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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B81C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B81C
管理番号 1245488
審判番号 不服2011-2042  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-28 
確定日 2011-10-20 
事件の表示 特願2005- 55976「微細構造作製方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 9月14日出願公開、特開2006-239787〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成17年3月1日の特許出願であって、同22年5月21日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同22年7月26日に意見書とともに特許請求の範囲及び明細書について手続補正書が提出されたが、同22年10月25日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、同23年1月28日に本件審判の請求がされるとともに特許請求の範囲及び明細書について再度手続補正書が提出されたものである。

第2 平成23年1月28日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年1月28日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容の概要
平成23年1月28日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正をするとともにそれに関連して明細書の一部について補正をするものであって、特許請求の範囲の請求項1について補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。
(1)補正前
「集束イオンビームを被加工基板である単結晶シリコン基板あるいは半導体基板上に照射し、湿式エッチングにより照射部を選択的にエッチングする微細構造形成において、
前記収束イオンビームの照射ドットのピッチを所定以下とした上で、前記被加工基板の領域毎に、前記収束イオンビームのドーズ量を変化させ、該領域毎にエッチング深さの異なる構造を形成することを特徴とする被加工基板の湿式エッチング方法。」
(2)補正後
「集束イオンビームを被加工基板である単結晶シリコン基板あるいは半導体基板上に照射し、湿式エッチングにより、前記集束イオンビームが照射された照射部を選択的にエッチングして凹部を形成することにより、微細構造を形成する微細構造形成において、
前記集束イオンビームの照射ドットのピッチを所定以下とした上で、前記被加工基板に形成すべき凹部の深さに応じて、前記集束イオンビームの加速電圧を調整し、かつ、該被加工基板の領域毎に前記集束イオンビームのドーズ量を変化させるとともに、前記集束イオンビーム照射後のエッチング処理時間を選択し、該領域毎にエッチング深さの異なる構造を形成することを特徴とする被加工基板の湿式エッチング方法。」
2 補正の適否
本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、照射部について「集束イオンビームが照射された」ことを明記するとともにエッチングして「凹部を形成することにより、微細構造を形成する」ことを限定し、さらに、領域毎にエッチング深さの異なる構造を形成するために「被加工基板に形成すべき凹部の深さに応じて、前記集束イオンビームの加速電圧を調整」するという事項及び「集束イオンビーム照射後のエッチング処理時間を選択」するという事項を付加するものであって特許請求の範囲の減縮を目的とすることが明らかであるので、さらに、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。
(1)補正発明
補正発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲及び明細書(以下「補正明細書等」という。)及び願書に添付した図面の記載からみて、上記1(2)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの「被加工基板の湿式エッチング方法」であると認める。
(2)刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された本件出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平2-191326公報(以下単に「刊行物」という。)の記載内容は以下のとおりである。
ア 刊行物記載の事項
刊行物には以下の事項が記載されている。
(ア)第2ページ右上欄第17行?第20行
「本発明は結晶材料の微細加工方法に関する。特に本発明は集束イオンビームをその加工工程の一部に用いてエツチング加工する結晶材料の微細加工方法に関する。」
(イ)第3ページ左上欄第10行?第17行
「本発明は特に従来加工が困難であった断面形状が逆テーパ状或いは中空状等の領域を有する複雑な形状に結晶材料を加工できる微細加工方法を提供することにある。
本発明の他の目的はイオン注入を重ねて行った領域にエツチング処理を施すことにより、任意の3次元構造を形成できる結晶材料の微細加工方法を提供することである。」
(ウ)第3ページ右上欄第11行?第18行
「結晶材料の所定位置に集束イオンビームを照射して結晶材料中にイオン注入領域を形成し、次いで化学的エツチング処理を施して該イオン注入領域の所定領域を除去する結晶材料の微細加工方法において、前記集束イオンビームの照射に際し、イオン注入条件を変化させ、イオンを重畳してイオン注入することを特徴とするものである。」
(エ)第3ページ左下欄第19行?右下欄第18行
「第2図の装置を用いた場合のイオン注入条件としてイオン源201を変更することで注入イオンとしてはBe,Si,B,As,Ni,Pd,Ga,H,He等を用いることができる。
イオンの加速電圧として好ましくは20KV以上200KV以下、イオンビームのビーム径としては好ましくは0.05μm以上1μm以下のものが加工にあわせて適宜使用できる。
又、ターゲツトとして使用できる結晶材料としては、Si結晶,Ge結晶の他、例えば基板上にエピタキシヤル成長させたイツトリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG),イツトリウム・鉄・ガーネツト(YIG)等の結晶材料であればいずれの材料であっても使用でき、単結晶材料の他、多結晶材料も使用することができる。これは本発明においては集束イオンビームの注入により注入領域の結晶構造が壊れてアモルフアス構造となり、結晶領域とアモルフアス領域のエツチング速度が異なることを利用して選択的にエツチングを行う為である。」
(オ)第4ページ左上欄第9行?第15行
「エツチングは上記の条件の場合、例えばイオン注入した試料を室温のリン酸中に浸漬させることで行なうことが出来る。具体的には例えば85%リン酸溶液中に5時間程度浸漬させても良いが、超音波洗浄器を用いて超音波を与えながらリン酸溶液中に浸すことにより、エツチング時間を1時間程に短縮できる。」
(カ)第4ページ右上欄第1行?第13行
「第1図はYIG層101に0.1μmφに集束した加速エネルギー160keVのBe^(2+)イオンビーム102を2×10^(16)イオン/cm^(2)の注入量で1ライン照射した後、超音波を与えながら85%リン酸溶液中に1時間浸漬させてエツチングした一例について、試料の断面を示すものである。
第1図(A)はイオン注入状態を、第1図(B)はエツチング後の状態を示す。第1図の例によればイオン注入部103のみエツチングが行われ、その断面形状104はBeイオンのYIG層101内での濃度分布を反映した水滴型となった。」
(キ)第4ページ左下欄第1行?第6行
「第3図は横軸にBeイオン注入量、縦軸にエツチング深さをプロツトしたものである。この図はYIG層にBeイオンの注入量とイオンの加速エネルギーを変化させてイオン注入を行った場合についてのエツチング深さの変化を示すものである。」
(ク)第4ページ右下欄第10行?第5ページ左上欄第19行
「第4図(A),(B)はBeイオンを2×10^(5)[イオン/cm^(2)]の注入量でイオン注入した注入状態を示したものである。第4図(A)は加速エネルギー40keVの場合、第4図(B)は加速エネルギー160keVの場合を各々示す。
第4図(A)においては40keVで加速されるイオンビーム402aは加速エネルギーが低い。その為イオン注入部403aはYIG層401の表面近傍に形成される。これに対し、第4図(B)においては160keVで加速されるイオンビーム402bは加速エネルギーが高い。その為YIG層401の内部にイオン注入部403bが形成される。そしてエツチングを行うと、YIG層401表面の結晶構造が壊れて非晶質化したイオン注入部403aは除去される。そこで第4図(C)に示すエツチング溝404が形成される。これに対し、高い加速エネルギーでイオン注入したイオン注入部403bはYIG層401の内部に形成されている。その為、第4図(D)に示したイオン注入部403bとして除去されずに残るのである。ここで再び第3図を参照すると、イオン注入量が6×10^(15)[イオン/cm^(2)]を越えると今度は加速エネルギー40keVでイオン注入した1ine(A)よりも加速エネルギー160keVでイオン注入した1ine(C)の方がエツチング深さは深くなる。これは、第4図(B)に示した160keVイオン注入部403bが、イオン注入量の増加でより密になり、該注入部403がYIG層401の表面まで拡張されたためである。」
(ケ)第5ページ左上欄第20行?右上欄第6行
「第5図は第3図におけるBeイオンをSiイオン換えて得られたものであり、横軸にSiイオン注入量、縦軸にエツチング深さをプロツトしたものである。ここでline(A),line(B)はそれぞれ加速エネルギー120keV、160keVでイオン注入を行った場合を示す。」
(コ)第6ページ左上欄第3行?第7行
「第3図と第5図との比較でわかるようにエツチング深さは、イオン種(イオンの質量に反比例)に依存する。更に、エツチング深さは、イオンの加速エネルギー,イオンの注入量に比例する。」
(サ)第6ページ左上欄第9行?右上欄第1行
「第8図は矩形なエツチング断面を得る為の1手法として本発明を実施した例を示すものである。YIG層801に対して160keVBe^(2+)、80keVBe^(2+)及び40keVBe^(2+)の集束イオンビーム802を夫々2×10^(16)、1×10^(16)、5×10^(15)イオン/cm^(2)の注入量で同位置に1ライン走査してイオン注入領域803を形成した。次いで化学的なエツチングをリン酸を用いて行ない、矩形溝804を形成した。この様に加速電圧の異なるイオンを同位置に、あるいは別位置に重ねて注入した後に化学的エツチングをすることにより、任意の3次元のエツチング形状が得られる。」
(シ)第2図
集束イオンビームのターゲットとなる結晶材料は板状であること。
イ 刊行物記載の発明
刊行物記載の事項を補正発明に照らして整理すると刊行物には以下の発明が記載されていると認めることができる。
「集束イオンビームを板状の結晶材料上に照射し、85%リン酸溶液中に浸漬させ、前記集束イオンビームが照射された照射部を選択的にエッチングして凹部を形成することにより、微細構造を形成する微細構造形成において、
前記板状の結晶材料に形成すべき凹部の深さに応じて、前記集束イオンビームの加速電圧を調整し、かつ、該被加工基板の領域毎に前記集束イオンビームのイオン注入量を変化させ、該領域毎にエッチング深さの異なる構造を形成する板状の結晶材料の湿式エッチング方法。」
(3)対比
補正発明と刊行物記載の発明とを対比すると以下のとおりである。
上記(2)のア(エ)に摘記したように刊行物には集束イオンビームが照射される結晶材料として「Si結晶,Ge結晶の他、例えば基板上にエピタキシャル成長させたイツトリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG),イツトリウム・鉄・ガーネット(YIG)等の結晶材料であればいずれの材料であっても使用でき、単結晶材料の他、多結晶材料も使用することができる。」こと記載されていることからみて、刊行物記載の発明の集束イオンビームが照射される「板状の結晶材料」は、補正発明の「被加工基板である単結晶シリコン基板あるいは半導体基板」に相当し、同じく、「イオン注入量」は、「ドーズ量」に相当する。
また、刊行物記載の発明において、集束イオンビームが照射された被加工基板を「85%リン酸溶液中に浸漬させ」ることは、「湿式エッチング」することにほかならない。
したがって、補正発明と刊行物記載の発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「集束イオンビームを被加工基板である単結晶シリコン基板あるいは半導体基板上に照射し、湿式エッチングにより、前記集束イオンビームが照射された照射部を選択的にエッチングして凹部を形成することにより、微細構造を形成する微細構造形成において、
前記被加工基板に形成すべき凹部の深さに応じて、前記集束イオンビームの加速電圧を調整し、かつ、該被加工基板の領域毎に前記集束イオンビームのドーズ量を変化させ、該領域毎にエッチング深さの異なる構造を形成する被加工基板の湿式エッチング方法。」
そして、補正発明と刊行物記載の発明とは、以下の2点で相違している。
ア <相違点1>
補正発明では、集束イオンビームの照射ドットのピッチを所定以下とした上で、種々の工程を遂行しているのに対して、刊行物記載の発明では、上記ピッチをどのように設定しているのか明らかでない点。
イ <相違点2>
被加工基板の領域毎にエッチング深さの異なる構造を形成するに当たって、補正発明では、集束イオンビーム照射後のエッチング処理時間を選択しているのに対して、刊行物記載の発明では、集束イオンビーム照射後のエッチング処理時間をどのようにしているのか明らかでない点。
(4)相違点の検討
ア <相違点1>について
補正明細書の段落【0021】?【0023】の記載から窺うことができるように、補正発明において、集束イオンビームの照射ドットのピッチを所定以下としている理由は、被加工基板の集束イオンビーム照射部の表面粗さを抑えるためであると認めることができる。
ところで、物品の設計・製造に当たって、特段の要請がない限り当該物品の最終的な表面粗さを可及的に小さくすることは当然に求められている事項であり、また、技術常識からみて、集束イオンビームの照射ドットのピッチを小さくすれば照射部の表面粗さが小さくなるであろうことことは容易に予想できる事項である。
そうしてみると、刊行物記載の発明において、集束イオンビームの照射ドットのピッチを所定以下とした上で、種々の工程を遂行するように構成することに格別の困難性は見当たらない。
イ <相違点2>について
集束イオンビーム照射後の被加工基板のエッチング処理に限らず、エッチング処理一般において、エッチング処理後に必要となる被処理物の表面形状・状態を考慮してエッチング処理時間を選択することは、ごく普通に行われている当然の技術的事項である。
そうしてみると、刊行物記載の発明において、被加工基板の領域毎にエッチング深さの異なる構造を形成するに当たって、集束イオンビーム照射後のエッチング処理時間を選択するように構成することにも格別の困難性は見当たらない。
ウ <作用・効果>について
作用ないし効果についても、刊行物記載の発明から予想できる範囲のものであって、格別のものではない。
エ まとめ
したがって、補正発明は、刊行物記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 むすび
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件出願の発明について
1 本件出願の発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項に係る発明は、平成22年7月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲、明細書及び願書に添付した図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本件出願の発明」という。)は、上記第2の1(1)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの「被加工基板の湿式エッチング方法」である。
2 刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載内容は、上記第2の2(2)に示したとおりである。
3 対比・検討
本件出願の発明は、上記第2の2で検討した補正発明から、照射部について「集束イオンビームが照射された」ことを削除するとともにエッチングして「凹部を形成することにより、微細構造を形成する」ことを削除し、さらに、領域毎にエッチング深さの異なる構造を形成するために「被加工基板に形成すべき凹部の深さに応じて、前記集束イオンビームの加速電圧を調整」するという事項及び「集束イオンビーム照射後のエッチング処理時間を選択」するという事項を削除したものである。
そうすると、本件出願の発明を構成する事項の全てを含み、さらに他の事項を付加する補正発明が上記第2の2(4)エで示したとおり、刊行物記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件出願の発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 むすび
したがって、本件出願の発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件出願の請求項2ないし請求項4に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-16 
結審通知日 2011-08-23 
審決日 2011-09-05 
出願番号 特願2005-55976(P2005-55976)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B81C)
P 1 8・ 575- Z (B81C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 八木 敬太▲高▼辻 将人  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 藤井 眞吾
菅澤 洋二
発明の名称 微細構造作製方法及び装置  

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