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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1245796
審判番号 不服2008-30146  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-27 
確定日 2011-10-26 
事件の表示 特願2004- 48103「連結セラミック基板」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月 8日出願公開、特開2005-243704〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年 2月24日の出願であって、平成20年10月24日付けで拒絶査定され、これを不服として平成20年11月27日付けで拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたが、当審により平成23年 2月16日付けで拒絶理由が通知され、平成23年 4月15日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

本願の請求項1に係る発明は、平成23年 4月15日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
(なお、下線は、補正箇所を示している。)
「【請求項1】
セラミック誘電体層と導体層とを交互に積層してなる複数のセラミック基板が一体形成された製品部と、該製品部を取り囲む枠状の捨て代部とを備えた連結セラミック基板において、
前記捨て代部には、当該連結セラミック基板の周側面部に端面電極が設けられ、
当該連結セラミック基板の外周縁から少なくとも0.1mm以上隔たって、ダミー導体が、前記製品部の外周に沿う面導体パターンの形で設けられ、
前記ダミー導体は、前記セラミック誘電体層の層間に介装されるとともに前記端面電極と前記製品部の主表面に配置されメッキ膜が形成された表面導体および主裏面に配置されメッキ膜が形成された裏面導体とに通電し、前記捨て代部のダミー導体の被覆面積率を80%以上とする内層のダミー導体と、
前記捨て代部の主表面および主裏面に配置され前記内層のダミー導体と前記製品部の導体とは絶縁されたメッキ膜が形成されていない別のダミー導体と
からなることを特徴とする連結セラミック基板。」


2.当審拒絶理由の概要と引用刊行物及びその摘記事項
当審による平成23年 2月16日付けの拒絶理由通知における拒絶の理由1は、「本願請求項1に係る発明は、刊行物1、刊行物2に記載された発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり、上記拒絶理由通知において引用した本願の出願日前に国内において頒布された下記の刊行物1?3には、それぞれ図面と共に次の事項が記載されている。

(1)上記当審拒絶理由通知で引用した刊行物1である特開2003-303915号公報(以下、「刊行物1」という。)の摘記事項
(下線は当審で引いたもの。)
(刊1ア)「【0013】
【発明の実施の形態】本発明の多数個取り配線基板について・・・図中、1はセラミック母基板、2は配線基板領域である。
【0014】セラミック母基板1は、・・・セラミックス材料から成る二層の絶縁層1a、1bが積層されて成る略四角形の平板であり、その中央部に略四角形状の多数の配線基板領域2が境界線3で区切られて縦横の並びに一体的に配列形成されており、各配線基板領域2の境界線3の交点上には、円形の貫通孔4が形成されている。また、その外周部には枠状の捨代領域5が形成されている。
【0015】このようなセラミック母基板1は、セラミックグリーンシート積層法によって製作され、具体的には、絶縁層1a、1b用のセラミックグリーンシートをそれぞれ準備するとともに、・・・積層し、それを高温で焼成することによって製作される。
【0016】セラミック母基板1の中央部に配列形成された各配線基板領域2は、それぞれが電子装置用の小型の配線基板となる領域であり、それぞれの上面中央部に電子部品を収容するための略四角形の凹部2aを有しており、凹部2aの底面から貫通孔4に接する各外周角部にかけては電子部品の電極が電気的に接続される四つのメタライズ配線導体6が、凹部2aを取り囲む上面には凹部2aを気密に封止するための金属蓋体が接合される封止用メタライズ層7が被着形成されている。また、各配線基板領域2を区切る境界線3上に形成された貫通孔4の内壁から各配線基板領域2の下面外周角部にかけては、その貫通孔4に接する各配線基板領域2の外周角部に導出したメタライズ配線導体6に電気的に接続された外部接続用メタライズ層8が貫通孔4の全周にわたり被着形成されている。なお、これらのメタライズ配線導体6や封止用メタライズ層7や外部接続用メタライズ層8は、タングステンやモリブデン、銅、銀等の金属粉末メタライズから形成されている。
【0017】・・・絶縁層1a、1b用のセラミックグリーンシートの上面や下面あるいは貫通孔4用の打ち抜き孔の側面にメタライズ配線導体6や封止用メタライズ層7や外部接続用メタライズ層8用のメタライズペーストを所定のパターンに印刷塗布しておくことによって形成される。
【0018】そして、各配線基板領域2は、その凹部2a内に半導体素子や水晶振動子等の電子部品が収容されると・・・セラミック母基板1を各配線基板領域2の境界線3に沿って分割するには、セラミック母基板1の上下面の各配線基板領域2の境界線3上に分割溝を形成しておき、その分割溝に沿って撓折する方法や、セラミック母基板1を各配線基板領域2の境界線3に沿ってダイアモンドカッターやレーザーカッター等により切断する方法が採用される。
【0019】なお、この多数個取り配線基板においては、各配線基板領域2の各メタライズ配線導体6および封止用メタライズ層7および貫通孔4の内壁から各配線基板領域の下面外周角部に被着された外部接続用メタライズ層8の表面には、・・・通常であれば、1?10μm程度の厚みのニッケルめっき層と0.1?3μm程度の厚みの金めっき層とが電解めっき法により順次被着されている。
【0020】また、セラミック母基板1の外周部に形成された捨て代領域5は、・・・その絶縁層1aと1bとの間には、各貫通孔4の内壁に被着された外部接続用メタライズ層8のうちの最外周に位置するものに電気的に接続された枠状のめっき導通用メタライズ層9が配設されており、さらにその外周側面にはめっき導通用メタライズ層9に電気的に接続されためっき導通用メタライズ端子10が被着形成されている。これらのめっき導通用メタライズ層9およびめっき導通用メタライズ端子10は、各配線基板領域2の各メタライズ配線導体6、封止用メタライズ層7および外部接続用メタライズ層8に電解めっきのための電荷を供給するための導電路として機能し、めっき導通用メタライズ端子10からめっき導通用メタライズ層9を介して、各メタライズ配線導体6および封止用メタライズ層7および外部接続用メタライズ層8に電解めっきのための電荷を供給して電解めっきを施すことにより、各メタライズ配線導体6および封止用メタライズ層7および外部接続用メタライズ層8の表面にニッケルめっき層および金めっき層が順次被着される。このようなめっき導通用メタライズ層9やめっき導通用メタライズ端子10は、タングステンやモリブデン、銅、銀等の金属粉末メタライズから形成されており、絶縁層1a、1b用のセラミックグリーンシートの上面や下面、外周側面にめっき導通用メタライズ層9やめっき導通用メタライズ端子10用のメタライズペーストを所定のパターンに印刷塗布しておくことによって形成される。」
(刊1イ)「【0023】なお、本発明は上述の実施の形態の一例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば、種々の変更は可能であり、例えば上述の実施の形態の一例では、セラミック母基板1は2層の絶縁層1a、1bを積層して形成されていたが、セラミック母基板1は3層以上の絶縁層を積層することにより形成されていてもよい。」
(刊1ウ)図1から、セラミック母基板1の捨て代領域5の外周側面にめっき導通用メタライズ端子10を有し、当該セラミック母基板1の外周部に形成された捨て代領域5において、外周縁から所定の距離を隔てて多数の配線基板領域2全体の外周に沿った枠状で幅広の帯状に形成されためっき導通用メタライズ層9と前記めっき導通用メタライズ端子10とが接続されていることが看取できる。
(刊1エ)図2から、捨て代領域5において、めっき導通用メタライズ層9が2層の絶縁層1a、1bに挟まれた状態で形成されていることが看取できるとともに、セラミック母基板1の各配線基板領域2の上面に封止用メタライズ層7が形成され、絶縁層1a、1bの間にメタライズ配線導体6が形成され、更に、セラミック母基板1の下面に外部接続用メタライズ層8が形成されていること、即ち、外部接続用メタライズ層8、絶縁層1a、メタライズ配線導体6、絶縁層1b及び封止用メタライズ層7がこの順番に積層されていることが看取できる。また、メタライズ配線導体6とめっき導通用メタライズ層9とは同一の層に形成されていることも看取できる。

(2)上記当審拒絶理由通知で引用した刊行物2である特開平9-260844号公報(以下、「刊行物2」という。)の摘記事項
(下線は当審で引いたもの。)
(刊2ア)「【請求項1】 導体パターンを印刷したグリーンシートを少なくとも1枚含む複数枚のグリーンシートを積層して焼成し、その焼成体からセラミック多層基板を形成する部分の外側の不要部分を切除して所定形状のセラミック多層基板を製造する方法において、
前記複数枚のグリーンシートのうちの少なくとも1枚には、前記セラミック多層基板を形成する部分の外側の不要部分に、前記導体パターンの印刷に用いるのと同じ導体ペーストを用いてダミーパターンを印刷したことを特徴とするセラミック多層基板の製造方法。
【請求項2】 前記ダミーパターンの印刷密度を前記導体パターンの印刷密度とほぼ同一にしたことを特徴とする請求項1に記載のセラミック多層基板の製造方法。」
(刊2イ)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、導体パターン13とセラミックのグリーンシート11との焼成収縮率の差が大きくなると、焼成基板の変形や反りが大きくなるため、導体パターン13とグリーンシート11との焼成収縮率の差をできるだけ小さくするようにしているが、焼成途中の昇温過程の収縮挙動まで一致させることは困難である。このため、導体パターン13が印刷された製品部分12と、その外側の導体パターンの無い不要部分とでは、焼成途中の昇温過程の収縮挙動が異なり、これが、焼成基板の変形や反りを発生させる原因となっている。しかも、所定枚数のグリーンシート11を積層・圧着する際に、製品部分12と、その外側の不要部分とでは、導体パターン13の積層数分の厚み差が生じて、圧着時の加圧が不均一となり、これも、焼成基板の変形や反りを発生させる原因となっている。」
(刊2ウ)「【0006】・・・ここで、ダミーパターンの印刷密度とは、製品部分の外側の不要部分の面積に対するダミーパターンの面積の割合であり、導体パターンの印刷密度とは、製品部分の面積に対する導体パターンの面積の割合である。請求項2のように、ダミーパターンの印刷密度を導体パターンの印刷密度とほぼ同一にすれば、積層・圧着時及び焼成時における製品部分と、その外側の不要部分の挙動がほぼ同じになり、焼成時の変形や反りがより効果的に抑えられる。」
(刊2エ)「【0011】このとき、積層する複数枚のグリーンシート21のうちの少なくとも1枚には、セラミック多層基板を形成する部分(以下「製品部分」という)24の外側の不要部分に、該製品部分24の導体パターン23の印刷に用いるのと同じ導体ペーストを用いてダミーパターン25をスクリーン印刷する。
【0012】ここで、ダミーパターン25の形状は、例えば図1乃至図3に示すような種々の形状が考えられる。図1に示す実施例1のダミーパターン25は、各製品部分24の周囲を取り囲む帯状のベタパターンであり、導体パターン23が印刷されている各層のグリーンシート21に、同じ形状のベタパターンのダミーパターン25を印刷している。」
(刊2オ)「【0022】上記実施例1?3では、導体パターン23が印刷されている各層のグリーンシート21に、同一形状・同一印刷密度のダミーパターン25を印刷することで、印刷パターンの設計・製造を容易にしているが、各層毎に導体パターン23の印刷密度に合わせてダミーパターン25の印刷密度を変化させ、各層毎にダミーパターン25と導体パターン23の印刷密度をほぼ一致させるようにしても良く、この場合でも上記実施例2と同様の効果が得られる。要は、全層の導体パターン23の印刷密度の合計値と全層のダミーパターン25の印刷密度の合計値とをほぼ一致させれば、上記実施例2と同様の効果が得られ、各層間のダミーパターン25の印刷密度の一致・不一致は問わない。
【0023】但し、本発明は、全層の導体パターン23の印刷密度の合計値を全層のダミーパターン25の印刷密度の合計値にほぼ一致させる場合のみに限定されず、少なくとも1枚のグリーンシート21の製品部分24の外側の不要部分に、導体パターン23の印刷に用いるのと同じ導体ペーストを用いてダミーパターン25を印刷すれば良く、この場合でも、従来(図5)よりも焼成時の製品の変形や反りを少なくすることができ、本発明の所期の目的を達成することができる。」

(3)上記当審拒絶理由通知で引用した刊行物3である特開2002-33555号公報(以下、「刊行物3」という。)の摘記事項
(下線は当審で引いたもの。)
(刊3ア)「【0009】本発明の多数個取りセラミック基板によれば、捨て代領域の下面または上下両面に前記複数の基板領域を実質的に取り囲むダミーのメタライズ層が被着されていることから、この多数個取りセラミック配線基板を製作する際に、セラミックグリーンシートとメタライズペーストとの焼成収縮率の相違により反りが発生しようとしても、その反りはセラミック母基板中央部の各基板領域上面に被着されたメタライズペーストの焼成収縮と、捨て代領域の下面または上下両面に被着されたメタライズペーストの焼成収縮とにより互いに大きく打ち消し合い、その結果、薄型であるにも拘わらずセラミック母基板の反りが200μm以下の平坦なものとなる。」
(刊3イ)「【0012】・・・セラミック母基板1の・・・その外周部には中央部の基板領域2を取り囲む幅が3?10mm程度の四角枠状の捨て代領域3が形成されている。・・・
【0016】そして、この捨て代領域3の下面には、厚みが10?20μm程度で幅が1?10mm程度の枠状のダミーのメタライズ層5が被着されている。ダミーのメタライズ層5は、セラミック母基板1用のセラミックグリーンシートとメタライズ層4用のメタライズペーストとの焼成収縮率の差に起因してセラミック母基板1が例えば200μmを超えて大きく反ることを防止するための反り抑制用のパターンとして機能し、メタライズ層4と実質的に同一組成・同一収縮率のメタライズから成る。」
(刊3ウ)図3において、捨て代領域3の外周端面及び内周端面から僅かの距離を隔てて、捨て代領域3の幅とほぼ同程度の幅のダミーのメタライズ層5が形成されていることが看取できる。


3.当審の判断
(1)刊行物1に記載の発明
上記摘記事項(刊1ア)?(刊1エ)を整理すると、刊行物1には、
「セラミックス材料から成る二層の絶縁層1a、1bが積層焼成されて成るセラミック母基板1において外部接続用メタライズ層8、絶縁層1a、メタライズ配線導体6、絶縁層1b及び封止用メタライズ層7がこの順番に積層され、また、メタライズ配線導体6とめっき導通用メタライズ層9とが同一の層に形成されており、
当該セラミック母基板1の中央部にそれぞれが電子部品用の小型の配線基板となる略四角形状の多数の配線基板領域2が形成され、その外周部には枠状の捨て代領域5が形成されている多数個取り配線基板において、
前記セラミック母基板1の捨て代領域5の外周側面にめっき導通用メタライズ端子10を設け、
当該セラミック母基板1の外周部に形成された捨て代領域5において、外周縁から所定の距離を隔てて多数の配線基板領域2全体の外周に沿った枠状幅広の帯状に形成されためっき導通用メタライズ層9を設け、
前記めっき導通用メタライズ層9は、捨て代領域5において、2層の絶縁層1a、1bに挟まれた状態で形成されるとともに、
前記めっき導通用メタライズ層9およびめっき導通用メタライズ端子10は、各配線基板領域2の各メタライズ配線導体6、封止用メタライズ層7および外部接続用メタライズ層8に電解めっきのための電荷を供給するための導電路として機能し、めっき導通用メタライズ端子10からめっき導通用メタライズ層9を介して、各メタライズ配線導体6および封止用メタライズ層7および外部接続用メタライズ層8に電解めっきのための電荷を供給して電解めっきを施す、
多数個取り配線基板」
に関する発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。

(2)対比
本願発明と刊行物1発明とを対比する。
ア.刊行物1発明の「セラミックス材料から成る二層の絶縁層1a、1b」は、本願発明の「セラミック誘電体層」に相当する。

イ.刊行物1発明のセラミック母基板1の中央部に形成された「それぞれが電子部品用の小型の配線基板となる略四角形状の多数の配線基板領域2」は、導体素子や水晶振動子等の電子部品を搭載後、それぞれの配線基板領域2毎に分割されるものであるから、未分割の「多数の配線基板領域2」全体が、本願発明の「製品部」に相当する。

ウ.本願発明の「セラミック誘電体層と導体層とを交互に積層してなる複数のセラミック基板が一体形成され」との構成を実施するための具体的な構成として、本願明細書には、「一層分のセラミックグリーンシート25にメタライズパターン11,19,19を印刷したのち、同様の手順にて、他の層を構成するべきセラミックグリーンシートにメタライズパターンを印刷する。そして、各セラミックグリーンシートを積層することにより、セラミックグリーン積層体を得る(積層体作成工程)。このようにして作製したセラミックグリーン積層体を焼成することにより、連続セラミック配線板1を得ることができる(焼成工程)。」(【0028】)と説明されている。
一方、刊行物1には、セラミック母基板1は、セラミックグリーンシート積層法によって製作され(【0015】)、セラミックグリーンシートの上面や下面あるいは貫通孔4用の打ち抜き孔の側面にメタライズ配線導体6や封止用メタライズ層7や外部接続用メタライズ層8用のメタライズペーストを所定のパターンに印刷塗布し(【0017】)、セラミックグリーンシートの上面や下面、外周側面にめっき導通用メタライズ層9やめっき導通用メタライズ端子10用のメタライズペーストを所定のパターンに印刷塗布し(【0020】)、焼成することにより、形成することが記載されており、その結果として、外部接続用メタライズ層8、絶縁層1a、メタライズ配線導体6、絶縁層1b及び封止用メタライズ層7がこの順番に積層されている。
加えて、刊行物1発明における、メタライズ配線導体6、封止用メタライズ層7及び外部接続用メタライズ層8は、何れもめっき導通用メタライズ層9を電解メッキの導電路として電荷が供給されるめっき面となるものであるから、いずれも導体であり、本願発明においても、各導体層の用途・機能についての特定はなされておらず、単に導体層とされているのみである。
また、刊行物1発明のセラミック母基板1の中央部のその後製品となる多数の配線基板領域2は、未分割状態で形成即ち一体形成されたものである。
したがって、刊行物1発明の「セラミックス材料から成る二層の絶縁層1a、1bが積層焼成されて成るセラミック母基板1において外部接続用メタライズ層8、絶縁層1a、メタライズ配線導体6、絶縁層1b及び封止用メタライズ層7がこの順番に積層され、また、メタライズ配線導体6とめっき導通用メタライズ層9とが同一の層に形成されており、当該セラミック母基板1の中央部にそれぞれが電子部品用の小型の配線基板となる略四角形状の多数の配線基板領域2」は、本願発明の「セラミック誘電体層と導体層とを交互に積層してなる複数のセラミック基板が一体形成された製品部」に相当する。

エ.刊行物1発明の「その外周部には枠状の捨て代領域5が形成され」は、セラミック母基板1の中央部の略四角形状の多数の配線基板領域2の外周部に形成されているものであるから、本願発明の「製品部を取り囲む枠状の捨て代部」に相当する。

オ.本願明細書【0001】の「連結セラミック配線基板とは、多数個取りセラミック配線基板として作製された未分割状態のセラミック配線基板群のことである。」との定義を参酌すれば、刊行物1発明の「多数個取り配線基板」は、セラミックからなる多数の配線基板領域2が未分割状態のものであるから、本願発明の「連結セラミック基板」に相当する。

カ.刊行物1発明の「セラミック母基板1の捨て代領域5の外周側面にめっき導通用メタライズ端子10を設け」は、めっき導通用メタライズ層9と共に電解めっきのための電荷を供給するための導電路として機能するものであるから、本願発明の「捨て代部には、当該連結セラミック基板の周側面部に端面電極が設けられ」に相当する。

キ.刊行物1発明において、配線基板領域2毎に分割される際に、捨て代領域5は製品としては不要のものとなるものであるから、当該捨て代領域5に形成されためっき導通用メタライズ層9は、ダミーの導体層であり、また、めっき導通用メタライズ層9は、多数の配線基板領域2全体の外周に沿った枠状幅広の帯状に形成されていることから、本願発明における「製品部の外周に沿う面導体パターンの形で設けられ」ている事に相当する。
したがって、刊行物1発明の「当該セラミック母基板1の外周部に形成された捨て代領域5において、外周縁から所定の距離を隔てて多数の配線基板領域2全体の外周に沿った枠状幅広の帯状に形成されためっき導通用メタライズ層9を設け、」は、本願発明の「連結セラミック基板の外周縁から隔たって、ダミー導体が、前記製品部の外周に沿う面導体パターンの形で設けられ」に相当する。

ク.刊行物1発明において、「めっき導通用メタライズ層9は、捨て代領域5において、2層の絶縁層1a、1bに挟まれた状態で形成される」は、本願発明の「前記ダミー導体は、前記セラミック誘電体層の層間に介装される」に相当する。

ケ.刊行物1発明の「封止用メタライズ層7」は、各配線基板領域2の絶縁層1bの上側表面に形成され、めっき導通用メタライズ端子10及びめっき導通用メタライズ層9を介して、電解めっきのための電荷が供給されて電解めっきが施されるのであるから、本願発明の「製品部の主表面に配置されメッキ膜が形成された表面導体」に相当する。
また、刊行物1発明の「外部接続用メタライズ層8」は、各配線基板領域2の絶縁層1aの下側表面に形成され、めっき導通用メタライズ端子10及びめっき導通用メタライズ層9を介して、電解めっきのための電荷が供給されて電解めっきが施されるのであるから、本願発明の「主裏面に配置されメッキ膜が形成された裏面導体」に相当する。

そうすると、両者は、
「セラミック誘電体層と導体層とを交互に積層してなる複数のセラミック基板が一体形成された製品部と、該製品部を取り囲む枠状の捨て代部とを備えた連結セラミック基板において、
前記捨て代部には、当該連結セラミック基板の周側面部に端面電極が設けられ、
当該連結セラミック基板の外周縁から隔たって、ダミー導体が、前記製品部の外周に沿う面導体パターンの形で設けられ、
前記ダミー導体は、前記セラミック誘電体層の層間に介装されるとともに前記端面電極と前記製品部の主表面に配置されメッキ膜が形成された表面導体および主裏面に配置されメッキ膜が形成された裏面導体とに通電する内層のダミー導体と、
からなる連結セラミック基板。」
の点で一致するものの、次の点で相違する。

相違点1:本願発明では、ダミー導体を「当該連結セラミック基板の外周縁から少なくとも0.1mm以上隔たって」設けているのに対して、刊行物1発明では、具体的な距離が特定されていない点で相違する。

相違点2:内層のダミー導体について、本願発明では、「前記捨て代部のダミー導体の被覆面積率を80%以上」としているのに対して、刊行物1発明には、そのようなことが特定されていない点で相違する。

相違点3:本願発明では、「前記捨て代部の主表面および主裏面に配置され前記内層のダミー導体と前記製品部の導体とは絶縁されたメッキ膜が形成されていない別のダミー導体」を有しているのに対して、刊行物1発明には、そのような別のダミー導体を有していない点で相違する。

(3)相違点1?3についての判断
ア.相違点1について
刊行物1発明は、セラミックからなる2層の絶縁層1a、1bに挟まれた状態で、多数個取り配線基板の外周縁から隔ててめっき導通用メタライズ層9が形成されている。
そして、セラミック母基板1自体は、セラミックグリーンシート積層法により、セラミックからなる2層の絶縁層1a、1bを焼成して形成するものであるから、焼成に際しては、セラミック以外の導体層を介するよりもセラミックグリーンシート同士を直接接触させて、焼成する方がより強固に一体化することは明らかである。
また、捨て代領域5において、焼成により一体化されていなければ、中央部の配線基板領域にも影響を与えるであろうことは自明の事項である。
一方、本願発明の「当該連結セラミック基板の外周縁から少なくとも0.1mm以上隔たって」との構成の数値限定の設定根拠については、本願の明細書に、
「【0010】また、ダミー導体が当該連結セラミック配線基板の外周縁から少なくとも0.1mm隔たって設けられることにより、外周縁から0.1mm幅以上の縁部が層同士の一体化のために確保されていることが望ましい。すなわち、連結セラミック配線基板の外周縁部において、焼成による層同士の一体化を十分に確保するには、この程度の幅の縁部が必要である。・・・」
と説明されているように、臨界的或いは理論的・実験的な根拠に基づくものではなく単に、「焼成による層同士の一体化を十分に確保するには、この程度の幅の縁部が必要である」との説明がなされているにすぎない。
また、「焼成による層同士の一体化を十分確保する」としつつも、セラミック誘電体の材質、連結セラミック基板の大きさ(面積)、厚み、捨て代部の幅、焼結方法等、強度に関係する他の因子との関係についても特段の説明もなされていない。
してみると、刊行物1発明においても、多数個取り配線基板の外周縁とめっき導通用メタライズ層9との間隔を「少なくとも0.1mm」とすることは、当業者が、セラミックからなる絶縁層の材質、多数個取り配線基板の大きさ(面積)、厚み、捨て代領域の幅、焼結方法等に応じて適宜その実施化に際して、設定する設計的事項の範囲のものである。

イ.相違点2について
刊行物2の記載事項(刊2ア)?(刊2ウ)には、「導体パターン13が印刷された製品部分12と、その外側の導体パターンの無い不要部分とでは、焼成途中の昇温過程の収縮挙動が異なり、これが、焼成基板の変形や反りを発生させる原因となっている。」との課題を解決するために、「複数枚のグリーンシートのうちの少なくとも1枚には、前記セラミック多層基板を形成する部分の外側の不要部分に、前記導体パターンの印刷に用いるのと同じ導体ペーストを用いてダミーパターンを印刷し」その際、「前記ダミーパターンの印刷密度を前記導体パターンの印刷密度とほぼ同一に」することにより「積層・圧着時及び焼成時における製品部分と、その外側の不要部分の挙動がほぼ同じになり、焼成時の変形や反りがより効果的に抑えられる。」ことが記載されている。
また、記載事項(刊2オ)には、ダミーパターンは、
「各層のグリーンシート21に、同一形状・同一印刷密度のダミーパターン25を印刷する」こと、「各層毎に導体パターン23の印刷密度に合わせてダミーパターン25の印刷密度を変化させ、各層毎にダミーパターン25と導体パターン23の印刷密度をほぼ一致させるように」すること、「全層の導体パターン23の印刷密度の合計値と全層のダミーパターン25の印刷密度の合計値とをほぼ一致させ」ること、或いは「少なくとも1枚のグリーンシート21の製品部分24の外側の不要部分に、導体パターン23の印刷に用いるのと同じ導体ペーストを用いてダミーパターン25を印刷す」ることで、従来よりも焼成時の製品の変形や反りを少なくすることができることが説明されている。
そして、刊行物1発明も、2層の絶縁層を介して上中下3層の封止用メタライズ層7、メタライズ配線導体6、外部接続用メタライズ層8(以下、この3つのメタライズ層をまとめて「メタライズ層(6,7,8)」と表記する。)を有する配線基板領域2と、めっき導通用メタライズ層9が、2層の絶縁層に挟まれた状態で形成された捨て代領域5とが一体化されたセラミックからなる配線基板であるから、焼成時の製品の変形や反りを少なくすることは、当然有している課題であり、刊行物2に触れた当業者であれば、刊行物1発明の「めっき導通用メタライズ層9」を製品部分である配線基板領域2とその外側の不要部分である捨て代領域5での焼成途中の昇温過程の収縮挙動をほぼ同じにして焼成時の変形や反りを抑えるために、「めっき導通用メタライズ層9」とメタライズ層(6,7,8)の印刷密度を調整する事は適宜想到し得るものである。
一方、本願発明において、「被覆面積率を80%以上」とするその根拠について、
本願明細書には、
「【0010】・・・こうした縁部が大きくなると、ダミー導体の面積が当然に小さくなる。すると、製品部と捨て代部との収縮率差を調整するという本来的な目的を達成しえない恐れが出てくる。したがって、捨て代部におけるダミー導体の形成領域を十分に確保しつつ(たとえば、捨て代部におけるダミー導体の被覆面積率を80%以上とする)、・・・」
「【0019】ダミー導体11が小面積でありすぎると、製品部5と捨て代部7との焼成時における収縮率差を減じるという本来的な目的を達成し得ない可能性がある。たとえば、捨て代部7の内層でのダミー導体11の被覆面積率を80%以上とすることにより、収縮率差をキャンセルする効果を確実に得ることができる。なお、ダミー導体11の体積については、製品部5の内層導体19とダミー導体11との厚さを等しく調整することで、深く考慮せずに済む。」
と説明されているように、臨界的或いは理論的・実験的な根拠に基づくものではなく単に、「製品部と捨て代部との収縮率差を調整するという本来的な目的を達成するために、捨て代部におけるダミー導体の形成領域を十分に確保する」、「捨て代部7の内層でのダミー導体11の被覆面積率を80%以上とすることにより、収縮率差をキャンセルする効果を確実に得る」との説明がなされているにすぎず、「収縮率差を調整する」というものの、捨て代部の主表面及び主裏面に形成された別のダミー導体の大きさ(面積)・厚さ・材質、製品部の構造(誘電体層の各形状・誘電体層間及び上下の導体の材質・厚み・被覆面積率等)、セラミック誘電体の材質、連結セラミック基板の大きさ(面積)、厚み、捨て代部の幅、ダミー導体の材質及び厚さ等、製品部及び捨て代部それぞれの収縮率に影響の与える因子との関係についても特段の説明はなされていない。
してみると、刊行物1発明においても、捨て代領域のめっき導通用メタライズ層9の「被覆面積率を80%以上」とすることは、刊行物2に接した当業者が、配線基板領域2の構造(絶縁層の各形状・絶縁層間及び上下の各メタライズ層(6,7,8)の材質・厚み・被覆面積率等)、絶縁層の層数・材質、多数個取り配線基板の大きさ(面積)・厚み、捨て代領域5の幅、めっき導通用メタライズ層9の配置層(複数層のどの層間)・材質及び厚さ等に応じて適宜その実施化に際して、設定する設計的事項の範囲のものである。

ウ.相違点3について
捨て代部の主表面及び主裏面に配置され内層のダミー導体とは別のダミー導体を備える点について検討してみると、刊行物2の記載事項(刊2オ)には、焼成時の製品の変形や反りを少なくするために設けるダミーパターンの配置方法として、
(ア)「各層のグリーンシート21に、同一形状・同一印刷密度のダミーパターン25を印刷する」こと、即ち、各層に同一形状及び同一印刷密度でダミーパターンを形成する方法、
(イ)「各層毎に導体パターン23の印刷密度に合わせてダミーパターン25の印刷密度を変化させ、各層毎にダミーパターン25と導体パターン23の印刷密度をほぼ一致させるように」すること、即ち、製品部の各層における導体パターンの印刷密度と、同層のダミーパターンの印刷密度を合わせて形成する方法、
(ウ)「全層の導体パターン23の印刷密度の合計値と全層のダミーパターン25の印刷密度の合計値とをほぼ一致させ」ること、即ち各層毎の印刷密度形状にかかわらず、製品部の導体パターン全層合計の印刷密度及びダミパターンの全層合計の印刷密度を一致させる方法、
或いは
(エ)「少なくとも1枚のグリーンシート21の製品部分24の外側の不要部分に、導体パターン23の印刷に用いるのと同じ導体ペーストを用いてダミーパターン25を印刷す」ること、即ち、少なくとも1層にダミーパターンを形成する方法、
が記載されており、製品部の導体パターンの印刷密度等に応じて、適宜の層に適宜ダミーパターンを設ければよいことが示されている。
また、焼成時の製品の変形や反りを少なくするために設けるダミーパターンは、(刊2エ)【0012】及び図1に示されているように「ダミーパターン25は、各製品部分24の周囲を取り囲む帯状のベタパターン」であり、当該ダミーパターンは、製品部の導体パターンから絶縁されていることは明らかである。
加えて、刊行物3のように多数個取りセラミック配線基板を製作する際に、セラミックグリーンシートとメタライズペーストとの焼成収縮率の相違により反りが発生することを防ごうとの課題及びこれを解決させるために、セラミック母基板中央部の各基板領域上面に被着されたメタライズペーストの焼成収縮と、捨て代領域の上下両面に被着されたメタライズペーストの焼成収縮とにより互いに打ち消し合わせることもよく知られた周知事項であり、図1?図5には、基板領域のメタライズ層と捨て代領域のダミーのメタライズ層とは接続されておらず、刊行物3にも両者を導通させることについては説明されていない。

そして、刊行物1発明は、上記「(2)対比 ウ.」で指摘したように、積層したグリーンシートを焼成してセラミック母基板1からなる多数個取りの配線基板であるから、刊行物1発明においても、焼成したセラミック基板からなる配線基板という同一技術分野の刊行物2に記載された発明及び刊行物3に記載された周知技術としての、焼成時における変形或いは反りを防止したいとの課題を有していることは明らかである。

してみると、上記刊行物2記載の発明及び刊行物3記載の周知技術に基づき、多数個取りの配線基板である刊行物1発明においても、焼成時における変形或いは反りを防止させようとして、中央部の多数の配線基板領域2の焼成収縮率と捨て代領域5の焼成収縮率とを互いに打ち合わせるように、配線基板領域2の絶縁層の形状及びメタライズ層(6,7,8)の面積率に応じて、中央部の多数の配線基板領域2のメタライズ層(6,7,8)と絶縁層1a,1bとにより得られる焼成収縮率と、外周部に形成された捨て代領域5のめっき導通用メタライズ層9に加え、更に、他の層に、例えば、絶縁層1aの下面及び絶縁層1bの下面にメタライズ層を設けようとすることは、当業者ならば容易に想到し得た事項である。
また、刊行物2,3に記載されたダミーパターンは、焼成時における変形或いは反りを防止するためのものであり、製品部の導電層との導通の必要がないものであるから、上記のように刊行物2,3に基づいて、刊行物1発明のめっき導通用メタライズ層9に、更に加えてダミーパターンを設ける場合には、特段の必要性がない限り、わざわざ、当該ダミーパターンと中央の多数の配線基板領域2のメタライズ層(6,7,8)並びに捨て代領域5のめっき導通用メタライズ層9及びめっき導通用メタライズ端子10と導通させる手段を形成させることはせず、非導通状態とすることは当然考慮される事項である。
そして、めっき導通用メタライズ層9及びめっき導通用メタライズ端子10と上記捨て代領域5の上下面に設けたダミーパターンとが非導通状態であれば当該ダミーパターンに電解メッキが形成されないことも明らかである。

したがって、刊行物2に記載された発明及び刊行物3に記載された周知事項に接した当業者であれば、刊行物1発明において、相違点3に係る構成である「前記捨て代部の主表面および主裏面に配置され前記内層のダミー導体と前記製品部の導体とは絶縁されたメッキ膜が形成されていない別のダミー導体」との構成を採用することは、当業者ならば容易に想到し得たものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明及び刊行物3に記載された周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-31 
結審通知日 2011-09-01 
審決日 2011-09-13 
出願番号 特願2004-48103(P2004-48103)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮本 靖史  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 川端 修
田村 耕作
発明の名称 連結セラミック基板  
代理人 菅原 正倫  

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