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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1245792
審判番号 不服2008-19823  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-05 
確定日 2011-10-26 
事件の表示 特願2007-101233「ネスチンを発現する毛包幹細胞」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月18日出願公開、特開2007-267739〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は, 平成14年9月20日(パリ条約による優先権主張平成13年9月20日, 米国)を国際出願日とする特願2003-528504号の一部を, 特許法第44条第1項の規定により新たな特許出願としたものであって, 平成19年9月26日付で拒絶理由が通知され, 平成20年4月2日に意見書とともに手続補正書が提出されたが, 平成20年4月22日付で拒絶査定がなされ, これに対し, 平成20年8月5日に拒絶査定に対する審判請求がなされ, 平成20年9月4日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。

2.平成20年9月4日付の手続補正について補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成20年9月4日付の手続補正を却下する。

[理由]

(1)補正後の本願発明

本件補正により, 特許請求の範囲の請求項1は,
「哺乳類の不変上部毛包内の皮脂腺のすぐ下にある毛包バルジから休止期細胞周期段階において得られる分離した毛包幹細胞であって, ネスチンを発現し, FBS, BDNF, PDGFまたはCNTFを含む培地で培養するとニューロン, 星状膠細胞, 平滑筋細胞また脂肪細胞に分化する該細胞。」から
「不変上部毛包内の皮脂腺のすぐ下にある毛包バルジから休止期又は初期成長期細胞周期段階において得られうる分離した哺乳類幹細胞であって, ネスチンを発現する該幹細胞。」
へと補正された。
また, 請求項の数が4から9へと増加した。

(2)補正の適否

本件補正の適否について検討すると, 請求項1についての補正は, 補正前の請求項1に記載の「FBS, BDNF, PDGFまたはCNTFを含む培地で培養するとニューロン, 星状膠細胞, 平滑筋細胞また脂肪細胞に分化する」という特定を削除したものであり, また, 幹細胞を得る時期として「初期成長期細胞周期段階」を追加したものであるから, 上記補正は特許請求の範囲を拡張するものであり, 特許法第17条の2第4項各号に掲げられた請求項の削除, 特許請求の範囲の減縮, 誤記の訂正, 明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものでもない。
また, そもそも, 請求項の数を増加させる補正は, 特許法第17条の2第4項各号に掲げられた請求項の削除, 特許請求の範囲の減縮, 誤記の訂正, 明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものでもない。

(3)むすび
以上のとおり, 本件補正は, 平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので, 同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成20年9月4日付の手続補正は, 上記のとおり却下されたので, 本願の請求項1及び2に係る発明(以下, 「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は, 平成20年4月2日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される, 以下のとおりのものである。

「【請求項1】哺乳類の不変上部毛包内の皮脂腺のすぐ下にある毛包バルジから休止期細胞周期段階において得られる分離した毛包幹細胞であって, ネスチンを発現し, FBS, BDNF, PDGFまたはCNTFを含む培地で培養するとニューロン, 星状膠細胞, 平滑筋細胞また脂肪細胞に分化する該細胞。
【請求項2】請求項1の細胞を培養して得られるニューロン, 星状膠細胞, 平滑筋細胞または脂肪細胞。」

4.引用例

これに対して, 原査定の拒絶の理由に刊行物1として引用された, 本願優先日前の2001年8月に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった刊行物であるNature Cell Biol. , 2001.8.13 published [online], Vol.3, p. 778-784(以下, 「引用例1」という。)には, 「大人の齧歯類皮膚由来の幹細胞(skin-derived precursorsでSKPs)」(第778頁左欄下から第6行?下から第5行)に関して以下の事項が記載されている。

「皮膚からの神経前駆細胞の単離。皮膚から神経前駆細胞を単離するために, 脳から神経幹細胞を産生するために考案された方法を採用した。若年(出生後3-21日)あるいは大人のマウス由来皮膚を分離してコートしていないフラスコで上皮増殖因子(EGF)及び線維芽細胞増殖因子(FGF)の存在下で培養した。多くの細胞がフラスコに接着し, 多くの細胞が死んだが, 3-7日後までに, 浮遊細胞の小スフェアが形成された。これらの細胞を最初の培養から7-10日後に新しいフラスコに移した。再び多くの細胞が接着したが, 浮遊しているスフェアの中の細胞が増殖してより大きなスフェアを形成した(Fig.1a)。これを単離し, 分離して, 成長因子を添加した新しい培地で培養した(継代)。浮遊スフェアの精製した集団はこのような選択的な接着の過程で3?4週間後に得られた。スフェアは継代時に1個の細胞にまで分離され得, 引き続き増殖して新しいスフェアを形成するだろう(Fig.1b)。若年のあるいは大人のスフェアが神経幹細胞の特徴を有する細胞を含むかどうかを決定するために, スフェアを分離し, 増殖因子非存在下ポリ-D-リジン/ラミニン上に播種し, 12-24時間後に神経系前駆細胞のマーカーであるネスチンで免疫染色した。3回の継代後, 60%以上の細胞がネスチンを発現し(Fig.1c), その後の継代で性質は維持された。これらのネスチン陽性細胞はこのような方法で14ヶ月以上(50継代以上)継代された。」(第778頁左欄下から3行?右欄第20行)

「SKPsが神経性の細胞の種類を生成できるか決定するために, 継代3回目あるいはそれ以上の若年のスフェアを増殖因子非存在下, ポリ-D-リジン/ラミニン上に播種し分化させた。免疫染色(Fig.1d, e)及びウエスタンブロット解析(Fig.2d)によりSKPsはニューロンマーカー遺伝子を発現する細胞を生成することが判明した。分化の7日目, 形態学的な集合体の細胞の亜集団はネスチンとニューロン特異的なβIIIチューブリンを共発現したが, これは新生ニューロンの典型的な特性である(Fig.1d)。4-21日の後の時点で, 細胞はまたニューロフィラメント-M(NFM)(Fig.1e, 2d), ニューロン特異的エノラーゼ(データ無し), NeuN(Fig.1e)及びニューロン特異的Tα1α-チューブリン, nlacZトランスジーン(Fig1.e)も発現した。最終的にいくつかの細胞は, GABA作動性ニューロンのマーカーであって, 末梢神経系には見られないGAD(Fig.1e)を産生した。」(第778頁右欄第26?39行)

「免疫染色及びウエスタンブロットは新生児と大人のSKPsが, 播種後7-21日にグリアマーカーのGFAPとCNPaseを発現する細胞を生成することを明らかにした(Fig.2a-d)。これらの蛋白質の二重ラベリングの結果から(Fig.2a), GFAPを産生するがCNPaseは産生しない細胞(潜在的に 星状膠細胞), CNPaseを産生するがGFAPは産生しない細胞(潜在的にオリゴデンドロサイトまたはその前駆細胞), 両方のマーカーを発現する二極性の細胞(潜在的にシュワン細胞)が存在することがわかった。GFAP陽性細胞の亜集団はネスチンも発現したが(Fig.2c), これは発生中の 星状膠細胞やシュワン細胞に典型的な特性である。」(第779頁左欄第6?15行)

「SKPsをより特徴付けるために, 他の幹細胞のマーカーの発現を解析し, 皮膚中の由来を判定した。免疫細胞化学, 及びウエスタンブロット解析により, スフェア中でも(Fig.3b), 接着基層上に播種した場合も(Fig.1c), SKPsは神経系マーカーであるネスチンを発現していたが, 神経堤幹細胞の二種のマーカーであるp75ニューロトロフィンレセプター及びPSA-NCAMは発現しなかった(データ示さず)。」(第779頁右欄下から第3行?第780頁右欄第1行)

「SKPsを含む可能性のある皮膚の3つの区画は表皮, 真皮, 末梢神経である。SKPsの由来を決定するために, 若年(P7及びP18)及び大人の表皮, 真皮, 座骨神経をSKPsを培養するために用いられたのと同じ条件で培養した。真皮のみが皮膚全体を培養した時に見られたのと同様の増殖するスフェアを産生した(Fig.3c)。表皮からは生存可能な細胞は得られず, 座骨神経からはよく増殖しない小さな不均質な集団が得られた(Fig.3c)。真皮由来のスフェアの特性を明らかにするために, スフェアを4週間継代し, ポリ-D-リジン/ラミニン上に24時間播種した。免疫化学分析により, SKPsと同様にそれらの細胞はネスチンとフィブロネクチンを発現した。」(第780頁右欄第5?16行)

「SKPsは神経幹細胞及び間葉系幹細胞のマーカーを産生したので, 神経系の細胞と同様に中胚葉系の細胞を産生するかどうかを検討した。SKPsを3%ラット血清中で分化させたところ, 平滑筋アクチン(SMA)の発現と形態から判断して平滑筋と判断できる細胞の小さな亜集団を産生した(Fig.4a, Table1)。さらに, SKPsを10%ウシ胎児血清中で分化させたところ, 脂肪細胞の特徴である形態と油滴封入体を有する細胞へと分化した(Fig.4b, Table1)。」(第781頁左欄第11?19行)

以上の記載から, 引用例1には, 皮膚から得られた細胞(SKPs)であって, ネスチンを発現し, ニューロン, 星状膠細胞, 平滑筋細胞, 脂肪細胞へと分化する幹細胞が記載されているものと認められる。

5.対比・判断

(A)本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用例1に記載された事項を比較する。両者は, ネスチンを発現し, ニューロン, 星状膠細胞, 平滑筋細胞または脂肪細胞に分化する幹細胞である点で一致し, 以下の点において相違する。

(i)本願発明1の幹細胞は哺乳類の不変上部毛包内の皮脂腺のすぐ下にある毛包バルジから休止期細胞周期段階において得られるのに対し, 引用例1にはそのような記載はなく, 記載された幹細胞は皮膚から分離されて得られた細胞である点。
(ii)本願発明1の幹細胞は毛包幹細胞であるのに対し, 引用例1にはそのような記載はない点。
(iii)本願発明1の幹細胞は, FBS, BDNF, PDGFまたはCNTFを含む培地で培養するとニューロン, 星状膠細胞, 平滑筋細胞また脂肪細胞に分化するものであるのに対し, 引用例1においてはこれらの因子を添加して分化させることは, FBSを添加して脂肪細胞に分化すること以外は記載されていない点。

(2)当審の判断

上記相違点(i)?(iii)について検討する。

(i)について, 引用例1において得られたネスチン陽性細胞であるSKPs(skin-derived precursors)は, マウス皮膚を分離して得られた細胞の中からスフェアを形成する細胞として単離された細胞であり, 毛包バルジから休止期細胞周期段階において得たものではない。しかし, 引用例1において皮膚を分離する際に, 毛包を積極的に取り除く, などということは行っておらず, 粘膜など毛包の存在しない皮膚を用いたことが明記されているわけでもないから, 毛包を含む通常の皮膚を用いたと考えるのが自然である。そして, そのような皮膚を用いれば当然に毛包バルジも含まれるものであるから, 毛包バルジ由来の細胞も皮膚から分離した細胞に混入しているものと考えられ, 毛包バルジを含む皮膚から得られた引用例1に記載されたSKPsと本願発明1の細胞は, ネスチン陽性であること, ニューロン, 星状膠細胞, 平滑筋細胞または脂肪細胞に分化する幹細胞であることにおいて性質が一致しており, 細胞の性質において異なる点が示されたわけでもないので, 同一の細胞である蓋然性が高い。
また, 仮に, 引用例1において得られたSKPsが毛包バルジ以外の皮膚組織由来のものであったとしても, ネスチンなどのマーカーの発現や分化能において, 本願明細書の記載を見ても本願発明1の幹細胞とSKPsとの差異は何ら明らかにされていないのであるから, 本願において, 特許に値する新たな幹細胞が提供されたということはできない。
そして, 本願発明1において, 「休止期細胞周期段階において得られる」と記載して取得する時期により細胞を特定しているが, 本願明細書の段落【0013】にも記載されているように, 休止期に主にバルジ領域にネスチン発現細胞が局在し, この時期が採取のために好ましいことから取得のしやすさを考慮して休止期に得るというだけであるから, 上記時期に取得することで他の時期とは異なる細胞を取得できるというものではない。
よって, 本願発明1の幹細胞についての細胞の由来及び取得時期の特定により, 引用例1に記載された細胞と異なる細胞であることを示すとはいえない。

(ii)について, 引用例1に記載の幹細胞が毛包幹細胞であるとの記載はないが, 引用例1に記載された幹細胞と本願発明1の細胞は, ネスチン陽性であること, ニューロン, 星状膠細胞, 平滑筋細胞または脂肪細胞に分化する幹細胞であることにおいて性質が一致しており, 細胞の性質において明らかな相違点は存在せず, 同一の細胞である蓋然性が高い。
なお, 本願発明の細胞について, 本願明細書において, ネスチン-GFP発現細胞の挙動が本願優先日前に既に知られていた毛包幹細胞の挙動と一致することなどから, バルジ領域に存在するネスチン陽性細胞が毛包幹細胞であると結論付けている。一方, 平成23年3月14日付回答書の参考資料1によれば, 本願出願後の知見ではあるが, 毛包幹細胞はバルジ領域ではなくその上の毛包幹細胞領域に分布しており, バルジ領域にはケラチノサイト前駆細胞が存在していること(図1), 毛包幹細胞はケラチン陰性であることが記載されているので, 本願明細書の記載と矛盾している。よって, 本願発明のネスチン陽性細胞が「毛包幹細胞」であるかどうかは不明である点を付言する。

(iii)について, 細胞を分化させる培養条件や分化後の細胞を特定する記載は, 分化する前の細胞の構成に新たな構成を付加するものではないから, 該記載の有無が実質的な相違点とはいえない。また, FBS, BDNF, PDGFまたはCNTFはニューロン, 星状膠細胞, 平滑筋細胞また脂肪細胞への分化に用いられる増殖因子であるから, 引用例1に記載の幹細胞もこれらの因子を添加すれば上記細胞へと分化するものと解される。

(B)本願発明2について
(1)対比及び当審の判断
引用例1には, SKPsとSKPsを分化させて得られたニューロン, 星状膠細胞, 平滑筋細胞または脂肪細胞が記載されている。そして, 上記(A)の欄において述べたように, 引用例1に記載されたSKPsは本願発明2の「請求項1の細胞」と同一の細胞であるから, 引用例1に記載された, SKPsを分化させた後の細胞であるニューロン, 星状膠細胞, 平滑筋細胞または脂肪細胞は, 本願発明2の細胞と何ら相違点はない。
また, 例え, 引用例1に記載されたSKPsが本願発明2の「請求項1の細胞」と同一の細胞ではないとしても, 引用例1に記載された分化後のニューロン, 星状膠細胞, 平滑筋細胞または脂肪細胞自体は本願発明2の細胞と区別できない。
さらに, 本願発明2の細胞は, 天然の組織に存在する細胞や, 天然の組織から分離取得した細胞とも区別をすることができないともいえる。

6.審判請求人の主張について

(A)本願発明1について
請求人は平成20年11月12日付の審判請求書の手続補正書において, 以下のように主張している。

(i)「引用例1の著者は, これらの細胞は, 真皮を起源とする, 新しいタイプの真皮幹細胞であることを示唆しています。しかし, これらの細胞が毛包を起源とするものであることは全く示唆されていません。引用例1記載の幹細胞と本願の幹細胞は同一であると認定されています。しかしながら, 引用例1で同定された幹細胞が, 毛包から単離された本願発明の幹細胞の性質であるネスチン-陽性, ケラチン-陰性であることは引用例1では全く示唆されていません。」

(ii)「さらに, 引用例1の幹細胞と本願発明の幹細胞との分化の性質を比較すると(引用例1の幹細胞の分化の性質を示す引用例1の第779頁の表1と本願発明の幹細胞の分化の性質を示すAmoh et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 5530-5534, 2005(参考資料2)の第5532頁の表1の結果を比較すると), 引用例1と本願発明の幹細胞から生じる分化した細胞のタイプは著しく異なることが読み取れます。例えば, 本願発明の幹細胞は48-68%のニューロンを生じたのに対し, 引用例1の幹細胞は3-7%のニューロンを生じるに過ぎません。他の細胞のタイプも引用例1と本願発明の幹細胞では頻度において大きく異なります。結論として本願発明と引用例1の幹細胞の生物学的性質は大きく異なり, 同一の幹細胞であると言うことはできません。」

(iii)「さらにまた, 毛包のバルジ領域は, 真皮及び表皮には存在しませんから, 本願発明の幹細胞は, 引用例1記載の幹細胞には含まれません。毛包バルジからの本願発明の幹細胞は, 真皮細胞に由来するものではありません。・・・結論として参考資料3-7は, 毛細胞毛包バルジ領域からの幹細胞は引用例1に記載された真皮から回収される幹細胞とは異なることを実証しています。」

また, 平成23年3月14日付の回答書において以下のように主張している。

(iv)「確かに, 細胞の特性だけみれば, 引用例1に記載の幹細胞は本願発明の幹細胞と同じようにみえます。しかし, 引用例1の幹細胞は真皮から得られるのに対して, 本願発明の幹細胞は皮膚の不変上部毛包内の皮脂腺のすぐ下にある表皮内毛包バルジ領域から得られるという, 幹細胞の供給源の違いが重要です。」

(v)「引用例1には, 次のような記載があります。・・・これらの記載から明らかなことは, SKP, すなわち引用例1の皮膚由来の幹細胞は, 真皮からのみ得られ, 表皮からは得られなかったということです。これに対して, 本願発明における幹細胞は, 皮膚の不変上部毛包内の皮脂腺のすぐ下にある表皮内毛包バルジ領域から得られる多分化能幹細胞であることから毛包幹細胞であり, 引用例1に記載されるような真皮由来の幹細胞と明らかに相違します。」

(vi)「原査定のなかで, 審査官殿は, 「引用例1で幹細胞を取得した材料である真皮にも毛包組織が含まれるものである。」と記載していますが, 確かに真皮にも毛包組織はありますが, 本願発明の毛包幹細胞は, 皮膚の不変上部毛包内の皮脂腺のすぐ下にある表皮内毛包バルジ領域に存在するものです。」

(vii)「さらにまた, 審査官殿は, 「文言上『毛包幹細胞』に限定したとしても, これらの幹細胞が物として区別できるとは認められず, 出願人の主張は採用できない。」と主張していますが, 皮膚には, 本願発明の毛包幹細胞だけでなく, 皮膚幹細胞, 神経幹細胞などの幹細胞も存在していると認識されるため, 科学的根拠を伴わないそのようなご主張も学問的に意味をなさないことは明白です。」

上記の主張について検討する。

(i), (iii), (iv), (v), (vi)において, 請求人は, 引用例1のSKPsは毛包のバルジ領域由来であることは記載されていないこと, 引用例1において, SKPsは表皮や座骨神経を培養しても得られず, 真皮を培養した場合にのみ取得できたこと, 真皮とバルジは異なる部位であること, をもって, 引用例1に記載の幹細胞は本願発明1の毛包のバルジ領域由来の細胞とは異なる細胞であることを主張している。
確かに引用例1においては, 真皮を培養した場合にのみ幹細胞を取得できたことが記載されている。しかし, 5.(A)(2)(i)欄において述べたように, 引用例1においてはそもそも皮膚を分離する際に毛包を積極的に取り除くことなどはしていないし, 毛包が表皮, 真皮, 末梢神経の3区画の中でどこに属するものとしているかも不明である。ここで, 毛包バルジが学術的見知から表皮と真皮のどちらに属するかは別として, 毛包の存在位置から考えると, 引用例1で行った実験上は, 表皮, 真皮, 末梢神経の3区画の中では真皮の部分に属していたと考えるのが自然であると考えられる。
そして, 供給源の違いにより, 細胞が発現する蛋白質が異なる, 分化能が異なるなどの細胞自体の性質に違いが生じたことは示されておらず, 記載されている細胞自体の性質において, 明らかに相違しているものはないので, 毛包バルジから得たとの由来の違いによって, 引用例1に記載された細胞と細胞自体の構成が異なることは確認できない。
また, さらに(i)において, 「引用例1で同定された幹細胞が, 毛包から単離された本願発明の幹細胞の性質であるネスチン-陽性, ケラチン-陰性であることは引用例1では全く示唆されていません。」と主張しているが, 本願の請求項に係る発明が「ケラチン陰性の幹細胞」に係る発明でないから, そもそも参酌し得ない主張である。また, 明細書を参照しても, 分離したネスチン陽性の幹細胞がケラチン陰性であるとは記載されていない。逆に, 本願明細書の段落【0042】には, ケラチンが毛包幹細胞のマーカーになり得るものとして記載され, その発現部位がネスチンの発現部位と一致することを, 毛包バルジのネスチン-GFP発現細胞が毛包幹細胞であることの根拠として挙げており, 請求人の主張は明細書の記載と矛盾するものである。

(ii)について, 細胞の分化の方向性や分化後の細胞の出現頻度は培養条件に大きく依存するものであり, 独立の実験系であって異なる培養条件により得られた結果に示されたニューロンへの分化頻度が異なるからといって, それぞれの培養の出発材料となった幹細胞が質的に相違するものであったことの証明にはならない。しかも, このような結果は本願明細書には記載されていないし, 上記のように, 本願明細書には本願発明1の毛包幹細胞がケラチンを発現していることを伺わせる記載があるから, 引用している参考資料2の細胞(ネスチン陽性, ケラチン陰性)と本願発明1の細胞とが同じ細胞であるかも不明であり, 示された結果は参酌できない。

(vii)について, 請求人が主張するように, 皮膚には, 皮膚幹細胞, 神経幹細胞などの幹細胞も存在し, 引用例1に記載の幹細胞が毛包幹細胞であるとの記載もない。しかし, 本願発明1の「毛包幹細胞」についても, 実際に示されたのは, ネスチンを発現すること, ニューロン, 星状膠細胞, 平滑筋細胞または脂肪細胞に分化したことのみであり, この点については両者の性質は一致している。そして, これらの性質以外に引用例1に記載された細胞と区別できる「毛包幹細胞」としての特性が示されたわけでもないから, 両者が同じ細胞である蓋然性が高いとの判断を覆すものではない。

以上の通りであるから, 請求人の主張はいずれも採用することができない。

(B)本願発明2について
引用例1に記載された分化後の細胞と本願発明2の細胞との相違について, 原審の拒絶理由通知及び拒絶査定において, それらが区別できない点が指摘されているにも拘わらず, 請求人はこの点について, 何ら実質的な反論を行っていない。

7.結論

したがって, 本願発明1及び2は, 引用例1に記載された発明である。

8.むすび

以上のとおりであるから, 請求項1及び2に係る発明は, 特許法第29条第1項第3号に該当し, 特許を受けることができないので, 他の請求項に係る発明について検討するまでもなく, 本願は拒絶すべきものである。
 
審理終結日 2011-05-30 
結審通知日 2011-05-31 
審決日 2011-06-13 
出願番号 特願2007-101233(P2007-101233)
審決分類 P 1 8・ 56- WZ (C12N)
P 1 8・ 113- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 正展  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 平田 和男
六笠 紀子
発明の名称 ネスチンを発現する毛包幹細胞  
代理人 藤田 節  
代理人 大屋 憲一  
代理人 石井 貞次  
代理人 平木 祐輔  
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