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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01C
管理番号 1245618
審判番号 不服2008-30557  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-02 
確定日 2011-10-27 
事件の表示 特願2001- 29322「チップ抵抗器およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 8月16日出願公開,特開2002-231505〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成13年2月6日の出願であって,平成20年10月10日に手続補正書が提出されたが,平成20年10月29日付けで拒絶査定がされ,これに対して,平成20年12月2日に審判の請求がされるとともに,平成20年12月25日に手続補正書が提出され,その後,当審において平成23年3月23日付けで審尋がなされ,平成23年5月25日に回答書が提出されたものである。

第2 平成20年12月25日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
本件補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の目的について
(1)本件補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲について,補正前の請求項1ないし5を,補正後の請求項1及び2と補正する補正内容を含むものであるところ,補正前の請求項1及び補正後の請求項1の記載は次のとおりである。

ア 補正前の【請求項1】
「矩形状に区画された絶縁基板の裏側の左右両端に形成した裏電極膜と,前記絶縁基板の表側の左右両端に形成した表電極膜下層と,該表電極膜下層どうしを接続した抵抗体膜と,該抵抗体膜を覆うアンダーコート膜と,該アンダーコート膜上から前記抵抗体膜の抵抗値調整のために刻設したトリミング溝と,前記アンダーコート膜およびトリミング溝を覆うオーバーコート膜と,前記表電極膜下層上に設けた表電極膜上層と,前記絶縁基板の左右端面を覆うように形成した端面電極膜と,前記裏電極膜,表電極膜上層および端面電極膜を覆う電極めっき膜とを備えたものであって,
前記左右両端の裏電極膜を,前記絶縁基板の左右の両端および前後両端までの領域に形成するとともに,前記表電極膜上層を前記絶縁基板の前後両端まで設けたことを特徴とするチップ抵抗器。」

イ 補正後の【請求項1】
「矩形状に区画された絶縁基板の裏側の左右両端に形成した裏電極膜と,前記絶縁基板の表側の左右両端に形成した表電極膜下層と,該表電極膜下層どうしを接続した抵抗体膜と,該抵抗体膜を覆うアンダーコート膜と,該アンダーコート膜上から前記抵抗体膜の抵抗値調整のために刻設したトリミング溝と,前記アンダーコート膜およびトリミング溝を覆うオーバーコート膜と,前記表電極膜下層上に設けた表電極膜上層と,前記絶縁基板の左右端面を覆うように形成した端面電極膜と,前記裏電極膜,表電極膜上層および端面電極膜を覆う電極めっき膜とを備えたものであって,
前記左右両端の裏電極膜を,前記絶縁基板の左右の両端および前後両端までの領域に形成するとともに,前記表電極膜上層を前記絶縁基板の前後両端まで設け,
しかも,前記裏電極膜が3?8μmの膜厚を有するメタルグレーズ系の導電膜か,4?12μmの膜厚を有する銀レジン系の導電膜のいずれか,前記表電極膜上層が3?10μmの膜厚を有するメタルグレーズ系の導電膜か,4?12μmの膜厚を有する銀レジン系の導電膜のいずれかの範囲内のものであることを特徴とするチップ抵抗器。」

(2)補正目的の適否
補正後の請求項1についての本件補正は,補正前の請求項1において,「しかも,前記裏電極膜が3?8μmの膜厚を有するメタルグレーズ系の導電膜か,4?12μmの膜厚を有する銀レジン系の導電膜のいずれか,前記表電極膜上層が3?10μmの膜厚を有するメタルグレーズ系の導電膜か,4?12μmの膜厚を有する銀レジン系の導電膜のいずれかの範囲内のものである」との構成を追加し,裏電極膜及び表電極膜上層の材料と膜厚を限定する補正内容からなるものである。
そして,この補正は,補正前の請求の範囲に記載した発明特定事項を更に限定するものと理解できるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の限定的減縮に該当し,補正目的に適合する。

そこで,以下に,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定を満たすか)について,検討する。

2 独立特許要件について
2-1 本願補正発明
本願補正発明は,上記1(1)イの請求項1の記載のとおりである。

2-2 特許法第36条第6項第1号について
(1)請求項の記載
本願補正発明では,「前記裏電極膜が3?8μmの膜厚を有するメタルグレーズ系の導電膜か,4?12μmの膜厚を有する銀レジン系の導電膜のいずれか,前記表電極膜上層が3?10μmの膜厚を有するメタルグレーズ系の導電膜か,4?12μmの膜厚を有する銀レジン系の導電膜のいずれかの範囲内のものである」と記載されているが,この範囲内には,「裏電極膜が5?12μmの膜厚を有する銀レジン系の導電膜で,表電極膜上層が12μmの膜厚を有する銀レジン系の導電膜である」場合も含まれている。
(2)発明の詳細な説明
ところが,本願の図3には,「裏電極膜が5?12μmの膜厚を有する銀レジン系の導電膜で,表電極膜上層が12μmの膜厚を有する銀レジン系の導電膜である」場合は,「×:不良」と記載されているので,本願補正発明には,不良部分も含まれることは明らかであるから,出願時の技術常識を参酌しても,発明の詳細な説明に開示された内容を本願補正発明の範囲に拡張ないし一般化することができないので,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとは認められず,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(3)小括
したがって,本願補正発明は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2-3 特許法第29条第2項について
(1)引用例の記載と引用発明
ア 引用例1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2000-269010号公報(以下「引用例1」という。)には,「チップ抵抗器の製造方法及びチップ抵抗器」(発明の名称)に関して,図1?6,8ともに,次の記載がある(下線は当審で付加したもの。以下同様。)。
「【0020】本発明において,前記第2の表電極を構成する導電性樹脂材料としては,銀,金等の金属の球状物,樹皮状物又はフレーク状物をエポキシ変成フェノール系又はエポキシ系等の樹脂に混合分散した材料を挙げることができる。係る材料は,特に,既設の表電極との密着性が良好で,また,ガラスを含有するグレーズよりも弾力性及び抵抗率が低いという点でも優れたものだからである。」
「【0030】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
<第1の実施形態>図1乃至図5は、本発明に係るチップ抵抗器の製造方法の各工程を示す図であり、各図の(a)は、平面図を示し、各図の(b)は、その横断方向の一部断面図である。
【0031】この製造方法では,まず,分割溝1a及び1bが縦横に施された絶縁基板1の表裏面に,分割溝1aに沿って表電極2と,裏電極3とを設ける(図1)。図1の例では,表電極2及び裏電極3を,分割溝1aに跨り,かつ,分割溝1bとは離隔するように設けているが,裏電極3については分割溝1bも跨いだいわゆるべた印刷としてもよい。
【0032】絶縁基板1の材料としては,例えば,アルミナを挙げることができる。表電極2及び裏電極3の材料としては,例えば,Ag系,Au系,Pt系,Ag・Pt系,Cu系若しくはAg・Pd系のメタルグレーズを挙げることができ,その設け方としては,係る材料を絶縁基板1に印刷し,その後焼成する方法を挙げることができる。
【0033】次の工程としては,一対の表電極2間に抵抗膜4を設け,この抵抗膜4を覆うように第1の保護膜5を被覆し,第1の保護膜5の上から抵抗膜4の抵抗値修正のためのトリミングを行い,その後,第2の保護膜6を第1の保護膜5の上に設ける(図2)。第2の保護膜6は,トリミングにより生じた溝及び第1の保護膜5を覆うように設けられ,図2の例ではべた印刷によりこれを設けているが,表電極2の如く分割溝1bから離隔するように設けてもよい。
【0034】なお,第1及び第2の保護膜5及び6は,後に第2の表電極7を設けるため,表電極2の分割溝1a付近の部分を一部残して設ける。
【0035】抵抗膜4の材料としては,提供するチップ抵抗器の抵抗値範囲を広範に確保するために,例えば,RuO_(2)系,Ag系,Ag・Pd系若しくはCu・Ni系のメタルグレーズを挙げることができ,その設け方としては,係る材料を絶縁基板1に塗布又は印刷し,その後焼成する方法が挙げられる。
【0036】第1の保護膜5の材料としては,例えば,硼珪酸鉛系ガラスグレーズを挙げることができる。抵抗膜4の抵抗値のトリミングは,上述した通りこの第1の保護膜5を抵抗膜4に被覆した後,第1の保護膜5と共にレザートリミング等を施すことにより行われる。
【0037】第2の保護膜6の材料としては,例えば,エポキシ系又はエポキシ変成フェノール系樹脂を挙げることができ,その設け方としては,これらの材料から成る塗料を第1の保護膜5上に塗布又は印刷し,加熱硬化する方法を挙げることができる。
【0038】なお,この実施形態では,保護膜として,第1の保護膜5と第2の保護膜6との二層構造を採用したが,必ずしもその必要は無く,第1の保護膜5のみとしたり,第1の保護膜5を設けずに,トリミングした抵抗膜4上に直接第2の保護膜6のみを設けてもよい。
【0039】次の工程としては,表電極2上に,第2の表電極7を設ける(図3)。第2の表電極7は,第2の保護膜6に被覆されていない,露出した表電極2の部分に少なくとも接するように設け,かつ,その表面の高さが第2の保護膜6の表面と少なくとも同等か,より高くなるような厚さでもって設ける。なお,図面上第2の表電極7は,絶縁基板1に対して,かなり厚く見えるが,これは構造を容易に把握できるように誇張して表現したものであり,第2の表電極7の膜厚としては,通常,およそ5μmから10μmの範囲となる。また,図3においては,第2の表電極7は第2の保護膜6の側面に面して設けているが,その一部が第2の保護膜6上に重なっても良い。
【0040】第2の表電極7は,導電性樹脂材料からなるものであって,その設け方としては,当該材料を塗布又は印刷した後,加熱硬化する方法を挙げることができる。
【0041】次の工程としては,端面電極薄膜を形成するために,絶縁基板1を,その縦方向の分割溝1aに沿って1次分割し,短冊状絶縁基板10とする(図4)。
【0042】そして,この短冊状絶縁基板10を,例えば,図8(a)の如く収容ケース103等を用いて端面10’が略面一となるように積み重ねる。なお,その頂上には,各短冊状絶縁基板10が隙間無く積み重ねられるように,所定重量の重り等を載せる等,適度な荷重を加えるようにしてもよい。
【0043】積み重ねた際,短冊状絶縁基板10は,そのすぐ下段の短冊状絶縁基板10に設けられた第2の表電極7上に載置されることとなる(図5)。第2の表電極7は,その表面が第2の保護膜6の表面以上の高さとなるような厚さをもって設けられているからである。そして,第2の表電極7は,導電性樹脂材料からなるため,一定の弾力性を有する。
【0044】このため,短冊状絶縁基板10は,傾くことなく,かつ,その端面10’において短冊状絶縁基板10間の隙間がなく,安定して積み重ねられる。
【0045】この後,積み重ねられた短冊状絶縁基板10の端面10’には,端面電極を構成するための薄膜がスパッタリング等によって一括形成され(図5),更にその後,短冊状絶縁基板10’を分割溝1bに沿って2次分割し,個々のチップ抵抗器とし,更にメッキ層を施す等して最終的なチップ抵抗器が完成に至る。
【0046】図6は,上述した製造方法を経て製造されたチップ抵抗器Aの断面構造図である。チップ抵抗器Aは,絶縁基板1と,その両端表裏面に設けられた表電極2及び裏電極3と,表電極2間に設けられた抵抗膜4と,抵抗膜4の上に被覆された第1の保護膜5及び第2の保護膜6と,表電極2上に設けられた第2の表電極7と,絶縁基板1の両端面に設けられた端面電極薄膜8と,その更に両端に設けられたメッキ層9と,からなる。
【0047】チップ抵抗器Aは,第2の表電極7を設けたので,第2の保護膜6の表面よりもメッキ層9の上面の方が高い位置にある。従って,チップ抵抗器Aを回路基板に実装する場合には,必ずしも裏電極3側の面を回路基板上のランド取りつける必要は無く,表電極2側の面をランドに取りつけることもでき,表裏面の区別の必要が無いため実装時の手間が省ける。この際,第2の表電極7の第2の保護膜6の表面からの高さが,裏電極3の絶縁基板1の裏面からの高さと等しくなるように,第2の表電極7の厚さを設定すると,チップ抵抗器Aの形状は,表裏面においてほとんど対称の形状となり,より一層実装時に手間が省けることとなる。」

イ 引用発明
引用例1の図3には,表電極2上に,分割溝1bを跨いで縦方向に連続的に形成した第2の表電極7が記載されているから,第2の表電極7を矩形状に区画された絶縁基板1の前後両端まで設けることが記載されているといえる。また,図6には,裏電極3,第2の表電極7および端面電極薄膜8を覆うメッキ層9が記載されている。
そして,上記アの記載と引用例1の図1?6を対応付けると,引用例1には,次の構造を有するチップ抵抗器の発明(以下「引用発明」という。)が開示されていることが理解できる。

「矩形状に区画された絶縁基板1の裏側の左右両端に形成した裏電極3と,前記絶縁基板の表側の左右両端に形成した表電極2と,一対の表電極2間に設けられた抵抗膜4と,該抵抗膜を覆う第1の保護層5と,該第1の保護層の上から前記抵抗膜の抵抗値修正のためのトリミングにより生じた溝と,前記第1の保護層およびトリミングにより生じた溝を覆う第2の保護層6と,前記表電極2上に設けた第2の表電極7と,前記絶縁基板1の左右端面に設けられた端面電極薄膜8と,前記裏電極3,第2の表電極7および端面電極薄膜8を覆うメッキ層9とを備えたものであって,
前記第2の表電極7を前記絶縁基板の前後両端まで設けたチップ抵抗器。」

(2)本願補正発明と引用発明との対比
ア 本願補正発明と引用発明を対比する。
引用発明の「裏電極3」,「表電極2」,及び「一対の表電極2間に設けられた抵抗膜4」は,それぞれ,本願補正発明の「裏電極膜」,「表電極膜下層」,及び「該表電極膜下層どうしを接続した抵抗体膜」に相当する。また,引用発明の「第1の保護層5」,「該第1の保護層の上から前記抵抗膜の抵抗値修正のためのトリミングにより生じた溝」,及び「第2の保護層6」は,それぞれ,本願補正発明の「アンダーコート膜」,「該アンダーコート膜上から前記抵抗体膜の抵抗値調整のために刻設したトリミング溝」,及び「オーバーコート膜」に相当する。
そして,引用発明の「第2の表電極7」,「端面電極薄膜8」,及び「メッキ層9」は,それぞれ,本願補正発明の「表電極膜上層」,「端面電極膜」,及び「電極めっき膜」に相当する。
イ 以上によれば,本願補正発明と引用発明とは,
「矩形状に区画された絶縁基板の裏側の左右両端に形成した裏電極膜と,前記絶縁基板の表側の左右両端に形成した表電極膜下層と,該表電極膜下層どうしを接続した抵抗体膜と,該抵抗体膜を覆うアンダーコート膜と,該アンダーコート膜上から前記抵抗体膜の抵抗値調整のために刻設したトリミング溝と,前記アンダーコート膜およびトリミング溝を覆うオーバーコート膜と,前記表電極膜下層上に設けた表電極膜上層と,前記絶縁基板の左右端面を覆うように形成した端面電極膜と,前記裏電極膜,表電極膜上層および端面電極膜を覆う電極めっき膜とを備えたものであって,
前記表電極膜上層を前記絶縁基板の前後両端まで設けたことを特徴とするチップ抵抗器。」
である点で一致し,次の3点で相違する。

《相違点1》
本願補正発明は,「前記左右両端の裏電極膜を,前記絶縁基板の左右の両端および前後両端までの領域に形成する」のに対して,引用発明は,裏電極3が絶縁基板1の裏側の左右両端に形成されているが,前後両端までの領域には形成されていない点。
《相違点2》
本願補正発明は,「前記裏電極膜が3?8μmの膜厚を有するメタルグレーズ系の導電膜か,4?12μmの膜厚を有する銀レジン系の導電膜のいずれか」の範囲内であるのに対して,引用発明は,そのような構成を備えていない点。
《相違点3》
本願補正発明は,「前記表電極膜上層が3?10μmの膜厚を有するメタルグレーズ系の導電膜か,4?12μmの膜厚を有する銀レジン系の導電膜のいずれかの範囲内」ものであるのに対して,引用発明は,そのような構成を備えていない点。

(3)相違点についての検討
(3-1)相違点1について
ア 引用例1には,「【0031】この製造方法では,まず,分割溝1a及び1bが縦横に施された絶縁基板1の表裏面に,分割溝1aに沿って表電極2と,裏電極3とを設ける(図1)。図1の例では,表電極2及び裏電極3を,分割溝1aに跨り,かつ,分割溝1bとは離隔するように設けているが,裏電極3については分割溝1bも跨いだいわゆるべた印刷としてもよい。」と記載されており,裏電極3について分割溝1bも跨いだいわゆるべた印刷すれば,裏電極3は絶縁基板の左右の両端だけでなく前後両端までの領域にも形成されることは明らかである。
イ そうすると,引用発明において,裏電極3については分割溝1bも跨いだいわゆるべた印刷とし,本願補正発明のように「前記左右両端の裏電極膜を,前記絶縁基板の左右の両端および前後両端までの領域に形成する」ことは,当業者が適宜なし得たことである。

(3-2)相違点2について
ア 相違点2の「前記裏電極膜が3?8μmの膜厚を有するメタルグレーズ系の導電膜か,4?12μmの膜厚を有する銀レジン系の導電膜のいずれか」は,「前記裏電極膜が3?8μmの膜厚を有するメタルグレーズ系の導電膜」と「前記裏電極膜が4?12μmの膜厚を有する銀レジン系の導電膜」が択一的に記載されているので,「前記裏電極膜が3?8μmの膜厚を有するメタルグレーズ系の導電膜」の場合について検討する。
イ 引用例1には,「【0032】絶縁基板1の材料としては,例えば,アルミナを挙げることができる。表電極2及び裏電極3の材料としては,例えば,Ag系,Au系,Pt系,Ag・Pt系,Cu系若しくはAg・Pd系のメタルグレーズを挙げることができ,その設け方としては,係る材料を絶縁基板1に印刷し,その後焼成する方法を挙げることができる。」と,裏電極の材料としてメタルグレーズを用いることが記載されている。
また,引用例1には,「【0039】・・・第2の表電極7の膜厚としては,通常,およそ5μmから10μmの範囲となる。・・・」と,第2の表電極ではあるが,チップ抵抗器の電極の膜厚として5?10μmの範囲とすることが記載されている。
ウ さらに,チップ抵抗器の裏面電極の膜厚を5?10μm程度とすることは,以下の周知例1,2にも示されるように周知技術である。
周知例1:特開2000-106302号公報(「【発明の名称】低抵抗チップ抵抗器及びその製造方法」,「【0014】・・・尚,基板1の下面には,10μm以下の一対のAg系メタルグレーズ2’からなる裏電極が形成されている。」)
周知例2:特開平8-186001号公報(「【発明の名称】高抵抗チップ抵抗器」,「【0019】・・・本実施例では,銀-パラジウム・ペーストを用いて裏面電極5,5を形成しているが,その厚みは約5?10μmで,その焼成温度は約850℃であった。・・・」)
エ そして,チップ抵抗器の分割面のバリ,欠けを抑制することは,周知の課題であるから,引用発明における具体的な裏電極の膜厚は,この周知の課題や,上記イ,ウの通常用いられる膜厚等も考慮して,当業者が実験などにより適宜決定し得たことである。
オ そうすると,引用発明において,本願補正発明のように「前記裏電極膜が3?8μmの膜厚を有するメタルグレーズ系の導電膜」とすることは,当業者が適宜なし得たことである。

(3-3)相違点3について
ア 相違点3の「前記表電極膜上層が3?10μmの膜厚を有するメタルグレーズ系の導電膜か,4?12μmの膜厚を有する銀レジン系の導電膜のいずれかの範囲内」は,「前記表電極膜上層が3?10μmの膜厚を有するメタルグレーズ系の導電膜」と「前記表電極膜上層が4?12μmの膜厚を有する銀レジン系の導電膜」が択一的に記載されているので,「前記表電極膜上層が4?12μmの膜厚を有する銀レジン系の導電膜」の場合について検討する。
イ 引用例1には,「【0020】本発明において,前記第2の表電極を構成する導電性樹脂材料としては,銀,金等の金属の球状物,樹皮状物又はフレーク状物をエポキシ変成フェノール系又はエポキシ系等の樹脂に混合分散した材料を挙げることができる。係る材料は,特に,既設の表電極との密着性が良好で,また,ガラスを含有するグレーズよりも弾力性及び抵抗率が低いという点でも優れたものだからである。」,「【0039】・・・第2の表電極7の膜厚としては,通常,およそ5μmから10μmの範囲となる。・・・【0040】第2の表電極7は,導電性樹脂材料からなるものであって,その設け方としては,当該材料を塗布又は印刷した後,加熱硬化する方法を挙げることができる。」と記載されている。
すなわち,引用例1には,第2の表電極7(本願補正発明の「表電極膜上層」に相当。)の材料として銀レジン系を用い,膜厚を5?10μmの範囲とすることが記載されており,「膜厚を5?10μm」は,本願補正発明の「4?12μmの膜厚」にすべて含まれている。
ウ そうすると,引用発明において,本願補正発明のように「前記表電極膜上層が4?12μmの膜厚を有する銀レジン系の導電膜」とすることは,当業者が適宜なし得たことである。

(4)小括
したがって,本願補正発明は,引用例1に記載された発明及び上記周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2-4 独立特許要件についてのむすび
以上のとおり,請求項1についての補正を含む本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記のとおり,本件補正は却下されたので,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」)という。)は,前記第2,1(1)アに摘記したとおりのものである。

2 引用例の記載と引用発明
引用例の記載及び引用発明は,前記第2,2,2-3(1)で認定したとおりである。

3 対比・判断
前記第2,1(2)で検討したように,本願補正発明は,本件補正前に記載した発明特定事項を更に限定するものである。
そうすると,本願発明の構成要素をすべて含み,これを更に限定したものである本願補正発明が,前記第2,2,2-3(2)?(4)で検討したように,引用例1に記載された発明及び上記周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,この限定をなくした本願発明も,同様の理由(ただし,相違点2,3を除く。)により,引用例1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 結言
以上のとおり,本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-17 
結審通知日 2011-08-23 
審決日 2011-09-06 
出願番号 特願2001-29322(P2001-29322)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (H01C)
P 1 8・ 575- Z (H01C)
P 1 8・ 121- Z (H01C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 正文  
特許庁審判長 齋藤 恭一
特許庁審判官 小野田 誠
酒井 英夫
発明の名称 チップ抵抗器およびその製造方法  
代理人 蔵合 正博  
代理人 酒井 一  

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