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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D |
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管理番号 | 1247465 |
審判番号 | 不服2008-17187 |
総通号数 | 145 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-01-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-07-04 |
確定日 | 2011-11-24 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第 84157号「非湿潤性コーティング用の組成物、該組成物でガラスを処理する方法及びその結果得られる製品」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 2月10日出願公開、特開平10- 36706〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成9年4月2日(パリ条約による優先権主張1996年4月2日及び6月6日 フランス(FR))に出願され、平成20年4月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年7月4日に審判請求がなされると共に同年8月1日付けで手続補正がなされ、その後、平成22年3月29日付けで審尋がなされ、同年9月29日に回答書の提出がなされ、同年11月29日に、平成20年8月1日付けの手続補正を却下する決定がなされるとともに拒絶理由が通知され、平成23年5月31日に意見書の提出及び手続補正がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1?8に係る発明は、平成23年5月31日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「シランSiX_(4)[Xは加水分解し得る官能基である]と、1種類以上の水性溶媒系と、1種類以上の触媒とを混合して得られる下塗り組成物で支持体の表面を予備処理し、次いで、アルコキシ官能基がケイ素原子に直接結合した1種類以上のフッ素含有アルコキシシランと、1種類以上の水性溶媒系と、1種類以上の触媒とを混合して得られるコーティング用組成物を予備処理された支持体表面に堆積させることを含み、コーティング用組成物中の水性溶媒系がアルコールおよび水を含み、前記水性溶媒系における水の比率がアルコールの3?20容量%である、支持体表面を疎水性且つ疎油性にするためのコーティング方法。」 第3 当審が通知した拒絶の理由 本願発明は、補正前の請求項5に係る発明(平成18年7月28日付けの手続補正書を参照。なお、平成20年8月1日付けの手続補正は、第1で示したように却下されている。)に相当する。 そして、当審が通知した拒絶の理由は、本願発明、すなわち補正前の請求項5に係る発明は、その優先日前に頒布された刊行物1,3及び4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。 第4 当審の判断 当審は、上記拒絶理由のとおり、本願発明は特許を受けることができないものであると判断する。以下、詳述する。 1 刊行物 刊行物1:特開平4-342444号公報 刊行物3:特開平7-8900号公報(原審における「引用例5」) 刊行物4:特開平5-311156号公報(原審における「引用例2」) 参考文献:大木道則ら編,「化学辞典」,第1版第2刷,東京化学同人,1995年5月10日,118頁左欄の「イソプロピルアルコール」、165頁左欄の「エタノール」及び1418頁右欄の「メタノール」の項 2 刊行物に記載された事項 (1)上記刊行物1には、次の記載がある。 摘記1a:「【請求項1】少なくとも2層の表面処理層を有する基材からなる、あるいはその基材を構成要素とする、輸送機器用物品であって、表面処理層の最外層である第1層が2以上のフッ素原子を有する有機基と加水分解性基とを有する含フッ素オルガノシラン化合物(I)あるいはその部分加水分解生成物で処理して得られる層であり、最外層に接する下層である第2層が上記含フッ素オルガノシラン化合物以外の加水分解性シラン化合物(II)あるいはその部分加水分解生成物で処理して得られる層である、輸送機器用物品。」 摘記1b:「【請求項2】表面処理層が、基材表面を加水分解性シラン化合物(II)、その部分加水分解生成物、あるいはそれらの少なくとも1種を含む組成物で処理して第2層を形成し、次いで第2層表面を含フッ素オルガノシラン化合物(I)、その部分加水分解生成物、あるいはそれらの少なくとも1種を含む組成物で処理して第1層を形成してなる表面処理層である、請求項1の輸送機器用物品。」 摘記1c:「【請求項3】表面処理層を有する基材が透明な材料からなる基材である、請求項1の輸送機器用物品。 【請求項4】基材がガラスである、請求項3の輸送機器用物品。」 摘記1d:「【請求項5】含フッ素オルガノシラン化合物(I)が下記式(A)または(B)で表される化合物である、請求項1の輸送機器用物品。 ・・・ (B) (R_(f))_(e)R^(5)_(g)R^(6)_(h)SiX_(4-e-g-h) ただし、Xは加水分解性基、R_(f)は2以上のフッ素原子を有する有機基、R^(5)、R^(6)は独立に水素または炭素数1から16の有機基、eは1、2、3 、g、hは独立に0、1、2、3であって1≦e+g+h≦3を満たす整数を表わす。」 摘記1e:「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、水滴の付着が少ないあるいは付着した水滴の除去が容易な撥水性表面を長期に渡って維持しうる輸送機器用物品に関するものである。」 摘記1f:「【0008】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の如き問題点に鑑みなされたものである。すなわち、本発明者は、従来の提案が有していた欠点を解消し得る処理剤の研究、検討の過程において、多種類の基材に応用が可能であり、優れた撥水性を発現する処理剤を見いだた。しかも、該処理剤で処理した各種基材は撥水性を有する基材として、特に輸送機器用物品として極めて好適であることを確認し、本発明を完成するに至った。従って、本発明は、撥水性を有し、耐摩耗性、耐薬品性、耐候性に優れることで、その効果が半永久的に持続する輸送機器用物品の提供を目的とする。」 摘記1g:「【0012】加水分解性シラン化合物(II)とは、少なくとも1つの加水分解性基がケイ素原子に結合した構造を有する化合物を意味する。この化合物は、ケイ素原子に加水分解性基のみが結合している化合物(たとえば、テトラアルコキシシラン)であってもよく、ケイ素原子に少なくとも1つの有機基が結合している化合物であってもよい。ただし、この場合の有機基は2以上のフッ素原子を有する有機基ではない有機基である。」 摘記1h:「【0014】含フッ素オルガノシラン化合物(I) や加水分解性シラン化合物(II)の部分加水分解生成物とは、水や酸性水溶液中でこれらシラン化合物を部分的に加水分解し、生成するシラノール基を有する化合物あるいはそのシラノール基の反応により2以上に分子が縮合した化合物をいう。酸としては、例えば、塩酸、酢酸、りん酸、硝酸、硫酸、スルホン酸などを使用することができる。 【0015】上記のような加水分解性基を有するシラン化合物やその部分加水分解生成物で処理された表面とは、シラン化合物が化学的にあるいは物理的に結合した表面をいう。加水分解性基は水分により分解してシラノール基となので、これらシラン化合物は主としてこのシラノール基の化学的反応により表面に結合するものと考えられる。即ち、例えば、このシラノール基はガラス表面のシラノール基と脱水縮合反応すると考えられる。また、第1層も第2層表面のシラノール基等と結合すると考えられる」 摘記1i:「【0035】化合物(A)および化合物(B)の具体例を下記に示す。しかし、化合物(A)および化合物(B)はこれら具体例に限定されるものではない。なお、下記化学式においてx、n、mはそれぞれ1以上の整数を、Xは加水分解性基を、Rはアルキル基等を、R_(f)はポリフルオロアルキル基を、R_(F)はパーフルオロアルキル基を示す。これら化学式において、xは2?8が、Xは低級アルコキシ基が、Rは低級アルキル基が、R_(f)はパーフルオロアルキル基を有するジメチレン基が好ましい。 ・・・ 【0046】化合物(B)の例示。 【0047】 【化10】 」 摘記1j:「【0066】本発明において、表面処理層の最外層である第1層は含フッ素オルガノシラン化合物(I)あるいはその部分加水分解生成物で処理して得られる層である。この層を形成するための組成物としては含フッ素オルガノシラン化合物(I)あるいはその部分加水分解生成物を有する溶液や分散液の使用が好ましい。 【0067】その組成物には溶剤や分散剤以外ににさらに他の添加剤を添加することができる。その添加剤としては前記の加水分解を行なうための酸がある。また、加水分解性シラン化合物(II)やその部分加水分解生成物もこの組成物に添加することができる。その添加量は、特に限定されるものではないが、含フッ素オルガノシラン化合物(I)やその部分加水分解生成物の合計に対して等重量以下、特に50重量%以下が好ましい。」 摘記1k:「【0077】 【実施例】以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが本発明は実施例のみに限定されるものではない。 実施例において実施した各種評価方法は次ぎの通りである。 【0078】1.撥水性 1-a)水に接触角を測定した。基材表面の異なる5ヶ所で測定を行ない、その平均値を示す。1-b)サンプル面から20cmの距離に保持したノズルから水を全面に約1時間スプレーした後に表面に残存する水滴を肉眼で観察し以下の評価基準で評価した。 【0079】 A:サンプル表面に全く水が残らない。 B:サンプル表面に少し水が残る。 C:サンプル表面にかなり水滴が残る。 D:サンプル表面で水が濡れ広がる。 【0080】2.耐摩耗性 試験機:テイバー式ロータリーアブレッサー(株式会社東洋精機製作所)。 試験条件:摩耗輪H-22、荷重1kg、摩耗回数 300回。 上記方法で耐摩耗試験を実施し、試験後の撥水性を評価した。 ・・・ 【0083】5.使用化合物 (a)(CH_(3)O)_(3)SiC_(2)H_(4)C_(6)F_(12)C_(2)H_(4)Si(OCH_(3))_(3) (b)(CH_(3)O)_(2)(CH_(3))SiC_(2)H_(4)C_(6)F_(12)C_(2)H_(4)Si(CH_(3))(OCH_(3))_(2) (c)C_(8)F_(17)CH_(2)CH_(2)Si(OCH_(3))_(3) (d)Si(OCH_(3))_(4) (e)エポキシ樹脂(商品名「EP 827」、油化シェルエポキシ(株)製) (f)メタノール分散シリカゾル(固形分30重量%、触媒化成(株)製) 【0084】[処理剤1の調製]撹拌子および温度計がセットされたフラスコに、(d)78.5g、メチルアルコール1020.2g、イソプロピルアルコール2000.0gを加え、1時間撹拌した。この溶液の温度を5℃に維持しながら、1%塩酸水溶液37.2gを徐々に滴下した。滴下終了後、液温を25℃に維持しながら5日間撹拌を継続し処理剤1を得た。 【0085】[処理剤2の調製]撹拌子及び温度計がセットされたフラスコに、(d)75.0g、(f)10.9g、メチルアルコール1203.5g、イソプロピルアルコール2000.0gを加え、1時間撹拌した。この溶液の温度を5℃に維持しながら、1%塩酸水溶液35.5gを徐々に滴下した。滴下終了後、液温を25℃に維持しながら5日間撹拌を継続し処理剤2を得た。 【0086】[処理剤3の調製]撹拌子及び温度計がセットされたフラスコに、(a)56.3g、(c)29.4g、(d)43.9gを混合し、メチルアルコール1531.9g、イソプロピルアルコール7000.0gを加え、さらに酢酸ナトリウム8.9gを添加して1時間撹拌した。この溶液の温度を5℃に維持しながら、1%塩酸水溶液34.5gを徐々に滴下した。滴下終了後、液温を25℃に維持しながら5日間撹拌を継続し処理剤3を得た。 【0087】[処理剤4の調製]撹拌子及び温度計がセットされたフラスコに、(a)23.0g、(b)10.8g、(c)30.0g、(d)22.4g、および(e)13.6gを混合し、メチルアルコール1708.9g、イソプロピルアルコール7000.0gを加え、1時間撹拌した。この溶液の温度を5℃に維持しながら、1%塩酸水溶液23.6gを徐々に滴下した。滴下終了後、液温を25℃に維持しながら5日間撹拌を継続し処理剤4を得た。 【0088】[実施例1]10cm×10cm(厚さ3mm)のガラス板を処理剤1の溶液に浸漬させ、11cm/分なる速度で引き上げ、80℃、10分間加熱した。この試験片を室温にて30分放置した後、処理剤3の溶液に浸漬し、11cm/分なる速度で引き上げ、200℃、30分間加熱し、サンプル試験片を作成した。この試験片を評価した結果を表1に示す。 【0089】[実施例2]実施例1における処理剤3を処理剤4に変更した他は実施例1と同様に試験、評価を行った。結果は同じく表1に示す。 【0090】[実施例3]実施例1における処理剤1を処理剤2に変更した他は実施例1と同様に試験、評価を行った。結果は同じく表1に示す。 【0091】[実施例4]実施例1における処理剤1を処理剤2に、処理剤3を処理剤4変更した他は実施例1と同様に試験、評価を行った。結果は同じく表1に示す。 【0092】[実施例5]実施例1における処理剤1の浸漬後の加熱を80℃、10分間から300℃、30分間に変更した以外は実施例1と同様に試験、評価を行った。結果は同じく表1に示す。 【0093】[比較例1]10cm×10cm(厚さ3mm)のガラス板を処理剤3の溶液に浸漬させ、11cm/分なる速度で引き上げ、サンプル試験片を作成した。この試験片を評価した結果を表1に示す。 【0094】 【表1】 」 摘記1l:「【0102】 【発明の効果】本発明の輸送機器用基材や輸送機器用物品およびそれらを装着した輸送機器には実施例に明かなように優れた効果が認められる。すなわち、 1.撥水性に優れており、ほこり、汚れ、水滴の付着、あるいはそれによる水垢の発生などがなく、希にそれらの発生があっても、容易に除去可能で水が誘発する悪影響を遮断することができるし、洗浄の簡略化が図れる。 【0103】2.撥水性の持続性に優れ、半永久的にその状態を維持する。 3.耐薬品性に優れ、海岸線沿いでの使用、あるいは海水が直接触れる船舶においても効果を発揮する。 4.特別な前処理を必要とせず、経済的効果も高い。 5.既に常用されている輸送機器用物品にも適用が可能である。以上のような効果は従来の材料では期待できないものであり、これまで使用不可能であった分野にまでその適用範囲をが拡大することが期待できる。」 (2)上記刊行物3には、次の記載がある。 摘記3a:「【請求項1】 基材表面に、一般式 (F_(3) C) _(m) (CF_(3-n) ) _(n) Si X_(4-n) 、または(F_(3) C)_(n) SiX_(4-n) (m及びnは1?3の整数を示し、Xはハロゲン原子または炭素数5以下のアルコキシ基を表す。)で表されるシラン系化合物の加水分解物を塗布し、加熱乾燥することを特徴とする高撥水性材料の製造方法。」 摘記3b:「【0001】 【産業上の利用分野】この発明はガラスやプラスチックなどの水滴除去、汚染防止処理に関するものである。」 摘記3c:「【0022】(実施例1)スライドガラスを基材として用い、先ずメタノールで洗浄し、ついで酸洗浄、蒸留水洗浄処理を行った。一方、エタノール:水=90:10の溶媒に、撥水剤としてF_(3) C- Si CL_(3)を10wt%溶解し、加水分解物溶液を作製した。この加水分解物溶液に上記処理を施したガラスを浸漬し、60cm/分で引き上げ、これを室温で10分間風乾した後、110℃で1時間加熱処理して試験片を作製した。 【0023】(実施例2)撥水剤として(F_(3 )C)_(2) Si Cl_(2)を使用した以外は、実施例1と同様に行った。 (実施例3)酢酸でpH2に調整したエタノール:水=90:10の溶媒に、撥水剤としてF_(3) C- Si (OCH_(3))_(3) を10wt%溶解し、加水分解物溶液を作製した。それ以外は実施例1と同様に行った。」 (3)上記刊行物4には、下記の記載がある。 摘記4a「【請求項1】 アルコール溶液にフルオロアルキルシランを 1.0?10重量%と、酸触媒を0.01?5重量%と、水を0.01?40重量%含有したことを特徴とする撥水処理剤。」 摘記4b:「【0001】 【産業上の利用分野】この発明は自動車用ウィンドウ、サイドミラー等の撥水処理剤に関する。」 摘記4c:「【0015】 【実施例】次に本発明を実施例および比較例により説明する。 実施例1 エチルアルコール (95%)500gに、フルオロアルキルシランとしてヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン〔CF_(3)(CF_(2))_(7)CH_(2)CH_(2)Si(OMe)_(3) 〕10gを溶解した後、塩酸 (35%) 1g、水1gを混合した溶液を添加し作製した処理液を自動車用ソーダガラス板に塗布し、約5分間風乾した後エチルアルコールで表面をワイピングし撥水処理ガラス板を作製した。この作製した溶液中には、フルオロアルキルシランを 2.0重量%、塩酸を 0.7重量%、水を 5.2重量%含有していた。 【0016】実施例2 溶媒としてメチルアルコール 500gを用い、フルオロアルキルシランとしてヘプタフルオロデシルトリメトキシシランを3重量%添加し、これに酸触媒として硝酸をアルコール溶液中の濃度が 0.6重量%と水が 0.4重量%になるように添加し、撥水処理剤を作製した。作製した撥水処理剤を自動車用ソーダガラス板に塗布し、約5分間風乾後メチルアルコールでワイピングし撥水処理ガラス板を作製した。」 (4)上記参考文献には、以下の記載がある。 摘記5a:「イソプロピルアルコール・・・比重d_(4)^(25)0.78095,・・・」(118頁「イソプロピルアルコール」の項) 摘記5b:「エタノール・・・比重d_(4)^(20)0.7893,・・・」(165頁「エタノール」の項) 摘記5c:「メタノール・・・比重d_(4)^(20)0.7928,・・・」(1418頁「メタノール」の項) 3 刊行物1に記載された発明 刊行物1には、「少なくとも2層の表面処理層を有する基材からなる、あるいはその基材を構成要素とする、輸送機器用物品であって、表面処理層の最外層である第1層が2以上のフッ素原子を有する有機基と加水分解性基とを有する含フッ素オルガノシラン化合物(I)あるいはその部分加水分解生成物で処理して得られる層であり、最外層に接する下層である第2層が上記含フッ素オルガノシラン化合物以外の加水分解性シラン化合物(II)あるいはその部分加水分解生成物で処理して得られる層である、輸送機器用物品。」が記載されており(摘記1a)、当該表面処理層は、「基材表面を加水分解性シラン化合物(II)、その部分加水分解生成物、あるいはそれらの少なくとも1種を含む組成物で処理して第2層を形成し、次いで第2層表面を含フッ素オルガノシラン化合物(I)、その部分加水分解生成物、あるいはそれらの少なくとも1種を含む組成物で処理して第1層を形成してなる表面処理層」である(摘記1b)。 そして、実施例1では、上記第1層を形成するための組成物として、含フッ素オルガノシラン化合物である(CH_(3)O)_(3)SiC_(2)H_(4)C_(6)F_(12)C_(2)H_(4)Si(OCH_(3))_(3)及びC_(8)F_(17)CH_(2)CH_(2)Si(OCH_(3))_(3)と、Si(OCH_(3))_(4)の混合物に、メチルアルコール1531.9g、イソプロピルアルコール7000.0g、酢酸ナトリウム8.9g及び1%塩酸水溶液34.5gを配合した組成物(処理剤3)が使用されたことが記載されており、上記第2層を形成するための組成物として、「含フッ素オルガノシラン化合物以外の加水分解性シラン化合物」であるSi(OCH_(3))_(4)に、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、1%塩酸水溶液を加えたもの(処理剤1)が使用されたことが記載されている(摘記1k)。 ここで、上記処理剤3に含まれる水の量は約34.2g(=34.5×0.99)であり、水の比重を1とすると34.2mlとなる。また、処理剤3に含まれるアルコールの量(ml)は、メチルアルコールはその比重が0.7928(参考文献の摘記5c)であるから約1932ml(=1531.9/0.7928)であり、イソプロピルアルコールはその比重が0.78095(参考文献の摘記5a)であるから約8963ml(=7000/0.78095)であり、アルコールに対する水の比率は、約0.3%(=34.2/(1932+8963)×100)となる。 また、実施例1には、当該輸送機器用物品を製造する工程として、基材であるガラス板を第2層を構成する「処理剤1」の溶液に浸漬させ、次いで、第1層を構成する「処理剤3」の溶液に浸漬したことも記載されている(摘記1k)。 そうすると、刊行物1には、 「少なくとも2層の表面処理層を有するガラス板等の基材からなる、あるいはその基材を構成要素とする、輸送機器用物品であって、最外層に接する下層である第2層が、基材表面を、Si(OCH_(3))_(4)、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、1%塩酸水溶液を混合して得られる第2の処理剤で処理して得られる層であって、表面処理層の最外層である第1層が、上記第2の処理剤による処理に次いで、(CH_(3)O)_(3)SiC_(2)H_(4)C_(6)F_(12)C_(2)H_(4)Si(OCH_(3))_(3)、C_(8)F_(17)CH_(2)CH_(2)Si(OCH_(3))_(3)及びSi(OCH_(3))_(4)の混合物に、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、酢酸ナトリウム及び1%塩酸水溶液を混合して得られ、水の比率がメチルアルコール及びイソプロピルアルコールの約0.3容量%である、第1の処理剤で処理して得られる層である、輸送機器用物品。」 の発明が記載されているといえる。 そして、刊行物1には、上記「輸送機器用物品」を製造するための方法も併せて記載されているといえるから、刊行物1には、 「Si(OCH_(3))_(4)、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、塩酸水溶液を混合して得られる第2の処理剤でガラス板等の基材を処理し、次いで、それを(CH_(3)O)_(3)SiC_(2)H_(4)C_(6)F_(12)C_(2)H_(4)Si(OCH_(3))_(3)、C_(8)F_(17)CH_(2)CH_(2)Si(OCH_(3))_(3)及びSi(OCH_(3))_(4)の混合物に、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、酢酸ナトリウム及び1%塩酸水溶液を混合して得られ、水の比率がメチルアルコール及びイソプロピルアルコールの約0.3容量%である、第1の処理剤で処理する、少なくとも2層の表面処理層を有する基材からなる、あるいはその基材を構成要素とする、輸送機器用物品の製造方法。」 の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 4 対比 本願発明と引用発明を対比する。 引用発明における「Si(OCH_(3))_(4)」は本願発明の「シランSiX_(4)」に相当する。 また、平成18年7月28日付け及び平成23年5月31日付けの手続補正により補正された本願の明細書(以下「本願明細書」という。)の段落【0011】及び【0024】の記載からみて、本願発明における「触媒」にはブレンステッド酸が含まれ、本願発明における「水性溶媒系」にはアルコールと水の混合物が含まれるから、引用発明の第2の処理剤に含まれる「メチルアルコール、イソプロピルアルコール、塩酸水溶液」のうち、「塩酸」はブレンステッド酸であるから本願発明の「触媒」に相当し、残りのメチルアルコール、イソプロピルアルコール及び塩酸水溶液の溶媒である水の混合物は、本願発明の「水性溶媒系」に相当する。 したがって、引用発明の「第2の処理剤」は本願発明の「下塗り組成物」に相当する。 同様に、引用発明の「(CH_(3)O)_(3)SiC_(2)H_(4)C_(6)F_(12)C_(2)H_(4)Si(OCH_(3))_(3)及びC_(8)F_(17)CH_(2)CH_(2)Si(OCH_(3))_(3)」は本願発明の「アルコキシ官能基がケイ素原子に直接結合した1種類以上のフッ素含有アルコキシシラン」に相当し、引用発明の第1の処理剤に含まれる「塩酸」は本願発明の「触媒」に相当し、メチルアルコール、イソプロピルアルコール及び塩酸水溶液の溶媒である水の混合物は、本願発明の「水性溶媒系」に相当するから、引用発明の「第1の処理剤」は本願発明の「コーティング組成物」に相当する。 そして、引用発明の「基材」は本願発明の「支持体」に相当するから、引用発明における「第2の処理剤で・・・基材を処理」することは本願発明の「下塗り組成物で支持体の表面を予備処理」することに相当し、引用発明における、「それ(注:第2の処理剤でガラス板等の基材を処理したもの)を・・・第1の処理剤で処理する」は本願発明の「コーティング用組成物を予備処理された支持体表面に堆積させる」に相当する。 また、引用発明の「少なくとも2層の表面処理層を有する基材からなる・・・輸送機器用物品の製造方法」は、本願発明の「支持体表面のコーティング方法」に相当する。 したがって、両者は、 「シランSiX_(4)[Xは加水分解し得る官能基である]と、1種類以上の水性溶媒系と、1種類以上の触媒とを混合して得られる下塗り組成物で支持体の表面を予備処理し、次いで、アルコキシ官能基がケイ素原子に直接結合した1種類以上のフッ素含有アルコキシシランと、1種類以上の水性溶媒系と、1種類以上の触媒とを混合して得られるコーティング用組成物を予備処理された支持体表面に堆積させることを含み、コーティング用組成物中の水性溶媒系がアルコール及び水を含む、支持体表面のコーティング方法。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1:引用発明では、コーティング用組成物に「Si(OCH_(3))_(4)」及び「酢酸ナトリウム」が含まれるのに対し、本願発明では含まれない点 相違点2:コーティング用組成物中の水性溶媒系における水のアルコールに対する比率が、本願発明では3?20容量%であるのに対し、引用発明では約0.3容量%である点 5 相違点についての判断 (1)相違点1について 刊行物1には、「表面処理層の最外層である第1層は含フッ素オルガノシラン化合物(I)あるいはその部分加水分解生成物で処理して得られる層である。この層を形成するための組成物としては含フッ素オルガノシラン化合物(I)あるいはその部分加水分解生成物を有する溶液や分散液の使用が好ましい。」と記載されており(摘記1j)、さらに、「その組成物には溶剤や分散剤以外ににさらに他の添加剤を添加することができる。」(摘記1j)と記載され、その添加剤の例として(含フッ素オルガノシラン化合物以外の)「加水分解性シラン化合物(II)」が提示されている(摘記1j)。 そうすると、引用発明の第1の処理剤においては、含フッ素オルガノシラン化合物である「(CH_(3)O)_(3)SiC_(2)H_(4)C_(6)F_(12)C_(2)H_(4)Si(OCH_(3))_(3)」及び「C_(8)F_(17)CH_(2)CH_(2)Si(OCH_(3))_(3)」が必須成分であって、Si(OCH_(3))_(4)等の他の成分は任意に配合される成分にすぎないものであることは当業者が容易に理解することである。 また、引用発明の第1の処理剤に含まれる「酢酸ナトリウム」や「Si(OCH_(3))_(4)」については、摘記1j及び1kを見ても、その役割が明らかでない。 したがって、引用発明において、必須成分でなく、その役割も明らかでない「酢酸ナトリウム」や「Si(OCH_(3))_(4)」を含まないものとすることは、当業者が適宜なし得ることである。 (2)相違点2について 刊行物3には、「基材表面に、一般式 (F_(3) C) _(m) (CF_(3-n) ) _(n) Si X_(4-n) 、または(F_(3) C)_(n) SiX_(4-n)(m及びnは1?3の整数を示し、Xはハロゲン原子または炭素数5以下のアルコキシ基を表す。)で表されるシラン系化合物の加水分解物を塗布し、加熱乾燥することを特徴とする高撥水性材料の製造方法。」が記載されており(摘記3a)、当該撥水性材料はガラス等の水滴除去、汚染防止処理に使用されるものであり(摘記3b)、実施例では当該シラン化合物の加水分解物を塗布するにあたり、溶媒としてエタノール:水=90:10のものを使用したことが記載されている(摘記3c)。 このエタノール:水の比は容量比か重量比か明らかでないが、重量比であるとすると、エタノールの比重は0.7893(参考文献の摘記5bより)であるから、エタノール:水の容量比は約114:10となる。 したがって、刊行物3には、ガラスの撥水処理剤として使用される、加水分解性基(アルコキシ基)含有含フッ素シラン化合物、アルコール、水を含む組成物において、アルコールと水の容量比を90:10又は約114:10程度とすることが記載されているといえる。 また、刊行物4には、「アルコール溶液にフルオロアルキルシランを 1.0?10重量%と、酸触媒を0.01?5重量%と、水を0.01?40重量%含有したことを特徴とする撥水処理剤。」が記載されており(摘記4a)、当該撥水処理剤は自動車用ウィンドウ、サイドミラー等の撥水処理剤に関し(摘記4b)、フルオロアルキルシランとしてヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシランが使用されることも記載されている(摘記4c)。 そして、「ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン」は加水分解性基であるメトキシ基を有している。また、上記組成から、アルコールと水の重量比を算出すると、最もアルコールが多い場合でアルコール98.98重量%:水0.01重量%、最もアルコールが少ない場合でアルコール45重量%:水40重量%となるから、アルコールの比重をエタノールの値である約0.7893で概算すると、アルコールと水の容量比は、約100:0.008?100:70程度となる。 したがって、刊行物4には、自動車用ウィンドウの撥水処理剤として使用される、メトキシ基等の加水分解性基含有する含フッ素シラン化合物、アルコール、水を含む組成物において、アルコールと水の容量比を約100:0.008?100:70程度とすることが記載されているといえる。 そして、引用発明における第2の処理剤も、刊行物1の摘記1e,1f,1lからみて、撥水性を付与するために行われるものである。 そうすると、引用発明と刊行物3,4に記載された発明は、共に、フッ素含有アルコキシシラン、アルコール、水を含む組成物をガラスに塗布して撥水性を付与する点で共通するものであるから、引用発明において、水系溶媒系における水のアルコールに対する比率を刊行物3に記載された範囲である約11(10/90×100)又は約8.8(10/114×100)容量%程度とすること、或いは刊行物4に記載された範囲内で任意の範囲を選択し、3?20容量%程度としてみることは当業者が容易に想到することである。 また、たとえ ア 本願発明の「シランSiX_(4)」は、引用発明の「Si(OCH_(3))_(4)」に限定されず、また本願発明の「アルコキシ官能基がケイ素原子に直接結合した1種類以上のフッ素含有アルコキシシラン」も、引用発明の「(CH_(3)O)_(3)SiC_(2)H_(4)C_(6)F_(12)C_(2)H_(4)Si(OCH_(3))_(3)及びC_(8)F_(17)CH_(2)CH_(2)Si(OCH_(3))_(3)に限定されない点 イ 本願発明の「触媒」は、引用発明の「塩酸」に限定されず、それ以外のもの(例えば酢酸等)でもよい点 ウ 本願発明の「水性溶媒系」は、引用発明の「メチルアルコール」や「イソプロピルアルコール」に限定されず、それ以外のアルコールが含まれていてもよい点 が本願発明と引用発明との相違点であるとしても、以下に示すように本願発明は刊行物1,3及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 まず、刊行物1には、摘記1aに記載されている「加水分解性シラン化合物(II)」として、実施例に記載された「Si(OCH_(3))_(4)」だけでなく、「ケイ素原子に加水分解性基のみが結合している化合物(たとえば、テトラアルコキシシラン)」が使用できることが記載されている(摘記1g)から、当業者であれば、引用発明において「Si(OCH_(3))_(4)」だけでなく、他の「テトラアルコキシシラン」、例えばテトラエトキシシラン等を用いることは容易に想到することである。 また、刊行物1には、摘記1aに記載されている「2以上のフッ素原子を有する有機基と加水分解性基とを有する含フッ素オルガノシラン化合物」として、実施例に記載された「(CH_(3)O)_(3)SiC_(2)H_(4)C_(6)F_(12)C_(2)H_(4)Si(OCH_(3))_(3)及びC_(8)F_(17)CH_(2)CH_(2)Si(OCH_(3))_(3)」だけでなく、 「式(B) (R_(f))_(e)R^(5)_(g)R^(6)_(h)SiX_(4-e-g-h) ただし、Xは加水分解性基、R_(f)は2以上のフッ素原子を有する有機基、R^(5)、R^(6)は独立に水素または炭素数1から16の有機基、eは1、2、3、g、hは独立に0、1、2、3であって1≦e+g+h≦3を満たす整数を表わす。」 で表される化合物が使用できることが記載されており(摘記1d)、当該Xとしては、実施例の化合物が有する「OCH_(3)」基だけでなく「低級アルコキシ基」が使用できることも記載されているから(摘記1i)、当業者であれば、引用発明において「(CH_(3)O)_(3)SiC_(2)H_(4)C_(6)F_(12)C_(2)H_(4)Si(OCH_(3))_(3)」や「C_(8)F_(17)CH_(2)CH_(2)Si(OCH_(3))_(3)」に替えて、式(B)においてXが低級アルコキシ基である他の化合物を用いてみることは容易に想到することである。 また、刊行物1には、摘記1aに記載されている、含フッ素オルガノシラン化合物(I)や加水分解性シラン化合物(II)の部分加水分解生成物を製造するために「酸性水溶液」を使用すること、その際に酸として実施例で使用されている塩酸だけでなく、「酢酸、りん酸、硝酸、硫酸、スルホン酸など」が使用できることが記載されているから(摘記1h)、当業者であれば、引用発明において、「塩酸」に替えて酢酸等の他の酸を用いることは容易に想到することである。 そして、上記摘記1hの記載からみて、引用発明の第1及び第2の処理剤に含まれる水、メチルアルコール、イソプロピルアルコールは、「Si(OCH_(3))_(4)」や「(CH_(3)O)_(3)SiC_(2)H_(4)C_(6)F_(12)C_(2)H_(4)Si(OCH_(3))_(3)及びC_(8)F_(17)CH_(2)CH_(2)Si(OCH_(3))_(3)」の加水分解を行うための溶媒であることは当業者に明らかであるから、メチルアルコールやイソプロピルアルコールに替えて、同様に水に溶解し、加水分解を阻害しないと考えられるエチルアルコール等の他の低級アルコールを使用することも、当業者が容易に想到することである。 したがって、上記ア?ウの点が相違点であるとしても、本願発明は、刊行物1,3及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 6 本願発明の効果について 審判請求人は、平成23年5月31日付け意見書において、「本願発明では、水性溶媒系における水の比率をアルコールの3?20容量%の範囲とすることによって、「水性溶媒系中に存在するアルコキシシランが加水分解を始めて、支持体表面の反応基と反応することができるシラノールを形成し得る。しかるに、加水分解したシランの割合が大きすぎるとホモ重合が生起し得る。従って、支持体表面と反応できるシラノールの数が減少する。また、加水分解したシランの割合が小さすぎると、支持体表面に固定されるシランの数が少なすぎることになる。」(本願明細書段落0023)と記載されていることからも分かる通り、支持体表面に固定されるシランの数を好適なものにすることができます。これによる効果については、本願発明の実施例である実施例5a及び5bに具体的に示されています。これらの実施例では水性溶媒系における水の比率はアルコールの3?20容量%の範囲とされており、その結果疎水性且つ疎油性層のワイパー試験での耐性が大変に優れています。また、下塗り層がないものの、実施例1及び3でも水性溶媒系における水の比率はアルコールの3?20容量%の範囲とされており、接触角及びワイパー試験での耐性に優れることが示されています。以上の通りですので、本願明細書の各記載に基づけば、当業者であれば、水性溶媒系における水の比率をアルコールの3?20容量%の範囲とすること等によって、本願発明が格別顕著な効果が得られるものであることは容易に認めることができるものと思料致します。」と主張する。 そこで、請求人が主張する本願発明の効果について検討する。 (1)本願明細書の段落【0023】の記載について 引用発明の第1の処理剤では、水の比率がメチルアルコール及びイソプロピルアルコールの約0.3容量%と、本願発明よりも小さい値となっている。これに関して、本願明細書の段落【0023】には、「水の比率は、・・・例えばアルコールの3?20容量%・・・である。・・・このようにすると、水性溶媒系中に存在するアルコキシシランが加水分解を始めて、支持体表面の反応基と反応することができるシラノールを形成し得る。・・・また、加水分解したシランの割合が小さすぎると、支持体表面に固定されるシランの数が少なすぎることになる。」と記載されている。 これは、水の比率が小さすぎる場合には、アルコキシシランの加水分解が十分でなく、支持体表面の反応基と反応することができるシラノールを十分に形成できず、支持体表面への固定が不十分となることを意味するものと認められる。 しかし、刊行物1には、「上記のような加水分解性基を有するシラン化合物やその部分加水分解生成物で処理された表面とは、シラン化合物が化学的にあるいは物理的に結合した表面をいう。加水分解性基は水分により分解してシラノール基となので、これらシラン化合物は主としてこのシラノール基の化学的反応により表面に結合するものと考えられる。即ち、例えば、このシラノール基はガラス表面のシラノール基と脱水縮合反応すると考えられる。また、第1層も第2層表面のシラノール基等と結合すると考えられる」(摘記1h,段落【0015】)と記載されており、引用発明においても、処理剤によるコーティングがシラノール基の脱水縮合反応によって基材又は第2層表面に固定されることは当業者が容易に理解することであるから、加水分解に必要な水の量があまりにも少ない場合に、処理剤によるコーティングが基材に十分に結合できなくなるといった程度のことは、当業者が予測できることにすぎない。 (2)実施例5a,5bから理解できる本願発明の効果について 本願明細書の実施例5a及び5b(注:【表5】中の「6b」は「5b」の誤記と認める。)では、それらがワイパー試験後のθの値において、シランによる予備処理をしていない実施例3に比べて良好な結果を有することが示されているが、その結果から理解できることは、本願発明が、下塗り組成物による予備処理をしない場合に比べて、疎水性かつ疎油性層のワイパー試験での耐性が改善されるということにすぎず、コーティング用組成物中の水性溶媒系における水の比率を3?20容量%に限定したことによる効果は、本願明細書の実施例及び比較例を見ても明らかでない。 しかも、実施例5a,5bにおいて示されている「疎水性かつ疎油性層のワイパー試験での耐性が改善される」という効果も、以下に示すように、引用発明に比べて格別顕著なものとは認められない。 すなわち、刊行物1の実施例1では、処理剤によるコーティングを行った後の撥水性について、耐摩耗試験が行われており、その評価結果は「A:サンプル表面に全く水が残らない。」というものである(摘記1kの【0078】?【0080】,【表1】)。この耐摩耗試験は、本願明細書に記載されているワイパー試験とは異なるものであるが、摩耗輪を用い、荷重1kgで300回摩耗させたという試験条件からみて、引用発明の方法でも、相当程度の耐摩耗性を有するコーティングが得られるものと認められる。 そうすると、水性溶媒系における水の比率をアルコールの3?20容量%の範囲とした本願発明の方法が、引用発明の方法に比べて、ワイパー試験等の耐摩耗性において顕著な効果を有するものとは認められない。 (3)小括 したがって、加水分解に必要な水の量があまりにも少ない場合に、処理剤によるコーティングが基材等に十分に結合できなくなるといった程度のことは、刊行物1の記載から当業者が予測できることにすぎない。また、水性溶媒系における水の比率をアルコールの3?20容量%の範囲とした本願発明の方法が、引用発明の方法に比べて、ワイパー試験等の耐摩耗性において顕著な効果を奏するものとも認められない。 故に、請求人が主張する本願発明の効果は、当業者が予測できる程度のものであるか、又は引用発明に比べて格別顕著なものとはいえない。 7 まとめ よって、本願発明は、刊行物1,3及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-06-22 |
結審通知日 | 2011-06-28 |
審決日 | 2011-07-12 |
出願番号 | 特願平9-84157 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C09D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 天野 宏樹、安藤 達也 |
特許庁審判長 |
中田 とし子 |
特許庁審判官 |
小出 直也 齊藤 真由美 |
発明の名称 | 非湿潤性コーティング用の組成物、該組成物でガラスを処理する方法及びその結果得られる製品 |
代理人 | 大崎 勝真 |
代理人 | 小野 誠 |
代理人 | 川口 義雄 |
代理人 | 坪倉 道明 |
代理人 | 渡邉 千尋 |
代理人 | 金山 賢教 |