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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1246815
審判番号 不服2008-25873  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-08 
確定日 2011-11-10 
事件の表示 特願2003-307164「高級α-オレフィン共重合体及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 3月24日出願公開、特開2005- 75908〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成15年8月29日の出願であって、平成20年4月10日付けで拒絶理由が通知され、同年6月13日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月1日付けで拒絶査定がなされた。それに対して、同年10月8日に拒絶査定不服審判が請求され、同年11月6日に手続補正書が提出され、同年12月15日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、平成21年1月20日付けで前置報告がなされ、当審において平成23年5月24日付けで審尋がなされ、同年7月28日に回答書が提出されたものである。


第2.平成20年11月6日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[1]補正の却下の決定の結論
平成20年11月6日付けの手続補正を却下する。

[2]理由
1.補正の内容
平成20年11月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を、補正前の
「 【請求項1】
炭素数10以上の高級α-オレフィン二種以上を、又は炭素数10以上の高級α-オレフィン一種以上と他のオレフィン一種以上とを共重合して得られ、以下の(1)?(3)の要件を満足することを特徴とする結晶性高級α-オレフィン共重合体。
(1):高級α-オレフィン単位含有量が50モル%以上、
(2):示差走査型熱量計(DSC)を用い、該共重合体を窒素雰囲気下190℃で5分間保持した後、-10℃まで5℃/分で降温させ、-10℃で5分間保持後、190℃まで10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブから観測される融点(Tm)が20?100℃の範囲にあり、
(3):広角X線散乱強度分布における、15deg<2θ<30degに観測される側鎖結晶化に由来する、単一のピークX1が観測される。
【請求項2】
ゲルパーミエイションクロマトグラフ(GPC)法により測定したポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)が1,000?10,000,000の範囲にあり、分子量分布(Mw/Mn)が5.0以下である請求項1に記載の結晶性高級α-オレフィン共重合体。
【請求項3】
炭素数10以上の高級α-オレフィン連鎖部に由来する立体規則性指標値M2が、50モル%以上である請求項1又は2に記載の結晶性高級α-オレフィン共重合体。
【請求項4】
示差走査型熱量計(DSC)を用いることにより得られた融解吸熱カーブから観測される半値幅(Wm)が、10℃以下である請求項1?3のいずれかに記載の結晶性高級α-オレフィン共重合体。
【請求項5】
(A)下記一般式(I)で表される遷移金属化合物、及び(B)(B-1)該(A)成分の遷移金属化合物又はその派生物と反応してイオン性の錯体を形成しうる化合物及び(B-2)アルミノキサンから選ばれる少なくとも一種類の成分を含有する重合用触媒の存在下、共重合して得られる請求項1?4のいずれかに記載の結晶性高級α-オレフィン共重合体。
【化1】

〔式中、Mはチタン、ジルコニウム又はハフニウムを示し、E^(1)及びE^(2)はそれぞれインデニル基又は置換インデニル基であって、A^(1)及びA^(2)を介して架橋構造を形成しており、又それらは互いに同一でも異なっていてもよく、Xはσ結合性の配位子を示し、Xが複数ある場合、複数のXは同じでも異なっていてもよく、他のX,E^(1),E^(2)又はYと架橋していてもよい。
Yはルイス塩基を示し、Yが複数ある場合、複数のYは同じでも異なっていてもよく、他のY,E^(1),E^(2)又はXと架橋していてもよく、A^(1)及びA^(2)はジメチルシリレン基を示す。qは1?5の整数で〔(Mの原子価)-2〕を示し、rは0?3の整数を示す。〕
【請求項6】
蓄熱材用である請求項1?5のいずれかに記載の結晶性高級α-オレフィン共重合体。
【請求項7】
前記融点(Tm)が32.2?40.0℃の範囲にある請求項1?6のいずれかに記載の結晶性高級α-オレフィン共重合体。
【請求項8】
(A)下記一般式(I)で表される遷移金属化合物、及び(B)(B-1)該(A)成分の遷移金属化合物又はその派生物と反応してイオン性の錯体を形成しうる化合物及び(B-2)アルミノキサンから選ばれる少なくとも一種類の成分を含有する重合用触媒の存在下、炭素数10以上の高級α-オレフィン二種以上を、又は炭素数10以上の高級α-オレフィン一種以上と他のオレフィン一種以上とを共重合させることを特徴とする請求項1に記載の結晶性高級α-オレフィン共重合体の製造方法。
【化2】

〔式中、Mはチタン、ジルコニウム又はハフニウムを示し、E^(1)及びE^(2)はそれぞれインデニル基又は置換インデニル基であって、A^(1)及びA^(2)を介して架橋構造を形成しており、又それらは互いに同一でも異なっていてもよく、Xはσ結合性の配位子を示し、Xが複数ある場合、複数のXは同じでも異なっていてもよく、他のX,E^(1),E^(2)又はYと架橋していてもよい。
Yはルイス塩基を示し、Yが複数ある場合、複数のYは同じでも異なっていてもよく、他のY,E^(1),E^(2)又はXと架橋していてもよく、A^(1)及びA^(2)はジメチルシリレン基を示す。qは1?5の整数で〔(Mの原子価)-2〕を示し、rは0?3の整数を示す。〕」から、補正後の
「 【請求項1】
炭素数10以上の高級α-オレフィン一種以上と、エチレン、プロピレン及び1-ブテンから選択される他のオレフィン一種以上とを共重合して得られ、以下の(1)?(3)の要件を満足することを特徴とする結晶性高級α-オレフィン共重合体。
(1):高級α-オレフィン単位含有量が50モル%以上、
(2):示差走査型熱量計(DSC)を用い、該共重合体を窒素雰囲気下190℃で5分間保持した後、-10℃まで5℃/分で降温させ、-10℃で5分間保持後、190℃まで10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブから観測される融点(Tm)が20?100℃の範囲にあり、
(3):広角X線散乱強度分布における、15deg<2θ<30degに観測される側鎖結晶化に由来する、単一のピークX1が観測される。
【請求項2】
ゲルパーミエイションクロマトグラフ(GPC)法により測定したポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)が1,000?10,000,000の範囲にあり、分子量分布(Mw/Mn)が5.0以下である請求項1に記載の結晶性高級α-オレフィン共重合体。
【請求項3】
炭素数10以上の高級α-オレフィン連鎖部に由来する立体規則性指標値M2が、50モル%以上である請求項1又は2に記載の結晶性高級α-オレフィン共重合体。
【請求項4】
示差走査型熱量計(DSC)を用いることにより得られた融解吸熱カーブから観測される半値幅(Wm)が、10℃以下である請求項1?3のいずれかに記載の結晶性高級α-オレフィン共重合体。
【請求項5】
(A)下記一般式(I)で表される遷移金属化合物、及び(B)(B-1)該(A)成分の遷移金属化合物又はその派生物と反応してイオン性の錯体を形成しうる化合物及び(B-2)アルミノキサンから選ばれる少なくとも一種類の成分を含有する重合用触媒の存在下、共重合して得られる請求項1?4のいずれかに記載の結晶性高級α-オレフィン共重合体。
【化1】

〔式中、Mはチタン、ジルコニウム又はハフニウムを示し、E^(1)及びE^(2)はそれぞれインデニル基又は置換インデニル基であって、A^(1)及びA^(2)を介して架橋構造を形成しており、又それらは互いに同一でも異なっていてもよく、Xはσ結合性の配位子を示し、Xが複数ある場合、複数のXは同じでも異なっていてもよく、他のX,E^(1),E^(2)又はYと架橋していてもよい。
Yはルイス塩基を示し、Yが複数ある場合、複数のYは同じでも異なっていてもよく、他のY,E^(1),E^(2)又はXと架橋していてもよく、A^(1)及びA^(2)はジメチルシリレン基を示す。qは1?5の整数で〔(Mの原子価)-2〕を示し、rは0?3の整数を示す。〕
【請求項6】
蓄熱材用である請求項1?5のいずれかに記載の結晶性高級α-オレフィン共重合体。
【請求項7】
前記融点(Tm)が32.2?40.0℃の範囲にある請求項1?6のいずれかに記載の結晶性高級α-オレフィン共重合体。
【請求項8】
(A)下記一般式(I)で表される遷移金属化合物、及び(B)(B-1)該(A)成分の遷移金属化合物又はその派生物と反応してイオン性の錯体を形成しうる化合物及び(B-2)アルミノキサンから選ばれる少なくとも一種類の成分を含有する重合用触媒の存在下、炭素数10以上の高級α-オレフィン一種以上とエチレン、プロピレン及び1-ブテンから選択される他のオレフィン一種以上とを共重合させることを特徴とする請求項1に記載の結晶性高級α-オレフィン共重合体の製造方法。
【化2】

〔式中、Mはチタン、ジルコニウム又はハフニウムを示し、E^(1)及びE^(2)はそれぞれインデニル基又は置換インデニル基であって、A^(1)及びA^(2)を介して架橋構造を形成しており、又それらは互いに同一でも異なっていてもよく、Xはσ結合性の配位子を示し、Xが複数ある場合、複数のXは同じでも異なっていてもよく、他のX,E^(1),E^(2)又はYと架橋していてもよい。
Yはルイス塩基を示し、Yが複数ある場合、複数のYは同じでも異なっていてもよく、他のY,E^(1),E^(2)又はXと架橋していてもよく、A^(1)及びA^(2)はジメチルシリレン基を示す。qは1?5の整数で〔(Mの原子価)-2〕を示し、rは0?3の整数を示す。〕」へと補正するものである。

すなわち、本件補正は、次の補正事項1を含むものである。

(補正事項1)
請求項1において、補正前の「炭素数10以上の高級α-オレフィン二種以上を、又は炭素数10以上の高級α-オレフィン一種以上と他のオレフィン一種以上とを共重合して得られ」を、補正後の「炭素数10以上の高級α-オレフィン一種以上と、エチレン、プロピレン及び1-ブテンから選択される他のオレフィン一種以上とを共重合して得られ」とする補正事項。

2.補正の適否
2-1.新規事項の追加の有無
本願の願書に最初に添付された明細書には、次のとおり記載されている。

「先ず、本発明の結晶性高級α-オレフィン共重合体は、炭素数10以上の高級α-オレフィン二種以上を、又は炭素数10以上の高級α-オレフィン一種以上と他のオレフィン一種以上とを共重合して得られたものである。
上記他のオレフィンとしては、炭素数2?30のオレフィンを用いることができ、α-オレフィンが好ましい。
α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、・・・などが挙げられ、これらのうち一種又は二種以上を用いることができる。」(段落【0011】)

「実施例3
加熱乾燥した1リットルオートクレーブに、出光石油化学(株)製「リニアレン2024」(主として炭素数20,22,24のα-オレフィンの混合体)140gを含んだヘプタン溶液400ミリリットル、1-ブテン40ミリリットルを入れ、水素0.1MPaを導入し、共重合温度60℃まで昇温、昇圧した。
次に、トリイソブチルアルミニウム5ミリモル、(1,2’-ジメチルシリレン)(2,1’-ジメチルシリレン)ビス(3-トリメチルシリルメチルインデニル)ジルコニウムジクロライドを5マイクロモル、ジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート25マイクロモルを加え、120分間共重合した。
共重合反応終了後、反応物をアセトンにて沈殿させた後、加熱、減圧下、乾燥処理することにより、高級αオレフィン共重合体17.6gを得た。
得られた共重合体の物性測定結果を第1表に示す。
実施例4
加熱乾燥した1リットルオートクレーブに、出光石油化学(株)製「リニアレン2024」(主として炭素数20,22,24のα-オレフィンの混合体)140gを含んだヘプタン溶液400ミリリットル、1-ブテン20ミリリットルを入れ、水素0.1MPaを導入し、共重合温度60℃まで昇温、昇圧した。
次に、トリイソブチルアルミニウム5ミリモル、(1,2’-ジメチルシリレン)(2,1’-ジメチルシリレン)ビス(3-トリメチルシリルメチルインデニル)ジルコニウムジクロライドを5マイクロモル、ジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート25マイクロモルを加え、120分間共重合した。
共重合反応終了後、反応物をアセトンにて沈殿させた後、加熱、減圧下、乾燥処理することにより、高級α-オレフィン共重合体24.0gを得た。
得られた共重合体の物性測定結果を第1表に示す。」(段落【0053】?【0054】)

すなわち、本願の願書に最初に添付された明細書には、「他のオレフィン」として、「エチレン」、「プロピレン」及び「1-ブテン」が記載されている。
したがって、補正事項1は、本願の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。
よって、補正事項1による補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「特許法」という。)第17条の2第3項の規定に適合する。

2-2.補正事項1の目的
補正事項1は、本件補正前の請求項1における「炭素数10以上の高級α-オレフィン二種以上を、又は炭素数10以上の高級α-オレフィン一種以上と他のオレフィン一種以上とを」との択一的な記載において、「炭素数10以上の高級α-オレフィン二種以上を」との要素を削除し、かつ、「他のオレフィン」を、「エチレン」、「プロピレン」及び「1-ブテン」から選択されるものに限定するものである。
したがって、補正事項1は、補正前の請求項1に記載された発明において、その発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)を概念的に下位の発明特定事項に限定するものであり、また、補正前と補正後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものではない。
よって、補正事項1は、いわゆる請求項の限定的減縮を目的とするものである。
したがって、補正事項1による補正は、特許法第17条の2第4項第2号の規定に適合する。

2-3.独立特許要件
補正事項1は、いわゆる請求項の限定的減縮を目的とするものであるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正後の本願発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。

2-3-1.本件補正後の本願発明
本件補正後の本願発明は、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「 【請求項1】
炭素数10以上の高級α-オレフィン一種以上と、エチレン、プロピレン及び1-ブテンから選択される他のオレフィン一種以上とを共重合して得られ、以下の(1)?(3)の要件を満足することを特徴とする結晶性高級α-オレフィン共重合体。
(1):高級α-オレフィン単位含有量が50モル%以上、
(2):示差走査型熱量計(DSC)を用い、該共重合体を窒素雰囲気下190℃で5分間保持した後、-10℃まで5℃/分で降温させ、-10℃で5分間保持後、190℃まで10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブから観測される融点(Tm)が20?100℃の範囲にあり、
(3):広角X線散乱強度分布における、15deg<2θ<30degに観測される側鎖結晶化に由来する、単一のピークX1が観測される。」

2-3-2.特許法第29条第2項
<1> 刊行物
刊行物1: 国際公開2003/070790号
なお、刊行物1は、平成20年9月1日付け拒絶査定の拒絶の理由とされた平成20年4月10日付け拒絶理由通知書に記載した理由1及び2で引用された引用文献1(再公表特許WO2003/070790号)の対応する国際公開公報である。

<2> 刊行物の記載事項
刊行物1には、次のとおり記載されている。

摘示ア: 「1.(1)炭素数10以上の高級αオレフィンから得られ、以下のいずれかを満足することを特徴とする結晶性高級αオレフィン重合体。
(2A):示差走査型熱量計(DSC)を用い、試料を窒素雰囲気下-10℃で5分間保持した後、190℃まで、10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブから観測されるピークのピークトップとして定義される融点(TmD)を有し、更に、190℃で5分保持した後、-10℃まで、5℃/分で降温させ、-10℃で5分保持した後、190℃まで10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブから観測されるピークが1つで、かつ、そのピークトップとして定義される融点(Tm)が20?100℃である。
(2B):固体NMRによるスピン-格子緩和時間(T_(1))の測定で、融点以上において単一のT_(1)が観測される。
・・・・・・
5.(A)下記一般式(I)で表される遷移金属化合物、及び(B)(B-1)該(A)成分の遷移金属化合物又はその派生物と反応してイオン性の錯体を形成しうる化合物及び(B-2)アルミノキサンから選ばれる少なくとも一種類の成分を含有する重合用触媒の存在下、炭素数10以上の高級αオレフィンを重合させることを特徴とする請求項1に記載の結晶性高級αオレフィン重合体の製造方法。

〔式中、Mは周期律表第3?10族又はランタノイド系列の金属元素を示し、E^(1)及びE^(2)はそれぞれ置換シクロペンタジエニル基,インデニル基,置換インデニル基,ヘテロシクロペンタジエニル基,置換ヘテロシクロペンタジエニル基,アミド基,ホスフィド基,炭化水素基及び珪素含有基の中から選ばれた配位子であって、A^(1)及びA^(2)を介して架橋構造を形成しており、又それらは互いに同一でも異なっていてもよく、Xはσ結合性の配位子を示し、Xが複数ある場合、複数のXは同じでも異なっていてもよく、他のX,E^(1),E^(2)又はYと架橋していてもよい。Yはルイス塩基を示し、Yが複数ある場合、複数のYは同じでも異なっていてもよく、他のY,E^(1),E^(2)又はXと架橋していてもよく、A^(1)及びA^(2)は二つの配位子を結合する二価の架橋基であって、炭素数1?20の炭化水素基、炭素数1?20のハロゲン含有炭化水素基、珪素含有基、ゲルマニウム含有基、スズ含有基、-O-、-CO-、-S-、-SO_(2)-、-Se-、-NR^(1)-、-PR^(1)-、-P(O)R^(1)-、-BR^(1)-又は-AlR^(1)-を示し、R^(1)は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1?20の炭化水素基又は炭素数1?20のハロゲン含有炭化水素基を示し、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。qは1?5の整数で〔(Mの原子価)-2〕を示し、rは0?3の整数を示す。〕」(特許請求の範囲、請求項1及び5)

摘示イ: 「先ず、本発明の結晶性高級αオレフィン重合体は、炭素数10以上の高級αオレフィンを50mol%以上含むものである。
好ましくは70?100mol%、更に好ましくは85?100%、特に好ましくは炭素数10以上の高級αオレフィンのみからなる重合体である。
炭素数10以上の高級αオレフィンの含量が50mol%以下では、結晶性が得られなったり、融点が高すぎてしまい各種物質との相溶性が低下してしまう。
炭素数10以上の高級αオレフィンとしては、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン等が挙げられ、これらのうち一種又は二種以上を用いることができる。」(第5頁第1?13行)

摘示ウ: 「本発明の結晶性高級αオレフィン重合体の原料のなる高級αオレフィンの炭素数が10未満の場合は、結晶性が低く、べたつきや強度低下につながる。」(第5頁第14?16行)

摘示エ: 「固体NMR測定法は、下記に示す固体NMR測定装置を用い、反転回復法(180°-τ-90°パルス法)により、各温度でのスピン-格子緩和時間〔T_(1)(ms)〕の測定を行い確認した。
装置:JEOL社製 JNM-MU25 (パルスNMR)スペクトロメータ
測定核:水素核(^(1)H)
測定周波数:25MHz
90°パルス幅:2.0マイクロ秒
一般的に、結晶性高分子で系中に結晶層と非晶層が混在していても、融点以下では、相間のスピン拡散が速ければ、緩和が平均化されて単一のT_(1)が観測される。
しかしながら、融解等で相間のスピン拡散速度が低下すると複数のT_(1)が観測されることがある。
これは、系が不均一で、結晶の大きさが大きいときや、大きさに分布があるときなどに観測されることがある。
つまり、融点以上で、単一のT_(1)が観測されることは、系が均一で、結晶の大きさが小さく、大きさの分布が狭いことを意味している。」(第9頁第5?21行)

摘示オ: 「次に、本発明のαオレフィン重合体は、以下に示すメタロセン系触媒を用いて製造することができ、その中でも特に、アイソタクチックポリマーを合成できる、C_(2)対称及び、C_(1)対称の遷移金属化合物を用いることが好ましい。
即ち、(A)下記一般式(I)で表される遷移金属化合物、及び(B)(B-1)該(A)成分の遷移金属化合物又はその派生物と反応してイオン性の錯体を形成しうる化合物及び(B-2)アルミノキサンから選ばれる少なくとも一種類の成分を含有する重合用触媒の存在下、炭素数10以上の高級αオレフィンを重合させる方法である。

〔式中、Mは周期律表第3?10族又はランタノイド系列の金属元素を示し、E^(1)及びE^(2)はそれぞれ置換シクロペンタジエニル基,インデニル基,置換インデニル基,ヘテロシクロペンタジエニル基,置換ヘテロシクロペンタジエニル基,アミド基,ホスフィド基,炭化水素基及び珪素含有基の中から選ばれた配位子であって、A^(1)及びA^(2)を介して架橋構造を形成しており、又それらは互いに同一でも異なっていてもよく、Xはσ結合性の配位子を示し、Xが複数ある場合、複数のXは同じでも異なっていてもよく、他のX,E^(1),E^(2)又はYと架橋していてもよい。Yはルイス塩基を示し、Yが複数ある場合、複数のYは同じでも異なっていてもよく、他のY,E^(1),E^(2)又はXと架橋していてもよく、A^(1)及びA^(2)は二つの配位子を結合する二価の架橋基であって、炭素数1?20の炭化水素基、炭素数1?20のハロゲン含有炭化水素基、珪素含有基、ゲルマニウム含有基、スズ含有基、-O-、-CO-、-S-、-SO_(2)-、-Se-、-NR^(1)-、-PR^(1)-、-P(O)R^(1)-、-BR^(1)-又は-AlR^(1)-を示し、R^(1)は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1?20の炭化水素基又は炭素数1?20のハロゲン含有炭化水素基を示し、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。qは1?5の整数で〔(Mの原子価)-2〕を示し、rは0?3の整数を示す。〕
・・・・・・
次に、(B)成分のうちの(B-1)成分としては、上記(A)成分の遷移金属化合物と反応して、イオン性の錯体を形成しうる化合物であれば、いずれのものでも使用できるが、次の一般式(III),(IV)
(〔L^(1)-R^(10)〕^(k+))_(a)(〔Z〕^(-))_(b) ・・・(III)
(〔L^(2)〕^(k+))_(a)(〔Z〕^(-))_(b) ・・・(IV)
(ただし、L^(2)はM^(2)、R^(11)R^(12)M^(3)、R^(13)_(3)C又はR^(14)M^(3)である。)〔(III),(IV)式中、L^(1)はルイス塩基、〔Z〕^(-)は、非配位性アニオン〔Z^(1)〕^(-)及び〔Z^(2)〕^(-)、ここで〔Z^(1)〕^(-)は複数の基が元素に結合したアニオン、即ち〔M^(1)G^(1)G^(2)・・・G^(f)〕^(-)(ここで、M^(1)は周期律表第5?15族元素、好ましくは周期律表第13?15族元素を示す。G^(1)?G^(f)はそれぞれ水素原子,ハロゲン原子,炭素数1?20のアルキル基,炭素数2?40のジアルキルアミノ基,炭素数1?20のアルコキシ基,炭素数6?20のアリール基,炭素数6?20のアリールオキシ基,炭素数7?40のアルキルアリール基,炭素数7?40のアリールアルキル基,炭素数1?20のハロゲン置換炭化水素基,炭素数1?20のアシルオキシ基,有機メタロイド基、又は炭素数2?20のヘテロ原子含有炭化水素基を示す。G^(1)?G^(f)のうち2つ以上が環を形成していてもよい。fは〔(中心金属M^(1)の原子価)+1〕の整数を示す。)、〔Z^(2)〕^(-)は、酸解離定数の逆数の対数(pKa)が-10以下のブレンステッド酸単独又はブレンステッド酸及びルイス酸の組合わせの共役塩基、あるいは一般的に超強酸と定義される酸の共役塩基を示す。又、ルイス塩基が配位していてもよい。又、R^(10)は水素原子,炭素数1?20のアルキル基,炭素数6?20のアリール基,アルキルアリール基又はアリールアルキル基を示し、R^(11)及びR^(12)はそれぞれシクロペンタジエニル基,置換シクロペンタジエニル基,インデニル基又はフルオレニル基、R^(13)は炭素数1?20のアルキル基,アリール基,アルキルアリール基又はアリールアルキル基を示す。R^(14)はテトラフェニルポルフィリン,フタロシアニン等の大環状配位子を示す。kは〔L^(1)-R^(10)〕,〔L^(2)〕のイオン価数で1?3の整数、aは1以上の整数、b=(k×a)である。M^(2)は、周期律表第1?3、11?13、17族元素を含むものであり、M^(3)は、周期律表第7?12族元素を示す。〕
で表されるものを好適に使用することができる。
・・・・・・
一方、(B-2)成分のアルミノキサンとしては、一般式(V)

(式中、R^(15)は炭素数1?20、好ましくは1?12のアルキル基,アルケニル基,アリール基,アリールアルキル基などの炭化水素基あるいはハロゲン原子を示し、wは平均重合度を示し、通常2?50、好ましくは2?40の整数である。尚、各R^(15)は同じでも異なっていてもよい。)で示される鎖状アルミノキサン、及び一般式(VI)

(式中、R^(15)及びwは前記一般式(V)におけるものと同じである。)で示される環状アルミノキサンを挙げることができる。
・・・・・・
(A)触媒成分と(B)触媒成分との使用割合は、(B)触媒成分として(B-1)化合物を用いた場合には、モル比で好ましくは10:1?1:100、より好ましくは2:1?1:10の範囲が望ましく、上記範囲を逸脱する場合は、単位質量ポリマーあたりの触媒コストが高くなり、実用的でない。
又、(B-2)化合物を用いた場合には、モル比で好ましくは1:1?1:1000000、より好ましくは1:10?1:10000の範囲が望ましい。
この範囲を逸脱する場合は単位質量ポリマーあたりの触媒コストが高くなり、実用的でない。
又、触媒成分(B)としては(B-1),(B-2)を単独又は二種以上組み合わせて用いることもできる。
又、本発明のαオレフィン重合体を製造する際の重合用触媒は、上記(A)成分及び(B)成分に加えて(C)成分として有機アルミニウム化合物を用いることができる。
ここで、(C)成分の有機アルミニウム化合物としては、一般式(VII)
R^(16)_(v)AlJ_(3-v) ・・・(VII)
〔式中、R^(16)は炭素数1?10のアルキル基、Jは水素原子、炭素数1?20のアルコキシ基、炭素数6?20のアリール基又はハロゲン原子を示し、vは1?3の整数である〕
で示される化合物が用いられる。
・・・・・・
前記(A)触媒成分と(C)触媒成分との使用割合は、モル比で好ましくは1:1?1:10000、より好ましくは1:5?1:2000、更に好ましくは1:10ないし1:1000の範囲が望ましい。
該(C)触媒成分を用いることにより、遷移金属当たりの重合活性を向上させることができるが、あまり多いと有機アルミニウム化合物が無駄になるとともに、重合体中に多量に残存し、好ましくない。
本発明のαオレフィン重合体の製造においては、触媒成分の少なくとも一種を適当な担体に担持して用いることができる。
該担体の種類については特に制限はなく、無機酸化物担体、それ以外の無機担体及び有機担体のいずれも用いることができるが、特に無機酸化物担体あるいはそれ以外の無機担体が好ましい。
・・・・・・
本発明のαオレフィン重合体において、重合方法は特に制限されず、スラリー重合法,気相重合法,塊状重合法,溶液重合法,懸濁重合法などのいずれの方法を用いてもよいが、スラリー重合法,気相重合法が特に好ましい。
重合条件については、重合温度は通常-100?250℃、好ましくは-50?200℃、より好ましくは0?130℃である。
・・・・・・
重合時間は通常5分?10時間、反応圧力は好ましくは常圧?20MPa(gauge)、更に好ましくは常圧?10MPa(gauge)である。
本発明のαオレフィン重合体の製造方法において、水素を添加すると重合活性が向上するので好ましい。
水素を用いる場合は、通常、常圧?5MPa(gauge)、好ましくは常圧?3MPa(gauge)、更に好ましくは常圧?2MPa(gauge)である。
重合溶媒を用いる場合、例えば、ベンゼン,トルエン,キシレン,エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素、シクロペンタン,シクロヘキサン,メチルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素、ペンタン,ヘキサン,ヘプタン,オクタンなどの脂肪族炭化水素、クロロホルム,ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素などを用いることができる。
これらの溶媒は一種を単独で用いてもよく、二種以上のものを組み合わせてもよい。
又、α-オレフィンなどのモノマーを溶媒として用いてもよい。
尚、重合方法によっては無溶媒で行うことができる。
重合に際しては、前記重合用触媒を用いて予備重合を行うことができる。
予備重合は、固体触媒成分に、例えば、少量のオレフィンを接触させることにより行うことができるが、その方法に特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。
予備重合に用いるオレフィンについては特に制限はなく、前記に例示したものと同様のもの、例えば、エチレン、炭素数3?20のα-オレフィン、あるいはこれらの混合物などを挙げることができるが、該重合において用いるオレフィンと同じオレフィンを用いることが有利である。
予備重合温度は、通常-20?200℃、好ましくは-10?130℃、より好ましくは0?80℃である。
予備重合においては、溶媒として、脂肪族炭化水素,芳香族炭化水素,モノマーなどを用いることができる。
これらの中で特に好ましいのは脂肪族炭化水素である。
又、予備重合は無溶媒で行ってもよい。
予備重合においては、予備重合生成物の極限粘度〔η〕(135℃デカリン中で測定)が0.1デシリットル/g以上、触媒中の遷移金属成分1ミリモル当たりに対する予備重合生成物の量が1?10000g、特に10?1000gとなるように条件を調整することが望ましい。
又、重合体の分子量の調節方法としては、各触媒成分の種類、使用量、重合温度の選択、更には水素存在下での重合などがある。
窒素等の不活性ガスを存在させても良い。」(第9頁第25行?第35頁第19行)

摘示カ: 「本発明の方法により、低温特性、剛性、耐熱性、潤滑油との相溶性、無機充填剤との混合性、二次加工性等の優れた結晶性高級αオレフィン重合体が効率よく得られ、樹脂の改質剤、潤滑油成分、粘着材成分、接着剤成分、蓄熱材、燃料油改質剤、アスファルト改質剤、高性能ワックス、有機無機複合材料などに有用である。」(第53頁第6?10行)

<3> 刊行物に記載された発明
摘示アには、「結晶性高級αオレフィン重合体」が「炭素数10以上の高級αオレフィン」から得られる旨記載されているところ、摘示イには、該「炭素数10以上の高級αオレフィン」を一種又は二種以上用いることができる旨記載され、「結晶性高級αオレフィン重合体」が「炭素数10以上の高級αオレフィン」を50mol%以上含み、好ましくは70?100mol%、更に好ましくは85?100mol%含む旨記載されている。
そうすると、上記記載からみて、「結晶性高級αオレフィン重合体」は、「炭素数10以上の高級αオレフィン」一種以上を50mol%以上100mol%未満含む場合があり、その場合、当該重合体は、「炭素数10以上の高級αオレフィン」一種以上とその他のモノマーから得られる共重合体であると解するのが相当である。
また、摘示エからみて、「(2B):固体NMRによるスピン-格子緩和時間(T_(1))の測定で、融点以上において単一のT_(1)が観測される。」との要件は、重合体の「系が均一で、結晶の大きさが小さく、大きさの分布が狭い」ことを意味すると認められる。
したがって、摘示ア、イ及びエからみて、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「炭素数10以上の高級αオレフィン一種以上とその他のモノマーから得られ、前記炭素数10以上の高級αオレフィンを50mol%以上100mol%未満含み、以下のいずれかを満足することを特徴とする結晶性高級αオレフィン共重合体。
(2A):示差走査型熱量計(DSC)を用い、試料を窒素雰囲気下190℃で5分保持した後、-10℃まで、5℃/分で降温させ、-10℃で5分保持した後、190℃まで10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブから観測されるピークが1つで、かつ、そのピークトップとして定義される融点(Tm)が20?100℃である。
(2B):系が均一で、結晶の大きさが小さく、大きさの分布が狭い。」に係る発明

<4> 対比・判断
引用発明1における「融点(Tm)」は、その定義からみて、本件補正後の本願発明における「融点(Tm)」に相当する。
そこで、本件補正後の本願発明と引用発明1とを対比すると、両者は、
「炭素数10以上の高級α-オレフィン一種以上と、その他のモノマーとを共重合して得られ、以下の(1)?(2)の要件を満足することを特徴とする結晶性高級α-オレフィン共重合体。
(1):高級α-オレフィン単位含有量が50モル%以上、
(2):示差走査型熱量計(DSC)を用い、該共重合体を窒素雰囲気下190℃で5分間保持した後、-10℃まで5℃/分で降温させ、-10℃で5分間保持後、190℃まで10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブから観測される融点(Tm)が20?100℃の範囲にある。」である点で一致し、次の相違点1及び2で相違する。

(相違点1)
「その他のモノマー」が、本件補正後の本願発明では「エチレン、プロピレン及び1-ブテンから選択される他のオレフィン一種以上」に特定されているのに対し、引用発明1ではその旨特定されていない点。

(相違点2)
「結晶性高級α-オレフィン共重合体」が(1)?(2)の要件とともに、本件補正後の本願発明では「(3):広角X線散乱強度分布における、15deg<2θ<30degに観測される側鎖結晶化に由来する、単一のピークX1が観測される。」との要件を満足する旨特定されているのに対し、引用発明1では「(2B):系が均一で、結晶の大きさが小さく、大きさの分布が狭い。」との要件を満足する旨特定されている点。

i.相違点1について
本願出願時の技術常識からみて、一般に、結晶性α-オレフィン共重合体においては、主成分モノマーのα-オレフィンに対し、それと異なるα-オレフィンを共重合モノマーとして用いることが周知慣用技術である。
しかも、刊行物1の摘示イからみて、引用発明1の共重合体(以下、「引用共重合体1」という。)のモノマー組成を「炭素数10以上の高級αオレフィン」100モル%に変更して得られる重合体は引用共重合体1と同様の物性を示すと解されるところ、本願出願時の技術常識からみて、通常、共重合体の物性はモノマーの種類に応じて決まるものであるから、刊行物1に「その他のモノマー」としてどのようなモノマーが適するのか又は適さないのかを説明する記載はないものの、引用共重合体1における「その他のモノマー」として、「炭素数10以上の高級αオレフィン」と同族の種々のα-オレフィンを用いることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そうすると、本願出願時の技術常識及び摘示イからみて、引用共重合体1において、「その他のモノマー」として、主成分モノマーである「炭素数10以上の高級αオレフィン」以外のα-オレフィン、たとえば、炭素数2?4程度の種々の低級α-オレフィンを用いることは、当業者が容易に想到し得たことである。
したがって、引用発明1において、「その他のモノマー」を「エチレン、プロピレン及び1-ブテンから選択される他のオレフィン一種以上」に特定することは、当業者が容易になし得たことである。
また、本件補正後の本願発明は、「その他のモノマー」を「エチレン、プロピレン及び1-ブテンから選択される他のオレフィン一種以上」に特定したことによって格別な効果を奏するものではない。

なお、刊行物1の摘示ウには、「本発明の結晶性高級αオレフィン重合体の原料のなる高級αオレフィンの炭素数が10未満の場合は、結晶性が低く、べたつきや強度低下につながる。」と記載されているが、かかる記載は、炭素数10未満のαオレフィンを主成分モノマーとすることの不利を説明するものであるから、引用共重合体1において「その他のモノマー」として「エチレン、プロピレン及び1-ブテンから選択される他のオレフィン一種以上」を用いることを阻害するものではない。

ii.相違点2について
本件補正後の本願明細書には、広角X線散乱強度分布における15deg<2θ<30degに観測される側鎖結晶化に由来するピークが単一でない場合、共重合体の結晶成分が広くなる旨(段落【0015】)記載されているから、本件補正後の本願発明における(3)の要件(以下、「要件(3)」という。)は、共重合体の結晶成分の狭さの度合いを表すものと解される。
これに対し、引用共重合体1における(2B)の要件(以下、「要件(2B)」という。)は、その内容からみて、引用共重合体1の結晶成分が狭いことを意味していると解される。
そして、引用共重合体1の結晶成分の狭さの度合いは、本願出願時の技術常識からみて、引用共重合体1の製造方法に応じて決まることが明らかである。
そこで、引用共重合体1の製造方法について検討する。
まず、刊行物1の摘示ア及びオ並びに本件補正後の本願明細書の段落【0019】?【0047】(摘示省略)の記載からみて、引用共重合体1の重合工程は、本件補正後の本願発明の共重合体(以下、「本件補正後の本願共重合体」という。)のそれと差異がない。
そして、引用共重合体1のモノマーは、先に教示したとおり、主成分モノマーの組成比が本件補正後の本願共重合体のそれと差異がなく、「その他のモノマー」が本件補正後の本願共重合体のそれと相違点1のとおり相違するが、上記i.で教示したとおり、引用共重合体1において、「その他のモノマー」として、本件補正後の本願共重合体と同様に「エチレン、プロピレン及び1-ブテンから選択される他のオレフィン一種以上」を用いることは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、引用共重合体1を、本件補正後の本願共重合体と同じモノマー及び同じ重合工程からなる製造方法によって製造することは、当業者が容易になし得たことである。
そして、引用共重合体1を本件補正後の本願共重合体と同じモノマー及び同じ重合工程からなる製造方法によって製造すると、本願出願時の技術常識からみて、引用共重合体1の結晶成分の狭さの度合いは、本件補正後の本願共重合体のそれと当然に同じになるから、要件(2B)が意味する結晶成分の狭さは、その度合いが、自ずと要件(3)を満たすと解するのが相当である。
したがって、引用発明1において、「その他のモノマー」として「エチレン、プロピレン及び1-ブテンから選択される他のオレフィン一種以上」を用いることが当業者が容易になし得たことである以上、引用共重合体1が(1)?(2)の要件とともに要件(3)を満足する旨特定することも、当業者が容易になし得たことである。

<5> 請求人の主張
請求人は、平成20年6月13日に提出された意見書において、次のとおり主張(以下、「主張1」という。)している。

(主張1)
「すなわち、引用文献1記載の発明は、結晶性であり、融点(Tm)が単一であり、融点以降において単一のT_(1)が測定される等の条件を満たす結晶性高級αオレフィン重合体においては、べたつきがないという効果が発現することを知見したものです。
これに対し、本願請求項1が規定する結晶性高級α-オレフィン共重合体は、少なくとも炭素数10以上の高級α-オレフィン一種を含む共重合体とすることで、引用文献1の発明において実現している単一の融点(Tm)を維持しつつ、同時に融点(Tm)の制御をも可能にしているものであり、これらは全く異なる発明であります。・・・
・・・・・・
本願発明において、単一の融点(Tm)を実現しつつ、融点(Tm)の制御が可能となっていることは、以下の点から明らかです。・・・
・・・・・・一方、本願発明の実施例1?5においては、本願出願当初明細書段落[0058]の表に記載されているように、32.2?48.6℃の幅広い融点(Tm)を有する結晶性高級α-オレフィン共重合体が得られており、かつ、これらの共重合体が1つの融点(Tm)ピークを有することも示されております。例えば、本願発明の結晶性高級α-オレフィン共重合体(ヘキサデセンとオクタデセンとの共重合体)のDSCチャートを図2に示します。すなわち、引用文献1記載の発明においては、二律背反であった単一の融点(Tm)と融点(Tm)の制御とを、本願発明においては同時に解決しているものです。
・・・・・・
上述のように、本願発明の結晶性高級α-オレフィン共重合体においては、単一の融点(Tm)と融点(Tm)の制御とが同時に達成されているものです。」

請求人は、平成20年12月15日付けで補正された審判請求書において、次のとおり主張(以下、「主張2」という。)している。

(主張2)
「また、平成20年6月13日付で提出した意見書においても申し述べたように、本願発明は、融解・結晶化の温度域を狭くしつつ、同時に融点(Tm)の制御の容易さをも達成するという顕著な効果を有するものですが、引用文献1?4のいずれにも、上述の本発明の有利な効果を示唆する記載はありません。
以上より、例え当業者であっても、引用文献1?4に記載の発明に基づき、本願発明に容易に想到できるものではないと思料致します。」

また、請求人は、平成23年7月28日に提出された回答書において、次のとおり主張(以下、「主張3」という。)している。

(主張3)
「まず、平成20年6月13日付で提出した意見書においても申し述べたように、本願発明は、融解、結晶化の温度域を狭くしつつ、同時に融点(Tm)の制御の容易さをも達成するという顕著な効果を有するものであり、引用文献1?4のいずれにも、上述の本発明の有利な効果を示唆する記載はありません。この点につき、審査官殿は上記前置報告書において、「引用発明の共重合体が二次加工性に優れ、融解・結晶化の温度域が狭いものであることは明らか」とご認定なされておりますが、「融解・結晶化の温度域の狭さ」と、「融点(Tm)の制御の容易さ」とはそれぞれ独立した性状であることは明らかなです。すなわち、上記意見書においても申し上げた通り、本発明においては、幅広い融点(Tm)を有する結晶性α-オレフィン共重合体が得られており、実際、実施例1?5において得られた結晶性高級α-オレフィン共重合体の融点は32.2?48.6℃と幅広いことが確認されておりますが、このことは引用文献1?4に教示も示唆もされていないものと思料致します。
さらに、本発明の結晶性高級α-オレフィン共重合体は、エチレン、プロピレン及び1-ブテンから選択される他のオレフィンとの共重合体とすることで、生産効率に優れ、かつ、比較的高分子量であるという性状を同時に満たすものです。一般に、ポリマー重合を行う際には、重合活性を向上させる手段として、重合温度や水素濃度を高く設定する手法が知られていますが、これらの手法を採用した場合、得られる重合体の分子量が低下するという問題が生じることが知られております。すなわち、生産性と高分子量の重合体を得ることとは、両立が難しいものです。しかしながら、本願発明に係る結晶性高級α-オレフィン共重合体は、本願明細書に記載の実施例1と実施例3及び4との対比より明らかなように、エチレン、プロピレン及び1-ブテンから選択される他のオレフィンをコモノマーとして用いた場合、重合温度や水素濃度といった重合条件を変更せずに、より高い分子量を有する重合体が得られております。尚、実施例1における重合時間が8時間であるのに対し、実施例3及び4における重合時間はその4分の1ですので、本発明の結晶性高級α-オレフィン共重合体が生産性に優れることもまた明らかです。以下に、上記実施例1と実施例3及び4の重合条件と分子量をまとめた表を示します。
【表1】 (摘示省略)
これに対し、引用文献1?4のいずれも、コモノマーとしてエチレン、プロピレン及び1-ブテンから選択される他のオレフィンを用いることで、上述の生産性の向上や高分子量化が発現することについて何ら教示も示唆もしておりません。
以上のように、例え当業者であっても、引用文献1?4の開示に基づき、上記本願発明の有利な効果を予測し得るものではないと思料致します。」

そうすると、主張1?3は、要するに、本件補正後の本願発明は、刊行物1の記載から予測し得ない有利な効果を奏するから、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないというものであり、その有利な効果とは、次の効果1及び2である。

(効果1)
融解・結晶化の温度域を狭くしつつ、同時に融点(Tm)の制御の容易さをも達成すること。

(効果2)
エチレン、プロピレン及び1-ブテンから選択される他のオレフィンとの共重合体とすることで、生産効率に優れ、かつ、比較的高分子量であるという性状を同時に満たすこと。

以下、効果1及び2について検討する。

効果1について
請求人は、本件補正後の本願発明について「融点(Tm)」が単一であることを指して「融解・結晶化の温度域を狭」い旨主張していると解されるところ、引用共重合体1は、「(2A):示差走査型熱量計(DSC)を用い、試料を窒素雰囲気下190℃で5分保持した後、-10℃まで、5℃/分で降温させ、-10℃で5分保持した後、190℃まで10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブから観測されるピークが1つで、かつ、そのピークトップとして定義される融点(Tm)が20?100℃である。」との要件を満たしているから、「融解吸熱カーブから観測されるピークが1つ」であることからみて、その「融点(Tm)」は本件補正後の本願発明のそれと同様に単一である、すなわち、「融解・結晶化の温度域」が狭いと認められる。
また、請求人は、本件補正後の本願発明について「実施例1?5において得られた結晶性高級α-オレフィン共重合体の融点は32.2?48.6℃と幅広いこと」を指して「融点(Tm)の制御」が容易である旨主張していると解されるところ、本件補正後の本願発明と引用発明1はいずれも「融点(Tm)」は「20?100℃の範囲にある」旨特定されており、両発明における「融点(Tm)」の温度幅は相違点ではないから、引用発明1は、本件補正後の本願発明と同様に「融点(Tm)」が幅広い、すなわち、「融点(Tm)の制御」が容易であると認められる。
そうすると、効果1は、刊行物1の記載から予測し得ない有利な効果であるとはいえない。

効果2について
請求人は、本件補正後の本願明細書に記載の実施例1と実施例3及び4との対比、すなわち、炭素数10以上の高級α-オレフィンのみからなる単独重合体と本件補正後の本願共重合体との対比に基づいて、本件補正後の本願発明は「生産効率に優れ、かつ、比較的高分子量であるという性状を同時に満たす」との効果を奏する旨主張している。
しかしながら、引用発明1は共重合体に係る発明であって、共重合体である点は、本件補正後の本願発明との相違点ではないから、炭素数10以上の高級α-オレフィンのみからなる単独重合体と本件補正後の本願共重合体を対比することによって、本件補正後の本願発明の有利な効果を示すことはできない。
また、「生産効率に優れ」る点は、共重合体の製造方法の優位性を示す結果であって、共重合体の性状ではないし、また、本件補正後の本願発明は共重合体の分子量を規定していないから、そもそも、効果2が本件補正後の本願発明の効果であると解することはできない。
そうすると、効果2は、刊行物1の記載から予測し得ない有利な効果であるとはいえない。

以上のとおりであるから、主張1?3は採用できない。

<6> 小括
よって、本件補正後の本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

[3]むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明
上記のとおり、平成20年11月6日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明は、平成20年6月13日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
炭素数10以上の高級α-オレフィン二種以上を、又は炭素数10以上の高級α-オレフィン一種以上と他のオレフィン一種以上とを共重合して得られ、以下の(1)?(3)の要件を満足することを特徴とする結晶性高級α-オレフィン共重合体。
(1):高級α-オレフィン単位含有量が50モル%以上、
(2):示差走査型熱量計(DSC)を用い、該共重合体を窒素雰囲気下190℃で5分間保持した後、-10℃まで5℃/分で降温させ、-10℃で5分間保持後、190℃まで10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブから観測される融点(Tm)が20?100℃の範囲にあり、
(3):広角X線散乱強度分布における、15deg<2θ<30degに観測される側鎖結晶化に由来する、単一のピークX1が観測される。」


第4.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由とされた平成20年4月10日付けの拒絶理由通知書に記載した理由1の概要は、次のとおりである。

「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
・・・・・・

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

理由1.、2.について
・請求項 1-5
・引用文献 1-4
・・・・・・
・備考
引用文献1-4には、請求項5で規定する方法により製造されるα-オレフィン共重合体についての記載がある(引用文献1:特許請求の範囲、4頁39-48行、実施例、引用文献2:特許請求の範囲、【0047】、実施例、特に実施例3、引用文献3:特許請求の範囲、【0025】、実施例、引用文献4:特許請求の範囲、【0028】、実施例)。
引用文献1-4に記載された発明のα-オレフィン共重合体の製造方法は、本願の請求項5で規定する方法と相違しないことから、得られるものは請求項1-4の規定を満たすと解するのが相当である。
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引 用 文 献 等 一 覧
1.再公表特許WO2003/070790号
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第5.当審の判断
[1]刊行物
刊行物1: 国際公開2003/070790号
なお、刊行物1は、平成20年9月1日付け拒絶査定の拒絶の理由とされた平成20年4月10日付け拒絶理由通知書に記載した理由1で引用された引用文献1(再公表特許WO2003/070790号)の対応する国際公開公報であり、また、第2.[2]2.2-2.2-2-2.<1>で教示した刊行物1である。

[2]刊行物の記載事項
刊行物1には、第2.[2]2.2-2.2-2-2.<2>で教示したとおり、摘示ア?カが記載されている。

[3]刊行物に記載された発明
摘示アには、「結晶性高級αオレフィン重合体」が「炭素数10以上の高級αオレフィン」から得られる旨記載されているところ、摘示イには、該「炭素数10以上の高級αオレフィン」を二種以上用いることができる旨記載され、「結晶性高級αオレフィン重合体」が「炭素数10以上の高級αオレフィン」を50mol%以上含み、好ましくは70?100mol%、更に好ましくは85?100mol%含む旨記載されている。
そうすると、上記記載からみて、「結晶性高級αオレフィン重合体」は、「炭素数10以上の高級αオレフィン」二種以上100mol%含む場合があり、その場合、当該重合体は、「炭素数10以上の高級αオレフィン」二種以上100mol%から得られる共重合体であると解される。
したがって、摘示ア及びイからみて、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

「炭素数10以上の高級αオレフィン二種以上から得られ、前記炭素数10以上の高級αオレフィンを100mol%含み、以下のいずれかを満足することを特徴とする結晶性高級αオレフィン共重合体。
(2A):示差走査型熱量計(DSC)を用い、試料を窒素雰囲気下190℃で5分保持した後、-10℃まで、5℃/分で降温させ、-10℃で5分保持した後、190℃まで10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブから観測されるピークが1つで、かつ、そのピークトップとして定義される融点(Tm)が20?100℃である。
(2B):固体NMRによるスピン-格子緩和時間(T_(1))の測定で、融点以上において単一のT_(1)が観測される。」に係る発明

[4]対比・判断
引用発明2における「融点(Tm)」は、その定義からみて、本願発明における「融点(Tm)」に相当する。
そこで、本願発明と引用発明2とを対比すると、両者は、
「炭素数10以上の高級α-オレフィン二種以上を共重合して得られ、以下の(1)?(2)の要件を満足することを特徴とする結晶性高級α-オレフィン共重合体。
(1):高級α-オレフィン単位含有量が100モル%、
(2):示差走査型熱量計(DSC)を用い、該共重合体を窒素雰囲気下190℃で5分間保持した後、-10℃まで5℃/分で降温させ、-10℃で5分間保持後、190℃まで10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブから観測される融点(Tm)が20?100℃の範囲にある。」である点で一致し、次の相違点3で一応相違する。

(相違点3)
「結晶性高級α-オレフィン共重合体」が(1)?(2)の要件とともに、本願発明では「(3):広角X線散乱強度分布における、15deg<2θ<30degに観測される側鎖結晶化に由来する、単一のピークX1が観測される。」との要件を満足する旨特定されているのに対し、引用発明2では「(2B):固体NMRによるスピン-格子緩和時間(T_(1))の測定で、融点以上において単一のT_(1)が観測される。」との要件を満足する旨特定されている点。

以下、相違点3について検討する。
本願明細書には、広角X線散乱強度分布における15deg<2θ<30degに観測される側鎖結晶化に由来するピークが単一でない場合、共重合体の結晶成分が広くなる旨(段落【0015】)記載されているから、本願発明における(3)の要件(以下、「要件3」という。)は、本願発明の共重合体(以下、「本願共重合体」という。)の結晶成分の狭さの度合いを表すものと解される。
また、引用発明2における(2B)の要件(以下、「要件2B」という。)も、刊行物1の摘示エからみて、引用発明2の共重合体(以下、「引用共重合体2」という。)の結晶成分の狭さの度合いを表すものと解される。
そして、両共重合体の結晶成分の狭さの度合いは、いずれも、本願出願時の技術常識からみて、共重合体の製造方法に応じて決まることが明らかである。
そこで、両共重合体の製造方法について検討する。
まず、刊行物1の摘示ア及びオ並びに本願明細書の段落【0019】?【0047】(摘示省略)の記載からみて、引用共重合体2の重合工程は、本願共重合体のそれと差異がない。
そして、引用共重合体2のモノマーは、先に教示したとおり、「炭素数10以上の高級α-オレフィン二種以上」100モル%であるから、本願共重合体のそれと差異がない。
したがって、本願共重合体と引用共重合体2は、同じモノマー及び同じ重合工程からなる製造方法によって製造されたと認められる。
そうすると、両共重合体は、その製造方法が同じである以上、本願出願時の技術常識からみて、その結晶成分の狭さの度合いも当然に同じであるから、本願共重合体は要件2Bを満たし、かつ、引用共重合体2は要件3を満たす蓋然性が高い。
したがって、相違点3は、実質的な相違点ではない。

[5]まとめ
よって、本願発明は、刊行物1に記載された発明である。


第6.請求人の主張
請求人は、平成20年6月13日付け意見書において、次のとおり主張(以下、「主張4」という。)している。

(主張4)
「本願請求項1記載の発明は、炭素数10以上の高級α-オレフィン二種以上を、又は炭素数10以上の高級α-オレフィン一種以上と他のオレフィン一種以上とを共重合して得られたものであるのに対し、引用文献1記載の発明は、炭素数10以上の高級αオレフィンから得られた結晶性高級αオレフィン重合体に関し、その第20?27頁に記載の実施例1?6においてはC12?18の高級α-オレフィンを用いて単独重合体のみが製造されております。すなわち、これらの発明は、本願発明は2種以上のモノマーを用いて得られる共重合体であるのに対し、引用文献1にはそのような共重合体は具体的には記載されていない点などで異なります。
特に本願発明においては、「融解・結晶化の温度域が狭い結晶性高級α-オレフィン共重合体」(段落[0005]参照)を提供することを課題とし、さらに、「炭素数10以上の高級α-オレフィンの単独重合体では、重合体の融点及び結晶性の制御が困難であったが、炭素数10以上の高級α-オレフィン二種以上を、又は炭素数10以上の高級α-オレフィン一種以上と他のオレフィン一種以上とを共重合することにより、共重合体の融点(耐熱性、二次加工性)及び結晶性(溶解性、改質効果)の制御が容易となり、二次加工性及び溶剤への溶解性が向上した」と記載されています(本願出願当初明細書段落[0012])。一方、引用文献1には、この点については、全く教示も示唆もありません。
以上より、本願発明は、引用文献1記載の発明とは明確に異なります。」

また、請求人は、平成20年12月15日付け手続補正書(方式)により補正された審判請求書において、次のとおり主張(以下、「主張5」という。)している。

(主張5)
「審査官殿は、上記拒絶査定の中で、「出願人は、意見書において引用文献1-4には、単量体として本願発明のものを用いるとの記載がない旨主張するが、引用文献1-4には、単量体として本願発明のものを用いるとの記載があることから、出願人の該主張を採用することはできない」と指摘されております。
しかしながら、審査官殿は、平成20年6月13日付で提出した意見書における本願出願人の主張を誤解されているものと思料致します。すなわち、出願人は上記意見書において、引用文献1?4には、本願発明が規定する共重合体は具体的には記載されていない旨を主張しております。実際、引用文献1?4においては、単量体に関しては記載乃至示唆されているものの、共重合体そのものは具体的には開示されておりません。
新規性の判断においては、請求項に係る発明の発明特定事項を示唆する記載や、その上位概念が記載されていることに基づいて、新規性を有しないと認定することはできませんから、本願発明に係る共重合体が引用文献1?4のいずれに対しても新規性を有することは明らかであるものと思料致します。
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以上より、本願請求項1、8に係る発明は、引用文献1?4に記載された発明とは異なります。」

要するに、主張4及び5は、刊行物1に記載された実施例はいずれも「炭素数10以上の高級αオレフィン」の単独重合体であって本願共重合体ではないし、また、刊行物1には、「融解・結晶化の温度域が狭い結晶性高級α-オレフィン共重合体」を提供するという本願発明の課題も、「炭素数10以上の高級α-オレフィンの単独重合体では、重合体の融点及び結晶性の制御が困難であったが、炭素数10以上の高級α-オレフィン二種以上を、又は炭素数10以上の高級α-オレフィン一種以上と他のオレフィン一種以上とを共重合することにより、共重合体の融点(耐熱性、二次加工性)及び結晶性(溶解性、改質効果)の制御が容易となり、二次加工性及び溶剤への溶解性が向上した」という本願発明の効果も記載されていないから、本願発明は刊行物1に記載された発明ではない、というものである。
そこで、主張4及び5について検討する。
第6.[3]及び[4]で教示したとおり、刊行物1には、「炭素数10以上の高級αオレフィン」を二種以上用いることも、「炭素数10以上の高級αオレフィン」を100mol%用いることも明確に記載されているから、たとえ、その実施例が記載されていないとしても、当業者は、本願出願時の技術常識に基づいて、刊行物1の記載から「炭素数10以上の高級αオレフィン」二種以上100mol%から得られる共重合体を把握することができる。
したがって、刊行物1には、引用共重合体2が開示されているといえる。
そして、第6.[4]で教示したとおり、本願共重合体と引用共重合体2は同一であるから、その融点及び結晶性に差異はなく、また、刊行物1には、引用共重合体2が二次加工性に優れる旨(摘示カ)記載されているから、上記本願発明の課題及び効果は、刊行物1に記載ないし示唆されているといえるし、そもそも、本願共重合体が引用共重合体2と同一である以上、刊行物1に上記本願発明の課題及び効果が記載ないし示唆されていなくても、本願発明は、引用発明2と同一であるというべきである。
よって、請求人の主張は採用できない。


第7.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-07 
結審通知日 2011-09-13 
審決日 2011-09-27 
出願番号 特願2003-307164(P2003-307164)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08F)
P 1 8・ 575- Z (C08F)
P 1 8・ 121- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大久保 智之守安 智  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 小野寺 務
内田 靖恵
発明の名称 高級α-オレフィン共重合体及びその製造方法  
代理人 大谷 保  

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