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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1244466
審判番号 不服2008-15238  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-16 
確定日 2011-10-06 
事件の表示 平成11年特許願第103763号「化粧料」拒絶査定不服審判事件〔平成12年10月24日出願公開、特開2000-297005〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成11年4月12日の出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。

平成18年12月13日付け 拒絶理由通知
平成19年3月8日 意見書、手続補正書
平成20年5月12日付け 拒絶査定
平成20年6月16日 審判請求書
平成20年8月27日 手続補正書(方式)


第2 本願発明について
本願の請求項1?7に係る発明は、平成19年3月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に記載された発明は下記のものである(以下、「本願発明」という。)。

「【請求項1】無機酸化物が被覆処理された酸化亜鉛粉体を、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシランから選ばれる無機酸化物と反応性を有するシラン化合物と共に湿式媒体型粉砕機にて粉砕・解砕し、上記無機酸化物とシラン化合物とを反応させることにより得られた活性抑制型酸化亜鉛粉体を含有することを特徴とする化粧料。」


第3 原査定の拒絶の理由の概要
本願発明についての原査定の拒絶の理由の概要は、「この出願の請求項1?7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」とするものを含むものである。

1.特開平09-315939号公報
2.国際公開98/017730号公報
3.特開平08-104606号公報


第4 刊行物に記載された事項
1 刊行物1について
本願の出願前である平成9年12月9日に頒布された刊行物である特開平9-315939号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1a)「【請求項1】 R^(1)_(X)Si(OR^(2))_(4-X)(但し、R^(1)は炭素数4?15のアルキル鎖であり、R^(2)は炭素数1?3の直鎖または側鎖を持つアルキル鎖であり、Xは1?3である。)の一般式で示されるアルキルアルコキシシランを平均一次粒子径として5?100nmの範囲にあるシリカ処理微粒子金属酸化物に対し、それぞれの重量比で1:99?15:85の範囲内にある表面処理量にて表面処理した微粒子金属酸化物を配合した化粧料。
【請求項2】 微粒子金属酸化物が酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウムから選ばれることを特徴とする請求項1に記載の化粧料。」(特許請求の範囲)

(1b)「アルキルアルコキシシラン処理微粒子酸化チタンは、耐水性、感触に優れ、青白さを示しにくいなどの特徴を有する(特願平6-270475号公報)。」(段落【0002】)

(1c)「そこでこの問題を解決すべく鋭意検討した結果、長鎖アルキルアルコキシシランの反応性を向上させるため、事前に微粒子金属酸化物の表面を表面水酸基に富むシリカで被覆し、これを長鎖アルキルアルコキシシランにて表面処理するとき、シランの反応性が向上し、特異臭がなくなることを見いだした。」(段落【0004】)

(1d)「本発明で言うアルキルアルコキシシランとしては、R^(1)_(X)Si(OR^(2))_(4-X)(但し、R^(1)は炭素数4?15のアルキル鎖であり、R^(2)は炭素数1?3の直鎖または側鎖を持つアルキル鎖であり、Xは1?3である。)の一般式で示されるものを使用することができる。この内、R^(1)としては、炭素数8?10が好ましく、また、R^(2)としてはメチルまたはエチルが好ましい。」(段落【0006】)

(1e)「本発明で用いるアルキルアルコキシシランのシリカ処理微粒子金属酸化物に対する処理方法としては、例えばアルキルアルコキシシランを窒素、不活性ガス、乾燥空気の一種などの雰囲気下で、シリカ処理微粒子金属酸化物の有する表面水酸基と表面水を利用して粒子表面で加熱反応させる気相法や、アルコール等の溶媒中にアルキルアルコキシシランとシリカ処理微粒子金属酸化物を投入し、少量の水分の存在下に反応させる湿式法などが挙げられる。」(段落【0011】)

(1f)「実施例1
シリカアルミナ処理微粒子酸化チタン(テイカ株式会社製のMT-100SA、平均一次粒子径は20nm)100重量部にR^(1)_(X)Si(OR^(2))_(4-X)(但し、R^(1)=C_(8)H_(17)、R^(2)=CH_(3)、X=1)で示されるアルコキシシラン10重量部を噴霧した後、窒素雰囲気下に120℃で8時間、ゆるい撹拌下に加熱し、改質微粒子酸化チタンを得た。次いで、空気循環下に100℃で5時間、ゆるい撹拌下に加熱して脱臭を行った。」(段落【0021】)

(1g)「本発明は、においがなく、撥水性に優れた微粒子金属酸化物を配合した化粧料を提供することは明かである。」(段落【0038】)

2 刊行物2について
本願の出願前である平成8年4月23日に頒布された刊行物である特開平8-104606号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(2a)「【請求項1】 媒体撹拌ミルを用いて湿式粉砕または湿式解砕する工程を利用することにより有機珪素化合物を表面被覆処理した、平均粒子径が0.1?0.01μmである一種以上の微粒子無機粉体を配合することを特徴とした化粧料。
【請求項2】 微粒子無機粉体が、酸化チタン、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、より選ばれた一種以上である請求項1に記載の化粧料。」(特許請求の範囲)

(2b)「微粒子酸化チタンや微粒子酸化亜鉛などの微粒子無機粉体は、紫外線遮蔽効果を有するするので、化粧料に配合されて日焼け止め化粧料として使用されている(特公昭47-42502号公報、特開昭49-450号公報、特開昭64-7941号公報など)。」(段落【0002】)

(2c)「本発明は、弱い分散力でも容易に分散が可能であり、また強い分散をかけても表面処理されていない面が露出することのない微粒子無機粉体を配合した、紫外線遮蔽効果に優れた化粧料を提供する。」(段落【0010】)

(2d)「本発明の化粧料は、粉砕もしくは解砕する工程を含む方法により、より微細で均一な上記有機珪素化合物で表面被覆処理された微粒子無機粉体を配合しているので、弱い分散力しか持たない分散機を用いても、粉体を十分分散させた状態とすることができる。」(段落【0012】)

(2e)「本発明で用いる表面処理剤については、・・・、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、・・・、オクチルトリエトキシシラン、・・・などの各種のアルキルシラン、・・・、などの種々の有機珪素化合物や、・・・などを検討したところ、特に・・・アルキル基部分の炭素数が10以下であるアルキルシラン、からなる有機珪素化合物群より選ばれた一種以上を用いた場合に、好ましい結果を得た。」(段落【0018】)

(2f)「本発明の化粧料に配合する粉体の処理として、媒体撹拌ミルを用いて湿式粉砕または湿式解砕する工程を利用するのは必須の構成要件であるが、その処理の具体的一例を示すと、まず微粒子無機粉体基材、有機珪素化合物、溶媒などを予備混合し、たとえばサンドグラインダーミルなどの媒体撹拌ミルに供給して処理を行ったのち、溶媒を除去して粉体化するのが通常である。
・・・
サンドグラインダーミルとは、容器内にメディアとしてビーズを充填し、さらに回転軸と垂直に取り付けられた攪拌ディスクを高速回転させることにより、基材粉体の凝集粒子を砕いて粉砕・分散する工程を有する装置であり、その構成としては、縦型・横型、連続式・回分式など、種々の様式が存在する。本発明の化粧料に配合する場合には、基材粉体である微粒子無機粉体を湿式粉砕または湿式解砕しながら有機珪素化合物が表面被覆処理できる形式であれば問題ない。」(段落【0023】?【0025】)

3 刊行物3について
本願の出願前である平成10年4月30日に頒布された刊行物である国際公開98/017730号公報(以下、「刊行物3」という。)には、以下の事項が記載されている。

(3a)「酸化亜鉛粉末の光触媒活性を抑制するためには、表面を低活性の物質で被覆する必要であり、特に無機酸化物で被覆することが好ましい。従来、無機酸化物で被覆する方法としては、例えば、・・・特開平3-183620号公報等に提案されているように、微粒子酸化亜鉛粉末の固体酸触媒活性を抑制し動摩擦係数を低下させるために、微粒子亜鉛粉末の表面に、湿式でpHの調整により酸化珪素等を析出させ被覆する方法、・・・特開昭63-139015号公報に提案されているように、特に粉体の凝集性を改善するために、環状シリコーン化合物や低分子量の直鎖状シリコーン化合物を上記の形で活性点を有する粉体と接触させ、粉体の活性点により、上記シリコーン化合物を重合させた後に、焼成する方法、・・・等が挙げられる。」(第1頁第17行?第2頁第9行)

第5 当審の判断
1 刊行物1に記載された発明
刊行物1の上記摘記事項(1a)の【請求項1】として「R^(1)_(X)Si(OR^(2))_(4-X)(但し、R^(1)は炭素数4?15のアルキル鎖であり、R^(2)は炭素数1?3の直鎖または側鎖を持つアルキル鎖であり、Xは1?3である。)の一般式で示されるアルキルアルコキシシランを平均一次粒子径として5?100nmの範囲にあるシリカ処理微粒子金属酸化物に対し、それぞれの重量比で1:99?15:85の範囲内にある表面処理量にて表面処理した微粒子金属酸化物を配合した化粧料」が記載されているところ、【請求項2】には、「微粒子金属酸化物」として「酸化亜鉛」が記載されている。

そうすると、刊行物1には、
「R^(1)_(X)Si(OR^(2))_(4-X)(但し、R^(1)は炭素数4?15のアルキル鎖であり、R^(2)は炭素数1?3の直鎖または側鎖を持つアルキル鎖であり、Xは1?3である。)の一般式で示されるアルキルアルコキシシランを平均一次粒子径として5?100nmの範囲にあるシリカ処理微粒子酸化亜鉛に対し、それぞれの重量比で1:99?15:85の範囲内にある表面処理量にて表面処理した微粒子金属酸化物を配合した化粧料」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

2 本願発明と引用発明との対比・判断
ア 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「シリカ処理微粒子酸化亜鉛」の「シリカ」は、本願明細書の段落【0006】の「第2の本発明は、無機酸化物がシリカ、アルミナから選ばれることを特徴とする上記の化粧料にある」の記載からみて、本願発明の「無機酸化物」に相当するといえる。さらに、引用発明の「シリカ処理微粒子酸化亜鉛」の「シリカ処理」は、刊行物1の上記摘記事項(1c)の「事前に微粒子金属酸化物の表面を表面水酸基に富むシリカで被覆し」の記載からみて、「シリカで被覆」するものといえるから、引用発明の「シリカ処理微粒子酸化亜鉛」は、本願発明の「無機酸化物が被覆処理された酸化亜鉛粉体」に相当するといえる。
引用発明の「R^(1)_(X)Si(OR^(2))_(4-X)(但し、R^(1)は炭素数4?15のアルキル鎖であり、R^(2)は炭素数1?3の直鎖または側鎖を持つアルキル鎖であり、Xは1?3である。)の一般式で示されるアルキルアルコキシシラン」は、刊行物1の上記摘記事項(1c)の「事前に微粒子金属酸化物の表面を表面水酸基に富むシリカで被覆し、これを長鎖アルキルアルコキシシランにて表面処理するとき、シランの反応性が向上し」の記載からみて、「無機酸化物」である「シリカ」と「反応性」を有するといえるから、本願発明の「ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシランから選ばれる無機酸化物と反応性を有するシラン化合物」とは「無機酸化物と反応性を有するシラン化合物」という点で共通する。
また、引用発明の「R^(1)_(X)Si(OR^(2))_(4-X)(但し、R^(1)は炭素数4?15のアルキル鎖であり、R^(2)は炭素数1?3の直鎖または側鎖を持つアルキル鎖であり、Xは1?3である。)の一般式で示されるアルキルアルコキシシランを、・・・シリカ処理微粒子酸化亜鉛に対し、・・・表面処理した微粒子金属酸化物」は、本願発明の「無機酸化物とシラン化合物とを反応させることにより得られた活性抑制型酸化亜鉛粉体」と、「無機酸化物とシラン化合物とを反応させることにより得られた酸化亜鉛粉体」である点で共通する。
引用発明の「シリカ処理微粒子酸化亜鉛」は「平均一次粒子径として5?100nmの範囲」にあるものであるが、本願発明の「無機酸化物が被覆処理された酸化亜鉛粉体」も、本願明細書の【請求項4】の「酸化亜鉛粉体の平均粒子径が5?500nmである」の記載、【請求項5】の「酸化亜鉛粉体の平均粒子径が10?100nmである」の記載、及び、段落【0012】の「無機酸化物の被覆量は、母体となる酸化亜鉛粉体100重量部に対して、0.5?30重量%が好ましく、さらに好ましくは3?20重量%である」の記載からみて、本願発明の「無機酸化物が被覆処理された酸化亜鉛粉体」の粒径と同程度のものであるといえる。
また、引用発明の「・・・アルキルアルコキシシランを・・・シリカ処理微粒子酸化亜鉛に対し、それぞれの重量比で1:99?15:85の範囲内にある表面処理量で表面処理」について、本願発明においても、本願明細書の段落【0016】の「無機酸化物と反応性を有する上記特定のシラン化合物にて表面処理する際の表面処理量としては、無機酸化物被覆処理酸化亜鉛粉体100重量部に対して、シラン化合物が3?25重量%であることが好ましく、特に7?17重量%であることが好ましい」の記載からみて、引用発明の「アルキルアルコキシシラン」の「シリカ処理微粒子酸化亜鉛」に対する「表面処理量」は、本願発明と同程度のものであるといえる。

したがって、両者は、
「無機酸化物が被覆処理された酸化亜鉛粉体を、無機酸化物と反応性を有するシラン化合物と反応させることにより得られた酸化亜鉛粉体を含有することを特徴とする化粧料。」
という点で一致し、以下の点で相違すると認められる。

相違点1:「無機酸化物と反応性を有するシラン化合物」として、本願発明では、「ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシランから選ばれる・・・シラン化合物」を用いるのに対し、引用発明では、「R^(1)_(X)Si(OR^(2))_(4-X)(但し、R^(1)は炭素数4?15のアルキル鎖であり、R^(2)は炭素数1?3の直鎖または側鎖を持つアルキル鎖であり、Xは1?3である。)の一般式で示されるアルキルアルコキシシラン」を用いる点。

相違点2:「無機酸化物が被覆処理された酸化亜鉛粉体」と「シラン化合物」との反応について、本願発明では、「湿式媒体型粉砕機にて粉砕・解砕」することにより反応させるのに対し、引用発明では、そのような構成を採用していない点。

相違点3:「酸化亜鉛粉体」について、本願発明では、「活性抑制型」であるのに対し、引用発明では、そのような記載がない点。

イ 判断
(ア)相違点1について
引用発明の「R^(1)_(X)Si(OR^(2))_(4-X)(但し、R^(1)は炭素数4?15のアルキル鎖であり、R^(2)は炭素数1?3の直鎖または側鎖を持つアルキル鎖であり、Xは1?3である。)の一般式で示されるアルキルアルコキシシラン」について、刊行物1の上記摘記事項(1d)には、「R^(1)としては、炭素数8?10が好ましく、また、R^(2)としてはメチルまたはエチルが好ましい」ことが記載されており、刊行物2の上記摘記事項(2a)、(2e)の記載からみて、化粧料に用いる、微粒子無機粉体に表面被覆処理するための有機珪素化合物として、「ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン」は周知の化合物であるといえる。
さらに、刊行物1の上記摘記事項(1f)には、具体的な実施例として、「R^(1)_(X)Si(OR^(2))_(4-X)(但し、R^(1)=C_(8)H_(17)、R^(2)=CH_(3)、X=1)で示されるアルコキシシラン」、すなわち、「オクチルトリメトキシシラン」を用いた例が記載されている。
したがって、引用発明において、「R^(1)_(X)Si(OR^(2))_(4-X)(但し、R^(1)は炭素数4?15のアルキル鎖であり、R^(2)は炭素数1?3の直鎖または側鎖を持つアルキル鎖であり、Xは1?3である。)の一般式で示されるアルキルアルコキシシラン」として、「ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン」を用いることは当業者に容易に想到できたことといえる。

(イ)相違点2について
引用発明の「アルキルアルコキシシランを・・・シリカ処理微粒子酸化亜鉛に対し、・・・表面処理」することについて、刊行物1の上記摘記事項(1e)には、「アルコール等の溶媒中にアルキルアルコキシシランとシリカ処理微粒子金属酸化物を投入し、少量の水分の存在下に反応させる湿式法」を採用できることが記載されている。
刊行物2の上記摘記事項(2a)、(2c)?(2f)には、紫外線遮蔽効果に優れた化粧料に配合される、「アルキルシラン」等の「有機珪素化合物」を表面被覆処理した「酸化亜鉛」等の「微粒子無機粉体」の製造において、「有機珪素化合物」を「微粒子無機粉体」に被覆処理する際に、「サンドグラインダーミル」等を用いて「湿式粉砕・湿式解砕」を行うことが記載されている。刊行物2の上記摘記事項(2e)には、上記「サンドグラインダーミル」について、「容器内にメディアとしてビーズを充填し、さらに回転軸と垂直に取り付けられた攪拌ディスクを高速回転させることにより、基材粉体の凝集粒子を砕いて粉砕・分散する工程を有する装置」と記載されており、さらに、本願明細書の段落【0017】の「湿式媒体型粉砕機としては、例えば、アルミナやジルコニア、ガラスなどの粉砕ビーズ媒体を用いたビーズミル(サンドミルやダイノミルなどが挙げられる)」の記載からみて、刊行物2の上記「サンドグラインダーミル」は、本願発明の「湿式媒体型粉砕機」に相当するといえる。
そして、引用発明と刊行物2に記載された発明とは、「アルキルアルコキシシラン」等の「有機珪素化合物」を表面被覆処理した「酸化亜鉛」等の「微粒子無機粉体」を配合した化粧料という点で技術分野及び構成を同一にするから、引用発明において、「無機酸化物が被覆処理された酸化亜鉛粉体」と「シラン化合物」との反応を、「湿式媒体型粉砕機にて粉砕・解砕」することにより行うことは当業者が容易に想到し得たことといえる。

(ウ)相違点3について
本願発明の「活性抑制型酸化亜鉛粉体」の「活性抑制型」の意義について、本願明細書の段落【0004】の「・・・本発明の方法であれば、もともと一次粒子レベルでの処理となっているため、破断による影響は最小限に押さえられる。このような処理により、光触媒活性やイオンの減少に対応した処理酸化亜鉛粉体が得られた。」の記載、段落【0038】?【0051】の実施例・比較例において、「ラジカル発生強度」を測定することにより「光触媒活性評価」を行っていること、段落【0052】の「本発明の実施例2は各比較例と比べて、配合製品自体のラジカルの発生強度がもっとも少なく、より安全・安定性に優れていること、・・・が判った。」の記載等からみて、「光触媒活性」を抑制していることを意図していると認められる。
刊行物3には、従来技術として、酸化亜鉛粉末の光触媒活性を抑制するために、「微粒子酸化亜鉛粉末の固体酸触媒活性を抑制し動摩擦係数を低下させるために、微粒子亜鉛粉末の表面に、湿式でpHの調整により酸化珪素等を析出させ被覆する方法」及び「環状シリコーン化合物や低分子量の直鎖状シリコーン化合物を上記の形で活性点を有する粉体と接触させ、粉体の活性点により、上記シリコーン化合物を重合させた後に、焼成する方法」が記載されているが、これらの方法により、酸化亜鉛粉末にシリカ(酸化珪素)が形成されているといえる。
そうすると、引用発明の「シリカ処理微粒子酸化亜鉛」は光触媒活性が抑制されているものであるといえる。そして、引用発明の「アルキルアルコキシシランを・・・シリカ処理微粒子酸化亜鉛に対し、・・・表面処理した微粒子金属酸化物」自体も、光触媒活性が抑制されているといえる「シリカ処理微粒子酸化亜鉛」に、「アルキルアルコキシシラン」を表面処理したものであるから、光触媒活性が抑制されたものになっているといえる。
そうすると、この点については、本願発明と引用発明とで実質的に相違しない。

(エ)本願発明の効果について
本願発明の効果について、本願明細書の段落【0053】には、「本発明は、活性抑制型微粒子酸化亜鉛粉体を配合することで、より安全・安定性、耐水性、感触、紫外線防御効果に優れた化粧料が得られることは明らかである」と記載されており、本願発明の効果は、「安全・安定性」、「耐水性」、「感触」、「紫外線防御効果」に優れた化粧料が得られることといえる。
このうち、「安全・安定性」は、段落【0052】の「本発明の実施例2は各比較例と比べて、配合製品自体のラジカルの発生強度がもっとも少なく、より安全・安定性に優れていること」、段落【0038】の「[光触媒活性評価] ・・・紫外光を光ファイバーを用いてESRに設置した試料容器に照射する。スーパーオキサイドアニオンラジカルをターゲットとして、照射0?750秒までの時間範囲でラジカルの発生量をESRにより測定する(ラジカル種としてはスーパーオキサイドアニオンラジカルを測定した。)。」の記載からみて、「光触媒活性」が抑制されることを意味するものと認められる。また、「感触」については、本願明細書の段落【0037】及び【0050】の[表2]の記載からみて、「化粧料ののび」を意味するものと認められる。

まず、「安全・安定性」については、上記イ(ウ)で検討したように、引用発明の「化粧料」に配合される「アルキルアルコキシシランを・・・シリカ処理微粒子酸化亜鉛に対し、・・・表面処理した微粒子金属酸化物」は光触媒活性が抑制されたものになっているといえるから、これを配合した引用発明の「化粧料」も「安全・安定性」を有するといえる。
「耐水性」について、刊行物1の上記摘記事項(1b)及び(1g)の記載からみて、引用発明の「アルキルアルコキシシランを・・・シリカ処理微粒子酸化亜鉛に対し、・・・表面処理した微粒子金属酸化物」は耐水性・撥水性に優れたものといえるから、これを配合した引用発明の「化粧料」も、「耐水性」を有するといえる。
次に、「紫外線防御効果」について、刊行物2の上記摘記事項(2b)には、「微粒子酸化亜鉛などの微粒子無機粉体は、紫外線遮蔽効果を有する」ことが記載されており、引用発明の「化粧料」も「微粒子酸化亜鉛」を含むものであるから、「紫外線防御効果」を有するものといえる。
さらに、「感触」、すなわち、「化粧料ののび」について、本願明細書の段落【0041】?【0044】の実施例2と、段落【0046】の比較例2について、これらの評価結果である段落【0050】をみると、「のびに優れる」の評価では、実施例2よりも比較例2の方が優れている。実施例2と比較例2は両者とも「微粒子酸化亜鉛粉体」を「オクチルトリエトキシシラン」で処理したものであり、実施例2と比較例2とは、「微粒子酸化亜鉛粉体」を「シリカ」で処理したか否かのみで相違しているから、「微粒子酸化亜鉛粉体」を「オクチルトリエトキシシラン」で処理したものを配合した化粧料は、「のびがよい」ものになるといえる。
そして、上記イ(ア)で検討したように、引用発明の「R^(1)_(X)Si(OR^(2))_(4-X)(但し、R^(1)は炭素数4?15のアルキル鎖であり、R^(2)は炭素数1?3の直鎖または側鎖を持つアルキル鎖であり、Xは1?3である。)の一般式で示されるアルキルアルコキシシラン」について、刊行物1の上記摘記事項(1d)には、「R^(1)としては、炭素数8?10が好ましく、また、R^(2)としてはメチルまたはエチルが好ましい」ことが記載されており、さらに、刊行物1の上記摘記事項(1f)には、具体的な実施例として、「オクチルトリエトキシシラン」と同等の「オクチルトリメトキシシラン」を用いた例が記載されているから、引用発明の「化粧料」も「のびがよい」態様を含むものであるといえる。

したがって、本願発明の効果は、いずれも、引用発明及び刊行物2?3に記載された発明から当業者が予測できる範囲内のものであるといえる。

ウ 請求人の主張について
平成20年6月16日付け審判請求書に対する平成20年8月27日付け手続補正書において、請求人は、「引用文献1と引用文献3との記載より、粒子の分散性の向上を目的として引用文献1記載の微粒子金属酸化物の処理方法として「湿式媒体型粉砕機にて粉砕・解砕」する方法を採用したとしても、本願発明は、酸化亜鉛という酸化物の特性である、紫外線によるラジカルの発生や光溶解による亜鉛イオンの発生などを防ぐという新たな課題を解決し、本願発明に係る化粧料についてラジカル発生強度が抑えられることを確認したものであり、引用文献1?3に記載された効果とは全く異質の効果であることから、引用文献1?3の記載から当業者が予測し得るものではない」旨を主張している。
しかしながら、上記イ(ウ)で検討したように、刊行物3には、酸化亜鉛粉末の光触媒活性を抑制するために、酸化亜鉛粉末にシリカ(酸化珪素)が形成することが開示されており、引用発明の「シリカ処理微粒子酸化亜鉛」も酸化亜鉛粉末にシリカ(酸化珪素)が形成されたものであり、光触媒活性が抑制されているものであるといえるから、請求人のこの主張を採用することはできない。

3 まとめ
したがって、本願発明は、刊行物1?3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余の事項については検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-04 
結審通知日 2011-08-09 
審決日 2011-08-22 
出願番号 特願平11-103763
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清野 千秋  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 齊藤 真由美
杉江 渉
発明の名称 化粧料  
代理人 伊藤 健  
代理人 有賀 三幸  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 山本 博人  
代理人 中嶋 俊夫  
代理人 高野 登志雄  
代理人 村田 正樹  

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