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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23F
管理番号 1243944
審判番号 不服2008-31503  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-11 
確定日 2011-09-22 
事件の表示 特願2006-255908「ソリュブルコーヒー組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成18年12月14日出願公開、特開2006-333873〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成17年1月28日に出願された特願2005-21025号の一部を特許法第44条第1項の規定により,平成18年9月21日(優先権主張 平成16年1月30日,平成16年12月28日)に新たな出願としたものであって,平成20年7月2日付けの拒絶理由通知に対して,同年9月16日に意見書が提出され,その後,同年11月11日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年12月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2 本願発明
本願請求項1及び2に係る発明は,願書に最初に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されるたおりのものと認められ,そのうち,請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。

「ヒドロキシヒドロキノン含有量が0?0.001質量%であるソリュブルコーヒー組成物。」

3 引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶に理由に引用された,本願優先日前に頒布された刊行物1(原査定の引用文献1)及び刊行物2(原査定の引用文献3)には,以下の事項が記載されている。以下,下線は当審で付加した。

(1)刊行物1:平本一幸,李向紅,牧本光正,加藤哲太,「菊川清見,コーヒーに含まれるベンゼン活性代謝物」,日本環境変異原学会大会プログラム・要旨集,1998年,27th,第106頁,P-60(O-5)欄
(1a)「【目的】我々はコーヒー中にDNA鎖切断作用を有する成分が含まれることを見いだしている。今回,このDNA鎖切断物質を単離し,ベンゼンの活性代謝物であるhydroxyhydroquinone(HHQ)と同定したので報告する。」(【目的の項】)
(1b)「【方法・結果】市販のインスタントコーヒーからDNA鎖切断活性を有する物質を酢酸エチル・エタノールで抽出し,順相及び逆相クロマトにより精製した。MS,NMR,UV吸収及びHPLCにより切断物質を,その遺伝毒性が既に明らかにされているベンゼン代謝物hydroxyhydroquinone(HHQ)と同定した。HHQは濃度,反応時間に依存してDNAを切断した。この切断はSODでは阻害されず,カタラーゼ,OHラジカル消去剤,スピントラップ剤,キレート剤で阻害された。また鉄(III)イオンでは増強された。HHQは水溶液中で溶存酸素を消費し,カタラーゼ添加により酸素濃度が増加したことから,コーヒー中の過酸化水素発生源はHHQであることが明らかになった。また,DMPOを用いたESR-スピントラッピングによりDMPO-OHのシグナルが認められ,HHQからOHラジカルが発生することが明らかになった。」(【方法・結果】の項)
(1c)「【結論】コーヒー中のDNA鎖切断物質として同定されたHHQは,ベンゼンの活性代謝物として知られており,S.typhimurium TA97とTA100に対して直接変異原性を示すと報告されている。コーヒー中のHHQの存在はコーヒーの安全性を評価する上で,重要な問題と考えられる。」(【結論】の項)

(2)刊行物2:平本一幸,木田智子,菊川清見,コーヒー飲用による尿中過酸化水素の排せつ,日本環境変異原学会大会プログラム・要旨集,2002年,31th,第90頁,P-63欄
(2a)「【目的】我々はコーヒーに過酸化水素を発生するhydroxyhydroquinone(HHQ)が含まれることを見出した。今回,コーヒー飲用後の尿中の過酸化水素を測定した。」(【目的】の項)
(2b)「【方法】コーヒーは市販の缶コーヒー(187ml入り)と中細挽きのコーヒー豆30g/210ml熱湯抽出したコーヒー150mlを用いた。缶コーヒーあるいは抽出コーヒーを飲用し,飲用前後の尿中過酸化水素を鉄の酸化を利用した比色法によって定量した。」(【方法】の項)
(2c)「【結果】1杯分のコーヒーをpH7.4,37℃で1h処理すると,缶コーヒー,抽出コーヒーの過酸化水素の量はそれぞれ150,120μmolであった。健康な男女10人が缶コーヒーを飲用し0.5h毎に3hまで採尿した後に測定すると,尿中過酸化水素は飲用0.5h後から増え,1-2h飲用前の2-11倍に達し,3hで飲用前の濃度にまで減少した。過酸化水素を採尿直後に測定すると,飲用前2.2μmol/gCreから飲用1h後には4.5μmol/gCreに増加した。同一の尿を室温で3h処理すると飲用前の尿0.5μmol/gCre,飲用後6.7μmol/gCreとなった。尿にHHQ0.1mMを添加し室温で2h処理すると34μMの過酸化水素が発生した。このことは尿中に過酸化水素とHHQが共に排泄されていることを示している。缶コーヒー,抽出コーヒー飲用後3h尿をプールし室温1h処理した後測定すると尿の過酸化水素量はそれぞれ0.6-0.9および0.8μmolであり,排泄量はコーヒー中の過酸化水素の約1%であった。」(【結果】の項)
(2d)「【考察】コーヒーの飲用により尿中に過酸化水素とHHQが排泄され,体内でも過酸化水素が発生している可能性が示唆された。」(【考察】の項)

4 対比・判断
刊行物1の上記記載事項(上記(1a))から,刊行物1には,「市販のインスタントコーヒー」の発明(以下,「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで,本願発明と刊行物1発明とを比較すると,刊行物1発明の「市販のインスタントコーヒー」は,「総合食品事典ハンディ版」平成10年4月5日 同文書院発行 第72頁左欄「インスタントコーヒー」の項に,インスタントコーヒーは「ソルブルコーヒー(solubule coffee)ともいわれている。」と記載され,インスタントコーヒーは複数の成分からなり組成物といえるものであるから,本願発明の「ソリュブルコーヒー組成物」に相当する。

そうすると,本願発明と刊行物1発明とは,「ソリュブルコーヒー組成物」である点で致し,以下の点で相違する。
(相違点)
本願発明は,ソリュブルコーヒー組成物が「ヒドロキシヒドロキノン含有量が,0?0.001質量%」であるのに対し,刊行物1発明は,市販のインスタントコーヒーでありヒドロキシヒドロキノン含有量を特定の範囲に調製したものではない点。

そこで,上記相違点について検討する。
刊行物1には,コーヒー中のDNA鎖切断活性を有する物質として,ヒドロキシヒドロキノン(HHQ)が同定されたこと(上記(1b)),HHQは,S.typhimurium TA97とTA100に対して直接変異原性を示すと報告されており,「コーヒー中のHHQの存在はコーヒーの安全性を評価する上で重要な問題と考えられる」(上記(1c))と記載されている。
さらに,刊行物2には,缶コーヒーの飲用前後の尿中の過酸化水素濃度を測定すると,飲用後1-2時間で飲用前の2-11倍に達すること,採尿直後の尿中の過酸化水素濃度は,飲用前は2.2μmol/gCerで,飲用後1時間は4.5μmol/gCerに増加し,同じ尿を採尿後室温で3時間処理した尿中の過酸化水素濃度は,飲用前0.5μmol/gCer,飲用後6.7μmol/gCerとなること,尿にHHQ0.1mMを添加して室温で2時間処理すると34μMの過酸化水素が発生したことが記載され,これらの結果は,尿中には過酸化水素とHHQが共に排出されていることを示していることが記載されている(上記(2c))。さらに,上記の具体的な知見に基づいた考察として,「コーヒーの飲用により尿中に過酸化水素とHHQが排泄され,体内でも過酸化水素が発生している可能性が示唆された」と記載されている(上記(2d))。
そうすると,本願優先日当時において食品の安全性を考えることが社会的な要請であったことは明らかであることを勘案すると,上記のとおり具体的な知見に基づいた,刊行物1のコーヒー中のDNA鎖切断活性を有する物質であるHHQの存在はコーヒーの安全性を評価する上で重要な問題であるという記載,及び刊行物2のコーヒー中のヒドロキシヒドロキノンは体内で過酸化水素を発生するということを示唆する記載に接した当業者が,ソリュブルコーヒー中のヒドロキシヒドロキノン含有量を,極力少なくし「0」に近い数値にすることを試みることはごく自然なことであるといえる。
そして,刊行物1には,インスタントコーヒーからDNA鎖切断活性を有する物質,つまりヒドロキシヒドロキノンを順相及び逆相クロマトにより精製したことが記載され,順相及び逆相クロマトの充填剤はヒドロキシヒドロキノンを吸着できることが知られていたといえ,また,例えば特開平4-54142号公報(第1頁右下欄7?8行)には,従来,活性炭による吸着でフェノール化合物を分離回収していたことが記載されているように一般に活性炭がヒドロキシヒドロキノンのようなフェノール化合物を吸着することは本願優先日前の周知事項であったといえる。さらに,コーヒー中のカフェインや渋み成分等の除去したい成分を除去するために,コーヒーを活性炭等の吸着剤で処理することは,例えば,特開2003-304812号公報(【請求項1】,【0005】),特開平5-111437号公報(【請求項1】)に記載されるように,本願優先日前の周知の技術であり,コーヒーを吸着剤で処理することが風味等の観点から避けられていたということもない。
そして,本願発明の,ヒドロキシヒドロキノンの含有量の数値範囲「0?0.001質量%」について,本願明細書には,段落【0005】に「通常含まれる量より十分に少ない」と記載され,段落【0009】に「コーヒー飲料組成物は,ヒドロキシヒドロキノン含有量が0?0.00005質量%に調整されており,本発明のソリュブルコーヒー組成物は,ヒドロキシヒドロキノン含有量が0?0.001質量%に調整されていることを特徴とする。ヒドロキシヒドロキノン含有量が上記範囲内である場合には,これらの組成物を飲用したときに生体内での過酸化水素の発生が抑制される。」と記載され,段落【0013】に「ヒドロキシヒドロキノンは通常,市販のコーヒー中に0.2?3mg/190g含まれているが,極めて少量の摂取でも体内過酸化水素生成を増加させる作用を有し(図3,4),ヒドロキシヒドロキノン含有量を0.00005質量%以下に調整したコーヒーを摂取した場合には,体内での過酸化水素生成抑制することが判明した(図7)。」と記載されている。そして,図7は,実施例8の結果を示したものであり,実施例8で用いたコーヒー飲料は実施例7で製造したとされ,実施例7のコーヒー組成物は,「HHQは検出限界以下」(段落【0051】)と記載されているから,本願発明の上限値の臨界的意義を示すものでない。また,図4は実施例4の結果を示したものであり,実施例4には,ラット(n=3)に,ヒドロキシヒドロキノン(0.1,0.3,1及び3mg/kg)を強制経口投与し,投与前及び投与後3時間,6時間目に採尿し,尿中過酸化水素量を測定したとし(段落【0045】),「図4に示すように,0.3mg/kg以上のヒドロキシヒドロキノンの摂取によって,用量依存的に体内の過酸化水素が増加することが判明した。」(段落【0046】)と記載され,図4には,HHQ0.3mg/kgでは過酸化水素が増加するが,HHQ0.1mg/kgでは,増加せず蒸留水とほぼ同じであることが示されている。しかしながら,これらの数値は,ラットの体重1kg当たりの摂取ヒドロキシヒドロキノン量であり,この値から本願発明の数値範囲の上限値を決めることができるとはいえない。以上のことから,「0?0.001質量%」の数値範囲,特に上限値に格別の臨界的意義は本願明細書の記載から明らかでない。そして,食品の安全のために制限すべき成分がある場合,その許容上限値を決定することは,通常行われることである。
そうすると,ソリュブルコーヒーを製造する際に,その原料となるコーヒー抽出液中のヒドロキシヒドロキノンをクロマトの充填剤や活性炭等を用いて吸着して除去し,ソリュブルコーヒー組成物中のヒドロキシヒドロキノンを極力少なくして,0?0.001質量%となるようにすることは当業者が容易になし得たことといえる。
そして,本願明細書に記載された効果である,コーヒー飲料組成物を飲用しても生体内で過酸化水素が生成せず,安全性の高い飲料であることは,刊行物1及び2の記載事項から予測し得たものといえ,格別顕著なものとはいえない。

5 むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1及び2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-13 
結審通知日 2011-07-19 
審決日 2011-08-05 
出願番号 特願2006-255908(P2006-255908)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齊藤 真由美  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 郡山 順
杉江 渉
発明の名称 ソリュブルコーヒー組成物  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 村田 正樹  
代理人 高野 登志雄  
代理人 山本 博人  
代理人 中嶋 俊夫  
代理人 有賀 三幸  

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