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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1243645
審判番号 不服2008-16987  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-03 
確定日 2011-09-15 
事件の表示 特願2002-190588「シリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月 5日出願公開、特開2004- 35279〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は平成14年6月28日の出願であって、平成20年1月30日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内に意見書・手続補正書の提出がなく、同年5月30日付けで拒絶査定され、同年7月3日付けで拒絶査定不服審判が請求され、同年同月22日に明細書の記載に係る手続補正書が提出され、平成23年2月18日付けで特許法第164条第3項に基づく報告書を引用した審尋がなされ、同年4月25日に回答書が提出されたものである。

2.平成20年7月22日付けの手続補正書による補正についての補正却下の決定
[補正却下の結論]
平成20年7月22日付けの手続補正書による補正を却下する。
[理由]
平成20年7月22日付けの手続補正書による補正(以下、「本件補正」ということがある。)が、補正前(願書に最初に添付された明細書)の特許請求の範囲の請求項1?13である、
「【請求項1】
炭化ケイ素とカーボンからなる圧粉体を成形する工程と、
前記成形体に溶融シリコンを含浸させる工程と、
溶融シリコンの含浸された前記成形体の表面層を機械加工により削除して最終寸法の部品とする工程と
を有することを特徴とするシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法。
【請求項2】
炭化ケイ素とカーボンからなる最終寸法より大きい予備成形体を成形する工程と、
前記予備成形体の一部を機械加工または手加工により部品形状に、生加工して予備成形体の寸法よりは小さく最終寸法よりは大きい寸法の成形体を形成する工程と、
前記成形体に溶融シリコンを含浸させる工程と、
溶融シリコンの含浸された前記成形体の表面層を機械加工により最終寸法の部品とする工程と
を有することを特徴とするシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法。
【請求項3】
炭化ケイ素とカーボンからなる最終寸法より大きい成形体をスリップキャスティングにより成形する工程と、
前記成形体に溶融シリコンを含浸させる工程と、
溶融シリコンの含浸された前記成形体の表面層を機械加工により最終寸法の部品とする工程と
を有することを特徴とするシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法。
【請求項4】
機械加工による取りしろが、100μm以上であることを特徴とする請求項1乃至3記載のシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法。
【請求項5】
成形体の寸法は、最終寸法より10%以下の範囲で大きく製造されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法。
【請求項6】
成形体の寸法は、10cmを超える場合、最終寸法より8%以下の範囲で大きく製造されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法。
【請求項7】
成形体の寸法は、成形体の寸法が20cmを超える場合、最終寸法より5%以下の範囲で大きく製造されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載のシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法。
【請求項8】
炭化ケイ素とカーボンからなる成形体は、有機バインダを含有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載のシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法。
【請求項9】
炭化ケイ素の平均粒径が0.1μmから10μmであり、カーボン粉末の平均粒径が0.005μmから1μmであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載のシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法。
【請求項10】
炭化ケイ素とカーボンの混合比率が、重量比で10:1?10であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載のシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法。
【請求項11】
成形体の成形が、前記混合粉末を0.5MPaから2MPの加圧下で加圧成形により行われることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項記載のシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法。
【請求項12】
成形体の成形が、前記混合粉末を分散媒に分散させたスラリーを圧力鋳込成形機を用いて0.5MPaから10MPaの加圧下に行われることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項記載のシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法。
【請求項13】
成形体へのシリコンの含浸が、1400℃以上で、減圧下又は不活性雰囲気下で行われることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項記載のシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法。」

「【請求項1】
平均粒径が0.1μmから5μmの炭化ケイ素粉末と平均粒径が0.005μmから1μmのカーボン粉末からなり、前記炭化ケイ素粉末と前記カーボン粉末との配合比が重量比で10:1?10である圧粉体を成形する工程と、
前記成形体に溶融シリコンを含浸させる工程と、
溶融シリコンの含浸された前記成形体の表面層を機械加工により削除して最終寸法の部品とする工程と
を有することを特徴とするシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法。
【請求項2】
平均粒径が0.1μmから5μmの炭化ケイ素粉末と平均粒径が0.005μmから1μmのカーボン粉末からなり、前記炭化ケイ素粉末と前記カーボン粉末との配合比が重量比で10:1?10である最終寸法より大きい予備成形体を加圧して成形する工程と、
前記予備成形体の一部を機械加工または手加工により部品形状に、生加工して予備成形体の寸法よりは小さく最終寸法よりは大きい寸法の成形体を形成する工程と、
前記成形体に溶融シリコンを含浸させる工程と、
溶融シリコンの含浸された前記成形体の表面層を機械加工により最終寸法の部品とする工程と
を有することを特徴とするシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法。
【請求項3】
平均粒径が0.1μmから5μmの炭化ケイ素粉末と平均粒径が0.005μmから1μmのカーボン粉末からなり、前記炭化ケイ素粉末と前記カーボン粉末との配合比が重量比で10:1?10である最終寸法より大きい成形体をスリップキャスティングにより加圧して成形する工程と、
前記成形体に溶融シリコンを含浸させる工程と、
溶融シリコンの含浸された前記成形体の表面層を機械加工により最終寸法の部品とする工程と
を有することを特徴とするシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法。
【請求項4】
機械加工による取りしろが、100μm以上であることを特徴とする請求項1乃至3記載のシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法。
【請求項5】
成形体の寸法は、最終寸法より10%以下の範囲で大きく製造されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法。
【請求項6】
成形体の寸法は、10cmを超える場合、最終寸法より8%以下の範囲で大きく製造されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法。
【請求項7】
成形体の寸法は、成形体の寸法が20cmを超える場合、最終寸法より5%以下の範囲で大きく製造されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載のシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法。
【請求項8】
炭化ケイ素とカーボンからなる成形体は、有機バインダを含有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載のシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法。
【請求項9】
成形体の成形が、前記混合粉末を0.5MPaから2MPの加圧下で加圧成形により行われることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載のシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法。
【請求項10】
成形体の成形が、前記混合粉末を分散媒に分散させたスラリーを圧力鋳込成形機を用いて0.5MPaから10MPaの加圧下に行われることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載のシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法。
【請求項11】
成形体へのシリコンの含浸が、1400℃以上で、減圧下又は不活性雰囲気下で行われることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項記載のシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法。」
と補正するものである。
この補正は、補正前の請求項9及び10を削除し、これら補正前の請求項9及び10に特定する事項を補正後の請求項1?3にそれぞれ付け加えたものであって、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号及び第2号該当する。
そこで、補正された請求項1に係る発明(以下、「補正後本願発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうかについて検討する。
なお、補正後の請求項1?3における「前記成形体に溶融シリコンを含浸させる」は「成形体に溶融シリコンを含浸させる」の誤記であると認める。

A.引用例
原査定の拒絶の理由で引用文献5として引用され本願出願前に頒布された特開平10-25086号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1)「【請求項4】 平均粒径が2μm以下の炭化ケイ素粉末100重量部に、50重量部以下の炭素粉末を添加混合した混合粉末を用いて、所定形状に成形した成形体を、真空雰囲気中にて加熱して仮焼体となし、さらに仮焼体に溶融金属ケイ素を含浸する磁気ヘッド・スライダー用材料の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項4)
(2)「【実施例】
実施例1
表1に示す平均粒径の異なる炭化ケイ素粉末100重量部に、平均粒径が75nmの炭素粉末をそれぞれ0、20、40、50重量部添加配合した混合粉末に分散剤として、カルボン酸アンモニウム塩、結合剤としてアクリル系樹脂、潤滑剤としてステアリン酸、可塑剤としてポリエチレングリコールを添加してスラリーを作製し、粘度調整を行ったあと噴霧造粒し、粒径が150μm未満の造粒粉を得た。
造粒後、加圧力300kg/cm^(2)にて寸法70×70×5(mm)にプレス成形後、2000kg/cm^(2)の圧力にて冷間静水圧プレスを行って成形体を得た後、0.1?0.01Torrの真空雰囲気にて600℃で3時間加熱し仮焼体を得た。
その後、黒鉛ルツボ内に前記仮焼体を収容し、金属ケイ素を装入後、0.1?0.01Torrの真空雰囲気にて1500℃で3時間保持し、前記仮焼体中に溶融金属ケイ素を含浸する処理を行った。得られた焼結体・・・・・・。」(【0020】?【0022】)
(3)【0026】の表1には、「SiC原料粉平均粒径(μm)」として0.7及び2が記載されている。

B.対比・判断
(あ)上記(1)に記載された「磁気ヘッド・スライダー用材料の製造方法」の実施例である上記(2)には、「表1に示す平均粒径の異なる炭化ケイ素粉末100重量部に、平均粒径が75nmの炭素粉末をそれぞれ・・・・・・20、40、50重量部添加配合した混合粉末に分散剤・・・・・・、結合剤・・・・・・、潤滑剤・・・・・・、可塑剤・・・・・・を添加し・・・・・・噴霧造粒し、・・・・・・造粒粉を得・・・・・・、・・・・・・寸法・・・・・・にプレス成形後、・・・・・・冷間静水圧プレスを行って成形体を得た後、・・・・・・真空雰囲気にて600℃で・・・・・・仮焼体を得・・・・・・、黒鉛ルツボ内に前記仮焼体を収容し、・・・・・・前記仮焼体中に溶融金属ケイ素を含浸する処理を行った。得られた焼結体・・・・・・。」と記載され、この「表1に示す平均粒径の異なる炭化ケイ素粉末」とは、上記(3)の表1によれば、炭化ケイ素平均粒径が0.7または2μmのものであるといえる。
(い)上記(2)の「平均粒径が75nmの炭素粉末」とは、nmをμmで書き改めると、「平均粒径が0.075μmの炭素粉末」である。
上記(あ)及び(い)の検討を踏まえて、上記(1)?(3)の記載事項を整理すると、引用例には、
「平均粒径が0.7μmまたは2μmの炭化ケイ素粉末100重量部に平均粒径が0.075μmの炭素粉末20、40または50重量部添加配合した混合粉末に、分散剤、結合剤、潤滑剤、可塑剤を添加して噴霧造粒した造粒粉を得て、所定形状に成形した成形体を、真空雰囲気中にて600℃で加熱して仮焼体となし、さらに仮焼体に溶融金属ケイ素を含浸する磁気ヘッド・スライダー用材料の製造方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

そこで、補正後本願発明と引用発明とを対比する。
(か)引用発明の「平均粒径が0.7μmまたは2μmの炭化ケイ素粉末」は、補正後本願発明の「平均粒径が0.1μmから5μmの炭化ケイ素粉末」と、平均粒径が0.7μmと2μmで一致している。
(き)「炭素粉末」は「カーボン粉末」であるから、引用発明の「平均粒径が0.075μmの炭素粉末」は、補正後本願発明の「平均粒径が0.005μmから1μmのカーボン粉末」と、平均粒径が0.075μmで一致している。
(く)引用発明の「炭化ケイ素粉末100重量部」と「炭素粉末20、40または50重量部」の配合比は、重量比で10:2(=100:20)、10:4(=100:40)、10:5(=100:50)となり、補正後本願発明の「配合比が重量比で10:1?10」であることと、10:2、10:4、10:5である点で一致している。
(け)補正後本願発明の「圧粉体を成形する工程」について、本願明細書の記載をみてみると、【0022】には、「炭化ケイ素とカーボンには、必要に応じて公知の有機バインダの適当量を添加してもよい。」と、また、同じく【0041】には、「平均粒径1μmの炭化ケイ素粉末(α-SiC)と平均粒径0.5μmのカーボン粉末(カーボンブラック)と有機バインダとを混合して造粒粉末を作製し・・・・・・プレス成形機を用いて・・・・・・成形型に充填し、・・・・・・加圧して円柱状の成形体を成形し・・・・・・、不活性ガス雰囲気中600℃の温度で加熱・保持し・・・・・・た」と記載されているから、補正後本願発明において「・・・・・・炭化ケイ素粉末と・・・・・・カーボン粉末からなり、・・・・・・配合比が・・・・・・である圧粉体を成形する工程」とは、「・・・・・・炭化ケイ素粉末(・・・・・・)と・・・・・・カーボン粉末(・・・・・・)と有機バインダとを混合して造粒粉末を作製し・・・・・・プレス成形機を用いて・・・・・・成形型に充填し、・・・・・・加圧して円柱状の成形体を成形し・・・・・・、不活性ガス雰囲気中600℃の温度で加熱・保持し・・・・・・た」ことといえ、「造粒粉」は「造粒粉末」のことであり、「結合剤」は「有機バインダ」とみることができるから、引用発明の「混合粉末に、分散剤、結合剤、潤滑剤、可塑剤を添加して噴霧造粒した造粒粉を得て、所定形状に成形した成形体を、真空雰囲気中にて600℃で加熱して仮焼体とな」すことは、補正後本願発明の「圧粉体を成形する工程」に相当する。
(こ)引用発明の「仮焼体に溶融金属ケイ素を含浸する」は、補正後本願発明の「成形体に溶融シリコンを含浸させる工程」に相当する。
(さ)引用発明の「磁気ヘッド・スライダー用材料」は、上記(か)?(さ)の検討を踏まえると、「シリコン/炭化ケイ素複合材料」であることは明らかであり、補正後本願発明の「シリコン/炭化ケイ素複合部品」と「シリコン/炭化ケイ素複合材」である点で一致している。
そうすると、両者は、
「平均粒径が0.7μmまたは2μmの炭化ケイ素粉末と平均粒径が0.075μmのカーボン粉末を含み、前記炭化ケイ素粉末と前記カーボン粉末との配合比が重量比で10:2、10:4、10:5である圧粉体を成形する工程と、
前記成形体に溶融シリコンを含浸させる工程と、
を有するシリコン/炭化ケイ素複合材の製造方法。」である点で一致し、次の点で相違している。
相違点A:圧粉体を成形する工程につき、補正後本願発明は炭化ケイ素粉末とカーボン粉末と有機バインダを混合した造粒粉末を成形しているのに対し、引用発明はさらに分散剤、潤滑剤、可塑剤も添加した造粒粉を成形している点
相違点B:補正後本願発明は、溶融シリコンの含浸された前記成形体の表面層を機械加工により削除して最終寸法の部品とする工程を有するのに対し、引用発明はかかる工程を有していない点
相違点C:シリコン/炭化ケイ素複合材につき、補正後本願発明は、「部品」であるのに対し、引用発明は「磁気ヘッド・スライダー用材料」である点

次に、これら相違点について検討する。
・相違点Aについて
引用例の【0016】には、「成形体の均一性を向上させたり強度を保持させるために、公知の分散剤、潤滑剤、可塑剤、結合剤を添加してもよい。」と記載されており、分散剤、潤滑剤、可塑剤は必要に応じて添加されるものであり、これらを添加しないようにすること、すなわち、相違点Aに係る補正後本願発明の特定事項をなすことは当業者であれば適宜なし得ることである。
・相違点B及びCについて
引用発明の「磁気ヘッド・スライダー用材料」は、引用例の「この発明は熱伝導性、摺動特性に優れ、切断加工時の抵抗が小さく、耐チッピング性に優れた磁気ヘッド・スライダー用材料に係り」(【0001】)の記載をみると、切断加工して磁気ヘッド・スライダー部品となるものとみることができ、引用例の上記(2)の「前記仮焼体中に溶融金属ケイ素を含浸する処理を行った。得られた焼結体・・・・・・。」との記載をみると、焼結体であるといえる。
ところで、焼結体を予め目的とする部品の形状よりも若干大きく製造し、その後研磨などの焼結体の表面層の機械加工によって目的とする部品の形状とすることは周知技術(例えば、原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された特開昭62-12668号公報の2頁左下欄16?17行を参照。)である。
そうすると、引用発明において、焼結体である磁気ヘッド・スライダー用材料を切断加工して磁気ヘッド・スライダーなる部品とすることに代えて、焼結体のまま目的とする形状よりも若干大きな磁気ヘッド・スライダーなる部品を製造し、その後研磨などの焼結体の表面層の機械加工によって目的とする部品の形状とすること、すなわち、上記相違点B及びCに係る補正後本願発明の特定事項をなすことは単なる周知技術の採用にすぎない。
また、引用例には、「仮焼体に、溶融金属ケイ素を含浸させることにより、焼結体中のSiC粒界にケイ素(Si)と炭素(C)の反応により得られた微細なSiCが新たに生成する」(【0010】)及び「原料粉末の炭化ケイ素粉末に添加配合する炭素粉末は、炭化ケイ素粉末100重量部に対して50重量部を超えると、仮焼体中に溶融金属ケイ素を含浸する場合、Si+C→SiCの反応に伴う体積膨張が異常に大きくなり、含浸体に割れが発生する恐れがあり好ましくないため、50重量部以下とする。」(【0015】)との記載があるから、本願明細書の「本発明においては、炭化ケイ素とカーボンからなる成形体中に溶融したシリコンを含浸させる工程で、成形体中のカーボンと含浸したシリコンが反応して、出発原料の炭化ケイ素の表面にこれとは別の平均粒径の小さい炭化ケイ素が形成される。出発原料の炭化ケイ素の粒子間に、溶融シリコンとカーボン粉末との反応により形成された炭化ケイ素とシリコン相とを存在させることによって、優れた機械的特性と、高い信頼性と耐久性を有するシリコン/炭化ケイ素複合材料が得られる。この工程では、炭化ケイ素とカーボンからなる成形体を加圧成形したのちにシリコンを溶浸するため、緻密な材料が得られ、溶浸・焼結時に材料の収縮がない。」(【0030】)という、補正後本願発明の作用・効果は当業者であれば予想し得る程度のものである。
よって、補正後本願発明は、引用例に記載されたもの及び周知技術から当業者であれば容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。

C.補正却下のむすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

なお、請求人は、平成23年4月25日付けの回答書において、請求項1に係る発明について、
「[請求項1]
平均粒径が0.1μmから5μmの炭化ケイ素粉末と平均粒径が0.005μmから1μmのカーボン粉末からなり、前記炭化ケイ素粉末と前記カーボン粉末との配合比が重量比で10:1?10である圧粉体からなり、最終寸法より10%以下の範囲で大きい寸法の成形体を成形する工程と、
前記成形体に溶融シリコンを含浸させる工程と、
溶融シリコンの含浸された前記成形体の表面層を機械加工により削除して最終寸法の部品とする工程と
を有することを特徴とするシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法。 」
なる補正案を提示し(以下、この補正案として示された請求項1に係る発明を「補正案発明」という。)、引用文献5(上記引用例)との差違について主張しているので、以下に検討する。
(た)上記補正案発明は、補正後本願発明において、成形体の寸法について、「最終寸法より10%以下の範囲で大きい寸法」なる特定事項を更に付加するものであるが、材料の歩留まりを大きくする(捨てる材料を少なくする)という製造方法における周知の課題を考慮すれば、上記相違点B及びCについての検討のところで述べた「焼結体を予め目的とする部品の形状よりも若干大きく製造」という周知技術において、その若干大きくする程度を少なくし、例えば、「最終寸法より10%以下の範囲」とすることは当業者であれば適宜なし得ることである。
(ち)そして、請求人は、「本願発明では、・・・・・・5MPaの圧力で加圧して成形体とすることで、溶融シリコンを含浸させやすくするとともに、溶融シリコンの充填量を増加させて、焼結収縮等を抑制することができます。一方、引用文献5に記載された発明では、・・・・・・加圧力300kg/cm^(2)(30MPa)でプレス成形後、2000kg/cm^(2)(200MPa)の圧力にて冷間静水圧プレスを行います。このように高い加圧力を加えた場合、成形体の密度が高くなるために溶融シリコンが含浸しにくくなるとともに、溶融シリコンの充填量が低下して、焼結収縮等が大きくなります。従って、引用文献5に記載された発明では、焼結収縮等を考慮して成形体の寸法は最終寸法よりもかなり大きくなっていると思料され、特に請求項1?3の補正案に係る発明のように最終寸法の10%以下の大きさとはなっていないと思料します。」(8頁15?26行)と主張しているが、補正後本願発明や補正案発明の特定事項には成形体を製造する際の加圧力についての特定はなされておらず、仮に請求人の主張するとおり、特定の加圧力でなければ溶融シリコンが含浸しにくくなり溶融シリコンの充填量が低下して、焼結収縮等が大きくなるのであれば、この加圧力について特定されていない補正後本願発明や補正案発明は溶融シリコンの充填量が低下して焼結収縮等が大きくなるものを含んでいることになって、本願明細書の【0009】でいう課題を解決できない場合が生じることになり、その場合は特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていないこととなる。
(つ)また、上記回答書に補正案が示された請求項2及び3に係る発明についても、上記(ち)で述べたことは当てはまる。
よって、補正案として示された請求項1?3に係る発明は特許を受けることはできないから、補正する機会を与えない。

3.本願発明
上記のとおり平成20年7月22日付けの手続補正書による補正は却下されたので、本願の請求項1?13に係る発明は願書に最初に添付された明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
炭化ケイ素とカーボンからなる圧粉体を成形する工程と、
前記成形体に溶融シリコンを含浸させる工程と、
溶融シリコンの含浸された前記成形体の表面層を機械加工により削除して最終寸法の部品とする工程と
を有することを特徴とするシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法。」
なお、「前記成形体」は、「成形体」の誤記であると認める。

4.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用され本願出願前に頒布された特開平10-25086号公報(以下、「刊行物」という。)には、以下の事項が記載されている。
4-1.「(1)平均粒径10μ?平均粒径200μのSiC粉末85?97重量部と、SiによってSiCに転化せしめる平均粒径0.1μ?平均粒径8μのC微粉末3?15重量部とを混合焼成して生ずる空隙にSiを充填してなることを特徴とする高密度でかつ高強度の半導体拡散炉の構成部材。」(特許請求の範囲第1項)
4-2.「実施例
30?170μの平均粒径を有するSiC粉末70重量部と、0.1?8μの平均粒径を有するC粉末9重量部と、有機バインダーとしてフェノールレジン10重量部を配合混練し、周知のやり方で造粒する。このような造粒物を乾燥させてからラバープレスにより半導体炉芯管の形状に成形する。しかるのち1200℃の温度で焼成したのち、塩酸ガスと少量の水蒸気とにより1000℃の温度でパージを行なって純化させてからSiを1700℃の温度で含浸してC微粉末をケイ化させる。最後に必要に応じて研磨等の最終仕上げを行なう。」(2頁左下欄4?17行)

5.対比・判断
上記4-1.に記載された「高密度でかつ高強度の半導体拡散炉の構成部材」の製造方法が記載されているといえる上記4-2.には、「・・・・・・SiC粉末・・・・・・と、・・・・・・C粉末・・・・・・と、有機バインダー・・・・・・を配合混練し、・・・・・・造粒する。このような造粒物を・・・・・・ラバープレスにより半導体炉芯管の形状に成形する。・・・・・・焼成したのち・・・・・・Siを・・・・・・含浸してC微粉末をケイ化させる。最後に・・・・・・研磨・・・・・・の最終仕上げを行なう。」と記載されている。
そうすると、刊行物には、
「SiC粉末とC粉末と、有機バインダーを配合混練し、造粒し、ラバープレスにより半導体炉芯管の形状に成形し焼成したのち、Siを含浸してC微粉末をケイ化させ研磨の最終仕上げを行なう、高密度でかつ高強度の半導体拡散炉の構成部材の製造方法。」の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されているといえる。
本願発明と刊行物発明とを対比する。
(な)刊行物発明の「SiC」、「C」は、それぞれ、本願発明の「炭化ケイ素」、「カーボン」に相当することは明らかである。
(に)本願発明の「炭化ケイ素とカーボンからなる圧粉体を成形する工程」について、本願明細書の記載をみてみると、【0041】には、「[実施例1]・・・・・・炭化ケイ素粉末(α-SiC)と・・・・・・カーボン粉末(カーボンブラック)と有機バインダとを混合して造粒粉末を作製した。次に、得られた造粒粉末をプレス成形機を用いて・・・・・・成形型に充填し、・・・・・・加圧して円柱状の成形体を成形した。この成形体を、不活性ガス雰囲気中600℃の温度で加熱・保持し、有機バインダを脱脂した」と記載されているから、刊行物発明の「SiC粉末とC粉末と、有機バインダーを配合混練し、造粒し、ラバープレスにより半導体炉芯管の形状に成形し焼成し」は、本願発明の「炭化ケイ素とカーボンからなる圧粉体を成形する工程」に相当し、成形体を得ているものといえる。
(ぬ)刊行物発明の「Siを含浸してC微粉末をケイ化させ」ることは、上記(に)の検討を併せみると、本願発明の「成形体に溶融シリコンを含浸させる工程」に相当することは明らかである。
(ね)本願発明の「シリコン/炭化ケイ素複合部品」とは、本願明細書の【0013】に、「本明細書において「シリコン/炭化ケイ素複合部品」というときの「部品」には、複数集まって全体を構成する普通の意味での「部品」の他、装置等に付属的に用いられる治具、部材あるいは装飾品等も含まれる。」と記載されているから、刊行物発明の「高密度でかつ高強度の半導体拡散炉の構成部材」は、本願発明の「部品」に相当する。
(の)本願発明の「溶融シリコンの含浸された前記成形体の表面層を機械加工により削除して最終寸法の部品とする工程」について、本願明細書の記載をみてみると、【0041】には、「[実施例1]・・・・・・シリコン/炭化ケイ素複合材料の表面を表面研磨加工によりほぼ均一に削除」と記載されているから、上記機械加工には表面研磨加工が含まれているといえる。一方、刊行物発明の「研磨の最終仕上げを行なう」ことにより、「Siを含浸してC微粉末をケイ化させ」たものを最終寸法としていることは明らかであるから、上記(ね)の検討も併せみると、該「研磨の最終仕上げを行なう」ことは、本願発明の「溶融シリコンの含浸された前記成形体の表面層を機械加工により削除して最終寸法の部品とする工程」に相当する。
(ま)刊行物発明の「高密度でかつ高強度の半導体拡散炉の構成部材」は、上記(な)?(の)の検討を併せみると、本願発明と同じ工程により製造された「部品」であるとみることができるから、本願発明の「シリコン/炭化ケイ素複合部品」といえる。
そうすると、両者は、
「炭化ケイ素とカーボンからなる圧粉体を成形する工程と、
前記成形体に溶融シリコンを含浸させる工程と、
溶融シリコンの含浸された前記成形体の表面層を機械加工により削除して最終寸法の部品とする工程と
を有するシリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法」で一致し、相違するところはないし、仮に相違するところがあったとしても微差であって当業者であれば適宜なし得る程度のものである。
よって、本願発明は刊行物に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは同法同条第2項の規定により特許を受けることはできない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、同刊行物から当業者が容易に発明をすることができたものであるから同法同条第2項の規定により特許を受けることはできない。
したがって、その余の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-12 
結審通知日 2011-07-19 
審決日 2011-08-01 
出願番号 特願2002-190588(P2002-190588)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C04B)
P 1 8・ 575- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 武村守 宏文  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 斉藤 信人
深草 祐一
発明の名称 シリコン/炭化ケイ素複合部品の製造方法  
代理人 須山 佐一  
代理人 特許業務法人サクラ国際特許事務所  

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