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審決分類 審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1245995
審判番号 不服2008-20948  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-14 
確定日 2011-11-04 
事件の表示 特願2001-394867「薄膜付き窒化アルミニウム基板およびこれからなるレーザー発光素子用サブマウント材」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月 9日出願公開、特開2003-192442〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年12月26日の出願であって、平成19年11月20日付けの拒絶理由が通知され、平成20年1月24日に意見書とともに手続補正書が提出され、同年7月11日付けで拒絶査定された。
これに対し、同年8月14日に拒絶査定不服審判請求がなされ、同年9月11日に手続補正書が提出されたものであり、その後、平成23年2月17日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋がなされ、これに対する回答書が同年4月15日に提出されている。

2.平成20年9月11日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年9月11日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正の内容
本件補正は、補正前(平成20年1月24日付け手続補正書により補正されたもの)特許請求の範囲を、以下のようにするものである。
「 【請求項1】
径が0.05?0.7mmのバイアホールを有する窒化アルミニウム基板であって、このバイアホールにはタングステンまたはモリブデンを主成分とする導電部を具備すると共に、前記導電部と前記窒化アルミニウム基板とが同時焼成法により作製されたものであり、前記基板における窒化アルミニウム結晶粒子が前記基板における直線距離50μmの直線上に15?30個存在し、かつ下記(イ)?(ハ)を満たす窒化アルミニウム基板の片面あるいは両面に導電性薄膜が形成されてなることを特徴とする、薄膜付き窒化アルミニウム基板。
(イ)窒化アルミニウム基板の熱伝導率が180W/mK以上
(ロ)窒化アルミニウム基板の表面に存在する最大径5μm以上の脱粒痕の数が単位面積50μm×50μm中に5個以下
(ハ)窒化アルミニウム基板の厚さが0.1?1mm
【請求項2】
窒化アルミニウム基板が表面粗さ(Ra)0.5μm以下のものである、請求項1記載の薄膜付き窒化アルミニウム基板。
【請求項3】
窒化アルミニウム基板が表面粗さ(Ra)が0.02?0.5μmのものである、請求項1記載の薄膜付き窒化アルミニウム基板。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項に記載の薄膜付き窒化アルミニウム基板からなることを特徴とする、レーザー発光素子用サブマウント材。」
を、
「 【請求項1】
径が0.05?0.7mmのバイアホールを有する窒化アルミニウム基板であって、このバイアホールにはタングステンまたはモリブデンを主成分とする導電部を具備すると共に、前記導電部と前記窒化アルミニウム基板とが同時焼成法により作製されたものであり、前記基板における窒化アルミニウム結晶粒子が前記基板における直線距離50μmの直線上に15?30個存在し、かつ下記(イ)?(ホ)を満たす窒化アルミニウム基板の片面あるいは両面に導電性薄膜が形成されて、この導電性薄膜と導電部とが接合していることを特徴とする、薄膜付き窒化アルミニウム基板。
(イ)窒化アルミニウム基板の熱伝導率が180W/mK以上
(ロ)窒化アルミニウム基板の表面に存在する最大径5μm以上の脱粒痕の数が単位面積50μm×50μm中に5個以下
(ハ)窒化アルミニウム基板の厚さが0.1?1mm
(ニ)窒化アルミニウム基板の表面粗さ(Ra)が0.5μm以下
(ホ)窒化アルミニウム基板の表面に存在する脱粒痕の最大径が10μm以下
【請求項2】
窒化アルミニウム基板が表面粗さ(Ra)が0.02?0.5μmのものである、請求項1記載の薄膜付き窒化アルミニウム基板。
【請求項3】
請求項1または2に記載の薄膜付き窒化アルミニウム基板からなることを特徴とする、レーザー発光素子用サブマウント材。」
とする。
(当審注:アンダーラインが補正箇所)

(2)補正の目的について
上記補正は、下記補正事項A?Cに示す補正を行うものである。

・補正事項A
補正前の請求項2を補正後の請求項1とし、「導電性薄膜と導電部とが接合している」ことを特定するとともに、「(ホ)窒化アルミニウム基板の表面に存在する脱粒痕の最大径が10μm以下」なる特定事項を追加する。

・補正事項B
上記補正事項Aに伴い、補正前の請求項1を削除する。

・補正事項C
上記補正事項Bに伴い、補正前の請求項1を引用する補正前の請求項3を削除し、補正後の請求項1を引用する請求項2を追加する。

しかしながら、上記補正事項Aのように、補正前の発明の個々の特定事項をさらに限定するのではなく、単に新たな特定事項を追加する補正は、「特許請求の範囲の減縮」には該当せず、「誤記の訂正」、「明りょうでない記載の釈明」のいずれにも該当しない。
また、上記補正事項Cは、補正前の請求項1を引用する補正前の請求項3を、補正後の請求項1を引用する補正後の請求項2に形式上補正しようとするものであるが、補正後の請求項1は上述のように補正前の請求項2を補正したものであり、補正前の請求項3は補正前の請求項2を引用するものではないから、補正後の請求項2は新たに請求項を追加する補正ということができ、これはいわゆる増項補正であって、「請求項の削除」を目的とするものに該当せず、「特許請求の範囲の減縮」、「誤記の訂正」、「明りょうでない記載の釈明」のいずれにも該当しない。

したがって、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(3)独立特許要件について
本件補正は、上記(2)で述べたとおり、補正の目的が不適法であるため、補正却下されるべきものであるが、仮に、本件補正が特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものとして、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)について、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)についてさらに検討する。

(3-1)本件補正発明
本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)は、次の事項により特定されるものである。
「 【請求項1】
径が0.05?0.7mmのバイアホールを有する窒化アルミニウム基板であって、このバイアホールにはタングステンまたはモリブデンを主成分とする導電部を具備すると共に、前記導電部と前記窒化アルミニウム基板とが同時焼成法により作製されたものであり、前記基板における窒化アルミニウム結晶粒子が前記基板における直線距離50μmの直線上に15?30個存在し、かつ下記(イ)?(ホ)を満たす窒化アルミニウム基板の片面あるいは両面に導電性薄膜が形成されて、この導電性薄膜と導電部とが接合していることを特徴とする、薄膜付き窒化アルミニウム基板。
(イ)窒化アルミニウム基板の熱伝導率が180W/mK以上
(ロ)窒化アルミニウム基板の表面に存在する最大径5μm以上の脱粒痕の数が単位面積50μm×50μm中に5個以下
(ハ)窒化アルミニウム基板の厚さが0.1?1mm
(ニ)窒化アルミニウム基板の表面粗さ(Ra)が0.5μm以下
(ホ)窒化アルミニウム基板の表面に存在する脱粒痕の最大径が10μm以下」

(3-2)引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、特開2001-348275号公報(以下、「引用文献1」という。)、特開2000-124566号公報(以下、「引用文献2」という。)には、それぞれ次の事項が記載されている。

(3-2-1)引用文献1
(ア)「任意の一辺が10μmの正方形100μm^(2)の領域内に存在するAlN結晶粒子数が5以上であり、この領域内に入る粒界の総長さが100μm以下である・・・AlN基板。」(特許請求の範囲【請求項1】)
(イ)「該100μm^(2)の領域内に存在するAlN結晶粒子数が5以上10以下である・・・請求項1記載のAlN基板。」(特許請求の範囲【請求項2】)
(ウ)「表面粗さRaが0.05μmのとき、任意の一辺が100μmの正方形10000μm^(2)の領域内に存在する脱粒痕の数が10個以下である・・・請求項1または請求項2に記載のAlN基板。」(特許請求の範囲【請求項3】)
(エ)「熱伝導率が180W/(m・k)以上である・・・請求項1ないし3のいずれかに記載のAlN基板。」(特許請求の範囲【請求項4】)
(オ)「AlN基板表面に薄膜が形成された・・・請求項1ないし4のいずれかに記載のAlN基板。」(特許請求の範囲【請求項5】)
(カ)「・・・まず、本発明では、AlN基板において、任意の、一辺が10μmの正方形100μm^(2)の領域内に存在するAlN結晶粒子数を5以上としている。この数字が5未満、つまりは4以下であるとAlN結晶粒子に過度の粒成長(異常粒成長)を伴ったものが存在することになる。異常粒成長を伴ったAlN基板は熱伝導率が高くなるものの、AlN粒子が必要以上に大きいため表面研磨の際に脱粒が起き易くなる。一方、該領域内のAlN粒子数があまり大きすぎるとAlN粒子のサイズが小さくなるため熱伝導率が180W/m・k未満になり易い。従って、好ましいAlN結晶粒子数は5以上10以下となる。」(段落【0021】)
(キ)「次に、本発明では該領域内に入る粒界の総長さを100μm以下にしている。粒界の総長さが100μmを超えると粒界量が多すぎるため熱伝導率が低下し易い。一方、粒界の総長さが少ないと確かに熱伝導率は向上するが、AlN結晶粒子の結合力が落ちるため脱粒が起き易くなってしまう。従って、該領域内における粒界の総長さの好ましい範囲は30μm以上100μm以下である。
このような構成を具備するAlN基板であれば表面研磨の際の脱粒を防ぎ、かつ熱伝導率を180W/m・k以上と高熱伝導率を為し得ることが可能である。」(段落【0022】?【0023】)
(ク)「また、本発明では、AlN基板の表面粗さRaが0.05μmのとき、任意の一辺が100μmの正方形10000μm^(2)の領域内に存在する脱粒痕の数が10個以下であることを特徴としている。AlN基板にレーザダイオードなどのレーザ発振素子を搭載する際は、表面粗さRaが0.05μm以下程度まで鏡面加工された後、後述するように金属薄膜を設けた後ろう付けによりレーザダイオードを取付けることになる。このとき、レーザダイオード取付面に脱粒痕が10個を超えて存在すると薄膜を均一な膜厚に形成し難く、剥離の原因となりやすい。なお、本発明の脱粒痕とは、AlN結晶粒子の脱粒並びに焼結助剤成分を主とする偏析粒子の脱粒した痕を含むものである。」(段落【0025】)
(ケ)「・・・この薄膜は、特に限定されるものではないが、Ti、Ni、Au、Cuなどの金属成分もしくはこれら金属成分を含む合金からなる金属薄膜であることが望ましい。・・・」(段落【0026】)
(コ)「・・・各試料に対し、表面粗さRaが0.05μm以下となるよう表面研磨(鏡面加工)することにより実施例(試料No.1?4)および比較例(試料No.5?6)にかかるAlN基板(縦10mm×横10mm×板厚0.635mm)を作製した。」(段落【0039】)

(3-2-2)引用文献2
(サ)「窒化アルミニウム焼結体の貫通孔に導電層が充填されてなる基板において、窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率が190W/mK以上であり、・・・該基板の相対する両面に導電パターンが形成され、該両面に存在する導電パターンの少なくとも一部が導電層により電気的に互いに接続されてなるメタライズ基板。」(特許請求の範囲【請求項1】)
(シ)「【発明の実施の形態】本発明において、窒化アルミニウム焼結体の貫通孔に導電層が充填されてなる基板とは、いわゆるビアを含む窒化アルミニウム焼結体で、貫通孔のサイズは特に限定されないが、直径は0.03?0.50mmであり、・・・また、導電層を構成する物質は高融点金属であれば特に限定されないが、通常タングステン、モリブデンなどの高融点金属であり、・・・
本発明におけるビアを含む窒化アルミニウム焼結体よりなる基板は、窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率が190W/mK以上で・・・あることを特徴とする。」(段落【0009】?【0010】)
(ス)「本発明において、・・・ビアを有する成形体(以下、「脱脂体」という)は、次いで非酸化性雰囲気又は乾燥した還元性ガス雰囲気下で焼成する。・・・焼成の温度条件は、1段目は1200?1700℃、好ましくは、1500?1650℃で焼成し、次いで2段目は1800?1950℃、好ましくは、1820?1900℃で焼成することが必要である。・・・1段目および2段目の焼成温度は、途中で降温せずに1回の焼成で行っても良いし、1段目と2段目の間で降温し、2回の焼成に分けて行っても良い。ただし、時間およびエネルギー効率を考えると途中で降温せずに1回の焼成で行う方が好ましい。」(段落【0038】)
(セ)「・・・本発明の基板は、25℃での熱伝導率が190W/mK以上で・・・相対する表面に導電パターンが形成され、該両面に存在する導電パターンの少なくとも一部がビアにより電気的に接続されてなるメタライズ基板であり、・・・レーザーダイオードや発光ダイオードのサブマウントやチップキャリア、およびヒートシンク、ICパッケージ等の電子・半導体機器部品に好適に利用されうる。」(段落【0048】)
(ソ)「実施例1
・・・厚さ約0.50mmの窒化アルミニウムグリーンシートを作製した。上記グリーンシートを65×65mmに切断した。続いて、この窒化アルミニウムグリーンシートを3枚積層した。積層圧力は、50kgf/cm^(2)、積層温度80℃、積層時間は15分であった。次に、この積層グリーンシート65×65mmを、φ0.65mmのパンチング用金型にて1.5mmピッチに打抜き、貫通孔が40×40個並んだものを用意した。・・・圧入法により前記貫通孔を形成した窒化アルミニウムグリーンシート体の貫通孔内にタングステンペーストの充填を行った。・・・
このように作製したビアを有する窒化アルミニウム成形体を、・・・脱脂後、前記脱脂体を窒化アルミニウム製の容器に入れ、窒素雰囲気中1580℃で6時間加熱し(1段目焼成)、さらに1870℃で10時間加熱した(2段目焼成)。・・・」(段落【0061】?【0062】)
(タ)「実施例16?18、比較例7、8
実施例1において、表2に示す2段目の焼成温度を変更した以外は、実施例1と同様にした。その結果を表2に示す。」(段落【0078】)として、段落【0085】の【表3】には、実施例16に、2段目の焼成温度を1820℃とした、熱伝導率207W/mKの焼結体が例示されている。
(当審注:上記「その結果を表2に示す。」は、「その結果を表3に示す。」の誤記と認める。)

(3-3)引用発明
(a)引用文献1には、記載事項(ア)に、「任意の一辺が10μmの正方形100μm^(2)の領域内に存在するAlN結晶粒子数が5以上であり、この領域内に入る粒界の総長さが100μm以下であるAlN基板。」と記載され、記載事項(イ)に、「該100μm^(2)の領域内に存在するAlN結晶粒子数が5以上10以下である・・・請求項1記載のAlN基板。」と記載され、記載事項(ウ)に、「表面粗さRaが0.05μmのとき、任意の一辺が100μmの正方形10000μm^(2)の領域内に存在する脱粒痕の数が10個以下である・・・請求項1または請求項2に記載のAlN基板。」と記載され、記載事項(エ)に、「熱伝導率が180W/(m・k)以上である・・・請求項1ないし3のいずれかに記載のAlN基板。」と記載され、記載事項(オ)に、「AlN基板表面に薄膜が形成された・・・請求項1ないし4のいずれかに記載のAlN基板。」と記載されている。
これらの記載から、引用文献1には、「任意の一辺が10μmの正方形100μm^(2)の領域内に存在するAlN結晶粒子数が5以上10以下であり、この領域内に入る粒界の総長さが100μm以下であり、表面粗さRaが0.05μmのとき、任意の一辺が100μmの正方形10000μm^(2)の領域内に存在する脱粒痕の数が10個以下であり、熱伝導率が180W/(m・k)以上である、AlN基板表面に薄膜が形成されたAlN基板。」が記載されているといえる。
(b)上記記載事項(ア)の「この領域内に入る粒界の総長さが100μm以下である」ことについて、記載事項(キ)には、「領域内における粒界の総長さの好ましい範囲は30μm以上100μm以下である」と記載されている。
(c)上記記載事項(ウ)の「表面粗さRaが0.05μmのとき」について、記載事項(コ)には、「表面粗さRaが0.05μm以下となるよう表面研磨(鏡面加工)する」と記載されており、上記「表面粗さRaが0.05μmのとき」には、「表面粗さRaが0.05μm以下のとき」も包含されるといえる。
(d)上記(a)の「AlN基板表面に薄膜が形成されたAlN基板」について、記載事項(ク)に、「AlN基板にレーザダイオードなどのレーザ発振素子を搭載する際は、表面粗さRaが0.05μm以下程度まで鏡面加工された後、後述するように金属薄膜を設けた後ろう付けによりレーザダイオードを取付けることになる。」と記載され、記載事項(ケ)に、「この薄膜は、特に限定されるものではないが、Ti、Ni、Au、Cuなどの金属成分もしくはこれら金属成分を含む合金からなる金属薄膜であることが望ましい。」と記載されており、上記「薄膜」の電気的特性は「導電性」であるといえる。
(e)上記「AlN基板」は、記載事項(コ)より、その板厚は「0.635mm」であるといえる。

(f)上記(a)?(e)の検討を踏まえ、記載事項(ア)?(コ)の事項を本件補正発明の記載ぶりに則して整理すると、引用文献1には、
「任意の一辺が10μmの正方形100μm^(2)の領域内に存在するAlN結晶粒子数が5以上10以下であり、この領域内に入る粒界の総長さが30μm以上100μm以下であり、表面粗さRaが0.05μm以下のとき、任意の一辺が100μmの正方形10000μm^(2)の領域内に存在する脱粒痕の数が10個以下であり、熱伝導率が180W/(m・k)以上である、AlN基板表面に導電性の薄膜が形成された板厚0.635mmのAlN基板。」なる発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(3-4)対比・判断
本件補正発明と引用発明とを比較する。
(a)引用発明の「AlN基板」は、本件補正発明の「径が0.05?0.7mmのバイアホールを有する窒化アルミニウム基板」と、「窒化アルミニウム基板」である点で共通する。
(b)引用発明の「任意の一辺が10μmの正方形100μm^(2)の領域内に存在するAlN結晶粒子数が5以上10以下」であることは、「任意の一辺が50μmの正方形2500μm^(2)の領域内に存在するAlN結晶粒子数が125(=5×2500/100)以上250(=10×2500/100)以下」であるといえ、「長さ50μmの直線上に存在するAlN結晶粒子数が11.2(=√5×50/10)以上15.8(=√10×50/10)以下」であるといえる。
してみると、引用発明の「任意の一辺が10μmの正方形100μm^(2)の領域内に存在するAlN結晶粒子数が5以上10以下」であることは、本件補正発明の「前記基板における窒化アルミニウム結晶粒子が前記基板における直線距離50μmの直線上に15?30個存在」することと、「前記基板における窒化アルミニウム結晶粒子が前記基板における直線距離50μmの直線上に15?15.8個存在」する点で重複する。
(c)引用発明のAlN基板の「表面粗さRaが0.05μm以下」であることは、本件補正発明の「(ニ)窒化アルミニウム基板の表面粗さ(Ra)が0.5μm以下」であることと、「(ニ)窒化アルミニウム基板の表面粗さ(Ra)が0.05μm以下」である点で重複する。
(d)引用発明の「任意の一辺が100μmの正方形10000μm^(2)の領域内に存在する脱粒痕の数が10個以下」であることは、「任意の一辺が50μmの正方形2500μm^(2)の領域内に存在する脱粒痕の数が2.5(=10×2500/10000)個以下」であるといえるから、本件補正発明の「(ロ)窒化アルミニウム基板の表面に存在する最大径5μm以上の脱粒痕の数が単位面積50μm×50μm中に5個以下」であることと、「(ロ)窒化アルミニウム基板の表面に存在する脱粒痕の数が単位面積50μm×50μm中に2.5個以下」である点で共通する。
(e)引用発明のAlN基板の「熱伝導率が180W/(m・k)以上」であることは、本件補正発明の「(イ)窒化アルミニウム基板の熱伝導率が180W/mK以上」であることに相当する。
(f)引用発明の「AlN基板表面に導電性の薄膜が形成され」たことは、本件補正発明の「窒化アルミニウム基板の片面あるいは両面に導電性薄膜が形成され」たことと、「窒化アルミニウム基板の表面に導電性薄膜が形成され」た点で共通する。
(g)引用発明の「板厚0.635mmのAlN基板」は、本件補正発明の「(ハ)窒化アルミニウム基板の厚さが0.1?1mm」と、「(ハ)窒化アルミニウム基板の厚さが0.635mm」である点で一致する。

上記(a)?(g)を踏まえると、両者は、
「窒化アルミニウム基板であって、前記基板における窒化アルミニウム結晶粒子が前記基板における直線距離50μmの直線上に15?15.8個存在し、かつ下記(イ)?(ニ)を満たす窒化アルミニウム基板の表面に導電性薄膜が形成されている、薄膜付き窒化アルミニウム基板。
(イ)窒化アルミニウム基板の熱伝導率が180W/mK以上
(ロ)窒化アルミニウム基板の表面に存在する脱粒痕の数が単位面積50μm×50μm中に2.5個以下
(ハ)窒化アルミニウム基板の厚さが0.635mm
(ニ)窒化アルミニウム基板の表面粗さ(Ra)が0.05μm以下」
である点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点A
本件補正発明の窒化アルミニウム基板は、「径が0.05?0.7mmのバイアホールを有する」ものであって、この「バイアホールにはタングステンまたはモリブデンを主成分とする導電部を具備すると共に、前記導電部と前記窒化アルミニウム基板とが同時焼成法により作製されたもの」であるのに対し、引用発明は、かかる事項を有していない点。

・相違点B
本件補正発明は、「導電性薄膜と導電部とが接合している」のに対し、引用発明は、かかる事項を有していない点。

・相違点C
単位面積50μm×50μm中に2.5個以下の脱粒痕について、本件補正発明は、最大径が5μm以上であるのに対し、引用発明では最大径について特定されていない点。

・相違点D
本件補正発明は、「(ホ)窒化アルミニウム基板の表面に存在する脱粒痕の最大径が10μm以下」であるのに対し、引用発明は、かかる事項を有していない点。

上記相違点A?Dについて検討する。
・相違点Aについて
引用文献2には、記載事項(サ)に、「窒化アルミニウム焼結体の貫通孔に導電層が充填されてなる基板において、窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率が190W/mK以上であり、・・・該基板の相対する両面に導電パターンが形成され」と記載され、記載事項(シ)に、「窒化アルミニウム焼結体の貫通孔に導電層が充填されてなる基板とは、いわゆるビアを含む窒化アルミニウム焼結体で、貫通孔のサイズは特に限定されないが、直径は0.03?0.50mmであり、・・・また、導電層を構成する物質は高融点金属であれば特に限定されないが、通常タングステン、モリブデンなどの高融点金属であり、・・・」と記載されている。また、記載事項(ソ)には、「・・・圧入法により前記貫通孔を形成した窒化アルミニウムグリーンシート体の貫通孔内にタングステンペーストの充填を行った。・・・
このように作製したビアを有する窒化アルミニウム成形体を、・・・脱脂後、前記脱脂体を窒化アルミニウム製の容器に入れ、窒素雰囲気中1580℃で6時間加熱し(1段目焼成)、さらに1870℃で10時間加熱した(2段目焼成)。・・・」と記載されている。この2段階の焼成について、例えば、国際公開第01/94273号の第17頁第9行には、「2段加熱を採用した同時焼成法」ということが記載されている。
これらの記載から、引用文献2には、「直径が0.03?0.50mmの貫通孔にタングステン、モリブデンなどの導電層が充填された窒化アルミニウム基板」において、「前記導電層と窒化アルミニウム基板とが同時焼成法により作製」される点が記載されているといえる。
引用文献2の「貫通孔」について、記載事項(ソ)に、「φ0.65mmのパンチング用金型にて1.5mmピッチに打抜き、貫通孔が40×40個並んだものを用意した。・・・圧入法により前記貫通孔を形成した窒化アルミニウムグリーンシート体の貫通孔内にタングステンペーストの充填を行った。」と記載されている。
一方、本件補正発明の「バイアホール」は、本願明細書段落【0034】に、「直径0.25mmのバイアホールを打抜き加工により形成し、その後、前記高融点金属ペーストを充填した。」と記載されているから、引用文献2の「貫通孔」は、本件補正発明の「バイアホール」に相当するといえる。
そして、引用文献1と引用文献2とは、表面に導電膜が形成された180W/mK以上の熱伝導率を有する窒化アルミニウム基板という同一のものであるから、引用発明のAlN基板において、引用文献2の「直径が0.03?0.50mmの貫通孔にタングステン、モリブデンなどの導電層が充填された窒化アルミニウム基板において、「前記導電層と窒化アルミニウム基板とが同時焼成法により作製」する技術を採用し、相違点Aに係る本件補正発明の特定事項をなすことは、当業者が容易に想到し得ることである。

・相違点Bについて
引用文献2には、記載事項(サ)に、「該基板の相対する両面に導電パターンが形成され、該両面に存在する導電パターンの少なくとも一部が導電層により電気的に互いに接続されてなる」と記載されており、前記「両面に存在する導電パターンの少なくとも一部が導電層により電気的に互いに接続されてなる」ことは、「導電パターンの少なくとも一部と導電層とが接合している」ことであるといえる。
そして、引用文献1と引用文献2とは、表面に導電膜が形成された180W/mK以上の熱伝導率を有する窒化アルミニウム基板という同一のものであるから、引用発明のAlN基板において、引用文献2の「導電パターンの少なくとも一部と導電層とが接合」する技術を採用し、相違点Bに係る本件補正発明の特定事項をなすことは、当業者が容易に想到し得ることである。

・相違点Cについて
本件補正発明が、最大径5μm以上の脱粒痕の数が単位面積50μm×50μm中に5個以下とすることについて、本願明細書段落【0023】には、「また、従来の熱伝導率180W/mK以上の窒化アルミニウム基板は結晶粒子サイズが大きいことから、鏡面加工を施すと大きな脱粒痕が多くでき易かった。これは結晶粒子サイズが大きいことから一つの窒化アルミニウム結晶粒子が脱粒するだけで、例えば最大径7μm以上の大きな脱粒痕ができてしまう。また、結晶粒子サイズが大きいことから単位面積当たりにおいて結晶粒子を固定するための粒界相の割合が実質的に少なくなってしまい脱粒が起き易くなってしまっていた。」と記載され、同【0024】には、「熱伝導率180W/mK以上を保ちつつ、適度な粒界相量を具備していることから脱粒が起き難く、仮に脱粒が起きたとしても最大径5μm以上の脱粒痕は少なくて済むことになる。」と記載されており、本件補正発明は、適度な粒界相量とすることで、最大径5μm以上の脱粒痕の数を単位面積50μm×50μm中で5個以下にしているといえる。
一方、引用文献1には、記載事項(カ)に、「本発明では、AlN基板において、任意の、一辺が10μmの正方形100μm^(2)の領域内に存在するAlN結晶粒子数を5以上としている。この数字が5未満、つまりは4以下であるとAlN結晶粒子に過度の粒成長(異常粒成長)を伴ったものが存在することになる。異常粒成長を伴ったAlN基板は熱伝導率が高くなるものの、AlN粒子が必要以上に大きいため表面研磨の際に脱粒が起き易くなる。一方、該領域内のAlN粒子数があまり大きすぎるとAlN粒子のサイズが小さくなるため熱伝導率が180W/m・k未満になり易い。従って、好ましいAlN結晶粒子数は5以上10以下となる。」と記載され、記載事項(キ)に、「本発明では該領域内に入る粒界の総長さを100μm以下にしている。粒界の総長さが100μmを超えると粒界量が多すぎるため熱伝導率が低下し易い。一方、粒界の総長さが少ないと確かに熱伝導率は向上するが、AlN結晶粒子の結合力が落ちるため脱粒が起き易くなってしまう。従って、該領域内における粒界の総長さの好ましい範囲は30μm以上100μm以下である。
このような構成を具備するAlN基板であれば表面研磨の際の脱粒を防ぎ、かつ熱伝導率を180W/m・k以上と高熱伝導率を為し得ることが可能である。」と記載されており、引用発明は、粒界の総長さを30μm以上100μm以下とすることにより、任意の一辺が100μmの正方形10000μm^(2)の領域内に存在する脱粒痕の数が10個以下にしているといえ、前記粒界の総長さの下限を設定し、換言すれば、AlN結晶粒子の大きさに制限をかけて、脱粒痕の大きさに制限をかけているといえる。
してみると、引用発明も脱粒痕の大きさに制限をかけているといえるから、本件補正発明のように、脱粒痕の最大径を5μm以上とするか否かは、窒化アルミニウム基板の表面粗さや要求される熱伝導率に応じて、当業者が適宜選択しうる設計事項に過ぎない。

・相違点Dについて
上記相違点Cの検討で述べたとおり、引用発明も脱粒痕の大きさに制限をかけているといえるから、本件補正発明のように、脱粒痕の最大径を10μm以下に制限するか否かは、窒化アルミニウム基板の表面粗さや要求される熱伝導率に応じて、当業者が適宜選択しうる設計事項に過ぎない。

よって、本件補正発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により出願の際独立して特許を受けることができない。

したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

仮に、本件補正が特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものとしても、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成20年9月11日付け手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年1月24日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
径が0.05?0.7mmのバイアホールを有する窒化アルミニウム基板であって、このバイアホールにはタングステンまたはモリブデンを主成分とする導電部を具備すると共に、前記導電部と前記窒化アルミニウム基板とが同時焼成法により作製されたものであり、前記基板における窒化アルミニウム結晶粒子が前記基板における直線距離50μmの直線上に15?30個存在し、かつ下記(イ)?(ハ)を満たす窒化アルミニウム基板の片面あるいは両面に導電性薄膜が形成されてなることを特徴とする、薄膜付き窒化アルミニウム基板。
(イ)窒化アルミニウム基板の熱伝導率が180W/mK以上
(ロ)窒化アルミニウム基板の表面に存在する最大径5μm以上の脱粒痕の数が単位面積50μm×50μm中に5個以下
(ハ)窒化アルミニウム基板の厚さが0.1?1mm」

4.引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1及び2、並びにその記載事項は、上記(3-2)に記載したとおりである。

5.引用発明
引用発明については、上記(3-3)で述べたとおりである。

6.対比・判断
引用発明と本願発明との一致点については、上記(3-4)で述べたとおりである。また、本願発明は、本件補正発明の、「この導電性薄膜と導電部とが接合している」、「(ニ)窒化アルミニウム基板の表面粗さ(Ra)が0.5μm以下」、「(ホ)窒化アルミニウム基板の表面に存在する脱粒痕の最大径が10μm以下」を削除したものであるから、引用発明と本願発明との相違点は、上記(3-4)で述べた相違点A、Cであり、これら相違点の検討についても、上記(3-4)で述べたとおりである。

7.回答書における主張について
なお、請求人は、回答書の(6)において、「そして、引用文献2の全ての実施例(実施例1?19)は、いずれも、2段目の焼成温度が1870℃?1930℃([表2]、[表3])であって、引用文献1での焼結温度(即ち、「1850℃以下」)[0032]とは、明らかに異なる温度範囲を採用するものです。引用文献2のように焼成温度が高温である場合、引用文献1と同一ないし同等な微細構造を有する窒化アルミニウムが形成されるかどうかは、全く不明です。
とりわけ、引用文献1の「比較例」として示された「試料No.5」(焼結温度:1900℃、焼結時間:10時間)([表1])では、「異常粒成長が確認され、所定領域におけるAlN結晶粒子数は3と本願の範囲外であったため脱粒性は「不良」であった。」([0051])ことを考慮しますと、引用文献2のような高温の焼成温度を採用した場合(例えば、引用文献2の「実施例17」(焼成温度:1900℃、焼成時間:10時間))には、引用文献1と同一ないし同等な微細構造を有する窒化アルミニウムは形成されないと、当業者は考えると思われます。」と主張しているので一応検討する。
引用文献2の実施例16は、2段目の焼成温度が1820℃であり、上記「引用文献1での焼結温度(即ち、「1850℃以下」)[0032]」を満たす場合に相当するから、そのような場合であれば、引用文献1と同一ないし同等な微細構造を有する窒化アルミニウムが形成されるものと推認されるので、引用文献2の全ての実施例(実施例1?19)で引用文献1と同一ないし同等な微細構造を有する窒化アルミニウムが形成されないとする請求人の主張は採用できない。

8.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願は他の請求項について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。

よって、上記のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-08 
結審通知日 2011-09-09 
審決日 2011-09-21 
出願番号 特願2001-394867(P2001-394867)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (C04B)
P 1 8・ 571- Z (C04B)
P 1 8・ 121- Z (C04B)
P 1 8・ 574- Z (C04B)
P 1 8・ 575- Z (C04B)
P 1 8・ 573- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 押見 幸雄大橋 賢一  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 吉川 潤
中澤 登
発明の名称 薄膜付き窒化アルミニウム基板およびこれからなるレーザー発光素子用サブマウント材  
代理人 中村 行孝  
代理人 吉武 賢次  
代理人 吉武 賢次  
代理人 紺野 昭男  
代理人 中村 行孝  
代理人 横田 修孝  
代理人 紺野 昭男  
代理人 横田 修孝  

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