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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02F
管理番号 1247530
審判番号 不服2010-21404  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-22 
確定日 2011-11-24 
事件の表示 特願2006-263148「エンジンのシリンダブロック」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 4月10日出願公開、特開2008- 82248〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成18年9月27日の出願であって、平成22年2月17日付けで拒絶理由が通知され、平成22年4月9日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成22年6月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年9月22日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に、同日付けで明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において平成23年3月28日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成23年4月22日付けで回答書が提出されたものである。


第2 平成22年9月22日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年9月22日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)平成22年9月22日付けの手続補正書による手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成22年4月9日付けの手続補正書によって補正された)特許請求の範囲の以下の(a)に示す請求項1ないし3を、(b)に示す請求項1及び2に補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲
「 【請求項1】
クランク軸センタとシリンダボアセンタがオフセットされるとともに、シリンダボアセンタの両サイドにそれぞれ配置される、二つのヘッドボルト間の距離と、二つのクランクキャップボルト間の距離が異なる構成とする、エンジンのシリンダブロックであって、
一直線状の二本の補強材が前記シリンダボアセンタを基準として線対称に鋳包まれ、
一側の前記補強材には、一側の前記ヘッドボルトが一側の前記クランクキャップボルトと前記補強材を介して連結されない状態で螺嵌され、
他側の前記補強材には、他側の前記ヘッドボルト、及び、他側の前記クランクキャップボルトが螺嵌される構成とする、エンジンのシリンダブロック。
【請求項2】
一側の前記クランクキャップボルトは、一側の前記補強材よりも、前記クランク軸センタに近い側に配置されることとする、請求項1に記載のエンジンのシリンダブロック。
【請求項3】
前記補強材の端部に、鋳包み時の位置決めとして利用するピン穴を形成し、前記ピン穴に追加加工を施すことにより、前記ヘッドボルト、及び/又は、前記クランクキャップボルトのボルト穴を形成する、ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のエンジンのシリンダブロック。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲
「 【請求項1】
クランク軸センタとシリンダボアセンタがオフセットされるとともに、シリンダボアセンタの両サイドにそれぞれ配置される、二つのヘッドボルト間の距離と、二つのクランクキャップボルト間の距離が異なる構成とする、エンジンのシリンダブロックであって、
一直線状の二本の補強材が前記シリンダボアセンタを基準として線対称に鋳包まれ、
一側の前記補強材には、一側の前記ヘッドボルトが一側の前記クランクキャップボルトと前記補強材を介して連結されない状態で螺嵌され、
他側の前記補強材には、他側の前記ヘッドボルト、及び、他側の前記クランクキャップボルトが螺嵌され、
前記補強材の端部に、鋳包み時に補強材の位置決めとして利用するピン穴を形成し、前記ピン穴に追加加工を施すことにより、前記ヘッドボルト、及び/又は、前記クランクキャップボルトのボルト穴を形成する構成とする、エンジンのシリンダブロック。
【請求項2】
一側の前記クランクキャップボルトは、一側の前記補強材よりも、前記クランク軸センタに近い側に配置されることとする、請求項1に記載のエンジンのシリンダブロック。」(なお、下線は審判請求人が補正箇所を明示するために付したものである。)

(2)本件補正の目的
特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における発明特定事項である「補強材」について、「前記補強材の端部に、鋳包み時に補強材の位置決めとして利用するピン穴を形成し、前記ピン穴に追加加工を施すことにより、前記ヘッドボルト、及び/又は、前記クランクキャップボルトのボルト穴を形成する構成とする」と限定するものである。
したがって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、平成18年法律第55号附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2 独立特許要件について
本件補正における特許請求の範囲の補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2-1 特開2006-170095号公報(平成18年6月29日公開。以下、「引用文献」という。)
(1)引用文献の記載事項
原査定の拒絶理由に引用された、本件出願の出願前に頒布された刊行物である引用文献には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付した。)

(a)「【要約】
【課題】 従来、シリンダブロックの鋳造時に、シリンダヘッドおよびクランクキャップを締結するための締結穴を形成する箇所に配置する鋳抜きピンを冷却してブロック強度を向上していたが、鋳抜きピンはあまり伸ばすことはできず、シリンダブロックの中央部の強度を向上させることができなかった。
【解決手段】 シリンダブロック2は、上端部にヘッドボルト孔21が形成され、下端部にキャップボルト孔22が形成されるシリンダブロック2であって、粗材状態で上端から下端まで貫通する貫通孔2aが形成され、該貫通孔2aの上端部をヘッドボルト孔21に加工し、下端部をキャップボルト孔22に加工して形成される。
【選択図】 図1」(【要約】)

(b)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端部にシリンダヘッド取付孔が形成され、下端部にクランクキャップ取付孔が形成されるシリンダブロックであって、
粗材状態で上端から下端まで貫通する貫通孔が形成され、
該貫通孔の上端部をシリンダヘッド取付孔に加工し、下端部をクランクキャップ取付孔に加工して形成されることを特徴とするシリンダブロック。
【請求項2】
前記貫通孔は、シリンダヘッドの鋳造時にキャビティ内に設けた、該キャビティの上端から下端を貫通する抜き勾配のないパイプ部材により形成されたことを特徴とする請求項1に記載のシリンダブロック。
【請求項3】
前記パイプ部材は、シリンダブロックの鋳造時に冷却されることを特徴とする請求項2に記載のシリンダブロック。
【請求項4】
前記シリンダブロックの下端部に形成されるクランクシャフト支持用のジャーナルハウジングを、シリンダブロックのボアセンターに対してオフセット配置したことを特徴とする請求項1?請求項3の何れかに記載のシリンダブロック。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項4】)

(c)「【0001】
本発明は、上端部にシリンダヘッド取付孔が形成され、下端部にクランクキャップ取付孔が形成されるシリンダブロックに関し、特にブロック強度の向上を図ったシリンダブロックおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、エンジンを構成するシリンダブロックの上方にはシリンダヘッドが配置され、下方にはクランクキャップが配置されており、該シリンダヘッドおよびクランクキャップがボルト等によりシリンダブロックに締結されているため、シリンダブロックの上端部および下端部にはボルト締結用の締結穴が形成されている。
このシリンダヘッドおよびクランクキャップを締結するための締結穴は、シリンダブロックの鋳造時に鋳抜きピンにより鋳抜いて構成していた。
【0003】
ここで、例えばアルミダイカストにて構成されるシリンダブロックの場合、キャビティに溶湯を充填した後の冷却速度を増加させれば、出来上がった鋳物の機械的強度が向上するため、鋳造時には鋳抜きピンの部分を冷却して、シリンダブロックの内側部分の冷却速度を速めるようにしていた。
シリンダブロックに鋳抜き穴(空洞)を形成する技術としては、例えば特許文献1に示すようなものがある。
【特許文献1】特開2004-190630号公報」(段落【0001】ないし【0003】)

(d)「【0004】
前述の鋳抜きピンは、シリンダブロックの上端部および下端部のみに存在しており、冷却面積がさほど大きくないため、鋳抜きピンによる冷却では、近年の高出力エンジンに対応した高強度のシリンダブロックを構成することが困難であった。
また、鋳抜きピンをシリンダブロックの中央部分まで伸ばせば、冷却面積を増加して冷却能力を向上することができるが、鋳抜きピンを長くすると該鋳抜きピンの抜き勾配により先端部が細くなって折れる等の問題があるため、鋳抜きピンをあまり伸ばすことはできず、シリンダブロックの中央部の強度を向上させることができなかった。
そこで、本発明においては、シリンダブロックの上端部および下端部だけでなく、その間の中央部における鋳造時の冷却能力を高めて、全体的に強度向上を図ることができるシリンダブロックおよびその製造方法を提供するものである。」(段落【0004】)

(e)「【0005】
上記課題を解決するシリンダブロックおよびその製造方法は、以下の特徴を有する。
即ち、請求項1記載の如く、上端部にシリンダヘッド取付孔が形成され、下端部にクランクキャップ取付孔が形成されるシリンダブロックであって、粗材状態で上端から下端まで貫通する貫通孔が形成され、該貫通孔の上端部をシリンダヘッド取付孔に加工し、下端部をクランクキャップ取付孔に加工して形成される。
これにより、シリンダブロックの鋳造時に、鋳造後に貫通孔となる部分を冷却することで、貫通孔の周囲の部分が素早く冷却されることとなり、鋳造後のシリンダブロックの強度向上を図ることができる。
この場合、シリンダブロック上端部のヘッドボルト孔および下端部のキャップボルト孔に加えて、ヘッドボルト孔とキャップボルト孔との間のシリンダヘッドの中央部をも強度アップすることができ、シリンダブロックの上端部から下端部までの強度を全体的に向上することが可能となる。
【0006】
また、請求項2記載の如く、前記貫通孔は、シリンダヘッドの鋳造時にキャビティ内に設けた、該キャビティの上端から下端を貫通する抜き勾配のないパイプ部材により形成された。
これにより、貫通孔を、シリンダブロックの上端から下端にわたって確実に形成することができる。
【0007】
また、請求項3記載の如く、前記パイプ部材は、シリンダブロックの鋳造時に冷却される。
これにより、シリンダブロックの鋳造時に、パイプ部材の周囲の部分に存在する溶湯が素早く冷却され凝固し、鋳造後のシリンダブロックの強度向上を図ることができる。
この場合、パイプ部材はシリンダブロックの上端から下端にかけて設けられているので、シリンダブロック上端部のヘッドボルト孔および下端部のキャップボルト孔に加えて、ヘッドボルト孔とキャップボルト孔との間のシリンダヘッドの中央部をも強度アップすることができ、シリンダブロックの上端部から下端部までの強度を全体的に向上することが可能となる。
【0008】
また、請求項4記載の如く、前記シリンダブロックの下端部に形成されるクランクシャフト支持用のジャーナルハウジングを、シリンダブロックのボアセンターに対してオフセット配置した。
これにより、キャップボルト孔をジャーナルハウジングの近傍に配置することが可能となり、クランクキャップを締結したときの、クランクシャフトの支持強度の向上を図ることができる。」(段落【0005】ないし【0008】)

(f)「【0012】
本発明によれば、シリンダブロックの上端部から下端部までの強度を全体的に向上することが可能となり、クランクキャップを締結したときの、クランクシャフトの支持強度の向上を図ることも可能となる。」(段落【0012】)

(g)「【0013】
次に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0014】
図1はシリンダブロック2の鋳造時の状態を示しており、金型1のキャビティ1a内には複数のパイプ部材3・3が設けられている。該パイプ部材3・3はキャビティ1a内を上端から下端にかけて貫通している。
シリンダブロック2はアルミ合金にて構成されており、該シリンダブロック2を鋳造する際にはアルミ合金の溶湯をキャビティ1a内に充填し、その後冷却して溶湯を凝固させる。
【0015】
キャビティ1a内に溶湯を充填して凝固させる鋳造中は、パイプ部材3・3内に冷却水を流してパイプ部材3・3を冷却しており、パイプ部材3・3周辺に位置する溶湯の冷却を促進するようにしている。
これにより、パイプ部材3・3周辺部の溶湯は冷却速度が速くなり、凝固後のシリンダブロック2の強度が向上する。
【0016】
鋳造後は、鋳造されたシリンダブロック2を金型1から取り出すとともに、該シリンダブロック2に残っているパイプ部材3・3を引き抜く。
鋳造後の粗材状態(未だ機械加工が施されていない状態)にあり、パイプ部材3・3が除去されたシリンダブロック2は、図2に示すような状態となっており、パイプ部材3・3を引き抜いた跡には、シリンダブロック2を上端から下端にかけて貫通する貫通孔2a・2aが形成されている。
なお、2b・2bはウォータージャケットである。」(段落【0013】ないし【0016】)

(h)「【0017】
図2に示す鋳造後のシリンダブロック2には、その後機械加工が施される。機械加工後のシリンダブロック2を図3に示す。
シリンダブロック2に対する機械加工は、貫通孔2aの上端部および下端部に施されており、貫通孔2aの上端部には、シリンダブロック2の上方に配置されるシリンダヘッドを締結して取り付けるためのヘッドボルト孔21が形成され、貫通孔2aの下端部には、シリンダブロック2の下方に配置されるクランクキャップを締結して取り付けるためのキャップボルト孔22が形成されている。
【0018】
ヘッドボルト孔21は、両方の貫通孔2aの上端部に形成され、キャップボルト孔22は、一方(図3における右側)の貫通孔2aの下端部に形成されている。
また、ヘッドボルト孔21およびキャップボルト孔22が形成される左右の貫通孔2a・2aは、シリンダブロック2に形成されるシリンダの左右中心であるボアセンターCbに対して、互いに対称位置に配置されている。
【0019】
シリンダブロック2の下端部には、半円状に切り欠かれたジャーナルハウジング2cが形成されており、該ジャーナルハウジング2cと、シリンダブロック2の下端部に締結されるクランクキャップとでクランクシャフトを支持するように構成している。
ジャーナルハウジング2cは、シリンダブロック2の左右中心から右側にずれた位置に配置されており、前記ボアセンターCbと、ジャーナルハウジング2cの左右中心であるクランクセンターCcとは、寸法dだけオフセットしている。
クランクセンターCcのボアセンターCbに対するオフセット寸法dは、ジャーナルハウジング2cの右端が、シリンダブロック2の右側部に形成されるキャップボルト孔22の近傍に位置するだけの寸法に設定されている。
【0020】
そして、クランクセンターCcが右側にオフセットして配置されているため、ジャーナルハウジング2cの左端からシリンダブロック2の左側に形成される貫通孔2aまでの寸法が大きくなっている。
従って、左側の貫通孔2aの下端部にキャップボルト孔22を形成すると、該キャップボルト孔22とジャーナルハウジング2cとの寸法が大きくなってクランクシャフトの支持強度が低下するため、シリンダブロック2においては、左側の貫通孔2aとジャーナルハウジング2cとの間にキャップボルト孔23を形成して、該キャップボルト孔23をジャーナルハウジング2cの近傍に配置している。
【0021】
このように、クランクセンターCcをボアセンターCbに対して右側にオフセット配置することにより、右側のキャップボルト孔22をジャーナルハウジング2cの近傍に配置することが可能となっており、さらにキャップボルト孔22をジャーナルハウジング2cの左側近傍に配置することで、クランクキャップを締結したときの、クランクシャフトの支持強度の向上を図っている。
【0022】
また、前記ヘッドボルト孔21およびキャップボルト孔22は、シリンダブロック2の鋳造時に冷却水を流した貫通孔2aにより素早く冷却された箇所に形成されているので、高強度のヘッドボルト孔21およびキャップボルト孔22に形成することができる。
さらに、シリンダブロック2における、ヘッドボルト孔21およびキャップボルト孔22との間の中央部も、ヘッドボルト孔21およびキャップボルト孔22とを連通する貫通孔2a(左側のヘッドボルト孔22にあっては、該ヘッドボルト孔22から下方へ延出する貫通孔2a)により素早く冷却されながら凝固した箇所なので、高強度に構成することができ、シリンダブロック2の上端部から下端部までの強度を全体的に向上することが可能となっている。
【0023】
また、貫通孔2aは、シリンダブロック2の鋳造時に、抜き勾配がないパイプ部材3により形成されるので、シリンダブロック2の上端から下端にわたって確実に形成することが可能となっている。
【0024】
また、キャップボルト孔22・23をジャーナルハウジング2cの近傍に配置してクランクシャフトの支持強度を向上しているが、ジャーナルハウジング2cの左側のキャップボルト孔23は、鋳造時に急速冷却された貫通孔2aから若干離れた位置に形成されているので、貫通孔2aに形成されるキャップボルト孔22に比べると若干強度が低くなっている。
【0025】
そこで、シリンダブロック2においては、次のようにして、キャップボルト孔23の補強を行うことができる。
図4に示すシリンダブロック2は、図3に示したシリンダブロック2の構成に加えて、左側の貫通孔2aの下端部にもキャップボルト孔22を形成した構成となっている。
【0026】
このように、ジャーナルハウジング2cの左側のキャップボルト孔23の外側にキャップボルト孔22を追加して形成することで、キャップボルト孔23によるクランクキャップの締結強度を補強することができる。
この場合、内側のキャップボルト孔23は締結されるクランクキャップの口開きを防止し、外側のキャップボルト孔22は、ジャーナルハウジング2cとクランクキャップとで支持するクランクシャフトの支持強度の補強を行っている。」(段落【0017】ないし【0026】)

(i)「【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】シリンダブロックの鋳造時の状態を示す側面断面図である。
【図2】パイプ部材が除去された状態の鋳造後のシリンダブロックを示す側面断面図である。
【図3】機械加工後のシリンダブロックを示す側面断面図である。
【図4】機械加工後のシリンダブロックの別実施例を示す側面断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1a キャビティ
2 シリンダブロック
2a 貫通孔
3 パイプ部材
21 ヘッドボルト孔
22・23 キャップボルト孔」(【図面の簡単な説明】及び【符号の説明】)

(2)上記(1)(a)ないし(i)及び図面の記載から分かること

(ア)上記(1)(a)ないし(i)及び図面の記載から、引用文献1には、クランクセンターCcとボアセンターCbがオフセットされるとともに、ボアセンターCbの両側にそれぞれ配置される、二つのヘッドボルト孔21,21の距離と、二つのキャップボルト孔22,23の距離が異なる構成とするエンジンのシリンダブロック2が記載されていることが分かる。

(イ)上記(1)(a)ないし(i)及び図面の記載から、引用文献1に記載されたエンジンのシリンダブロック2において、一直線状の二本のパイプ部材3,3がボアセンターCbを基準として線対称に設置され、シリンダブロック2の鋳造時に、パイプ部材3,3周辺部の溶湯の冷却を促進して凝固後のシリンダブロック2の強度を向上させることが分かる。すなわち、パイプ部材3,3周辺部の溶湯が凝固して形成された一直線状の二本の強度向上部が、ボアセンターCbを基準として線対称に形成されたことが分かる。

(ウ)上記(1)(a)ないし(i)及び図面の記載から、引用文献1に記載されたエンジンのシリンダブロック2において、一側(図3における左側)の前記強度向上部には、一側のヘッドボルト孔21が一側の前記キャップボルト孔23と前記強度向上部を介して連結されない状態で形成されることが分かる。

(エ)上記(1)(a)ないし(i)及び図面の記載から、引用文献1に記載されたエンジンのシリンダブロック2において、他側(図3における右側)の前記強度向上部には、他側のヘッドボルト孔21、及び、他側の前記キャップボルト孔22が形成されることが分かる。

(オ)上記(1)(a)ないし(i)及び図面の記載から、引用文献1に記載されたエンジンのシリンダブロック2において、前記強度向上部の端部に、貫通孔2a,2aを形成し、前記貫通孔2a,2aにその後の機械加工を施すことにより、前記ヘッドボルト孔21、及び/又は、前記キャップボルト孔22を形成することが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)並びに図面の記載から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「クランクセンターCcとボアセンターCbがオフセットされるとともに、ボアセンターCbの両側にそれぞれ配置される、二つのヘッドボルト孔21,21の距離と、二つのキャップボルト孔22,23の距離が異なる構成とするエンジンのシリンダブロック2であって、
一直線状の二本の強度向上部が前記ボアセンターCbを基準として線対称に形成され、
一側の前記強度向上部には、一側の前記ヘッドボルト孔21が一側の前記キャップボルト孔23と前記強度向上部を介して連結されない状態で形成され、
他側の前記強度向上部には、他側の前記ヘッドボルト孔21、及び、他側の前記キャップボルト孔22が形成され、
前記強度向上部の端部に、貫通孔2a,2aを形成し、前記貫通孔2a,2aにその後の機械加工を施すことにより、前記ヘッドボルト孔21、及び/又は、前記キャップボルト孔22を形成する、エンジンのシリンダブロック。」

3-2 本願補正発明と引用発明との対比
本願補正発明と引用発明とを対比するに、引用発明における「クランクセンターCc」は、その機能及び構造又は技術的意義からみて、本願補正発明における「クランク軸センタ」に相当し、以下同様に、「ボアセンター」は「シリンダボアセンタ」に、「両側」は「両サイド」に、「二つのヘッドボルト孔21,21の距離」は「二つのヘッドボルト間の距離」に、「二つのキャップボルト孔22,23の距離」は「二つのクランクキャップボルト間の距離」に、「その後の機械加工」は「追加加工」に、「ヘッドボルト孔21」は「ヘッドボルトのボルト穴」に、「キャップボルト孔22」は「クランクキャップボルトのボルト穴」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「強度向上部」は、「高強度部」である限りにおいて、本願補正発明における「補強材」に相当し、
引用発明における「一直線状の二本の強度向上部が、前記ボアセンターCbを基準として線対称に形成され」は、「一直線状の二本の高強度部が、ボアセンターを基準として線対称に配置され」である限りにおいて、本願補正発明における「一直線状の二本の補強材が前記シリンダボアセンタを基準として線対称に鋳包まれ」に相当する。
また、引用発明における「ヘッドボルト孔21,21」にはヘッドボルトが螺嵌されることが自明であり、「キャップボルト孔22,23」にはクランクキャップボルトが螺嵌されることが自明であるから、引用発明における「一側の前記強度向上部には、一側のヘッドボルト孔21が一側の前記キャップボルト孔23と前記強度向上部を介して連結されない状態で形成され」は、「一側の前記高強度部には、一側の前記ヘッドボルトが一側の前記クランクキャップボルトと前記高強度部を介して連結されない状態で螺嵌され」である限りにおいて、本願補正発明における「一側の前記高強度部には、一側の前記ヘッドボルトが一側の前記クランクキャップボルトと前記高強度部を介して連結されない状態で螺嵌され」に相当する。
同様に、引用発明における「他側の前記強度向上部には、他側のヘッドボルト孔21、及び、他側の前記キャップボルト孔22が形成され」は、「他側の前記高強度部には、他側の前記ヘッドボルト、及び、他側の前記キャップボルトが螺嵌され」である限りにおいて、本願補正発明における「他側の前記補強材には、他側の前記ヘッドボルト、及び、他側の前記キャップボルトが螺嵌され」に相当する。
また、引用発明における「前記強度向上部の端部に、貫通孔2a,2aを形成し、前記貫通孔2a,2aにその後の機械加工を施すことにより、前記ヘッドボルト孔21、及び/又は、前記キャップボルト孔22を形成する」は、「前記高強度部の端部に、穴を形成し、前記穴に追加加工を施すことにより、前記ヘッドボルト、及び/又は、前記クランクキャップボルトのボルト穴を形成する」である限りにおいて、本願補正発明における「前記補強材の端部に、鋳包み時に補強材の位置決めとして利用するピン穴を形成し、前記ピン穴に追加加工を施すことにより、前記ヘッドボルト、及び/又は、前記クランクキャップボルトのボルト穴を形成する」に相当する。

してみると、本願補正発明と引用発明は、
「クランク軸センタとシリンダボアセンタがオフセットされるとともに、シリンダボアセンタの両サイドにそれぞれ配置される、二つのヘッドボルト間の距離と、二つのクランクキャップボルト間の距離が異なる構成とする、エンジンのシリンダブロックであって、
一直線状の二本の高強度部が前記シリンダボアセンタを基準として線対称に配置され、
一側の前記高強度部には、一側のヘッドボルトが一側の前記クランプキャップボルトと前記補強材を介して連結されない状態で螺嵌され、
他側の前記高強度部には、他側の前記ヘッドボルト、及び、他側の前記クランクキャップボルトが螺嵌され、
前記高強度部の端部に、穴を形成し、前記穴に追加加工を施すことにより、前記ヘッドボルト、及び/又は、前記クランクキャップボルトのボルト穴を形成する、エンジンのシリンダブロック。」
である点で一致し、次の(1)及び(2)の点で相違する。

<相違点>
(1)「一直線状の二本の高強度部が、ボアセンターを基準として線対称に配置され」、「一側の前記高強度部には、一側の前記ヘッドボルトが一側の前記クランクキャップボルトと前記高強度部を介して連結されない状態で螺嵌され」及び「他側の前記高強度部には、他側の前記ヘッドボルト、及び、他側の前記キャップボルトが螺嵌され」に関して、該「高強度部」が、本願補正発明においては、「鋳包まれ」る「補強材」により構成されるのに対して、引用発明においては、「強度向上部」により構成される点。(以下、「相違点1」という。)。
(2)「高強度部の端部に形成されるボルト穴」に関して、本願補正発明においては、「前記補強材の端部に、鋳包み時に補強材の位置決めとして利用するピン穴を形成し、前記ピン穴に追加加工を施すことにより、前記ヘッドボルト、及び/又は、前記クランクキャップボルトのボルト穴を形成する」のに対して、引用発明においては、「前記強度向上部の端部に、貫通孔2a,2aを形成し、前記貫通孔2a,2aにその後の機械加工を施すことにより、前記ヘッドボルト孔21、及び/又は、前記キャップボルト孔22を形成する」ものの、鋳包み時に補強材の位置決めとして利用するピン穴に追加加工を施すことによりボルト穴を形成するのではない点(以下、「相違点2」という。)。

3-3 相違点についての検討及び判断
(1)相違点1について
エンジンのシリンダブロックの技術分野において、「一直線状の二本の高強度部」を、「鋳包まれ」る「補強材」により構成する技術は、従来周知の技術(以下、「周知技術1」という。例えば、実願昭55-156149号(実開昭57-78743号)のマイクロフィルムの実用新案登録請求の範囲、明細書第5ページ第3行ないし第6ページ第6行及び図面、特開平11-200941号公報の段落【0016】及び図面、等の記載を参照。)にすぎない。
したがって、引用発明において、周知技術1を適用することにより、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
補強材を鋳包んでエンジン部品を製造する際に、補強材に形成されたピン穴を利用して位置決めを行うことは、従来周知の技術(以下、「周知技術2」という。例えば、特開2004-27906号公報の段落【0017】ないし【0019】及び図面、特開2004-25269号公報の段落【0027】ないし【0034】及び図面、特開2003-193909号公報の段落【0017】ないし【0020】及び図面、等の記載を参照。)にすぎない。
また、エンジン部品を製造する際に、鋳包んだ補強材に後加工を行ってネジ穴等を形成することも、従来周知の技術(以下、「周知技術3」という。例えば、特開2004-27906号公報の段落【0017】ないし【0019】及び図面、実願昭62-20207号(実開昭63-128253号)のマイクロフィルムの実用新案登録請求の範囲、明細書第5ページ第17行ないし第7ページ第3行及び図面、特開2003-193909号公報の段落【0017】ないし【0020】及び図面、等の記載を参照。)にすぎない。
してみれば、引用発明において、上記周知技術2及び3を適用することにより、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

また、本願補正発明は、全体としてみても、引用発明及び周知技術1ないし3から想定される以上の格別の作用効果を奏するものではない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術1ないし3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


4 まとめ
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成22年9月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2 の[理由]の1(1)(a)の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2 引用文献
原査定の拒絶理由に引用された引用文献(特開2006-170095号公報)の記載事項及び引用発明は、前記第2の[理由]の3 3-1(1)ないし(3)に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]の1(2)で検討したように、実質的に、本願補正発明における発明特定事項の一部を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含む本願補正発明が、前記第2の[理由]の3 3-1ないし3-3に記載したとおり、引用発明及び周知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明及び周知技術1ないし3から想定される以上の格別の作用効果を奏するものではない。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
 
審理終結日 2011-09-22 
結審通知日 2011-09-27 
審決日 2011-10-12 
出願番号 特願2006-263148(P2006-263148)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02F)
P 1 8・ 575- Z (F02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 二之湯 正俊岩▲崎▼ 則昌  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 岡崎 克彦
金澤 俊郎
発明の名称 エンジンのシリンダブロック  
代理人 矢野 寿一郎  

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