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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04R
管理番号 1245817
審判番号 不服2010-2251  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-02-02 
確定日 2011-10-26 
事件の表示 特願2000-511338「補聴器、耳ピース、耳に挿入する装置、および耳孔の最深部の鋳造物を作る装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 3月18日国際公開、WO99/13686、平成13年10月 2日国内公表、特表2001-517007〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、1998年(平成10年)9月8日の国際出願(パリ条約による優先権主張1997年(平成9年)9月8日、オランダ)であって、平成20年12月2日付けで拒絶理由通知がなされ、これに対し、平成21年6月5日付けで手続補正がなされたが、平成21年9月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年2月2日に審判請求がなされたものである。

第2 本願発明について
1.本願発明の認定
本願の発明は、平成21年6月5日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1から請求項44に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「キャリヤ手段と、密閉体と、マイクロフォンと、電池と、増幅器と、スピーカとを含み、耳の中に設置される補聴器であって、前記キャリヤ手段が前記電池を支持し、前記密閉体がマイクロフォン入り口を有しかつ前記マイクロフォンと前記電池と前記スピーカとを囲みそして前記キャリヤ手段に接続されている補聴器において、前記密閉体は第1と第2の端部を有し、耳に設置されると前記第1の端部が外側に向き、前記第2の端部が耳の中に向き、また前記キャリヤ手段は前記第1と第2の端部の間に位置され、前記キャリヤ手段の密閉体は前記第1の端部に向って直径が減少していて、前記補聴器が耳に設置されると、耳孔の弾力によってこの補聴器が内方に押圧されることを特徴とする補聴器。」

2.引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由で引用された特開昭61-230499号公報(以下、「刊行物」という。)には、図面とともに次のア?イの事項が記載されている。

ア 「第1図にしたがって本発明の実施例による耳道に装着する補聴器10は、下面に平坦部12を備えた半球形のケーシング下部11および該ケーシング下部の球形に適合させたケーシング上部13を有し、該ケーシング上部はその上面に平坦部14を備えている。平坦部12は偏心中空円筒形スリーブ15を有する。このスリーブはその内部に受話器16の音声出口側の端部(第2図参照)を受ける。受話器の中空円筒形音声出口スリーブ17は、補聴器の組立て完了時には、スリーブ15の自由端の開口部18に挿入される。受話器16は高弾性外被に取り付けられている。ケーシング下部11から回し出しできる電池フラップ20が回して閉じた状態でケーシング下部11の1部を形成し、該ケーシング下部の球形に適合させてある。電池フラップは電池21ないしは蓄電池を収容装着し、そのマイナス極がケーシング下部11に固定された第1の接点ばね22に、プラス極が第2の接点ばね23に導電結合されている。接点ばね22、23はケーシング下部11の平坦部12に対して垂直な位置関係にある接点ばね部材24および25の一部であり、該部材は第1の導体板27との機械的および電気的連結を成し、そのため舌片部分24a、24bおよび25aを有し、それらは第1の導体板の対応する孔に適合し、該孔で終る導電路とたとえばはんだ付けによって連結されている。第1の導体板27は補聴器増幅器の電気部品28および29を有し、該増幅器は導線30を介して受話器16と連結されている。」(第2頁左下欄第13行目?第3頁左上欄第3行目)

イ 「ケーシング上部13は平坦部14の領域に偏心位置の音声通過孔42(第2図および第3図参照)を有し、その中にたわみ管(弾性ホース)43の端部が固定されている。このたわみ管の他方の端はマイクロホン45の中空円筒形の音声入口スリーブ44にはめ込んであり、マイクロホンは前述のように弾性的にケーシング上部に固定され、導線46を介して第2の導体板31に連結されている。ケーシング上部13の軸方向に位置する孔47(第3図も参照)は増幅度調節器32の調節部材35を自由に通すのに、そして2つの偏心孔48、49はトリマ抵抗33の調節部材36を自由に通すのに用いられる。」(第3頁左上欄第15行目?同頁右上欄第8行目)

以上の記載から、刊行物には以下の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されている。

「電池フラップ20、ケーシング上部13及びケーシング下部11、マイクロホン45、電池21、補聴器増幅器の電気部品28及び29、受話器16を含み、耳道に装着される補聴器であって、ケーシング下部11から回し出しできる電池フラップ20により電池21ないしは蓄電池を収容装着し、ケーシング上部13は音声通過孔42を有し、かつケーシング上部13及びケーシング下部11はマイクロホン45と電池21と受話器16とを囲み、そしてケーシング下部11に電池フラップ20が取り付けられている補聴器において、ケーシング上部13は半球形のケーシング下部11の球形に適合させて形成されており、ケーシング上部13はその上面に平坦部14を、半球形のケーシング下部11はその下面に平坦部12をそれぞれ有することを特徴とする補聴器。」

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
刊行物発明の「電池フラップ20」、「ケーシング上部13及びケーシング下部11」、「マイクロホン45」、「電池21」、「補聴器増幅器の電気部品28および29」、「受話器16」は、本願発明の「キャリヤ手段」、「密閉体」、「マイクロフォン」、「電池」、「増幅器」、「スピーカ」にそれぞれ相当する。また、刊行物発明の「耳道に装着する補聴器10」は、「ケーシング下部11」及び「ケーシング上部13」により球形に形成されて、耳の中である耳道に装着されるのであるから、本願発明の補聴器のように「耳の中に設置される」ものである。

刊行物発明において、「電池フラップは電池21ないしは蓄電池を収容装着」しており、この構成は本願発明の「前記キャリヤ手段が前記電池を支持し」に相当するものである。
加えて、本願発明の「密閉体」の一部分にあたる「ケーシング上部13」が有する「音声通過孔42」は、本願発明の「マイクロフォン入り口」に対応し、刊行物発明の「マイクロホン45」、「電池21」、「受話器16」は、いずれも本願発明の「密閉体」にあたる「ケーシング下部11」及び「ケーシング上部13」により囲まれるものである。また、「電池フラップ」は本願発明の「密閉体」の一部分にあたる「ケーシング下部11」に取り付けられているのであるから、刊行物発明の「ケーシング下部11」及び「ケーシング上部13」は、「マイクロフォン入り口を有しかつ前記マイクロフォンと前記電池と前記スピーカとを囲みそして前記キャリヤ手段に接続されている」点で本願発明の「密閉体」と一致するものである。

刊行物発明の「ケーシング上部13」の上面に設けられた「平坦部14」は「音声通過孔42」を有しているから、刊行物発明の「平坦部14」は、音声の入力側に位置するものであって、刊行物発明の補聴器を「耳道に装着」すれば、該「平坦部14」は耳道の外側を向く方の端部であるといえる。
また、刊行物発明の「ケーシング下部11」の下面に設けられた「平坦部12」は、「受話器16の音声出口側の端部」を受ける「偏心中空円筒形スリーブ15」を有しているから、刊行物発明の「平坦部12」は、音声の出力側に位置するものであって、刊行物発明の補聴器を「耳道に装着」すれば、該「平坦部12」は耳の中を向く方の端部であるといえる。
それゆえ、刊行物発明の「平坦部14」、「平坦部12」は、本願発明の「第1の端部」、「第2の端部」にそれぞれ相当する。また、刊行物発明の「前記電池フラップ20」は「平坦部14」と「平坦部12」の間に位置するから、「前記キャリヤ手段は前記第1と第2の端部の間に位置され」る構成についても本願発明と一致する。

また、刊行物発明において、「ケーシング下部11」及び「ケーシング上部13」は、連結すると全体として球形の形状をなしているから、「ケーシング下部11」及び「ケーシング上部13」からなる密閉体は、「平坦部14」に向かって直径が減少しているといえる。

したがって、本願発明と刊行物発明は、以下の点で一致し、以下の相違点を有する。

[一致点]
キャリヤ手段と、密閉体と、マイクロフォンと、電池と、増幅器と、スピーカとを含み、耳の中に設置される補聴器であって、
前記キャリヤ手段が前記電池を支持し、
前記密閉体がマイクロフォン入り口を有しかつ前記マイクロフォンと前記電池と前記スピーカとを囲みそして前記キャリヤ手段に接続されている補聴器において、
前記密閉体は第1と第2の端部を有し、耳に設置されると前記第1の端部が外側に向き、前記第2の端部が耳の中に向き、また前記キャリヤ手段は前記第1と第2の端部の間に位置され、
前記キャリヤ手段の密閉体は前記第1の端部に向って直径が減少していることを特徴とする補聴器。

[相違点1]
本願発明の「補聴器が耳に設置されると、耳孔の弾力によってこの補聴器が内方に押圧される」ことが、引用発明では明らかではない点。

4.相違点に対する判断
[相違点1について]
外耳道内に挿入して使用される挿耳形の補聴器において、補聴器の形状を耳の外側に面した第1の端部に向かって径が小さくなるように形成することにより、耳の外側に向かって径が小さくなる外耳道にフィットさせることは周知技術であり、例えば原査定で周知技術として挙げられた特開平5-227599号公報(特に図1)や、原査定の拒絶の理由で引用された特開平6-225396号公報(特に段落【0013】、【0015】及び図3)に示されている。
そのため、刊行物発明において、耳に挿入する補聴器の形状として、上記周知技術のように耳の外側に向かって径が小さくなる外耳道にフィットする形状とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、外耳道内の壁が弾力を有するものであって、補聴器の挿入時に該補聴器の径の大きさに応じて外耳道の孔が弾力的に広がることを鑑みれば、本願発明の「補聴器が耳に設置されると、耳孔の弾力によってこの補聴器が内方に押圧される」という事項は、上記の周知の補聴器のように、耳の外側に向かって径が小さくなる外耳道にフィットする形状とすることにより、当然に生じる結果にすぎない。

したがって、本願発明は、刊行物発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


なお、本願発明の補聴器が、本願明細書の段落【0015】及び図3に記載のように、「第1の端11′」を有する「密閉体11」と「第2の端10′」を有する「密閉体10」の2つの密閉体を有するものであって、本願発明の「前記キャリヤ手段の密閉体」が、「前記電池を支持」する「キャリヤ手段」と接続される「密閉体」を意味するものであると仮に認定した場合について、以下に補足する。

この場合、本願発明の「キャリヤ手段の密閉体」は「第1の端部に向って直径が減少して」いる方の「密閉体」であって、耳に設置されると外側に位置する方の「密閉体」に「キャリヤ手段」が接続されているものであるのに対して、刊行物発明の「電池フラップ」は耳の中側に位置する方の「ケーシング下部11」に接続されている点で、相違する(以下、この相違を「相違点2」という。)。

しかしながら、刊行物発明の補聴器においても、「密閉体」が「ケーシング下部11」と「ケーシング上部13」の2つの部分からなるものである。
また、耳の中に設置される補聴器において、補聴器の密閉体を耳の外側と中側の2つの部分によって構成し、そのうち耳の外側に位置する密閉体に電池の収納部分を設ける技術に関しては周知技術である。例えば、原査定の拒絶の理由で引用された実願平3-68988号(実開平5-21599号)のCD-ROMの図1には、イアシェルの一部または全体を外耳道に挿入して用いられる挿耳型の補聴器において、外耳道と反対側に位置し、外部からの音を集音するマイクロフォンが設けられた「操作部4」(刊行物発明の「ケーシング上部13」に相当)の内部に、「電池10」を装着する「電池収納室9」を設ける技術が記載されている。
それゆえ、刊行物発明のように、「密閉体」が耳の中で外側に位置する方と中側に位置する方の2つの部分からなる挿耳形の補聴器において、外側と中側のいずれの部分に電池を支持するキャリヤ手段を設けるかは、当業者が密閉体内にマイクロフォンや電池、増幅器、スピーカ等をどのように配置するかを決定する上で、適宜選択してなし得る設計事項にすぎない。
そして、これらの相違点1及び2は相互に関連した事項ではなく、また、上記各相違点を総合的に考慮しても当業者が推考し難い格別のものであるとすることはできず、また本願補正案発明の効果についてみても、引用発明及び上記周知技術から予測される程度のものにすぎず、格別顕著なものがあるともいえない。

したがって、本願発明の補聴器を、2つの密閉体を有するものであって、「前記キャリヤ手段の密閉体」を「キャリヤ手段」と接続される「密閉体」であると認定したとしても、本願発明は、刊行物発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第3 まとめ
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-01 
結審通知日 2011-06-03 
審決日 2011-06-14 
出願番号 特願2000-511338(P2000-511338)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 日下 善之新川 圭二  
特許庁審判長 板橋 通孝
特許庁審判官 千葉 輝久
古川 哲也
発明の名称 補聴器、耳ピース、耳に挿入する装置、および耳孔の最深部の鋳造物を作る装置  
代理人 吉田 裕  
代理人 森 徹  
代理人 浅村 肇  
代理人 浅村 皓  

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