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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02N
管理番号 1244065
審判番号 不服2010-13015  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-15 
確定日 2011-09-29 
事件の表示 特願2003-372446「発電装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年5月26日出願公開,特開2005-137159〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願の発明
本願は,平成15年10月31日の出願であって,平成22年3月8日付けで拒絶査定がなされ,これに対し同年6月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,さらに,平成23年3月29日付けで当審による拒絶理由が通知され,これに対し同年6月6日付けの手続補正書により明細書及び特許請求の範囲の補正がなされた。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成23年6月6日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲,明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。
「接合された異種金属の一端面と他端面の温度差に基づいて電位差が生じるゼーベック効果を用いて発電を行う熱電変換素子と,
前記熱電変換素子の一端面側を冷却するためのファンと当該ファンを回転させるモータとを備えるとともに,前記熱電変換素子の一端面側と対向するように設置されたファンユニットと,
を具備し,
前記熱電変換素子の他端面が機器の熱源部側に取り付けられると発電し,
前記モータは,前記熱電変換素子によって発電された電力に基づいて前記ファンを回転させて前記熱電変換素子の一端面側を冷却する
ことを特徴とする発電装置。」

3.引用例
当審における拒絶の理由に引用した本願出願前に頒布された刊行物である特開2001-41604号公報(以下,「引用例」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

・「【請求項9】 高熱源に接触可能な高温部と,低熱源に接触可能な低温部と,前記高温部と低温部に狭持され温度差によるゼーベック効果にて熱電発電する熱電発電素子と,前記高温部,熱電発電素子,低温部,の側部を覆い電気的および熱的に絶縁しながら一体に保持する外殻と,この外殻に設けられ前記高温部または低温部の少なくとも一方を高熱源または低熱源に面接触にて固定させる固定手段と,前記固定手段が固定した状態で熱源に接触する面に圧力を加える加圧手段と,を備えたことを特徴とする熱電発電装置。」

・「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は食品を保存する冷凍倉庫・冷凍冷蔵庫,冷房暖房を行う空気調和機等の温冷熱機器や水や炭化水素,フロンなどの冷媒を圧縮して循環させる圧縮装置の消費電力削減手段と,それに用いるゼーベック効果により熱電発電を行う装置に関するものである。」

・「【0033】
【発明の実施の形態】実施の形態1.以下,本発明の一実施例について図を用いて説明する。図1は本発明の一実施例である冷凍冷蔵庫の冷媒回路と熱電発電装置を示す構成図である。図2は前記熱電発電装置の内部断面図である。図において,3は電動圧縮機,5は圧縮された高温高圧の冷媒を凝縮熱交換させる凝縮器,7はドライヤ6と二方弁2を通過した冷媒を減圧させるキャピラリーチューブ,1は蒸発器であり,冷媒をガス状態に変化させ再び電動圧縮機3へ戻す。8は高温部伝熱板,9は低温部伝熱板であり,熱電発電素子モジュールPNの高温部とそれに相対する低温部と接触配置し,高温部伝熱板8の内部に圧縮機の吐出口3bから連続する冷媒の吐出配管8Pを,そして低温部伝熱板9の内部には蒸発器1の出口から圧縮機吸入口3aに至る冷媒配管の吸入配管9Pを内蔵する。10は低温部伝熱板9の上部外側にある水冷ジャケット,10Pはそこに内蔵する水冷配管,11は水冷ジャケット10の上部に設置する放熱フィンである。M1はこれらの部品積層物を覆った外殻モールドであり,M2は下部に埋設されたマグネットである。また,蒸発器1にて発生したドレイン水13は前記水冷配管10Pへ導かれ水冷ジャケット10を通過吸熱した後,ドレイン水蒸発板4へ至る。
【0034】圧縮機シェル表面3Sおよび吐出配管8Pの一部に熱電発電素子モジュールPNの高温部と接触した高温部伝熱板8を,吸入配管9Pの一部に前記熱電発電素子モジュールPNの高温部に相対する低温部と接触した低温部伝熱板9を直接または間接的に当接配置し,ゼーベック効果により熱電発電する機構を形成している。吐出配管は圧縮機吐出口3bから凝縮器5またはドレイン水蒸発板4の入口に至る間の冷媒配管であって高温の冷媒が通過する部位であり,吸入配管は蒸発器1の出口から圧縮機吸入口3aに至る間の冷媒配管であって低温の冷媒が通過する部位である。」

・「【0037】本発明に適用した熱電発電素子モジュールPNとその高温部および低温部に接触したそれぞれの伝熱板8,9は,図2の熱電発電装置の断面図に示すように一体化した構成とした。圧縮機シェル表面3Sとの密着固定は,圧縮機シェル表面の曲率に合わせて加工された高温部伝熱板8に熱電発電素子モジュールPN,低温伝熱板9,水冷ジャケット10,放熱フィン11の各部品を積層した部品積層物,その外殻部分を電気絶縁性と断熱性が共に高い熱硬化性樹脂で外殻モールドM1されており,磁性体からなる圧縮機シェル表面に密着固定させることができるユニット化した構造としている。また,ここで用いた伝熱板は,材質を特に限定するものではないが,銅,アルミニウムなど熱伝導率が高く加工性に優れた金属を好適に用いた。」

・「【0039】図7は本発明の熱電発電装置に使用する熱電発電素子モジュールの構造図である。図において,T3はP形半導体,T4はN形半導体であり,T2はそれらを直列接続する金属電極,T1はこれらを上部と下部から保持するセラミック絶縁板である。T5は電気的負荷である。ここで用いた熱電発電素子は図7に示すように,セラミックス絶縁板T1の上に金属電極T2を介してP形半導体T3とN形半導体T4を交互に複数直列接続した上に金属電極T2を介して更にセラミックス絶縁板T1で覆う構造となっている。この種類の異なる二つの素子,P形半導体T3とN形半導体T4を順次金属電極T2を介して接続し,一方の接合部を加熱して高温に保ち,他方の接合部を冷却放熱して低温に保つことにより,前記素子の両接合部間に温度差を生じると,その温度差に応じた電圧が発生する。このように熱を電気に変換する現象はゼーベック効果と呼ばれており,前記金属電極の両極を端子として電気的負荷をつなぐ回路を形成すると直流電流が流れて,電気出力を取り出すことができる。これとは逆に,直流電流を流すと前記素子の各接合部で発熱もしくは吸熱を起こす現象がペルチェ効果である。接合部間の温度差による高温側からの熱入力と低温側からの放熱作用の中には,発生電流でのペルチェ効果による熱変換が含まれているので,前記ゼーベック効果を利用して発電した電力は効率の低いものとなる。従って,高温部と低温部の温度差を出来るだけ大きく確保することが重要であるので,この絶縁板は,P形半導体T3とN形半導体T4および金属電極T2の伝熱を円滑に行う必要から,熱伝導性に優れるアルミニウムまたはホウ素または珪素の酸化物または窒化物の何れかを含んで成る形成板を用いることが,素子の熱電発電能力を十分に発揮するうえで好ましい。
【0040】熱電発電素子モジュールPNの種類は特に限定するものではないが,ここではビスマス・テルル系半導体素子を備えている汎用品で縦40mm横40mm高さ4mmの大きさのものを4個直列接続したものを使用した。本実施の形態では,高温部を80℃且つ低温部を20℃に保持した状態で単体で2.25V,1.0A,2.2Wの発電能力を有するように,半導体に含まれる,ビスマス,テルル,アンチモン,セレン等の組成比率を調整したものを使用した。なお,熱電発電素子の形状および大きさは設置スペースと発電力およびコストを考慮して最適化するのが望ましい。」

・「【0048】さらに,放熱フィン11は大気による自然冷却を狙ったものだが,空冷ファンにより強制冷却しても良い。但し,ファン駆動の消費電力以上の発電力向上が見込める場合に限ることが好ましい。また,凝縮器5が強制空冷コンデンサの場合には,空冷ファンの送風が当たる位置に熱電発電装置の放熱フィン11を配置すれば,新規に専用ファンを設けずに低温部の冷却放熱能力を向上させることもできる。」

・「【0059】実施例4.本発明に適用した熱電発電装置は,図2の断面図に示すように熱電発電素子モジュールと伝熱板が一体構造となって圧縮機シェル表面3Sに密着固定されている。更に詳しくは,圧縮機シェル表面の曲率に合わせて加工され,吐出配管9Pを内部に通した高温部伝熱板8に熱電発電素子モジュールPN,低温伝熱板9を重ね合わせて電気絶縁性と断熱性が共に高い熱硬化性樹脂で外殻モールドM1を形成して一体型構造とし,更に外殻モールド端部に組み込まれたマグネットM2によって磁性体からなる圧縮機シェル表面に密着固定させる構造としている。また,低温放熱部の冷却仕様は図2における吸入配管9Pに加えてファンによる強制空冷を実施した。」

・「【0066】そして,表1の実施例4では,有効温度差が70deg,熱電発電によって得られた電力は9.3Wであったが,強制空冷ファンの駆動に2.5W電力を消費したので,実質的な効果は6.8Wとなり,省エネ効果は4.9kwh/月相当であった。ファンに消費電力を取られるので,結果的に実施例3よりも効果が少ないが,見かけの発電力は増加する。従って,発電のための専用ファンを新たに設けるのは必ずしも得策ではないが,空冷コンデンサ用のファンなど既設の送風力を利用できる場合は有効である。」

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。
「P形半導体T3とN形半導体T4を順次接続したビスマス・テルル系半導体素子の一方の接合部である高温部と他方の接合部である低温部の間に生じる温度差に応じた電圧が発生するゼーベック効果にて熱電発電を行う熱電発電素子モジュールPNと,
前記熱電発電素子モジュールPNの低温部側に配置した放熱フィン11を強制冷却するために設けた空冷ファンと,
を具備し,
前記熱電発電素子モジュールPNの高温部側に配置した接触高温部伝熱板8が高熱源に密着固定させると熱電発電し,
前記空冷ファンは,前記熱電発電素子モジュールPNによって熱電発電した電力をファン駆動に使用して前記熱電発電素子モジュールPNの低温部側に配置した放熱フィン11を強制冷却する
熱電発電装置。」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比すると,後者の「P形半導体T3とN形半導体T4を順次接続したビスマス・テルル系半導体素子」は,「ビスマス・テルル系半導体」の「P形半導体」と「N形半導体」という異なる金属を結合したものといえるから,前者の「接合された異種金属」に相当する。また,後者の「他方の接合部である低温部」は前者の「一端面」に相当し,以下同様に,「一方の接合部である高温部」は「他端面」に,「一方の接合部である高温部と他方の接合部である低温部の間に生じる温度差に応じた電圧が発生する」態様は「一端面と他端面の温度差に基づいて電位差が生じる」態様に,「熱電発電」は「発電」に「熱電発電素子モジュールPN」は「熱電変換素子」にそれぞれ相当する。

後者の「空冷ファン」は前者の「ファンユニット」に相当する。
後者の「熱電発電素子モジュールPNの低温部側に配置した放熱フィン11を強制冷却する」態様は,熱的には「熱電発電素子モジュールPNの低温部側」を冷却するものといえるから,前者の「熱電変換素子の一端面側を冷却する」態様に相当する。
また,後者の「空冷ファン」は,「熱電発電素子モジュールPNによって熱電発電した電力をファン駆動に使用」するものであるから,ファンと当該ファンを電力により回転させる手段とを備えたものであることは,当業者にとって自明といえる。
そうすると,後者の「熱電発電素子モジュールPNの低温部側に配置した放熱フィン11を強制冷却するために設けた空冷ファン」と,前者の「熱電変換素子の一端面側を冷却するためのファンと当該ファンを回転させるモータとを備えるとともに,熱電変換素子の一端面側と対向するように設置されたファンユニット」とは,「熱電変換素子の一端面側を冷却するためのファンと当該ファンを電力により回転させる手段とを備えたファンユニット」との概念で共通している。

後者の「高熱源」は前者の「機器の熱源部」に相当し,後者の「熱電発電素子モジュールPNの高温部側に配置した接触高温部伝熱板8が高熱源に密着固定させる」態様は,熱的には「熱電発電素子モジュールPNの高温部側」が「高熱源」に取り付けられるものといえるから,前者の「熱電変換素子の他端面が機器の熱源部側に取り付けられる」態様に相当する。

前述したように,後者の「空冷ファン」は,ファンと当該ファンを電力により回転させる手段とを備えたものであることは,当業者にとって自明といえるから,後者の「空冷ファンは,熱電発電素子モジュールPNによって熱電発電した電力をファン駆動に使用」する態様と,前者の「モータは,熱電変換素子によって発電された電力に基づいてファンを回転させ」る態様とは,「ファンを電力により回転させる手段は,熱電変換素子によって発電された電力に基づいてファンを回転させ」るとの概念で共通している。

そして,後者の「熱電発電装置」は前者の「発電装置」に相当する。

したがって両者は,
「接合された異種金属の一端面と他端面の温度差に基づいて電位差が生じるゼーベック効果を用いて発電を行う熱電変換素子と,
前記熱電変換素子の一端面側を冷却するためのファンと当該ファンを電力により回転させる手段とを備えたファンユニットと,
を具備し,
前記熱電変換素子の他端面が機器の熱源部側に取り付けられると発電し,
前記ファンを電力により回転させる手段は,前記熱電変換素子によって発電された電力に基づいて前記ファンを回転させて前記熱電変換素子の一端面側を冷却する
発電装置。」
である点で一致し,以下の点で相違している。

[相違点1]
ファンを電力により回転させる手段として,本願発明では,モータを用いるのに対して,引用発明では,かかる特定がなされていない点。
[相違点2]
ファンにより熱電変換素子の一端面側を冷却する構成に関し,本願発明では,ファンが,熱電変換素子の一端面側と対向するように設置されているのに対して,引用発明では,かかる特定がなされていない点。

5.判断
上記相違点について以下に検討する。

・相違点1について
ファンを電力により回転させる手段としてモータを用いることは,本願の出願前において引例を挙げるまでもない常套手段であり,引用発明に上記常套手段を適用することに,格別の技術的困難性が伴うものとは認められない。
そうすると,引用発明において上記常套手段を適用することにより,上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたものである。

・相違点2について
一般に,大気を介して被冷却部材を冷却するものにおいて,大気による自然冷却でなくファンによる強制冷却を用いたものは,被冷却部材を冷却するためにより大きな冷却放熱能力が要求されているということができるから,当該ファンを用いるに当たり,例えば,送風される大気をより多く被冷却部材に当てる構成のように,冷却放熱能力を向上させるような構成とすることは,当業者が当然になすべきことといえる。
そして,ファンの送風により被冷却部材を強制冷却するものにおいて,当該ファンを,送風される大気がより多く被冷却部材に当たる位置である,被冷却部材に対向する位置に配置することは,本願の出願前において常套手段(必要であれば,特開平9-92761号公報の【図1】を参照。)であり,熱電変換素子の一端面側を冷却するために「空冷ファン」を設けた引用発明に,上記常套手段を適用することに,格別の技術的困難性が伴うものとは認められない。
そうすると,引用発明において上記常套手段を適用することにより,上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたものである。

そして,本願発明の全体構成により奏される作用効果も,引用発明及び上記各常套手段から当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって,本願発明は,引用発明及び上記各常套手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び上記各常套手段に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その余の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-15 
結審通知日 2011-07-19 
審決日 2011-08-17 
出願番号 特願2003-372446(P2003-372446)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仲村 靖  
特許庁審判長 仁木 浩
特許庁審判官 冨江 耕太郎
藤井 昇
発明の名称 発電装置  
代理人 河野 哲  
代理人 村松 貞男  
代理人 中村 誠  
代理人 蔵田 昌俊  

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