」(審判請求書第9頁第9?12行)
・「本願の優先日前の平成6年4月21日に通知された厚生省薬務局のガイドライン(・・・甲第8号証)には、「品質の変化」の基準として、・・・が例示されている。従って、本件の貯蔵安定性は周知の安定性の基準を言い換えただけであり、本願の優先日前より医薬品として承認に必要な当然に求められる品質を示したものにすぎない。」(審判請求書第9頁第14?21行)

(イ)甲号証
甲第1号証の記載事項は、上記4.(1)(イ)甲1-1?甲1-2に記載したとおりである。

甲第2号証の記載事項は、上記4.(2)(イ)甲2-1?甲2-2に記載したとおりである。

甲第3号証の記載事項は、上記4.(2)(イ)甲3-1?甲3-4に記載したとおりである。

甲第8号証には、以下の記載がある。
甲8-1
「製剤の安定性試験
(1)・・・
(2)長期保存試験及び加速試験
1)・・・
2)・・・
3)保存条件(注2)
・・・
5 40℃±2℃/75%RH±5%での6カ月の加速試験において規格からの逸脱が認められた場合(・・・)、中間的な条件(・・・)で1年間の追加の加速試験を実施する(注7)。」(第(1014)10頁第14行?第(1015)11頁第13行)
甲8-2
「(注7)製剤の加速試験において、中間的な条件での加速試験を実施するのは例えば、次のような品質の変化があった場合である。
1 試験開始時の定量値(力価)から5%以上減少した場合
2 特定の分解生成物が規格値を超えた場合
3 pHが規格値を逸脱した場合
4 溶出試験で規格を逸脱した場合
5 色、相分離、再懸濁性、1回当りの噴霧量、ケーキング、硬度等が規格から逸脱した場合」(第(1017)13頁第10?16行)

(ウ)対比
上記4.(1)(エ)、及び、4.(2)(ウ)で述べたように、本件発明1と甲1発明とは、以下の2点で相違し、さらに、本件発明1と甲2、3発明との間にも、少なくとも以下の2点の相違点がある。
[相違点1]本件発明1は、「pHが4.5ないし6」であるが、甲1?3発明には、pHについて特定されていない点。
[相違点2]本件発明1は、「医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである」ものであるが、甲1?3発明には、この貯蔵安定性の事項については特定されていない点。

(エ)判断
そこで、これらの相違点について、当業者が容易になし得たものであるかどうかについて検討する。

[相違点1](pH)について
上記4.(2)(エ)[相違点1](pH)についてで既に述べたように、甲第1?3号証には、本件発明1で特定するpH値を採用することについての記載及び示唆はない。

[相違点2](貯蔵安定性)について
まず、請求人の上記「本件の貯蔵安定性は、発明の効果であり構成要件ではなく」との主張は採用できないことは、上記4.(1)(エ)(貯蔵安定性について)で既に述べたとおりである。
さらに、甲第1?3号証には、本件発明1で特定する貯蔵安定性の事項、及び、このような貯蔵安定性を有するオキサリプラティヌム水溶液を調製する方法については記載されていないことも、上記4.(2)(エ)[相違点2](貯蔵安定性)についてで既に述べたとおりである。
ここで、甲第8号証には、医薬品の承認申請の際に安定性試験を実施することが求められることに関しては記載されているものの(上記甲8-1?甲8-2の記載事項参照。)、上記貯蔵安性を有するオキサリプラティヌムの水溶液を調製する方法については何ら記載されていない。

そして、上記4.(2)(エ)で既に述べたように、甲1?3発明には、オキサリプラティヌムの水溶液の状態での長期の保存安定性を向上させるという動機付けはないから、甲1?3発明において、「pHが4.5ないし6」を採用して、「医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである」という物性を有するオキサリプラティヌムの水溶液を調製することは、当業者に容易であったということはできない。

また、本件発明1が奏する効果について検討すると、上記4.(2)(エ)の中で記載した本件発明1による効果は、甲第1?3、8号証の記載からでは、当業者が予測できないようなものであるといえる。

請求人は、数値範囲を特定したことに関して、甲6、7号証を提示した上で、「数値限定においても何ら臨界的意義が示されていない」と主張している。
しかし、先行発明との相違点に係る構成が、数値範囲で限定した構成を含む発明についての進歩性を判断する場合においても、その判断手法が通常と変わらないことは、上記審決取消請求事件の判決においても判示されたとおりであり(乙第1号証の第5当裁判所の判断 3(4)数値範囲における意義についてを参照。)、そして、甲1?3発明において、上記[相違点1]及び[相違点2]に係る事項を採用することは、当業者に容易であったということはできないことは、既に述べたとおりである。

(オ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1?3、8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
さらに、本件発明1をさらに限定するものである本件発明2?9も同様の理由により、甲第1?3、8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。


(5)無効理由cについて
(ア)請求人の主張
請求人の主張は、発明の詳細な説明が、当業者が本件発明1?9の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないというもので、具体的理由は下記のとおりである。
・「安定性を示す実施例3の表にはオキサリプラティヌムの水溶液の濃度は記載がなく、濃度不明のデータである。これを実施例3の第1行に「前記のようにして得られ、」とあることより、実施例1?2の水溶液を試験したと解釈しても、実施例1?2では「例えば、2mg/mlの濃度の」とあり、単に例示であり、一体どのような濃度のものを実際に試験したものか全く不明である。
安全性を示す実施例3の濃度を、仮に上記のように百歩譲って「2mg/mlの濃度」と解釈しても、2mg/mlの濃度の1点だけである。」(審判請求書第第9頁下から第2行?第10頁第5行)
・「実施例3の表には15個のpHのデータがあるが、そのうち13個のデータは5.34?5.59という極めて狭い範囲に入り、また全てのデータが5.29?5.65という僅か0.36の狭い範囲に入るものであり、pHの範囲は極めて偏っている。」(審判請求書第10頁第7?9行)
・「発明の詳細な説明には、オキサリプラティヌムの純度や用いる水質などがどのような条件のときにpHが4.5?6の範囲になるのか具体的に記載されていない。」(審判請求書第10頁第12?14行)

(イ)判断
請求人の上記主張を踏まえつつ、以下検討する。
本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1の「医薬的に安定な製剤」の製造法に関して、
「実施例1:オキサリプラティヌム水溶液の製造
ガラスまたはステンレス製の恒温容器中に、必要量の約80%の注射用水を入れ、この水を攪拌(800-1200rpm)下40℃±5℃に加温する。
例えば2mg/mlの濃度とするに必要な量のオキサリプラティヌムを別に秤量し、加温した水に加える。秤量用容器を注射用水で3回洗浄し、これを混合物に加える。混合物をさらに上記温度で30±5分間または必要ならそれ以上、オキサリプラティヌムが完全に溶けるまで攪拌する。一つの変法では、酸素含量を減少させるため水に窒素を吹き込むことができる。
次いで、溶液に注射用水を加えて目的容量または重量に調整し、さらに10±2分間(800-1200rpm)ホモジネートし、最後に攪拌しながら約30℃に冷却する。この段階で、通常の試験を実施するため溶液の試料を取り、対照と溶液をそれ自体公知の方法により無菌濾過して澄明な溶液とし、この溶液は充填前には15-30℃で貯蔵する。
出発原料のオキサリプラティヌムとして、例えばタナカ株式会社の特許方法により得られる製品のような、発熱物質無含有製品で医薬用品質の、光学的純品(>99.9%)を使用するのが好ましい。
実施例2:容器充填
次に、例えば2mg/mlの濃度のオキサリプラティヌム水溶液を、好ましくは不活性雰囲気、例えば窒素中で、滅菌した発熱物質無含有の50mlガラスバイアル中に、無菌的に充填する。
オキサリプラティヌム水溶液の安定性をよくするためには、I型の中性ガラスを用いるのが好ましい。
栓としては、例えば、テフロン製またはハロゲン化ブチル類を基礎とするエラストマー製の栓を用いることができ、これらは、少なくともバイアルの内側に広がる表面がオキサリプラティヌム水溶液に対して不活性であるように、適当なコーティング、特にふっ素化ポリマー(例えばヘルベット・ファルマ製の「オムニフレックス」タイプのもの)を持つことができる。
所望により、栓と水溶液の間の空間に、不活性ガス、例えば窒素を充填することができる。」(本件特許公報第3頁第36行?第4頁第13行 下線は、当審が付した。)
と具体的に記載されている。
そして、「2mg/mlの濃度とする」と記載されているから、請求人の上記「一体どのような濃度のものを実際に試験したものか全く不明である。」という主張は採用できない。
ここで、上記した実施例の記載より、「タナカ株式会社の特許方法により得られる製品のような、発熱物質無含有製品で医薬用品質の、光学的純品(>99.9%)を使用」する等の、本件発明1の「医薬的に安定な製剤」を製造するための各調製条件を把握できるが、請求人が「用いる水質などがどのような条件のときにpHが4.5?6の範囲になるのか具体的に記載されていない。」と主張するように、「注射用水」として、どのような水質のものを用いるかについては、確かに、明記されていない。
しかし、乙第8号証に記載されるように(第1602頁左欄 第三段階2.の記載を参照。)、製薬用水としては、pHが5.0?7.0のものが用いられることは、当業者に周知であるといえるから、製薬用水の中から、本件発明1のpHの範囲(4.5?6)からは大きく外れていないpHのものを用いれば良いことは、本件明細書の発明の詳細な説明中に注射用水の水質に関する記載が特になくても、当業者であれば、容易に理解できる程度のことである。
したがって、請求人の上記「オキサリプラティヌムの純度や用いる水質などがどのような条件のときにpHが4.5?6の範囲になるのか具体的に記載されていない。」という主張も採用できない。
また、請求人は、「pHの範囲は極めて偏っている」とも主張しているが、この主張も、以下に述べるように、採用できない。
本件明細書の発明の詳細な説明には、「腸管外経路投与用の用量形態として、有効成分のpHがそれぞれ充分限定された範囲内にあり、有効成分が酸性またはアルカリ性薬剤、緩衝剤もしくはその他の添加剤を含まないオキサリプラティヌム水溶液を用いることにより、達成できることを示すことができた。特に、約1mg/mlより低い濃度のオキサリプラティヌム水溶液は、充分安定でないことが見出された。」(本件特許公報第2頁第43?48行)、「好ましくは、オキサリプラティヌムの水中濃度は約2mg/mlであり、溶液のpHは平均約5.3である。」(本件特許公報第3頁第4?5行)と記載され、実施例3に、2mg/mlの濃度のオキサリプラティヌム水溶液に関する安定性試験において、「50℃で3か月以上貯蔵した後においても、回収したオキサリプラティヌムの百分率と要求される値より少ない不純物のそれから考えて、医薬的に許容される」(本件特許公報第4頁第32?34行)安定性が示されたとの結果が記載されていることを考慮すると、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1の限定された数値範囲での効果が示されていると解することができる。
また、実施例に記載の値以外でも本件発明1で特定する貯蔵安定性を満足できることについては、乙第9号証の試験結果からも確認できる。
さらに、この判断に関しては、上記審決取消請求事件の判決においても、「本件発明1の限定された数値範囲において・・・作用効果が示されていると解することができる。」(乙第1号証の第5当裁判所の判断 3(4)数値範囲における意義について)と判示されている。
よって、請求人の上記主張は採用できない。
以上のことより、発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

さらに、光学的に高純度のオキサリプラティヌムを用い、製薬用水のpHに主に着目することで、当業者であれば、本件発明2、3の実施もすることができるといえ、また、密封容器に入れること(本件発明4)、容器中のオキサリプラティヌムの単位有効量を50ないし100mgにし、注入で投与できるようにすること(本件発明5)、医薬用ガラスバイアルを用い、溶液に不活性な栓で閉じること(本件発明6)、不活性ガスを充填させること(本件発明7)、容器として可撓性袋やアンプルを用いること(本件発明8)、注射用マイクロポンプを持つ輸液装置を用いること(本件発明9)は、当業者であれば、実施できる程度のことにすぎない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、発明の詳細な説明が、当業者が本件発明1?9の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとすることはできない。


(6)無効理由dについて
(ア)請求人の主張
請求人の主張は、本件発明1?9は、発明の詳細な説明に記載したものではないというもので、具体的理由は下記のとおりである。
・「本件特許の請求項1は、濃度が1ないし5mg/mlのオキサリプラティヌムの水溶液からなる医薬的に安定な製剤を請求しているが、明細書の発明の詳細な説明では上記したように2mg/mlの濃度の1点だけである。」(審判請求書第10頁下から第10行?下から第8行)
・「本件特許の請求項1は、pHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液からなる医薬的に安定な製剤を請求しているが、明細書の発明の詳細な説明では上記したように5.29?5.65という僅か0.36の狭いpHが開示されているだけである。」(審判請求書第10頁下から第4行?最下行)
・「実施例1ないし3の開示だけでは本件特許の請求項1において濃度及びpHのみを限定し、オキサリプラティヌムの純度、水質等を限定していないすべてのオキサリプラティヌム製剤が請求の範囲に記載されたような性質及び特性を有するとは確認できない。」(審判請求書第11第1?4行)
また、請求人は、この無効理由dに関する証拠として、平成23年5月13日付け上申書において、甲9号証を提出している。

(イ)判断
請求人の上記主張を踏まえつつ、以下検討する。
本件明細書の発明の詳細な説明には、「現在、オキサリプラティヌムは、・・・凍結乾燥物として、注射用水または等張性5%ぶどう糖溶液と共にバイアルに入れて、前臨床および臨床試験用に入手でき、投与は注入により静脈内に行われる」(本件特許公報第2頁第27?29行)が、「比較的複雑で高価につく製造方法(凍結乾燥)および熟練と注意の双方を要する再構成手段の使用」(本件特許公報第2頁第30?31行)を必要とし、「溶液を突発的に再構成するとき間違いが起こる危険性があることが判明した;事実、凍結乾燥物から注射用医薬製剤を再構成するときまたは液剤を希釈するときに、0.9%NaCl溶液を使用するのはごく一般的である。オキサリプラティヌムの凍結乾燥形態の場合にこの溶液を誤って使用すると、有効成分に極めて有害であり、それはNaClで沈殿(ジクロローdach-白金誘導体)を生じ、上記製品の急速な分解を引き起こす。」(本件特許公報第2頁第32?36行)ことが記載された上、「製品の誤用のあらゆる危険性を避け、・・・直ぐ使用でき、さらに、使前には、承認された基準に従って許容可能な期間医薬的に安定なままであり、凍結乾燥より容易且つ安価に製造でき、再構成した凍結乾燥物と同等な化学的純度(異性化の不存在)および治療活性を示す、オキサリプラティヌム注射液を得るための研究が行われた。これが、この発明の目的である。」(本件特許公報第2頁第37?42行)との解決課題が記載されている。
さらに、この判断に関しては、上記審決取消請求事件の判決においても、上記した解決課題が示されていると判示されている(乙第1号証の第5当裁判所の判断 3(4)数値範囲における意義について参照。)。
そして、その課題に対応した手段が請求項1に反映されているといえることは、上記4.(5)(イ)の中の、請求人の「pHの範囲は極めて偏っている。」との主張に対する判断で既に述べたとおりである。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の解決課題が記載されており、その課題に対応した手段が請求項1に反映されているといえるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明である。

請求人は、「明細書の発明の詳細な説明では上記したように2mg/mlの濃度の1点だけである。」及び「5.29?5.65という僅か0.36の狭いpHが開示されているだけである。」と主張しているが、上記4.(5)(イ)の中の、請求人の「pHの範囲は極めて偏っている。」との主張に対する判断で既に述べたとおり、この主張は採用できない。
また、請求人は、「濃度及びpHのみを限定し、オキサリプラティヌムの純度、水質等を限定していない」とも主張する。
しかし、オキサリプラティヌムの純度、水質等が、オキサリプラティヌムの水溶液の濃度とpHとに関係することは、既に述べたとおりであるから、オキサリプラティヌムの水溶液の濃度及びpHを限定していることは、オキサリプラティヌムの純度、水質等を実質的に特定していることになるともいえる。
よって、請求人のこの主張も採用できない。

なお、甲第9号証は、「物性値を表す二つの技術的な変数(パラメータ)を用いた一定の数式により示される範囲をもって特定した物を構成要件とする」発明、いわゆる、パラメータ発明に関するものであるが、本件発明1は、濃度、pH及び特定期間貯蔵後の含量の範囲を、それそれ、個別に特定した発明であるから、甲第9号証をもって、上記判断が変わることはない。

さらに、発明の詳細な説明には、オキサリプラティヌムの濃度が約2mg/mlで、pHが約5.3にすること(本件発明2)、高純度のオキサリプラティヌムを用いること(本件発明3)、密封容器に入れること(本件発明4)、容器中のオキサリプラティヌムの単位有効量を50ないし100mgにし、注入で投与できるようにすること(本件発明5)、医薬用ガラスバイアルを用い、溶液に不活性な栓で閉じること(本件発明6)、不活性ガスを充填させること(本件発明7)、容器として可撓性袋やアンプルを用いること(本件発明8)、注射用マイクロポンプを持つ輸液装置を用いること(本件発明9)も記載されている(本件特許公報の実施例、第3頁第13?27行参照。)。
よって、本件発明2?9も、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1?9は、発明の詳細な説明に記載したものではないとすることはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-15 
結審通知日 2011-07-22 
審決日 2011-08-02 
出願番号 特願平8-507159
審決分類 P 1 113・ 113- Y (A61K)
P 1 113・ 536- Y (A61K)
P 1 113・ 537- Y (A61K)
P 1 113・ 121- Y (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田名部 拓也  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 平井 裕彰
大久保 元浩
登録日 2004-04-23 
登録番号 特許第3547755号(P3547755)
発明の名称 オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤  
代理人 津国 肇  
代理人 津国 肇  
代理人 小國 泰弘  
代理人 小澤 圭子  
代理人 小澤 圭子  
代理人 小國 泰弘  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ