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審判番号(事件番号) データベース 権利
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不服200821270 審決 特許
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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1243706
審判番号 不服2010-6590  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-30 
確定日 2011-09-16 
事件の表示 特願2007- 65917「癌の処置および検出において有用な205P1B5との名称の核酸および対応するタンパク質」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月27日出願公開、特開2007-244383〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,2002年(平成14年)8月30日(パリ条約による優先権主張2001年8月31日,米国)を国際出願日とする特願2003-525655号の一部を,平成19年3月14日に分割してなされた出願であって,平成21年11月26日に平成20年12月26日付の手続補正書による補正が却下されるとともに同日付で拒絶査定がなされ,これに対し,平成22年3月30日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同日付で手続補正がなされたものである。

第2 平成22年3月30日付の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成22年3月30日付の手続補正を却下する。

[理由]
1 平成22年3月30日付の手続補正
(1)手続補正1
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,平成20年3月11日付で補正された,
「【請求項1】 配列番号:702に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチド。」から,
「【請求項1】 配列番号:702に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチドであって,前立腺癌で過剰発現される,前記ポリヌクレオチド。」に補正された(以下,「本願補正発明1」という。)。

(2)手続補正2
本件補正により,特許請求の範囲の請求項11は,平成20年3月11日付で補正された,
「【請求項11】 配列番号:702のアミノ酸配列を含むタンパク質上のエピトープに免疫特異的に結合する抗体またはそのフラグメント。」から,請求項9及び10の削除に伴い,補正後の請求項9として,
「【請求項9】 配列番号:702のアミノ酸配列を含むタンパク質上のエピトープに免疫特異的に結合する抗体またはそのフラグメントであって,前記タンパク質が前立腺組織サンプルで過剰発現される,前記抗体またはそのフラグメント。」に補正された(以下,「本願補正発明9」という。)。

(3)手続補正3
本件補正により,特許請求の範囲の請求項36は,平成20年3月11日付で補正された,
「【請求項36】 個体由来の試験組織サンプル中の細胞によって発現される配列番号:702に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質の発現レベルを決定するための手段を含む,個体における前立腺癌の存在を検出するためのキットであって,試験サンプル中のタンパク質の発現レベルが,対応する正常サンプル中のタンパク質の発現レベルと比較される,キット。」から,請求項9?10,20,22,24,26?31,35の削除に伴い,補正後の請求項24として,
「【請求項24】 個体由来の試験前立腺サンプル中の細胞によって発現される配列番号:702に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質の発現レベルを決定するための手段を含む,個体における前立腺癌の存在を検出するためのキットであって,試験前立腺サンプル中のタンパク質の発現レベルが,対応する正常前立腺サンプル中のタンパク質の発現レベルと比較される,キット。」に補正された(以下,「本願補正発明24」という。)。

以下,本願補正発明1,9,24にそれぞれ分けて検討する。

2 本願補正発明1についての検討
補正前の請求項1において発明特定事項であった「ポリヌクレオチド」は,アミノ酸配列によって特定されるものであり,コドンの縮重を考慮すると,様々な塩基配列からなるものを包含している。そうすると,上記手続補正1は,これら多くの「ポリヌクレオチド」の中から,「前立腺癌で過剰発現される」ものに限定するものであるから,この補正は,請求人も審判請求書において主張するように,特許法17条の2第4項第2号(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前のもの。以下,特許法17条の2の規定については同様。)の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
なお,上記手続補正1は,下記(2-2)に示すように,アミノ酸配列で特定され,元々明確であったポリヌクレオチドを不明りょうなものにする補正であり,特許法第36条第6項第2号の規定に基づく拒絶の理由を回避するために行われた補正でもないから,明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る)を目的とするものには該当しない。

(1)特許法第29条第2項について
(1-1)引用例の記載
原査定において,引用文献1として引用され,本願優先日前に頒布された,国際公開第95/13299号(以下「引用例1」という。)には,以下の事項が記載されている。

(A)「本明細書にいう「α2サブユニットDNA」は,同じ名称のヒト神経型ニコチン性アセチルコリン受容体サブユニットをコードするDNAである。このようなDNAは多くの方法で特徴付けられるが,例えば,当該DNAのヌクレオチドは,配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードするものである。現在,望ましいα2をコードするDNAは,配列番号1に示されるコード配列(好ましくは,実質的にその全コード配列,すなわち,ヌクレオチド166-1755)に対して高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズするDNAとして特徴付けられる。特に,本発明において望ましいα2をコードするDNAは,配列番号1に示されるコード配列(すなわち,ヌクレオチド166-1755)と実質的に同じ塩基配列を持つものとして特徴付けられる。」(8頁33行?9頁12行)
また,配列表の配列番号1には,全長2277ヌクレオチドからなる塩基配列が記載され,そのうちコード領域が166-1755位であることが記載されている(43?46頁)。さらに,配列表の配列番号2には,全長529アミノ酸からなるアミノ酸配列が記載されている(46?47頁)。

(1-2)対比
上記記載事項(A)にあるように,引用例1には,配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むヒト神経型ニコチン性アセチルコリン受容体α2サブユニットをコードする単離されたDNAが記載されている。そして,このDNAの1つは,配列番号1に示される塩基配列からなるDNAである。
ここで,引用例1記載の「ヒト神経型ニコチン性アセチルコリン受容体α2サブユニット」及び「DNA」はそれぞれ,本願補正発明1の「タンパク質」及び「ポリヌクレオチド」に相当するから,両者は,「タンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチド」である点で一致し,以下の点で相違している。

[相違点1]上記「タンパク質」が,本願補正発明1では,「配列番号:702に示されるアミノ酸配列を含む」ものであるのに対し,引用例1記載の発明では,配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むものである点。

[相違点2]上記「ポリヌクレオチド」が,本願補正発明1では,「前立腺癌で過剰発現される」ものであるのに対し,引用例1記載の発明では,そのようなものであることが記載されていない点。

(1-3)判断
上記[相違点1]について検討する。
本願補正発明1にある配列番号:702に示されるアミノ酸配列と引用例1にある配列番号2で示されるアミノ酸配列とを対比すると,両者は,全長529アミノ酸からなるものである点で一致し,125位のアミノ酸が,前者では,Thr(スレオニン)となっているのに対し,後者では,Ala(アラニン)となっている点のみで相違している。
しかしながら,以下の[相違点2]で示すように,両者は,天然に存在し,個体差を指すものであることが知られているアレル変異体に相当するものと認められる。
一般に,アレル変異体で生じた1又は数個のアミノ酸変異は元のタンパク質の性質に影響を及ぼさない場合が多いが,疾患等の原因になる場合があることもよく知られている。そのため,ある有用な遺伝子が取得された場合,天然にどのようなアレル変異体が存在するかについて興味を抱くのは当然のことであり,どのような変異体があるかを調べることは当業者に自明の課題であるといえる。
してみると,引用例1記載の発明において,配列番号1の塩基配列に基づきプローブ又はプライマーを設計し,様々なヒト検体から「ヒト神経型ニコチン性アセチルコリン受容体α2サブユニット」のアレル変異体をコードするポリヌクレオチドを取得しようとすることは当業者が容易になし得ることである。そして,両者がヒト検体から得られたものであることを考慮すると,このようにして得られるアレル変異体の中に,125位のアミノ酸がThr(スレオニン)であるものが含まれている蓋然性は高く,配列番号:702に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質に到達することが,当業者にとって格別困難であったとは認められない。

そもそも,1アミノ酸が異なるアレル変異体を取得したからといって直ちに新規なタンパク質を提供したと評価することはできない。「化学物質特許」は,新規で有用な化学物質を世に提供した貢献に対して付与される独占排他的権利であるから,公知のタンパク質と1アミノ酸だけ異なるアレル変異体が存在することを確認した程度のことをもって,そのような独占排他的権利に値するほどの「化学物質」が世に提供されたことになるとは認められない。当該変異により,予想外に格別の効果を奏されることを明らかにしてこそ,「化学物質特許」に値するのである。
しかし,後述するように(下記4(1)参照),配列番号:702に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質は,その発現レベルが,高い蓋然性をもって正常な前立腺よりも前立腺癌で有意に増加しているとは認められず,そのため,前立腺癌を検出するために使用できるものとは認められないから,当該変異により,予想外に格別の効果が奏されるとは認められず,本願補正発明1に係るタンパク質に進歩性は認められない。

上記[相違点2]について検討する。
本願補正発明1における「前立腺癌で過剰発現される」という性質は,ある種のポリヌクレオチドに固有の性質であると認められる。
そこで,本願明細書を検討すると,段落【0025】(下記4(1-1)(ア)参照)には,205P1B5と称される遺伝子が前立腺癌で過剰発現されること,この205P1B5には2つの改変体が存在し,それらはいずれも図2に開示されていること,本願明細書で205P1B5といった場合にはこれらの改変体のいずれをも指すことが記載されている。
そこで,図2を参照すると,205P1B5遺伝子のバージョン1(図2A)とバージョン2(図2B)の塩基配列が開示されており,前者は,本願補正発明1の配列番号:702のアミノ酸配列をコードするものであるが,後者は,引用例1の配列番号2のアミノ酸配列をコードするものである。そして,後者は,引用例1の配列番号1で示される塩基配列とコーディング領域が一致するものである。
そうすると,本願明細書には,引用例1の配列番号1で示される塩基配列からなるDNA(バージョン2)が,前立腺癌で過剰発現するものであると記載されているから,引用例1の配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNAの中にも,前立腺癌で過剰発現しているものが存在すると認められるものである。
したがって,この相違点は,実質的な相違点ではない。

(1-4)請求人の主張
請求人は,平成20年12月26日付の意見書において,125位のアミノ酸が,アラニンからスレオニンに置換されているのは非保存的置換であり,このような非保存的置換が,生物学的活性を大きく損失させる場合があることを指摘し,その具体例として,酸性線維芽細胞増殖因子(添付資料1),又はトランスフォーミング増殖因子α(添付資料2)を挙げ,引用例1に記載された事項から,本願補正発明1のタンパク質を当業者が容易に想到し得ないと主張している。この主張は,本願のスレオニンに置換された改変体が生物学的活性を持たない可能性があるという主張であるとも認められる。
しかし,アレル変異体は配列上の類似性に基づいて取得されるものであり,その取得に活性の確認は必要でないから,仮に非保存的置換により,アレル変異体の生物学的活性が大きく損失されていたとしても,アレル変異体をコードする遺伝子のクローニングが困難になることはない。つまり,アレル変異体を見出すという課題に対して,生物学的活性を損失することは何ら阻害要因となるものではない。
そして,非保存的置換であれば,必ず生物学的活性を損失させるというものでもない。生物学的活性が損失するか否かは,アミノ酸変異が生じる場所や置換されるアミノ酸の種類等に依存するのであり,上記アレル変異体のところで触れたとおり,一般に非保存的置換を行っても,生物学的活性を失わせないことの方が多く,125位のアミノ酸がコンセンサス配列の一部であるとか等の特別な場合を除き,本願の非保存的置換は,生物学的活性を失わないと考える方がむしろ自然である。
さらに,請求人が掲げた添付資料1及び2は,本願補正発明1とは異なる種類のタンパク質に関するものであり,置換されるアミノ酸の種類も異なっているから,本願補正発明1における非保存的置換が生物学的活性を損失させる証拠になるものではない。
したがって,請求人の主張は採用できない。

(2)特許法第36条第6項第2号及び第36条第4項について
(2-1)本願補正発明1に係るポリヌクレオチドの範囲
本願補正発明1に係るポリヌクレオチドは,「配列番号:702に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチド」のうち,特に「前立腺癌で過剰発現される」ものに限定したものである。
ここで,コドンの縮重を考慮すると,通常1つのアミノ酸に複数のコドンが想定されるから,配列番号:702に示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドには数多くの種類の配列を持つものがあり,そのうち実際に前立腺癌で過剰発現されるものは限られた種類のものと予想される。

(2-2)明確性要件
しかし,発明の詳細な説明を参酌しても,前立腺癌で過剰発現されているポリヌクレオチドが持つ配列上の特徴が何ら明らかにされていないから,様々な塩基配列を有するポリヌクレオチドのうち,具体的にどのような塩基配列からなるものが,前立腺癌で過剰発現されるのか不明であり,どのようなポリヌクレオチドが本願補正発明1に含まれるのか明確に把握できない。すなわち,本願補正発明1のポリヌクレオチドは物質として明確に記載されておらず,特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。
したがって,本願は,本件補正後の請求項1の記載が,特許法第36条第6項第2項に規定する要件を満たしているとはいえない。

(2-3)実施可能要件
また,発明の詳細な説明において,前立腺癌で過剰発現されるポリヌクレオチドとして客観的に開示されていると認められるものは,配列番号:701又は703で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドのみであり,それら以外に,どのような塩基配列を有するものが,前立腺癌で過剰発現しているのかは何ら具体的に記載されていない。そして,出願時の技術常識を参酌しても,配列番号:701又は703で示されるもの以外に,コドンの縮重の範囲内で実際に前立腺癌で過剰発現されるものを選択することは当業者といえども過度の実験を要するから,発明の詳細な説明は,本願補正発明1について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

(3)小括
以上のとおりであるから,本願補正発明1は,引用例1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
また,本願補正発明1について,本願は特許法第36条第6項第2号及び特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって,上記手続補正1は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 本願補正発明9についての検討
(1)目的要件違反について
上記手続補正2は,補正前の請求項11において発明特定事項であった「タンパク質」について,「前立腺癌組織サンプルで過剰発現される」という性質を付加するものである。しかし,「前立腺癌組織サンプルで過剰発現される」という性質は,配列番号:702のアミノ酸配列から構成されるタンパク質に固有の性質であって,このような性質を付加したからといって,該タンパク質の物としての構成を限定することにはならないから,この補正は,特許法17条の2第4項第2号(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前のもの。以下,特許法17条の2の規定については同様。)の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。
また,上記手続補正2は,補正前の請求項9が特に不明りょうであるともいえないし,また,特許法第36条第6項第2号の規定に基づく拒絶の理由を回避するために行われた補正でもないから,明りょうでない記載の釈明((拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る)を目的とするものに該当しない。さらに,誤記の訂正や請求項の削除を目的とするものでないことも明らかである。

(2)小括
したがって,上記手続補正2は,平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

4 本願補正発明24についての検討
上記手続補正3は,補正前の請求項36において発明特定事項であった「試験組織サンプル」を,「試験前立腺サンプル」に限定するものであるから,この補正は,特許法17条の2第4項第2号(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前のもの。以下,特許法17条の2の規定については同様。)の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項24に記載された発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)特許法第36条第4項について
(1-1)本願明細書又は図面の記載
(ア)「(発明の要旨)
本発明は,205P1B5と称される遺伝子に関し,この遺伝子は,表Iに列挙される癌において過剰発現される。205P1B5の2つの改変体が存在する(例えば,図2を参照のこと);文脈が明らかそうではないことを示すのでない限り,205P1B5への本明細書中での言及は,これらの改変体のいずれをもいう。正常組織における205P1B5遺伝子発現のノーザンブロット発現分析は,成人組織における制限された発現パターンを示す。205P1B5のヌクレオチド配列(図2)およびアミノ酸配列(図2および図3)を提供する。正常成人組織における205P1B5の組織関連プロファイルは,前立腺腫瘍において観察された過剰発現とあわせて,205P1B5が少なくともいくつかの癌において異常に過剰発現されており,したがって,表Iで列挙された組織のような組織の癌について有用な診断標的,予防標的,予後診断標的および/または治療標的として役立つことを示す。」(段落【0025】)

(イ)「205P1B5タンパク質を検出するために有用な種々の免疫学的アッセイが,使用され,これらのアッセイとしては,種々の型の放射免疫アッセイ,酵素結合イムノソルベント検定法(ELISA),酵素結合免疫蛍光アッセイ(ELIFA),免疫細胞化学方法などが挙げられるがこれらに限定されない。抗体は,205P1B5発現細胞を検出し得る免疫学的画像化試薬として(例えば,放射性核種(radioscintigraphic)画像化方法において),標識および使用され得る。205P1B5タンパク質はまた,本明細書中でさらに記載されるように,癌ワクチンを作製する際に,特に有用である。
(IV.)205P1B5抗体)
本発明の別の局面は,205P1B5関連タンパク質に結合する抗体を提供する。好ましい抗体は,205P1B5関連タンパク質に特異的に結合し,そして205P1B5関連タンパク質ではないペプチドまたはタンパク質には結合しない(または弱く結合する)。例えば,205P1B5に結合する抗体は,205P1B5関連タンパク質(例えば,それらのホモログまたはアナログ)に結合し得る。
本発明の205P1B5抗体は,癌の診断アッセイおよび予後アッセイ,および画像化方法論において,特に有用である。同様に,このような抗体は,205P1B5がまた,他の癌において発現されるかまたは過剰に発現される程度まで,これらの他の癌を処置,診断および/または予後診断する際に有用である。さらに,細胞内で発現される抗体(例えば,一本鎖抗体)は,205P1B5の発現が関与する癌(例えば,進行性または転移性の前立腺癌)の処置において,治療学的に有用である。」(段落【0113】?【0115】)

(ウ)「(VII.)205P1B5の検出方法)
本発明の別の局面は,205P1B5ポリヌクレオチドおよび205P1B5関連タンパク質を検出するための方法,ならびに205P1B5を発現する細胞を同定するための方法に関する。205P1B5の発現プロファイルは,205P1B5を,転移した疾患についての診断マーカーにする。従って,205P1B5遺伝子産物の状態は,進行した病期の疾患に対する感受性,進行速度および/または腫瘍の攻撃性を含む種々の因子を推定するために有用な情報を提供する。本明細書中で詳細に議論されるように,患者サンプル中の205P1B5遺伝子産物の状態が,当該分野で周知の種々のプロトコルによって分析され得,このプロトコルとしては,免疫組織化学分析,種々のノーザンブロット技術(インサイチュハイブリダイゼーションを含む),RT-PCR分析(例えば,レーザー捕捉微小解剖サンプルについて),ウェスタンブロット分析および組織アレイ分析が挙げられる。
(中略)
205P1B5発現分析はまた,205P1B5遺伝子発現を調節する因子を同定および評価するための手段として有用である。例えば,205P1B5発現は,前立腺癌において有意にアップレギュレートされ,そして表Iに列挙される組織の癌において発現される。癌細胞における205P1B5発現または205P1B5過剰発現を阻害する分子または生物学的因子の同定は,治療的価値を有する。例えば,このような因子は,RT-PCR,核酸ハイブリダイゼーションまたは抗体結合により205P1B5発現を定量するスクリーニングを使用することによって,同定され得る。」(段落【0138】?【0144】)

(エ)「(実施例2:205P1B5の全長クローニング)
前立腺癌に関与する遺伝子を単離するために,Gleasonスコア6および7を有する前立腺癌患者を使用して実験を行った。
遺伝子205P1B5を,9の正常な組織を引いた前立腺癌プールから誘導した。SSH DNA配列(図1)を,205P1B5と呼ぶ。CHRNA2 ORFからなるcDNAクローン205P1B5-クローン1を,正常な前立腺cDNAから同定した。単一塩基対のバリエーションを,CHRNA2配列と比較した場合,Gの代わりにAを有する760位で同定した。」(段落【0300】?【0301】)

(オ)「(実施例4:正常な組織および患者標本における205P1B5の発現分析)
RT-PCRによる205P1B5の分析を,図10に示す。第1の鎖cDNAを,生体プール1(VP:肝臓,肺および腎臓),生体プール2(VP2:膵臓,結腸および胃),前立腺異種移植片プール(LAPC-4AD,LAPC-4AI,LAPC-9AD,LAPC-9AI),前立腺癌プール,および癌転移プールから調製した。アクチンおよびGAPDHに対するプライマーを使用するPCRによって,正規化を行った。205P1B5に対するプライマーを使用する半定量的PCRを,26サイクルおよび30サイクルの増幅で行った。結果は,前立腺癌プール,前立腺癌異種移植片プール,癌転移プールにおける205P1B5の発現を示したが,VP1およびVP2では示さなかった。
16種のヒト正常組織における205P1B5の広範なノーザンブロット分析は,205P1B5発現が組織制限的であることを示した(図11)。2μgのmRNA/レーンを有する2つの多重組織ノーザンプロット(Clontech)を,205P1B5配列でプローブした。サイズ標準(キロベース(kb))で,サイズを示す。約5kbの転写産物が,前立腺および脳において検出されたが,他の正常な組織のいずれにおいても検出されなかった。約7.5kbの転写産物より大きな205P1B5転写産物のみが,肝臓で検出された。
205P1B5の発現を,前立腺癌患者(PCP)から単離された3種の腫瘍のプールおよび正常な組織についてアッセイした(図12)。10μgの総RNA/レーンを含むノーザンブロットを,205P1B5配列でプローブした。サイズ標準(キロベース(kb))で,サイズを示す。205P1B5発現は,前立腺癌プールおよび正常な前立腺において観察されたが,正常な膀胱(NB),正常な腎臓(NK),正常な結腸(NC)においては観察されなかった。個々の前立腺癌患者標本および前立腺癌異種移植片に対するノーザンブロット分析を,図13に示す。RNAを,前立腺癌移植片(LAPC-4AD,LAPC-4AI,LAPC-9AD,LAPC-9AI),前立腺癌細胞株PC3,正常な前立腺(N),前立腺腫瘍(T)および前立腺癌患者由来の正常な隣接組織(Nat)から抽出した。10μgの総RNA/レーンを含むノーザンブロットを,205P1B5配列でプローブした。サイズ標準(キロベース(kb))で,サイズを示す。結果は,試験した全ての前立腺腫瘍標本における205P1B5の発現を示す。発現はまた,4つの異種移植片の内の3つで観察されるが,PC3細胞株においては観察されない。
正常な組織における205P1B5の制限発現および表Iで列挙される癌において検出される発現は,205P1B5が,治療標的および予防標的であり,ヒト癌についての診断マーカーおよび予後マーカーであることを示す。
図15は,癌転移得患者標本における205P1B5の発現を示す。RNAを,2人の異なる患者から得た,リンパ節に転移した前立腺癌から,ならびに正常な膀胱(NB),正常な腎臓(NK),正常な肺(NL),正常な乳房(NBr),正常な卵巣(NO)および正常な膵臓(NPa)から抽出した。10μgの総RNA/レーンを含むノーザンブロットを,205P1B5配列でプローブした。サイズ標準(キロベース(kb))で,サイズを示す。結果は,癌転移サンプルの両方において205P1B5の発現を示すが,試験した正常な組織において205P1B5の発現は示さない。」(段落【0305】?【0309】)

(カ)図10


(キ)図11


(ク)図12


(ケ)図13


(コ)図15


(1-2)本願補正発明24について
本願補正発明24に記載されたキットは,個体由来の試験前立腺サンプル中の細胞によって発現される配列番号:702に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質の発現レベルを決定し,その発現レベルを,対応する正常な前立腺サンプル中タンパク質の発現レベルと比較し,個体における前立腺癌の存在を検出するというものである。
ここで,図2?3及び配列表をみると,本願補正発明24の「配列番号702に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質」の1つは,上記記載事項(ア)にある「205P1B5」に相当するものである。
したがって,本願が,本願補正発明24について,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしているというためには,本願明細書又は図面の記載に基づいて,205P1B5が前立腺で特異的に発現していることのほか,205P1B5タンパク質の発現レベルが,正常な前立腺よりも前立腺癌で有意に増加していることが理解できることが必要であり,これらの点が十分に明らかにされているか否かについて以下に検討する。

(1-3)当審の判断
(ア)図10,11及び15について
図10及び図15をみると,205P1B5の発現は,正常な肝臓,肺,腎臓,膵臓,結腸,胃,膀胱,乳房及び卵巣では見られないものであるが,図11をみると,205P1B5の発現は,正常な前立腺のみならず,正常な脳及び肝臓でも見られるものであり,前立腺に特異的なものであるということはできない。
また,図10,11及び15には,前立腺ではない正常な組織と前立腺癌の組織とを比較し,205P1B5の発現レベルに差があることは開示されているが,正常な前立腺の組織と比較したことは何ら開示されていないから,これらの図から,205P1B5タンパク質の発現レベルが,正常な前立腺よりも前立腺癌で有意に増加していることは理解できない。
したがって,205P1B5の発現は前立腺に特異的なものであるとは認められないし,205P1B5タンパク質の発現レベルが,正常な前立腺よりも前立腺癌で有意に増加しているとも認められない。
(イ)図12について
図12には,前立腺癌患者から単離された3種の腫瘍プール(PCP)と,正常な前立腺(NP)とについて,ローディング量を揃えたノーザンブロット分析を行い,205P1B5のmRNAの発現を定量的に測定した結果が示されている。
しかし,ノーザンブロット分析の結果を示す電気泳動の図がそもそも鮮明でなく,205P1B5の発現レベルについて,正常な前立腺(NP)と比較して,前立腺腫瘍のプール(PCP)でどの程度有意に増加しているのかが定量的に理解できない。
したがって,この図からも,205P1B5タンパク質の発現レベルが,正常な前立腺よりも前立腺癌で有意に増加していると確実にいうことはできない。
(ウ)図13について
図13には,異種前立腺癌移植片(LAPC-4AD等の4種),ヒト前立腺癌細胞株PC3,正常な前立腺(N),前立腺腫瘍(T)および前立腺癌患者由来の正常な隣接組織(Nat)から抽出したRNAについてローディング量を揃えたノーザンブロット分析を行い,205P1B5のmRNAの発現を定量的に測定した結果が示されている。
確かに,この図をみると,患者P2及びP3においては,正常な前立腺(N)よりも205P1B5の発現レベルが有意に増加していると認められるが,一方で,患者P1では正常な前立腺(N)とほぼ同等の発現レベルしか認められず,また,患者P4及びP5においては,正常な前立腺(N)よりもその発現レベルが明らかに減少している。
したがって,この結果からみると,205P1B5の発現レベルと前立腺癌との間に有意な関係があるとは到底いえないものである。特に,前立腺癌という重篤な病気の検出においては,前立腺癌を有する被検体があまねく検出されることが必要であるところ,この図の結果は,グリーソン分類において8及び9という深刻な前立腺癌を有する患者P4及びP5が,正常な前立腺(N)よりも205P1B5の発現レベルが低いために,前立腺癌を患ってないと誤って判定される可能性を示唆しており,しかも5名のうち2名が誤って判定されるような精度の低い検出であることも示している。したがって,図13に示された結果をみた当業者は,205P1B5が前立腺癌を検出するために使用できるとは考えないはずである。
また,前立腺癌患者P1?P5で205P1B5の発現レベルに差がみられるように,同じ正常な組織である正常な前立腺(N)と正常な隣接組織(Nat)についても発現レベルに差が見られることは,205P1B5の発現レベルがそもそも被検体によって相当程度幅があることを示している。そこで,ある被検体が前立腺癌であるかどうかを検出するためには,基準とする正常な前立腺の発現レベルと比較する必要があると認められるが,何を基準とするかにより,前立腺癌の検出精度がかなり変わってくることは明らかである。この点について請求人は,特にP3における正常な隣接組織(Nat)との比較において,同一人の腫瘍組織では相当程度差のある発現レベルが見られることから,正しく前立腺癌が検出できると考えているようである。しかし,そもそもP3の結果は最も高いレベルで205P1B5を発現している患者において比較した結果にすぎず,それ以外の患者で正常な隣接組織(Nat)と比較しても,同レベルの差異が見られるかどうかは不明である。むしろ患者P4及びP5では,前立腺癌でも相当低いレベルの発現しか見られないから,正常な隣接組織と比較しても有意な差異が見られないと考えるのが自然である。そうすると,同一の被検体において正常な前立腺と比較しても,前立腺癌を検出することができない蓋然性が高いと認められる。
さらに,前立腺癌を正しく検出するためには,正常な前立腺が示す発現レベルと重なり合うところがない程度に,前立腺癌の発現レベルが有意に増加している必要があるが,図13の結果はむしろ,正常な前立腺と前立腺癌の発現レベルが高い蓋然性をもって重なり合うことを示しており,205P1B5の発現量に基づいて,前立腺癌を有する被検体とそうではないものを区別することが難しいことを示している。
しかも,図13の結果をみると,異種前立腺癌移植片(LAPC-9AI)とヒト前立腺癌細胞株PC3については205P1B5の発現が全くみられないというものであり,これは,205P1B5がすべての種類の前立腺癌で発現しているものではないことを表しており,このことは前立腺癌を患っていても,前立腺癌の種類によって,それを検出できない可能性を示唆するものである。
以上のとおり,図13に示された結果を考察すると,205P1B5タンパク質の発現レベルが,高い蓋然性をもって正常な前立腺よりも前立腺癌で有意に増加しているとは認められないから,205P1B5は前立腺癌を検出するために使用できるとはいえない。
(エ)その他の記載
上記以外の本願明細書又は図面の記載を参酌しても,205P1B5の発現が前立腺に特異的であることや,205P1B5タンパク質の発現レベルが,正常な前立腺よりも前立腺癌で有意に増加していることは理解できないので,205P1B5が前立腺癌を検出するために使用できるとは認められない。

(2)小括
以上のとおりであるから,本願補正発明24のキットについて,本願の発明の詳細な説明は,当業者が前立腺癌の検出に使用できるように明確かつ十分に記載されているとは認められないから,特許法第36条第4項の規定により,当該発明は独立して特許を受けることができないものである。
したがって,上記手続補正3は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明

平成22年3月30日付の手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?46に係る発明は,平成20年3月11日付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?46に記載された事項により特定されるものである。
そのうち,請求項1,11,36に係る発明(以下,「本願発明1,11,36」という。)は,以下のとおりのものである。

「【請求項1】 配列番号:702に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチド。」

「【請求項11】 配列番号:702のアミノ酸配列を含むタンパク質上のエピトープに免疫特異的に結合する抗体またはそのフラグメント。」

「【請求項36】 個体由来の試験組織サンプル中の細胞によって発現される配列番号:702に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質の発現レベルを決定するための手段を含む,個体における前立腺癌の存在を検出するためのキットであって,試験サンプル中のタンパク質の発現レベルが,対応する正常サンプル中のタンパク質の発現レベルと比較される,キット。」

第4 原査定の理由

原査定の理由の1つは,この出願の請求項1,11に係る発明が,特許法第29条第2項に規定する要件を満たしていない(理由2)というものであり,もう1つは,この出願は,請求項36に係る発明について,本願は,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない(理由3)というものである。具体的には,平成20年6月25日付の拒絶理由通知書に以下のように記載されている。

「(理由2について)
・請求項1-46
・引用文献1
上述したように,引用文献1には,ヒト由来のニコチン性アセチルコリンαポリペプチド2,及び,該ポリペプチドをコードするDNAがそれぞれの配列とともに記載されている。
ここで,遺伝子にはアレル変異体が存在することが当業者の技術常識であることを考えれば,引用文献1に記載された事項に基づいて,ニコチン性アセチルコリンαポリペプチド2の変異体を取得することは,当業者が容易に想到し得たことである。
また,取得したポリペプチドについて,該ポリペプチドに対する抗体を取得すること,及び,該ポリペプチドの発現を検出することは,必要に応じて,当業者が適宜なし得たことである。
そして,本願明細書及び平成20年3月11日付け提出の意見書の記載を参酌しても,本願発明における配列番号702に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドが,前立腺癌のみならず,肝臓,正常前立腺組織においても発現していることが認識でき,結果として,該ポリペプチドが前立腺癌特異的なマーカーとなり得ると推認できる具体的な事実は認められないことから,本願請求項1-46に係る発明の構成を採ることにより,格別顕著な効果をするものとは認められない。」

「(理由3について)
請求項36は,配列番号702に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現レベルを決定する手段を含む,個体における前立腺癌の存在を検出するためのキットに係る発明である。
ここで,上記理由2においても述べたように,本願明細書及び平成20年3月11日付け提出の意見書の記載を参酌しても,配列番号702に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドが,前立腺癌のみならず,肝臓,正常前立腺組織においても発現していることが認識できることから,該ポリペプチドが前立腺癌特異的なマーカーとなり得ると推認できる具体的な事実は認められない。
したがって,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が請求項36に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。」

第5 当審の判断

1 本願発明1について
(1)引用例の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1,及びその記載事項は,前記「第2 2(1-1)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明1は,上記「第2 2(1)」で検討した本願補正発明1から「前立腺癌で過剰発現される」という特定を省いたものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明1が,前記「第2 2(1)」で示したとおり,引用例1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明1も同様の理由により,引用例1に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 本願発明11について
(1)引用例の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1,及びその記載事項は,前記「第2 2(1-1)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明11は,本願発明1のタンパク質上に存在するエピトープに免疫特異的に結合する抗体に関するものである。
しかし,上記「第2 2(1)」で示したとおり,引用例1に記載された事項に基づいて,本願発明1のタンパク質をコードするポリヌクレオチドに到達することは当業者が容易になし得ることであり,そして,該ポリヌクレオチドを用いて該タンパク質を作製し,これを免疫原として,該タンパク質上に存在するエピトープに免疫特異的に結合する抗体を取得することも当業者が容易になし得ることである。
また,引用例1記載のタンパク質と本願発明1のタンパク質は,125位のアミノ酸が1つ相違するだけであり,当該部位にエピトープが存在する可能性が高いとはいえないし,仮に,125位のアミノ酸があるエピトープ中に存在していたとしても,全長が529アミノ酸である大きなタンパク質であれば,そのタンパク質上に他に何らかのエピトープを有しているはずであるから,引用例1記載のタンパク質について抗体を作製すれば,本願発明1のタンパク質上のエピトープにも結合する抗体が得られる蓋然性が高い。
したがって,引用例1記載のタンパク質を免疫原として抗体を作製し,本願発明11に記載された抗体と区別し得ないものを取得することは当業者が容易になし得ることである。

3 本願発明36について
(1)本願明細書又は図面の記載
本願明細書又は図面の記載事項は,前記「第2 4(1-1)」に記載したとおりである。

(2)当審の判断
本願発明36は,上記「第2 4(1)」で検討した本願補正発明24から「試験組織サンプル」が「試験前立腺サンプル」であるという特定を省いたものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明24について,前記「第2 4(1)」で示したとおり,本願の発明の詳細な説明は,当業者が前立腺癌の検出に使用できるように明確かつ十分に記載されているとは認められないから,本願発明36についても同様の理由により,本願の発明の詳細な説明は,当業者が前立腺癌の検出に使用できるように明確かつ十分に記載されているとは認められない。

第6 むすび

以上のとおりであるから,本願の請求項1及び11に記載の発明は,特許法第29条第2項に規定する要件を満たしておらず,また,本願は,請求項36に記載の発明について,特許法第36条第4項の規定を満たしていないから,特許を受けることができないものであり,他の請求項に係る発明については検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-04-19 
結審通知日 2011-04-20 
審決日 2011-05-09 
出願番号 特願2007-65917(P2007-65917)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C12N)
P 1 8・ 536- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池上 文緒  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 引地 進
内田 俊生
発明の名称 癌の処置および検出において有用な205P1B5との名称の核酸および対応するタンパク質  
代理人 渡邉 伸一  
代理人 刑部 俊  
代理人 清水 初志  
代理人 井上 隆一  
代理人 新見 浩一  
代理人 小林 智彦  

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