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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01K
管理番号 1245266
審判番号 不服2008-20649  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-12 
確定日 2011-10-20 
事件の表示 特願2002-582235「薬理学的及び毒性学的研究のための非ヒトトランスジェニック動物」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月24日国際公開、WO02/83897、平成16年11月11日国内公表、特表2004-533826〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年4月18日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年4月18日 オーストラリア)とする出願であって、平成20年3月21日付で手続補正がなされたが、平成20年5月8日付で拒絶査定がなされ、これに対して、平成20年8月12日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月11日付で手続補正がなされたものである。

2.平成20年9月11日付手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年9月11日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
上記補正により特許請求の範囲の請求項37、39および40が削除され、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】前臨床での薬のスクリーニング又は評価プロセスの一部として、選択された霊長類種における薬の示しうる挙動を予測するための非霊長類トランスジェニック哺乳動物の使用であって、
該トランスジェニック哺乳動物は、以下の(i)および(ii)によって特徴付けられるものであり:
(i)該トランスジェニック哺乳動物は、外来性ポリペプチドの少なくとも一部を発現する;および
(ii)該非霊長類トランスジェニック哺乳動物のゲノムは、(a)該外来性ポリペプチドの内因性相同体をコードする内因性遺伝子の少なくとも一部と、該外来性ポリペプチドの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子との置き換え、または(b)該外来性ポリペプチドの内因性相同体をコードする内因性遺伝子の破壊、及び該外来性ポリペプチドの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子のゲノム中への挿入から選択される改変を含む、
ならびに該外来性ポリペプチドは、以下の(iii)?(vii)によって特徴付けられるものである、使用:
(iii)該外来性ポリペプチドは、(a)薬を移送するタンパク質、(b)薬を代謝する酵素、または(c)循環液に含まれる薬に結合するタンパク質から選択される;
(iv)該外来性ポリペプチドは、選択された霊長類種で若しくは霊長類の異なる種で本来発現されるものであるか又は本来発現されるポリペプチドに相当するものである;
(v)該外来性ポリペプチドの内因性相同体の該トランスジェニック哺乳動物における発現は、無くなっているかそうでなければ低減しているものである;
(vi)該外来性ポリペプチドは、該薬の意図された標的以外のものである;および
(vii)該外来性ポリペプチドの少なくとも一部は、該トランスジェニック哺乳動物のゲノム中に安定に組み込まれた導入遺伝子によってコードされる。」から、
「【請求項1】前臨床での薬のスクリーニング又は評価プロセスの一部として、ヒトにおける薬の示しうる挙動を予測するためのネズミ目のトランスジェニック哺乳動物の使用であって、
該トランスジェニック哺乳動物は、以下の(i)および(ii)によって特徴付けられるものであり:
(i)該トランスジェニック哺乳動物は、外来性ポリペプチドの少なくとも一部を発現する;および
(ii)該トランスジェニック哺乳動物のゲノムは、(a)該外来性ポリペプチドの内因性相同体をコードする内因性遺伝子の少なくとも一部と、該外来性ポリペプチドの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子との置き換え、または(b)該外来性ポリペプチドの内因性相同体をコードする内因性遺伝子の破壊、及び該外来性ポリペプチドの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子のゲノム中への挿入から選択される改変を含む、
ならびに該外来性ポリペプチドは、以下の(iii)?(vii)によって特徴付けられるものである、使用:
(iii)該外来性ポリペプチドは、(a)薬を移送するタンパク質、(b)薬を代謝する酵素、または(c)循環液に含まれる薬に結合するタンパク質から選択される;
(iv)該外来性ポリペプチドは、ヒトで若しくは霊長類の異なる種で本来発現されるものであるか又は本来発現されるポリペプチドに相当するものである;
(v)該外来性ポリペプチドの内因性相同体の該トランスジェニック哺乳動物における発現は、無くなっているかそうでなければ低減しているものである;
(vi)該外来性ポリペプチドは、該薬の意図された標的以外のものである;および
(vii)該外来性ポリペプチドの少なくとも一部は、該トランスジェニック哺乳動物のゲノム中に安定に組み込まれた導入遺伝子によってコードされる。」へと補正された。
上記補正は、上記補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「選択された霊長類種」を「ヒト」に限定し、「トランジェニック哺乳動物」について「ネズミ目の」という限定を付加すると共に、この限定に伴い、「(i)該非霊長類トランスジェニック哺乳動物」を「(i)該トランスジェニック哺乳動物」に補正するものであり、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された本願優先日前の2001年2月22日に頒布された刊行物である国際公開01/11951号(以下、「引用例」という。)には、
(i)「薬物の体内での代謝は、主に肝臓に存在するチトクロームP450(以下、「P450」ともいう。)によって行われる。」(第1頁第8行?第9行)、
(ii)「ヒトのP450遺伝子が導入され、体内でヒトと同じ代謝産物を生成する実験動物ができれば、ヒトで特異的に生成する代謝産物であっても、その薬理作用はもとより毒性に関して動物を用いて検証できるなどの大きな利点があげられる(鎌滝ら,薬物動態,13:280,1998)。そのため、P450遺伝子を導入したトランスジェニックマウスについての研究も行われている。例えばRamsdenらは、ラットCyp2B2遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを作製した。ラットCyp2B2遺伝子の発現は、組織特異的、発生特異的に制御されると共に、フェノバルビタールによって発現が誘導されることが知られている、トランスジェニックマウスにおける、フェノバルビタールによるトランスジーンの発現誘導には800bpのプロモーター配列だけでは不充分であり、さらに上流の遺伝子配列が必要であることが示された。また、トランスジーンの発現のコントロールには、転写開始点の数十キロベース上流の配列が必要であり、これらによって発現量や組織特異性も再現できる可能性が示された(Ramsdenら,J.Biol.Chem.,268:21722,1993)。
また、Liらは、ヒト胎児に特異的に発現するCYP3A7をもつトランスジェニックマウスを作製した(Liら,Archs.Biochem.Biopyys.,329:235,1996)。この例ではメタロチオネインプロモーターが使用され、P450遺伝子の組織特異的な誘導発現は観察されなかった。すなわち、作製された6系統のトランスジェニックマウスのうち1系統のみで、導入したCYP3A7遺伝子の肝臓での発現が認められたが、他の系統ではさまざまな臓器において発現が認められた。したがって、肝臓特異的にP450遺伝子を発現させるためにはメタロチオネインプロモーターでは不充分であると考えられる。
CYP3Aに関しては、胎児期の毒性研究のためのツールとしての応用についての研究も行われている(Kamatakiら,Toxicology Letters, 82-83:879, 1995)。Campbellらは、ラットCyp1A1遺伝子のプロモーターとその上流配列をlacZ遺伝子と結合した遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを作製し、それによりCyp1A1プロモーターによる遺伝子発現の制御について解析を進めた (Campbellら,J.Cell Sci., 109:2619, 1996)。これまでに、ヒトのP450遺伝子のひとつのサブファミリー(2?7個程度の遺伝子より成る)を、それらのP450遺伝子産物が代謝する薬物により発現が誘導される形態で導入したトランスジェニック動物は報告されていない。」(第3頁第3行?第4頁第3行)、
(iii)「本発明は、上記のような技術背景に基づき、in vivoで薬物の代謝を調べるための改良されたモデル動物、特にヒトP450遺伝子を保持し、ヒト型の薬物代謝を行うモデル動物を提供することを課題とする。
本発明者は、ヒト正常線維芽細胞由来7番染色体の部分断片をミクロセル法によりマウスES細胞(胚性幹細胞)に導入し、それを保持する株を得ることに成功した。また、このES細胞を用いて正常組織においてヒト染色体断片を保持し、薬剤の誘導によって肝臓、小腸においてヒトCYP3A4遺伝子を発現するキメラマウスを得た。さらに、マウス内在性P450遺伝子群を破壊するために、マウス5番染色体上のCyp3a遺伝子群に関する物理的地図を作製するとともに、その物理的地図をもとに遺伝子ターゲティングに必要なベクターを作製した。これにより、ヒトP450遺伝子(CYP3Aファミリー)を有し、さらにマウス内在性のP450遺伝子(Cyp3aファミリー)が破壊された、いわゆる遺伝子が置換されたマウスの作製を可能とした。かくして本発明を完成するに至った。」(第5頁第1行?第5頁第13行)、
(iv)「さらに、トランスジェニック動物を用いた薬物代謝に関するモデル動物は、その動物種のバックグラウンドの影響を受けない物であることが望ましい。例えば、ヒト特異的なP450遺伝子を導入した場合、マウスにおいて本来発現しているマウスのP450によって薬物の代謝様式や毒性の発現についてヒト型への変化が見られないことも有り得る(Wolfら,J. Pharm. Pharmacol., 50:567, 1998)。したがって、ヒトのP450遺伝子をマウスに導入するのであれば、マウス本来が持っているカウンターパートとなる遺伝子、すなわちP450遺伝子のマウスホモログがノックアウトされていることが望ましい。また、重要な遺伝子はその機能を失っても生体に重篤な影響が出ないようにその機能を補完する別の遺伝子が存在していると考えられる。このような遺伝子も併せて導入とノックアウトをマウスで行えば、さらにヒトの状態に近くなるものと考えられる。」(第9頁第17行?最下行)、と記載されている。

(3)対比・判断
(3-1)本願補正発明
本願補正発明は、発明特定事項の「(iii)該外来性ポリペプチド」が択一的に記載されており、「(b)薬を代謝する酵素」を選択肢として含むものであるから、本願補正発明のうち、(iii)が「(b)薬を代謝する酵素」である態様のものについて、その進歩性の有無について検討する。

(3-2)対比
本願補正発明と引用例に記載された事項と比較すると、上記引用例記載事項(iii)にある「in vivoで薬物の代謝を調べるための改良されたモデル動物、特にヒトP450遺伝子を保持し、ヒト型の薬物代謝を行うモデル動物であるトランスジェニックマウス」とは、本願補正発明における「前臨床での薬のスクリーニング又は評価プロセスの一部として、ヒトにおける薬の示しうる挙動を予測するためのネズミ目のトランスジェニック哺乳動物の使用」に相当し、ヒトP450とは、引用例記載事項(i)にあるように、本願補正発明における「薬を代謝する酵素である外来性ポリペプチド」であり、かつ「薬の意図された標的以外のもの」に相当する。また、引用例記載事項(iii)(iv)にあるように、引用例に記載のトランスジェニックマウスは、導入されたヒトp450遺伝子を発現し、かつマウスp450遺伝子が破壊されたものであるから、本願補正発明と引用例に記載された事項は、「前臨床での薬のスクリーニング又は評価プロセスの一部として、ヒトにおける薬の示しうる挙動を予測するためのネズミ目のトランスジェニック哺乳動物の使用であって、該トランスジェニック哺乳動物は、以下の(i)および(ii)によって特徴付けられるものであり:
(i)該トランスジェニック哺乳動物は、外来性ポリペプチドの少なくとも一部を発現する;および
(ii)該トランスジェニック哺乳動物のゲノムは、(a)該外来性ポリペプチドの内因性相同体をコードする内因性遺伝子の少なくとも一部と、該外来性ポリペプチドの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子との置き換え、または(b)該外来性ポリペプチドの内因性相同体をコードする内因性遺伝子の破壊、及び該外来性ポリペプチドの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子の導入から選択される改変を含み、該外来性ポリペプチドは、以下の(iii)?(vi)によって特徴付けられるものである、(iii)該外来性ポリペプチドは薬を代謝する酵素である、(iv)該外来性ポリペプチドは、ヒトで若しくは霊長類の異なる種で本来発現されるものであるか又は本来発現されるポリペプチドに相当するものである、(v)該外来性ポリペプチドの内因性相同体の該トランスジェニック哺乳動物における発現は、無くなっているかそうでなければ低減しているものである、(vi)該外来性ポリペプチドは該薬の意図された標的以外のものである」点で一致する。
しかしながら、薬を代謝する酵素である外来性ポリペプチド(以下、「ヒトP450」という。)の少なくとも一部をコードする遺伝子が、前者では、トランスジェニック哺乳動物(以下、「トランスジェニックマウス」という。)のゲノム中に挿入され、安定に組み込まれているのに対し、後者では、トランスジェニックマウスのゲノム中に挿入されることは具体的に記載されておらず、ミクロセル法により作製した人工ヒト染色体にある点で相違する。

(3-3)判断
ヒトの薬物代謝予測系となり得るかどうかを調べるために、P450のうち薬物代謝に関わるCYP1-3に分類されるヒトP450の単一の遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを作製することは、上記引用例記載事項(ii)にも記載のように、本願優先日前既に行われていたことであり、また、上記引用例記載事項(iv)のみならず、上記引用例記載事項(ii)中で参照された文献「鎌滝ら,薬物動態,13:280,1998」の第281頁左欄第第31行?第39行に「この方法で、たとえばマウスP450の遺伝子を潰し(ノックアウトマウス)、同時に代わりにヒトの酵素の遺伝子を導入すれば、マウスの酵素が機能せず、ヒトの酵素が代わりに機能するから、マウスの酵素に起因するバックグランドが差し引けることになる。」と記載されているように、ヒト薬物代謝系モデルマウスのバックグランドの影響を排除するために、ヒト遺伝子を導入すると同時にマウス遺伝子を潰すことは、本願優先日前既に周知の技術的課題であった。
このような技術水準の下、引用例に記載のヒトP450のサブファミリー(CYP3A)全体を導入することに代え、従来から行われていたそのうちの一つのヒト遺伝子をマウスゲノムに挿入する際に、対応するマウスの遺伝子を破壊しようとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことであり、その際、原査定で周知技術文献として引用された特開2001-17028号公報、国際公開第99/34670号にも記載の、トランスジェニックマウスへの遺伝子導入法として本願優先日前既に周知の相同組換えによるノックイン等の手法を用いて、マウス遺伝子を潰すと同時にヒトP450遺伝子をゲノム中に挿入して安定に組み込むことは、当業者であれば容易になし得ることである。
そして、本願明細書の実施例6には、ヒトP450サブファミリーの1つの遺伝子であるCYP3A4遺伝子を、相同組換え等によりマウスゲノム中に導入し、対応するマウス遺伝子を潰すトランスジェニックマウスの一般的な作製方法が記載されているだけであり、実際にそのようなトランスジェニックマウスを作製したことも、ヒトの薬物代謝予測に用いることができたことも確認されておらず、本願補正発明において奏される効果が、引用例の記載及び上記周知の技術的事項から予測できない程の格別なものとはいえない。
したがって、本願補正発明は、引用例の記載および上記周知事項から当業者が容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4)審判請求人の主張
(4-1)審判請求人は、平成20年11月14日付審判請求書の手続補正書の第4頁?第7頁において、引用例の人工染色体を使用したキメラマウスと比較して、本願補正発明のトランスジェニック哺乳動物が、(A)偽遺伝子の改変に起因する予期せぬ影響を及ぼさない点、(B)導入遺伝子をより安定的に保持する点、(C)導入された遺伝子がより安定に子孫に受け継がれる点、(D)遺伝子改変をしていない対照マウスを準備できる点を主張し、また、(E)引用例のマウスは不安定かつ予測不可能な表現型を持つから、引用例のキメラマウスはモデル動物として不適である点を主張している。
しかしながら、引用例では、ヒトP450サブファミリーの全体をマウスに導入してヒトの薬物代謝系をより正確に再現するという、本願補正発明にはない利点を有するモデルマウスの作製を意図するものであり、そのため大きなヒト遺伝子を人工染色体として導入するものである。一方、本願補正発明は、ヒトP450サブファミリーのうち単一の遺伝子を相同組換え等でマウスゲノムに挿入して、ヒトの薬物代謝系の挙動をある程度示すモデルマウスを作製しようとするものであり、本願補正発明における上記(A)?(E)の利点は、トランスジェニックマウスへの遺伝子導入法として本願優先日前既に周知の手法である相同組換え等を用いた場合の、引用例で用いる人工染色体という手法に対する利点にすぎない。
したがって、引用例には本願補正発明にはない、ヒトP450サブファミリー全体をマウスに導入するという利点もあるから、本願補正発明に、上記(A)?(E)の利点があるからといって、本願補正発明において奏される効果が、全体として引用例にものと比べて顕著なものであるとはいえない。しかも、本願補正発明は、上記(3-3)に記載したように、引用例の記載及び及び上記周知の手法から当業者が容易に想到し得たものであり、本願補正発明において奏される効果は、引用例の記載及び上記周知事項から予測できる範囲内のものである。
さらに、上記(3-3)に記載のように、本願明細書においては、単一のヒトP450遺伝子を相同組換え等で導入したトランスジェニックマウスを実際に作製しておらず、本願補正発明のトランスジェニックマウスが、ヒトの薬物代謝系として用いることができるかどうかも確認されていないから、本願補正発明の上記(A)?(E)の利点は本願明細書中で確認されていないことからも、審判請求人の上記主張を採用することはできない。

(4-2)審判請求人は上記審判請求書の手続補正書に、添付資料1?3として専門家の宣誓書を添付して、引用例がP450のサブファミリーの一つであるヒトCYP3A遺伝子クラスター全体をマウスへ導入しようとしていることの意義を強調していることを主な理由として、本願優先日当時、当業者であっても引用例の発明から、ノックインの手法を用いることにより内在性遺伝子を確実に破壊できる本願補正発明を想到しない旨縷々主張する。
しかしながら、上記(3-3)に記載したように、ヒト薬物代謝系モデルマウスのバックグランドの影響を排除するために、ヒト遺伝子を導入すると同時にマウス遺伝子を潰すことは、本願優先日前既に周知の技術的課題であって、従来から行われていたP450の単一の遺伝子を導入したトランスジェニックマウスの作製時にマウス遺伝子を潰すことは、当業者が容易に想到し得たことであるから、審判請求人の上記主張は採用できない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
3.本願発明について
平成20年9月11日付手続補正は上記のとおり却下されたので、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年3月21日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】前臨床での薬のスクリーニング又は評価プロセスの一部として、選択された霊長類種における薬の示しうる挙動を予測するための非霊長類トランスジェニック哺乳動物の使用であって、
該トランスジェニック哺乳動物は、以下の(i)および(ii)によって特徴付けられるものであり:
(i)該トランスジェニック哺乳動物は、外来性ポリペプチドの少なくとも一部を発現する;および
(ii)該非霊長類トランスジェニック哺乳動物のゲノムは、(a)該外来性ポリペプチドの内因性相同体をコードする内因性遺伝子の少なくとも一部と、該外来性ポリペプチドの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子との置き換え、または(b)該外来性ポリペプチドの内因性相同体をコードする内因性遺伝子の破壊、及び該外来性ポリペプチドの少なくとも一部をコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子のゲノム中への挿入から選択される改変を含む、
ならびに該外来性ポリペプチドは、以下の(iii)?(vii)によって特徴付けられるものである、使用:
(iii)該外来性ポリペプチドは、(a)薬を移送するタンパク質、(b)薬を代謝する酵素、または(c)循環液に含まれる薬に結合するタンパク質から選択される;
(iv)該外来性ポリペプチドは、選択された霊長類種で若しくは霊長類の異なる種で本来発現されるものであるか又は本来発現されるポリペプチドに相当するものである;
(v)該外来性ポリペプチドの内因性相同体の該トランスジェニック哺乳動物における発現は、無くなっているかそうでなければ低減しているものである;
(vi)該外来性ポリペプチドは、該薬の意図された標的以外のものである;および
(vii)該外来性ポリペプチドの少なくとも一部は、該トランスジェニック哺乳動物のゲノム中に安定に組み込まれた導入遺伝子によってコードされる。」

そして、本願発明は上記本願補正発明を包含するものであり、本願補正発明は上記(3)に記載した理由によって、引用例の記載及び上記周知の手法から当業者が容易になし得たものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例の記載及び上記周知の手法から当業者が容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-27 
結審通知日 2011-05-30 
審決日 2011-06-10 
出願番号 特願2002-582235(P2002-582235)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A01K)
P 1 8・ 121- Z (A01K)
P 1 8・ 121- Z (A01K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長井 啓子  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 田中 耕一郎
鵜飼 健
発明の名称 薬理学的及び毒性学的研究のための非ヒトトランスジェニック動物  
代理人 新見 浩一  
代理人 清水 初志  

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