• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C09J
管理番号 1247473
審判番号 不服2008-25357  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-02 
確定日 2011-11-24 
事件の表示 平成11年特許願第112135号「剥離性に優れた両面粘着テープ」拒絶査定不服審判事件〔平成12年10月31日出願公開、特開2000-303041〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成11年4月20日の出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。
平成16年12月 1日 出願審査請求
平成20年 5月29日 拒絶理由通知
平成20年 7月10日 意見書・手続補正書
平成20年 8月28日 拒絶査定
平成20年10月 2日 審判請求・手続補正書
平成22年11月18日 審尋
平成23年 1月24日 回答書

第2 平成20年10月2日付けの手続補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成20年10月2日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成20年10月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」といい、それによって補正された明細書を「本件補正明細書」という。)は、その補正前の特許請求の範囲である、
「【請求項1】 70℃での貯蔵弾性率G’が10^(4)?10^(5)(Pa)、130℃での損失正接tanδが1未満の粘着剤を紙層内部まで含浸した不織布を芯材とする両面粘着テープであって、前記した不織布が、マニラ麻含有率70%以上で、強度向上剤を含有し、且つ、坪量が10?20g/m^(2)の不織布であることを特徴とする両面粘着テープ。
【請求項2】 流れ方向と幅方向の引っ張り強度を測定する際の降伏点の強度が1.5?4kg/20mmであり、降伏点までの伸度が10%以内である請求項1に記載の両面粘着テープ。
【請求項3】 前記強度向上剤が、ビスコース又はポリアミド・アミン・エピクロルヒドリン樹脂である請求項1又は2に記載の両面粘着テープ。
【請求項4】 片面の粘着剤層の厚みが30?100μmである請求項1?3のいずれかに記載の両面粘着テープ。
【請求項5】 前記粘着剤の紙層内部への含浸が、粘着剤を不織布に塗布または転写し乾燥後、80℃以上の温度で熱ラミネートすることによる含浸である請求項1?4のいずれかに記載の両面粘着テープ。
【請求項6】 前記粘着剤が、アクリル共重合体、ロジンエステル系樹脂及び重合ロジンエステル系樹脂を含有する請求項1?5のいずれかに記載の両面粘着テープ。」
を、
「【請求項1】 70℃での貯蔵弾性率G’が10^(4)?10^(5)(Pa)、130℃での損失正接tanδが1未満のアクリル系粘着剤を紙層内部まで含浸した不織布を芯材とする両面粘着テープであって、前記した不織布が、マニラ麻含有率70%以上で、強度向上剤としてビスコース又はポリアミド・アミン・エピクロルヒドリン樹脂を含有し、且つ、坪量が10?20g/m^(2)の不織布であり、流れ方向と幅方向の引っ張り強度を測定する際の降伏点の強度が1.5?4kg/20mmであり、降伏点までの伸度が10%以内である請求項1に記載の両面粘着テープ。
【請求項2】 片面の粘着剤層の厚みが30?100μmである請求項1に記載の両面粘着テープ。
【請求項3】 前記粘着剤の紙層内部への含浸が、粘着剤を不織布に塗布または転写し乾燥後、80℃以上の温度で熱ラミネートすることによる含浸である請求項1又は2に記載の両面粘着テープ。」
とする補正を含むものである。

そして、上記補正は、補正前の請求項1、2、6を削除する補正(補正事項1)、補正前の請求項3に記載された発明のうち請求項1を引用する発明を削除して請求項2を引用する発明を新たな請求項1とする補正(補正事項2)、補正前の請求項4に記載された発明のうち請求項1、2を引用する発明を削除して請求項3を引用する発明を新たな請求項2とする補正(補正事項3)、補正前の請求項5に記載された発明のうち請求項1、2を引用する発明を削除して請求項3、4を引用する発明を新たな請求項3とする補正(補正事項4)、及び、補正前の請求項1の「粘着剤」を新たな請求項1において「アクリル系粘着剤」とする補正(補正事項5)を含むものである。

2.補正の目的
上記補正事項のうち、補正事項1は請求項の削除に該当する。
補正事項2?4は、引用する請求項の数を減らすものであって、補正前と発明の産業上の利用分野、解決すべき課題を変えるものではないから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
補正事項5は、当初明細書の実施例等(段落【0016】〔実施例1〕等)の記載に基づいて、補正前の請求項3に係る発明の発明特定事項である「粘着剤」をその下位概念である「アクリル系粘着剤」に限定するものであって、補正前と発明の産業上の利用分野、解決すべき課題を変えるものではないから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件の検討
そこで、本件補正後における請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討すると、以下の理由により本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではなく、前記請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものとは言えない。

[理由]本件補正明細書の特許請求の範囲の記載は以下の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものでない。

(1)明細書のサポート要件について
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(平成17年(行ケ)第10042号判決参照)。
そこで、以下、この観点に立って、この出願の特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かについて検討する。

(2)本件補正発明
本件補正発明は、平成20年10月2日付けの手続補正の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「70℃での貯蔵弾性率G’が10^(4)?10^(5)(Pa)、130℃での損失正接tanδが1未満のアクリル系粘着剤を紙層内部まで含浸した不織布を芯材とする両面粘着テープであって、
前記した不織布が、マニラ麻含有率70%以上で、強度向上剤としてビスコース又はポリアミド・アミン・エピクロルヒドリン樹脂を含有し、且つ、坪量が10?20g/m^(2)の不織布であり、
流れ方向と幅方向の引っ張り強度を測定する際の降伏点の強度が1.5?4kg/20mmであり、降伏点までの伸度が10%以内である請求項1に記載の両面粘着テープ。」
(当審注:本件補正発明の「…請求項1に記載の両面粘着テープ」は、その請求項自体を引用する記載である点で矛盾しているが、それに先行する請求項はなく他の請求項を引用することはあり得ないことを考慮して、「…両面粘着テープ」と解釈して以下検討する。)

(3)本件補正発明の課題
本件補正明細書の発明の詳細な説明によれば、本件補正発明の課題は、以下のとおりである。
「接着性に優れる金属やプラスチックの被着体より剥離する際に、テープの伸びや切断がなく、糊残りなく剥離可能な両面粘着テープ類を提供する」こと(段落【0004】の【発明が解決しようとする課題】)

(4)発明の詳細な説明の記載
本件補正明細書の発明の詳細な説明には、本件補正発明の課題の解決に関連し、次の記載がある。
a.「本発明者らは鋭意研究した結果、両面粘着テープの流れ方向と幅方向の引っ張り強度を測定した際の、降伏点の強度と伸度が特定の範囲にあり、特定の動的粘弾性の範囲にあるときに、テープの伸び、切断がなく優れた剥離性が得られることを見いだし本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、不織布を中芯とした両面粘着テープにおいて、70℃での貯蔵弾性率G’が10^(4)(Pa)以上10^(5)(Pa)以下、130℃での損失正接tanδが1未満の粘着剤を不織布の紙層内部まで含浸されており、流れ方向と幅方向の引っ張り強度を測定した際、降伏点の強度が1.5から4kg/20mm、且つ、降伏点までの伸度が10%以内であることを特徴とする両面粘着テープに関する。」(段落【0005】?【0006】)
b.「上記不織布の坪量が10?20g/m^(2)のものが好ましい。坪量が10g/m^(2)未満の場合はテープ強度が低下し被着体から剥離する際にテープ切れを起こす場合がある。坪量が20g/m^(2)を越えるとテープの柔軟性が低下するため、テープを紙管に巻き取る際に幅方向のしわが発生し外観を悪化する場合がある。」(段落【0008】)
c.「上記不織布を芯材に用いて、不織布の紙層内部まで粘着剤を含浸させた両面粘着テープの、流れ方向と幅方向の引っ張り強度を測定した際の、降伏点の強度が1.5から4kg/20mm、且つ、降伏点までの伸度が10%以内である。ここで降伏点とは、両面粘着テープの引っ張り強伸度を測定する際に、最初のピークを示す点である。降伏点の強度が1.5kg/20mm未満であると、テープを引き剥がす際にテープが切断する。4kg/20mmを越えると粘着テープの柔軟性が低下し、凹凸面へのテープの追従性が低下する。
降伏点までの伸度が10%を越えると、テープがウレタンフォーム等の柔軟な素材に貼付された場合、剥がす際にテープが伸びてしまい粘着剤が残留する。」(段落【0009】?【0010】)
d.「本発明に用いる粘着剤としては、粘着剤の70℃での貯蔵弾性率G’が10^(4)(Pa)以上10^(5)(Pa)以下、130℃での損失正接tanδが1未満であるものが必要である。粘着剤の70℃での貯蔵弾性率G’が、10^(4)(Pa)未満の場合は剥離性が低下し、10^(5)(Pa)を越える場合は接着性が低下する。130℃でのtanδが1以上の場合は剥離性が低下する。粘着剤の種類としては、公知のアクリル系やゴム系の粘着剤が使用できる。更に、必要に応じ粘着付与樹脂や架橋剤を添加してもよい。本発明における貯蔵弾性率G’と損失正接tanδは、5mm厚にまで重ね合わせ粘着剤を試験片とし、レオメトリックス社製粘弾性試験機アレス2kSTDに直径7.9mmのパラレルプレートを装着し、試験片を挟み込み周波数1Hzで測定した値である。」(段落【0011】?【0012】)
e.「〔実施例1〕
(粘着剤の調製)
(1)攪拌機、寒流冷却器、温度計、滴下漏斗及び窒素ガス導入口を備えた反応容器にブチルアクリレート91.9重量部(以下部)、酢酸ビニル5部、アクリル酸3部、βーヒドロキシエチルアクリレート0.1部のモノマー100重量部と重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチルニトリル0.2部とを酢酸エチル100部に溶解し、80℃で8時間重合して、アクリル共重合体溶液を得た。
(2)上記のアクリル共重合体固形分100部に対し、ロジンエステル系樹脂A-100(荒川化学社製)を10部、重合ロジンエステル系樹脂D-135(荒川化学社製)を20部添加し、トルエンで希釈混合し固形分45%の粘着剤を得た。
(テープの調製)
上記(2)の粘着剤溶液100部に対し、イソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン社製コロネートL-45、固形分45%)を1部添加し15分攪拌後、剥離処理した厚さ75μmのポリエステルフィルム上に乾燥後の厚さが65μmになるように塗工して、80℃で3分間乾燥した。得られた粘着シートを、マニラ麻含有率100%の不織布に、強度向上剤としてビスコースを含浸してなる坪量17g/m^(2)、流れ方向(MD)2.5kg/20mm、及び幅方向(TD)2.3kg/20mmの引っ張り強度(切断強度)である不織布の両面に転写し、80℃の熱ロールで4kgf/cm^(2)の圧力でラミネートし、不織布紙層内部まで粘着剤を充分含浸させた。その後40℃で2日間熟成し両面粘着テープを得た。
〔実施例2〕
不織布の組成比率がマニラ麻/パルプ=9/1、強度向上剤がポリアミド・アミン・エピクドロヒドリン樹脂で、坪量が16g/m2、MD1.9kg/20mm、TD1.8kg/20mmの引っ張り強度(切断強度)の不織布を用いた以外は実施例1と同様に両面粘着テープを作成した。
〔比較例1〕
マニラ麻100%で、強度向上剤を含有しない不織布を用いた以外は実施例1と同様に両面粘着テープを作成した。
〔比較例2〕
23℃のロールで1kgf/cm^(2)の圧力でラミネートした以外は実施例2と同様に両面粘着テープを作成した。
〔比較例3〕
粘着剤として、SIS合成ゴム系粘着剤を使用したこと以外は実施例1と同様に両面粘着テープを作成した。」(段落【0016】?【0022】)
f.「実施例1?2、比較例1?3で作成した粘着剤溶液及び両面粘着テープについて、以下に示す方法により試験し、評価結果を表1、2に示した。
(1)動的粘弾性測定
架橋した粘着剤を5mm厚にまで重ね合わせ試験片とした。レオメトリックス社製粘弾性試験機アレス2kSTDに直径7.9mmのパラレルプレートを装着し、試験片を挟み込み、周波数1Hzで-50℃から150℃までの貯蔵弾性率(G’)、損失正接(tanδ)を測定した。
(2)引っ張り強伸度
標線長さ10mm、幅20mmのダンベル状に打ち抜いたサンプルを、テンシロン引っ張り試験機を用い、23℃で引っ張り速度300mm/minの測定条件で行い、降伏点の強度及び降伏点までの伸びをチャートから読みとった。
(3)再剥離性
ウレタンフォームで裏打ちした10mm幅の両面粘着テープ試料を表2記載の各被着体に貼付し充分加圧した。貼付後60℃・90%RH雰囲気下で12日間放置し、23℃下で1日冷却した後、約135°の方向にテープ試料を手で剥がした。剥がす速度は高速と低速の2水準で行った。不織布層での破壊の有無及び剥離後の被着体への粘着剤の残り具合を以下の基準で目視評価した。
○ :糊残り無し。 (糊残り:0?10%未満)
△ :僅かに糊残り有り。 (糊残り:10?20%未満)
× :広範囲に糊残り有り。 (糊残り:20%以上)
××:不織布層で破壊しテープ片が残留する。
(4)テープちぎれ性
5mm幅の両面粘着テープを、ステンレス板に2.0kgローラーで1往復加圧貼付した。両面粘着テープのもう一方の剥離紙を剥がし、両面粘着テープ単体の状態にする。23℃下で1時間放置後、両面粘着テープの一端を持ち、勢い良く引き剥がした際のテープのちぎれ具合を評価した。
○ :テープちぎれなし
× :テープちぎれ発生
(5)接着力
23℃下で25μmポリエステルフィルムで裏打ちした20mm幅の両面粘着テープ試料をステンレス板に貼付し、2kgローラー1往復加圧した。23℃下で1時間静置した後、180°方向に300mm/minの速度で引っ張り、接着力(kgf/20mm)を測定した。
(6)含浸性試験
50μmアルミ箔を両面粘着テープの両面に貼り合わせ、20mm幅×100mm長さに切断し試験片とした。この試験片を60℃下で2日間、23℃下で1日放置後、アルミ箔の両端を手で持ち、勢い良く剥がした時の両面粘着テープの不織布層間での破壊率を目視にて評価した。
○ :層間破壊率25%未満
△ :層間破壊率25%以上50%未満
× :層間破壊率50%以上 」(段落【0023】?【0028】)
g.

(段落【0029】?【0030】)

(5)アクリル系樹脂の弾性等に関する技術常識について
参考文献:「粘着技術」Donatas Satas編著、水町浩監訳(日刊工業新聞社)、1997年3月31日発行、p625-644「第22章 アクリル系ポリマー用の変性樹脂」

上記参考文献には、次の事項が記載されている。
参-1.「最近の研究では3つの異なったポリマーラテックスが,つぎのリストに示すように,市販のアクリル系ポリマーの多様性を示すモデルとして使用された.
タイプ 組成(%)
アクリル系A 75 BA
25 STYRENE
アクリル系B 60 2-EHA
40 MA
アクリル系C 83 2-EHA
10 MA
7 VA
これら3つのポリマーの中で,アクリル系Aはスチレンを25%含むもの…サンプルBは…鎖長の短いエステルを40%含む…83%の2-エチルヘキシルアクリレートを含むサンプルC…」(第627頁第2?16行)
参-2.「粘着剤用のポリマーの物性を変性するために,いくつかの異なった化学式を持つ樹脂が用いられる.これらの研究された樹脂をつぎに示す.
Foral 85-55WKX-Rosin ester
Piccotex LC-55WK-Aromatic
Piccotac 95-55WK-Aliphatic
Piccolyte S90-55WK-Polyterpene
RES D324

使用された水分散系は,Foral 85-55WKX-Rosinである.これは高度に水素化したロジンのグリセロールエーテルで,82℃の軟化点を有する.Piccotex LC-55WK樹脂は,82℃に軟化点を有するビニルトルエンとαメチルスチレンのコポリマーである.RES D324は52℃の軟化点を有する樹脂である.Piccotac 95-55WK樹脂(軟化点92℃)と,Piccolyte S90-55WK樹脂(軟化点82℃)は,それぞれC_(5)とβ-ピネン樹脂である.」(第627頁第18行?第628頁第3行)
参-3.「相溶性のよい樹脂で変性したポリマーのtanδを図22.1に示す.…

」(第628頁第21?22行,第629頁図22.1)
参-4.「相溶性のよい樹脂が,せん断貯蔵弾性率G′の及ぼす典型的な影響は図22.8に見られるとおりである.…

」(第636頁下から第7?6行,第637頁図22.8)

上記3種類のアクリル系ポリマー(参-1)は、併用する樹脂の種類(参-2)によって、損失正接tanδ、せん断貯蔵弾性率Gについて異なる特性を示し(参-3、4)、アクリル樹脂の種類によって弾性率等の特性は、まちまちであることが判る。

(6)検討
上記(4)の記載事項よりみて、本件補正明細書の発明の詳細な説明には、本件補正発明に係る両面粘着テープにおいて「70℃での貯蔵弾性率G’」、「130℃での損失正接tanδ」、「坪量」、「流れ方向と幅方向の引っ張り強度を測定する際の降伏点の強度」、「降伏点までの伸度」を規定する目的等について記載されている(摘記事項a?d)。
それらの規定値のうち、「70℃での貯蔵弾性率G’」、「130℃での損失正接tanδ」について検討する。
これらの規定値は粘着剤の特性であるが、70℃での貯蔵弾性率G’が10^(4)?10^(5)(Pa)、130℃での損失正接tanδが1未満、の条件を同時に満たす粘着剤としては、本件補正明細書の発明の詳細な説明に、具体的に製造例、測定例が記載されているのは、「ブチルアクリレート、酢酸ビニル、アクリル酸、βーヒドロキシエチルアクリレートから得られた」特定のアクリル共重合体の1例(摘記事項e?g)のみであるほかは、何ら記載されていない。
そして、「(5)アクリル系樹脂の弾性等に関する技術常識について」で、参考文献をあげて示したように、アクリル系粘着剤の弾性等に関する特性が粘着剤の組成等の条件によって変化し、まちまちであることは、技術常識であり、それについての一般に知られる化学的な法則が存在するとは認められない。
そうすると、「ブチルアクリレート、酢酸ビニル、アクリル酸、βーヒドロキシエチルアクリレートから得られた」特定のアクリル共重合体の1例によって、上記の条件(70℃での貯蔵弾性率G’が10^(4)?10^(5)(Pa)、130℃での損失正接tanδが1未満)を同時に満たすアクリル樹脂粘着剤一般について、製造方法を含め発明の詳細な説明に技術的な裏付けをもって開示されているといえるものではない。
よって、本件補正明細書の発明の詳細な説明においては、70℃での貯蔵弾性率G’が10^(4)?10^(5)(Pa)、130℃での損失正接tanδが1未満、の条件を満たすアクリル系粘着剤が、アクリル樹脂の種類を問わず、「接着性に優れる金属やプラスチックの被着体より剥離する際に、テープの伸びや切断がなく、糊残りなく剥離可能な両面粘着テープ類を提供する」という課題を解決できることが、開示されているとはいえない。
また、本項の最初であげた規定値のうち、「流れ方向と幅方向の引っ張り強度を測定する際の降伏点の強度」、「降伏点までの伸度」について検討すると、これらの規定値は、粘着剤や強度向上剤を含浸させた不織布の特性に関する規定値であり、これらの材料の種類、量等よって決まるものと認められるが、上記のとおり、これらの材料のうち、粘着剤の種類について、本件補正明細書の発明の詳細な説明に製造方法を含め技術的な裏付けをもって開示されているとはいえないから、本件補正発明で「流れ方向と幅方向の引っ張り強度を測定する際の降伏点の強度が1.5?4kg/20mmであり、降伏点までの伸度が10%以内」として「接着性に優れる金属やプラスチックの被着体より剥離する際に、テープの伸びや切断がなく、糊残りなく剥離可能な両面粘着テープ類を提供する」という課題を解決できることについても、本件補正明細書の発明の詳細な説明に技術的な裏付けをもって開示されているとはいえない。
なお、請求人は、平成23年1月24日付け回答書において、「弾性率や損失正接は当該技術分野において標準的な特性であり、さらに当業者にも慣用されているものであることから、当業者によれば、何ら当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、当該貯蔵弾性率や損失正接を充足する粘着剤を得ることが可能」であると主張している。 しかしながら、請求人提示の参考文献において、弾性率や損失正接は当該技術分野において標準的な特性であると言えないし、仮に、それらが標準的な特性であるとしても、それらの2つの特性を同時に所定の条件にすることが、本件補正明細書の発明の詳細な説明の記載及び周知技術に基づいて当業者が過度の試行錯誤をすることなくなし得たこととは認められない。
以上より、本件補正明細書の発明の詳細な説明に実質的に開示されているのは、「ブチルアクリレート、酢酸ビニル、アクリル酸、βーヒドロキシエチルアクリレートから得られた」特定のアクリル共重合体についての発明であって、本件補正明細書については、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものと認められないから、本件補正発明は、特許法第36条第6項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

4 むすび
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものでない。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願の特許請求の範囲
本願の特許請求の範囲は、平成20年10月2日付けの手続補正により補正された以下のとおりのものである。
「【請求項1】 70℃での貯蔵弾性率G’が10^(4)?10^(5)(Pa)、130℃での損失正接tanδが1未満の粘着剤を紙層内部まで含浸した不織布を芯材とする両面粘着テープであって、前記した不織布が、マニラ麻含有率70%以上で、強度向上剤を含有し、且つ、坪量が10?20g/m2の不織布であることを特徴とする両面粘着テープ。
【請求項2】 流れ方向と幅方向の引っ張り強度を測定する際の降伏点の強度が1.5?4kg/20mmであり、降伏点までの伸度が10%以内である請求項1に記載の両面粘着テープ。
【請求項3】 前記強度向上剤が、ビスコース又はポリアミド・アミン・エピクロルヒドリン樹脂である請求項1又は2に記載の両面粘着テープ。
【請求項4】 片面の粘着剤層の厚みが30?100μmである請求項1?3のいずれかに記載の両面粘着テープ。
【請求項5】 前記粘着剤の紙層内部への含浸が、粘着剤を不織布に塗布または転写し乾燥後、80℃以上の温度で熱ラミネートすることによる含浸である請求項1?4のいずれかに記載の両面粘着テープ。
【請求項6】 前記粘着剤が、アクリル共重合体、ロジンエステル系樹脂及び重合ロジンエステル系樹脂を含有する請求項1?5のいずれかに記載の両面粘着テープ。」

第4 原査定の理由
平成20年8月28日付け拒絶査定の理由は、本出願は特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとの理由を含むものである。

第5 当審の判断
1.請求項1について
本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、本件補正発明(「第2 1」参照。)から、粘着剤が「アクリル系」粘着剤である事項、強度向上剤が「ビスコース又はポリアミド・アミン・エピクロルヒドリン樹脂」である事項、「流れ方向と幅方向の引っ張り強度を測定する際の降伏点の強度が1.5?4kg/20mmであり、降伏点までの伸度が10%以内」である事項、を除いたものである。
本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明において、粘着剤の種類が限定されていない点について検討する。
まず、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明の課題は、本件補正発明の課題と同じであり、「接着性に優れる金属やプラスチックの被着体より剥離する際に、テープの伸びや切断がなく、糊残りなく剥離可能な両面粘着テープ類を提供する」ことである(以下、「本願発明の課題」という。)。
そして、「第2 3(6)」において本件補正発明について述べたように、本件補正明細書の発明の詳細な説明において、「ブチルアクリレート、酢酸ビニル、アクリル酸、βーヒドロキシエチルアクリレートから得られた」特定のアクリル共重合体の実施例の記載のみをもっては、アクリル系粘着剤がその種類を問わずに本件補正発明の課題を解決できることが技術的な裏付けをもって開示されているとはいえないから、粘着剤をアクリル系粘着剤にすら限定しない本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明については、同様の理由により、本願の発明の詳細な説明に本願発明の課題を解決できることが技術的な裏付けをもって開示されているとはいえない。
よって、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものといえない。
2.請求項2について
本願の特許請求の範囲の請求項2に記載された発明は、請求項1の発明に
「流れ方向と幅方向の引っ張り強度を測定する際の降伏点の強度が1.5?4kg/20mmであり、降伏点までの伸度が10%以内」である事項を付加したものである。
そして、本願の特許請求の範囲の請求項2に記載された発明の課題も、前記の本願発明の課題と同じと認められるところ、「第2 3(6)」において本願補正発明について述べたのと同様の理由により、発明の詳細な説明に本願発明の課題を解決できることが技術的な裏付けをもって開示されているとはいえない。
よって、本願の特許請求の範囲の請求項2の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものといえない。

第6 結び
したがって、本出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものでなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
そして、その余の事項を検討するまでもなく、本出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-08 
結審通知日 2011-09-13 
審決日 2011-09-30 
出願番号 特願平11-112135
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C09J)
P 1 8・ 537- Z (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 庸子  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 松本 直子
橋本 栄和
発明の名称 剥離性に優れた両面粘着テープ  
代理人 河野 通洋  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ