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審決分類 審判 全部無効 1項2号公然実施  F01N
審判 全部無効 2項進歩性  F01N
管理番号 1247025
審判番号 無効2008-800282  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-12-11 
確定日 2011-11-29 
事件の表示 上記当事者間の特許第2857767号発明「粗面仕上金属箔および自動車の排ガス触媒担体」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2857767号の請求項1、2に係る発明は、平成元年6月17日に特許出願され、平成10年12月4日にその特許の設定登録がなされたものである。
これに対し、JFEスチール株式会社(以下、「請求人」という。)から、平成20年12月11日に請求項1、2に係る発明の特許について特許無効の審判請求がなされたところ、その後の手続の経緯は、次のとおりである。

答弁書: 平成21年3月6日
口頭審理陳述要領書(請求人): 平成21年9月29日
口頭審理陳述要領書(被請求人): 平成21年9月29日
口頭審理: 平成21年9月29日
被請求人上申書(1): 平成21年10月6日
請求人上申書(1): 平成21年10月6日
被請求人上申書(2): 平成21年10月23日
請求人上申書(2): 平成21年10月23日

II.特許発明
本件無効審判請求の対象となった請求項1、2に係る発明は、本件明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1、2に記載の次のとおりのものである。(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」といい、これらを総称して「本件発明」という。)
【請求項1】ろう付け構造を有する自動車の排ガス触媒担体に用いられる耐熱性ステンレス鋼製の金属箔において、表面粗度Rmaxが0.7?2.0μmであることを特徴とする粗面仕上金属箔。
【請求項2】耐熱性ステンレス鋼製の金属箔の平板と波板とを多重に円筒状に巻き込み、耐熱ステンレス鋼製外筒に挿入してなり、ろう付け構造を有する自動車の排ガス触媒担体において、該平板と波板は表面粗度Rmaxが0.7?2.0μmである粗面仕上金属箔であることを特徴とする自動車の排ガス触媒担体。

III.請求人の主張と証拠方法
1.請求人の主張
請求人は、本件特許第2857767号の特許を無効とする、との審決を求め、証拠方法として以下の甲第1号証ないし甲第18号証を提出し、その理由として、審判請求書、口頭審理(口頭審理陳述要領書を含む)及びその後の上申書の主張を整理すると、概ね、以下の無効理由を主張している。
(1)無効理由1
(i)本件発明1は、甲第1号証、甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証に示される本件出願前に公然実施された発明(自動車の排ガス触媒担体に用いられる耐熱性ステンレス鋼製の金属箔であるR20-5SR)と同一であり、特許法第29条第1項第2号に該当し特許を受けることができないものであるか、(ii)該公然実施された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(2)無効理由2
本件発明2は、甲第5号証及び甲第6号証に示される本件出願前に公然実施された発明(R20-5SRを用いて製造したろう付け構造を有する自動車の排ガス触媒担体)と同一であり、特許法第29条第1項第2号に該当し特許を受けることができないものであるか、該公然実施された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(3)無効理由3
本件発明2は、甲第1号証、甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証に示される本件出願前に公然実施された発明(自動車の排ガス触媒担体に用いられる耐熱性ステンレス鋼製の金属箔であるR20-5SR)及び周知技術から容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

2.証拠方法
甲第1号証:「日経ニューマテリアル」(NIKKEI NEW MATERIALS 1988年11月28日号)
甲第2号証:カタログ「川鉄の自動車用ステンレス鋼板」川崎製鉄株式会社、昭和62年9月印刷
甲第3号証:「R205SR*BAの表面粗度について」1989年6月5日 特品事業推進部
甲第4号証:「技術標準」川崎製鐵株式会社 新事業本部 特品事業推進部
甲第5号証:「調査嘱託回答書」(平成18年10月30日に「平成18年(ワ)第6663号特許侵害差止等請求事件」において、臼井国際産業株式会社(滝川一儀)が東京地方裁判所に提出した書面)
甲第6号証:「調査嘱託回答書」(平成19年9月5日に「平成18年(ワ)第6663号特許侵害差止等請求事件」において、臼井国際産業株式会社(芹沢治夫)が東京地方裁判所に提出した書面)
甲第7号証:「日本鉄鋼協会講演論文集 材料とプロセス」CAMP-ISIJ VOL.7(1994)NO.5、社団法人日本鉄鋼協会
甲第8号証:「陳述書」(平成18年10月23日JFE鋼材株式会社中谷亨)
甲第9号証:「中谷亨の証人等調書」
甲第10号証:「乙第2号証記載内容に関する補足説明」平成19年8月27日JFEスチール株式会社塊原浩
甲第11号証:「塊原浩の証人等調書」
甲第12号証:「判決」(平成20年3月13日判決言渡、「平成18年(ワ)第6663号」特許侵害差止等請求事件)
甲第13号証:「INTERATOM(Protokoll/Minutes of Meeting)」
甲第14号証:英文パンフレット「KAWASAKI RIVER LITE 20-5 SR」川崎製鐵株式会社、1989年3月印刷
甲第15号証:「注文モニター」
甲第16号証:「薄板-仕様設定モニターリスト」
甲第17号証:「薄板-仕様設定モニターリスト」
甲第18号証の1:「鋼材検査証明書」
甲第18号証の2:「検査カード(E)」
甲第18号証の3:「鋼材検査証明書」
甲第18号証の4:「検査カード(E)」
甲第18号証の5:「鋼材検査証明書」
甲第18号証の6:「検査カード(E)」

IV.被請求人の主張
1.無効理由に対する反論
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、として、請求人の主張に対して、答弁書、口頭審理(口頭審理陳述要領書を含む)及び上申書及び以下の乙第1?6号証を提出し、請求人の主張する無効理由はいずれも理由がなく、本件発明1及び2は、公然実施された発明でなく、また、公然実施された発明から容易に発明されたものでもない。

2.証拠方法
乙第1号証:「特殊鋼 11(1988)」(37巻11号)昭和63年11月1日、社団法人特殊鋼倶楽部発行、第50?51頁
乙第2号証:日経産業新聞(昭和62年4月28日)第3面
乙第3号証:鉄鋼新聞(昭和63年3月22日)第5面
乙第4号証:「新素材製品 基本契約書」
乙第5号証:「部品取引基本契約書」
乙第6号証:「部品取引基本契約書」

V.当審の判断
V-1.無効理由1について
請求人は、具体的には、本件出願前に公然実施された発明(自動車の排ガス触媒担体に用いられる耐熱性ステンレス鋼製の金属箔であるR20-5SR)として、甲第2号証(カタログ)に記載の請求人の「リバーライト20-5SR」(R20-5SR)が、本件出願前にカルソニック(旧日本ラヂエーター)(以下、「カルソニック」という。)に対して公然販売され(甲第1号証)、また、臼井国際産業(以下、「臼井」という。)に対して公然販売された(甲第5号証、甲第6号証)ことを挙げ、この販売された「R20-5SR」の表面粗度Rmaxは0.7?2.0μmの範囲内である(甲第3号証、甲第4号証、甲第8?12号証)ことから、本件発明1は請求人の「R20-5SR」と同一か、仮にそうでないとしても、「R20-5SR」に基づいて容易に発明をすることができたものであると主張している。
この請求人が公然販売されたと主張する「R20-5SR」は、カルソニックに対して販売された「R20-5SR」、臼井に対して販売された「R20-5SR」であるが、これらの「R20-5SR」は、夫々異なる販売にかかるものであり、「R20-5SR」が同一のものであるとしても販売の実態が同じであるかどうか明らかでないことから、夫々の販売についての検討を踏まえて、請求人が主張する自動車の排ガス触媒担体に用いられる耐熱性ステンレス鋼製の金属箔である「R20-5SR」について、それが公然販売されたものか否か検討する。

1.甲第2号証の記載内容について
(1)甲第2号証(カタログ「川鉄の自動車用ステンレス鋼板」昭和62年9月印刷)には、次の事項が記載されている。
(ア)「川崎製鉄は用途に応じてバラエティに富んだ自動車用ステンレス鋼を提供しています。」(第2頁上段)
(イ)「シートベルト用リトラクターゼンマイ
リバーライト301R
・・・
エキゾーストマニホールド
リバーライト409SX
・・・
コンバーターケース
リバーライト409L
・・・」(第2頁左中段)
(ウ)「触媒コンバーター用メタルハニカム
リバーライト20-5SR
0.01C-20Cr-5Al-REM
耐酸化性」(第2頁左下段)
(エ)「ご注文・お問い合わせは、下記または最寄りの営業所までお寄せください。」(第3頁(裏面)下段部)

(2)この記載によれば、昭和62年9月以降に、川崎製鉄は、エキゾーストマニホールド、触媒コンバーター用メタルハニカムなどの用途に応じた自動車用ステンレス鋼をカタログに掲載して注文を受けて販売しようとしていたことが窺える。
なお、甲第2号証のカタログは、用途に応じた自動車用ステンレス鋼の目録に過ぎず、実際に自動車用ステンレス鋼製品を販売した事実を証明するものではないことは明らかである。また、川崎製鉄は、2003年に日本鋼管と両社で分割、鉄鋼事業を継承しJFEスチール(請求人)に社名変更しており、JFEスチールの承継会社である(このため、以下、場合により「川崎製鉄」を「請求人」ということがある。)。

(3)また、甲第2号証のカタログ(昭和62年9月に印刷)の「リバーライト20-5SR」については、甲第11号証(塊原浩の証人等調書)の「当時、川崎製鉄で用いておりましたステンレス製品の商品名の頭に必ずRを付けておりました。これはリバーライトカラーという、当時川崎製鉄のステンレスの商標を略した表現でございます。」との証言記録から、「リバーライト20-5SR」は「R20-5SR」と同じものであると認められる。

2.カルソニックに対して販売された「R20-5SR」(実施発明1A)
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証(「日経ニューマテリアル」1988年11月28日号)には、次の事項が記載されている。
(ア)「メタル担体触媒の市場はここにきて,大きく花開こうとしている。今年9月1日,日産自動車はPLASMA-RB20DETエンジンを搭載した「セフィーロ」(・・・)に,世界で初めて量産車のメーン触媒として耐熱ステンレス鋼を採用した。」(第24頁1?5行)
(イ)「日産が採用した耐熱ステンレス鋼ハニカム担体触媒(図1,以下メタル担体触媒)は,材料供給先が川崎製鉄,加工はカルソニック(旧日本ラヂエーター)が担当している。一方,日産はウオッシュコート,触媒種(貴金属)の担持・及び評価試験を行っている。
メタル担体の特徴は壁厚が50μmと,従来のセラミックスハニカム担体の170μmに比べ約1/3まで薄くしたこと(表1)。」(第25頁中欄11行?同頁右欄7行)
(ウ)「メタル担体の材質は,電熱材やストーブの外炎筒として採用されている耐熱ステンレス鋼系の『R20-5SR』で,成分はFe-20Cr-5Al(各数字はwt%)にLaを微量添加したもの。同ステンレス鋼は成形後の酸化処理で,表面に数μmのAl_(2)O_(3)層が析出するため,耐酸化性や耐食性に優れ,ウオッシュコートを可能にする。
製造方法は,清浄度を高め,介在物をなくすために真空誘導炉で溶解し,その後,鍛造,熱間圧延,冷間圧延工程を経て50μmの箔まで加工する。」(第25頁右欄下から6行?第26頁左欄7行)
(エ)「従来のメタル担体の製造法は,まず50μmの平板と波板を同時に巻き上げる(図A)。平板と波板はろう付けできっちりと接合されていて,巻き上げられた状態で外筒と溶接される。担体はシェルと呼ばれるケースに,外筒を溶接して納められる(図B)。」(第30頁左欄18?24行、「緩衝材が不要なメタル担体」の欄)
(オ)「図A」(第30頁)に、「従来の担体成形の様子。平板と波板を同時に巻き上げる」と記載し、その概略図が示されている。
(カ)「ろう付けをやめ,熱の問題を克服しかもコスト低減を実現
これに対し日産は,・・・従来のメタル担体とほとんど変わりない同社の担体だが,・・・設計,製造方法が決め手になっている。・・・同社のメタル担体はろう付けを一切していない。ろう付けは銀ろう自体が高いうえに,1200℃の高真空を必要とし,成形費の中では一番コストが掛かるところだ。しかもろう付けによる製法に関して様々な特許が出願されているため,スポット溶接を採用した。」(第32頁左欄1行?同頁中欄1行)
(キ)「従来のメタル担体触媒。・・・(臼井国際産業)」(第33頁【図11】説明)

(2)実施発明1A
甲第1号証の記載(ア)?(ウ)によれば「R20-5SR」は、添加成分が20Cr-5Alである川崎製鉄製耐熱ステンレス鋼の厚さ50μmのメタル箔であって、耐酸化性や耐食性に優れたものであり、自動車用のハニカム触媒担体に用いられるものといえ、川崎製鉄が該耐熱ステンレス鋼の「R20-5SR」を遅くとも1988年(昭和63年)9月までにカルソニックに供給(販売)し、カルソニックが耐熱ステンレス鋼ハニカム担体に加工して日産に納入し、日産においてウオッシュコート、触媒種(貴金属)の担持・及び評価試験が行われ、日産のPLASMA-RB20DETエンジンを搭載した「セフィーロ」の耐熱ステンレス鋼ハニカム担体(メタル担体)触媒に採用されたことが記載されているといえる。また、記載(カ)によれば、カルソニックの製造した「耐熱ステンレス鋼ハニカム担体(メタル担体)」には「スポット溶接」が採用されていることから、耐熱ステンレス鋼の「R20-5SR」は「スポット溶接構造を有する自動車の排ガス触媒担体に用いられる」ものといえる。
また、上記したとおり、甲第2号証には、自動車用ステンレス鋼の「触媒コンバーター用メタルハニカム」の用途として「リバーライト20-5SR(0.01C-20Cr-5Al-REM)耐酸化性」が記載され、この「リバーライト20-5SR」は上述のとおり「R20-5SR」であって、0.01C、20Cr、5Alを添加成分として有する、川崎製鉄の自動車用のステンレス鋼の耐高温酸化性の製品であって、用途として触媒コンバータ用メタルハニカムであるといえる。このことは、「1989年Mar.」(平成元年3月)に印刷された甲第14号証の英文パンフレットからも窺い知ることができる。ただ、厚さや表面粗度が如何なるものか明らかではなく、「R20-5SR」は、厚さや表面粗度が特定されたものとはいえない。しかしながら、厚さについては、乙第1号証に「R20-5SRの製造可能寸法は厚さ2mm以下50μmまで、・・・BA仕上で供給可能である。」(第51頁右欄「7.製造可能寸法」の項)、及び甲第14号証の「(2)Mechanical properties」(第3頁)の表の「Thickness(mm)」に「1.0、0.3、0.05」と記載されていることから、「R20-5SR」が特定の厚さを有するものではないが、50μmの厚さの「R20-5SR」が商品として提供可能であることは理解できる。また、表面粗度については後述する。
以上のことに照らせば、実施発明1Aは、川崎製鉄が本件出願前遅くとも1988年(昭和63年)9月までにカルソニックに販売したものであって、「自動車用のハニカム触媒担体に用いられる耐熱性ステンレス鋼製の厚さ50μmのメタル箔」であって、「スポット溶接構造を有する自動車の排ガス触媒担体に用いられる」ものといえる。

3.臼井に対して販売された「R20-5SR」(実施発明1B)
(1)甲第5号証及び甲第6号証の記載内容
甲第5号証の「調査嘱託回答書」における「調査事項」に対する「回答」、及び甲第6号証の「調査嘱託回答書」における「調査事項」に対する「回答」及び添付資料1?3によれば、臼井は、本件出願前の1987年(昭和62年)4月に、ろう付け構造を有する自動車の排ガス触媒担体の試作ラインを設け、1989年(平成元年)6月17日より前に、川崎製鉄(当時)製造の製品名がR20-5SRである20Cr-5Alステンレス箔を購入していること、臼井は、これを用いて、ろう付け構造を有する自動車の排ガス触媒担体の試作品の製造を開始し、製造した自動車の排ガス触媒担体の試作品は本件特許出願前に6社(自動車メーカー4社、触媒メーカー2社)に対して出荷され、その出荷数量は、昭和62年度が265個、昭和63年度が150個、平成元年度が同年6月までで24個であること、その後商品化され、1990年(平成2年)2月より販売されたこと、が窺える。
また、甲第6号証の添付資料1には、JFE材(R20-5SR)製メタル担体の出荷数量として、A社に「1987年4月:10、5月:20、6月:20、7月:44・・・」、触媒担持メーカーB社に「1987年6月:20、7月:60・・・」と記載され、添付資料2には、「客先」・・・「数量」「ハニカムコア(材質/板厚/寸法)」・・・「製造日」・・・「出荷日」が記載され、「客先」A、B、C、D、Eに対して、「材質」がR20-5SR、「板厚」0.05とあり、客先F、Gに対しては「材質」がR20-5SR、「板厚」0.1と記載され、「客先:A」に「出荷日4/15、5/16」に「数量:20」、「出荷日5/30」に「数量:10」、「出荷日6/9」及び「6/2」にそれぞれ「数量:10」と記載されている。なお、添付資料1の「JFE材・・・」とあることから、この添付資料1の作成時期がいつ頃なのか疑問の点はあるが、添付資料2とは一応整合している。

(2)実施発明1B
甲第5号証及び第6号証(添付資料1?3を含む)によれば、臼井は、川崎製鉄から20Cr-5Alステンレス箔で板厚0.05mm(50μm)の「R20-5SR」を購入し、これを用いて、ろう付け構造を有する自動車の排ガス触媒担体の試作品の製造を開始し、臼井が請求人の製品を用いて製造した自動車の排ガス触媒担体の試作品は、受注により本件特許出願前に6社(自動車メーカー4社、触媒メーカー2社)に対して出荷され、その出荷数量は、昭和62年度が265個、昭和63年度が150個、平成元年度が同年6月までで24個である、とみることができる。
そして、この「R20-5SR」については、上記したとおり、甲第2号証によると、自動車用ステンレス鋼の「触媒コンバーター用メタルハニカム」の用途とする川崎製鉄の自動車用のステンレス鋼の耐高温酸化性の製品であり、「R20-5SR」が特定の厚さのものではないものの、50μmの厚さの「R20-5SR」が商品として提供可能であることは理解できる。
以上のことに照らせば、実施発明1Bは、本件出願前の昭和62年、昭和63年当時販売されていた「ろう付け構造を有する自動車用のハニカム触媒担体の試作に用いられる耐高温酸化性ステンレス鋼製の厚さ50μmのステンレス箔」であるものと認められる。

4.「R20-5SR」の表面粗度
甲第3号証に「R205SR*BAの表面粗度について」の調査報告が、甲第4号証に技術標準が提示されている。甲第3号証によれば、「R205SR*BA」が#120ロール仕上げで、表面粗さRmaxが平均で1.065(表面C方向)や1.033(裏面C方向)、0.652(表面L方向)、0.620(裏面L方向)の計測値が示され、1.0前後の表面粗度が窺える(ただし、基準長さは0.8mmである。)。そして、甲第4号証の技術標準に、R20-5SR箔圧延条件として#120の砥石で研削したワークロールを用いて、厚さ1.0mmから中間厚0.14mmで最終厚さ50μmの金属箔を製造する条件(パス回数、圧下率、WR研磨等々)が記載されている。これら甲第3号証及び甲第6号証について、甲第8号証の中谷亨氏の「陳述書」、甲第9号証の「中谷亨の証人等調書」、甲第10号証の塊原浩氏の「補足説明」及び甲第11号証の「塊原浩の証人等調書」によれば、甲第3号証の厚さ50μmの金属箔についての測定結果は、本件出願前の昭和62年当時の川崎製鉄の「R20-5SR」製品の表面粗度Rmaxを表すものとみることができ、その表面粗度Rmaxを測定した結果、基準長さ0.8mmにより、表面が1.065μm,裏面が1.033μmという測定結果が得られている(なお、基準長さ0.25mmの測定値が基準長さ0.8mmの測定値の80%前後になる傾向があることについて両者に格別争いはない。)。そして、昭和63年11月12日に,川崎製鉄の「R20-5SR」の製品の製造にあたり、甲第4号証の技術標準を定め、#120の砥石で研削したワークロールを用いて、厚さ50μmの金属箔を製造していたことが認められる。
してみると、昭和62年当時の厚さ50μmの「R20-5SR」の表面粗度Rmaxは、方向によりバラツキが見られるものの、本件発明1のRmax0.7?2.0μmの範囲内にある蓋然性は高いものと推認される。それは同時に箔表面が粗面仕上げとなっていることを意味しているといえる。

5.「R20-5SR」(実施発明1A及び1B)の公然実施について
(1)上記「1.」?「4.」によると、昭和62年9月以降に、川崎製鉄は、エキゾーストマニホールド、触媒コンバーター用メタルハニカムなどの用途に応じた自動車用ステンレス鋼をカタログに掲載して注文を受けて販売しようとしていたことが窺え、現実に川崎製鉄は、カルソニックに対して、スポット溶接構造を有する自動車の排ガス触媒担体に用いられる耐熱性ステンレス鋼製の厚さ50μmのメタル箔である「R20-5SR」(実施発明1A)を遅くとも1988年(昭和63年)9月までに販売し、また、臼井に対して、自動車用のハニカム触媒担体に用いられる耐高温酸化性ステンレス鋼製の厚さ50μmのステンレス箔である「R20-5SR」(実施発明1B)を昭和62年までに販売していたものと認めることができる。そして、昭和62年当時の川崎製鉄の「R20-5SR」の表面粗さは、本件発明1のRmax0.7?2.0μmの範囲内にあるものと推認される
このことから、川崎製鉄は、「R20-5SR」を本件出願前にカタログに掲載して注文を受けて販売しようとし、現実に、カルソニックや臼井に対して販売を行った事実が認められる。そして、カルソニックに対しては、上記したとおり「スポット溶接構造を有する自動車の排ガス触媒担体に用いられる耐熱性メタル箔」として販売し、臼井に対しては、「ろう付け構造を有する自動車用のハニカム触媒担体の試作に用いられる耐高温酸化性ステンレス箔」として販売している。
しかしながら、カルソニックに対する販売は、「スポット溶接構造を有する自動車の排ガス触媒担体に用いられる」ものの販売であり、「ろう付け構造を有する自動車用のハニカム触媒担体に用いられる」ものの販売とはいえない。また、臼井に対する販売については、「ろう付け構造を有する自動車の排ガス触媒担体に用いられる」ものではあるが、これは「試作段階」におけるものであることから、試作のための販売であって、「ろう付け構造を有する自動車用のハニカム触媒担体に用いられる」ものの販売とまではいえない。仮に、臼井に対する販売が「ろう付け構造を有する自動車の排ガス触媒担体に用いられる」ものの販売であるとしても、臼井という特定の顧客に対する販売であって、他に「ろう付け構造を有する自動車用のハニカム触媒担体に用いられる」ものとして販売した実態はない。
そうすると、川崎製鉄は「R20-5SR」を販売していた事実があることから、特に用いられる触媒担体の構造に拘われず一般に販売していたものとみることはできるが、カルソニックに対する販売はろう付け構造を有する自動車用のハニカム触媒担体に用いられるものでないし、臼井に対する販売は試作段階の販売であって、他にろう付け構造を有する自動車用のハニカム触媒担体に用いられるものとして販売した実態はないことから、川崎製鉄は、本件出願前に「R20-5SR」を「ろう付け構造を有する自動車用のハニカム触媒担体に用いられる」ステンレス箔として販売していた事実を認定することはできず、その他に、この事実を認定するに足りる証拠もないと云わざるを得ない。
したがって、川崎製鉄の「R20-5SR」が「ろう付け構造を有する自動車の排ガス触媒担体に用いられる」ものとして「一般に市販」されていたとみることはできない。

(2)ただ、川崎製鉄は、上記したとおり、特に用いられる触媒担体の構造に拘われず販売していたものとみることができることに鑑み、更に踏み込んで、川崎製鉄の「R20-5SR」(実施発明1A及び1B)が公然実施されたか否かについても検討しておくと、
まず、公然実施であるか否かの判断は、販売者と購入者との間に黙秘の義務を有する等の特段の事情が存在したか、購入者(顧客)が守秘義務を負っていたか、に依っており、このことについて特段当事者間に争いはない。
(一)実施発明1Aについて
川崎製鉄は、上記したとおり、カタログ(甲第2号証)に「R20-5SR」の製品の目録を掲載して、一般に広く販売しようとしていた。
本件出願前当時の「R20-5SR」の販売が実際どのように行われていたか、証拠の提示がないので必ずしも明らかであるとはいえないが、本件出願後の近年(甲第15号証の「注文モニター」の「注文者発注年月日」をみると「2009/04/09」との記載により2009年頃のものと推察できる。)の甲第15号証?甲第16号証の「R20-5USR」(「R20-5SR」の後継製品)の商取引に関する、注文者である商社(JFE商事)から請求人に送られた、カルソニックカンセイ(顧客)向けの「R20-5USR」の注文書に代わる「注文モニター」及び「薄板-仕様設定モニターリスト」をみてみると、
「注文モニター」(甲第15号証)には、送信内容として、受渡場所、決済条件、注文規格、仕様設定、用途加工条件、注文寸法などの特定事項が記入され、「薄板-仕様設定モニターリスト」(甲第16号証)には、仕様設定として、変更履歴、顧客が特に保証を求めている内容(需要家規定保証)、鋼材検査報告書への記載すべき内容(IC報告書)などが区分けして記入されている。そして、需要家規定保証の中には、TS引張強度、表面粗さなどの設定の要求値が記入されている(甲第16号証2/6、甲第17号証5/9)。ただ、この要求値はN、CGなどの記号で記入されているため明らかにはされていない。この「注文モニター」及び「薄板-仕様設定モニターリスト」が1988年当時の「R20-5SR」の商取引において同じであったと断定はできないが、注文処理形態は違いがあるとしても注文書の内容自体は大凡同じようなものであったと推察される。
これらのことから、「R20-5SR」の販売に関し、川崎製鉄と商社を介したカルソニック(顧客)との商取引においては、顧客の保証を求める特定事項が注文書に記載され、そこには、取引に応じて記号を用いて内容が明らかにならないようにしてTS引張強度、表面粗さなどの設定の要求値が記入されているとみることができる。そして、この商取引の発注形態をみれば、川崎製鉄と(カルソニック)顧客との直接取引においても同様の発注内容となることが推認できる。
そうすると、川崎製鉄からカルソニックに対する「R20-5SR」の販売においては、商社を経由、或いは直接取引に拘わらず、カルソニックからの保証を求める規定事項が注文書に発注内容として記載されていた蓋然性は高いと認められ、「R20-5SR」の販売が一般向けの、販売者(素材メーカ)が一方的に定めた既成製品の販売であるとは考え難い。また、カルソニックは、仮に一般向けの鋼材を購入してその一部を日産に加工して販売したとも考えられなくもないが、そのような根拠もないので、カルソニックのような大手製造メーカーは、顧客からの注文に応じて素材メーカーから所定仕様の材料を直接購入して加工して納品することが普通であるといえる。
そして、鉄鋼素材製品の売買契約に関する一般的な商取引に関し、乙第4号証をみてみると、乙第4号証は、被請求人(甲)と乙会社との基本契約書であり、そこには、第1頁に「甲が乙に対し製品を販売すること(製品売買)、甲が乙に製品販売に関する業務を委任すること(販売業務委任)についての基本的事項を定めるために、基本契約を締結する」旨記載され、第2条(本契約の対象)に「本契約に基づく製品販売は、金属箔、メタル担体等の製品であって、個別契約の定めにより向け先を国内および輸出向けとし、甲が出荷するものを対象としている」旨規定し、第3条(守秘義務)として「甲および乙は、次の情報について第三者に開示せず・・・1.本契約に関して相手方から開示を受けた情報 2.本契約および個別契約に記載する文書またはデータに記述される情報」が規定されている。そして、第2部本則の第1章売買の第11条(契約の成立)に「本契約に基づく甲乙間の製品売買は、乙が甲に注文申込データまたは注文申込書を発信または提出し、甲がこれに対する注文請書データまたは注文請書を乙に発信または交付した時成立する・・・」、第12条(契約条件)「品名、仕様、数量・・・条件その他売買につき必要な条件は、・・・注文請書の記載による」ことが規定されている。
この契約が製品売買、販売業務委任に関することからすれば、金属箔、メタル担体等の製品を需要家向けに注文に応じて販売する場合に、第3条に規定する守秘義務を負うものといえる。第3条(守秘義務)には、上記したとおり、相手方から開示を受けた情報や本契約および個別契約に記載する文書またはデータに記述される情報の守秘義務が双方に課せられ、また、この他、守秘義務が適用されない情報として公知の情報や相手方から承諾を受けた情報なども規定されている。そうすると、契約に従って、守秘義務が適用されない情報以外は双方守秘義務を負うものとみることができる。なお、乙が、更に一般向けに販売することの規定はないが、情報開示することなく守秘義務を負って販売するということになることは云うまでもない。
更に、乙第5号証をみてみると、乙第5号証は、マツダ株式会社(甲)と新日本製鐵株式會社(乙)との部品取引基本契約書であり、第8条(個別契約)に、「3.個別契約においては、次の各号に掲げる事項を定める。・・・(1)発注年月日(2)部品番号・仕様・・・(9)その他詳細特定事項」と記載され、第31条(製作物の譲渡の同意)に「乙は、次の各号のいずれかに該当する物を第三者のために製作又は譲渡する場合は、あらかじめ・・・甲の同意を得なければならない。(1)甲の技術が含まれている承認図面に基づき製作する物・・・(2)貸与図面に基づき製作する物」と記載され、第32条(機密保持)に「1.甲及び乙は、取引関係を通じて知り得た相手方の営業上又は技術上の機密を、相手方の承諾を得ないで、第三者に開示又は漏洩してはならない。」と記載されている。ここでいう「部品」は「量産用及び補修用部品、付属品、アクセサリーその他の用品、車両など」(第2条(定義)(1))であり、本件発明1において対象とされる「自動車の排ガス触媒担体」とは明らかに異なるものであるが、部品の商取引の観点からみれば同じであることから、部品取引の実態についてある程度類推は可能である。この基本契約からみると、部品取引の双方が取引関係を通じて知り得た相手方の営業上又は技術上の機密を、相手方の承諾を得ないで、第三者に開示又は漏洩してはならない、とする機密保持の責任を負っているものとみることができる。
以上のことを踏まえると、甲第1号証に記載されたカルソニックへの販売は、日産の「セフィーロ」に用いる耐熱ステンレス鋼ハニカム担体触媒として、カルソニックは請求人から「R20-5SR」を購入し、耐熱ステンレス鋼ハニカム担体に加工して納入している。この納入形態からみれば、これが既成製品の一般向け販売と云うことはできないことは明らかである。また、カルソニックは日産の注文に応じて、請求人に特定の品質・性能、特定の仕様を注文書として送付し、その際、乙第4号証にみられるような「基本契約」をカルソニックは請求人と商取引に関して取り交わしている蓋然性は高いといえる。カルソニックの購入が商社を介していたとしても、商社は、同様の契約書を請求人と、同時にカルソニックの間で締結しているとみるのが普通である。そして、具体的な注文では、個別契約として上記注文書によって契約が遂行されるものとみることができる。
したがって、川崎製鉄からカルソニックへの販売は、販売者と購入者との間に明示又は黙示の守秘義務を有する等の特段の事情が存在したものと認められ、カルソニックと日産との部品取引については、日産から特定の品質・性能、特定の仕様が発注指示されていると考えられ、双方の承諾がない限り秘密保持義務が存在したと推認できる。
なお、請求人は、上記「R20-5SR」の販売の公然実施に関し、該商品に関し譲渡人が転売の自由を有していたことは、被請求人が販売した製品(「R20-5USR」)を入手していたことからも明らかであると、主張するので、この点を検討すると、「R20-5USR」は上記したとおり「R20-5SR」の後継品であるが、販売時期が異なる上、双方承諾の有無や実際の取引契約の内容について不明であり、この「R20-5USR」を被請求人が入手したことによって云々できない。
(二)実施発明1Bについて
臼井に対する販売は、臼井が商品として量産する前の試作品の製造のためのものであることから、臼井は、特定の品質・性能、特定の仕様のステンレス箔を納入させようとするし、また、試作品の検討を踏まえて細部の仕様等が変更される可能性が残されていたと考えられる。
こうした試作品製造のための取引がどのような形態でおこなわれたものか、証拠はなく明らかではないが、臼井は、川崎製鉄が、上記したとおり、特に用いられる触媒担体の構造に拘われず販売していたとしても、かかる販売は、上記「(一)」で述べたとおりの一般的な鉄鋼素材製品の売買における商取引と同様に、注文を受け、売買契約に基づいて販売する形態であったみることができる。この場合、上記のとおり、オーダーにおいては特定の品質・性能、特定の仕様を注文書として送付していると推認できる。
してみると、川崎製鉄から臼井への販売は、販売者と購入者との間に明示又は黙示の守秘義務を有する等の特段の事情が存在したものと認められる。
また、臼井からは、上記したとおり、請求人の製品を用いて製造した自動車の排ガス触媒担体の試作品が本件特許出願前に自動車メーカー4社及び触媒メーカー2社に対して出荷されているが、甲第6号証の添付資料2には、複数の「METALIT試作状況」と題する表が掲載されている。これらの表の項目として「客先」「品番又は注文番号」「寸法」「セル数」「数量」「ハニカムコア/材質、板厚、寸法」「ケーシング/材質、板厚、寸法」「受注」「納期」「製造」「検査」「出荷」「備考」と記載され、注文番号、セル数、寸法などの数値がブラインド(黒塗り)されている。受注日と納期をみると、受注から納入までの期間が一週間程度から一ヶ月程度要する場合がみられる。いずれにしても、受注があり製造、検査をして出荷していることからみれば、自動車メーカー4社及び触媒メーカー2社の各社の仕様に応じて注文を受け、出荷しているといえる。そして、各社の特定の仕様はブラインドで情報が漏れないようにしている。
これらのことに鑑みると、自動車メーカー4社及び触媒メーカー2社への出荷は、単なるサンプル提供にとどまらず、各社の仕様に合わせて受注し、製造出荷しているとみることができる。また、この出荷が試作品の提供であれば、試作品の検討を踏まえ細部の仕様を変更することが予想されることから、その意味では各社との共同開発的な要素があり、社外秘的に試作から量産に結びつけていくということが普通であり、そうでないとする根拠は見当たらない。
してみると、臼井から自動車メーカー4社及び触媒メーカー2社への出荷は、臼井と各社との間に明示又は黙示の守秘義務を有する等の特段の事情が存在したものと認められる。
(三)これらのことから、実施発明1A及び実施発明1Bについては、一般的な商取引からみて、川崎製鉄からカルソニックへの販売は、販売者と購入者との間に明示又は黙示の守秘義務を有する等の特段の事情が存在したものと認められ、カルソニックと日産との部品取引についても、日産から特定の品質・性能、特定の仕様が指示されていると考えられ、双方の承諾がない限り秘密保持義務が存在したと推認でき、川崎製鉄から臼井への販売は、販売者と購入者との間に明示又は黙示の守秘義務を有する等の特段の事情が存在したものと認められ、臼井から自動車メーカー4社及び触媒メーカー2社への出荷は、臼井と各社との間に明示又は黙示の守秘義務を有する等の特段の事情が存在したものと認められる。
してみると、川崎製鉄の「R20-5SR」のようなステンレス鋼箔製品の流通が実態的に如何なるものであるのか断言できない以上、川崎製鉄の「R20-5SR」が公然実施されたものということはできない。

(3)まとめ
以上、述べたことを纏めると、川崎製鉄は、カルソニックに対しては、「スポット溶接構造を有する自動車の排ガス触媒担体に用いられる耐熱性メタル箔」として販売し、また、川崎製鉄は、本件出願前に、臼井に「ろう付け構造を有する自動車の排ガス触媒担体の試作に用いられるメタル箔」を販売していることから、川崎製鉄は、「R20-5SR」を販売していた事実はあり、特に用いられる触媒担体の構造に拘われず販売していたものとみることができるが、川崎製鉄の「R20-5SR」が「ろう付け構造を有する自動車の排ガス触媒担体に用いられる」ものとして「一般に市販」されていたとみることはできない。
そして、川崎製鉄は特に用いられる触媒担体の構造に拘われず販売していたとしても、実施発明1A及び実施発明1Bについては、一般的な商取引からみて、川崎製鉄からカルソニックへの販売は、販売者と購入者との間に明示又は黙示の守秘義務を有する等の特段の事情が存在したものと認められ、カルソニックと日産との部品取引についても、日産から特定の品質・性能、特定の仕様が指示されていると考えられ、双方の承諾がない限り秘密保持義務が存在したと推認でき、川崎製鉄から臼井への販売は、販売者と購入者との間に明示又は黙示の守秘義務を有する等の特段の事情が存在したものと認められ、臼井から自動車メーカー4社及び触媒メーカー2社への出荷は、臼井と各社との間に明示又は黙示の守秘義務を有する等の特段の事情が存在したものと認められる。
してみると、川崎製鉄の自動車の排ガス触媒担体に用いられる耐熱性ステンレス鋼製の金属箔である「R20-5SR」が公然実施されたものということはできない。

6.無効理由1についてのむすび
以上のことから、本件発明1は、請求人の主張する甲第1号証、甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証に示される本件出願前に公然実施された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第2号に該当しない。また、該公然実施された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

V-2.無効理由2について
請求人は、臼井が出荷した、甲第5号証、甲第6号証に示される本件出願前に公然実施された「R20-5SRを用いて製造したろう付け構造を有する自動車の排ガス触媒担体」が本件発明2と同一か、仮にそうでないとしても、「自動車の排ガス触媒担体」に基づいて容易に発明をすることができたものであると主張する。

1.臼井が出荷した「自動車の排ガス触媒担体」(「実施発明2」という。)
上記「V-1.2.」で述べたとおり、甲第5号証及び第6号証(添付資料1?3を含む)によれば、臼井は、川崎製鉄から20Cr-5Alステンレス箔で板厚0.05mm(50μm)の「R20-5SR」を購入し、これを用いて、ろう付け構造を有する自動車の排ガス触媒担体の試作品の製造を開始し、臼井が請求人の製品を用いて製造した自動車の排ガス触媒担体の試作品は本件特許出願前に6社(自動車メーカー4社、触媒メーカー2社)に対して出荷され、その出荷数量は、昭和62年度が265個、昭和63年度が150個、平成元年度が同年6月までで24個である。
してみると、臼井が出荷した「自動車の排ガス触媒担体」である「実施発明2」は、本件出願前の昭和62年、昭和63年当時川崎製鉄が販売した「ろう付け構造を有する自動車用のハニカム触媒担体の試作に用いられる耐高温酸化性ステンレス鋼製の厚さ50μmのステンレス箔」である「R20-5SR」を「ろう付け構造を有する自動車の排ガス触媒担体」に加工した「耐熱性ステンレス鋼製の厚さ50μmのステンレス箔からなる、ろう付け構造を有する自動車のハニカム排ガス触媒担体(試作品)」であるといえる。臼井は、これを試作品として本件出願前に自動車メーカー4社及び触媒メーカー2社に対して出荷している。

2.実施発明2の公然実施について
自動車メーカー4社及び触媒メーカー2社に対しての出荷は、試作品としての出荷であり、「一般に市販」するものとはいえないことは明らかである。また、数社へ出荷していることから、公然実施されたものか否かについても検討しておくと、上記「V-2.2.」で述べたとおり、臼井から自動車メーカー4社及び触媒メーカー2社への出荷は、臼井と各社との間に明示又は黙示の守秘義務を有する等の特段の事情が存在したものと認められることから、この出荷は公然実施されたものということはできない。
したがって、本件発明2は、出願前公然実施された発明であるとすることはできない。

3.まとめ
以上のことから、本件発明2は、実施発明2と同一であるということはできないとともに、実施発明2が公然実施されたものということはできないので、本件発明2は、請求人が主張する、公然実施された実施発明2であるということはできない。
また、上記のとおり実施発明2は公然実施されたものでないことから、本件発明2は、請求人が主張する、公然実施された実施発明2から容易に発明をすることができたものとはいえない。

V-3.無効理由3について
請求人は、本件発明2が甲第1号証、甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証に示される本件出願前に公然実施された「R20-5SR」(実施発明1A及び1B)、及び周知技術から容易に発明をすることができたものであると主張する。
しかしながら、実施発明1A及び実施発明1Bは、いずれも上記「V-1.」で述べたとおり公然実施されたものでないことから、その前提を欠くものであり、本件発明2は、公然実施された発明から容易に発明をすることができたものということはできない。

VI.結び
以上のとおりであるから、請求人の理由及び証拠方法によっては、本件請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-15 
結審通知日 2009-12-18 
審決日 2010-01-07 
出願番号 特願平1-155057
審決分類 P 1 113・ 121- Y (F01N)
P 1 113・ 112- Y (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新居田 知生  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 木村 孔一
五十棲 毅
登録日 1998-12-04 
登録番号 特許第2857767号(P2857767)
発明の名称 粗面仕上金属箔および自動車の排ガス触媒担体  
代理人 内藤 俊太  
代理人 内藤 俊太  
代理人 田中 久喬  
代理人 田中 久喬  
代理人 近藤 惠嗣  
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