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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1245180
審判番号 不服2010-10456  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-05-17 
確定日 2011-10-13 
事件の表示 特願2004-230947「自己流動性水硬性組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成18年2月16日出願公開、特開2006-45025〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成16年8月6日の出願であって、平成21年6月18日付け拒絶理由通知に対して同年8月20日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成22年2月9日付けで拒絶査定されたので、これに対し、同年5月17日付けで拒絶査定不服の審判が請求されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成21年8月20日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりの発明(以下「本願発明1」という)である。
「水硬性成分、細骨材、減水剤及び増粘剤とを含む自己流動性水硬性組成物であり、水硬性成分100質量部に対して、細骨材を60?200質量部含み、細骨材が、平均粒径1?100μmの微粉細骨材と、粒径0.2?2mmを主成分とする微粉細骨材を除く細骨材とからなり、細骨材100質量%中に平均粒径1?100μmの微粉細骨材を5?15質量%含むことを特徴とする自己流動性水硬性組成物。」

3 刊行物に記載された発明
(1)引用例1について
(i)記載事項
本願出願日前に公開され、原査定の拒絶の理由で引用された特開2000-211961号公報(以下「引用例1」という)には、次の事項が記載されている。
(ア)「本発明は、一般建造物の床下地材調整に使用されるセルフレベリング材として優れた特性を有する自己流動性水硬性組成物に関する。」(【0001】段落)
(イ)「これらのセルフレベリング材は、使用温度によっては意図した速硬性と作業性を十分に発揮することができず、低温から高温までの広範囲での温度条件における使用をカバーするものではなかった。すなわち、低温においては硬化遅延により速硬化性が大きく低下し、また、高温においては流動性保持性の低下により平滑な表面が得られなかったり、収縮の増大によるクラックの発生といった問題が発生するのである。従って、低温から高温の広範囲の温度条件において、施工当日の開放を可能とする超速硬性と流動保持性を共に兼ね備え、季節間、時刻差、地域差等による温度差においても対応可能な温度依存性の少ない超速硬性の材料が望まれていたのである。」(【0004】段落)
(ウ)「・・・本発明は、100重量部のアルミナセメント、・・・よりなる水硬性成分と、・・・減水剤と、増粘剤とよりなる自己流動性水硬性組性物に関する。」(【0006】段落)
(エ)「本発明では、・・・広い温度範囲において可使時間と速硬性のコントロールが可能となることを見出した。すなわち、・・・低温での表面硬化不良等による表面粉化、高温における凝結時のひび割れ発生の危険性が低減され、良好な表面性状を有する硬化体が得られる。更に、低温から高温の広範囲において上記の超速硬性、流動保持性及び優れた硬化体性状の両立が可能となった。」(【0012】段落)
(オ)「本発明による自己流動性水硬性組成物は、水と混練したセメントペーストとして使用することも出来るが、各種骨材/増量材を添加して使用するのがその特性を活かした使い方である。骨材としては珪砂、川砂、・・・が使用できるが、その径は3mm以下とするのが望ましい。また、骨材添加量は水硬性成分100重量部あたり、250重量部以下とするのが望ましい。」(【0020】段落)
(ii)記載された発明
記載事項(ア)より、引用例1には自己流動性水硬性組成物が記載されており、同(ウ)によれば、該組成物は、アルミナセメント等の水硬性成分、減水剤、増粘剤等からなっている。そして、同(オ)によれば、該組成物は、さらに、粒径3mm以下の骨材を、水硬性成分100重量部に対して250重量部以下含有させることとされている。
このため、引用例1には、次の発明が記載されているとすることができ、以下、引用例1発明という。
「水硬性成分、骨材、減水剤及び増粘剤等からなる自己流動性水硬性組成物であり、該骨材は、粒径3mm以下であり、水硬性成分100重量部に対して250重量部以下含有している自己流動性水硬性組成物。」

(2)引用例2について
同じく、特開2002-47051号公報(以下「引用例2」という)には、次の事項が記載されている。
(i)記載事項
(ア)「本発明は、床下地・・・などに使用されるセメント系のセルフレベリング性組成物に関する。」(【0001】段落)
(イ)「本発明のセルフレベリング組成物は、フライアッシュを必須含有する。フライアッシュを含有することにより主に流動性保持作用の付与と原料コスト低減が図れる。フライアッシュは、JIS R 6201の規格に準じたものを使用する。」(【0033】段落)
(ウ)「本発明のセルフレベリング性組成物は、細骨材を含むのが好ましい。本発明で使用する細骨材は、・・・通常は天然細骨材、例えば、川砂、海砂、陸砂、山砂、砕石粉、珪石等を挙げることができる。細骨材の粒径は5mm以下とする。」(【0037】段落)
(ii)記載された発明
記載事項(ア)より、引用例2には、セルフレベリング性組成物に関する発明が記載されている。そして、同(イ)(ウ)によれば、該組成物には細骨材の他にフライアッシュを含有され、フライアッシュは特定の配合量とすることにより流動性保持作用を発揮するとしている。
したがって、引用例2には、セルフレベリング組成物、すなわち、自己流動性水硬性組成物においては、細骨材の他にフライアッシュを含有することにより、該組成物の流動性を保持する発明が記載されている。

(3)引用例3について
(i)記載事項
同じく、特開昭63-129052号公報(以下「引用例3」という)には、次の事項が記載されている。
(ア)「(a)セメント100重量部、(b)水砕スラグ粉末30?300重量部、(c)フライアッシュ5?60重量部、・・・(e)吸水性の特殊細骨材60?600重量部、・・・よりなるセメント系セルフレベリング材組成物」(特許請求の範囲の請求項1)
(イ)「本発明はセメント系セルフレベリング材組成物に関し、水と混練して優れた流動性を示し、特に流し延べ床用材料として均一な平滑面を形成し、かつ乾燥時における材料分離や収縮が小さく、必要時間内に硬化して所望の初期強度を発現し得るセメント系セルフレベリング材を提供するものである。」(第1頁右下欄9?15行)
(ウ)「本発明における(c)成分のフライアッシュは、セメント系セルフレベリング材としての流動性を向上させ且つ硬化体の硬化後の亀裂を防止するために、セメント100重量部に対して5?60重量部、特に10?50重量部の範囲で配合することが好ましい。」(第3頁左上欄14?19行)
(ii)記載された発明
記載事項(ア)(イ)より、引用例3には、水硬性成分、細骨材及びフライアッシュ等からなるセルフレベリング材組成物、すなわち、自己流動性水硬性組成物が記載されている。そして、同(ウ)によれば、フライアッシュが添加されることにより、該組成物の流動性が向上し、硬化後の亀裂を防止することが記載されている。このため、施工面の平滑性を向上することが記載されているとすることができる。
したがって、引用例3には、自己流動性水硬性組成物において、細骨材の他にフライアッシュを含有することにより、該組成物の流動性と施工面の平滑性を向上する発明が記載されている。

4 対比・判断
(1)一致点と相違点
本願発明1と引用例1発明とを比較すると、両者は、水硬性成分、骨材、減水剤及び増粘剤等からなる自己流動性水硬性組成物である点で一致し、以下の点で相違する。
すなわち、使用する骨材について、本願発明1では、「水硬性成分100重量部に対して、細骨材を60?200質量部含み、該細骨材が、平均粒径1?100μmの微粉細骨材と、粒径0.2?2mmを主成分とする微粉細骨材を除く細骨材とからなり、細骨材100質量%中に平均粒径1?100μmの微粉細骨材を5?15質量%含む」のに対し、引用例1発明では、粒径3mm以下の骨材を水硬性成分100重量部に対して250重量部以下含有することとしている点。

(2)判断
(i)手段の容易想到性
ア (微粉)細骨材の粒径について
JIS規格によればフライアッシュは、45μmふるい残分が10%以下、40%以下及び70%以下のものからなる(JIS A 6201-1999)。このため、一般的なフライアッシュであれば、概ね、本願発明でいうところの平均粒径1?100μmの微粉細骨材に相当するものである。
また、引用例1発明における骨材は、その粒径の観点からは、本願発明における細骨材に相当する。なぜなら、前者の粒径は3mm以下であり、後者の粒径は0.2?2mmを主成分とするので前者に包含されるし、本願発明において粒径0.2?2mmという数値範囲を限定することに、格別の技術的意義を見いだせないからである。
イ 細骨材と微粉骨材の併用の容易性
次に、引用例1発明の自己流動性水硬性組成物において、骨材にフライアッシュを添加するという手段を採用することが、当業者が容易になしうるといえるかを検討する。
これに関し、セルフレベリング材の流動特性を向上するために、細骨材と共にフライアッシュを添加することは、引用例2、3に記載されている。そうすると、引用例1発明において、セルフレベリング材に一般的に求められる良好な流動保持性を向上することを考慮すれば、使用する骨材に加えてフライアッシュを添加してみようとすることは、当業者が容易に想到するところである。
ウ 配合割合について
また、細骨材と微粉骨材の配合割合は、自己流動性水硬性組成物に求める特性を総合的に考慮して、当業者が適宜設定しうるものである。本願発明において特定した配合割合についても、自己流動特性向上の観点から当業者が適宜設定しうるものである。

(ii)作用効果の予測可能性
審判請求人は、本願発明の特徴として、(1)30?40℃の高温下で、(2)硬化表面に微小な凹凸の発生を抑制する点については、引用例1?3には記載・示唆がない旨を主張する。そこで、(1)と(2)の観点からの本願発明の作用効果が、引用例1?3に示される従来技術から予測可能であるかについて検討する。
ア 30?40℃の高温下について
審判請求人は、高温下での良好なセルフレベリング特性について、引用例1には記載・示唆がない旨を主張する。
しかし、この種の自己流動性水硬性組成物においては、年間を通じて良好な施工性(セルフレベリング性を含む)が要求されるのは明らかなことである。このため、引用例1発明は、例えば夏期の高温条件の下でも、良好な施工特性を維持することを当然の課題としている。このことは、引用例1の記載事項(イ)において、季節間の温度差においても対応可能な材料が求められていた旨の記載からも裏付けられる。
イ 微細凹凸の発生抑制効果について
審判請求人は、高温下での微細凹凸抑制効果について、本願発明の効果の顕著性を主張する。
しかし、本願の当初明細書には、高温下の微細凹凸について、「アルミナセメント系のセルフレベリング材では、特に高温化で使用すると、硬化表面に微小な凹凸が発生し易い傾向にある。」(【0004】段落)程度の記載しかなく、審判請求人が主張する実施例でも、30℃において凹凸の形成を目視で観察したとしているにとどまる(【0030】段落)。
すなわち、微細凹凸の発生が、従来技術で課題とされた表面平滑性改善とは異なった課題であると認めるべき記載はなく、その評価も目視観察という主観的なものにとどまるので、その効果の客観的な顕著性を確認することができない。このため、微細凹凸の発生抑制効果は、表面平滑性の改善という一般的な効果と区別することができない。
したがって、夏期の高温下での使用は上記したように通常の使用形態であることからすれば、高温下での微細凹凸の発生抑制は、通常の使用形態の中の1場面における表面平滑性の効果を表現したものと解さざるをえない。
ウ 予測可能性
このような効果は、引用例1の記載内容から、当業者であれば予測可能なものであることは明らかである。
すなわち、引用例1の記載事項(イ)によれば、従来技術では「高温においては流動性保持性の低下により平滑な表面が得られなかったり、収縮の増大によるクラックの発生といった問題」があった、とされている。この記載からすれば、高温下での良好な表面平滑性は、高温下での流動性を保持することにより達成できることが、示唆されているといえる。
したがって、審判請求人が主張する、高温下での微細凹凸の抑制効果は、引用例1?3の記載から、当業者が予測しうるものであり、技術的に格別のものとすることはできない。
(iii)まとめ
本願発明は、その課題、課題を解決するための手段及び達成される効果のいずれについても、当業者が容易に想到し得たものであり、発明の進歩性を肯定することはできない。

5 結論
以上のとおりであるので、本願の請求項1に係る発明は、引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-12 
結審通知日 2011-08-16 
審決日 2011-08-31 
出願番号 特願2004-230947(P2004-230947)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 永田 史泰  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官 深草 祐一

中澤 登
発明の名称 自己流動性水硬性組成物  
復代理人 柴田 明夫  
復代理人 柳橋 泰雄  
代理人 津国 肇  

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