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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1243646
審判番号 不服2008-18159  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-16 
確定日 2011-09-15 
事件の表示 特願2001-364664「2-クロロ-5-クロロメチルチアゾールの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年9月11日出願公開、特開2002-255948〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成13年11月29日(優先権主張平成12年12月28日)の出願であって、以降の手続の経緯は、以下のとおりのものである。

平成20年 3月28日付け 拒絶理由通知書
平成20年 5月27日 意見書・手続補正書
平成20年 6月12日付け 拒絶査定
平成20年 7月16日 審判請求書
平成20年 8月11日 手続補正書
平成20年 9月18日 手続補正書(方式)
平成20年10月10日付け 前置報告書
平成23年 2月23日付け 審尋
平成23年 4月 6日 回答書

第2 本願発明
この出願の発明は、平成20年8月11日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、下記のとおりのものである。
「2-クロロアリルイソチオシアネートを、トルエンの存在下で塩素化剤と反応させることを特徴とする式(I):
【化1】

の2-クロロ-5-クロロメチルチアゾールの製造方法。」

第3 原査定の理由
原査定は、「この出願については、平成20年3月28日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。」というものであって、その「理由」は、「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記(A)1の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。
そして、上記「(A)1の刊行物」は、特開平4-234864号公報(以下、「刊行物1」という。)である。
そうすると、原査定の理由は、「本願発明は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。

第4 当審の判断
本願発明は、原査定の理由のとおり、その出願前に日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
その理由は、以下のとおりである。

1.刊行物の記載事項
刊行物1及びこの出願の出願時の技術常識を示す刊行物である下記刊行物2?6には、以下の事項が記載されている。

(1)刊行物1
(1-1)「【請求項1】式
【化1】

(式中Xは脱離基を示す。)で表わされるイソチオシアン酸アリル誘導体と塩素化剤とを反応させることを特徴とする
【化2】

で表わされる2-クロロ-5-(クロロメチル)チアゾールの製造方法。
【請求項2】式〔II〕のXが塩素原子である請求項(1)記載の製造法。」(特許請求の範囲)

(1-2)「本発明の製造法は例えば下記記載の反応条件に従って実施することができる。
(A) イソチオシアン酸アリル誘導体〔II〕と塩素化剤とを反応させて2-クロロ-5-(クロロメチル)チアゾール(化合物〔I〕)を製造することができる。
【化9】

本反応は無溶媒で行なってもよいが、反応条件下で不活性な溶媒で希釈してもよい。このような溶媒としては例えば、ジクロロメタン,クロロホルム,四塩化炭素,1,2-ジクロロエタン,1,1,1-トリクロロエタン,1,1,2,2-テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素が好まれる。塩素化剤は、イソチオシアン酸アリル誘導体〔II〕に対して、通常1?1.5当量用いられるが、場合によっては過剰量(2?10当量)用いてもよい。」(段落【0015】?【0017】)

(1-3)「本反応は-20℃?150℃の間で行なうことができるが、0℃?60℃の間が特に好ましい。」(段落【0018】)

(1-4)「実施例1
イソチオシアン酸2-クロロアリル13.4g,クロロホルム10mlの混合物に、氷冷下(内温10℃以下),塩素ガスを1時間40分にわたり吹き込んだ。吸収した塩素ガスの重量は7.71gであった。この時点での生成物はNMRより、塩化2-アザ-1,4-ジクロロ-1,4-ペンタジエンスルフェニル
【化22】

(NMR(CDCl_(3)):4.33(2H,m),5.38(1H,m),5.53(1H,m))及び2,5-ジクロロ-5-(クロロメチル)-2-チアゾリン
【化23】

(NMR(CDCl_(3)):4.08(2H,m),4.58(2H,m))と推定された。浴を外すと発熱してきたので水浴につけ、内温を40℃以下に保った。4時間後、浴を外しても発熱しなくなった。この時点で2-クロロ-5-(クロロメチル)チアゾールが主生物となった。クロロホルムを留去後、減圧蒸留し、13.3gの2-クロロ-5-(クロロメチル)チアゾールを得た。収率73%。bp108?110℃/18mmHg。mp約30℃。
NMR(CDCl_(3)):4.72(2H,s),7.51(1H,s)

実施例2
イソチオシアン酸2-クロロアリル50g,クロロホルム50mlの混合物に、水浴中で、内温を30℃以下に保ちながら、塩化スルフリル60.1gを1時間30分で滴下した。浴を外して室温でさらに2時間30分反応させた。この間徐々に発熱して内温が最大36℃に達した。溶媒と過剰の塩化スルフリルを留去した。残留物をジクロロメタン400mlに溶かし、この溶液を重そう水及び水で洗浄した。硫酸マグネシウムで乾燥後濃縮した。残留物を減圧蒸留し、51.7gの2-クロロ-5-(クロロメチル)チアゾールを得た。収率 82%。
純度90%以上。bp: 110℃/20mmHg。

実施例3
イソチオシアン酸2-クロロアリル11.6gに氷冷下(内温5℃以下)、0.843Mの塩素四塩化炭素溶液103mlを1時間30分で滴下した。氷冷下で1時間,室温で4時間かくはんした所、生成物はNMRより推定して塩化2-アザ-1,4-ジクロロ-1,4-ペンタジエンスルフェニルのみで、他の少量の原料が残存していた。この反応液より常圧下で四塩化炭素を留去したところ、主生物が2-クロロ-5-(クロロメチル)チアゾールとなった。

実施例4
塩化スルフリル1.00gにイソチオシアン酸2-クロロアリル0.43gを室温で3分間で加え、30分間かくはんした。反応液に四塩化炭素10mlを加え、10℃以下で反応混合物を減圧下に濃縮した。この時点での主生物は2,5-ジクロロ-5-(クロロメチル)-2-チアゾリンと考えられるものであったが、60℃で30分間加熱すると2-クロロ-5-(クロロメチル)チアゾールが主成物となった。

実施例5
氷冷下、塩化スルフリル0.50gにイソチオシアン酸2-クロロアリル0.22gを3分間で滴下し、氷冷下でさらに1時間かくはんした。クロロホルム10mlを加え、20℃以下で減圧下に反応混合物を濃縮した。この時点での主生物は2,5-ジクロロ-5-(クロロメチル)-2-チアゾリンと考えられたが、40℃?60℃でさらに濃縮した所、主生物が2-クロロ-5-(クロロメチル)チアゾール・塩酸塩又は2,2-ジクロロ-5-(クロロメチル)-4-チアゾリルと推定されるものに変化した。
【化24】

(NMR(CDCl_(3)):4.79(2H,s),7.70(1H,s))このものにクロロホルムを加えたのち、20℃以下で希アンモニア水又は重そう水を加えてかくはんした所、2-クロロ-5-(クロロメチル)チアゾールが得られた。」(段落【0063】?【0070】)

(2)刊行物2(特開平10-45706号公報)
(2-1)「【請求項4】 一般式(4)で表される2-アルキルチオベンズアルデヒド類を塩素化剤を用いて塩素化した後、水または低級アルコールを用いて加水分解することを特徴とする一般式(1)で表されるジホルミルジフェニルジスルフィド化合物の製造方法。
【化4】

(式中、R^(1)は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1?4の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1?4のアルコキシ基またはシアノ基を示し、R^(2)は炭素数1?4の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を示す。)」(特許請求の範囲)

(2-2)「塩素化に用いる溶媒については、一般式(4)で表される化合物によっては無溶媒中でも塩素化を行うことができ、塩素化剤と反応しない溶媒ならば、特に限定されるものでなく、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の炭化水素類、ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒、等を挙げることができる。」(段落【0038】)

(3)刊行物3(特開平8-301847号公報)
(3-1)「【請求項1】 一般式(1):
【化1】

[式中、Xは、-CN、-COOR^(1)(R^(1)は、水素原子、アルキル基、又はアルキル基が置換していてもよいアリール基を表す。)又は-CONR^(2)R^(3)(R^(2)、R^(3)は、同じか或は異なって、水素原子、アルキル基、又はアルキル基が置換していてもよいアリール基を表す。)を表す。]で示される3-置換ピリジン-1-オキシドを、塩基性有機窒素化合物の存在下、塩化チオニル及び一般式(2):
RSO_(2)Cl (2)
[式中、Rは、塩素原子、アルキル基、又はアルキル基が置換していてもよいアリール基を表す。]で示されるスルホクロリドからなる群より選ばれる塩素化剤と反応せしめることを特徴とする一般式(3):
【化2】

[式中、Xは、上記と同じ。]で示される2-クロロ-3-置換ピリジンの製造法。」(特許請求の範囲)

(3-2)「塩基性有機窒素化合物の存在下での3-置換ピリジン-1-オキシド(1)と塩素化剤との反応は、溶媒中で行うこともできる。使用できる溶媒は、本発明における塩素化剤と反応しないものであれば特に限定されない。このような溶媒としては、例えばジクロロメタン、クロロホルム、1,1,2,2-テトラクロロエタン、四塩化炭素、ベンゼン、トルエン、キシレン、o-ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、テトラリン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N,N-ジメチル-1,3-イミダゾリジン-2-オン等が挙げられる。」(段落【0017】)

(4)刊行物4(特開平4-139164号公報)
(4-1)「(1)一般式( I )

[式中、Rは炭素数1?4のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていても良いアルキル基;アルケニル基;アルキニル基;シクロアルキル基を表わし、R’は低級アルキル基を表わす。]で示されるカルバミン酸エステル誘導体を塩素化剤を用いて塩素化することを特徴とする一般式(II)

[式中、Rは炭素数1?4のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていても良いアルキル基;アルケニル基;アルキニル基;シクロアルキル基を表わす。]
で示されるp-クロロフェニルカルバミン酸エステルの製造方法。
(2)塩素化剤として塩化スルフリルを用いる特許請求の範囲第(1)項に記載の方法。
(3)溶媒として、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラクロロエチレン、ヘキサン、へプタン、アセトニトリル、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシドから選ばれた1以上の不活性溶媒を使用する特許請求の範囲第(1)項に記載の製造法。」(特許請求の範囲)

(4-2)「本反応で使用できる不活性溶媒は反応を阻害しないものであればよく、たとえばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム、テトラクロロエチレン等のハロゲン化溶媒、ヘキサン、へプタン等の脂肪族炭化水素類、アセトニトリル、アセトン、N、N-ジメチルホルムアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒などが挙げられる。」(第3頁右上欄下から4行?左下欄第5行)

(5)刊行物5(特開平9-263562号公報)
(5-1)「【請求項1】 三塩化リン、五塩化リン及び塩化スルフリルから選ばれる塩素化合物の存在下にピペロニルジクロライドを分子状塩素と反応させ、生成するジクロロピペロニリデンジクロライドを加水分解することを特徴とするプロトカテキュアルデヒドの製造方法。」(特許請求の範囲)

(5-2)「ピペロニルジクロライドの塩素化においては、溶媒として、ピペロニルジクロライドを溶解し、それ自体は塩素化されにくい溶媒を使用することが好ましい。このような溶媒としては、(1)ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素、(2)四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、1,2-ジクロロエタン等の脂肪族ハロゲン化炭化水素、(3)n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-デカン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等の脂肪族非ハロゲン化炭化水素、(4)ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル、及び(5)酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステルから選ばれる少なくとも一つの溶媒が挙げられる。これら溶媒の中では、芳香族炭化水素、脂肪族ハロゲン化炭化水素及びエステルが好ましい。」(段落【0015】)

(6)刊行物6(特開平11-322704号公報)
(6-1)「【化18】

【化19】

」(段落【0027】?【0028】)

(6-2)「スキーム2を参照して、前記式XIの化合物は、in situで形成したシリル化ヒドロキシルアミンと続いて反応させる式Xの酸クロリドをin situで形成させるために、式IXの化合物から、不活性溶媒、例えば、塩化メチレン又はトルエン中、塩素化剤、例えば、塩化オキサリルまたは塩化チオニル、好ましくは塩化オキサリル及び触媒量、好ましくは約2%のN,N-ジメチルホルムアミドとを反応させることにより製造する。」(段落【0034】)

2.刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「式
【化1】

(式中Xは脱離基を示す。)で表わされるイソチオシアン酸アリル誘導体と塩素化剤とを反応させることを特徴とする
【化2】

で表わされる2-クロロ-5-(クロロメチル)チアゾールの製造方法」(摘記(1-1)の【請求項1】)において、「式〔II〕のXが塩素原子である」製造方法(摘記(1-1)の【請求項2】)が記載されている。
また、「本反応は無溶媒で行なってもよいが、反応条件下で不活性な溶媒で希釈してもよい」と記載され(摘記(1-2))、クロロホルムや四塩化炭素などの「溶媒」の存在下で反応を行った例が記載されている(摘記(1-4))。
したがって、刊行物1には、
「式
【化1】

(式中Xは塩素原子を示す。)で表わされるイソチオシアン酸アリル誘導体と塩素化剤とを溶媒の存在下で反応させることを特徴とする
【化2】

で表わされる2-クロロ-5-(クロロメチル)チアゾールの製造方法」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

3.本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「式
【化1】

(式中Xは塩素原子を示す。)で表わされるイソチオシアン酸アリル誘導体」は、その化学構造式からみて、本願発明の「2-クロロアリルイソチオシアネート」に相当する。
また、引用発明の「塩素化剤」、「【化2】

で表わされる2-クロロ-5-(クロロメチル)チアゾール」は、本願発明の「塩素化剤」、「式(I):
【化1】

の2-クロロ-5-クロロメチルチアゾール」に相当する。
さらに、本願発明の「トルエン」は溶媒であるから、本願発明と引用発明は、「溶媒の存在下で」反応させる方法である点で一致している。
そうすると、本願発明と引用発明は、
「2-クロロアリルイソチオシアネートを、溶媒の存在下で塩素化剤と反応させることを特徴とする式(I):
【化1】

の2-クロロ-5-クロロメチルチアゾールの製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点」という。)。

(相違点)
溶媒が、本願発明では、「トルエン」であるのに対して、引用発明では、「トルエン」でない点

4.相違点についての判断
有機合成を行うにあたり、色々な溶媒を検討してみることは、当業者が普通に行うことであるところ、トルエンは、有機合成における汎用の溶媒の一つである。
そうすると、引用発明の溶媒として、色々な溶媒を検討し、有機合成における汎用の溶媒であるトルエンを用いてみることは、当業者であれば容易に行うことである。

5.効果について
本願発明の効果について、この出願の明細書の段落【0020】には、「本発明によれば、過剰な塩素化剤を必要とせず温和な反応条件下で収率が高く、反応終了後の溶媒の回収が容易である新規な2-クロロ-5-クロロメチルチアゾールの製造方法が提供される」と記載されている。

そこで、上記「過剰な塩素化剤を必要としない」効果について検討すると、この出願の明細書の段落【0010】には、塩素化剤の使用量について、具体的には、「2-ハロゲノアリルイソチオシアネートに対して、通常0.8?2当量、好ましくは1.0?1.5当量、さらに好ましくは1.05?1.30当量」と記載されているから、この程度の使用量をもって、「過剰な塩素化剤」ではないとしていると理解できる。
一方、刊行物1には、塩素化剤は、「イソチオシアン酸アリル誘導体〔II〕に対して、通常1?1.5当量用いられる」と記載されており(摘記(1-2))、本願発明と同程度の使用量であるから、引用発明も「過剰な塩素化剤を必要としない」効果を奏する方法といえる。
したがって、本願発明の「過剰な塩素化剤を必要としない」との効果は、刊行物1の記載から予測できる効果である。

また、「温和な反応条件」について検討すると、この出願の明細書の段落【0012】には、「反応温度」は、具体的には、「通常-60?60℃、好ましくは-10?50℃、さらに好ましくは10?40℃である」と記載され、「反応圧力」は、「好ましくは大気圧下」と記載されているから、この程度の反応温度や反応圧力をもって、「温和な反応条件」としていると理解できる。
一方、刊行物1には、反応温度は、「-20℃?150℃の間で行なうことができるが、0℃?60℃の間が特に好ましい」と記載されており(摘記(1-3))、本願発明と同程度の反応温度である。また、実施例では、特に減圧や加圧をしていないから、大気圧下で反応を行っているといえ、反応圧力についても本願発明と同程度である。
そうすると、引用発明も「温和な反応条件」との効果を奏する方法といえる。
したがって、本願発明の「温和な反応条件下で反応できる」との効果は、刊行物1の記載から予測できる効果である。

さらに、「収率」について検討すると、この出願の明細書には、本願発明の具体例として、実施例3、4、6が記載されているところ、これらの収率は、それぞれ、73%、79%、77.9%である。
一方、引用発明の収率として、刊行物1には、73%、82%である実施例が記載されており(摘記(1-4)の実施例1、2)、本願発明と同程度の収率であるから、引用発明も「収率が高い」との効果を奏する方法といえる。
したがって、本願発明の「収率が高い」との効果は、刊行物1の記載から予測できる効果である。

そして、「反応終了後の溶媒の回収が容易である」との効果について検討すると、この出願の明細書の段落【0003】には、「特開2000-247963号公報には、アセトニトリル等の双極性非プロトン性溶媒中で2-ハロゲノアリルイソチオシアネートを塩素化剤と反応させる方法が記載されている。しかし、アセトニトリル等の溶媒を水と分離して回収することは困難であるため、溶媒の再使用ができないという問題がある。」と記載されていることからみて、「反応終了後の溶媒の回収が容易である」とは、具体的には、水と分離して回収することが容易であることをいうものと理解できる。
一方、トルエンが、水と分離して回収することが容易な溶媒であることは、当業者に自明であるから、本願発明の「反応終了後の溶媒の回収が容易である」との効果は、当業者の技術常識からみて自明の効果である。

以上のとおりであるから、本願発明の効果は、刊行物1の記載及び当業者の技術常識から予測できる程度のものである。

6.まとめ
したがって、本願発明は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

7.請求人の主張について
請求人は、意見書において参考資料1?5を、審判請求書において新たな参考資料を提出し、これらの参考資料によれば、塩素化剤とトルエンは反応しやすいから、塩素化剤を用いる反応において、反応条件下に不活性な溶媒としてトルエンを選択するとは到底考えられない、と主張しているものと認められる。

しかしながら、次に述べるとおり、塩素化剤を用いる反応における、反応条件下に不活性な溶媒として、トルエンは、汎用のものである。

例えば、刊行物2、3には、「塩素化剤と反応しない溶媒」として、トルエンが例示されている(摘記(2-2)、(3-2))。
また、刊行物4には、塩素化剤を用いる反応が記載されているところ(摘記(4-1)の特許請求の範囲第1項)、「反応を阻害しない」「不活性溶媒」として、トルエンが例示されている(摘記(4-1)の特許請求の範囲第3項、摘記(4-2))。
さらに、刊行物5には、塩素化剤である塩化スルフリルを使用する反応が記載され(摘記(5-1))、溶媒としては、「それ自体は塩素化されにくい溶媒」が好ましく、そのような溶媒としてトルエンが例示されている(摘記(5-2))。
そして、刊行物6には、「不活性溶媒、例えば、塩化メチレン又はトルエン中、塩素化剤、例えば、塩化オキサリルまたは塩化チオニル、好ましくは塩化オキサリル…とを反応させる」と記載されている(摘記(6-2))。

これら刊行物2?6の記載によれば、塩素化剤を用いる反応における、反応条件下に不活性な溶媒として、トルエンは、汎用のものであるといえる。

一方、請求人が提出した参考資料には、トルエンと塩素化剤を反応させて塩素化したトルエンを製造する方法が記載されてはいるものの、塩素化剤を用いる反応における溶媒として、トルエンが通常採用されるものではないことについては、記載されていない。
むしろ、上記したとおり、塩素化剤を用いる反応における、反応条件下に不活性な溶媒として、トルエンが汎用のものであることが知られているのだから、引用発明における溶媒としてトルエンを選択することに格別の阻害要因はない。

したがって、請求人の主張は採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-14 
結審通知日 2011-07-19 
審決日 2011-08-01 
出願番号 特願2001-364664(P2001-364664)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福井 悟  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 齋藤 恵
井上 千弥子
発明の名称 2-クロロ-5-クロロメチルチアゾールの製造方法  
代理人 元山 忠行  
代理人 山崎 宏  
代理人 冨田 憲史  
代理人 田中 光雄  

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