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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61F
管理番号 1245293
審判番号 不服2010-7655  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-12 
確定日 2011-10-20 
事件の表示 特願2007- 41014「創傷部治療用パッド」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月 4日出願公開、特開2008-200341〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成19年2月21日の出願であって、平成22年2月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成22年4月12日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。
その後、当審において、平成22年4月12日付けの手続補正の却下の決定が平成23年2月23日付けでなされるとともに、同日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、平成23年4月27日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、さらに、平成23年5月25日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、平成23年7月26日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年7月26日付け手続補正により補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。
「湿潤療法において用いる、褥瘡である創傷部の治療用パッドであって、
前記治療用パッドは、
複数の孔部を備え、創傷部を湿潤状態に保持するための、ラップまたはビニール素材のいずれかのみにより構成されている保持層と、
前記孔部を通して、前記創傷部からの滲出液を吸収する吸収層と、
前記治療用パッドを皮膚に固定させるための被覆材と、を備えており、
前記保持層と吸収層は少なくともその縁部において固着しており、
前記保持層の創傷部との接触面の全部にワセリンが塗布されており、
前記被覆材は、
前記吸収層の前記保持層と接触していない側の面において前記吸収層と固着し、少なくとも前記吸収層の縁部の端部が前記被覆材で覆われており、前記吸収層及び前記保持層よりも大きな大きさで、前記被覆材の前記吸収層と接触していない部分の一部または全部には、前記治療用パッドを皮膚に接着させるための粘着性物質が塗布されている、
ことを特徴とする治療用パッド。」

3.引用発明
これに対して、平成23年5月25日付けで当審が通知した拒絶理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である国際公開第2005/000372号(以下、「引用例」という。)には、以下の事項及び引用発明が記載されている。

(a)「本発明は熱傷、褥瘡、挫傷、擦過傷、潰瘍等の創傷の治療に好適な創傷被覆材および創傷被覆材キットに関するものである。」(段落[0001]参照)

(b)「近年、創面の湿潤環境は、創傷の治癒に大きく影響することがわかってきた。特に、創傷部位からの滲出液に含まれる成分が、創傷の治癒の促進に役立つ。このような考え方の下に、創面を乾燥させて治療するのではなく、消毒を行わず、創傷からの滲出液による湿潤環境を維持しながら治療する方法が行われている。このような治療方法を行うために、種々の創傷被覆材(以下、単に「被覆材」という。)が開発されている。」(段落[0002]参照)

(c)「・・・本発明のある被覆材は、初期耐水圧の機能を発揮するシート材からなる第1層と、吸収性を有する材料からなる第2層と、液不透過性を有するシート材からなる第3層とを含むことを特徴とする。この初期耐水圧の機能を発揮するシート材は疎水性を示す。
一方、本発明の別のある被覆材は、創傷部位を覆うように創傷部位に貼付される被覆材であって、透過層と、吸収層と、不透過層とを備え、前記透過層および不透過層が前記吸収層を挟むように、前記各層が積層されて一体となっている。前記透過層は、初期耐水圧の機能を発揮する。前記吸収層は、前記創傷部位から滲み出し前記透過層を透過した滲出液を吸収する機能を発揮する。前記不透過層は、液体を透過させない性質(以下、液不透過性という。)を有し、これにより前記滲出液の漏れを防ぐ。
・・・
本発明の別のある被覆材は、前記第1層もしくは透過層が多孔シートを含み、・・・かつ、前記多孔シートが創傷部位に対面する接触面に配置されている。
本発明の別のある被覆材は、吸収性を有する材料として、更に吸収材を含む。
・・・
第1層に初期耐水圧の機能を発揮する部材を用いていることにより、被覆材を創傷部位に貼り付けた初期段階では、初期耐水圧の機能を発揮する部材の防水効果により、滲出液が創傷面に保持され、その結果、閉鎖領域が形成され、湿潤環境が保持される。
一方、初期耐水圧の機能を発揮する部材は完全な防水機能を有するわけではないので、創傷面が滲出液で満たされ、閉鎖領域内の圧力が昇圧すると、当該部材の防水機能が低下し、過剰の滲出液が第2層に向って排出され、第2層で吸収される。これにより、閉鎖領域内の圧力が過度に上昇することを防止し得る。
液不透過性を有する第3層は、前記第2層により吸収された滲出液が外部へ漏れるのを防止する。」(段落[0008]-[0010]参照)

(d)「以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1(a),(b)に示すように、本被覆材1は、創傷面や肌面に対面して接する第1層(透過層)10と、滲出液を吸収する第2層(吸収層)20と、滲出液の漏れを防ぐ第3層(不透過層)30の3つの層を備えている。前記3つの層10,20,30は互いに剥がれないように、貼り合わされていることが好ましい。前記3つの層10,20,30を貼り合わせる方法としては、ホットメルト接着剤等の接着剤21,31による接着のほか、ヒートシール等による融着、エンボス加工などが挙げられる。
第1層10を構成する材料としては、初期耐水圧の機能を発揮する防水性シート材が用いられる。このようなシート材としては、不織布や微多孔質フィルム等が用いられ得る。」(段落[0014]-[0015]参照)

(e)「前記第1層10を構成する表面材(シート材)に、傷との摩擦による刺激を回避する目的で、また、創面との密着性を向上させる目的で、白色ワセリンや流動パラフィン(プラスチベース(登録商標))等の疎水性軟膏基材が塗布されても良い。」(段落[0037]参照)

(f)「図1(a),(b)において、前記第2層20または吸収層20は、創傷部位から滲み出して前記第1層10を透過した滲出液を吸収する。・・・」(段落[0038]参照)

(g)「前記第3層(不透過層)30は前記第1層10との間で第2層20を挟む。つまり、第2層20は第1層10と第3層30との間に配置されている。・・・」(段落[0048]参照)

(h)「図2(a)?(c)に示すように、被覆材1には、1以上の粘着性部材12,32,42が設けられていてもよい。粘着性部材とは、被覆材を固定することができ、かつ、被覆材を容易に剥がすことができる状態を保てる部材をいう。具体的な粘着性部材としては、肌に接触してもカブれ難く、低刺激性のアクリル系やシリコン系等の粘着材が用いられることができる。・・・
図2(b)に示すように、第1および第2層10,20よりも第3層の防漏シート30を大きく形成すると共に、防漏シート30の創面側に粘着剤32が塗布されてもよい。」(段落[0051]-[0052]参照)

以上の記載によると、引用例には、
「創傷面や肌面に対面して接する透過層10と、滲出液を吸収する吸収層20と、滲出液の漏れを防ぐ不透過層30の3つの層を備えた創傷被覆材1であって、
前記3つの層10,20,30は互いに剥がれないように、貼り合わされており、
透過層は、多孔シートを含み、滲出液を創傷面に保持し、その結果、閉鎖領域が形成され、湿潤環境が保持するものであり、
吸収層20は、創傷部位から滲み出して透過層10を透過した滲出液を吸収するものであり、
不透過層30は、透過層10との間で吸収層20を挟み、透過層10および吸収層20よりも大きく形成すると共に、不透過層30の創面側に粘着剤32が塗布されており、
透過層10を構成する多孔シートに、白色ワセリが塗布されている創傷被覆材1」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを比較すると、
引用発明の「創傷被覆材1」、「透過層10」、「吸収層20」及び「不透過層30」は、それぞれ本願発明の「治療用パッド」、「保持層」、「吸収層」及び「被覆材」に相当し、
また、引用発明の「創傷被覆材1」は、創傷からの滲出液による湿潤環境を維持しながら治療するものであるから、本願発明でいう「湿潤療法において用いる」ものであり、
引用発明の「多孔シート」は、本願発明の「複数の孔部を備え、創傷部を湿潤状態に保持するための、ラップまたはビニール素材」に相当し、
引用発明の不透過層30の創面側に塗布された「粘着剤32」は、本願発明の被覆材に塗布された「皮膚に接着させるための粘着性物質」に相当し、
引用発明において、3つの層10,20,30は互いに剥がれないように、貼り合わされていることは、透過層10と吸収層20は固着されていることを意味することより、両者は、
「湿潤療法において用いる、褥瘡である創傷部の治療用パッドであって、
前記治療用パッドは、
複数の孔部を備え、創傷部を湿潤状態に保持するための、ラップまたはビニール素材のいずれかのみにより構成されている保持層と、
前記孔部を通して、前記創傷部からの滲出液を吸収する吸収層と、
前記治療用パッドを皮膚に固定させるための被覆材と、を備えており、
前記保持層と吸収層は固着しており、
前記保持層の創傷部との接触面にワセリンが塗布されており、
前記被覆材は、
前記吸収層の前記保持層と接触していない側の面において前記吸収層と固着し、前記吸収層及び前記保持層よりも大きな大きさで、前記被覆材の前記吸収層と接触していない部分の一部または全部には、前記治療用パッドを皮膚に接着させるための粘着性物質が塗布されている治療用パッド。」である点で一致し、以下の各点で相違する。

相違点1;本願発明では、保持層と吸収層の固着が、少なくともその縁部においてなされているのに対し、引用発明では、透過層10と吸収層20は互いに剥がれないように、貼り合わさているものの、その縁部において貼り合わさているか否かは明確でない点。

相違点2;本願発明では、ワセリンの塗布が、保持層の創傷部との接触面の全部とされているのに対し、引用発明では、そのような特定がされていない点。

相違点3;本願発明では、少なくとも吸収層の縁部の端部が被覆材で覆われているのに対し、引用発明では、そのような特定がされていない点。

5.判断
そこで、上記各相違点を検討すると、
・相違点1について
引用発明において、透過層10と吸収層20の貼り合わせは、互いに剥がれないようにするものであり、そのためには、その縁部においても張り合わされていた方がよいことは当業者が容易に想到しうる事項であり、また、上記貼り合わせにおいて、その縁部を除いておかなければならない理由もないことより、
引用発明において、透過層10と吸収層20の貼り合わせを縁部においても行い、上記相違点1の本願発明のようになすことは、当業者が容易になし得たものである。

・相違点2について
引用発明において、透過層10を構成する多孔シートに、白色ワセリを塗布するのは、上記記載事項(e)に記載されているように、多孔シートと傷との摩擦による刺激を回避し、また、創面との密着性を向上させる目的であるところ、引用発明の上記多孔シートは、その面の全部において傷と接触する可能性があるものであり、また、ワセリンの塗布を、多孔シートの一部だけとしておかなければならない理由もないことより、
引用発明において、ワセリンの塗布を、傷と接触する可能性がある多孔シートの全部とし、上記相違点2の本願発明のようになすことは、当業者が容易になし得たものである。

・相違点3について
引用発明において、不透過層30は、透過層10および吸収層20よりも大きく形成すると共に、不透過層30の創面側に粘着剤32が塗布されており、該粘着剤32が塗布された不透過層30の部分は、肌に粘着され、創傷被覆材1を固定するものであり、この固定された状態では、不透過層30により、吸収層20の縁部の端部が覆われることは明らかなことより、
上記相違点3は、実質的な相違ではない。

したがって、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は、平成23年7月26日付けで意見書において、「白色ワセリンは非滅菌であるため、滅菌での使用を前提とした上記被覆材について白色ワセリンを使用することは、滅菌状態から非滅菌状態にすることになり、通常、技術的には矛盾する行為であって、行わないことであると考えられます。特に当業者であれば、滅菌か非滅菌かは非常に重要な問題であることから、滅菌を前提とした場合には、非滅菌の構成を採用することはあり得ない」旨の主張をしているが、白色ワセリンは、医療分野において、軟膏剤の基材成分の他、直接傷等に塗布するなど、傷等の治療に通常よく用いられるものであり、また、そのように傷等の治療に用いる際には、菌が存在していない白色ワセリンでなければならないことは当然の事項であるので、白色ワセリンに菌が存在する前提の上記主張は適切ではない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、拒絶をすべきものである。
よって、原査定は妥当であり、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-09 
結審通知日 2011-08-16 
審決日 2011-08-29 
出願番号 特願2007-41014(P2007-41014)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久島 弘太郎  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 佐野 健治
熊倉 強
発明の名称 創傷部治療用パッド  
代理人 吉浦 洋一  
代理人 吉浦 洋一  

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