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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1245601
審判番号 不服2008-23872  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-09-18 
確定日 2011-10-28 
事件の表示 特願2004-106582「垂直磁気記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月20日出願公開、特開2005-293706〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年3月31日に出願されたものであって、平成20年5月15日付で通知した拒絶の理由に対し、同年7月18日付で手続補正されたが、同年8月13日付で拒絶査定がされ、これに対し、同年9月18日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年10月14日付で手続補正がなされたものである。
その後、平成23年1月18日付で審尋がなされたが、審判請求人からは回答がなされなかった。

2.平成20年10月14日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年10月14日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
平成20年10月14日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)により,特許請求の範囲の請求項1は,
「基体上に、第1の下地層と、第2の下地層と、垂直磁気記録層とをこの順に備える垂直磁気記録媒体であって、
前記垂直磁気記録層は、前記第2の下地層の上に隣接して設けられており、
前記第1の下地層は、Coを含有する非晶質の非磁性層であり、
前記第2の下地層は、Ruからなる金属非磁性層であり、
前記垂直磁気記録層は、Co、Cr、Pt、SiO_(2)を含有する強磁性層であって、グラニュラー構造を備えているものであることを特徴とする垂直磁気記録媒体。」
と補正された。
上記補正は,補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「基体上に下地層と垂直磁気記録層をこの順に備える垂直磁気記録媒体であって」について「基体上に、第1の下地層と、第2の下地層と、垂直磁気記録層とをこの順に備える垂直磁気記録媒体であって」「前記第2の下地層は、Ruからなる金属非磁性層であり」と限定するとともに、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記垂直磁気記録層は、前記下地層の上に隣接して設けられており」、「前記下地層は、Coを含有する非晶質の非磁性層であり」についてそれぞれ「前記垂直磁気記録層は、前記第2の下地層の上に隣接して設けられており」、「前記第1の下地層は、Coを含有する非晶質の非磁性層であり」とするものであって,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である、特開2004-95074号公報(平成16年3月25日公開。以下、「第1引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(a)
「【請求項1】
非磁性基板と、該非磁性基板上に設けられた軟磁性層と、該軟磁性層上に設けられ、コバルト、クロム、プラチナ及び0.2at%以上1at%未満の炭素を含む垂直磁気記録層とを具備することを特徴とする垂直磁気記録媒体。」
「【請求項7】
前記垂直磁気記録層と前記軟磁性層との間に、CoTaZr、CoGd、CoNd、NiTa、NiNb、CoNiTa、CoNiZr、ゲルマニウム、チタン、ハフニウム、ルテニウム、NiAl.FeAl、CoCr、TiN、炭素、パラジウム、及びプラチナからなる群から選択される少なくとも1つの物質を含有するシード層をさらに具備することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項8】
前記垂直磁気記録層と前記シード層との間に、NiTa、NiNb、CoNiTa、CoNiZr、ゲルマニウム、チタン、ハフニウム、ルテニウム、NiAl、FeAl、CoCr、CoGd、TiN、炭素、パラジウム、及びプラチナからなる群から選択される少なくとも1つの物質を含有する配向制御層をさらに具備することを特徴とする請求項7に記載の垂直磁気記録媒体。」
(b)
「【0047】
この軟磁性層上には、好ましくは、磁気記録層の磁性粒子の粒径を制御し、垂直配向性を向上するための非磁性下地層を設けることができる。また、この下地層を設けて、記録層と軟磁性層との磁気的分離を起こすことにより、軟磁性層の特性の劣化を防止することができる。このような非磁性下地層としては、非磁性CoCr系やRu系、Ti系、Ni合金系などのHCP構造あるいはFCC(面心立方)構造を有し、その最密面が基板に平行に成長しやすく、記録層と格子定数が近いものや、GeやCのように非晶質となりやすいものが好ましく使用される。下地層は一層または二層以上形成することができる。」
(c)
「【0066】
図9に、シード層及び配向制御層を有する垂直磁気記録媒体の一例を表す概略断面図を示す。」
(d)
「【0098】
比較例1、比較例2、及び比較例3として、記録層をCo-20at.%Cr-16at.%Pt、Co-20at.%Cr-16at.%Pt-3at.%Ta、Co-20at.%Cr-16at.%Pt-3at.%Bを用いて形成する以外は同じ構成の垂直磁気記録媒体を各々作製し、磁気特性評価と記録再生特性の評価を行なった。
【0099】
磁気特性は、Kerr効果を用いて評価した。この媒体の磁気特性は、垂直保磁力が300.2kA/m、角型比0.92、逆磁区発生磁界Hnが15.8kA/mであった。
【0100】
また、0.23um幅の単磁極記録ヘッドと0.15um幅のGMR再生素子を備えた浮上量9nm対応ヘッドを用いて、記録再生特性を評価したところ、微分回路を通した後の再生波で、記録密度552kFCIでのノイズ(rms値)と低域孤信号の比SNmは、23.0dBが得られ、記録分解能の指標として孤立再生派を微分した波形の半値幅PW50として8.9nsecと良好な値が得られた。一方、比較例で用いた媒体は、記録層としてCo-20at.%Cr-16at.%Pt を用いたものが、Hcが292.3kA/m各型比0.92、逆磁区発生Hnが11.85kA/mで、媒体SNR(SNm)が20.5dB、PW50が9.2nsecとなり、記録層として、Co-20at.%Cr-16at.%Pt-3at.%Ta を用いたものが、Hc:252.8kA/m、角型比0.85、逆磁区発生磁界Hnが-15.8kA/m、SNmが20.0dB、PW50が9.4(nsec)となり、記録層としてCo-20at.%Cr-16at.%Pt-3at.%B を用いたものが、Hc260.7kA/m、角型比0.88、逆磁区発生磁界Hnが-11.85kA/m、SNmが21.0(dB)、PW50が9.1nsecとなった。このことから、本発明の垂直磁気記録媒体の方が優れていることがわかった。」

上記記載事項および図面を総合勘案すると、上記第1引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「非磁性基板、軟磁性層、シード層、配向制御層、垂直磁気記録層が順次積層されている垂直磁気記録媒体であって、
該非磁性基板上に設けられた軟磁性層と、
該軟磁性層上に設けられ、コバルト、クロム、プラチナ及び0.2at%以上1at%未満の炭素を含む垂直磁気記録層と、
前記垂直磁気記録層と前記軟磁性層との間に、CoTaZrを含有し、非晶質構造を有するシード層と、
前記垂直磁気記録層と前記シード層との間に、ルテニウムを含有する配向制御層
とを具備していることを特徴とする垂直磁気記録媒体。」

また、本願の出願日前に頒布された刊行物である、特開2003-77113号公報(以下、「第2引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。
(e)
「【請求項1】
非磁性基体上に、少なくとも非磁性下地層と第一の磁性層と第二の磁性層と保護膜及び潤滑剤層が順次積層されてなる垂直磁気記録媒体であって、 前記第一の磁性層は、強磁性のCoCr系合金結晶粒と、酸化物または窒化物を主成分とする非磁性の結晶粒界層とからなり、かつ、膜厚aが10nm以上30nm以下であり、
前記第二の磁性層は、希土類元素と遷移金属元素との非晶質合金からなり、かつ、膜厚bが2nm以上15nm以下であり、
前記第一の磁性層と第二の磁性層の膜厚比a/bが2以上であることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
前記非磁性下地層は、六方最密充填結晶構造の金属または合金で構成されており、 該金属は、Ti、Re、Ru、Osのいずれかであり、該合金は、Ti、Re、Ru、Osのうちの少なくとも1種の元素を含むものであることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。」(特許請求の範囲)
(f)
「【0032】
[実施例1]射出成形されたポリカーボネート基板(3.5”ディスク形状)を非磁性基体とし、これを洗浄した後、スパッタ装置内に設けた基体ホルダにセットし、成膜前の基板加熱(プレヒート)を行わずに、Arガス圧5mTorr下で、膜厚50nmのRuからなる非磁性下地層をスパッタ法により成膜した。
【0033】
これに続いて、SiO_(2)を10mol%添加したCo76Cr12Pt12ターゲットを用いて、Arガス圧5mTorr下で、RFスパッタ法により膜厚5?40nmの第一の磁性層を成膜した後、Tb20Co80ターゲットを用い、Arガス圧50mTorr下で、RFスパッタ法により膜厚1?20nmの第二の磁性層を成膜した。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「非磁性基板」、「ルテニウムを含有する配向制御層」、「垂直磁気記録層」は、本願補正発明の「基体」、「Ruからなる金属非磁性層」、「垂直磁気記録層」にそれぞれ相当する。
引用発明の「シード層」および「配向制御層」は、「軟磁性層」上に形成されてる「磁気記録層」の磁性粒子の粒径を制御し、垂直配向性を向上するための非磁性下地層に該当することが明らかである(上記(2)(b)参照。)から、本願補正発明の「第1の下地層」、「第2の下地層」にそれぞれ相当する。
また、引用発明は、「配向制御層」の上に「垂直磁気記録層が順次積層されている」ので、本願補正発明の「前記垂直磁気記録層は、前記第2の下地層の上に隣接して設けられており」を満足しており、引用発明の「CoTaZrを含有し、非晶質構造を有するシード層」は、明らかに本願補正発明の「Coを含有する非晶質の非磁性層」を満足している(必要であれば、特開2002-42331号公報の段落【0043】を参照。)。

そうすると、本願補正発明と引用発明とは次の点で一致する。

<一致点>
「基体上に、第1の下地層と、第2の下地層と、垂直磁気記録層とをこの順に備える垂直磁気記録媒体であって、
前記垂直磁気記録層は、前記第2の下地層の上に隣接して設けられており、
前記第1の下地層は、Coを含有する非晶質の非磁性層であり、
前記第2の下地層は、Ruからなる金属非磁性層であり、
前記垂直磁気記録層は、Co、Cr、Ptを含有する強磁性層である垂直磁気記録媒体。」

一方、次の点で相違する。

<相違点>
Co、Cr、Ptを含有する強磁性層である「垂直磁気記録層」に関し、本願補正発明は、さらに「SiO_(2)を含有する強磁性層であって、グラニュラー構造を備えているもの」であるのに対し、引用発明は、さらに「0.2at%以上1at%未満の炭素を含む」ものである点。

(4)判断
磁気記録媒体の技術分野において磁性層の材料を、その磁性層に類似する他の材料に変更して新たな磁気記録媒体とすることは常套手段であるところ、「垂直磁気記録層」として「Co、Cr、Pt、SiO_(2)を含有する強磁性層であって、グラニュラー構造を備えているもの」が、第2引用例に記載されている(上記(2)(e)参照。)。
また、本願補正発明に関し、「Co、Cr、Pt、SiO_(2)を含有する強磁性層であって、グラニュラー構造を備えているもの」以外の「垂直磁気記録層」と具体的に比較したデータが記載されていないことも勘案すると、引用発明において「垂直磁気記録層」の材料を「コバルト、クロム、プラチナ及び0.2at%以上1at%未満の炭素を含む」ものから第2引用例に記載されている「Co、Cr、Pt、SiO_(2)を含有する強磁性層であって、グラニュラー構造を備えているもの」に変更する程度のことは当業者であれば容易になしえることである。

そして、本願補正発明において他に当業者に予測出来ない格別顕著な効果が奏されていると認められるような事情も見いだせない。

したがって,本願補正発明は,引用例1ないし2に記載された発明,並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおり,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成20年10月14日付の手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1乃至4に係る発明は,平成20年7月18日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。
「基体上に下地層と垂直磁気記録層をこの順に備える垂直磁気記録媒体であって、
前記垂直磁気記録層は、前記下地層の上に隣接して設けられており、
前記下地層は、Coを含有する非晶質の非磁性層であり、
前記垂直磁気記録層は、Co、Cr、Pt、SiO_(2)を含有する強磁性層であって、グラニュラー構造を備えているものであることを特徴とする垂直磁気記録媒体。(根拠0034?35)」
なお、上記のうち「(根拠0034?35)」は、発明を特定する事項には含めないこととした。

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例,及びその記載事項は,前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は,前記2.で検討した本願補正発明における「基体上に、第1の下地層と、第2の下地層と、垂直磁気記録層とをこの順に備える垂直磁気記録媒体であって」「前記第2の下地層は、Ruからなる金属非磁性層であり」との構成から「第2の下地層」に関する構成を省き、「基体上に下地層と垂直磁気記録層をこの順に備える垂直磁気記録媒体であって」とするとともに、
本願補正発明における「前記垂直磁気記録層は、前記第2の下地層の上に隣接して設けられており」、「前記第1の下地層は、Coを含有する非晶質の非磁性層であり」についてそれぞれ「前記垂直磁気記録層は、前記下地層の上に隣接して設けられており」、「前記下地層は、Coを含有する非晶質の非磁性層であり」とするものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が,前記2.(4)に記載したとおり,引用例1ないし2に記載された発明,並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,引用例1ないし2に記載された発明,並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,引用例1ないし2に記載された発明,並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-03 
結審通知日 2011-06-07 
審決日 2011-06-20 
出願番号 特願2004-106582(P2004-106582)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
P 1 8・ 575- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷澤 恵美  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 井上 信一
石川 正二
発明の名称 垂直磁気記録媒体  
代理人 奥山 知洋  
代理人 清野 仁  
代理人 福岡 昌浩  
代理人 油井 透  
代理人 阿仁屋 節雄  

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