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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1245767
審判番号 不服2008-30400  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-01 
確定日 2011-10-26 
事件の表示 平成10年特許願第533715号「胃腸リパーゼ阻害剤の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 8月13日国際公開、WO98/34630、平成13年 7月10日国内公表、特表2001-509173〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年1月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1997年2月5日 (US)米国)を国際出願日とする特許出願であって、拒絶理由通知に応答して平成20年7月11日付けで手続補正書と意見書が提出されたが、平成20年8月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年12月1日に拒絶査定不服審判が請求され、平成21年2月19日付けで審判請求理由の手続補正書(方式)が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?4に係る発明は、平成20年7月11日付けの手続補正書の請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「1.有効成分がテトラヒドロリプスタチンからなる、II型真性糖尿病の治療又は予防用の経口医薬。」

3.引用例
原査定の拒絶理由に引用された、本願優先権主張日前の刊行物であるDrugs of the Future 1994, Vol.19, No.11, p.1003-1010(以下、「引用例1」という。)、及び特開平7-53409号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の技術事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。また、引用例1の原文は英語であるため、訳文で示す。

[引用例1]
(1-i)「オルリスタット 抗肥満
膵臓リパーゼ阻害剤
テトラヒドロリプスタチン
オルリパスタット(以前のINN)
Ro-18-0647
Ro-18-0647/002 」(1003頁のタイトル部)

(1-ii)「序論
肥満及び高脂血症は、インスリン抵抗性、真性糖尿病、高血圧症、心臓血管及び静脈の循環疾患を伴い高い罹患率及び早期の死亡を引き起こす医学的状態である(8-11)。およそ3400万人のアメリカ人が過体重である。肥満の病因についてはほとんど知られていない。食物脂肪の過度な摂取は、肥満と高脂血症の両方の発症と持続の一因となる。エネルギーの摂取が消費を上回るため、肥満には脂質の過度な堆積が起こる。
体重制御の3つのアプローチは、食事、運動及び食欲抑制剤である。食欲抑制剤の処方薬には、ベンズフェタミン塩酸塩、デクスフェンフルラミン塩酸塩、ジエチルプロピオン塩酸塩、フェンフルラミン塩酸塩、マジンドール、フェンテルミン塩酸塩及びフェンテルミン樹脂が含まれる。これらの薬は副作用があり有用性が限定的であるため、β_(3)-アドレナリン受容体アゴニスト、コレシストキニン(CCK)-A受容体アゴニスト、ニューロペプタイドY(NPY)受容体アンタゴニスト及び膵臓リパーゼ阻害剤(表I)を含め、新しい治療アプローチが肥満治療のために研究されている。
白色及び褐色脂肪細胞の両方の細胞表面に発見されるβ_(3)-アドレナリン受容体は、脂肪分解を仲介する。β_(3)-アドレナリン受容体の刺激は、脂肪分解及びエネルギー消費の両方を促進する。2つのβ_(3)-アドレナリン受容体アゴニスト、BRL-35135(SmithKline Beecham)及びCL-316243(Lederie)が、ヒトで研究されている(12)。末梢組織にあるCCK-A受容体は、食欲の制御に重要な役割を果たす。CCK-A受容体アゴニストは、肥満及び過食症の治療に有用である可能性がある。NPY受容体は摂食刺激体としてはたらく。NPY受容体を相殺するように設計された医薬は、肥満を制御する方法を提供するかもしれない。最近、Ciba-GeigyとSynaptic Pharmaceuticalは、NPYにはたらく低分子医薬の開発を含む合意を発表した。
腸の脂肪吸収を低下させることによって脂質代謝に影響を与えることのできる医薬品も追い求められている。膵臓リパーゼは、食物脂肪吸収の阻害剤の設計のターゲットとして選択されている。Streptomyces toxytricini (NRRL 15443)が特定の膵臓リパーゼ阻害剤を生産することが発見され、リプスタチンと名付けられた(13)。実験的な証拠により、リプスタチンが肥満の食事治療の補助剤として有用であることが示唆された(14)。Hoffmann-La Rocheの科学者により合成された、リプスタチンの四水素化物、Ro-18-0647(オルリスタット)は、腸のリパーゼの阻害剤であることが示され、さらなる開発へ向けて選択された。」(1006頁右欄下から11行?1007頁右欄15行)

(1-iii)「薬理学的作用
オルリスタットは、有力で不可逆的な膵臓リパーゼの阻害剤である(15、16)。それは、脂肪吸収を阻害し、体重を減少させ、動物の血漿コレルテロールを低減することが発見された(14)。
薬物動態学
標準朝食とともに、^(14)C標識オルリスタット(350mg)の単一の経口投与を受けた、健康なボランティアにおいて、化合物は十分に吸収されず、無傷の医薬の血漿レベルは検出限界(5ng/ml)を下回ることが発見された。また、大部分は便の中で変化せずに排泄された(投与量の約85%)(17)。
」(1007頁右欄16行?1007頁26行)

(1-iv)「臨床研究
食物脂肪摂取の異なる、健康なボランティア及び肥満患者での、初期のプラセボ対照研究は、オルリスタットは全般的に十分許容されることを示した。軟便が主な不満であった。許容性は、食物中の脂肪の量に反比例するようであった。この広い範囲の投与にしては得られた効果の範囲は狭いものの、化合物は大便の脂肪排泄の増大に有効であった。すなわち、脂肪吸収の阻害は1投与あたり10-400 mg (1日3回)であった。最大で36%の摂取された脂肪が排泄された。
24人の健康なボランティアでの、二重盲検・ランダム・プラシーボ対照臨床試験では、オルリスタット(80mg、1日3回、8日間)の大便の脂肪排泄の増大における効果は、食事に対する投与時間に決定的には依存しないことが示された。食物脂肪に対する大便脂肪の百分率の平均値は、食事途中、食事途中の1時間後及び2時間後に投与された場合、それぞれ32.8、34.0及び26.9%であった(19)。
経口ビタミンA脂肪負荷を与えられた、17人の高脂血症患者における、多施設での二重盲検・ランダム・プラシーボ対照臨床試験からの暫定的な結果は、オルリスタット(1日あたり10-120mg、8週間)による治療は、食後のリポタンパク質代謝を劇的に改善し、絶食血漿総コレステロール、LDLコレステロール及びアポリポタンパク質Bレベルを低下させた。これは明らかに、脂肪吸収の低下と、肝臓LDL受容体の間接的な調整の両方によるものであった(20)。
別の、低脂肪の体重維持規定食の、原発性高脂血症患者における、多施設での二重盲検・ランダム・プラシーボ対照臨床試験において、オルリスタット(1日あたり30-360mg、8週間)の効果が調査された。治療は、プラシーボと比較して、総(4-11%)及びLDLコレステロールレベル(5-10%)の低下を引き起こした。投与量が最大の場合、HDLコレステロールレベル及び体重の顕著な減少も観察された。オルリスタットで観察される胃腸の副作用は、長期の治療期間では、十分には許容されないかもしれない(21)。
オルリスタット(80mg、1日3回)での治療の間、1回分のグリブリドを高脂肪食の朝食とともに与えた、健康なボランティアにおける、非盲検・ランダム・プラシーボ対照・クロスオーバー臨床試験では、オルリスタットとグリブリドの間で、重要な薬物動態学/薬効学的な相互作用は発見されず、糖尿病の肥満患者における併用治療に対する適合性が示されている(22)。
オルリスタット(50mg、1日2回)は、二重盲検・ランダム・プラシーボ対照臨床試験で12週間治療された、低カロリー低脂肪食の、40人の肥満患者において、プラシーボと比較して、体重減少の減少(4.18 kg対2.15kg)に優れていることが示された。ビタミンA及びEレベルの減少は、臨床的に関連は無かった(23)。
肥満の治療へ向けたオルリスタットの臨床開発が進められている(24)。」(1008頁左欄1行?1009頁左欄11行)

[引用例2]
(2-i)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 活性物質として、グルコシダーゼおよび/またはアミラーゼ阻害剤およびリパーゼ阻害剤を、通常の医薬担体と共に含有する肥満治療剤。
【請求項2】 活性物質としてアカルボースおよびテトラヒドロリプスタチンを含有する、請求項1記載の肥満治療剤。」(特許請求の範囲参照)

(2-ii)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、活性物質としてグルコシダーゼおよび/またはアミラーゼ阻害剤およびリパーゼ阻害剤を、通常の医薬担体と共に含有する医薬調製物に関する。このような調製物は、肥満の治療に用い得ることが見出された。したがって、本発明は、肥満の治療における、リパーゼ阻害剤との組合せでの同時、個別、または時間的に間隔を置いた使用のための、グルコシダーゼおよび/またはアミラーゼ阻害剤の用途にも関する。さらに、本発明は、肥満の治療におけるリパーゼ阻害剤との組合せでの使用のための医薬調製物の製造における、グルコシダーゼおよび/またはアミラーゼ阻害剤の用途にも関する。」(0001段落参照)

(2-iii)「【0007】
【課題を解決するための手段】驚くべきことに、グルコシダーゼおよび/またはアミラーゼ阻害剤とリパーゼ阻害剤とを組み合わせた使用により、単独療法の場合より実質的に大きい体重減少がもたらされることが見出された。」(0007段落参照)

(2-iv)「【0018】肥満の治療に加えて、本発明に従った調製物または有効物質の組合せは、糖尿病、高血圧、高脂血症およびインシュリン抵抗性症候群のような、太り過ぎと関連して頻繁に起こる病気の予防および治療のために用いることができる。」(0018段落参照)

4.対比、判断
引用例1には、上記摘示の記載からみて、オルリスタットはテトラヒドロリプスタチンの別名であること(特に摘示(1-i)参照)、及びオルリスタットが膵臓リパーゼ阻害剤であって抗肥満症医薬の有効成分であること(特に摘示(1-i),(1-iii)?(1-iv)参照)は明らかであり、また、オルリスタット単独で肥満治療に有効であると認められること(特に摘示(1-iv)参照)に鑑みれば、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「有効成分がテトラヒドロリプスタチンからなる、肥満治療用の経口医薬。」

そこで、本願発明と引用例1発明とを対比すると、両発明は
「有効成分がテトラヒドロリプスタチンからなる、経口医薬。」である点で一致するが、次の点で相違する。
<相違点>
経口医薬の用途について、本願発明では「II型真性糖尿病の治療又は予防用」と特定されているのに対して、引用例1発明では「肥満治療用」である点

そこで、この相違点について検討する。
引用例2には、有効成分の一つとしてテトラヒドロリプスタチンを含有する肥満治療剤が、太り過ぎと関連して頻繁に起こる病気の予防および治療のために用いることができることが記載され、太り過ぎと関連して頻繁に起こる病気として糖尿病が挙げられている(特に摘示(2-i)及び(2-iv)参照)。
また、請求人自身も「II型真性糖尿病に罹患している肥満患者を治療する最初の手段は、減量である。」(明細書の翻訳文1頁6?7行参照)と述べているように、II型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)ともいう。)の治療手段として、肥満の解除が挙げられることは、当業者に周知の事項である(例えば、矢賀健・岡芳知著「インスリン非依存型糖尿病」medicina, vol.21, no.12増刊号、1995年11月30日発行、医学書院、356-359頁、特に表2を参照)。
なお、糖尿病(diabetes)は、尿崩症(diabetes insipidus)又は真性糖尿病(diabetes mellitus)を指すが、特に指定した場合以外は真性糖尿病を意味する用語である(例えば、「ステッドマン医学大辞典」第3版[縮刷版]、平成7年3月10日第3版第5刷発行、メジカルビュー社、403-404頁の「diabetes」参照)。
してみれば、肥満の解除によって真性II型糖尿病を治療する目的で、引用例1発明の肥満治療用の医薬を、真性II型糖尿病の治療の用途に用いることは、当業者が容易に想到し得たものである。また、真性II型糖尿病の治療に有効であるという本願発明の作用効果も、当業者が予測し得る範囲内のものであり、格別顕著なものとも認められない。

ところで、請求人は以下のような主張をしている。
「しかるに、本発明によるII型真性糖尿病の治療又は予防は、体重の増減とは関係がなく、引用文献1、2(当審注:上記引用例1、2のことである。)からすれば糖尿病への効果が期待できないとされる状況、すなわち体重が減少しない状況であっても、本発明によれば、十分な糖尿病の治療又は予防効果が見込める。よって、糖尿病と肥満とを関連付けるのは、この場合、妥当ではない。」(平成20年7月11日付けの意見書4頁14?18行参照)
「また同意見書に参考資料1として添付した刊行物(なおその出所は、Diabetes (2002), Vol. 51, No. Suppl. 2, page A472であり、本願に対応する欧州特許明細書EP 1 017 408 B1でも引用文献として採用されており、その出所や内容の信憑性が疑われるものではございません。本書に再度添付いたします)には、II型糖尿病患者のHbA1c濃度が、プラセボ(PL)で+0.14(%)なのに対し、テトラヒドロリプスタチン(オルリスタット、ORL)単独での投与の場合は-0.29(%)と顕著に低下すること、「要するに、プラセボ処置患者群に対するテトラヒドロリプスタチン(Oristat)処置群患者における血糖改善は主として体重減少とは関連のない独立した効果である」(参考資料1:左欄1939-POの項、最終段落参照)ことが証されております。」(請求の理由に関する平成20年21年2月19日付け手続補正書(方式)「2)本願発明の特徴」参照)

このように請求人は、体重が減少しない状況であっても、本発明によれば、十分な糖尿病の治療又は予防効果が見込めることを主張している。
しかし、本願の請求項1には、医薬の適用対象を体重が減少しない患者に限定する記載は無い。また、明細書を見てもむしろ、
「被験者は、好ましくは肥満又は過体重のヒト、すなわちボディ・マス指数25以上のヒトである。」(明細書の翻訳文1頁25?26行)
「テトラヒドロリプスタチン(120mg、1日3回)で治療した患者の30%が、基底体重において少なくとも5%の体重減少を達成した一方、プラシーボ投与患者では13%が達成したのみであった(p<0.001)ことを示している。」(明細書の実施例4参照)
との記載があり、テトラヒドロリプスタチンの好適な投与対象が肥満患者であり、プラシーボに比べて多くの患者の体重減少を達成したことが記載されている。したがって、本願発明が、適用対象を体重が減少しない患者に限定したものであるということはできない。
そうすると、請求人が主張するように、体重が減少しない状況で糖尿病の治療又は予防効果があるとしても、本願発明は、適用対象を体重が減少しない患者に限定するものではなく、テトラヒドロリプスタチンの投与により体重が減少する患者をも適用対象とするものである。そして、肥満の解除によって真性II型糖尿病を治療する目的で、引用例1発明の肥満治療用の医薬を、真性II型糖尿病の治療の用途に用いて本願発明に到達することが、当業者が容易に想到し得たものであることは、上記検討のとおりである。よって、請求人の主張は、上記当審の判断に影響しない。

5.むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用例2等の周知技術を勘案し、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願はその余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-30 
結審通知日 2011-05-31 
審決日 2011-06-13 
出願番号 特願平10-533715
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐久 敬  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 穴吹 智子
田名部 拓也
発明の名称 胃腸リパーゼ阻害剤の使用  
代理人 津国 肇  
復代理人 齋藤 房幸  
復代理人 田中 洋子  

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