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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K |
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管理番号 | 1246059 |
審判番号 | 不服2010-28294 |
総通号数 | 144 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-12-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-12-14 |
確定日 | 2011-11-04 |
事件の表示 | 特願2004-183308「回転子,電動機,圧縮機及び送風機,並びに空気調和器」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 1月12日出願公開,特開2006- 14389〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願の発明 本願は,平成16年6月22日の出願であって,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明1」という。)及び請求項2に係る発明(以下,「本願発明2」という。)は,平成22年12月14日付けの手続補正書により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。 (本願発明1) 「所定の回転軸(M)の回りに回転可能であって, 複数の永久磁石(32)を埋設して含み, 前記永久磁石の各々は,前記回転軸に垂直な法線を共有する二つの磁極面を有し, 前記二つの磁極面のいずれもが偶数の辺を有する略正多角形である回転子(2)。」 (本願発明2) 「所定の回転軸(M)の回りに回転可能であって, 複数の永久磁石(31)を埋設して含み, 前記永久磁石の各々は,前記回転軸に平行な円筒の側面を呈する二つの磁極面を有し, 前記二つの磁極面の前記回転軸と直交する辺の長さの平均値(aavg)と,前記円筒の高さ(b)とがほぼ等しい回転子(2)。」 なお,上記手続補正書による特許請求の範囲についての補正は,請求項の削除を目的とするものであるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に適合するものである。 2.本願発明1について (1)引用例 原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-103543号公報(以下,「引用例1」という。)には,図面と共に次の事項が記載されている。 ・「【0003】 【発明が解決しようとする課題】・・・本発明は,部品点数および加工工数が少なく,構造が簡単なコギングトルクの小さい,また鉄損が少ない内磁形モータのロータを提供することを目的とするものである。」 ・「【0006】 【実施例】以下,本発明を図に示す実施例について説明する。図1は本発明の第1実施例である。図1(a)はロータの形状を示すものであり,1はロータコア,11は磁石装着穴,12は漏洩磁束防止穴,2は永久磁石である。本実施例では,図1(a)に示すロータコア1の形状に対し,図1(b)に示すように,ロータの磁石装着穴11に挿入する永久磁石2を軸方向に複数個分割し,ロータの中央部の磁石2aの形状を長方形,両端面にある磁石2bの形状を二等辺三角形にして,すべての磁石で作られた全体形状が舟形となるようにしている。このように構成することにより,図1(c)に示すようにロータコア1の長手方向の磁束密度が台形状となる。・・・図1,図2,図3に示す実施例では,磁石形状を図示のようにすることで,ギャップ磁束密度分布の高調波成分をモータの軸方向分布で低減し,これによりコギングトルクおよび,トルクリップルを低減することが可能となる。」 ・「【0008】・・・前記ステータコアに生じる鉄損は,下式に示すように, ・鉄損:Wi∝B2(ステータティースおよびヨークの磁束密度) ・鉄損:Wi∝G (ステータコア重量) 磁束密度の2乗に比例し,コア重量に比例するので,前記ステータ各部の磁束密度を下げることは,その部分に生じる鉄損を低減するのに大きな効果がある。したがって,最終的な効果として,モータ効率の向上につながる。」 ・「【0009】 【発明の効果】以上述べたように,本発明によれば,磁石装着穴に装着される永久磁石を複数の永久磁石片の組み合わせで形成し,かつ組み合わせて前記磁石装着穴に装着した状態で,磁石装着穴の上下部を通る磁束の磁束密度が,永久磁石全体を通る磁束の平均磁束密度に対して小さくなるような前記永久磁石片の形状および/または組み合わせとしたことにより,ステータやロータコアにスキュー溝を設けることなく,加工工数の少ない,構造が簡単なコギングトルク,そしてトルクリップルの小さい内磁形モータのロータを提供することができる。また,ステータコアに生じる鉄損が低減するので,モータ効率も向上する。」 ・図1には,所定の回転軸の回りに回転可能であって,複数の永久磁石2の各々は,回転軸に垂直な磁極中心軸を共有する二つの磁極面を有し,二つの磁極面のいずれもが6つの辺を有する六角形であるロータの構成が示されている。 これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例1には次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「所定の回転軸の回りに回転可能であって, 長方形の磁石片2aと2つの二等辺三角形の磁石片2bとを組み合わせて形成した複数の永久磁石2が磁石装着穴11に装着されており, 前記永久磁石2の各々は,前記回転軸に垂直な磁極中心軸を共有する二つの磁極面を有し, 前記二つの磁極面のいずれもが6つの辺を有する六角形であるロータ。」 (2)対比 本願発明1と引用発明1を対比すると,その機能・作用からみて,後者の「長方形の磁石片2aと2つの二等辺三角形の磁石片2bとを組み合わせて形成した複数の永久磁石2が磁石装着穴11に装着されており」とする態様は前者の「複数の永久磁石を埋設して含み」とする態様に,後者の「回転軸に垂直な磁極中心軸」は前者の「回転軸に垂直な法線」に,後者の「6つの辺」は前者の「偶数の辺」に,それぞれ相当している。 また,後者の「六角形」と前者の「略正多角形」とは,「多角形」との概念で共通している。 さらに,後者の「ロータ」は前者の「回転子」に相当している。 したがって,両者は, 「所定の回転軸の回りに回転可能であって, 複数の永久磁石を埋設して含み, 前記永久磁石の各々は,前記回転軸に垂直な法線を共有する二つの磁極面を有し, 前記二つの磁極面のいずれもが偶数の辺を有する多角形である回転子。」 である点で一致し,次の点で相違する。 [相違点1] 永久磁石の磁極面の形状である「多角形」に関し,本願発明1は,「略正多角形」としているのに対し,引用発明1は,「六角形」としている点。 (3)判断 上記相違点1について以下検討する。 引用発明1において,永久磁石の磁極面の形状は,コギングトルクの小さい,鉄損が少なくモータ効率の向上した内磁形モータのロータを提供するとの課題の下に,磁石装着穴の上下部を通る磁束の磁束密度が,永久磁石全体を通る磁束の平均磁束密度に対して小さくなるような形状の範囲内で,良好な特性が得られるものとして適宜選定し得るものである。 また,一般に,六角形という形状の概念中に,正六角形ないし略正六角形が含まれることは技術常識であり,引用発明1において,回転子の軸方向の長さ寸法に合わせて各磁石片(長方形の磁石片2aと2つの二等辺三角形の磁石片2b)の寸法を調整することで,永久磁石の磁極面の形状を容易に略正六角形とし得ることは明らかであると共に,永久磁石の磁極面の形状を略正六角形としたものにおいても,上述した課題及び形状の範囲内であることを満たすことも明らかであるから,六角形の形状から特に略正六角形の形状のみを除外すべき格別の理由は何等認めらない。 さらに,本願発明1において,永久磁石の磁極面の形状を略正多角形としたものが,同形状が略正多角形を除く略正多角形に近いものに比して,格別顕著な効果を奏することになるとも解されない。 そうすると,引用発明1において,上記課題及び形状の範囲内のものとして,六角形である永久磁石の磁極面の形状を略正六角形(即ち,略正多角形)に特定することで,上記相違点1に係る本願発明1の構成とすることは,かかる特定に際し,格別の技術的困難性及び技術的阻害要因を伴うものとも解されない以上,当業者が容易に想到し得たものというべきである。 そして,本願発明1の全体構成により奏される「永久磁石の体積当たりの電動機効率を高める」との効果も,引用発明1の永久磁石の磁極面の形状を略正六角形に特定したものに付随される効果にすぎないものというべきである。 したがって,本願発明1は,引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 3.本願発明2について (1)引用例 原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-38415号公報(以下,「引用例2」という。)には,図面と共に次の事項が記載されている。 ・「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は永久磁石を用いたモータ用ロータ及び発電機用ロータに関するものである。」 ・「【0011】本発明の主たる目的は,永久磁石を用いたモータ用ロータ及び発電機用ロータにおいて,発生磁束量が大きく,高周速回転に適したロータ構造を実現することにある。 【0012】 【課題を解決するための手段】上記問題点を解決するために本発明において,以下の手段を用いた。技術ポイントとしては,遠心力に抗するために永久磁石をロータ内部に埋め込み,軟磁性金属により永久磁石を機械的に保持したこと,永久磁石の発生する磁束の大部分を軟磁性金属を通ってロータ外周に供給することにより,発生磁束量を従来の同極反発ロータよりも向上したことにある。 【0013】すなわち,ロータ基体を内筒部および軟磁性金属から構成される外筒部とから構成し,この内筒部と外筒部との間に磁気的に一体である永久磁石とを配置した磁極数が4極以上である永久磁石式ロータを用いることにより,前記問題を解決した。 【0014】 【作用】以下本発明を詳述する。まず軟磁性金属から構成される外筒部について説明する。本発明では,この外筒部が永久磁石を機械的に保持する働きと,永久磁石の発生する磁束をロータ外部に効率よく通す働きの2通りの役目をはたしている。 【0015】外筒部が永久磁石を機械的に保持する利点は先に述べた遠心力対策と熱膨張対策である。本発明の方式では永久磁石をロータ内に埋め込んだ構造となっており,ロータ回転時に発生する遠心力を外筒部で機械的に受けとめるためきわめて信頼性が高い。」 ・「【0020】本発明では,磁気的に一体である永久磁石の発生する磁束が軟磁性金属を通ってロータ外周側に供給されるロータ形状とすることにより,従来の同極反発ロータよりも磁束発生効率を向上させた。このためには,従来の同極反発ロータが有していたロータ内径側への磁束の漏れを少なくするように永久磁石を配置すれば良い。ここで,磁気的に一体であるとは,回転軸に垂直な断面において,ロータ外周に現れる磁極に対応する永久磁石が分割されていない,または,着磁された複数の永久磁石が同一極が並ぶようにして接触または小さな隙間をもって配置しており,磁気回路上は一体の永久磁石と見なせる状態をいう。 【0021】これらの例を図1,図2に示す。図1,2において11,21は永久磁石,12,13はそれぞれ軟磁性金属から構成される外筒部,内筒部である。内筒部3は永久磁石間の磁気抵抗を少なくする働きをになっている。図1は,永久磁石が分割されていない場合の例である。図2は永久磁石が分割されているが,磁気的に一体の場合の例である。永久磁石が発生する磁束の約80%以上がロータ外周部に供給されれば,磁気的に一体であると考えてよい。図1において,外筒部12は回転軸に垂直な断面上でロータ中心から磁石の重心を通る直線上に位置し永久磁石11を機械的に拘束する。また図1の永久磁石11は内外周の曲率半径が一様であるが,例えば曲率半径大と小の組み合わせからなるようにすれば磁石の周方向への動きを拘束することができる。」 ・「【0041】 【発明の効果】本発明により,表面磁束密度が高く,高回転に耐える信頼性の高いロータ構造を実現可能である。」 ・図1には,所定の回転軸の回りに回転可能であって,複数の永久磁石11の各々は,前記回転軸に平行な円筒の側面を呈する二つの磁極面を有するロータの構成が示されている。 これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例2には次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。 「所定の回転軸の回りに回転可能であって, 複数の永久磁石11を埋め込んだ構造となっており, 前記永久磁石11の各々は,前記回転軸に平行な円筒の側面を呈する二つの磁極面を有するロータ。」 (2)対比 本願発明2と引用発明2を対比すると,その機能・作用からみて,後者の「複数の永久磁石11を埋め込んだ構造となっており」とする態様は前者の「複数の永久磁石を埋設して含み」とする態様に,後者の「ロータ」は前者の「回転子」に,それぞれ相当している。 したがって,両者は, 「所定の回転軸の回りに回転可能であって, 複数の永久磁石を埋設して含み, 前記永久磁石の各々は,前記回転軸に平行な円筒の側面を呈する二つの磁極面を有し(た)回転子。」 である点で一致し,次の点で相違する。 [相違点2] 永久磁石の磁極面に関し,本願発明2は,「二つの磁極面の回転軸と直交する辺の長さの平均値と,円筒の高さとがほぼ等しい」としているのに対し,引用発明2は,かかる辺の長さと円筒の高さとの寸法関係が特定されていない点。 (3)判断 上記相違点2について以下検討する。 引用発明2において,円筒の一部をなす永久磁石の形状,即ち,回転軸と直交する辺と円筒の高さとの寸法関係は,発生磁束量が大きく,高周速回転に適するとの目的を達成する範囲内のものとして,当業者が適宜設定し得るものである。 また,引用発明2において,永久磁石の円筒の高さ寸法を回転子の軸方向の長さ寸法に合わせて調整することで,「二つの磁極面の回転軸と直交する辺の長さの平均値と,円筒の高さとがほぼ等しい」寸法関係が容易に生じ得ることは明らかであると共に,永久磁石をかかる寸法関係にしたものにおいても,上述した目的が達成されることも明らかであるから,特にかかる寸法関係のもののみを除外すべき格別の理由は何等認めらない。 さらに,本願発明2において,永久磁石を上述した寸法関係としたものが,同寸法関係を除く同寸法関係に近いものに比して,格別顕著な効果を奏することになるとも解されない。 そうすると,引用発明2において,上記目的を達成する範囲内のものとして,永久磁石を上記寸法関係のものに特定することで,上記相違点2に係る本願発明2の構成とすることは,かかる特定に際し,格別の技術的困難性及び技術的阻害要因を伴うものとも解されない以上,当業者が容易に想到し得たものというべきである。 そして,本願発明2の全体構成により奏される「永久磁石の体積当たりの電動機効率を高める」との効果も,引用発明2の永久磁石の磁極面の形状を上記寸法関係に特定したものに付随される効果にすぎないものというべきである。 したがって,本願発明2は,引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.請求人の主張について なお,請求人は,平成22年12月14日付け審判請求書において,本願発明1及び2では,パーミアンスを複数の磁路空間に基づいて計算し,その結果から適切な永久磁石の磁極面の形状を導き出しているのに対し,各引用発明には,当業者がかかる観点で解析する動機付けがない旨主張しているが,本願発明1及び2において,永久磁石の磁極面の形状を,パーミアンスの観点で解析することが発明特定事項とはされていないため,請求人の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものとして,採用できない。 5.むすび 以上のとおり,本願発明1は引用発明1に基いて,また,本願発明2は引用発明2に基いて,それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないため,本願は,同法第49条第2号の規定に該当し,拒絶をされるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-09-02 |
結審通知日 | 2011-09-06 |
審決日 | 2011-09-20 |
出願番号 | 特願2004-183308(P2004-183308) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H02K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大山 広人 |
特許庁審判長 |
田村 嘉章 |
特許庁審判官 |
冨江 耕太郎 大河原 裕 |
発明の名称 | 回転子、電動機、圧縮機及び送風機、並びに空気調和器 |
代理人 | 吉竹 英俊 |
代理人 | 福市 朋弘 |
代理人 | 有田 貴弘 |