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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F04B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04B |
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管理番号 | 1247578 |
審判番号 | 不服2011-3471 |
総通号数 | 145 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-01-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-02-16 |
確定日 | 2011-11-24 |
事件の表示 | 特願2005- 6317「ロータリ圧縮機」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月27日出願公開、特開2005-299635〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
I.手続の経緯 本願は,特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成17年 1月13日(優先日:平成16年 2月24日,出願番号:特願2004-47373号,優先日:平成16年 3月15日,出願番号:特願2004-71964号)の特許出願であって,平成22年11月10日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,平成23年 2月16日付けで本件審判請求がなされるとともに,手続補正がなされたものである。 II.平成23年 2月16日付けの手続補正の却下 [補正の却下の決定の結論] 平成23年 2月16日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.補正後の本願発明 本件補正により,特許請求の範囲の請求項2は, 「【請求項2】 容器と, 前記容器の内部に設けられ作動流体を圧縮するロータリ圧縮機構部と, 前記容器の内部に設けられ,前記容器の内部に固定された固定子と, 前記ロータリ圧縮機構部とシャフトと連結された回転子を含み,前記回転子が前記固定子に対して回転することで前記ロータリ圧縮機構部を駆動する電動機部と, 前記容器の底部に設けられ冷凍機油を貯留する油溜りとを備え, 前記ロータリ圧縮機構部を前記容器の下部に配置し,前記電動機部を前記ロータリ圧縮機構部の上部に配置し, 前記ロータリ圧縮機構部で圧縮した作動流体を前記油溜りより上方に設けられた吐出口から前記電動機部の下部空間に上向きに噴出し,前記回転子の回転運動により作動流体の旋回流れを発生させて,前記電動機部の上部空間に噴出させるロータリ圧縮機において, 前記油溜りの前記冷凍機油と前記回転子の回転運動に伴って発生する前記作動流体の旋回流が接する界面に,繊維状メッシュ部材で構成した浮動式制波部材を前記界面をまたがり浮設したことを特徴とするロータリ圧縮機。」 と補正された。 上記補正は,実質的に,本件補正前の請求項2に係る発明を特定するために必要な事項である「圧縮機構部」を「ロータリ圧縮機構部」と,「圧縮機」を「ロータリ圧縮機」とそれぞれ限定し,さらに,該「ロータリ圧縮機構部」と「電動機部」の配置関係と作動流体の流れについて,「圧縮機構部で圧縮した作動流体を容器内の空間に噴出し,回転子の回転運動により作動流体の旋回流れを発生させる圧縮機」を「ロータリ圧縮機構部を容器の下部に配置し,電動機部を前記ロータリ圧縮機構部の上部に配置し,前記ロータリ圧縮機構部で圧縮した作動流体を油溜りより上方に設けられた吐出口から前記電動機部の下部空間に上向きに噴出し,回転子の回転運動により作動流体の旋回流れを発生させて,前記電動機部の上部空間に噴出させるロータリ圧縮機」と限定するものであって,この限定された事項は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載されており,本件補正後の請求項2に記載された発明は,本件補正前の請求項2に記載された発明と,産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではないから,上記補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,本件補正後の前記請求項2に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 2.引用例及びその記載事項 原査定の拒絶理由で引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭64-77786号公報(以下「引用例1」という。)には,「スクロール型圧縮機」に関し,図面とともに以下の事項が記載又は示されている。 ・「産業上の利用分野 本発明は,冷凍空調用,冷蔵庫用等の冷媒圧縮機として用いられるスクロール型圧縮機に関するものである。」(第1ページ左下欄第19行?同ページ右下欄第2行) ・「従来の技術 第4図から第6図を参照して,その基本的構成について説明する。なお,説明を容易にするため,作動ガスの流れ方向を示す実線矢印と,潤滑油の流れ方向を示す破線矢印を挿入した。第5図は従来の空調機用密閉形スクロール圧縮機の全体構成図を示す。該圧縮機は圧縮要素部である固定スクロール1と旋回スクロール2の両スクロールと,旋回スクロール2の自転を防止する自転防止部材3及び主軸4,これを支える三個の軸受部,即ち,旋回軸受5と主軸受6及び補助軸受7と,電動機8,固定スクロール1を固定する静止部材のブロック9などから構成され,これらの機械部品は密閉容器10の内部に収納される。 冷媒ガスの流れに従って上記圧縮機の作用を説明する。 低温低圧の冷媒ガスは,吸入管11から導かれ固定スクロール1内の吸入室12に至る。圧縮要素部に至った冷媒ガスは第5図に示すように旋回スクロール2の自転を防止された公転運動により,両スクロールで形成される密閉空間13a,13bが漸次縮小し,スクロール中央部に移動するとともに,該冷媒ガスは圧力を高め,中央の吐出穴14より吐出される。吐出された高温,高圧の冷媒ガスは,密閉容器10内の上部の空間である吐出室15,及び連通路16,17を介し電動機室18を満たし,吐出管19を介して外部へ導かれる。 他方,旋回スクロール2の背面とブロック9で囲まれた空間の背圧室20には,固定,旋回の両スクロールで形成される複数個の密閉空間内のガス圧によるスラスト方向のガス力に対抗するため吸入圧力と吐出圧力の中間の圧力が作用する。中間圧力の設定は,旋回スクロール2の鏡板部2aに細孔2b,2cを設け,この細孔2b,2aを介して圧縮途中のスクロール内部のガスを背圧室に導き,旋回スクロール2の背面にガス力を作用させて行う。 次に潤滑油の流れについて説明する。 潤滑油21は密閉容器10の下部に溜められる。主軸4の下端は容器底部の油中に浸漬し,主軸4の上部には偏心軸部4aを備え,該偏心軸部4aが旋回軸受5を介して圧縮要素部である旋回スクロール2と係合している。主軸4には,各軸受部への給油を行うための偏心縦孔4bが主軸下端から主軸の上端面まで形成される。潤滑油21内に浸漬された主軸4下端は高圧の吐出圧力(Pd)の雰囲気にあり,他方,下流となる旋回軸受5のまわりは,中間圧力(Pm)の雰囲気にあるため,(Pd-Pm)の圧力差によって密閉容器底部の潤滑油21は偏心縦孔4b内を上昇する。偏心縦孔4bを上昇した潤滑油は,補助軸受7,主軸受6へ給油され,おのおのの軸受隙間を通って背圧室20へ排油される。背圧室20に至った潤滑油は,前記細孔2b,2cを介して固定スクロール1と旋回スクロール2とで形成される作動室に注入され,スクロールラップ1b,2bの内部で前記冷媒ガスと混合される。次に冷媒ガスと共に潤滑油は昇圧作用を受け,吐出穴14,吐出室15,さらに連通路16,17を経て電動機室18へと移動する。電動機室18に至った潤滑油は自重のため密閉容器10底部へ落下する。落下した潤滑油は再び密閉容器10底部に溜められ,各部の潤滑に供給される。 以上のように構成されたスクロール型圧縮機において,固定スクロール1の吐出穴14から吐出された冷媒ガスと潤滑油は密閉容器10の上シェル22に衝突し,潤滑油は上シェル22の内壁に沿って落下し,固定スクロール1の潤溜め部23に溜められて給油孔1aを介して旋回スクロール2の鏡板部2aを潤滑する。冷媒ガスは連通路16,17を通り,電動機室18を満たした際,電動機の発熱を吸収,すなわち電動機8を冷却し,吐出管19を介して外部へ導かれる。」(第1ページ右下欄第3行?第2ページ左下欄第15行) ・「発明が解決しようとする問題点 しかしながら上記のような構成では,連通路16,17を通り,電動機室18を満たした冷媒ガスは,一部は電動機8と密閉容器10との隙間を通って電動機8の下部を冷却するも,この時,ガス流れとともに,オイル室24の底部に溜まっている潤滑油を巻き上げ,再度ガス内に混入され,冷媒ガスと共に多量の潤滑油が外部へ導かれ,冷凍システムの能力を低下させる原因となっている。」(第2ページ左下欄第16行?同ページ右下欄第4行) ・上記摘記事項からみて,第4図には,「密閉容器10の底部に設けられ潤滑油21を貯留する油溜りを備えること」,及び,「吐出穴14は油溜りよりも上方に設けられており,冷媒ガスを吐出穴14から上向きに噴出すること」が示されている。 ・上記摘記事項と第4図からみて,技術常識を考慮すると,「電動機8は,密閉容器10の内部に固定された固定子と,圧縮要素部の旋回スクロール2と主軸4に連結された回転子を含み,前記回転子が前記固定子に対して回転することで前記圧縮要素部を駆動すること」,「回転子の回転運動に伴って冷媒ガスの旋回流れが発生すること」,及び,「油溜りの潤滑油21と回転子の回転運動に伴って発生する冷媒ガスの旋回流が接する界面が存在すること」は明らかである。 これらの摘記事項と図示内容を総合すると,上記引用例1には,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「密閉容器10と, 前記密閉容器10の内部に収納され冷媒ガスを圧縮する圧縮要素部と, 前記密閉容器10の内部に収納され,密閉容器10の内部に固定された固定子と,圧縮要素部の旋回スクロール2と主軸4に連結された回転子を含み,前記回転子が前記固定子に対して回転することで前記圧縮要素部を駆動する電動機8と, 前記密閉容器10の底部に設けられ潤滑油21を貯留する油溜りとを備え, 前記圧縮要素部で圧縮した冷媒ガスを前記油溜りより上方に設けられた吐出穴14から上向きに噴出し,前記回転子の回転運動により冷媒ガスの旋回流れを発生させるスクロール型圧縮機において, 前記油溜りの前記潤滑油21と前記回転子の回転運動に伴って発生する前記冷媒ガスの旋回流が接する界面が存在する,スクロール型圧縮機。」 原査定の拒絶理由で引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特開2003-206861号公報(以下「引用例2」という。)には,「気体圧縮機」に関し,図面とともに以下の事項が記載又は示されている。(なお,下線部は当審で付与した。) ・「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は,カーエアコン,GHP等の冷媒ガス圧縮に使用される気体圧縮機に関する。」 ・「【0002】 【従来の技術】図5に従来の気体圧縮機を示す。冷媒ガスを圧縮する気体圧縮機は,システムの配管から吸気室1に吸気口1aから冷媒ガスを導入し,圧縮機本体2の機械的運動,例えば,図5のようなロータリベーン型の場合には,ロータ3の回転によって,吸気室1から冷媒ガスを吸入して圧縮し,吐出室4に圧縮冷媒ガスを吐出して一時貯留し,吐出口4aから配管に戻すようになっている。 【0003】圧縮機本体2は,ロータ3が回転し,ロータ3に放射状にセットされて摺動するベーンにより仕切られてロータ3の周囲に形成される圧縮室が収縮することにより,冷媒ガスを吸入圧縮するものであるから,ロータ3,ベーン等の摺動部の潤滑,圧縮室の気密性維持等が必要であり,そのために,潤滑油が使用される。 【0004】気体圧縮機は,冷媒ガスの出入り口1a,4aを除いて密封されているから,潤滑油は,吐出室4の下部に形成された油溜まり5に貯留しておいて,潤滑油供給路6を経由して,圧縮機本体2の軸受2aやその他の摺動部2b,2c等に供給され,摺動部を潤滑し,シールする。 【0005】使用後の潤滑油は,圧縮機本体2内で圧縮冷媒ガスに混入して吐出室4に吐出される。圧縮冷媒ガスの吐出室4への出口には,サイクロン型の油分離器7が設けてあって,この油分離器7により,潤滑油は圧縮冷媒ガスから分離され油溜まり5に落下して回収され,再使用される。 【0006】ところで,吐出室4へ勢いよく吐出される冷媒ガス流は,吐出室4内でも噴流となり油溜まり5の潤滑油表面に衝突して表面を荒らしながら潤滑油を巻き込み,この潤滑油が混入した冷媒ガスが吐出口4aからシステムの配管に流出して,潤滑油が配管に紛れ込むおそれがある。 【0007】そこで,従来は,圧縮冷媒ガスの噴流が流れる吐出室4内に,網状あるいは板状の障害物を設置して噴流を和らげる構造が種々発明されている。しかし,このようにしても,なお,圧縮冷媒ガスの噴流が油溜まり5の潤滑油表面に達して潤滑油表面を荒らし,圧縮冷媒ガスが潤滑油を巻き込むことがあった。」 ・「【0009】 【発明が解決しようとする課題】この発明は,上述の問題点を解決し,油溜まりの潤滑油が圧縮冷媒ガスに巻き込まれてシステムの配管に流出する量を減少させた気体圧縮機を提供するものである。 【0010】 【課題を解決するための手段】上述の課題を解決するために,この発明の気体圧縮機は,機械的運動により圧縮機外部からの冷媒ガスを吸入圧縮する圧縮機本体と,この圧縮機本体から吐出される圧縮冷媒ガスを一時貯留してから圧縮機外部へ戻す吐出室と,この吐出室の下部に形成され,潤滑油を貯留する油溜まりと,この油溜まりに貯留された潤滑油を上記圧縮機本体の機械的運動により摺動する摺動部に供給する潤滑油供給路と,上記油溜まりに貯留された潤滑油の表面に浮かべて,油溜まりに貯留された潤滑油と吐出室に一時貯留された圧縮冷媒ガスとを仕切る油面安定材とを具備する。 【0011】また,上記気体圧縮機において,油面安定材の昇降を案内するガイドを吐出室内に設けると,油面安定材が吐出室内の圧縮冷媒ガス噴流からそれた位置に移動してしまったり,油分離器等の障害物に引っ掛かってしまうことがない。 【0012】油面安定材を網状とすれば,網の隙間を通っても潤滑油が回収される。 【0013】油面安定材に浮力を付与するフロートを設けたり,油面安定材自体を中空構造にすれば,油面安定材の材料に,金属,ガラス繊維等の耐久性,耐油性の高い材料を使用することができる。」 ・「【0015】図1は,この発明の一実施の形態を示す縦断面図である。図1において,従来の技術で説明した事項および部分については,図5と同一の符号を付して,その詳細な説明を省略する。 【0016】図1において,10は,この発明の特徴となる油面安定材である。この油面安定材10は,ポリエチレン,発泡ポリエチレン,発泡ポリプロピレン,発泡ウレタン,発泡ポリスチレン等の耐油性耐冷媒性合成樹脂等,潤滑油よりも比重の小さい材料を網状あるいは平板状に形成したもので,油溜まり5に貯留された潤滑油の表面に浮かべられ,油溜まり5に貯留された潤滑油と吐出室4に一時貯留された圧縮冷媒ガスとを仕切っている。 【0017】圧縮機運転中は,運転停止時よりも,潤滑油がより多く圧縮機本体2に供給されている状態になるから,油溜まり5の潤滑油面11が下がり,運転を停止すると潤滑油面11が上がるのであるが,油面安定材10は油面の昇降に従って上下して,常に油溜まり5の潤滑油と吐出室4の圧縮冷媒ガスとを仕切っている。 【0018】圧縮機運転により圧縮機本体2から吐出される圧縮冷媒ガスは,油分離器7を通過する際,その金網に衝突して混入している潤滑油を分離され,吐出室4に噴流となって吐出される。分離された潤滑油の油滴は,互いに吸着し合ってより大きい油滴となって圧縮冷媒ガス中を沈降し,油溜まり5に落ちて再び潤滑油として使用される。油面安定材10上に落下した油滴も噴流ガスに押し流されて凝集し油溜まり5内の潤滑油に速やかに合流する。このとき,油面安定材10が網状であったり,ポーラスであって細かい隙間があると,この隙間は潤滑油で濡れているから,隙間からも油面安定材10下側の潤滑油に合流し,油面安定材10上の油滴はより速やかに噴流から隔離回収される。 【0019】一方,圧縮冷媒の噴流ガスは,油面安定材10に当たるだけとなるから,油溜まり5の潤滑油面に衝突することがなく,油面は平静に保たれ,圧縮冷媒の噴流ガスに巻き込まれ混入して圧縮機外部のシステム配管に流出する量が少なくなる。なお,噴流は油面に対して主として斜めに当たるから,噴流が,隙間を通して油面安定材10下の潤滑油を巻き込むおそれはほとんどない。 【0020】油溜まり5の潤滑油が圧縮冷媒の噴流ガスに巻き込まれ混入して圧縮機外部のシステム配管に流出する量が少なくなることにより,システムのOCRが低下して熱交換能力低下を防ぎ,また,潤滑油が圧縮機本体2の潤滑に集中して有効に使用される。」 ・「【0025】図3は,この発明の他の実施の形態を示す縦断面図である。図3において,図1,図2および図5で説明した事項および部分については,同一の符号を付して,その詳細な説明を省略する。 【0026】図3において,15は,この発明の特徴となる油面安定材である。この油面安定材15は,ポリエチレン等の合成樹脂よりも耐久性のある鉄,アルミニウム,黄銅等の金属,ガラス繊維,ニトリルゴム,クロロプレンゴム,天然ゴム等の耐油性材料からなり,網状あるいは平板状である。油面安定材15の中心部にはガイド孔13aが貫通されたハブ13が設けられている。また,外周部には,油面安定材15に浮力を付与するフロート16が設けられている。フロート16は,中空構造のものでも,あるいは,中実で比重の小さい耐油性合成樹脂等で構成してもよい。このフロート16により,比重が冷媒ガスが溶解している潤滑油(気体圧縮機の高圧下で冷媒ガスが潤滑油に溶け込んでいる)の比重よりも大きくて,油面安定材15単体では浮上できない場合でも,油面安定材として使用することができる。」 3.発明の対比 本願補正発明と引用発明とを対比すると,後者の「密閉容器10」は前者の「容器」に相当し,以下同様に,「冷媒ガス」は「作動流体」に,「主軸4」は「シャフト」に,「電動機8」は「電動機部」に,「吐出穴14」は「吐出口」にそれぞれ相当する。 また,「潤滑油21」は「冷凍空調用圧縮機」に利用されるものであるから「冷凍機油」に相当し,「密閉容器10の内部に収容され」る態様は,「容器の内部に設けられ」る態様に相当する。 そして,後者の「圧縮要素部」及び「圧縮要素部の旋回スクロール2」と,前者の「ロータリ圧縮機構部」とは,「圧縮機構部」という概念で共通し,後者の「スクロール型圧縮機」と前者の「ロータリ圧縮機」とは,「容積型回転圧縮機」という概念で共通する。 そうすると,両者は, 「容器と, 前記容器の内部に設けられ作動流体を圧縮する圧縮機構部と, 前記容器の内部に設けられ,前記容器の内部に固定された固定子と, 前記圧縮機構部とシャフトと連結された回転子を含み,前記回転子が前記固定子に対して回転することで前記圧縮機構部を駆動する電動機部と, 前記容器の底部に設けられ冷凍機油を貯留する油溜りとを備え, 前記圧縮機構部で圧縮した作動流体を前記油溜りより上方に設けられた吐出口から上向きに噴出し,前記回転子の回転運動により作動流体の旋回流れを発生させる容積型回転圧縮機において, 前記油溜りの前記冷凍機油と前記回転子の回転運動に伴って発生する前記作動流体の旋回流が接する界面が存在する,容積型回転圧縮機。」 の点で一致し,以下の各点で相違すると認められる。 <相違点1> 「圧縮機構部」と,「容積型回転圧縮機」が,本願補正発明では,それぞれ「ロータリ圧縮機構部」,「ロータリ圧縮機」であるのに対して,引用発明では,それぞれ「圧縮要素部」,「スクロール型圧縮機」である点。 <相違点2> 本願補正発明では,「ロータリ圧縮機構部を容器の下部に配置し,電動機部を前記ロータリ圧縮機構部の上部に配置し,前記ロータリ圧縮機構部で圧縮した作動流体を油溜りより上方に設けられた吐出口から前記電動機部の下部空間に上向きに噴出し,回転子の回転運動により作動流体の旋回流れを発生させて,前記電動機部の上部空間に噴出させる」のに対して,引用発明では,「圧縮要素部(圧縮機構部)で圧縮した冷媒ガス(作動流体)を油溜りより上方に設けられた吐出穴(吐出口)から上向きに噴出し,回転子の回転運動により冷媒ガス(作動流体)の旋回流れを発生させる」ものの,それ以上のものでない点。 <相違点3> 本願補正発明では,「油溜りの冷凍機油と回転子の回転運動に伴って発生する作動流体の旋回流が接する界面に,繊維状メッシュ部材で構成した浮動式制波部材を前記界面をまたがり浮設した」のに対して,引用発明では,「油溜りの潤滑油(冷凍機油)と回転子の回転運動に伴って発生する冷媒ガス(作動流体)の旋回流が接する界面が存在する」ものの,それ以上のものでない点。 4.相違点の検討(当審の判断) まず,上記引用例1には,上記摘記事項に,「電動機室18を満たした冷媒ガスは,一部は電動機8と密閉容器10との隙間を通って電動機8の下部を冷却するも,この時,ガス流れとともに,オイル室24の底部に溜まっている潤滑油を巻き上げ,再度ガス内に混入され,冷媒ガスと共に多量の潤滑油が外部へ導かれ,冷凍システムの能力を低下させる原因となっている。」という本願補正発明と同様の課題についての示唆がある。 <相違点1>,<相違点2>について 引用発明と同様な,底部に油溜りを有する密閉式容積型回転圧縮機において,「ロータリ圧縮機構部を容器の下部に配置し,電動機部を前記ロータリ圧縮機構部の上部に配置し,前記ロータリ圧縮機構部で圧縮した作動流体を油溜りより上方に設けられた吐出口から前記電動機部の下部空間に上向きに噴出し,回転子の回転運動により作動流体の旋回流れを発生させて,前記電動機部の上部空間に噴出させる,ロータリ圧縮機」は,本願の優先権主張の日前に周知の事項に過ぎない(必要があれば,特開2002-327693号公報の図1を参照のこと。)から,上記相違点1,相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは,上記周知の事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たものである。 <相違点3>について 上記引用例2には,本願補正発明や引用発明と同様の「油溜まりの潤滑油が圧縮冷媒ガスに巻き込まれてシステムの配管に流出する量を減少させ」るという共通な課題の示唆がされるとともに,「油溜まり(油溜り)の潤滑油(冷凍機油)と圧縮冷媒ガス(作動流体)が接する界面に,網状のガラス繊維の材料(繊維状メッシュ部材)で構成した油面安定材15(浮動式制波部材)を前記界面にまたがり浮設した,ロータリ圧縮機」が開示されている。 ここで,油面安定材15を潤滑油の油溜まり上に浮かせた場合に,アルキメデスの原理により上記界面にまたがった状態となることは明らかである。 そうすると,課題が共通する引用発明の「油溜りの潤滑油(冷凍機油)と回転子の回転運動に伴って発生する冷媒ガス(作動流体)の旋回流が接する界面」に,上記引用例2に開示された事項を適用することにより,上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものである。 そして,上記相違点1?3を併せ備える本願補正発明の奏する作用効果について検討してみても,引用発明,上記引用例2に開示された事項,及び,上記周知の事項から当業者が予測し得たものであって,格別なものとはいえない。 したがって,本願補正発明は,引用発明,上記引用例2に開示された事項,及び,上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 5.むすび 以上のとおり,本件補正は,平成18年法律55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり,同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって,補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 III.本願発明について 1.本願発明の記載事項 本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?3に係る発明は,平成22年 7月 7日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものと認められるところ,請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりである。 「【請求項2】 容器と, 前記容器の内部に設けられ作動流体を圧縮する圧縮機構部と, 前記容器の内部に設けられ,前記容器の内部に固定された固定子と, 前記圧縮機構部とシャフトと連結された前記固定子(当審注:「回転子」の誤記。)を含み,回転子が前記固定子に対して回転することで前記圧縮機構部を駆動する電動機部と, 前記容器の底部に設けられ冷凍機油を貯留する油溜りとを備え, 前記圧縮機構部で圧縮した作動流体を前記容器内の空間に噴出し,前記回転子の回転運動により作動流体の旋回流れを発生させる圧縮機において, 前記油溜りの前記冷凍機油と前記回転子の回転運動に伴って発生する前記作動流体の旋回流が接する界面に,繊維状メッシュ部材で構成した浮動式制波部材を前記界面をまたがり浮設したことを特徴とする圧縮機。」 2.引用例の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は前記II.2.に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明と引用発明とを対比すると,上記<相違点3>でのみ相違し,残余の点で一致すると認められる。 そうすると,本願発明は,前記II.4.相違点の検討(当審の判断)における<相違点3>についてにおいて,検討したのと同様な理由により,引用発明,及び,上記引用例2に開示された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり,本願発明(請求項2に係る発明)は,引用発明,及び,上記引用例2に開示された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そうすると,このような特許を受けることができない発明を包含する本願は,本願の他の請求項について検討するまでもなく,拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-09-21 |
結審通知日 | 2011-09-27 |
審決日 | 2011-10-11 |
出願番号 | 特願2005-6317(P2005-6317) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F04B)
P 1 8・ 575- Z (F04B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 秀之 |
特許庁審判長 |
田村 嘉章 |
特許庁審判官 |
冨江 耕太郎 藤井 昇 |
発明の名称 | ロータリ圧縮機 |
代理人 | 阿部 伸一 |
代理人 | 清水 善廣 |
代理人 | 辻田 幸史 |