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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04C |
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管理番号 | 1245670 |
審判番号 | 不服2010-17915 |
総通号数 | 144 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-12-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-08-09 |
確定日 | 2011-10-27 |
事件の表示 | 特願2000-190069「スクロール圧縮機」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 1月 9日出願公開、特開2002- 5058〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成12年6月23日の出願であって、平成20年11月12日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成20年11月18日)、これに対し、平成21年1月15日付で意見書及び手続補正書が提出され、平成21年4月2日付で最後の拒絶の理由が通知され(発送日:平成21年4月7日)、これに対し、平成21年6月3日付で意見書及び手続補正書が提出され、平成21年10月19日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成21年10月27日)、これに対し、平成21年12月28日付で意見書及び手続補正書が提出されたが、平成22年4月26日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成22年5月11日)、これに対し、平成22年8月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 2.本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年12月28日付手続補正書で補正された、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「端板の一側面に立設された渦巻き状の壁体を有し、定位置に固定された固定スクロールと、他の端板の一側面に立設された渦巻き状の他の壁体を有し、前記各壁体どうしをかみ合わせて自転を阻止されつつ公転旋回運動可能に支持された旋回スクロールとを備え、前記各壁体の上縁は、複数の部位に分割され、これら部位の高さが渦巻き方向の中心側で低くかつ外周端側で高くなる段付き形状とされ、 前記各端板の一側面は、前記各部位に対応してその高さが渦巻き方向の中心側で高くなる高部位と、外周端で低くなる低部位と、これら高部位及び低部位間の境となる段付き部とを有する段付き形状とされたスクロール圧縮機において、 前記固定スクロールの端板には、これをその前記壁体が形成された表面とは反対側の裏面側から対向視した場合に、前記外周端から前記段付き部に至るまでの前記低部位によって囲まれており、前記表面側に形成された前記低部位の底面よりも中心側に位置するように窪まされた凹部が形成され、 該凹部内には、前記表面側から前記裏面側に向かって貫通された吐出ポートより吐出される流体の逆流を阻止する吐出弁が設けられているとともに、 前記凹部の形成により前記固定スクロールの端板は、該凹部内の吐出ポート周囲部分の板厚が最も薄く、該凹部と前記段付き部との間の板厚(注:「板厚さ」は誤記と認める)が最も厚く、前記段付き部から前記外周端までの間の板厚が前記段付き部の高さ分だけ薄くかつ前記凹部内の吐出ポート周囲部分の板厚よりも厚くされていることを特徴とするスクロール圧縮機。」 3.引用例 これに対して、原査定の理由に引用された特開昭58-30494号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。 1-a「本発明は,一対のうずまき体を角度をずらせて噛み合せ,一方に円軌道運動を加えて,両うずまき体間に形成される密閉空間をうずまき体の中心方向へ移動させながら容積を減縮して,中心部から圧縮流体を吐出させるようにしたスクロール型圧縮機に関し,特に圧縮比を高めるためのスクロールの構造の改良に関するものである。」(第1頁右下欄4?10行) 1-b「以下,本発明を図面に示す実施例について詳細に説明する。 第1図を参照して,図示の圧縮機1は,・・・圧縮機ハウジング10を有している。」(第2頁右上欄6?12行) 1-c「フロントエンドプレート11によって開口部を閉じられたカップ状部分12内には,固定スクロール部材21,可動スクロール部材22,可動スクロール駆動機構23および可動スクロール回転阻止機構24が設けられている。 固定スクロール部材21は,一般に側板211とその一面に固定されたうずまき体212とからなっており」(第2頁右下欄8?15行) 1-d「室29中には,可動スクロール部材22が配置されている。可動スクロール部材22は側板221とその一面に固定されたうずまき体222からなり,うずまき体222は,うずまき体212と180°の角度ずれをもってかみ合わされて,両うずまき体の間に流体ポケットを形成している。可動スクロール部材22は,ディスクロータ15の内端面に偏心して結合した駆動輪231上に,ラジアルベアリング232を介して,回転可能に設置されている。一方,フロントエンドプレート11へ固定結合された固定リング241と,これと対向するように可動スクロール22の側板221へ固定された可動リング242と,両リングに形成したボール受穴243,244中に配置したボール245とによって回転阻止機構24が構成されている。 圧縮機ハウジング10は,カップ状部分12に,外部の流体回路と接続するための吸入ポート30と吐出ポート31を設けている。吸入ポート30からハウジング内の室29へ導入された流体は,両スクロール部材21,22間の流体ポケット中へ取り込まれ,可動スクロール22の円軌道運動により圧縮されながら中心部へ移動し,固定スクロール部材21の側板211の中心部に設けた吐出孔216から室28へ吹出し,そこから隔壁213に形成された連通穴217を通り吐出ポート31を通って流体回路へ流出する。32は吐出弁である。 以上の構成において,上述した電磁クラッチの動作によって外部駆動源(図示せず)によって主軸13が回転されると,可動スクロール駆動機構23及び回転阻止機構24を介して可動スクロール部材22が円軌道運動を行なう。このため両スクロール部材21,22間に形成される流体ポケットが,吸入ポート30から導入された流体を取り込んで,容積の減少を伴いながら中心方向へ移動し,これによって圧縮された流体が吐出孔216から吐出室28の中心室部281へ吐出され,連通穴217から周囲室282へ至る。」(第3頁左上欄14行?左下欄12行) 1-e「本発明のうずまき形状の一例が,第1図断面図に示されている。図示の例は,壁高さを2段に変えるものであるが,何段に変えても良い。ここでは基本的ともいえる2段変化の場合について説明する。第3図(a),(b)を参照して,可動スクロール部材22のうずまき体222はその外側部で,側板221の面からの壁高さH_(1) をもっている。この高さは,うずまき最外終端から,うずまきに沿って,内向きに進んだ任意の点α部で,側板の面がl_(2) だけ高くなっていることにより相対的に(H_(1) -l_(2) )の高さになる。この部分から,更に,うずまきの伸開角でπラジアンだけ中に入ったβ点では,壁の高さはl_(1) だけ低くされている。すなわち,壁は,その点での側板面からの高さとしては,H_(1) -l_(2) -l_(1) =H_(2) の高さになる。そしてこの点から内側では側板面の高さも壁高さも一定にされている。 第4図(a),(b)を参照して,固定スクロール部材21も,可動スクロール部材22と同様な形状をなし,ほぼ鏡面対称形状となるが,要点は両図のそれぞれl_(1) ,l_(2) ,H_(1) ,H_(2) が同寸法で対応していることである。 なお,側板面の高さ変化点とうずまき壁高さ変化点が必ずしもπradだけの位相差を持つ必要はないし,また,後述するように,固定可動両スクロール部材の段差形状は必らずしも対称でなくても良い。」(第4頁左上欄3行?右上欄9行) 上記記載及び図面に基づけば、各うずまき体212,222の上縁は、複数の部位に分割され、これら部位の高さがうずまき方向の中心側で低くかつ外周端側で高くなる段差形状とされ、各側板211,221の一側面は、前記各部位に対応してその高さがうずまき方向の中心側で高くなる高部位と、外周端で低くなる低部位と、これら高部位及び低部位間の境となる段付き部とを有する段差形状を有し、また、固定スクロール部材21の側板211には、これをそのうずまき体212が形成された表面とは反対側の裏面側から対向視した場合に、外周端から段付き部に至るまでの低部位によって囲まれており、前記表面側に形成された前記低部位の底面よりも中心側に位置するように窪まされた凹部が形成され、また、前記凹部内には、前記表面側から前記裏面側に向かって貫通された吐出孔216より吐出される流体の逆流を阻止する吐出弁32が設けられ、また、前記凹部の形成により固定スクロール部材21の側板211は、該凹部内の吐出孔216周囲部分の板厚が薄く、該凹部と段付き部との間の板厚が最も厚く、前記段付き部から前記外周端までの間の板厚が前記段付き部の高さ分l_(1) だけ薄くかつ前記凹部内の吐出孔216周囲部分の板厚に略等しくされている。 上記記載事項からみて、引用例1には、 「側板211の一面に固定されたうずまき体212を有し、定位置に固定された固定スクロール部材21と、他の側板221の一面に固定されたうずまき体222を有し、前記各うずまき体212,222をかみ合せて可動スクロール駆動機構23及び回転阻止機構24を介して円軌道運動を行うように設置された可動スクロール部材22とを備え、前記各うずまき体212,222の上縁は、複数の部位に分割され、これら部位の高さがうずまき方向の中心側で低くかつ外周端側で高くなる段差形状とされ、 前記各側板211,221の一側面は、前記各部位に対応してその高さがうずまき方向の中心側で高くなる高部位と、外周端で低くなる低部位と、これら高部位及び低部位間の境となる段付き部とを有する段差形状とされたスクロール型圧縮機において、 前記固定スクロール部材21の側板211には、これをその前記うずまき体212が形成された表面とは反対側の裏面側から対向視した場合に、前記外周端から前記段付き部に至るまでの前記低部位によって囲まれており、前記表面側に形成された前記低部位の底面よりも中心側に位置するように窪まされた凹部が形成され、 該凹部内には、前記表面側から前記裏面側に向かって貫通された吐出孔216より吐出される流体の逆流を阻止する吐出弁32が設けられているとともに、 前記凹部の形成により前記固定スクロール部材21の側板211は、該凹部内の吐出孔216周囲部分の板厚が薄く、該凹部と前記段付き部との間の板厚が最も厚く、前記段付き部から前記外周端までの間の板厚が前記段付き部の高さ分l_(1) だけ薄くかつ前記凹部内の吐出孔216周囲部分の板厚に略等しくされているスクロール型圧縮機。」 との発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 同じく、原査定の拒絶の理由に引用された実願昭58-85151号(実開昭59-189968号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。 2-a「次に第4図により、上軸受端板17に設けられた吐出部構造について説明する。同図において21は吐出弁、22は吐出弁押えであり、・・・上記構造において、吐出ポート20に溜る圧縮気体の容積は少なくなり、吸入側に吹き戻る無駄な気体が少なくなるため、圧縮機の効率を上げることができる。」(明細書第4頁3?12行) 上記記載及び第4図に基づけば、上軸受端板17の板厚を、吐出ポート20周囲部分の板厚を薄く形成して、吐出ポート20に溜る圧縮気体の容積を少なくしている。 4.対比 そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「側板211」、「一面に固定」、「うずまき体212」、「固定スクロール部材21」、「他の側板221」、「うずまき体222」、「可動スクロール部材22」、「うずまき方向」、「段差形状」、「スクロール型圧縮機」、「吐出孔216」は、それぞれ本願発明の「端板」、「一側面に立設」、「渦巻き状の壁体」、「固定スクロール」、「他の端板」、「渦巻き状の他の壁体」、「旋回スクロール」、「渦巻き方向」、「段付き形状」、「スクロール圧縮機」、「吐出ポート」に相当する。 その機能をも考慮すれば、引用発明の「可動スクロール駆動機構23及び回転阻止機構24を介して円軌道運動を行うように設置」は、本願発明の「自転を阻止されつつ公転旋回運動可能に支持」に相当する。 したがって、両者は、 「端板の一側面に立設された渦巻き状の壁体を有し、定位置に固定された固定スクロールと、他の端板の一側面に立設された渦巻き状の他の壁体を有し、前記各壁体どうしをかみ合わせて自転を阻止されつつ公転旋回運動可能に支持された旋回スクロールとを備え、前記各壁体の上縁は、複数の部位に分割され、これら部位の高さが渦巻き方向の中心側で低くかつ外周端側で高くなる段付き形状とされ、 前記各端板の一側面は、前記各部位に対応してその高さが渦巻き方向の中心側で高くなる高部位と、外周端で低くなる低部位と、これら高部位及び低部位間の境となる段付き部とを有する段付き形状とされたスクロール圧縮機において、 前記固定スクロールの端板には、これをその前記壁体が形成された表面とは反対側の裏面側から対向視した場合に、前記外周端から前記段付き部に至るまでの前記低部位によって囲まれており、前記表面側に形成された前記低部位の底面よりも中心側に位置するように窪まされた凹部が形成され、 該凹部内には、前記表面側から前記裏面側に向かって貫通された吐出ポートより吐出される流体の逆流を阻止する吐出弁が設けられているとともに、 前記凹部の形成により前記固定スクロールの端板は、該凹部と前記段付き部との間の板厚が最も厚く、前記段付き部から前記外周端までの間の板厚が前記段付き部の高さ分だけ薄くされているスクロール圧縮機。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 〔相違点〕 固定スクロールの端板の板厚に関し、本願発明は、凹部内の吐出ポート周囲部分の板厚が最も薄く、段付き部から外周端までの間の板厚が凹部内の吐出ポート周囲部分の板厚よりも厚くされているのに対し、引用発明は、凹部内の吐出ポート周囲部分の板厚が薄く、段付き部から外周端までの間の板厚が凹部内の吐出ポート周囲部分の板厚に略等しくされている点。 5.判断 引用例2にも示されるように、吐出ポート周囲部分の板厚を薄くして吐出ポートの容積を小さくすることにより、吐出ポート20に溜る圧縮気体の容積を少なくして圧縮機の効率を上げることは、圧縮機において周知の事項であり、圧縮機の効率向上は圧縮機に当然に要求される課題であるといえる。 引用発明においても、圧縮機の効率向上との課題の下に上記周知の事項を採用し、固定スクロールの端板の板厚に関し、凹部内の吐出ポート周囲部分の板厚を更に薄くすることは、当業者が容易に考えられることと認められる。その際、引用発明は、段付き部から外周端までの間の板厚が凹部内の吐出ポート周囲部分の板厚に略等しくされているのであるから、凹部内の吐出ポート周囲部分の板厚を更に薄くすれば、結果として、凹部内の吐出ポート周囲部分の板厚が最も薄く、段付き部から外周端までの間の板厚が凹部内の吐出ポート周囲部分の板厚よりも厚くされるものと認められる。 そして、本願発明の作用効果も、引用発明及び上記周知の事項から当業者が予測できる範囲のものである。 したがって、本願発明は、引用発明及び上記周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び上記周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-08-17 |
結審通知日 | 2011-08-23 |
審決日 | 2011-09-14 |
出願番号 | 特願2000-190069(P2000-190069) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F04C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 秀之 |
特許庁審判長 |
堀川 一郎 |
特許庁審判官 |
仁木 浩 倉橋 紀夫 |
発明の名称 | スクロール圧縮機 |
代理人 | 藤田 考晴 |
代理人 | 上田 邦生 |