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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1247202
審判番号 不服2010-18490  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-08-17 
確定日 2011-11-14 
事件の表示 特願2005- 82332「ドライブシャフトのスライドイン方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月 5日出願公開、特開2006-266330〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年3月22日の出願であって、平成22年6月2日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成22年8月17日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成21年11月6日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明は、次のとおりである。
「円筒状の内径面に複数の直線状の案内溝を軸方向に形成し、内部に潤滑剤を充填した外側継手部材と、
前記外側継手部材内に揺動可能に挿入され、球面状の外径面に複数の直線状の案内溝を軸方向に形成した内側継手部材と、
外側継手部材の案内溝と内側継手部材の案内溝とが協働して形成される複数のボールトラックにそれぞれ配されたトルク伝達ボールと、
トルク伝達ボールを保持するポケット、外側継手部材の内径面に接触案内される球面状の外径面、および内側継手部材の外径面に接触案内される球面状の内径面を有し、かつ、その外径面の球面中心と内径面の球面中心とがそれぞれポケット中心に対して軸方向の反対側にオフセットされた保持器とを備えた摺動型等速ボールジョイントの前記外側継手部材の案内溝相互間の内径面に、少なくとも一箇所、潤滑剤流動用の連通溝を軸方向に形成し、前記摺動型等速ボールジョイント付きのドライブシャフトを自動車に組付ける時、ドライブシャフトを圧縮してスライドインを行なう際、外側継手部材の底部側に溜まっていた潤滑剤の一部を内部スペースの減少分に対応して、前記連通溝を通して内側継手部材の反対側に流動させるようにしたドライブシャフトのスライドイン方法。」

3.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である実願平1-127639号(実開平3-65023号)のマイクロフィルム(以下、「引用例」という。)には、「等速自在継手」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「この考案は自動車や産業機械等における動力伝達に用いられる等速自在継手に関する。」(明細書1ページ15行?16行)
イ.「等速自在継手には種々のタイプのものがあるが、第5図に示すのは駆動軸と従動軸との間で角度変位および相対的軸方向変位をとりうるタイプであって、外方部材(10)、内方部材(20)、ボール(30)、および、保持器(40)からなる。外方部材(10)および内方部材(20)は、それぞれ、駆動軸または従動軸とスプライン結合される。外方部材(10)は内周面に軸方向の案内溝(11)を有し、内方部材(20)は外周面に軸方向の案内溝(21)を有する。これらの案内溝(11,21)は対をなし、各対の案内溝(11,21)に保持器(40)で保持されたボール(30)が介在してトルクの伝達を行う。保持器(40)は曲率中心がオフセットした球面状の内周面(42)および外周面(44)を有し、内周面(42)は内方部材(20)の球面状外周面(22)と接し、外周面(44)は外方部材(10)の円筒状内周面(12)と接している。」(明細書1ページ18行?2ページ15行)
ウ.「等速自在継手の内部空間には潤滑のためにグリースが充填され、回転中、遠心力の作用でこのグリースを各摺動面に供給するよう意図されている。しかし、内方部材(20)の外周面(22)と保持器(40)の内周面(42)との間のすきま、および、外方部材(10)の内周面(12)と保持器(40)の外周面(44)との間のすきまは非常に僅かで、継手の回転に伴う遠心力だけでは摺動面へのグリース供給が十分でなく、良好な潤滑作用が得られない。」(明細書2ページ17行?3ページ6行)
エ.「[課題を解決するための手段]
この考案は、保持器の外周面と接する外方部材の内周面に軸方向の油溝を設け、この油溝の横断面形状を、外方部材の内周面となだらかに連なる略円弧状とした。」(明細書4ページ19行?5ページ3行)
オ.「[作用]
油溝は外方部材の内周面に開口しているから、等速自在継手の内部空間に充填された潤滑油が容易に進入し、常時、潤滑油を溜めておく。そして、この油溝は外方部材の内周面となだらかに連なっているので、油溝内の潤滑油が遠心力と毛管現象によって外方部材の内周面と保持器の外周面との間に引き込まれるのを容易にする。このようにして、外方部材の内周面と保持器の内周面との間に常に潤滑油の介在する状態が維持される。したがって、外方部材と保持器の境界面における潤滑性が向上し、両者の相対的な動きが滑らかになる。」(明細書5ページ10行?6ページ2行)
カ.「第1?3図に示す実施例は、外方部材(10)の軸方向全長にわたって、つまり、開口側の端面から内奥の端部まで延在する軸方向の油溝(14)を設けている。油溝(14)の横断面形状は、第3図からよくわかるように、外方部材(10)の内周面(12)となだらかに連なる略円弧状である。
油溝(14)の内端(15)も外方部材(10)の内周面(12)となだらかに連なっている。」(明細書6ページ9行?17行)
キ.「第6図?第8図は第5図に示したタイプの等速自在継手の諸形態を示しており、いずれも内方部材と外方部材との相対的軸方向移動が可能である。とりわけこのタイプの等速自在継手では、外方部材と保持器との間の摩擦抵抗を低減させることによってスライド抵抗の低減、発熱や異音の防止といった効果が顕著にあらわれる。」(明細書7ページ9行?15行)
ク.第1図から、外方部材(10)の案内溝(11)相互間の内周面(12)に油溝(14)が形成されていることが看取できる。第2図及び第5図から、外方部材(10)の内周面(12)に直線状の案内溝(11)が軸方向に形成されている点が看取できる。また、第5図には、内方部材(20)の外周面に案内溝(21)が直線状に形成されている点が看取できる。
ケ.第5図?第8図には、ボール(30)を保持する保持器(40)が図示されている。これら第5図?第8図及び第2図並びに上記イ.の記載事項を参酌すると、保持器(40)は、ボール(30)を保持するポケット、外方部材(10)の内周面(12)に接触案内される球面状の外周面(44)、および内方部材(20)の外周面に接触案内される球面状の内周面(42)を有し、かつ、その外周面(44)の球面中心と内周面(42)の球面中心とがそれぞれポケット中心に対して軸方向の反対側にオフセットされていることは明らかである。
コ.上記ア.及びイ.の記載事項からみて、引用例に記載された等速自在継手は、内方部材(20)にシャフトをスプライン結合して自動車に組付けることができるものと解される。

これら記載事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに倣って整理すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「円筒状の内周面(12)に複数の直線状の案内溝(11)を軸方向に形成し、内部に潤滑油を充填した外方部材(10)と、
前記外方部材(10)内に揺動可能に挿入され、球面状の外周面に複数の直線状の案内溝(21)を軸方向に形成した内方部材(20)と、
外方部材(10)の案内溝(11)と内方部材(20)の案内溝(21)とが対をなし、各対の案内溝(11,21)に配置されたボール(30)と、
ボール(30)を保持するポケット、外方部材(10)の内周面(12)に接触案内される球面状の外周面(44)、および内方部材(20)の外周面に接触案内される球面状の内周面(42)を有し、かつ、その外周面(44)の球面中心と内周面(42)の球面中心とがそれぞれポケット中心に対して軸方向の反対側にオフセットされた保持器(40)とを備えた等速自在継手の前記外方部材(10)の案内溝(11)相互間の内周面(12)に、常時、潤滑油を溜めておく油溝(14)を軸方向全長にわたって形成し、前記等速自在継手付きのシャフトを自動車に組付ける方法。」

4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、その意味、機能又は作用などからみて、後者の「内周面(12)」は前者の「内径面」に相当し、以下同様に、「案内溝(11)」は「案内溝」に、「潤滑油」は「潤滑剤」に、「外方部材(10)」は「外側継手部材」に、「外周面」は「外径面」に、「案内溝(21)」は「案内溝」に、「内方部材(20)」は「内側継手部材」に、「外方部材(10)の案内溝(11)と内方部材(20)の案内溝(21)とが対をなし、各対の案内溝(11,21)に配置された」は「外側継手部材の案内溝と内側継手部材の案内溝とが協働して形成される複数のボールトラックにそれぞれ配された」に、「ボール(30)」は「トルク伝達ボール」に、「ボール(30)を保持するポケット」は「トルク伝達ボールを保持するポケット」に、「外方部材(10)の内周面(12)に接触案内される球面状の外周面(44)」は「外側継手部材の内径面に接触案内される球面状の外径面」に、「内方部材(20)の外周面に接触案内される球面状の内周面(42)」は「内側継手部材の外径面に接触案内される球面状の内径面」に、「外周面(44)の球面中心」は「外径面の球面中心」に、「内周面(42)の球面中心」は「内径面の球面中心」に、「保持器(40)」は「保持器」に、「等速自在継手」は「摺動型等速ボールジョイント」に、それぞれ相当する。後者の「常時、潤滑油を溜めておく油溝(14)」と前者の「潤滑剤流動用の連通溝」とは、どちらも「潤滑剤用の連通溝」である点で共通する。また、前者の「ドライブシャフトのスライドイン方法」は「摺動型等速ボールジョイント付きのドライブシャフトを自動車に組付ける時」の「ドライブシャフトのスライドイン方法」であるから、後者の「等速自在継手付きのシャフトを自動車に組付ける方法」と前者の「ドライブシャフトのスライドイン方法」とは、「摺動型等速ボールジョイント付きのシャフトを自動車に組付ける方法」である点で共通する。
してみると、両者は、本願発明の用語を用いて表現すると、
[一致点]
「円筒状の内径面に複数の直線状の案内溝を軸方向に形成し、内部に潤滑剤を充填した外側継手部材と、
前記外側継手部材内に揺動可能に挿入され、球面状の外径面に複数の直線状の案内溝を軸方向に形成した内側継手部材と、
外側継手部材の案内溝と内側継手部材の案内溝とが協働して形成される複数のボールトラックにそれぞれ配されたトルク伝達ボールと、
トルク伝達ボールを保持するポケット、外側継手部材の内径面に接触案内される球面状の外径面、および内側継手部材の外径面に接触案内される球面状の内径面を有し、かつ、その外径面の球面中心と内径面の球面中心とがそれぞれポケット中心に対して軸方向の反対側にオフセットされた保持器とを備えた摺動型等速ボールジョイントの前記外側継手部材の案内溝相互間の内径面に、少なくとも一箇所、潤滑剤用の連通溝を軸方向に形成し、前記摺動型等速ボールジョイント付きのシャフトを自動車に組付ける方法。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
本願発明は、連通溝が潤滑剤流動用の連通溝であり、「前記摺動型等速ボールジョイント付きのドライブシャフトを自動車に組付ける時、ドライブシャフトを圧縮してスライドインを行なう際、外側継手部材の底部側に溜まっていた潤滑剤の一部を内部スペースの減少分に対応して、前記連通溝を通して内側継手部材の反対側に流動させるようにしたドライブシャフトのスライドイン方法」であるのに対して、引用発明は、油溝が常時、潤滑油を溜めておく油溝(14)であり、等速自在継手付きのシャフトを自動車に組付ける時、スライドインを行うかどうか、そして、油溝(14)がどのような作用をするかについて明らかにされていない点。

5.判断
上記相違点について検討する。
一般に自動車のドライブシャフトにおいて等速自在継手(摺動型等速ボールジョイント)を用いることは、従来から普通に行われていること(例えば、特開平7-42752号公報の段落【0002】、特開2001-132767号公報の段落【0003】、【0007】、【0008】参照)であって格別なことではない。
そうすると、引用発明の等速自在継手をドライブシャフト用として採用することは、当業者であれば必要に応じて適宜なし得ることである。
また、引用例には、ドライブシャフトを圧縮してスライドインを行うことについては何も記載されていないが、等速自在継手(摺動型等速ボールジョイント)がスライドインを行うことができることは、その構造からみて自明の事項(必要ならば、特開平7-42752号公報の段落【0021】、特開2001-132767号公報の段落【0008】の記載、あるいは特開昭62-31724号公報の2ページ右上欄16行?左下欄10行の記載及び第1図などを参照)であるから、引用発明の等速自在継手においても、スライドインを行うことができることは明らかである。
しかも、引用発明は、外方部材(10)の軸方向全長にわたって油溝(14)が設けられ、この油溝14には常時、潤滑油が溜められており、かつ、外方部材(10)の内部には潤滑油が充填されているのであるから、スライドインを行った場合、油溝(14)が潤滑剤の逃がし通路としての機能を果たすこと、即ち、外方部材(10)の内部に充填した潤滑油の一部が内部スペースの減少分に対応して、油溝(14)を通して内方部材(20)の反対側に流動することは、その構造上、明らかである。このことは、相互に摺動し得る一対の部材からなる軸継手において、スライドインを行う際に、潤滑剤が充填された内部空間の圧力が高くなり、スライドイン抵抗が大きくなることが従来からよく知られており、それはむしろ技術常識であり、スライドイン抵抗が大きくなることを防ぐために、潤滑剤を逃がすための逃がし通路を設けることが従来周知の技術(例えば、実願昭60-99180号(実開昭62-6127号)のマイクロフィルムの4ページ2行?8行、6ページ4行?11行、実願昭59-133578号(実開昭61-49133号)のマイクロフィルムの2ページ10行?14行、4ページ9行?19行参照)であることからみても、当業者が容易に理解し得ることである。そして、摺動型等速ボールジョイント付きのドライブシャフトを自動車に組付ける時、ドライブシャフトを圧縮してスライドインを行なうことは、従来から普通に行われていることである。
そうすると、引用発明の等速自在継手をドライブシャフト用として採用し、等速自在継手付きのドライブシャフトを自動車に組付ける時、このドライブシャフトを圧縮してスライドインを行うようにし、その際に、スライドイン抵抗を少なくするために、油溝(14)を、潤滑油を逃がすための逃がし通路として利用し、相違点に係る本願発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到できたことであるといえる。

そして、本願発明の効果は、引用例に記載された発明及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。

なお、審判請求人は、審判請求書の中で「等速自在継手は精密機械部品であるため部品相互間の隙間が非常に小さく、この隙間が基準隙間よりも少しでも大きすぎたり小さすぎたりすると騒音や振動の原因になります。摺動式等速自在継手のスライドインにおいて潤滑剤としてのグリースが流動し難いということは知られていましたが、前述のように等速自在継手では部品間の隙間を大きくできないという事情があるためにスライドイン時の抵抗は不可避的なものという考え方が一般的でありました。このため、引用文献1(注:本審決の「引用例」に対応する。)のように『油溝』による潤滑性改善の提案はありましたが、この『油溝』をスライドイン時の潤滑剤の逃がし通路として利用するという発想自体が存在しませんでした。」(「(c)本願発明と引用文献の発明との対比」の項参照)と主張する。
しかしながら、相違点についての判断においても述べたとおり、相互に摺動し得る一対の部材からなる軸継手において、スライドインする際に内部空間に充填した潤滑剤によりスライドイン抵抗が大きくなることは従来から一般によく知られていること、というよりもむしろ技術常識であること、そして、その対応策として潤滑剤を逃がす逃がし通路を設けることが従来周知の技術であることを参酌すれば、引用発明の「油溝」が潤滑剤の逃がし通路としての作用を奏することができることは、当業者であれば容易に予測し得ることであるし、その油溝を逃がし通路として利用しようとするようなことは、当業者であれば容易に想到できることである。また、引用発明は、「内方部材(20)の外周面(22)と保持器(40)の内周面(42)との間のすきま、および、外方部材(10)の内周面(12)と保持器(40)の外周面(44)との間のすきまは非常に僅か」(上記ウ.参照)であり、かつ、外方部材(10)の軸方向全長にわたって油溝(14)が設けられていて(上記カ.参照)、「異音の防止といった効果が顕著にあらわれる」(上記キ.参照)のであるから、引用発明に接した当業者からみれば、スライドイン時の抵抗が不可避的なものと考えるような事情があったとは解されない。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

したがって、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
そうすると、本願発明が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-20 
結審通知日 2011-09-21 
審決日 2011-10-04 
出願番号 特願2005-82332(P2005-82332)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石田 智樹  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 倉田 和博
山岸 利治
発明の名称 ドライブシャフトのスライドイン方法  
代理人 熊野 剛  
代理人 城村 邦彦  
代理人 田中 秀佳  

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