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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1246755
審判番号 不服2009-4152  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-02-26 
確定日 2011-11-07 
事件の表示 特願2001- 26006「脂質代謝改善組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 8月14日出願公開、特開2002-226394〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年2月1日の出願であって、拒絶理由通知に応答して平成20年12月24日付けで手続補正がなされるとともに意見書が提出され、平成21年1月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年2月26日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成21年3月27日付けで手続補正がなされ、審判請求理由について平成21年5月13日付けで手続補正書(方式)が提出され、その後、前置報告書を用いた審尋がなされ平成23年7月15日付けの回答書が提出されたものである。

2.平成21年3月27日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年3月27日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、
補正前(平成20年12月24日付けの手続補正書参照)の
「【請求項1】
ホエイタンパク質および/または該ホエイタンパク質加水分解物と、牛乳由来のリン脂質との組み合わせからなる脂質代謝改善組成物であって、
ホエイタンパク質および/または該ホエイタンパク質加水分解物と、牛乳由来のリン脂質との組み合わせ重量比が9:1?1:9である、前記の脂質代謝改善組成物。
【請求項2】
ホエイタンパク質がホエイタンパク質分離物(WPI)である請求項1に記載の脂質代謝改善組成物。
【請求項3】
脂質代謝改善作用が血清総コレステロールの上昇抑制または低下ならびに肝臓コレステロールおよびトリグリセリドの上昇抑制または低下に代表される請求項1または2に記載の脂質代謝改善組成物。
【請求項4】
脂質代謝改善作用が高脂血症、高コレステロール血症、または高トリグリセリド血症の予防または改善である請求項3に記載の脂質代謝改善組成物。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載の脂質代謝改善組成物を含有する飲食品。
【請求項6】
機能性食品、栄養補助食品、または特別用途食品である請求項5に記載の飲食品。
【請求項7】
特別用途食品が病者用食品、高齢者用食品、または特定保健用食品である請求項6に記載の飲食品。
【請求項8】
脂質代謝改善作用を有する飲食品を製造するための請求項1?4のいずれか1項に記載の脂質代謝改善組成物の使用。
【請求項9】
飲食品が機能性食品、栄養補助食品、または特別用途食品である請求項8に記載の使用。
【請求項10】
特別用途食品が病者用食品、高齢者用食品、特定保健用食品である請求項9に記載の使用。
【請求項11】
ホエイタンパク質および/または該ホエイタンパク質加水分解物と、牛乳由来のリン脂質との組み合わせからなる脂質代謝改善組成物を製造する方法であって、
(1)牛乳から得たホエイからホエイタンパク質および/または該ホエイタンパク質加水分解物を得る工程、
(2)牛乳から牛乳由来のリン脂質を得る工程、
(3)工程(1)で得られたホエイタンパク質および/または該ホエイタンパク質加水分解物と、工程(2)で得られた牛乳由来のリン脂質とを、重量比が9:1?1:9となるように配合する工程
を含む、前記の方法。」から、
補正後(平成21年3月27日付けの手続補正書参照)の
「【請求項1】
ホエイタンパク質および/または該ホエイタンパク質加水分解物を含む脂質代謝改善組成物であって、前記ホエイタンパク質および/または該ホエイタンパク質加水分解物に対し、ホエイ、脱脂乳またはバターゼラム由来のリン脂質を9:1?1:9の重量比で組み合わせてなり、血清総コレステロールの上昇を抑制または低下させる脂質代謝改善作用を有する、前記脂質代謝改善組成物。
【請求項2】
ホエイタンパク質がホエイタンパク質分離物(WPI)である、請求項1に記載の脂質代謝改善組成物。
【請求項3】
血清総コレステロールの上昇を抑制または低下、肝臓コレステロールの上昇を抑制または低下、ならびにトリグリセリドの上昇を抑制または低下させる脂質代謝改善作用を有する、請求項1または2に記載の脂質代謝改善組成物。
【請求項4】
高脂血症、高コレステロール血症、または高トリグリセリド血症を予防または改善させる脂質代謝改善作用を有する、請求項3に記載の脂質代謝改善組成物。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載の脂質代謝改善組成物を含有する飲食品。
【請求項6】
機能性食品、栄養補助食品、または特別用途食品である、請求項5に記載の飲食品。
【請求項7】
特別用途食品が、病者用食品、高齢者用食品、または特定保健用食品である、請求項6に記載の飲食品。
【請求項8】
脂質代謝改善作用を有する飲食品を製造するための、請求項1?4のいずれか1項に記載の脂質代謝改善組成物の使用。
【請求項9】
飲食品が、機能性食品、栄養補助食品、または特別用途食品である、請求項8に記載の使用
【請求項10】
特別用途食品が、病者用食品、高齢者用食品、または特定保健用食品である、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
ホエイタンパク質および/または該ホエイタンパク質加水分解物と、牛乳由来のリン脂質との組み合わせからなる脂質代謝改善組成物を製造する方法であって、
(1)牛乳から得たホエイからホエイタンパク質および/または該ホエイタンパク質加水分解物を得る工程、
(2)牛乳から牛乳由来のリン脂質を得る工程、
(3)工程(1)で得られたホエイタンパク質および/または該ホエイタンパク質加水分解物と、工程(2)で得られた牛乳由来のリン脂質とを、重量比が9:1?1:9となるように配合する工程
を含む、前記方法。」
と補正された。

上記補正によって、少なくとも請求項1において、(a)補正前の「牛乳由来のリン脂質」が「ホエイ、脱脂乳またはバターゼラム由来のリン脂質」と補正され、(b)補正前の「前記の脂質代謝改善組成物。」が「血清総コレステロールの上昇を抑制または低下させる脂質代謝改善作用を有する、前記脂質代謝改善組成物。」と補正されたものと認められるので、以下、これらの点について検討する。

(a)の点の補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「リン脂質」について、その由来を「牛乳」から「ホエイ、脱脂乳またはバターゼラム」と限定したものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の(以下、単に「平成18年改正前」ともいう。)特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(b)の点の補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「脂質代謝改善組成物」について、その作用を「血清総コレステロールの上昇を抑制または低下させる脂質代謝改善作用を有する」と限定したものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用され本願出願前に頒布された、国際公開第97/09059号(以下、「引用例1」という。)及び粂久枝 他, 牛乳由来リン脂質による血中コレステロ-ルの降下および肝臓蓄積脂質量の低下, 日本栄養・食糧学会総会講演要旨集, 2000, Vol.54th, p.79(以下、「引用例2」という。)には、次のことが記載されている。なお、下線は当審が付した。

[引用例1]
(1-i)「1.結合リン脂質の含有量が10重量%以上である、タンパク質とリン脂質との結合物またはタンパク質の加水分解物とリン脂質との結合物。」(請求の範囲の請求項1参照)
(1-ii)「4.結合リン脂質の含有量が、10?50重量%である請求の範囲1記載の結合物。」(請求の範囲の請求項4参照)
(1-iii)「6.タンパク質が、小麦、大豆、トウモロコシまたは牛乳に由来するものである請求の範囲1記載の結合物。」(請求の範囲の請求項6参照)
(1-iv)「9.結合リン脂質の含有量が10重量%以上である、タンパク質とリン脂質との結合物またはタンパク質の加水分解物とリン脂質との結合物からなる脂質代謝改善剤。」(請求の範囲の請求項9参照)
(1-v)「11.結合リン脂質の含有量が10重量%以上である、タンパク質とリン脂質との結合物またはタンパク質の加水分解物とリン脂質との結合物からなるコレステロール代謝改善剤。」(請求の範囲の請求項11参照)
(1-vi)「近年、成人病、中でも心臓血管系の疾患による死亡率が急増している。そして、その発症の危険率と血中コレステロール濃度の相関が指摘されている。このような中、食品成分により血中コレステロール濃度を下げようという試みがなされている。例えば、血中のコレステロール濃度を下げるタンパク質として、ホエータンパク質[Agric.Biol.Chem.,55,813(1991)]、大豆タンパク質[Atherosclerosis, 72 ,115(1988)]、乳清タンパク質(特開平5-176713号公報)、大豆タンパク加水分解物[J.Nutr.,120 ,977(1990)]等が知られている。
また、卵黄リン脂質が血中のコレステロール濃度を低下させることが知られている[Agric.Biol.Chem.,53,2469(1989)]。
さらに、ラクトアルブミン、コラーゲン、大豆タンパク質または小麦グルテンと大豆レシチン(0、2.5および5%)との組み合わせにより血中のコレステロール濃度を低下させる試みがされている[Nutr.Rep.Int.,28,621(1983)]。
6%の大豆レシチンを含む組織状の大豆タンパク質を用いて血中のコレステロール濃度を低下させる方法が知られている[Ann.Nutr.Metab., 29, 348(1985)]。」(1頁11?26行参照)
(1-vi)「タンパク質とリン脂質との結合物は、市販されているものを用いてもよいが、タンパク質とリン脂質とを、好ましくは水の存在下にて、混合撹拌機を用いて、タンパク質100重量部に対してリン脂質10?100重量部の割合で混合することにより製造される。タンパク質100重量部に対して、リン脂質20?50重量部、好ましくは30?40重量部の割合で混合して本発明の結合物を製造すると、結合物中の結合リン脂質の含有量が高くなり、かつ結合リン脂質量が総リン脂質量に占める割合が高くなり、好ましい。この製造方法としては、タンパク質に、水に分散させたリン脂質分散液を添加し、室温にて、強力混合機(50?200rpm)またはホモジナイザー(5,000?15,000rpm)等を用いる混合する方法が例示される。」(2頁26行?3頁6行参照)
(1-vii)「試験例1
試験方法
5週令のwistar系雄ラットを用い、市販の固形飼料(MF:オリエンタル酵母工業社製)を3日間与え、体重に有意差が生じないように1群6匹に分けて行った。各試験群に用いる飼料は、第1表に示すように、タンパク質はタンパク質レベルが20%となるように配合し、さらに各試験群の総重量が等しくなるようにシュークロースを添加して調製した。各試験群ともに飼料を等量ずつ与えて10日間飼育後、血清総コレステロール、血清HDL(High Density Lipoprotein)コレステロール、肝臓総コレステロールを測定した。


結果を第2表に示す。

表から明らかな如く、血清総コレステロールについては、試験群3および4は試験群2とほぼ同じ値であるが、血清HDLコレステロールについては、試験群1および2に比べて増加している。これら血清総コレステロールおよび血清HDLコレステロールの関係を動脈硬化指数で見ると、試験群3および4の動脈硬化指数は試験群1および2のそれに比べて大きくなっており、血清中のコレステロールが代謝改善されていた。さらに、肝臓総コレステロールについても、試験群3および4は試験群1および2に比べて減少していた。なお、試験群間で摂食量および体重増に有意な差は見られなかった。」(6頁5行?8頁下から4行)

[引用例2]
(2-i)「牛乳由来の高純度リン脂質濃縮画分(38.6%PC、12.8%PE、19.3%SM)を添加した餌を与えた時、血中コレステロールおよび肝臓中の脂質量がどのような影響を及ぼすかを検討した。また、大豆由来精製リン脂質画分(29.8%PC、25.4%PE、18.0%PI、10.6%PA)との比較を行った。」(【目的】参照)
(2-ii)「牛乳由来リン脂質を与えることにより、血中コレステロールの値が有意に降下した。この血中コレステロールの降下は、コレステロールエステル、LDL-コレステロールの降下によるものであった。一方、血中のトリグリセリドの濃度に変化は見られなかった。肝臓の脂質(コレステロール、トリグリセリド)の蓄積量は、牛乳由来リン脂質画分により有意に低下した。牛乳由来リン脂質画分の降コレステロール作用を大豆由来リン脂質画分による作用と比較すると、牛乳由来リン脂質画分を与えた場合の方が、より顕著な血中コレステロールの降下、および肝臓蓄積脂質量の低下が見られた。」(【結果】参照)

(3)対比、判断
引用例1には、上記「(2)[引用例1]」の記載によれば、コレステロールの代謝改善を目的とした、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。
「結合リン脂質の含有量が10重量%以上である、タンパク質とリン脂質との結合物からなる脂質代謝改善剤。」

そこで、本願補正発明と引用例1発明とを対比する。
(a)引用例1には、結合リン脂質含量が1%に過ぎないタンパク質を投与された試験群1の血清総コレステロール(111.0±10.0mg/dl)に比較して、結合リン脂質含量が20%のタンパク質・リン脂質結合体を投与された試験群3及び試験群4の血清総コレステロール(79.3±7.1mg/dl及び77.2±4.5mg/dl)は低い値である(摘記(1-vii)の第1?2表参照)ことが記載されている。このことから、引用例1発明の脂質代謝改善剤は、血清総コレステロールの上昇を抑制または低下させる作用を有すると認められる。
また、引用例1発明の「脂質代謝改善剤」が、本願補正発明の「脂質代謝改善作用を有する、脂質代謝改善組成物」に相当することは明らかである。
したがって、引用例1発明の「脂質代謝改善剤」は、本願補正発明の「血清総コレステロールの上昇を抑制または低下させる脂質代謝改善作用を有する、脂質代謝改善組成物」に相当する。

(b)本願明細書には「本発明における「組成物」という用語は、ホエイタンパク質および/または該ホエイタンパク質加水分解物と乳由来のリン脂質との混合物を含み、均一物および不均一物を含む。さらに不純物が含まれていてもよい。また一部結構物(当審注:「結合物」の誤記と認められる。)を形成していてもよい。」(【0021】段落参照)と記載されている。このことから、本願補正発明の組成物は、タンパク質とリン脂質との単なる混合物だけではなく、タンパク質とリン脂質との結合物をも包含していると認められる。
したがって、本願補正発明の「タンパク質に対し、リン脂質を組み合わせてなり」は、引用例1発明の「タンパク質とリン脂質との結合物からなる」と相違するものではない。

してみると、両者は、
「タンパク質を含む脂質代謝改善組成物であって、前記タンパク質に対し、リン脂質を組み合わせてなり、血清総コレステロールの上昇を抑制または低下させる脂質代謝改善作用を有する、前記脂質代謝改善組成物。」の発明で一致し、以下の点で一応相違している。
<相違点>
1.タンパク質に関し、本願補正発明では「ホエイタンパク質および/または該ホエイタンパク質加水分解物」と特定されているのに対し、引用例1発明ではそのように特定されていない点
2.リン脂質に関し、本願補正発明では「ホエイ、脱脂乳またはバターゼラム由来」と特定されているのに対し、引用例1発明ではそのように特定されていない点
3.タンパク質とリン脂質との重量比について、本願補正発明では「9:1?1:9」と特定されているのに対し、引用例1発明ではそのように特定されていない点

そこで、これらの相違点について検討する。
(i)相違点1について
引用例1には、脂質代謝改善剤を構成するタンパク質として牛乳に由来するものを用いることが記載されている(摘記(1-iii)参照)。また、引用例1には、血中のコレステロール濃度を下げるタンパク質として、ホエー(当審注:ホエイ(whey)と同義である。)タンパク質が知られていることも記載されている(摘記(1-v)参照)。
引用例1に接した当業者にとって、引用例1中の上記の示唆に基づいて、血中コレステロール濃度の抑制作用を向上させる目的で、引用例1発明においてタンパク質を牛乳に由来するホエータンパク質に置き換えることは、容易に想到し得たことである。

(ii)相違点2について
引用例2には、大豆由来のリン脂質に比べて、牛乳由来リン脂質の方がより顕著な血中コレステロールの降下作用を有することが記載されている(摘記(2-ii)参照)。
引用例1及び2に記載の発明はいずれも、リン脂質を含む血中コレステロール濃度の抑制剤という同一の技術分野に属するものである。したがって、引用例1発明において、血中コレステロール濃度の抑制作用を向上させる目的で、より優れたリン脂質である引用例2に記載の牛乳由来リン脂質に置き換えることは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、牛乳由来のリン脂質の抽出方法として、ホエイ、脱脂乳又はバターゼラムから抽出することは、本願出願時に当業者にとって周知の技術的事項であったと認められる(例えば、特開2000-350563号公報の【0006】段落、特開平7-173182号公報の【請求項1】及び【0012】段落、特開平3-47192号公報の請求項1、3及び4を参照)。したがって、牛乳由来のリン脂質として、ホエイ、脱脂乳又はバターゼラム由来のものを採用することも、当業者が適宜なし得たことであり、格別の技術的意義は見あたらない。

(iii)相違点3について
引用例1には、タンパク質とリン脂質との結合物において、結合リン脂質の含有量が10?50重量%であると記載されている(摘記(1-ii)参照)。このことから、タンパク質の含有量は90?50重量%と解されるから、タンパク質とリン脂質との重量比に換算すると「1:9?5:5」となる。この数値範囲は、本願補正発明の「9:1?1:9」に包含される数値範囲であるから、相違点3は実質的な相違点ではない。

(iv)本願補正発明の作用効果について
本願補正発明の脂質代謝改善組成物が、顕著な脂質代謝改善効果を奏するといえるか検討する。
本願明細書の実施例2には、(1)高Chol(コレステロール)飼料(対照群)、(2)高Chol飼料中のカゼイン(14%)の全量をWPI(ホエイタンパク質分離物)で置換した飼料(WPI群)、(3)高Chol飼料中のコーンスターチの5%を牛乳由来のリン脂質で置換した飼料(リン脂質群)、および(4)Chol飼料中のカゼイン(14%)の全量をWPI置換し、さらにコーンスターチの5%を牛乳由来のリン脂質で置換した飼料(WPI+リン脂質群)(本願補正発明の脂質代謝改善組成物に相当)とし、10日間飼育した結果、血清中の脂質濃度変化(表2)及び肝臓中の脂質濃度変化(表3)が以下のとおりであったことが記載されている。

この実験系では、WPI+リン脂質群に与えた飼料に含まれるWPI+リン脂質の量は、ちょうど、WPI群に与えた飼料に含まれるWPIの量と、リン脂質群に与えた飼料に含まれるリン脂質の量との合計である。
一方、血清中の総Chol(mg/100ml)について、対照群と平均値で比較した低下量を見ると、WPI+リン脂質群では47.2低下している。この低下は、WPI群の41.2又はリン脂質群の37.1と比べると数値としては大きいが、同一肩文字bが付されているから、有意差を示すものではない。そうすると、WPI+リン脂質群での血清総コレステロール低下作用は、WPI群又はリン脂質群と比較して有意に優れているとはいえない。
仮に数値を詳細に検討したとしても、WPI群に与えた飼料に含まれるWPIの量と、リン脂質群に与えた飼料に含まれるリン脂質の量との合計を与えたにもかかわらず、WPI群で見られた低下とリン脂質群で見られた低下とを足し合わせた合計には達していない。そうすると、WPI+リン脂質群での血清総コレステロール低下作用は、飼料中に含まれるWPI及びリン脂質がそれぞれ有している血清総コレステロール低下作用を足し合わせたものにも達していないと認められるから、WPIとリン脂質との組み合わせによって予想外の作用効果を奏しているとはいえない。
また、血清中のHDL-Cholの増加、総Cholに占めるHDL-Cholの割合の増加及びLDL-Cholの低下について、並びに肝臓中の総脂質量の低下、コレステロールエステルの低下及びトリグリセリドの低下についても同様に、WPI+リン脂質群は、少なくともWPI群又はリン脂質群のいずれかと比較して有意差を示さない。そうすると、WPI+リン脂質群での作用効果は、WPI群と同程度であるか、又はリン脂質群と同程度であるに過ぎない。
仮に数値を詳細に検討しても、WPI+リン脂質群での作用は、せいぜい、飼料中に含まれるWPI及びリン脂質がそれぞれ有している作用を足し合わせたものに過ぎず、WPIとリン脂質との組み合わせによって予想外の作用効果を奏している事実は見いだせない。
そして、血清中のトリグリセリドについては、WPI+リン脂質群での低下は、リン脂質群での低下よりも劣っている。
このように、ホエイタンパク質と牛乳由来リン脂質とを組み合わせた本願補正発明の脂質代謝改善組成物の作用効果は、ホエイタンパク質又は牛乳由来リン脂質が単独で有する既知の脂質代謝改善作用と同程度に過ぎないか、仮に大きく見積もっても、2つの成分が有する脂質代謝改善作用がそれぞれ発揮されて足し合わされたものに過ぎず、2つの成分の組み合わせによって当業者の予測を超えた顕著な効果を奏するとは認められない。

(iv)請求人の主張について
請求人は、(A)本願発明の脂質代謝改善組成物は、引用例1に記載の脂質代謝改善剤に比べ、約3倍もの血清総コレステロールの上昇を抑制又は低下させるという顕著な効果を奏する、(B)本願発明は、WPIおよびリン脂質のそれぞれ単独では効果的に改善できなかった動脈硬化指数を、両者を組み合わせることによって顕著に改善できる、(C)本願発明は、乳製品の製造において副生し、排気されている材料を原料とし、入荷孔における廃棄量を低減し、牛乳資源の有効活用を実現する、乳加工品に関連する産業に極めて重大な変革をもたらす格別の効果を奏する、と主張しているので、これらについて順次検討する。

(A)請求人は「引用文献1(当審注:引用例1のことである。)の第3群では、大豆タンパク質と大豆レシチンとの結合体を飼料中に約40%で含有させることで、血清総コレステロールを31.7程度まで抑制する効果を示すものの、本願発明のWPIと牛乳由来リン脂質とを混合した場合(WPI+リン脂質群)では、飼料中に19%で含有させるだけで、血清総コレステロールを47.2程度もの抑制する効果を示す」(請求の理由に関する平成21年5月13日付け手続補正書(方式)参照)ことを根拠に、本願補正発明の脂質代謝改善組成物が、引用文献1に記載の脂質代謝改善剤に比べて顕著な効果を奏すると主張している。
しかし、本願の実施例と引用例1の実施例は、同じ実験条件下で行われたものではないため、両者を単純に比較して算出した数値を根拠として、本願補正発明の脂質代謝改善組成物が、引用文献1に記載の脂質代謝改善剤に比べて顕著な効果を奏すると認めることはできない。
仮に数値を詳細に検討しても、引用例1の第3群が血清総コレステロールを31.7程度まで抑制するという値は、結合リン脂質が1%の分離大豆タンパク質(第1群)と比較した値であるが、大豆タンパク質は血中コレステロール濃度を下げることが知られていたものである(摘記(1-vi)参照)。つまり、比較の対照とされた第1群も、ある程度の血清総コレステロール抑制作用を有していると認められるから、第3群と第1群の差は比較的小さくなる。
これに対して、本願のWPI+リン脂質群が血清総コレステロールを47.2程度まで抑制するという値は、WPI及びリン脂質のいずれも含有されない高コレステロール飼料を与えた群(対照群)を比較の対照とした値であるが、この対照群は、血清総コレステロール抑制作用を有しているとは認められないから、WPI+リン脂質群と対照群の差は比較的大きくなる。
そうすると、請求人の上記主張は、引用例1発明の作用効果が小さく示されるように対照が設定されて算出された数値に基づくものであり、失当であるといわざるを得ない。

(B)請求人は、本願明細書の表2をもとに、動脈硬化指数=(総コレステロール-HDLコレステロール)/HDLコレステロール[正常値は、4以下]を算出(対照群=約8.0、WPI=約4.8、リン脂質=約5.7、WPI+リン脂質=約4.1)し、本願補正発明の脂質代謝改善組成物が、動脈硬化指数をほぼ正常値にまで回復させていることを示した上で、本願補正発明は、WPIおよびリン脂質のそれぞれ単独では効果的に改善できなかった動脈硬化指数を、両者を組み合わせることによって顕著に改善できると主張している(平成23年7月15日付け回答書参照)。
しかし、本願明細書の表2を見ると、総コレステロール及びHDLコレステロールは、WPI群とWPI+リン脂質群との間で有意差はない(同一肩文字bが付されている)。したがって、算出された動脈硬化指数についても、少なくとも、WPI群の約4.8と、WPI+リン脂質群の約4.1との間には有意差はないから、本願補正発明の動脈硬化指数の改善効果は、WPI単独と同程度のものであるといわざるを得ない。
さらに、引用例1の第2表(前掲)に記載された、血清総コレステロール濃度及び血清HDLコレステロール濃度から、同様に動脈硬化指数=(総コレステロール-HDLコレステロール)/HDLコレステロールを算出すると、結合リン脂質含量が1%に過ぎないタンパク質を投与された試験群1では約6.8であるのに対して、結合リン脂質含量が20%のタンパク質・リン脂質結合体を投与された試験群3及び試験群4では、それぞれ約2.1及び約1.9となる。
そうすると、引用例1発明においても既に、動脈硬化指数の改善効果が達成されていたと認められるから、これと比較して、本願補正発明による動脈硬化指数の改善効果が、当業者の予測し得る範囲を超えた顕著なものであるということはできない。

(C)請求人は「本願発明において用いる「ホエイタンパク質および/または該ホエイタンパク質加水分解物」および「ホエイ、脱脂乳またはバターゼラム由来のリン脂質」は、いずれも乳製品の製造において副生し、廃棄されている材料を原料とするものである」(請求の理由に関する平成21年5月13日付け手続補正書(方式)参照)から、牛乳資源の有効活用という格別の効果を奏すると主張している。
しかし、ホエイタンパク質を脂質代謝改善剤として用いることは引用例1(摘記(1-v)参照)に、牛乳由来のリン脂質を質代謝改善剤として用いることは引用例2(摘記(2-ii)参照)に示唆されていたから、乳製品の製造において副生し、廃棄されている材料を原料として、牛乳資源を有効活用して脂質代謝改善剤が製造できることは、本願出願時において既に当業者の予測の範囲内であったといえる。そして、ホエイタンパク質と牛乳由来のリン脂質とを併用することで、同様に、牛乳資源を有効活用して脂質代謝改善剤を製造できたからといって、これを格別顕著な効果と認めることはできない。

以上のとおりであり、上記相違点1?3にかかる本願補正発明の発明特定事項を併せ採用することも格別の相違工夫を要するものとは認められず、それら発明特定事項を併せ採用したことによって予想を超える格別の作用効果を奏しているとも認められない。
よって、本願補正発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり,本件補正は、平成18年改正前特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反するものであり、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成21年3月27日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?11に係る発明は、平成20年12月24日付の手続補正書の
特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるものと
認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
ホエイタンパク質および/または該ホエイタンパク質加水分解物と、牛乳由来のリン脂質との組み合わせからなる脂質代謝改善組成物であって、
ホエイタンパク質および/または該ホエイタンパク質加水分解物と、牛乳由来のリン脂質との組み合わせ重量比が9:1?1:9である、前記の脂質代謝改善組成物。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比、判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から、「ホエイ、脱脂乳またはバターゼラム由来のリン脂質」との発明特定事項を、その上位概念の「牛乳由来のリン脂質」とし、「血清総コレステロールの上昇を抑制または低下させる脂質代謝改善作用を有する、前記脂質代謝改善組成物。」との発明特定事項を、「前記の脂質代謝改善組成物。」としたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定
事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記2.(3)に記載したとおり、引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることが
できたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願はその余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-25 
結審通知日 2011-08-30 
審決日 2011-09-12 
出願番号 特願2001-26006(P2001-26006)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安川 聡  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 田名部 拓也
内藤 伸一
発明の名称 脂質代謝改善組成物  
代理人 葛和 清司  

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