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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04C
管理番号 1247097
審判番号 不服2011-2704  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-02-07 
確定日 2011-11-17 
事件の表示 特願2004-344411「オイルポンプ」拒絶査定不服審判事件〔平成18年6月15日出願公開,特開2006-152914〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願の発明
本願は,平成16年11月29日の出願であって,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成22年6月3日付けの手続補正書により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
「内部に作動室が設けられたポンプ本体部と該ポンプ本体部に一体に結合されて軸受孔が貫通形成された円筒部とから構成されたポンプハウジングと,
前記軸受孔に軸受され,前記作動室に収容されるポンプ要素を回転駆動することで,該ポンプ要素によって形成されるポンプ室において加圧されたオイルを吐出ポートを介して吐出する駆動軸と,
該駆動軸の先端側に固定され,無端状のチェーンが巻回されて回転力が伝達される従動スプロケットと,
前記軸受孔と駆動軸との間に,前記ポンプハウジングの外端側に設けられて,前記駆動軸の軸方向の一部を回転自在に支持する第1軸受部と,
前記ポンプ室側に設けられて,前記駆動軸の軸方向の一部を回転自在に支持する第2軸受部と,
前記第1軸受部と第2軸受部との間に形成された環状空間部と,
前記環状空間部を前記第2軸受部側から前記吐出ポートに連通させる連通部と,
前記円筒部の外周面に,一端が前記ポンプ本体部に結合され,他端が前記円筒部の先端まで延びる複数のリブと,を備え,
前記第1軸受部は,前記連通部から前記環状空間部に供給されたオイルを貯留するように構成されていることを特徴とするオイルポンプ。」

2.引用例
これに対して,原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-205317号公報(以下「引用例」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,内燃機関の潤滑装置に施用して良好な内燃機関用オイルポンプに関する。」

・「【0019】図において1はポンプハウジングで,このポンプハウジング1は凹部2aが形成されたハウジング部材2と,このハウジング部材2の凹部2a開口を覆うカバー部材3とから構成されている。
【0020】前記ポンプハウジング1内,詳しくはポンプハウジング1の凹部2a内には,駆動側ポンプ歯車(ロータ)4及びこの駆動側ポンプ歯車4に噛合する従動側ポンプ歯車(ロータ)5が回転自在に収容されている(図2参照)。前記駆動側ポンプ歯車4及び従動側ポンプ歯車5はポンプハウジング1の凹部2a内に吸入室6及び吐出室7を形成している(図3参照)。
【0021】前記ポンプハウジング1には軸受け孔8A,8B,9A,9Bが形成されている。即ち,前記ハウジング部材2には軸受け孔8A及び9Aが形成され,カバー部材3には軸受け孔8B及び9Bがそれぞれ形成されている。
【0022】10は前記軸受け孔8A,8Bを貫通して駆動側ポンプ歯車4に連結された駆動軸で,この駆動軸10はその両端側が軸受け孔8A,8Bに軸受けされており,駆動側歯車ポンプ4を回転駆動可能である。」

・「【0024】前記ポンプハウジング1から突出する駆動軸10の端部10aには従動歯車12が連結固定してある。尚,13は前記従動歯車12を駆動軸10の端部10aに固定するための固定ナットである。
【0025】14は前記従動歯車12を回転駆動する駆動歯車である。前記駆動歯車14は従動歯車12に噛合しており,図外の内燃機関によって回転駆動されることにより,従動歯車12を回転駆動させる。これによって,前記駆動軸10が回転駆動され,オイルポンプが駆動されることになる。」

・「【0028】25A,25Bは前記駆動軸10と軸受け孔8A,8Bとの間に形成されたオリフィス孔で,このオリフィス孔25A,25Bはこの実施の形態において軸受け孔8A,8Bの内周面に形成された直線状の溝によって形成してある(図4参照)。
【0029】また,前記オリフィス孔25A,25Bは,駆動側ポンプ歯車4とポンプハウジング1との間の摺動隙間26A,26Bを介して吐出室7に連通している。即ち,前記オリフィス孔25Aは駆動側歯車ポンプ4とカバー部材3との間の摺動隙間26Aを介して吐出室7と連通しており,オリフィス孔25Bは駆動側ポンプ歯車4とハウジング部材3との間の摺動隙間26Bを介して吐出室7と連通している。」

・「【0031】斯かる構成において,図外の内燃機関によって駆動歯車14が回転されることにより,この駆動歯車14に噛合する従動歯車12が回転駆動され,これによって,オイルポンプが駆動される。即ち,駆動歯車14によって従動歯車12が連結された駆動軸10が回転駆動され,駆動側ポンプ歯車4及び従動側ポンプ歯車5が回転駆動される。
【0032】前記オイルポンプが駆動されることによって,図外のオイルパン内の潤滑油が吸入通路27を介して吸入室6内に吸入され,吐出室7内に吐出される。前記吐出室7内に吐出された潤滑油は,吐出通路28から図外のオイルフィルタを介して内燃機関の潤滑部に供給され,摺動部分の潤滑に供される。」

・「【0038】前記オイルポンプ内の空気が排出された後に,オリフィス孔25A,25Bから排出される潤滑油は,駆動軸10と軸受け孔8A,8Bとの間を有利に潤滑する。」

引用例の【図1】,【図2】及び【図4】には,内部に凹部2aが形成されたハウジング部材2の前記凹部2aの側部を覆う覆い部と,該覆い部に一体に結合されて軸受け孔8Aが貫通形成された軸受け部とから構成され,前記ハウジング部材2とともにポンプハウジング1を構成するカバー部材3が示され,また,前記軸受け孔8Aと駆動軸10との間に,前記カバー部材3に設けられて,前記駆動軸10の軸方向の一部を回転自在に軸受けする軸受け部が示され,さらに,前記軸受け部の外周面に,一端が前記覆い部に結合され,他端が前記軸受け部の先端まで延びる複数のリブが示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「内部に凹部2aが形成されたハウジング部材2の前記凹部2aの側部を覆う覆い部と,該覆い部に一体に結合されて軸受け孔8Aが貫通形成された軸受け部とから構成され,前記ハウジング部材2とともにポンプハウジング1を構成するカバー部材3と,
前記軸受け孔8Aに軸受けされ,前記凹部2aに収容される駆動側ポンプ歯車4及び従動側ポンプ歯車5を回転駆動することで,該駆動側ポンプ歯車4及び従動側ポンプ歯車5によって潤滑油を吐出室7内に吐出して吐出通路28から供給する駆動軸10と,
該駆動軸10の端部10aに連結固定され,駆動歯車14が噛合して回転駆動される従動歯車12と,
前記軸受け孔8Aと前記駆動軸10との間に,前記カバー部材3に設けられて,前記駆動軸10の軸方向の一部を回転自在に軸受けする軸受け部と,
前記軸受け孔8Aと前記駆動軸10との間を前記吐出室7に連通させるオリフィス孔25A及び摺動隙間26Aと,
前記軸受け部の外周面に,一端が前記覆い部に結合され,他端が前記軸受け部の先端まで延びる複数のリブと,を備え,
前記軸受け孔8Aは,前記オリフィス孔25Aから排出される潤滑油により潤滑されるように構成されている内燃機関用オイルポンプ。」

3.対比
本願発明と引用発明を対比すると,後者の「凹部2a」は前者の「作動室」に相当し,同様に,「軸受け孔8A」は「軸受孔」に相当する。
後者の「カバー部材3」は,引用例の【図2】及び【図4】を参酌すると,「駆動軸10」に連結される「駆動側ポンプ歯車4」と「従動歯車12」との間に位置し,「駆動側ポンプ歯車4及び従動側ポンプ歯車5」を収容する「凹部2a」の側部を覆う「覆い部」と,該「覆い部」と一体に結合された「軸受け部」からなるものである。
一方,前者の「ポンプハウジング」は,本願の【図1】を参酌すると,「駆動軸」に結合又は固定される「ポンプ要素」の「インナーロータ」と「従動スプロケット」との間に位置し,「ポンプ要素」を収容する「作動室」が設けられた「ポンプ本体部」と,該「ポンプ本体部」と一体に結合された「円筒部」からなるものである。
そうすると,後者の「カバー部材3」は,その配置及び構成からみて,前者の「ポンプハウジング」に相当し,以下同様に,「覆い部」は「ポンプ本体部」に,「軸受け部」は「円筒部」にそれぞれ相当するものと認められ,後者の「内部に凹部2aが形成されたハウジング部材2の前記凹部2aの側部を覆う覆い部と,該覆い部に一体に結合されて軸受け孔8Aが貫通形成された軸受け部とから構成され,前記ハウジング部材2とともにポンプハウジング1を構成するカバー部材3」と,前者の「内部に作動室が設けられたポンプ本体部と該ポンプ本体部に一体に結合されて軸受孔が貫通形成された円筒部とから構成されたポンプハウジング」とは,「作動室の側部に位置するポンプ本体部と該ポンプ本体部に一体に結合されて軸受孔が貫通形成された円筒部とから構成されたポンプハウジング」との概念で共通している。

後者の「軸受け孔8Aに軸受けされ」る態様は前者の「軸受孔に軸受され」る態様に相当し,以下同様に,「駆動側ポンプ歯車4及び従動側ポンプ歯車5」は「ポンプ要素」に,「潤滑油」は「オイル」に,「吐出室7」は「吐出ポート」に,「潤滑油を吐出室7内に吐出して吐出通路28から供給する」態様は「オイルを吐出ポートを介して吐出する」態様に,「駆動軸10」は「駆動軸」にそれぞれ相当する。
後者の「駆動側ポンプ歯車4及び従動側ポンプ歯車5」を用いた「内燃機関用オイルポンプ」が,当該「駆動側ポンプ歯車4及び従動側ポンプ歯車5」によって形成されるポンプ室において「潤滑油」を加圧して吐出するものであることは,技術常識といえるから,後者の「駆動側ポンプ歯車4及び従動側ポンプ歯車5によって潤滑油を吐出室7内に吐出して吐出通路28から供給する」態様は,前者の「ポンプ要素によって形成されるポンプ室において加圧されたオイルを吐出ポートを介して吐出する」態様に相当する。

後者の「駆動軸10の端部10aに連結固定され」る態様は前者の「駆動軸の先端側に固定され」る態様に相当する。
後者の「駆動歯車14が噛合して回転駆動される従動歯車12」と前者の「無端状のチェーンが巻回されて回転力が伝達される従動スプロケット」とは,「所定の駆動力伝達部材により回転力が伝達される従動部材」との概念で共通している。

後者の「軸受け孔8Aと駆動軸10との間に,カバー部材3に設けられて,前記駆動軸10の軸方向の一部を回転自在に軸受けする軸受け部」からなる構成と,前者の「軸受孔と駆動軸との間に,ポンプハウジングの外端側に設けられて,前記駆動軸の軸方向の一部を回転自在に支持する第1軸受部と,ポンプ室側に設けられて,前記駆動軸の軸方向の一部を回転自在に支持する第2軸受部」からなる構成とは,「軸受孔と駆動軸との間に,ポンプハウジングに設けられて,前記駆動軸の軸方向の一部を回転自在に支持する所定の軸受部」との概念で共通している。

後者の「オリフィス孔25A及び摺動隙間26A」は前者の「連通部」に相当する。
後者の「オリフィス孔25A」は,引用例の段落【0038】の「オリフィス孔25A,25Bから排出される潤滑油は,駆動軸10と軸受け孔8A,8Bとの間を有利に潤滑する」との記載を参酌すると,「軸受け孔8A」と「駆動軸10」との間に潤滑油を供給するものといえる。
一方,後者の「環状空間部」は,本願の明細書の段落【0031】の「各環状空間部12の両端側の環状部12a,12bから第1,第2軸受部13,14の各内周面と駆動軸5の外周面との間の環状な微小クリアランスの全体に軸方向からオイルを供給することができる。」との記載を参酌すると,「第1軸受部」及び「第2軸受部」と「駆動軸」との間にオイルを供給するものといえる。
そうすると,後者の「軸受け孔8Aと駆動軸10との間を吐出室7に連通させる」態様と,前者の「環状空間部を第2軸受部側から吐出ポートに連通させる」態様とは,「軸受孔と駆動軸との間にオイルを供給するために吐出ポートに連通させる」との概念で共通している。

後者の「内燃機関用オイルポンプ」は前者の「オイルポンプ」に相当する。
したがって,両者は,
「作動室の側部に位置するポンプ本体部と該ポンプ本体部に一体に結合されて軸受孔が貫通形成された円筒部とから構成されたポンプハウジングと,
前記軸受孔に軸受され,前記作動室に収容されるポンプ要素を回転駆動することで,該ポンプ要素によって形成されるポンプ室において加圧されたオイルを吐出ポートを介して吐出する駆動軸と,
該駆動軸の先端側に固定され,所定の駆動力伝達部材により回転力が伝達される従動部材と,
前記軸受孔と前記駆動軸との間に,前記ポンプハウジングに設けられて,前記駆動軸の軸方向の一部を回転自在に支持する所定の軸受部と,
前記軸受孔と前記駆動軸との間にオイルを供給するために前記吐出ポートに連通させる連通部と,
前記円筒部の外周面に,一端が前記ポンプ本体部に結合され,他端が前記円筒部の先端まで延びる複数のリブと,を備えているオイルポンプ。」
である点で一致し,次の点で相違する。

[相違点1]
作動室に関し,本願発明は,「ポンプハウジング」に設けられるのに対し,引用発明は,「カバー部材3」とともに「ポンプハウジング1」を構成する「ハウジング部材2」に設けられる点。
[相違点2]
駆動軸の先端側に固定され所定の駆動力伝達部材により回転力が伝達される従動部材に関し,本願発明は,「無端状のチェーンが巻回され」る「従動スプロケット」であるのに対し,引用発明は,「駆動歯車14が噛合」する「従動歯車12」である点。
[相違点3]
軸受孔と駆動軸との間の軸受部に関し,本願発明は,「外端側に設けられ」る「第1軸受部」と,「ポンプ室側に設けられ」る「第2軸受部」と,前記「第1軸受部と第2軸受部との間に形成された環状空間部」とを備え,前記「環状空間部」は,前記「第2軸受部側から」連通部により吐出ポートに連通し,前記「第1軸受部」は,「連通部から環状空間部に供給されたオイルを貯留する」ものであるのに対し,引用発明は,そのような構成とされていない点。

4.判断
上記相違点について以下検討する。

・相違点1について
引用発明のオイルポンプは,「カバー部材3」及び「ハウジング部材2」から「ポンプハウジング1」を構成したものであり,上記「カバー部材3」は作動室の側部を覆うものであるから,ポンプ要素の収容部は,「ポンプハウジング1」を構成する上記「カバー部材3」及び「ハウジング部材2」の双方から構成されているものといえる。そして,「ポンプハウジング1」にポンプ要素の収容部を配置するに当たり,上記「カバー部材3」側に作動室を設けることに格別の技術的困難性が伴うものとも認められないから,「カバー部材3」又は「ハウジング部材2」のどちら側に作動室を設けるかは,当業者が任意に選択すべきことといえる。
一方,本願発明のオイルポンプにおいて,「ポンプハウジング」と「カバー部材」からなるハウジング部材の「ポンプハウジング」側に作動室を設けるという構成による技術的な意義は,出願当初の明細書には記載されておらず,上記構成により格別の作用効果を奏するものとは認められない。
そうすると,引用発明のオイルポンプにおいて,作動室を「カバー部材3」側に設ける構成とすることは,当業者が適宜選択し得る設計的事項であり,当該構成とすることに格別の技術的困難性が伴うものとも認められないから,引用発明において,相違点1に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたものである。

・相違点2について
オイルポンプにおいて,駆動軸の先端側に固定され所定の駆動力伝達部材により回転力が伝達される従動部材として,無端状のチェーンが巻回される従動スプロケットを用いることは,本願の出願前において常套手段(必要であれば,特開2002-122081号公報の段落【0022】及び【図1】を参照。)である。
一方,本願発明のオイルポンプにおいて,駆動軸の先端側に固定され所定の駆動力伝達部材により回転力が伝達される従動部材として,無端状のチェーンが巻回される従動スプロケットを用いる構成による技術的な意義は,出願当初の明細書には記載されておらず,上記構成により格別の作用効果を奏するものとは認められない。
そうすると,引用発明のオイルポンプにおいて,駆動軸の先端側に固定され所定の駆動力伝達部材により回転力が伝達される「従動歯車12」に換えて,上記常套手段を採用することは,当業者が適宜なし得る設計的事項であり,上記常套手段の採用のために格別の技術的困難性が伴うものとも認められないから,引用発明において,上記常套手段に基づいて,相違点2に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたものである。

・相違点3について
引用発明のオイルポンプにおいて,「軸受け部」は,引用例の【図2】及び【図4】を参酌すると,すべり軸受けと認められ,また,引用例の段落【0038】の「オリフィス孔25A,25Bから排出される潤滑油は,駆動軸10と軸受け孔8A,8Bとの間を有利に潤滑する」との記載を参酌すると,当該「軸受け部」は,軸受孔と駆動軸との間が,吐出ポートに連通した「オリフィス孔25A」から供給されたオイルにより潤滑されるものである。そうすると,引用発明の「軸受け部」において,軸受孔と駆動軸との間の潤滑は,吐出ポートに連通した「オリフィス孔25A」から供給されたオイルを,当該軸受孔と駆動軸との間に貯留することによりなされるものといえる。
一方,本願発明のオイルポンプにおいて,「第1軸受部」及び「第2軸受部」は,図面の【図1】を参酌すると,すべり軸受けと認められ,また,明細書の段落【0031】の「各環状空間部12の両端側の環状部12a,12bから第1,第2軸受部13,14の各内周面と駆動軸5の外周面との間の環状な微小クリアランスの全体に軸方向からオイルを供給することができる。」との記載を参酌すると,当該「第1軸受部」及び「第2軸受部」は,軸受孔と駆動軸との間の環状な微小クリアランスが,吐出ポートに連通した環状空間部から供給されたオイルにより潤滑されるものである。そして,「第1軸受部」の,「連通部から前記環状空間部に供給されたオイルを貯留する」という作用は,請求人が平成22年6月3日付けの意見書の「本願の出願当初の明細書の段落0031の記載内容に基づきます。」との主張も参酌すると,本願発明の「第1軸受部」及び「第2軸受部」において,軸受孔と駆動軸との間の潤滑は,吐出ポートに連通した環状空間部から供給されたオイルを,当該軸受孔と駆動軸との間の環状な微小クリアランスに貯留することによりなされるものといえる。
ところで,一般に,すべり軸受けからなる軸受け部を,オイルポンプ自体の作用によりオイルを供給して潤滑するオイルポンプにおいて,始動時の潤滑性を良好にすることは,周知の課題である。そして,オイルの供給により潤滑されるすべり軸受けからなる軸受け部を備えるものにおいて,始動時の潤滑性を良好にするために,当該軸受け部の中間位置に潤滑油が溜る環状溝を設けて,摺動面に潤滑油が保持されるようにすることは,本願の出願前において周知技術(例えば,原査定の拒絶の理由で示した特開平9-329093号公報の段落【0026】-【0028】及び【図10】を参照。)である。
そうすると,引用発明のオイルポンプの「軸受け部」に,上記周知の課題のもとに,上記周知技術である,軸受け部の中間位置に潤滑油が溜る環状溝を設ける技術を採用することは,当業者が容易になし得ることといえる。そして,引用発明に上記周知技術を採用したものにおいて,軸受孔と駆動軸との間は,外端側に設けられる第1軸受部と,ポンプ室側に設けられる第2軸受部と,前記第1軸受部と前記第2軸受部との間に形成された,オイルが溜る環状空間部とを備えたものということができる。さらに,引用発明の「軸受け部」は,吐出ポートに連通した「オリフィス孔25A」が形成されたものであり,引用発明に上記周知技術を採用したものにおいて,オイルが溜る環状空間部は,ポンプ室側に設けられる第2軸受部側から「オリフィス孔25A」及び「摺動隙間26A」により吐出ポートに連通するものということができる。加えて,上述したように,引用発明の「軸受け部」の軸受孔と駆動軸との間の潤滑は,オイルを当該軸受孔と駆動軸との間に貯留することによりなされるものであり,引用発明に上記周知技術を採用したものにおいて,摺動面である第1軸受部は,「オリフィス孔25A」から供給されたオイルに加えて,オイルが溜る環状空間部に供給されたオイルも貯留するものということができる。
したがって,引用発明において,上記周知技術に基づいて相違点3に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたものである。

そして,本願発明の全体構成により奏される効果も,引用発明,上記常套手段及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって,本願発明は,引用発明,上記常套手段及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお,請求人は,審判請求書において,
(1)「引用文献1の技術に係る軸受け孔8A内に環状空間部を設けたところで,当該軸受け孔8Aの入口断面積と出口断面積は等しい状態にあることから,単にポンプ内の空気や潤滑油がオリフィス孔25Aを通じて外部へと流出するのみであって,ポンプ駆動時における十分な潤滑は行い難いと考えられる。つまり,言い換えれば,かかる構成とすることは,ポンプ停止時の油保持やポンプ再始動時の潤滑にのみ有効なものと考えられ,本願請求項1の発明のようなポンプ駆動時の潤滑には特別供し得ない」点,
(2)「引用文献1の技術に係る軸受け孔8A内に環状空間部を設けるとすると,ポンプが停止した際に,当該環状空間部の鉛直下方に油が滞留したままの状態となり,この滞留した油により前記ポンプ再始動時の潤滑等の効果が発揮される一方,当該油によりオリフィス孔25Aが塞がれてしまう結果となる。そうすると,引用文献1の明細書(段落0004)にも記載されているように,雰囲気温度が低い状態では油の粘度も高くなることから,当該油がポンプ再始動時の空気の排出を阻害してしまうこととなる。このように,前記引用文献1に係る技術の趣旨やこれに基づく構成からすれば,上記両技術の組み合わせには技術的な阻害要因がある」点,
(3)「本願請求項1に記載の発明では,前記環状空間部を設けるにあたって,当該環状空間部の外周側にリブを設けることにより,円筒部の剛性アップに基づき駆動軸にチェーン等の張力が作用する場合にも当該駆動軸の良好な軸受作用が得られるようにすると共に,当該リブをもって前記環状空間部内に貯留されたオイルの熱を放散させることで当該オイルの粘度低下による潤滑性低下の抑制を図ったものであるが,引用文献1には,かかる作用効果は勿論,これを示唆する記載もない」点,
を主張している。

・(1)について
上記「・相違点3について」において述べたように,引用発明のオイルポンプの「軸受け部」は,ポンプ駆動時には,軸受孔と駆動軸との間が,吐出ポートに連通した「オリフィス孔25A」から供給されたオイルにより潤滑されるものである。そして,引用発明に上記周知技術を採用したものにおいて,軸受孔と駆動軸との間は,「軸受け部」の中間位置にオイルが溜る環状空間部を備えたものであり,当該環状空間部は,「オリフィス孔25A」及び「摺動隙間26A」により吐出ポートに連通するものであり,ポンプ駆動時には,軸受孔と駆動軸との間は,「オリフィス孔25A」から供給されたオイルに加えて,オイルが溜る環状空間部に供給されたオイルも貯留することにより潤滑されるものということができるから,上記(1)の主張は採用できない。
なお,上記周知技術は,始動時の潤滑性を良好にするためのものであるが,明細書の段落【0010】には,本願発明が解決しようとする課題として,「このように軸受孔と駆動軸との間の潤滑性能の低下は,特にポンプ吐出流量の少ない機関始動時などに起こりやすい。」と記載されており,本願発明も,始動時の潤滑性を良好にすることも課題としていることが示唆されている。

・(2)について
上記「・相違点3について」において述べたように,引用発明の「軸受け部」において,軸受孔と駆動軸との間の潤滑は,吐出ポートに連通した「オリフィス孔25A」から供給されたオイルを,当該軸受孔と駆動軸との間に貯留することによりなされるものであるから,ポンプが停止した際には,鉛直下方にオイルが滞留した状態となり,「軸受け部」に形成された「オリフィス孔25A」も,滞留したオイルにより塞がれ得るものといえる。そうすると,請求人が,引用発明と上記周知技術の組み合わせにおける技術的な阻害要因であると主張する,「油がポンプ再始動時の空気の排出を阻害してしまうこととなる」点は,引用発明のオイルポンプがもともと有する技術的課題と認められ,引用発明に上記周知技術を組み合わせたことによる技術的課題とはいえないから,上記(2)の主張は採用できない。

・(3)について
上記(3)の主張における本願発明の作用効果は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面(以下,「当初明細書等」という。)には明記されたものではなく,また,当初明細書等の記載から,上記技術的事項が,当業者に自明であるとも,当初明細書等に記載されていたに等しい事項であるともいえず,さらに,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるともいえないから,上記(3)の主張には根拠がなく,採用できない。
なお,上記作用効果が,仮に,「円筒部の外周面に,一端が前記ポンプ本体部に結合され,他端が前記円筒部の先端まで延びる複数のリブ」を備えるという構成から自明のものであるとしても,引用発明の「内燃機関用オイルポンプ」も,本願発明と同様に,「軸受け部の外周面に,一端が前記覆い部に結合され,他端が前記軸受け部の先端まで延びる複数のリブ」を備えるものであり,引用発明の「軸受け部」において,当該リブにより,剛性をアップするとともに熱を放散させるという作用効果を奏することができることも自明のものということができるから,上記(3)の主張における本願発明の作用効果は格別のものということはできない。

5.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明,上記常套手段及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないため,本願は,同法第49条第2号の規定に該当し,拒絶をされるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-14 
結審通知日 2011-09-20 
審決日 2011-10-04 
出願番号 特願2004-344411(P2004-344411)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F04C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 笹木 俊男  
特許庁審判長 大河原 裕
特許庁審判官 仁木 浩
冨江 耕太郎
発明の名称 オイルポンプ  
代理人 橋本 剛  

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