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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B24B
管理番号 1245820
審判番号 不服2010-14761  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-02 
確定日 2011-10-26 
事件の表示 特願2004-371410「研磨用組成物及び研磨方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 7月14日出願公開、特開2005-186269〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件出願は、平成16年12月22日(優先権主張2003年12月24日アメリカ合衆国)の特許出願であって、同21年9月7日付けで拒絶の理由が通知され、同年12月15日に意見書とともに手続補正書が提出され、平成22年2月25日付けで拒絶をすべき旨の査定がされた。
これに対し、同年7月2日に本件審判の請求がされるとともに手続補正書が提出され、その後、当審の平成23年2月4日付け審尋に対して同年4月28日に回答書が提出された。

第2 平成22年7月2日に提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容の概要
本件補正は、平成21年12月15日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲について補正をするとともに、それに関連して明細書の一部について補正をするものであって、特許請求の範囲の請求項1に関する以下の補正を含んでいる。なお、下線部は補正箇所を示す。

(1)補正前の請求項1
「アルミナ、コロイダルシリカ、クエン酸、クエン酸以外の有機酸、酸化剤、及び水を含有し、前記アルミナの平均粒子径が0.2μm以上1.2μm以下であり、前記コロイダルシリカの平均粒子径が10nm以上100nm以下である研磨用組成物。」

(2)補正後の請求項1
「アルミナ、コロイダルシリカ、クエン酸、クエン酸以外の有機酸、酸化剤、及び水を含有し、前記アルミナの平均粒子径が0.2μm以上1.2μm以下であり、前記コロイダルシリカの平均粒子径が10nm以上100nm以下であり、前記クエン酸以外の有機酸がコハク酸、イミノ二酢酸、イタコン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、クロトン酸、グルコン酸、グリコール酸、乳酸及びマンデル酸から選ばれる少なくとも一つの有機酸である研磨用組成物。」

2.補正の適否
本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、補正前の請求項1における「クエン酸以外の有機酸」について、「コハク酸、イミノ二酢酸、イタコン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、クロトン酸、グルコン酸、グリコール酸、乳酸及びマンデル酸から選ばれる少なくとも一つの有機酸」であると特定することにより、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。

(1)補正発明
補正発明は、本件補正により補正された明細書の記載からみて、上記1.(2)の補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。

(2)刊行物の記載事項及び刊行物発明
原審で通知した平成21年9月7日付け拒絶理由で引用した、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開2003-211351号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(ア)段落【0008】
「【0008】本発明の微小突起の低減方法は、前記のように、水、研磨材、酸化合物を含有してなり、pHが酸性かつ研磨材の濃度が10重量%未満である研磨液組成物を用いて、被研磨基板の研磨を行う工程を有するものである。」

(イ)段落【0009】
「【0009】本発明に使用される研磨材には、研磨用に一般に使用されている研磨材を使用することができる。該研磨材として、金属;金属又は半金属の炭化物、窒化物、酸化物、ホウ化物;ダイヤモンド等が挙げられる。金属又は半金属元素は、周期律表(長周期型)の2A、2B、3A、3B、4A、4B、5A、6A、7A又は8A族由来のものである。研磨材の具体例として、酸化アルミニウム、炭化珪素、ダイヤモンド、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、シリカ等が挙げられ、これらを1種以上使用することは研磨速度を向上させる観点から好ましい。中でも、酸化アルミニウム、シリカ、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン等が、半導体ウェハや半導体素子、磁気記録媒体用基板等の精密部品用基板の研磨に適している。酸化アルミニウムについては、α、θ、γ等種々の結晶系が知られているが、用途に応じ適宜選択、使用することができる。この内、シリカ、特にコロイダルシリカは、より高度な平滑性を必要とする高記録密度メモリー磁気ディスク用基板の最終仕上げ研磨用途や半導体デバイス基板の研磨用途に適している。」

(ウ)段落【0010】
「【0010】研磨材の一次粒子の平均粒径は、研磨速度を向上させる観点から、好ましくは0.001?3μm、より好ましくは0.01?3μm、さらに好ましくは0.02?0.8μm、特に好ましくは0.05?0.5μmである。さらに、一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合は、同様に研磨速度を向上させる観点及び被研磨物の表面粗さを低減させる観点から、その二次粒子の平均粒径は、好ましくは0.05?3μm、さらに好ましくは0.1?1.5μm、特に好ましくは0.2?1.2μmである。研磨材の一次粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡で観察(好適には3000?30000倍)して画像解析を行い、2軸平均粒径を測定することにより求めることができる。また、二次粒子の平均粒径はレーザー光回折法を用いて体積平均粒径として測定することができる。」

(エ)段落【0011】及び【0012】
「【0011】また、本発明においては、微小突起、表面粗さ(Ra)を低減させて、表面品質を向上させる観点から、研磨材としてシリカ粒子を用いることがより好ましい。シリカ粒子としては、コロイダルシリカ粒子、ヒュームドシリカ粒子、表面修飾したシリカ粒子等が挙げられ、中でも、コロイダルシリカ粒子が好ましい。なお、コロイダルシリカ粒子は、例えば、ケイ酸水溶液から生成させる製法により得ることができる。
【0012】シリカ粒子の一次粒子の平均粒径は、研磨速度を向上させる観点から、好ましくは0.001μm以上、より好ましくは0.01μm以上、さらに好ましくは0.02μm以上であり、表面粗さ(Ra)を低減する観点から、好ましくは0.6μm以下、より好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.3μm以下、特に好ましくは0.2 μm以下である。該平均粒径は、好ましくは0.001?0.6μm、より好ましくは0.001?0.5μm、さらに好ましくは0.01?0.3μm、特に好ましくは0.02?0.2μmである。なお、該粒径は走査型電子顕微鏡で観察して(好適には3000倍?100000倍)画像解析を行い、2軸平均径を測定することにより求めることができる。」

(オ)段落【0021】
「【0021】本発明において酸化合物は、pK1が7以下の酸性を示す化合物である。微小突起を低減する観点から、pK1が3以下の化合物が好ましい。研磨速度向上の観点では、pK1が7以下の化合物で被研磨物表面に含有される金属をキレートする能力を有する化合物が好ましい。具体的には、エチレンジアミンテトラ酢酸等のアミノポリカルボン酸及びその塩や、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、イタコン酸、スルホサリチル酸等の有機カルボン酸及びその塩がある。微小スクラッチを低減する観点から、pK1が3以下の化合物が好ましく、より好ましくはpK1が2.5以下、さらに好ましくはpK1が2.0以下、特に好ましくはpK1が1.5以下の化合物であり、pK1が1以下の化合物(即ち、pK1で表せない程の強い酸性を示す化合物)が最も好ましい。具体的には、硝酸、硫酸、亜硫酸、過硫酸、塩酸、過塩素酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、シュウ酸、アミド硫酸、アスパラギン酸、2-アミノエチルホスホン酸、グルタミン酸、ピコリン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(以下、HEDPともいう)等が挙げられる。これらの中でも、微小突起の低減の観点から、硝酸、HEDP、硫酸、過塩素酸及び塩酸が好ましく、硝酸、HEDP及び硫酸が特に好ましい。これらの酸は単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。ここで、pK1とは有機化合物又は無機化合物の酸解離定数(25℃)の逆数の対数値を通常pKaと表し、そのうちの第一酸解離定数の逆数の対数値をpK1としている。各化合物のpK1は例えば改訂4版化学便覧(基礎編)II、pp316-325(日本化学会編)等に記載されている。」

(カ)段落【0023】及び【0024】
「【0023】研磨液組成物は、研磨速度を向上させる観点から酸化剤を含有することが好ましい。酸化剤としては、過酸化物、過マンガン酸又はその塩、クロム酸又はその塩、硝酸又はその塩、ペルオキソ酸又はその塩、酸素酸又はその塩、金属塩類、硫酸類等が挙げられる。
【0024】より具体例には、過酸化物としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム等;過マンガン酸塩としては、過マンガン酸カリウム等;クロム酸塩としては、クロム酸金属塩、重クロム酸金属塩等;硝酸塩としては、硝酸鉄(III)、硝酸アンモニウム等;ペルオキソ酸又はその塩としては、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸金属塩、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸等;酸素酸又はその塩としては、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム等;金属塩類としては、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、クエン酸鉄(III)、硫酸アンモニウム鉄(III)等が挙げられる。好ましい酸化剤としては、過酸化水素、硝酸鉄(III)、過酢酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム硫酸鉄(III)及び硫酸アンモニウム鉄(III)等が挙げられる。特に、表面に金属イオンが付着せず汎用に使用され安価であるという観点から過酸化水素が好ましい。これらの酸化剤は、単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。」

(キ)段落【0026】
「【0026】研磨液組成物中の水は、媒体として使用されるものであり、その含有量は、被研磨物を効率よく研磨する観点から、好ましくは50重量%以上であり、より好ましくは66重量%以上であり、さらに好ましくは77重量%以上であり、特に好ましくは85重量%以上であり、また、好ましくは99.4979重量%以下、より好ましくは98.9947重量%以下、さらに好ましくは96.992重量%以下、特に好ましくは、94.9875 重量%以下である。該含有量は、好ましくは55?99.4979重量%、より好ましくは67?98.9947重量%、さらに好ましくは75?96.992重量%、特に好ましくは84?94.9875重量%である。」

(ク)段落【0043】
「【0043】実施例1?7、比較例1?3
表1に示すような一次粒子の平均粒径を有するコロイダルシリカ、35%過酸化水素(旭電化製)、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP、ソルーシア・ジャパン(株)製、pK1は1以下)又はエチレンジアミン四酢酸鉄塩(EDTA-Fe)を所定量と、残りを水として合計100重量%となるように調製した。混合する順番は、まずHEDP又はEDTA-Feを水で希釈した水溶液に過酸化水素を混合し、最後にコロイダルシリカスラリーをゲル化しないように撹拌しながらすばやく加え、pHを所定値に調整して、研磨液組成物を調製した。得られた研磨液組成物を用いて、以下の研磨条件にて被研磨物を研磨し、研磨速度、表面粗さ(Ra)及び微小突起の個数を以下の方法に基づいて測定・評価した。得られた結果を表1に示す。」

(ケ)段落【0048】の表1
摘記事項(ク)の記載を参照すると、表1には、コロイダルシリカの一次粒子の平均粒径が32nm以上85nm以下であることが記載されている。

摘記事項(イ)の「研磨材の具体例として、酸化アルミニウム、炭化珪素、ダイヤモンド、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、シリカ等が挙げられ、これらを1種以上使用することは研磨速度を向上させる観点から好ましい。」の記載、及び摘記事項(エ)の「研磨材としてシリカ粒子を用いることがより好ましい。シリカ粒子としては、コロイダルシリカ粒子、ヒュームドシリカ粒子、表面修飾したシリカ粒子等が挙げられ、中でも、コロイダルシリカ粒子が好ましい。」の記載から、研磨材が酸化アルミニウム、コロイダルシリカを含む研磨材から1種以上使用されることが理解される。

摘記事項(オ)の「本発明において酸化合物は、pK1が7以下の酸性を示す化合物である。研磨速度向上の観点では、pK1が7以下の化合物で被研磨物表面に含有される金属をキレートする能力を有する化合物が好ましい。具体的には、…(中略)…クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、イタコン酸、スルホサリチル酸等の有機カルボン酸及びその塩がある。」及び「これらの酸は単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。」の記載から、有機カルボン酸として、クエン酸を含む有機カルボン酸から2種以上が用いることが理解される。

摘記事項(エ)の「研磨材としてシリカ粒子を用いることがより好ましい。シリカ粒子としては、…(中略)…中でも、コロイダルシリカ粒子が好ましい。」及び「シリカ粒子の一次粒子の平均粒径は、研磨速度を向上させる観点から、…(中略)…さらに好ましくは0.02μm以上であり、表面粗さ(Ra)を低減する観点から、…(中略)…特に好ましくは0.2 μm以下である。該平均粒径は、…(中略)…特に好ましくは0.02?0.2μmである。」の記載並びに摘記事項(ケ)の記載から、研磨材としてコロイダルシリカを使用する場合には、コロイダルシリカの一次粒子の平均粒径を32nm以上85nm以下とすることが理解される。

以上の摘記事項の記載を考慮し、補正発明の記載に沿って整理すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が開示されていると認める。

「酸化アルミニウム、コロイダルシリカを含む研磨材から1種以上使用される研磨材、クエン酸を含む有機カルボン酸から2種以上が用いられる有機カルボン酸、酸化剤、及び水を含有し、研磨材の一次粒子の平均粒径が0.05?0.5μmであり、コロイダルシリカの一次粒子の平均粒径が32nm以上85nm以下であり、クエン酸以外の有機カルボン酸がコハク酸、イタコン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸から選ばれる有機カルボン酸である研磨液組成物。」

(3)対比
補正発明と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「酸化アルミニウム」、「有機カルボン酸」、「一次粒子の平均粒径」、「研磨液組成物」は、それぞれ補正発明の「アルミナ」、「有機酸」、「平均粒子径」、「研磨用組成物」に相当する。
また、刊行物1発明の「酸化アルミニウム、コロイダルシリカを含む研磨材から1種以上使用される研磨材」は「アルミナ、コロイダルシリカを含む研磨材から1種以上使用される研磨材」である限りにおいて、補正発明の「アルミナ、コロイダルシリカ」と共通し、刊行物1発明の「クエン酸を含む有機カルボン酸から2種以上が用いられる有機カルボン酸」は「クエン酸を含む有機酸から2種以上が用いられる有機酸」である限りにおいて補正発明の「クエン酸、クエン酸以外の有機酸」と共通する。

以上から、補正発明と刊行物1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

[一致点]アルミナ、コロイダルシリカを含む研磨材から1種以上使用される研磨材、クエン酸を含む有機酸から2種以上が用いられる有機酸、酸化剤、及び水を含有する研磨用組成物。

[相違点1]研磨用砥粒について、補正発明においては「アルミナ、コロイダルシリカ」であって、「アルミナの平均粒子径が0.2μm以上1.2μm以下」であり、「コロイダルシリカの平均粒子径が10nm以上100nm以下」であるのに対し、刊行物1発明においては「アルミナ、コロイダルシリカを含む研磨材から1種以上使用される研磨材」であって、「研磨材の平均粒子径が0.05?0.5μm」であり、「コロイダルシリカの平均粒子径が32nm以上85nm以下」である点。

[相違点2]有機酸について、補正発明においては「クエン酸、クエン酸以外の有機酸」であり、「クエン酸以外の有機酸がコハク酸、イミノ二酢酸、イタコン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、クロトン酸、グルコン酸、グリコール酸、乳酸及びマンデル酸から選ばれる少なくとも一つの有機酸」であるのに対し、刊行物1発明においては「クエン酸、クエン酸以外の有機酸」すなわち「クエン酸を含む有機酸から2種以上が用いられる有機酸」であり、「クエン酸以外の有機酸がコハク酸、イタコン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸から選ばれる有機酸」である点。

(4)相違点についての検討及び判断
(ア)相違点1について
刊行物1発明においていずれの研磨材を組み合わせて選択するかは、研磨速度の向上や被研磨物の表面粗さの低減の作用を考慮して当業者が適宜決め得ること、及び研磨材としてアルミナとコロイダルシリカを組み合わせて使用することは、例えば、審尋で引用した特開2002-184726号公報(以下、「周知文献1」という。特に、段落【0018】ないし【0020】、【0029】ないし【0031】を参照)及び特開昭62-236669号公報(以下、「周知文献2」という。特に、第1表の研磨剤No.2、9の実施例を参照)に示されているように周知の事項であることから、刊行物1発明において、「アルミナ、コロイダルシリカを含む研磨材から1種以上使用される研磨材」を「アルミナ、コロイダルシリカ」とすることは、当業者が容易になし得たことである。
また、周知文献1の段落【0031】には、アルミナの平均粒子径を0.2μmとする実施例が、また、周知文献2の第1表には、アルミナの平均粒子径を0.8μm、1μmとする実施例が記載されていることから、刊行物1発明において「アルミナ、コロイダルシリカを含む研磨材から1種以上使用される研磨材」を「アルミナ、コロイダルシリカ」としたものにおいて、アルミナの平均粒子径を0.2μm以上1.2μm以下とすることに格別の困難性はない。
刊行物1発明におけるコロイダルシリカの平均粒子径の数値範囲である「32nm以上85nm以下」は、補正発明におけるコロイダルシリカの平均粒子径の数値範囲である「10nm以上100nm以下」に包含されていることから、コロイダルシリカの平均粒子径の数値範囲については相違しない。

(イ)相違点2について
刊行物1発明においていずれの有機酸を組み合わせて選択するかは、研磨速度の向上の作用を考慮して当業者が適宜決め得ること、及び有機酸としてクエン酸とクエン酸以外の有機酸を組み合わせて使用することは、例えば、国際公開第03/94216号(以下、「周知文献3」という。特に、明細書第13ページ第15行ないし第14ページ第7行を参照)及び特開2003-170349号公報(以下、「周知文献4」という。特に、段落【0080】の表1の実施例11ないし25を参照)に示されているように周知の事項であることから、刊行物1発明において、「クエン酸を含む有機酸から2種以上が用いられる有機酸」を「クエン酸、クエン酸以外の有機酸」とすることは、当業者が容易になし得たことである。
また、刊行物1発明において、「クエン酸を含む有機酸から2種以上が用いられる有機酸」を「クエン酸、クエン酸以外の有機酸」としたものにおいて、「クエン酸以外の有機酸」として選ばれる「コハク酸、イタコン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸」は、補正発明における「コハク酸、イミノ二酢酸、イタコン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、クロトン酸、グルコン酸、グリコール酸、乳酸及びマンデル酸」に包含されていることから、刊行物1発明における「クエン酸以外の有機酸」として、「コハク酸、イタコン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸から選ばれる少なくとも一つの有機酸」とすることに格別の困難性はない。

(ウ)補正発明の作用ないし効果について
刊行物1発明は、アルミナを用いることで研磨速度の向上が図られる(摘記事項(ウ))、及びコロイダルシリカを用いることで被研磨物の表面粗さの低減が図られる(摘記事項(エ))というものである。また、研磨材としてアルミナとコロイダルシリカとを組み合わせて用いることにより、研磨速度の向上と表面欠陥の低減が図られることは、周知文献1(特に、段落【0018】ないし【0021】、【0031】ないし【0033】及び【0039】を参照)及び周知文献2(特に、第2ページ左下欄第15行ないし右下欄第1行、第3ページ左下欄第7行ないし第16行及び第1表ないし第4表の研磨材No.2、9の実施例を参照)に記載されていることから、刊行物1発明における「アルミナ、コロイダルシリカを含む研磨材から1種以上使用される研磨材」を「アルミナ、コロイダルシリカ」としたものにおいて、研磨速度の向上と表面欠陥の低減が図られることは予測できる作用ないし効果である。
また、研磨用組成物において、有機酸としてクエン酸とクエン酸以外の有機酸を組み合わせて用いることで研磨速度の向上と表面欠陥の低減が図られることは、周知文献3(特に、段落【0011】を参照)及び周知文献4(特に、明細書第5ページ第12行ないし第17行を参照)に記載されていることから、刊行物1発明における「クエン酸を含む有機酸から2種以上が用いられる有機酸」を「クエン酸、クエン酸以外の有機酸」とし、「クエン酸以外の有機酸」として「コハク酸、イタコン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸から選ばれる少なくとも一つの有機酸」としたものにおいて、研磨速度の向上と表面欠陥の低減が図られることは予測できる作用ないし効果である。
よって、補正発明によってもたらされる研磨速度の向上と表面欠陥の低減が図られるという作用ないし効果は、刊行物1発明及び周知の事項から予測できる作用ないし効果以上の顕著なものではない。

なお、出願人は回答書において、「本願発明と引用文献に記載の発明との相違をより明確にするべく有機酸の種類を限定する用意がありますので、そのような補正の機会を与えていただきたくお願い申し上げます。」と述べているが、請求項1における「クエン酸以外の有機酸」を請求項3に記載の「イミノ二酢酸又はグリコール酸」に限定したとしても、アルミナやコロイダルシリカを研磨材として用いた研磨用組成物において、イミノ二酢酸又はグリコール酸を有機酸として用いることは、例えば、原審で通知した平成21年9月7日付け拒絶理由で周知文献として引用した特開2003-342556号公報(特に、段落【0016】を参照)及び周知文献4(特に、段落【0056】ないし【0060】を参照)に示されているように周知の事項であることから、刊行物1発明における「クエン酸以外の有機酸」を「イミノ二酢酸又はグリコール酸である」とすることに格別の困難性はない。

(エ)まとめ
したがって、補正発明は、刊行物1発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件出願の発明について

1.本件出願の発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、第2の1.(1)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりであると認める。

2.刊行物の記載事項及び刊行物発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載内容は第2の2.(2)に示したとおりである。

3.対比及び検討
本願発明は、第2の2.で検討した補正発明から、実質上、「クエン酸以外の有機酸」について、「コハク酸、イミノ二酢酸、イタコン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、クロトン酸、グルコン酸、グリコール酸、乳酸及びマンデル酸から選ばれる少なくとも一つの有機酸」であるとの特定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明を構成する事項の全てを含み、さらに他の事項を付加する補正発明が第2の2.(4)で示したとおり刊行物に記載の発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
したがって、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件出願の請求項2ないし7に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-25 
結審通知日 2011-05-31 
審決日 2011-06-16 
出願番号 特願2004-371410(P2004-371410)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B24B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橋本 卓行  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 藤井 眞吾
千葉 成就
発明の名称 研磨用組成物及び研磨方法  
代理人 池上 美穂  
代理人 本田 淳  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  

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