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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F25B
審判 全部無効 2項進歩性  F25B
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  F25B
管理番号 1244588
審判番号 無効2010-800034  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-03-02 
確定日 2011-10-17 
事件の表示 上記当事者間の特許第4208982号発明「ヒートポンプ式冷暖房機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第4208982号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る発明についての出願は、平成9年6月9日に特許出願され、平成20年10月31日にその発明について特許の設定登録がなされた。

本件特許についての無効審判事件の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成22年 3月 2日 審判請求
同年 6月 7日 答弁書
同年 9月14日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 9月17日差出 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年 9月17日 上申書(請求人)
同年 9月30日 第1回口頭審理
同年10月15日 答弁書
同年11月10日 上申書(請求人)

第2 本件特許発明
1 本件特許発明の構成
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
コンプレッサーと既設コンデンサーを四方弁を介したガスパイプで結び、既設コンデンサーの冷媒ガス出口に設置したキャピラリチューブと、内部のガスパイプ回路の管を前記既設コンデンサー内のガスパイプ回路の管の内径の80%以内又は断面積を64%以下と細くした追設コンデンサーとをガスパイプで結び、追設コンデンサーと蒸発器のキャピラリチューブをガスパイプで結び、蒸発器の冷媒ガス出口とコンプレッサーとを四方弁を介したガスパイプで結び、ガスパイプ側にコンプレッサーより冷媒ガスを吐出して既設コンデンサーに送り、既設コンデンサーで大気又は冷却水と熱交換して凝縮させ、ガスパイプを通って追設コンデンサーに送って放熱してさらに凝縮させ、ガスパイプを通って蒸発器に設置したキャピラリチューブで減圧し、蒸発器に送って蒸発させたのち、ガスパイプで冷媒ガスをコンプレッサーに戻す冷房運転と、コンプレッサーよりガスパイプに冷媒ガスを吐出し、蒸発器をコンデンサーとして作動させて冷媒ガスを凝縮させ、ガスパイプを通って追設コンデンサーに送って放熱してさらに凝縮させ、ガスパイプで冷媒ガスを既設コンデンサーに設置したキャピラリチューブに送って減圧し、既設コンデンサーに送って既設コンデンサーを蒸発器として作動させて冷媒ガスを蒸発させたのち、ガスパイプを通ってコンプレッサーに戻す暖房運転とを、四方弁で切替え運転を可能とし、冷房運転、暖房運転のいずれの場合でも追設コンデンサーで冷媒ガスを放熱して、凝縮を進めることを特徴とするヒートポンプ式冷暖房機。」(以下「本件特許発明1」という。)

「【請求項2】
追設コンデンサーの熱交換能力を、既設コンデンサーの熱交換能の20
%以上とした請求項1記載のヒートポンプ式冷暖房機。」(以下「本件特許発明2」という。)

「【請求項3】
空冷式ヒートポンプでは、既設コンデンサーの大気吸い込み側に、追設
コンデンサーを張り合わせるように取り付け、大気が追設コンデンサーを通過したのち、既設コンデンサーを通過するようにして、追設コンデンサーが放熱して昇温した大気が既設コンデンサーに入るようにした、請求項1又は2記載のヒートポンプ式冷暖房機。」(以下「本件特許発明3」という。)

2 本件特許発明が解決しようとする課題
「【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ヒートポンプ式冷暖房機において、冷房運転時、暖房運転時いずれも冷媒ガスの凝縮能力だけが増大するようにして、夏期、冷房運転では冷媒ガスの凝縮をよくして飽和を防ぎ、冬期、暖房運転では追設、増大した凝縮器より出る温風を蒸発器となるコンデンサーに送り、コンデンサーで熱交換する大気温度を高くして、コンデンサーに霜が付着するのを防ぐとともに、追設、増大した凝縮器よりの放熱カロリー分、ヒートポンプ式冷暖房機の性能を向上させるのである。」

3 本件特許発明の効果
「【発明の効果】
上述のように、ヒートポンプ式冷暖房機に追設コンデンサーを取り付け、冷房運転時でも、暖房運転時でも追設コンデンサーを凝縮器として作動させることによって、冷房運転時では追設コンデンサーの放熱分、蒸発器での吸熱カロリーが増大して、冷房効率が向上する。しかも、夏期、大気温度が高いときに既設コンデンサーでの熱交換量が不足して高圧運転となって、消費電力が増大することもなく、さらに冷媒ガスが凝縮不足となって飽和し、運転が停止したりガス漏れを起こしたりすることもない。暖房運転の場合では、追設コンデンサーの放熱分、蒸発器になる既設コンデンサーに温風で吸熱されるので、吸熱量も多くなり暖房効率もよくなるのである。さらに、蒸発器に温風が送られるので、蒸発器を通過する大気温度が高くなり、外気温度の低いときでも霜の付着がなくなり、霜の除去に必要な電力消費も少なくなるのである。追設コンデンサーを冷媒ガスが通る分、抵抗値が増加するうに思われるが、冷媒ガスの凝縮がよくなると、冷媒ガスとオイルはよく相溶して抵抗は少なくなり、特に泡のないまでに冷媒ガスを凝縮させると、膨張弁での抵抗も少なくなり、ヒートポンプ式冷暖房機の効率がよくなっても、消費電力は増大しないのである。」

第3 請求人の主張
これに対し、請求人は、本件特許発明1ないし3についての特許を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする旨の特許無効審判を請求し、以下の証拠方法を提示すると共に、次に示す理由により無効とすべきであると主張している。

1 無効理由
(1)無効理由1
本件特許発明1ないし3は、その出願前に公開された甲第1号証及び他の先行技術発明(甲第2号証?甲第6号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。(以下「無効理由1」という。)

(2)無効理由2
本件特許の請求項1ないし3の記載は、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、また、請求項1に記載された数値範囲について、発明の詳細な説明や出願時の技術常識に照らしても、請求項1に記載された数値範囲全体にまで拡張ないし一般化できないものであるから、特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たさない。(以下「無効理由2」という。)

(3)無効理由3
本件特許の請求項1ないし3の記載は、技術的意義が不明確な文言を含んでいるから、特許法第36条第6項2号に規定する要件を満たしていない。(以下「無効理由3」という。)

(4)無効理由4
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易にその発明を実施できる程度に本件特許発明1ないし3に係る冷暖房機が記載されておらず、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさない。(以下「無効理由4」という。)

2 証拠方法
甲第1号証 :特開昭60-140048号公報
甲第2号証 :特開平3-84395号公報
甲第3号証 :特開平8-233386号公報
甲第4号証 :特開平9-79673号公報
甲第5号証 :特開平8-5171号公報
甲第6号証 :平成22年2月25日付写真撮影報告書
甲第7号証 :ダイキン工業株式会社のホームページ「ダイキンコンタ クセンター」において、機種名「STY453BVP」 で検索した結果の一覧(1枚目)と、その一覧中のリン クから入手できる同社の「’86ルームエアコン技術ガ イド」の抜粋(2ないし5枚目)
甲第8号証 :社団法人日本冷凍協会編「上級標準テキスト 冷凍空調 技術」(平成4年8月20日改訂第一刷)の抜粋

第4 被請求人の主張
被請求人は、本件特許発明1ないし3は、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでなく、また、本件特許の請求項1ないし3の記載は、特許法第36条第6項1号及び同2号の規定にする要件を満たし、さらに、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たすと主張している。

第5 当審の判断
1 無効理由1
(1)甲第1号証ないし甲第6号証
ア 甲第1号証
本件特許の出願前に頒布された甲第1号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

(ア)「第1図に示したものは、高沸点冷媒R-22と低沸点冷媒R-13とを混合した非共沸混合冷媒を封入するヒートポンプ式の冷凍装置である。 図中、(1)は圧縮機、(2)は利用側熱交換器、(3)は熱源側熱交換器、(4)は膨張機構として作用する第1キャピラリーチユーブであり、これら機器は四路切換弁(5)を介して可逆サイクルを構成する如く接続されている。尚、(6)はアキユムレータである。
而して、以上の如く構成する冷凍装置において、前記熱源側熱交換器(3)を、第1熱交換器(31)と第2熱交換器(32)とに分割し、かつ、これら熱交換器(31),(32)を減圧手段となる第2キャピラリーチユーブ(7)を介して直列に接続して構成し、このことにより暖房運転時に、前記混合冷媒の蒸発圧力をこの熱源側熱交換器(3)の流通過程で減圧できるように成すのである。
尚、(8)は、冷房運転時前記混合冷媒を前記第2キャピラリーチユーブ(7)をバイパスさせて循環させるための逆止弁である。」(第2頁左下欄7行?右下欄7行)

(イ)「暖房運転について説明する。前記四路切換弁(5)を第1図実線で示す如く切換えて暖房サイクルを形成する。そして、圧縮機(1)を駆動させると、混合冷媒は実線矢印で示す如く循環する。この循環による混合冷媒の状態変化を第1図および第3図のモリエル線図を基に説明する。
混合冷媒は圧縮機(1)から圧力P_(0)の高温高圧のガスとして吐出される(ハ)。そして利用側熱交換器(2)で同一圧力(P_(0))で凝縮して液冷媒となる(ニ)。更に、前記第1キャピラリーチユーブ(4)で減圧されて圧力P_(1)の状態となつて前記第1熱交換器(31)流入する(ホ)。
而して前記混合冷媒は前記第1熱交換器(31)の入口でフロスト限界温度T_(1)より高い温度T_(3)で蒸発を開始し、この蒸発に伴い該熱交換器(31)の出口側では蒸発温度がT_(4)(但しT_(2)以下)まで上昇するのである(へ)。そして、この第1熱交換器(31)から流出した前記混合冷媒は前記第2キャピラリーチユーブ(7)で再び減圧されて圧力P_(2)となるのであり(ト)、このため前記第2熱交換器(32)の入口での蒸発温度は前記第1熱交換器(31)の出口側のそれより低く、しかもフロスト限界温度T_(1)より高い温度T_(5)に再び低下するのである(ト)。更に、この第2熱交換器(32)での蒸発に伴い蒸発温度が上昇し、出口側において、標準外気温度T_(2)より適当に低い温度T_(6)のガス冷媒となつて(チ)、前記圧縮機(1)に返送され再び圧縮されるのである。」(第3頁左上欄10行?右上欄17行)

(ウ)「尚、本実施例は、前記四路切換弁(5)を破線で示す如く切換え、破線矢印で示すサイクルを形成して冷房運転を行えるものであるが、これは従来と同様であるから説明を省略する。」(第3頁左下欄12行?15行)

(エ)ヒートポンプの冷凍装置の各機器が、配管で接続されることは明らかである。(第1図、第2図)

これらの記載事項及び図示内容を総合し、本件特許発明1の記載ぶりに則って整理すると、甲第1号証には、次の発明が記載されている。

「圧縮機(1)と第2熱交換器(32)を四路切換弁(5)を介した配管で結び、
第2熱交換器(32)の出口に接続した第2キャピラリチユーブ(7)及び逆止弁(8)からなる並列管路と、第1熱交換器(31)とを配管で結び、
第1熱交換器(31)と利用側熱交換器(2)の第1キャピラリチユーブ(4)を配管で結び、
利用側熱交換器(2)の出口と圧縮機(1)とを四路切換弁(5)を介した配管で結び、
配管側に圧縮機(1)より混合冷媒を吐出して第2熱交換器(32)に送り、
第2熱交換器(32)で大気と熱交換して凝縮させ、
逆止弁(8)を通って第1熱交換器(31)に送って放熱してさらに凝縮させ、
配管を通って利用側熱交換器(2)に接続した第1キャピラリチユーブ(4)で減圧し、
利用側熱交換器(2)に送って蒸発させたのち、配管で混合冷媒を圧縮機(1)に戻す冷房運転と、
圧縮機(1)より配管に混合冷媒を吐出し、利用側熱交換器(2)をコンデンサーとして作動させて混合冷媒を凝縮させ、
第1キャピラリチユーブ(4)で減圧して、配管を通って第1熱交換器(31)に送って蒸発させ、
配管で混合冷媒を第2熱交換器(32)に接続した第2キャピラリチユーブ(7)に送って減圧し、
第2熱交換器(32)に送って第2熱交換器(32)を蒸発器として作動させて混合冷媒を蒸発させたのち、
配管を通って圧縮機(1)に戻す暖房運転とを、
四路切換弁(5)で切替え運転を可能とし
冷房運転の場合は、第1熱交換器(31)で混合冷媒を放熱して凝縮を進め、暖房運転の場合は、第1熱交換器(31)で混合冷媒を吸熱して蒸発を進めるヒートポンプ式冷凍装置。」

イ 甲第2号証
本件特許の出願前に頒布された甲第2号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

(ア)「産業上の利用分野
この発明はカークーラー用の凝縮器、蒸発器、オイルクーラー等に使用される熱交換器、特に複数の熱交換器によって構成される複式熱交換器に関する。」(第1頁左下欄13行?17行)

(イ)「発明が解決しようとする課題
ところで、上記のマルチフロータイプの熱交換器において、交換熱量の増大を図る必要が生ずる場合があるが、設置スペースとの関係で一般的に、熱交換器の縦、横寸法即ちチューブ長さやチューブ本数の増加に対し寸法的な制約を受ける場合が多い。このため、チューブの幅換言すれば熱交換器の奥行きを大にして交換熱量の増大に対処することが行われている。
しかしながら、チューブの幅を大にするとそれに伴ってヘッダーの外径も大きくなるため、熱交換に寄与するチューブの有効長さが減少し、所期するほどの交換熱量の増大が得られないというような欠点があった。
この発明は、かかる欠点を解消するためになされたものであって、交換熱量を増大できる熱交換器の提供を目的とする。」(第1頁右下欄14行?第2頁左上欄10行)

(ウ)「課題を解決するための手段
上記目的を達成するために、この発明は、マルチフロータイプの熱交換器を複数個用い、これらを空気流通方向において前後に並設して1の複式熱交換器に構成しようというものである。
即ちこの発明は、複数のチューブが並列状に配置されるとともに、隣接チューブ間にフィンが配置され、各チューブの両端が一対の中空ヘッダーに連通接続された熱交換器の複数個が、空気流通方向において前後に並設され、かつ各熱交換器の冷媒回路が直列あるいは並列に接続されてなることを特徴とするものである。」(第2頁左上欄11行?右上欄2行)

(エ)「作 用
前後に並設した各熱交換器において流通空気と熱交換が行われるから、全体の交換熱量は増大する。」(第2頁右上欄3行?6行)

(オ)「[第1実施例]
第1図?第9図はこの発明をカークーラー用のアルミニウム製凝縮器に適用した実施例を示すものである。これらの図において、(H)は複式熱交換器であり、この複式熱交換器(H)は熱交換用空気の流通方向(W)において前後2段に並設された風上側の前側熱交換器(A)と風下側の後側熱交換器(B)とからなる。」(第2頁右上欄8行?15行)

(カ)「ところで、後側熱交換器(B)の左ヘッダー(23)には、そのほぼ中央部に仕切板(29)が設けられてヘッダーが上下2室に仕切られている。これに対し、前側熱交換器(A)の左ヘッダー(3)には中央部の上側と下側の位置に各1個合計2個の仕切板(9)(9)が設けられ、ヘッダー(3)内が3室に仕切られる一方、右ヘッダー(4)にもほぼ中央部に仕切板(10)が設けられ、ヘッダー内が2室に仕切られている。かかる仕切板(29)(9)(10)の設置により、冷媒入口管(40)から後側熱交換器(B)の左ヘッダー(23)に流入した冷媒は、第9図に示すように、後側熱交換器(B)のチューブ群を1回蛇行して左ヘッダー(23)の下部へと流れたのち、接続管(60)を介して前側熱交換器(A)の左ヘッダー(3)の下部へと至り、ここから前側熱交換器(A)のチューブ群を3回蛇行しつつ上昇して左ヘッダー(3)の上部に至り、冷媒出口管(50)から器外へと流出する。そして冷媒が前後熱交換器(A)(B)の各チューブを流通する間に矢印(W)で示す方向に流通する空気との間で熱交換が行われる。このように、後側熱交換器(B)から前側熱交換器(A)へと冷媒を流通させるのは、まず風下側の熱交換器に流通させ次いで風上側の熱交換器に流通させることにより、空気との温度差を大きくでき、熱交換効率の増大を図るためである。また、前側熱交換器(A)の蛇行回数を後側熱交換器(B)の蛇行回数よりも多くしたのは、それにより前側熱交換器(A)の通路断面積を小さくでき、冷媒の体積変化に応じて通路断面積を変化させた凝縮器となすためである。即ち、後側熱交換器(B)に流入した冷媒はいまだ体積の大きいガス化状態にあるが、熱交換されるに従い徐々に冷却されて液化し体積は減少する。従って、冷媒がガス化状態にある後側熱交換器の冷媒通路断面積を大きく確保して十分な熱交換を行わしめるとともに、冷媒体積の減少に伴い前側熱交換器(A)の通路断面積を小にして、熱交換器全体の熱交換効率を向上させ、併せて圧力損失の可及的抑制をも図ったものである。ここに、前側熱交換器(A)の通路断面積は、後側熱交換器(B)の通路断面積の30?60%に設定されている。これが30%を下回るときは、過冷却部に相当する前側熱交換器(A)の通路断面積が小さくなりすぎて冷媒の圧力損失が大きくなるとともに、凝縮部に相当する後側熱交換器(B)の通路断面積が大きくなりすぎて冷媒の流速が減少することになり効率の良い熱交換がなされなくなるおそれがある。また60%を超えるときは、凝縮部に相当する後側熱交換器(B)の通路断面積が小さくなりすぎて冷媒の圧力損失が大きくなるとともに、伝熱面積が不足して熱交換効率が低下することになる。従って、効率の良い熱交換を行い、かつ圧力損失を低くするには、前側熱交換器(A)の通路断面積を後側熱交換器(B)の通路断面積の30?60%に設定することが好ましく、特に35?50%に設定するのが好ましい。」(第3頁左上欄1行?左下欄20行)

(キ)「[第2実施例]
第10図及び第11図はこの発明の第2実施例を示すものである。この実施例は、第1実施例と同じく凝縮器に適用するとともに前側熱交換器(A)と後側熱交換器(B)とを直列に接続したものであり、前側熱交換器と後側熱交換器とは同一の大きさに設計されているが、各熱交換器のヘッダー、チューブ、コルゲートフィン等の構成は第1実施例と同じである」(第4頁右上欄15行?左下欄3行)

(ク)「[第3実施例]
第12図及び第13図はこの発明の第3実施例を示すものである。この実施例もやはり凝縮器に適用したものであるが、同形同大の前後の熱交換器を並列に接続した点で前記第1、第2実施例と異なる。」(第5頁左上欄8行?13行)

(ケ)「[第4実施例]
第14図及び第15図はこの発明の第4実施例を示すものである。この実施例では、前側熱交換器(A)と後側熱交換器(B)のコルゲートフィンを、両熱交換器に掛渡し状に配置された1枚の幅広コルゲートフィン(210 )で共用したものである。」(第5頁右上欄19行?左下欄5行)

(コ)「[第5実施例]
第16図及び第17図はこの発明の第5実施例を示すものである。この実施例はカークーラー用の蒸発器に適用した場合を示している。この実施例のように蒸発器に適用することにより、冷媒圧力損失の低減を図りうる。
この実施例では、前後熱交換器(A)(B)はともにチューブ(1)(21)が垂直状態で左右方向に平行配置されるとともに、ヘッダー(3)(4)(23)(24)が上下に水平状態に配置されている。そして、各上部ヘッダー(3)(23)の左端に二股状の冷媒入口管(220)が連結されるとともに、各下部ヘッダー(4)(24)の右端に二股状の冷媒出口管(230)が接続され、もって前後熱交換器(A)(B)の冷媒回路が並列に接続されている。」(第5頁左下欄12行?右下欄7行)

ウ 甲第3号証
本件特許の出願前に頒布された甲第3号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

(ア)「【0012】
【発明が解決しようとする課題】R-32、R-125とR-134aの3成分からなる混合媒体を冷凍機を含む空調装置の凝縮器に通すと、沸点の高いR-134aが早く凝縮し、凝縮器のパイプ内では、R134aをリッチとする液相と、R-32、R-125をリッチとする気相との2相が作られ、管内の熱伝達と管壁からの放熱の効率が下がる。液相の増大はパイプ内の流速を落し凝縮効率を下げることになる。それ故に、本発明は前述した従来技術の不具合を解消させることを解決すべき課題とする。」(段落【0012】)

(イ)「【0020】
冷房又は冷凍サイクルについて述べるが、基本的には図3に示すサイクルと同じであるので一部説明が重複する。圧縮機12より吐出された高温高圧の3成分(R-32、23%(30wt%);R-125、25%(10wt%);R-134a、52%(60wt%))の混合媒体は、四方弁13を介して、室外側熱交換器14に入り、放熱し凝縮する。凝縮過程は、先ずは、第1凝縮器19内で沸点の高いR-134aがリッチな凝縮相を作り、その液化分を液ガス分離器21内に貯え、これを過冷却熱交換器11の吸入口側に第3逆止弁24を介して送り、ガス成分を第1逆止弁22を介して第2凝縮器20内に送る。第2凝縮器20内の管路に液相がなく流速を上げて効率よく凝縮行程を行なう。凝縮相は、次いで、過冷却熱交換器11に入り、混合媒体が完全に液化する。液化相は、膨脹弁15により低温低圧の気液2相となって、室内側熱交換器16に入り、第2凝縮器20′、第2逆止弁23′と第1凝縮器19′を介し吸熱して蒸発し低温低圧ガスとなって四方弁13を介してアキュムレータ17に入る。
【0021】
暖房サイクルは、図4の例と実質的に同じサイクルをなし、室内側熱交換器16が凝縮器として機能する。凝縮過程は、先ずは、第1凝縮器19′内で沸点の高いR-134aがリッチな凝縮相を作り、その液化分を液ガス分離器21′内に貯え、第3逆止弁24′を介して、これを過冷却熱交換器11′の吸入口側に送り、ガス成分を第1逆止弁22′を介して第2凝縮器20′内に送る。第2凝縮器20′内の管路に液相がなく流速を上げて効率よく凝縮行程を行なう。凝縮相は、次いで、過冷却熱交換器11に入り、混合媒体が完全に液化する。液化相は、膨脹弁15により低温低圧の気液2相となって、室内側熱交換器16に入り、吸熱して蒸発し、低温低圧ガスとなって四方弁13を介してアキュムレータ17に入る。
【0022】
第1凝縮器19、19′の管径は、第2凝縮器20、20′の管径より大とする。たとえば、前者の管径を9.52φとすれば、後者の管径を6.35φとする。液ガス分離器21、21′は凝縮器14、16の途中で液相を抜き、第2凝縮器20、20′の細い管路で流速を上げて凝縮させるので、沸点の異る3成分の混合媒体を効率よく凝縮できる。」(段落【0020】?【0022】)

(ウ)「【0024】
【効果】凝縮器の凝縮過程で液相分を抜きとり、気相分の凝縮を促進させることは、圧縮機の負荷を下げ、駆動トルクを小さくさせ得る。又、熱交換器を小さくすることができ、コストの低減を図ることができる。」(段落【0024】)

エ 甲第4号証
本件特許の出願前に頒布された甲第4号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

(ア)「【0017】
図1に示すものは、空冷コンデンサーを使用したものであって、コンプレッサー1、空冷コンデンサー2A、膨張弁3を高圧ガスパイプ5(図に細線で示す)で接続し、膨張弁3、蒸発器4、コンプレッサー1をそれぞれ低圧ガスパイプ6で接続したヒートポンプ装置に、空冷コンデンサー2Aと膨張弁3との間の高圧ガスパイプ5を撤去し、空冷コンデンサー2Bを追設して、空冷コンデンサー2A、空冷コンデンサー2B、膨張弁3を高圧ガスバイプ7(図に太線で示す)でそれぞれ接続したものである。このように変更するとき、空冷コンデンサー2A、膨張弁3間の高圧ガスパイプ5を切断して空冷コンデンサー2Bを追設したり、コンプレッサー1、空冷コンデンサー2A間の高圧ガスパイプ5を切断し、その間に空冷コンデンサー2Bを追設したりすることもできる。」(段落【0017】)

(イ)「【0026】
図2に示すものは水冷コンデンサーを使用したものであって、コンプレッサー1、水冷コンデンサー2C1、膨張弁3を高圧ガスパイプ5(図に細線で示す)で接続し、膨張弁3、蒸発器4、コンプレッサー1を低圧ガスパイプ6でそれぞれ接続したヒートポンプ装置に、水冷コンデンサー2C2を追設したものである。水冷コンデンサー2C1、追設した水冷コンデンサー2C2、膨張弁3を高圧ガスパイプ7(図に太線で示す)でそれぞれ接続し、水冷コンデンサー2C1、膨張弁3間の高圧ガスパイプ5を撤去したものである。このように変更するとき、水冷コンデンサー2C1、膨張弁3間の高圧ガスパイプ5を切断し、その間に水冷コンデンサー2C2を追設しても、コンプレッサー1、水冷コンデンサー2C1間の高圧ガスパイプを切断し、その間に水冷コンデンサー2C2を追設してもよい。追設水冷コンデンサー2C2の放熱量も、空冷コンデンサーの場合と同様50%を目処とする。」(段落【0026】)

(ウ)「【0049】
図1に示す空冷コンデンサーを使用したヒートポンプ装置のレトロフィット方法について説明する。コンプレッサー1、空冷コンデンサー2A、膨張弁3、蒸発器4からなる現用のヒートポンプ装置から、現在使用されているフロンガスを抜き取り、他の容器に入れて回収し、空冷コンデンサー2Bを追設するのであるが、冷媒ガスの放熱カロリーのすべてを放出可能な能力を計算する。通常の場合、現在使用されている空冷コンデンサーの放熱量の30%?100%、すなわち、冷凍量の36%?120%、又は39%?130%程度の追設が必要である。しかし、この放熱量は熱交換する大気の温度、風量等によって異なる場合がある。冷媒ガスとしてHFC134aを使用する場合は下限に、HFC125を使用する場合は上限に近い放熱量のコンデンサーを追設する。」(段落【0049】)

(エ)「【0053】
図2に示す水冷コンデンサーを使用したヒートポンプ装置のレトロフィット方法について説明する。コンプレッサー1、水冷コンデンサー2C1、膨張弁3、蒸発器4からなる現用のヒートポンプ装置から、現在使用されているフロンガスを回収し、水冷コンデンサー2C2を追設するのであるが、冷媒ガスの放熱カロリーのすべてを放出可能な能力を計算する。通常の場合、現在使用されている空冷コンデンサーの放熱量の30%?100%、すなわち、冷凍量の36%?120%、又は39%?130%程度の追設が必要である。この場合にも、この放熱量は熱交換する冷却水の水温、水量によって異なる場合がある。」(段落【0053】)

(オ)「【0076】特に、本発明によれば、HFC系の冷媒ガスを使用して、庫内をマイナス20゜C以下に冷却する冷凍運転が可能となる。また、新代替冷媒ガス134a、HFC125及びこれらの混合ガスを使用して、冷媒ガスとしてHCFC22、CFC12等を使用している現用機器、現用のオイルで冷房、冷蔵、冷凍運転ができるようになる。さらに、オイルとの相溶性はよいが可燃性の冷媒ガスを使用せず、不燃性のHFC系の冷媒ガスを単独で、又は混合して使用し、現用のヒートポンプ装置のレトロフィットができ、そのヒートポンプ装置の運転を可能としたものである。」(段落【0076】)

(カ)「【図3】
空冷コンデンサー2Aに空冷コンデンサー2B及び2Cを追設し、冷媒ガスの凝縮温度を大気温度プラス5℃以内の低温に設定し、HFC系の冷媒ガスを使用して運転するヒートポンプ装置の構成略図である。」(【図面の簡単な説明】【図3】)

オ 甲第5号証
本件特許の出願前に頒布された甲第5号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

(ア)「【0010】
【課題を解決するための手段】本発明を図1について説明すると、コンプレッサー1、空冷コンデンサー2A、膨張弁3A、蒸発器4Aのクーラーを、空冷コンデンサー2Aのあとに、空冷コンデンサー2Bを追加し、空冷コンデンサー2Bの放熱能力は、空冷コンデンサー2Aの放熱能力の20%以上とし、2Bの末尾に冷媒ガスの放熱カロリーのなくなったあとに、コンデンサー全体の放熱能力の5%以上の熱交換能力の余裕を持たせるのである。この5%以上の余裕は冷媒ガスが異常に多く流れた時のためであり、正常運転では大気と熱交換しても、ガス温度が下らないことを云うのである。」(段落【0010】)

(イ)「【0018】
蒸発器の吸熱能力が不足する時は、図2に示すように蒸発器4Bを追加し、膨張弁3Aを出たガスパイプを分岐して、蒸発器4A、4Bとつなぎ、4A、4B共に減圧したガスを送り、4A、4Bを出たガスは合流させて、コンプレッサー1に戻すものである。蒸発器4Bの吸熱能力は蒸発器4Aの吸熱能力の20%以上にすると効果は表われるのである。」(段落【0018】)

(ウ)「【0019】
図3のごとく空冷コンデンサー2Bを追加して、膨張弁3A、蒸発器4Aと共に、2Bを出た高圧ガスパイプ5Aを分岐したガスパイプ5Bに、膨張弁3Bを取り付け、3Bとガスパイプ6B、追加蒸発器4B、ガスパイプ6B、低圧ガスパイプ6Aとを結んで、蒸発器4A、4Bを出た蒸発ガスを合流させて、コンプレッサー1に戻すものである」(段落【0019】)

(エ)「【0021】
図4のごとく空冷コンデンサー2Aのあとに、水タンク内にガスパイプを取り付けて、ガスパイプの両端を外に出した熱交換器2Cを設置して、ガスパイプの一端を空冷コンデンサー2Aと結び、他のガスパイプの端を膨張弁と結ぶガスパイプ5Aと結ぶものである。これで水タンク型熱交換器2Cに水を入れて、クーラーの運転をするのである。」(段落【0021】)

(オ)「【0041】
【発明の効果】クーラーの空冷コンデンサー2Aに、空冷コンデンサー2B、又は水タンク型熱交換器2Cを追加することにより、冷媒ガスは完全液化してガスとオイルの融合もよくなり、ガスに泡がなくなるので、膨張弁、キヤピラルチューブの細管の通過量も増大すると共に、蒸発状態もよくなるので冷房効率は向上する。蒸発ガスの圧力、温度も高く出来るので、コンプレッサーの動力の減少にもなり、蒸発器を追加することも可能で、又運転圧力を高くすることも出来るので、新代替冷媒ガスHFC134aを使用して、クーラーの運転が出来るのである。」(段落【0041】)

カ 甲第6号証
甲第6号証の撮影された各写真には、冷暖房切換可能な空気調和機において、蒸発器と凝縮器の管の外径が等しいことが開示され、当該事項は、甲第号7証からみて、本件特許の出願前に周知である。(第1回口頭審理調書)

(2)対比
本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、甲第1号証に記載された発明の「圧縮機(1)」は本件特許発明1の「コンプレッサー」に相当し、以下同様に、「第2熱交換器(32)」は「既設コンデンサー」に、「四路切換弁(5)」は「四方弁」に、「配管」は「ガスパイプ」に、「混合冷媒」は「冷媒ガス」に、「第2熱交換器(32)の出口」は「既設コンデンサーの冷媒ガス出口」に、「利用側熱交換器(2)」は「蒸発器」に、「利用側熱交換器(2)の第1キャピラリチユーブ(4)」は「蒸発器のキャピラリチューブ」に、「利用側熱交換器(2)の出口」は「蒸発器の冷媒ガス出口」に、「大気」は「大気又は冷却水」に、「ヒートポンプ式冷凍装置」は「ヒートポンプ式冷暖房機」にそれぞれ相当する。

甲第1号証に記載された発明の「第1熱交換器(31)」と、本件特許発明1の「追設コンデンサー」とは、「熱交換器」という限りにおいて共通する。

甲第1号証に記載された発明の「第2熱交換器(32)に接続した第2キャピラリチユーブ(7)」及び「利用側熱交換器(2)に接続した第1キャピラリチユーブ(4)」と、本件特許発明1の「既設コンデンサーに設置したキャピラリチューブ」及び「蒸発器に設置したキャピラリチューブ」とは、「既設コンデンサーに接続したキャピラリチューブ」及び「蒸発器に接続したキャピラリチューブ」という限りにおいて共通する。

したがって、両者は、
「コンプレッサーと既設コンデンサーを四方弁を介したガスパイプで結び、
熱交換器と蒸発器のキャピラリチューブをガスパイプで結び、
蒸発器の冷媒ガス出口とコンプレッサーとを四方弁を介したガスパイプで結び、
ガスパイプ側にコンプレッサーより冷媒ガスを吐出して既設コンデンサーに送り、
既設コンデンサーで大気又は冷却水と熱交換して凝縮させ、
熱交換器に送って放熱してさらに凝縮させ、
ガスパイプを通って蒸発器に接続したキャピラリチューブで減圧し、
蒸発器に送って蒸発させたのち、ガスパイプで冷媒ガスをコンプレッサーに戻す冷房運転と、
コンプレッサーよりガスパイプに冷媒ガスを吐出し、蒸発器をコンデンサーとして作動させて冷媒ガスを凝縮させ、
ガスパイプを通って熱交換器に送って、
ガスパイプで冷媒ガスを既設コンデンサーに接続したキャピラリチューブに送って減圧し、
既設コンデンサーに送って既設コンデンサーを蒸発器として作動させて冷媒ガスを蒸発させたのち、
ガスパイプを通ってコンプレッサーに戻す暖房運転とを、
四方弁で切替え運転を可能としたヒートポンプ式冷暖房機。」

である点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点〕
本件特許発明1では、
熱交換器が「追設コンデンサー」で、
キャピラリチューブが既設コンデンサー及び蒸発器に「設置され」、
「既設コンデンサーの冷媒ガス出口に設置したキャピラリチューブと、内部のガスパイプ回路の管を前記既設コンデンサー内のガスパイプ回路の管の内径の80%以内又は断面積を64%以下と細くした追設コンデンサーとをガスパイプで結び、」
冷房運転では、(既設コンデンサーで凝縮した冷媒ガスを)「ガスパイプを通って追設コンデンサー」に送って放熱しさらに凝縮させ、
暖房運転では、(蒸発器で凝縮した冷媒ガスをガスパイプを通って)「追設コンデンサー」に送って「放熱してさらに凝縮させ、」
「冷房運転、暖房運転のいずれの場合でも追設コンデンサーで冷媒ガスを放熱して、凝縮を進める」のに対し、

甲第1号証に記載された発明では、
熱交換器が「第1熱交換器」で、
キャピラリチューブが第2熱交換器及び利用側熱交換器に「接続され」、 「第2熱交換器の出口に接続した第2キャピラリチユーブ及び逆止弁からなる並列管路と、第1熱交換器とを配管で結び、」
冷房運転では、(第2熱交換器で凝縮した混合冷媒を)「逆止弁を通って第1熱交換器」に送って放熱しさらに凝縮させ、
暖房運転では、(利用側熱交換器で凝縮した混合冷媒を)「第1キャピラリチユーブで減圧して、」(配管を通って)「第1熱交換器」に送って「蒸発させ、」
「冷房運転の場合は、第1熱交換器で混合冷媒を放熱して凝縮を進め、暖房運転の場合は、第1熱交換器で混合冷媒を吸熱して蒸発を進める」点。

(3)判断
そこで、上記相違点につき、甲第2号証ないし甲第6号証を検討する。

ア 甲第2号証には、設置スペースとの関係で寸法的に制約を受けるマルチフロータイプの熱交換器の交換熱量を増大させることを目的とし、課題を解決するための手段として、マルチフロータイプの熱交換器の複数個を空気流通方向において前後に並設して1つの複式熱交換器に構成することが記載され、具体的な態様として、第1実施例ないし第5実施例が示されている。

そこで、各実施例をみると、各実施例の複式熱交換器は、冷暖房切換可能な冷媒回路に適用されるとの記載はなく、各実施例のうち前側熱交換器(A)と後側熱交換器(B)とを直列に接続する第1実施例及び第2実施例は、この複式熱交換器を凝縮器に適用するものである。

そして、第1実施例及び第2実施例には、確かに「前側熱交換器(A)の通路断面積を後側熱交換器(B)の通路断面積の30?60%に設定すること」が示されてはいるが、それは、後側熱交換器(B)から前側熱交換器(A)へと冷媒を流通させ熱交換されるに従い徐々に冷却されることによる冷媒体積の減少に伴い前側熱交換器(A)の通路断面積を小にして、熱交換器全体の熱交換効率を向上させ、併せて圧力損失の可及的抑制を図ったものである。
そうしてみると、甲第2号証の前側熱交換器(A)の構成を、甲第1号証に記載された発明のヒートポンプ式冷暖房機の第1熱交換器に適用して、「冷房運転、暖房運転のいずれの場合でも追設コンデンサーで冷媒ガスを放熱して、凝縮を進める」ものとすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

イ 甲第3号証には、沸点の異なる冷媒を混合した混合冷媒を空気調和機の凝縮器に通した場合に生じる凝縮効率の低下を防止することを目的とし、課題を解決するための手段として、凝縮器の凝縮過程で液相分を抜きとり、気相分の凝縮を促進させることが示され、実施例として、室外側熱交換器14及び室内側熱交換器16をそれぞれ第1熱交換器19及び19’と第2熱交換器20及び20’を直列接続しその間に液ガス分離器21及び21’を備える冷凍機が示されているが、室外側熱交換器14を構成する第2熱交換器20は、冷房運転では凝縮器として機能し、暖房運転では蒸発器として機能するものである。

また、第2熱交換器20及び20’の管径について、「第1凝縮器19、19′の管径は、第2凝縮器20、20′の管径より大とする。たとえば、前者の管径を9.52φとすれば、後者の管径を6.35φとする。」(段落【0022】)との記載はあるが、それは、管路に液相がなく流速を上げて効率よく凝縮行程を行うためである。

そうしてみると、甲第3号証の第2熱交換器20の構成を、甲第1号証に記載された発明の第1熱交換器に適用して、「冷房運転、暖房運転のいずれの場合でも追設コンデンサーで冷媒ガスを放熱して、凝縮を進める」ものとすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

ウ 甲第4号証には、図1ないし3に記載された各冷凍回路に「空冷コンデンサー2B」、「水冷コンデンサー2C2」或いは「空冷コンデンサー2B及び2C」を追設することが示され、追設されたコンデンサーの能力を「冷凍量の36%?120%、又は39%?130%程度の追設が必要である」(段落【0049】、【0053】)、「追設水冷コンデンサー2C2の放熱量も、空冷コンデンサーの場合と同様50%を目処とする」(段落【0026】)ことが記載されているが、各冷凍回路は、いずれも四方弁を有しおらず、冷房、冷蔵、冷凍運転専用のものである。

そうしてみると、甲第4号証の各冷凍回路を、甲第1号証に記載された発明に適用して、「冷房運転、暖房運転のいずれの場合でも追設コンデンサーで冷媒ガスを放熱して、凝縮を進める」ものとすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

エ 甲第5号証には、図1ないし5に記載された各冷凍回路に「空冷コンデンサー2B」或いは「水タンク型熱交換器2C」を追加し、空冷コンデンサー2Bの能力を「空冷コンデンサー2Aの放熱能力の20%以上」とすることが記載されているが、各冷凍回路は、いずれも四方弁を有しておらず、冷房専用のものである。

そうしてみると、甲第5号証の各冷凍回路を、甲第1号証に記載された発明に適用して、「冷房運転、暖房運転のいずれの場合でも追設コンデンサーで冷媒ガスを放熱して、凝縮を進める」ものとすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

オ 甲第6号証には、冷暖房切換可能な空気調和機において、蒸発器と凝縮器の管の外径が等しいことが記載されているが、凝縮器を追設しているか否かは不明である。

以上のとおり、甲第2号証ないし甲第6号証には、本件特許発明1の「冷房運転、暖房運転のいずれの場合でも追設コンデンサーで冷媒ガスを放熱して、凝縮を進める」に関する記載ないし示唆がないから、甲第1号証に記載された発明に、甲第2号証ないし甲第5号証に記載された事項及び甲第6号証に開示された事項を適用して、
「熱交換器が『追設コンデンサー』で、
キャピラリチューブが既設コンデンサー及び蒸発器に『設置され』、
『既設コンデンサーの冷媒ガス出口に設置したキャピラリチューブと、内部のガスパイプ回路の管を前記既設コンデンサー内のガスパイプ回路の管の内径の80%以内又は断面積を64%以下と細くした追設コンデンサーとをガスパイプで結び、』
冷房運転では、(既設コンデンサーで凝縮した冷媒ガスを)『ガスパイプを通って追設コンデンサー』に送って放熱しさらに凝縮させ、
暖房運転では、(蒸発器で凝縮した冷媒ガスをガスパイプを通って)『追設コンデンサー』に送って『放熱してさらに凝縮させ、』
『冷房運転、暖房運転のいずれの場合でも追設コンデンサーで冷媒ガスを放熱して、凝縮を進める』」ものとすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。

そして、本件特許発明1は、前述した効果(前記「第2 3」参照。)を奏するものである。

また、本件特許発明2及び3は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて包含したものである。

したがって、本件特許発明1ないし3は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証ないし甲第5号証に記載された事項及び甲第6号証に開示された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものはでない。

よって、請求人の無効理由1に係る主張は採用できない。

2 無効理由2
(1)請求人は、請求項1に記載された「冷房運転、暖房運転いずれの場合でも追設コンデンサーで冷媒ガスを放熱して、凝縮を進めること」について、(ア)追設コンデンサーのガス回路の断面積と蒸発器のそれとの関係、(イ)追設コンデンサー内で冷媒ガスが流れる回路を一本にしてその距離を長くすること、及び(ウ)追設コンデンサーを液化ガスが流れる流量を、既設コンデンサー2を流れる流量と、キャピラリーチューブ4を流れる流量の合計の50%以内とすること、が発明の詳細な説明において必要条件として記載されている以上、請求項1において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段として記載すべきである旨主張している。

そこで、検討すると、発明の詳細な説明からみて、本件特許に係る発明は、ヒートポンプ式冷暖房機において、冷房運転時、暖房運転時いずれも冷媒ガスの凝縮能力だけを増大させることを課題とし、その課題を解決するために、ヒートポンプ式冷暖房機に追設コンデンサーを設け、当該追設コンデンサー内のガスパイプ回路の管の内径を既設コンデンサー内のガスパイプ回路の管の内径より細くすることを発明の本質的事項として、追設コンデンサーを冷房運転時及び暖房運転時に常に凝縮器として作動させるものである。

そして、冷暖房切換可能な冷凍サイクルにおいて、コンデンサーと蒸発器に互換性があることは、技術常識である。

そうしてみると、請求項1には、少なくとも追設コンデンサー内のガスパイプ回路の管の内径を既設コンデンサー内のガスパイプ回路の管の内径と比較して特定すれば足りるものといえる。

また、「追設コンデンサー内で冷媒ガスが流れる回路を一本にしてその距離を長くすること」及び「追設コンデンサーを液化ガスが流れる流量を、既設コンデンサー2を流れる流量と、キャピラリーチューブ4を流れる流量の合計の50%以内とすること」は、前述した発明の本質的事項からみて、本件特許に係る発明の実施の態様にすぎず、発明の課題を解決するための手段とはいえない。

(2)請求人は、請求項1に記載された「管の内径の80%以内または断面積を64%以下」について、それ以外の具体例が示されておらず、上限値の技術的意義も示されていないとして、請求項1に記載された数値範囲全体まで拡張ないし一般化できないと主張している。

しかしながら、発明の詳細な説明には、「管の内径の80%以内または断面積を64%以下」の他に、数値範囲に関して「管の内径を70%以内、断面積では49%以下と少なくすると、さらに凝縮はよくなる」(段落【0005】)、「キャピラリチューブを長くして熱交換をしても冷媒ガスは蒸発しないのであるが、それでは抵抗値が大きくなって運転できなくなるのである。冷媒ガスが蒸発せずに抵抗値が増加しない範囲に追設コンデンサー9のガス回路の径をするのである」(段落【0014】)との記載があり、反対に「追設コンデンサー9のガスパイプの径が、既設コンデンサー2、蒸発器3のガスパイプの径と同等以上であれば、冷媒ガスは当然蒸発する」(段落【0013】)との記載もある。
これらの記載からみて、請求項1の「管の内径の80%以内または断面積を64%以下」という事項は、追設コンデンサーにおいて冷媒ガスが蒸発せず、コンデンサーとして凝縮を進めるための設計上の上限値を示したもので、その技術的意義は、発明の詳細な説明に明確に記載されている。

よって、請求人の無効理由2に係る主張は採用できない。

3 無効理由3
請求人は、請求項1の(ア)「ガスパイプ」「回路」「管」、管の「内径」及び「断面積」の各用語がコンデンサー内のどの部分を指すのか、或いはその技術的意義が不明確である、(イ)管が並列に通っている場合に「内径」や「断面積」をどのように特定するのか、(ウ)「以内」及び「以下」で示される数値範囲の技術的意義が不明確であるとして、請求項1の記載が明確でないと主張している。
さらに、当該主張を前提に、発明の詳細な説明が当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとも主張している。

そこで、請求項1の記載と発明の詳細な説明及び図面とを対比して検討すると、請求項1の「ガスパイプ」が、コンプレッサー、四方弁、既設コンデンサー、キャピラリチューブ等のヒートポンプ冷暖房機の各構成要素を連結する冷媒ガスの通路を意味し、同「ガスパイプ回路」が、追設コンデンサー及び既設コンデンサーの内部で冷媒ガスが流れる通路の全体を意味し、同「ガスパイプ回路の管」が、追設コンデンサー及び既設コンデンサーの内部で冷媒ガスが流れる通路を具体的に構成する管を意味することは明らかである。

また、請求項1のガスパイプ回路の管の「内径」及び「断面積」は、発明の詳細な説明によれば、その大小が冷媒ガスの相変化に影響を及ぼすものであることから、管の冷媒ガスに接する部分、すなわち、その内周部分の形状を特定する用語であることは明らかである。そして、「内径」がその内周部分が円である場合の「直径」を意味することは、技術常識である。加えて、発明の詳細な説明には、「既設コンデンサー2のガス回路が複数以上であれば、全部の合計断面積であり、追設コンデンサー9のガス回路が複数以上であれば当然、全部の合計断面積である。」(段落【0013】)との記載がある。
そうしてみると、請求項1のガスパイプ回路の管の「内径」とは、ガスパイプ回路の管の内周部分が円である場合の直径によって特定され、同「断面積」とは、内周部分が円でない場合及び管が複数からなる場合に、内周部分の断面積又はその合計によって特定されるものである。

図3のガスパイプケース1の場合には、方形のガス回路14が複数個形成されているから、各ガス回路14の断面積又はその合計で特定することが適当であり、内径について云々する余地はない。

さらに、請求項1の「ガスパイプ回路の管の内径の80%以内又は断面積を64%以下」については、前述のとおり、「内径」及び「断面積」が管の内周部分の形状を特定する用語であることから、「内径」又は「断面積」が「80%」又は「64%」を含んでそれより小さい値を意味することは明らかである。そして、発明の詳細な説明には、請求項1の「内径の80%以内」と「断面積を64%以下」とが同時に成り立つ場合を排除する記載はない。

確かに、発明の詳細な説明には、前記各用語を混同して用いているところもあるが、全体としてみれば明りょうでないとまではいえず、また、矛盾も生じていない。

したがって、請求項1の前記各用語の技術的意義は明確である。

よって、請求人の無効理由3に係る各主張は採用できない。

4 無効理由4
請求人は、キャピラリチューブが減圧機能を有すること(甲第8号証)を根拠に、追設コンデンサーの直前のキャピラリチューブでの減圧に伴って、冷媒の蒸発が開始し冷媒温度が低下するはずであるが、発明の詳細な説明によれば「追設コンデンサー手前のキャピラリチューブは何故か機能せず、その後のキャピラリチューブのみが機能して」おり、「そもそも冷媒が流れる方向によって機能したりしなかったりするキャピラリチューブが想定できない以上、上記各実施例はいずれも技術常識に反する」として、発明の詳細な説明が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないと主張している。
さらに、当該主張を前提に、特許請求の範囲の記載も不備であると主張している。

そこで検討すると、本件特許の出願前に、室外側熱交換器に接続した複数本のキャピラリチューブと室内側熱交換器に接続した複数本のキャピラリチューブとを連通管で連通した空気調和機の冷凍回路において、冷房運転時に
は、冷媒が圧縮機から四方弁を通り分岐点で分流し、室外熱交換器で凝縮放熱し、複数本のキャピラリチューブで断熱膨張した後合流して連通管を通り、再度分流して複数本のキャピラリチューブに入り、ここで更に断熱膨張した後、室内側熱交換器で蒸発吸熱し、再度分岐点で合流して四方弁を経て圧縮機に戻り、逆に、暖房運転時には冷房運転時と逆のサイクルで冷媒を流すことが知られている(例えば、実願昭60-42257号(実開昭61-159769号公報)のマイクロフィルム、実願昭60-73444号(実開昭61-189153号公報)のマイクロフィルム参照。)。

この冷凍回路の連通管では、冷媒が流れる方向に拘わらず、その直前の複数本のキャピラリチューブを通過した冷媒が連通管で蒸発吸熱せず、その後の複数本のキャピラリチューブを通過後の熱交換器で蒸発吸熱が行われている。

そして、この技術的事項及びキャピラリーチューブの長さや直径が設計的事項として定められるもの(甲第8号証)であって、これらを適宜変更することで減圧の程度が調整できることに照らせば、「冷媒が流れる方向によって機能したりしなかったりするキャピラリチューブ」を設けることは、本件特許の出願前に当業者が実施できたことである。

したがって、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている。

よって、請求人の無効理由4に係る各主張は採用できない。

5 まとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明1ないし3の特許を無効とすることができない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-22 
結審通知日 2010-11-25 
審決日 2010-12-07 
出願番号 特願平9-188864
審決分類 P 1 113・ 536- Y (F25B)
P 1 113・ 537- Y (F25B)
P 1 113・ 121- Y (F25B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田々井 正吾  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 森川 元嗣
冨岡 和人
登録日 2008-10-31 
登録番号 特許第4208982号(P4208982)
発明の名称 ヒートポンプ式冷暖房機  
代理人 松本 好史  
代理人 松井 保仁  
代理人 仲 晃一  
代理人 北出 英敏  
代理人 時岡 恭平  
代理人 木村 豊  
代理人 西川 惠清  
代理人 岸野 正  
代理人 竹田 千穂  
代理人 水尻 勝久  
代理人 竹尾 由重  
代理人 坂口 武  

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