• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1243708
審判番号 不服2010-9111  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-28 
確定日 2011-09-16 
事件の表示 特願2003-343206「円錐ころ軸受と円錐ころ加工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年4月21日出願公開、特開2005-106234〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成15年10月1日の出願であって、平成22年2月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年4月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

II.平成22年4月28日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年4月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、補正前の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
ころ長さがころ径の2倍を超える細長形状で、外周面に研削によるクラウニング加工を行い、かつ、バレル研磨またはタンブラー研磨により研削目が残らないように仕上げ加工を行なった円錐ころを有することを特徴とする円錐ころ軸受。」から、
補正後の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
ころ長さがころ径の2倍を超える細長形状で、外周面に研削によりクラウニング加工を行ない、かつ、前記研削により形成された外周面の研削目の突起をバレル研磨またはタンブラー研磨により潰して研削目が残らないように仕上げ加工を行なった円錐ころを有することを特徴とする円錐ころ軸受。」と補正された。なお、下線は対比の便のため当審において付したものである。
上記補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「仕上げ加工」について、「バレル研磨またはタンブラー研磨により研削目が残らないように仕上げ加工を行なった」を、「前記研削により形成された外周面の研削目の突起をバレル研磨またはタンブラー研磨により潰して研削目が残らないように仕上げ加工を行なった」(下線部のみ)と限定的に減縮したものである。
これに関して、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、「最初に研削による円錐ころのクラウニング加工を行う。次に、クラウニング加工した円錐ころをバレル研磨またはタンブラー研磨により研削目が消えるまで表面研磨する。」(段落【0019】参照)、「軸受Cはころの全面をバレル加工により仕上げており、粗さはスーパー加工に比べると全面に亘り粗いが、研削目は残っていない。軸受Dはころをクラウニング加工したままの状態であり、粗さは軸受Cより良いが全面に研削目がある。試験結果から、研削目残りがあるとピーリング損傷が発生するのに対し、粗さは悪くても研削目残りが無い場合にはピーリング損傷が発生しないことが判った。」(段落【0021】参照)、及び「研削加工により形成された突起をバレル加工等により潰すように仕上げ加工を行なえば、ピーリング損傷等の不具合を発生させない大きなクラウニングを設けたころを有する軸受を安価に製造することができるということである。」(段落【0023】参照)と記載されている。
結局、この補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当し、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項追加禁止に違反するものではない。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1:特開2000-257637号公報

(刊行物1)
刊行物1には、「ころ軸受およびその製造方法」に関して、図面(特に、図1及び2を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(a)「本発明は、転動体として円筒ころや円錐ころを用いてなるころ軸受に関し、特に、重荷重や高モーメント負荷が作用する部位に用いるのに適したころ軸受に関する。」(第2頁第1欄第36?39行、段落【0001】参照)
(b)「本発明はこのような実情に鑑みてなされたもので、一般のNC研削盤のドレッシング機構をそのまま用いて、前記(1)式または(2)式で表される弾性接触理論に基づく理論的に計算される隙間にほぼ匹敵する隙間を、ころ転走面と内・外輪のうちの少なくともいずれか一方の軌道面との間に形成することのできるクラウニング形状を有し、もって重荷重や高モーメントが負荷しても長い寿命を得ることのできる実用的なころ軸受の提供を目的としている。」(第3頁第4欄第5?13行、段落【0013】参照)
(c)「本発明は、ころの転走面と内輪または外輪の軌道面との間の母線方向各位置における隙間の大きさを、理論的に求められる対数曲線等の特殊曲線で表される隙間とすべく、ころ転走面か、あるいは内・外輪の軌道面のいずれかの母線形状をその特殊曲線に応じた特殊曲線形状とする代わりに、その特殊曲線形状を複数の円弧の集合によって近似することにより、通常のNC研削盤による実用的な加工を可能として、所期の目的を達成しようとするもである。」(第3頁第3欄第39?47行、段落【0016】参照)
(d)「本発明においては、上記のような母線形状の加工は、ころの転走面のみ、内輪もしくは外輪の軌道面のみ、あるいはその双方のいずれであってもよく、要は、ころの転走面と内輪の軌道面との間、あるいは、ころの転走面と外輪の軌道面との間の、母線方向各位置における隙間が、前記(2)式で表される隙間Z(x)等の理論的に計算される隙間となればよい。」(第3頁第4欄第49行?第4頁第5欄第5行、段落【0018】参照)
(e)「以上の条件により、特殊対数曲線A(x)を複数の円弧によって滑らかに近似することができ、このような内輪1の軌道面1aの母線形状は、円弧状の軌跡で動作するドレッシング機構を備えた通常のNC研削盤によって、容易に加工することができる。そして、このような軌道面1aの母線形状を有する内輪1と、前記した転走面3aの母線形状を有する円錐ころ3との組み合わせにより、内輪1の軌道面1aと円錐ころ3の転走面3aとの間の母線方向各位置での隙間が、弾性接触理論に基づく理想的な隙間Z(x)をほぼ満足する、重荷重や高トルク負荷での使用によっても長い寿命を奏することのできる円錐ころ軸受が得られる。なお、本発明によれば、NC研削盤による研削加工のみでも、理想の特殊対数曲線A(x)に近似したクラウニング形状が得られるが、研削加工の後、更に研磨加工を行うことにより、円弧の接点をより滑らかにして、ほぼ理論形状A(x)と同一のクラウニング形状とすることもできる。」(第4頁第6欄第43行?第5頁第7欄第9行、段落【0027】参照)
(f)「本発明によれば、ころの転走面または内・外輪の軌道面の母線形状を、複数の円弧の集合により、弾性接触理論から導き出される対数曲線等の特殊曲線形状に近似させているので、通常のNC研削盤によって加工可能で、充分に実用化することができ、しかも、重荷重や高トルクが作用する部位に使用して、理想的なクラウニング形状の軸受と同等の寿命を奏することのできるころ軸受が得られる。また、本発明の製造方法を採用すれば、NC研削盤によって複数の円弧の集合によって上記の特殊曲線形状に近似させた後、更に研磨加工を施すことにより、母線形状を容易にその特殊曲線形状と略同一とすることも可能となる。」(第5頁第8欄第13?24行、段落【0032】参照)
(g)図2から、ころ長さがころ径の2倍を超える細長形状の円錐ころを有する円錐ころ軸受の構成が看取できる。
したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
【引用発明】
ころ長さがころ径の2倍を超える細長形状で、転送面3aに研削加工によりクラウニング加工を行ない、かつ、前記研削加工の後、更に転送面3aの複数の円弧の接点をより滑らかにする研磨加工を行なった円錐ころ3を有する円錐ころ軸受。

2.対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「転送面3a」は本願補正発明の「外周面」に相当し、以下同様に、「研削加工」は「研削」に、「研磨加工」は「研磨」に、「円錐ころ3」は「円錐ころ」に、それぞれ相当するので、両者は、下記の一致点、及び相違点を有する。
<一致点>
ころ長さがころ径の2倍を超える細長形状で、外周面に研削によりクラウニング加工を行ない、かつ、研磨を行なった円錐ころを有する円錐ころ軸受。
(相違点)
本願補正発明は、「前記研削により形成された外周面の研削目の突起をバレル研磨またはタンブラー研磨により潰して研削目が残らないように仕上げ加工を行なった」のに対し、引用発明は、研削加工の後、更に転送面3aの複数の円弧の接点をより滑らかにする研磨加工を行なった点。
以下、上記相違点について検討する。
(相違点について)
軸受の技術分野において、研削加工後に研磨加工を行う場合、バレル研磨またはタンブラ研磨とすることは、従来周知の技術手段(例えば、特開2002-195266号公報には、「ころ4は、その外周面の表面粗さが、研削加工後のタンブラ仕上げによって0.075μmRa以下となるように管理されている。」[第2頁第2欄第34?36行、段落【0013】参照]と記載されている。特開昭61-24818号公報には、「研削によって表面がRmax0.8?1μmに仕上げられた転動体にみがきタンブラ加工を施し、次に表面あらしタンブラ加工を施すことにより、Rmax0.3?0.8μmの表面粗さが得られる。」[第2頁左下欄第9?13行]と記載されている。また、特開2000-42879号公報には、「平面研削盤またはセンタレス研削盤のインフィード研削加工を施して最終仕上げ形状である両円錐ころWの両円錐面を成形し(図10の(4)または(4)´[注:原文は丸付き数字である。])、最後に、ラッピング加工やバレル加工等による超仕上加工を施す」[第3頁第4欄第3?8行、段落【0012】参照]と記載されている。)にすぎない。
また、バレル研磨またはタンブラ研磨により、研削により形成された研削目の突起を潰すことは、従来周知の技術手段(例えば、特開平5-288221号公報には、「比較品と本発明品とに属する、試料番号2?5の4種類の試料に就いては、何れもバレル加工を施す事で、表面を硬化させ、表面層に大きな圧縮残留応力を発生させると共に、表面に存在する微小突起の先端を潰す事により、突起半径を大きくした。(中略)バレル加工を行なうのに先立って、試料番号2?5の何れに就いても、試料の表面に円周方向と直角な加工目を付ける研削加工を施した。」[第3頁第3欄第27?42行、段落【0017】?【0019】参照]と記載されている。)にすぎない。
してみれば、引用発明において、転送面3aの研削加工の後、更に転送面3aの複数の円弧の接点をより滑らかにする研磨加工を行なうにあたり、研削加工後の研磨加工として、従来周知の技術手段であるバレル研磨またはタンブラ研磨とすることにより、研削により形成された外周面の研削目の突起を潰して、研削目が残らないように仕上げ加工を行なうことにより、上記相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
本願補正発明が奏する効果についてみても、引用発明、及び従来周知の技術手段が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な作用効果を奏するものとは認められない。
以上のとおり、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、当審における審尋に対する平成22年12月1日付けの回答書において、「引用文献1(注:本審決の「刊行物1」に対応する。)は、この研磨加工がどのような加工かを特定していませんが、上記の加工目的からみて、本願発明(注:本審決における「本願補正発明」に対応する。)における『バレル研磨またはタンブラ研磨』とは異なる加工であることは明らかです。」と主張している。
しかしながら、上記(相違点について)において述べたように、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるところ、本願補正発明の構成を備えることによって、本願補正発明が、従前知られていた構成が奏する効果を併せたものとは異なる、相乗的で、当業者が予測できる範囲を超えた効果を奏するものとは認められないので、審判請求人の上記主張は採用することができない。

3.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
平成22年4月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成21年12月24日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
ころ長さがころ径の2倍を超える細長形状で、外周面に研削によるクラウニング加工を行い、かつ、バレル研磨またはタンブラー研磨により研削目が残らないように仕上げ加工を行なった円錐ころを有することを特徴とする円錐ころ軸受。」

1.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項は、上記「II.1.」に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、上記「II.」で検討した本願補正発明の「前記研削により形成された外周面の研削目の突起をバレル研磨またはタンブラー研磨により潰して研削目が残らないように仕上げ加工を行なった」(下線部のみ)という限定事項を、「バレル研磨またはタンブラー研磨により研削目が残らないように仕上げ加工を行なった」と拡張するものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに構成を限定したものに相当する本願補正発明が、上記「II.2.」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は、実質的に同様の理由により、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
結局、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?4に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-04-12 
結審通知日 2011-04-13 
審決日 2011-08-03 
出願番号 特願2003-343206(P2003-343206)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
P 1 8・ 575- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 高弘  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 倉田 和博
常盤 務
発明の名称 円錐ころ軸受と円錐ころ加工方法  
代理人 熊野 剛  
代理人 城村 邦彦  
代理人 田中 秀佳  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ