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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1247640
審判番号 不服2008-17859  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-11 
確定日 2011-11-30 
事件の表示 特願2002-571277「プラスチックガラスの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 9月19日国際公開、WO2002/72330、平成16年11月18日国内公表、特表2004-534667〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成14年3月6日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2001年3月9日、フランス(FR))を国際出願日とする出願であって、平成19年8月31日付けで拒絶理由が通知され、平成20年3月3日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年3月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月11日に拒絶査定不服審判が請求され、同年8月8日に手続補正書が提出され、同年9月24日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年11月21日付けで前置報告がなされ、当審において平成22年11月24日付けで審尋がなされ、平成23年4月27日に回答書が提出されたものである。

第2.平成20年8月8日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年8月8日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成20年8月8日付けの手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)の内容は、平成20年3月3日提出の手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1の内容について、

「成形型の底部の少なくとも一部にシートを配置し、前記シートは対応する形状であり断熱されており、続いて、前記製品に前記シートを固定することができる熱可塑性樹脂をこの成形型に射出する、少なくとも部分的に透明であり窓ガラスと同等の高い光学的品質を有する製品の製造方法であって、必要な光学品質を得るために、前記シートが供給される底部を有する前記成形型の一部は、前記シートがない場合に必要となる温度よりも低温に維持されることを特徴とする方法。」



「成形型の実質的に平坦でない底部の少なくとも一部に予め熱成形されたシートを配置し、前記シートは対応する形状であり断熱されており、続いて、前記製品に前記シートを固定することができる熱可塑性樹脂をこの成形型に射出する、少なくとも部分的に透明であり窓ガラスと同等の高い光学的品質を有する製品の製造方法であって、必要な光学品質を得るために、前記シートが供給される底部を有する前記成形型の一部は、前記シートがない場合に必要となる温度よりも低温に維持されることを特徴とする方法。」

とする補正事項である。
(下線は、補正箇所を明示するために審判請求人が付したものである。)

2.新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否について
本件補正は、本件補正前の請求項1において規定されている成形型の底部について「実質的に平坦でない」と規定するとともに、配置するシートについて「予め熱成形された」と規定(「 」部分が補正により限定された事項を示す。)している補正である。

前記本件補正は、願書に最初に添付された明細書の特許請求の範囲の請求項7及び段落【0019】の記載からみて、願書に最初に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてする補正といえる。

そして、前記本件補正は、補正前の請求項1において規定されていた「成形型の底部」及び「シート」を更に特定しているものであるから、特許請求の範囲の減縮(いわゆる、請求項の限定的減縮)を目的とするものである。

そうすると、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項の規定に適合するものであり、同法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件について
本件補正は、上記のとおり、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものであるから、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する補正であるか否か(いわゆる、独立特許要件の有無)について、以下に検討する。

3-1.本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の明細書の記載からみて、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明1」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。

「成形型の実質的に平坦でない底部の少なくとも一部に予め熱成形されたシートを配置し、前記シートは対応する形状であり断熱されており、続いて、前記製品に前記シートを固定することができる熱可塑性樹脂をこの成形型に射出する、少なくとも部分的に透明であり窓ガラスと同等の高い光学的品質を有する製品の製造方法であって、必要な光学品質を得るために、前記シートが供給される底部を有する前記成形型の一部は、前記シートがない場合に必要となる温度よりも低温に維持されることを特徴とする方法。」

3-2.刊行物の記載事項及び刊行物に記載された発明
(1)刊行物1の記載事項
平成19年8月14日付け拒絶理由通知で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開平6-170881号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

1a.「【請求項1】窓部(A)と窓枠部(B)とが熱可塑性樹脂により一体成形された合成樹脂製窓(C)の成形方法であって、窓部に窓枠部を形成するに際し、窓部(A)を金型キャビティに装着し、型締め後窓枠用の溶融樹脂を射出した後の冷却工程において、金型内に設けた別のノズルより溶融樹脂中に圧縮不活性ガス又は流体を注入し、冷却・固化時の変形およびヒケを防止することを特徴とする合成樹脂製窓の成形方法。
【請求項2】請求項1において、窓部(A)が室外側の表面を構成するシート(D)と室内側の表面を構成するシート(E)をそれぞれ金型キャビティのキャビティサイドとコアサイドに装着し、型閉後金型キャビティ内に熱可塑性樹脂を射出注入して得られた一体の積層樹脂ガラスであることを特徴とする車両用合成樹脂製窓の成形方法。
・・・・
【請求項4】 請求項2?3において、シート(D)、シート(E)、もしくはシート(F)に使用する熱可塑性樹脂の少なくとも一種がポリカーボネート樹脂である車両用合成樹脂製窓の成形方法。
・・・・
【請求項7】 請求項1?4に記載の合成樹脂製窓の成形方法であって、室外側の表面を構成するシート(D)の外表面に耐候性能を有するハードコート処理したシートを使用し、車両室内側の表面を構成するシート(E)の表面に防曇性、防眩性、熱線反射性もしくは熱線封入による曇り防止の少なくとも一種以上の機能性を付与したシートを用いることを特徴とする車両用合成樹脂製窓の成形方法。」(特許請求の範囲の請求項1,2,4,7)

1b.「【産業上の利用分野】本発明は、合成樹脂製窓の成形方法に関する。特に車両用合成樹脂製窓の成形方法に関する。無機ガラス製窓は乗用車をはじめ各種交通車両の窓に広く利用されている。現在、車両用窓は無機ガラス製がほとんどであるが、軽量で耐衝撃性に優れる合成樹脂窓は、車両の軽量化、安全性の向上の点からも広く実用化されることが望まれている。」(段落 【0001】)

1c.「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記した課題を解決し、CFI技術と中空成形技術により、変形が少なく表面に傷つきの少ない一体成形された合成樹脂製窓の成形方法を提供することにある。」(段落 【0004】)

1d.「本発明において、窓部(A)は熱可塑性樹脂の単一シート、もしくは室外側の表面を構成するシート(シート(D))と室内側の表面を形成するシート(シート(E))にCFI技術を利用した積層体を使用することができる。車両用合成樹脂製窓を成形する場合は、上記CFI技術を利用して成形した積層体をするのが望ましい。
窓部(A)を形成する合成樹脂として、PC(ポリカーボネート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PMMA(アクリル系樹脂)、MS(メタクリレートスチレン)、等が使用可能である。
また、CFI技術を採用して、予め窓部(A)を成形する場合、その外表面(シート(D)と内表面(シート(E))、及びピラー部(シート(F))を形成する熱可塑性樹脂として上記と同様にPC(ポリカーボネート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PMMA(アクリル系樹脂)、MS(メタクリレートスチレン)、等が例示できるが透明性及び安全性の面から耐衝撃性に特に優れるPCの使用が好ましい。上記シートとして、厚みは限定されないが、好ましくは0.1mm?2.0mmのものを使用することで製品外観、成形性は向上する。
シート(D)の室外側の表面処理としては、外気に曝されるので耐候性能を有す紫外線吸収剤を含んだシリコーン系あるいはアクリル系の塗料を選択するのが望ましい。この場合、ハードコート面上に更に機能性を付与するために印刷や蒸着等の方法により、デザイン付与、防曇、防眩、熱線反射等の膜を施すことも可能である。シート(E)の室内側の表面処理としては、ある程度の耐候性能を有し、かつ印刷可能なアクリル系やウレタン系の塗料を選択するのが望ましい。シート(F)の表面処理を行う際の表面処理剤としてシリコン系ハードコートが例示できる。
CFI技術によりシート(DとE、必要によりF)を金型に装着後、熱可塑性樹脂(G)を射出して窓部(A)を形成する場合、シート(D)とシート(E)の間、もしくはピラー部を形成する熱可塑性樹脂(G)として、透明性及び耐衝撃性に優れるものが望ましく、具体的にはPC、PMMA、PS、AS、等が例示できる。この場合、熱可塑性樹脂としてはシート(D)及び(E)、更にはシート(F)と溶着するものが望ましく、例えばシート(D)及び(E)にPCを使用する場合、溶着性からPCの使用が望ましい。また溶着性の低い材料間では、積層する面に接着層を設けることもできる。例えばPCシートにPMMAフィルムをラミネート後、PMMAを該シート上に射出成形することで積層可能となる。
積層シートの成形は、公知のCFI技術により行うことができる。すなわち、シート(D)及び(E)、また必要によりシート(F)をそれぞれ金型キャビティのキャビティサイド、コアサイド、必要によりピラー部の室外側に装着し、型閉後金型キャビティ内に熱可塑性樹脂(G)を射出注入して一体の積層シートを形成することができる。」(段落 【0006】?【0011】)

1e.「【実施例】以下、実施例により本発明の詳細を説明する。
実施例1
使用金型として車両用窓とピラー部品の一体成形可能な金型と該成形品の枠部成形用のガスノズルを組み込んだモジュール金型(ウインド製品部との接触部分にシリコンゴムを埋設)を使用した。厚み0.5mmのポリカーボネート製シート(以下、シート)のそれぞれ片面にハードコート処理したもの(外装用)と防曇処理したシート(内装用)を窓形状より小さめに(軟質樹脂の積層代分)切断して成るシートを、窓部キャビティの両面に処理面が金型面に接する方向にして装着し、ピラー部分の外面になるキャビティ側に黒色片面ハードコートシートを同様に装着し、さらに製品取付用の金具を金型の所定位置に装着した。
ポリカーボネート樹脂(三菱瓦斯化学(株)製、商品名:ユーピロンML300)を樹脂温度285℃、金型温度60℃、射出圧力(ゲージ圧 1600kgf/cm^(2) )の条件で射出注入し、該成形材料の射出成形の熱、圧力により該シートまたは取付用金具を射出樹脂と一体化させ、且つ該部位のほかにピラー部品までも一体化させた。一体化させた成形品のゲート部を切断機にて切断し、該一体成形品を、その枠部分を構成する為のモジュール金型に成形品を装着し、ポリ塩化ビニル樹脂(理研ビニル工業製、商品名:HVV9998R)を樹脂温度190℃、金型温度60℃、射出圧力(ゲージ圧 80kgf/cm^(2) )の条件にてキャビティ容量より少量を低圧射出し、ついで金型に設けたガスノズルよりガス注入装置(三菱瓦斯化学(株)製シンプレスキット)を用いて窒素ガスをPVC内に注入圧力20kg/cm^(2) で注入しPVCをキャビティ最終形状まで充填させた。該成形品周囲枠を該成形品と一体化させた合成樹脂製窓を得た。」(【0024】?【0025】)

1f.「この窓とピラーは表面外観が美しく、窓表面は耐擦傷性且つ耐候性能を有し、裏面は防曇効果を有す機能性の高い窓であった。また窓部分の成形時の傷つきもモジュール金型に組み込んだシリコンゴムや金型裏面にスプリングを埋め込んだ摺動性部で防いでいるために傷は発生しなかった。枠部と窓、ピラーは完全に接着しており、接着強度として20kg/cm^(2 )以上であり手では到底剥せるものでなかった。また取り付け用の金具も窓についているために、車体組み付けの一工程を省くことが可能であり、且つガラスの半分の重量のために組み付け時の負担が軽減できた。」(段落 【0026】)

(2)引用文献1に記載された発明の認定
引用文献1には、合成樹脂窓の製造方法として「窓部(A)と窓枠部(B)とが熱可塑性樹脂により一体成形された合成樹脂製窓(C)の成形方法であって、窓部に窓枠部を形成するに際し、窓部(A)を金型キャビティに装着し、型締め後窓枠用の溶融樹脂を射出した後の冷却工程において、金型内に設けた別のノズルより溶融樹脂中に圧縮不活性ガス又は流体を注入し、冷却・固化時の変形およびヒケを防止することを特徴とする合成樹脂製窓の成形方法。」及び「請求項1において、窓部(A)が室外側の表面を構成するシート(D)と室内側の表面を構成するシート(E)をそれぞれ金型キャビティのキャビティサイドとコアサイドに装着し、型閉後金型キャビティ内に熱可塑性樹脂を射出注入して得られた一体の積層樹脂ガラスであることを特徴とする車両用合成樹脂製窓の成形方法。」が記載されており(上記摘示事項1a)、さらに、その実施例1として、前記請求項2に対応する「窓部(A)」の製造工程として「使用金型として車両用窓とピラー部品の一体成形可能な金型・・・厚み0.5mmのポリカーボネート製シート(以下、シート)のそれぞれ片面にハードコート処理したもの(外装用)と防曇処理したシート(内装用)を窓形状より小さめに(軟質樹脂の積層代分)切断して成るシートを、窓部キャビティの両面に処理面が金型面に接する方向にして装着し、・・・ポリカーボネート樹脂(三菱瓦斯化学(株)製、商品名:ユーピロンML300)を樹脂温度285℃、金型温度60℃、射出圧力(ゲージ圧 1600kgf/cm^(2) )の条件で射出注入し、該成形材料の射出成形の熱、圧力により該シートまたは取付用金具を射出樹脂と一体化させ、且つ該部位のほかにピラー部品までも一体化させた。」(上記摘示事項1e)と記載されていることからみて、引用文献1の実施例1として記載されている車両用の「窓部A」の成形方法として、
「 車両用窓とピラー部品の一体成形可能な金型で、厚み0.5mmのポリカーボネート製シートを窓形状より小さめに切断して成るポリカーボネート製シートを、窓部キャビティの両面に処理面が金型面に接する方向にして装着し、
ポリカーボネート樹脂(三菱瓦斯化学(株)製、商品名:ユーピロンML300)を樹脂温度285℃、金型温度60℃、射出圧力(ゲージ圧 1600kgf/cm^(2) )の条件で射出注入し、該成形材料の射出成形の熱、圧力により該シートを射出樹脂と一体化させた車両用の窓部Aの製造方法。」に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

3-3 補正発明1と引用発明との対比
引用発明における「車両用窓とピラー部品の一体成形可能な金型」が、補正発明1の「成形型」に相当することは明らかである。
引用発明における「車両用の窓部A」は、上記摘示事項1dの記載からみて、車両用合成樹脂製窓の窓部を構成している部分であるので、補正発明1の「少なくとも部分的に透明であり窓ガラスと同等の高い光学的品質を有する製品」に相当するといえる。
また、引用発明における「厚み0.5mmのポリカーボネート製シート」が、補正発明1の「シート」に相当することは明らかである。
さらに、引用発明の「ポリカーボネート製シートを窓形状より小さめに切断して成るポリカーボネート製シートを、窓部キャビティの両面に処理面が金型面に接する方向にして装着し」が、補正発明1の「成形型の底部の少なくとも一部にシートを配置し、前記シートは対応する形状であ」ることに相当することも明らかである。
加えて、引用発明の「ポリカーボネート樹脂(三菱瓦斯化学(株)製、商品名:ユーピロンML300)を金型温度60℃の条件で射出注入し、該成形材料の射出成形の熱、圧力により該シートを射出樹脂と一体化させた」は、補正発明1の「続いて、前記製品に前記シートを固定することができる熱可塑性樹脂をこの成形型に射出する」に相当することは明らかである。
そうすると、補正発明1と引用発明とを対比すると、両者は、

「成形型の底部の少なくとも一部にシートを配置し、前記シートは対応する形状であり、続いて、前記製品に前記シートを固定することができる熱可塑性樹脂をこの成形型に射出する、少なくとも部分的に透明であり窓ガラスと同等の高い光学的品質を有する製品の製造方法。」

の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
シートを配置する成形型の底部の形状に関し、補正発明1においては「実質的に平坦でない」と特定されているのに対して、引用発明においては、このような規定はない点。

<相違点2>
成形型の底部に配置するシートに関し、補正発明1においては「予め熱成形された」シートと特定されているのに対し、引用発明においては、この点について規定されていない点。

<相違点3>
成形型の底部に配置するシートに関し、補正発明1においては「断熱されている」と特定されているのに対して、引用発明においては、この点について規定されていない点。

<相違点4>
成形時の金型温度に関し、補正発明1においては「必要な光学品質を得るために、前記シートが供給される底部を有する前記成形型の一部は、前記シートがない場合に必要となる温度よりも低温に維持されること」と特定されているのに対して、引用発明においては60℃で行っている点。

3-4.判断
以下、相違点について検討する。
相違点1について
引用文献1に記載の車両用合成樹脂窓の製造方法は、車両用の合成樹脂製窓を成形するものとされているが(摘示事項1a、1e)、一般に、自動車等の車両用の窓の形状は車体やドアの形状等により平坦な形状以外のものも採用されるところであるので、引用発明の成形型の底部の形状は、これによって成形される車両用の窓の形状に即したものが採用できるといえ、実質的に平坦なもののみに限られる訳ではない。そうすると、相違点1は実質的な相違点ではない。

相違点2について
シートを金型内の底部に配置した状態で熱可塑性樹脂樹脂を該金型内に射出し、前記シートと前記熱可塑性樹脂とを一体化する車両用樹脂成形窓の成形方法において、当該シートを予め熱成形して配置することは、周知の技術手段であるから(例えば、特開平6-170883号公報の【0021】、国際公開第99/65678号の請求の範囲16、特表2001-500812号公報の第13頁20行?第14頁1行、11行?26行参照)、引用発明における厚さ5mmのポリカーボネートシートとして予め熱成形したものを用いることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

相違点2に係る効果について、本願明細書の記載内容を踏まえて検討する。
本願明細書には、相違点2に係る効果に関して、以下のような記載がある。
ア.「さらに、本発明の方法において、成形型の底部が実質的に平坦でない場合、必要に応じてシートをあらかじめ熱成形し、熱可塑性樹脂を注入する前に、任意の好適な手段、特に吸引手段および/または吹き込み手段、および/または好ましくは静電作用によって成形型底部に維持することによって、製品の高い光学品質が向上する。この最後の処置は、折れ曲がらずにシートと成形型底部がぴったりと接触させることが目的であり、静電作用を使用する場合にこのような接触はより十分となり、この接触は前述のように本発明により成形型底部の温度が低下するとより効果的となる。」(段落 【0019】)
イ.「【実施例】
ビスフェノールAより調製される標準的ポリカーボネートの厚さ80μmのフィルム(ゼネラル・エレクトリック(General Electric)より登録商標「マクロロン」(Makrolon)で販売され、ガラス転位温度は145℃に相当するTgである)上に、フローコーティングによって特許出願EPP-A1-0 718 348号の実施例に記載される耐擦傷性コーティングを厚さ20μmの液体皮膜として適用する。乾燥後には、厚さは5μmとなる。
次に、このようにコーティングされた支持フィルムを、耐擦傷性層が上向きになるように成形型底部に入れ、これらを155℃で30分間熱処理する。こうして、熱成形されたシートが形成される。
次に、このシートを射出成形型の底部に入れて、水流で60℃に加熱された成形型の壁と耐擦傷性層を接触させる。耐擦傷性層を支持するフィルムと同じ構成の標準的ポリカーボネートの厚さ5μmの熱可塑性樹脂層を射出する。
得られる層状構造は、優れた透明性と光学品質を有する。
熱成形されたシートを使用せず、その他の操作条件は同一で製造を実施すると、この射出成形によって、透明性が失われ光の歪みや散乱が起こるな表面が不規則で平凡な光学品質を有する製品のみを得ることができる。」(段落 【0023】?【0028】)

上記摘示事項ア.における「必要に応じてシートをあらかじめ熱成形し、熱可塑性樹脂を注入する前に、任意の好適な手段、特に吸引手段および/または吹き込み手段、および/または好ましくは静電作用によって成形型底部に維持することによって、製品の高い光学品質が向上する」との記載、及び、上記摘示事項イ.における「熱成形されたシートを使用せず、その他の操作条件は同一で製造を実施すると、この射出成形によって、透明性が失われ光の歪みや散乱が起こるな表面が不規則で平凡な光学品質を有する製品のみを得ることができる」との記載からみて、本願発明は、樹脂成形窓に利用するシートの成形型への載置において予め熱成形したものを利用したことによって「変形等に伴うシート中の応力を緩和して光学歪みを著しく低減する」という効果を奏すると解される。
しかしながら、上記摘示事項ア.及びイ.をみても、シートを具体的にどのような形状に熱成形するのかは不明であり、また、予め熱成形したものを用いることにより透明性及び光学品質がどの程度向上するのかについて具体的な数値を伴って示されていないので、本願明細書の記載からは、相違点2に係る効果を客観的に確認、評価することはできない。
さらに、前述したように「車両用の樹脂成形窓に利用するシートの成形型への載置において熱成形したものを利用すること」は周知技術であって、このような所望の形状に予め熱成形したシートを用いることにより、シートが射出成形の熱、圧力で短時間に急激に所望の形状に変形することに伴う不都合、例えば、樹脂の配向、応力集中、表面変形等を回避できることは、本願出願時において当業者にとって自明な事項であるといえる。そうすると、相違点2に係る効果は、引用発明及び周知技術から、当業者が予測し得る範囲内のものといえる。
したがって、成形型の底部に配置するシートとして、予め熱成形されたシートを用いることにより、補正発明1が格別顕著な効果を奏するものとは認められない。

相違点3について
引用発明の「厚み0.5mmのポリカーボネート製シート」は、補正発明1のシートに利用されるものと同様な樹脂を利用し、補正発明1のシートとして要求される厚みの範囲内である。
そして、ポリカーボネート樹脂シートを成形型の底部に配置している点で一致していることから、引用発明の「厚み0.5mmのポリカーボネート製シート」も「断熱されている」ものといえ、相違点3は、実質的な相違点ではない。

相違点4について
補正発明1の相違点4に係る「必要な光学品質を得るために」、「シートがない場合に必要となる温度よりも低温に維持される」とは、金型温度がどのような温度に維持されることになるかを、本願明細書の発明の詳細な説明(実施例の記載)において確認すると、標準的なポリカーボネート樹脂を利用した射出成形において60℃に加熱された成形型を利用し、得られた層状構造は、すぐれた透明性と光学品質を有するとされている。(本願明細書 段落【0023】?【0027】)
一方で、引用発明においてもポリカーボネート樹脂(三菱瓦斯化学(株)、商品名:ユーピロンML300)を利用し、金型温度は60℃にされ、得られた製品は表面外観が美しく、機能性が高い窓が得られるとされている。(上記摘示事項1e、1f)
そうすると、引用発明の60℃の金型温度での成形は、補正発明1における「必要な光学品質を得るために、前記シートが供給される底部を有する前記成形型の一部は、前記シートがない場合に必要となる温度よりも低温に維持されること」に相当している蓋然性が高い。そうすると、相違点4は実質的な相違点ではない。
また、ポリカーボネート樹脂の標準射出成形条件における金型温度は、80℃?120度であること(「射出成形 (改訂8版)」、(株)プラスチックス・エージ、1980年7月10日、p.145、149-151)、及び、引用発明において利用されているポリカーボネート樹脂(三菱瓦斯化学(株)、商品名:ユーピロンML300)は射出用途とされ、その標準成形条件の金型温度が80℃とされていること(「1995年度版(改訂第11版) プラスチック成形材料商取引便覧」,化学工業日報社,1994年9月28日、P.554-555)。そして、引用発明において、シートがない場合に必要となる成形時の金型温度は、上記標準成形条件の金型温度と認められるから、引用発明の上記金型温度60℃は、前記シートがない場合に必要となる金型温度(80℃)よりも低温の温度となり、引用発明においての金型温度60℃の条件での射出注入は、「必要な光学品質を得るために、前記シートが供給される底部を有する前記成形型の一部は、前記シートがない場合に必要となる温度よりも低温に維持されること」に相当しているといえる。
そうすると、この観点においても、相違点4は実質的な相違点ではない。

よって、補正発明1は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

3-5.審判請求人の主張についての検討
(1)審判請求人の主張
審判請求人は、平成20年4月18日付け審判請求書において、
「(1)本願発明の説明
成形型の実質的に平坦でない底部の少なくとも一部に予め熱成形されたシートを配置し、前記シートは対応する形状であり断熱されており、続いて、前記製品に前記シートを固定することができる熱可塑性樹脂をこの成形型に射出する、少なくとも部分的に透明であり窓ガラスと同等の高い光学的品質を有する製品の製造方法であって、必要な光学品質を得るために、前記シートが供給される底部を有する前記成形型の一部は、前記シートがない場合に必要となる温度よりも低温に維持されることを特徴とする方法(補正後の請求項1、下線は補正箇所)。
ここにおいて、「成形型の実質的に平坦でない底部の少なくとも一部に予め熱成形されたシートを配置」する工程は、熱成形によりシートを実質的に平坦でない成形型底部形状に対応する形状に変形すると共に、変形等に伴うシート中の応力を緩和して光学歪みを著しく低減するという特有の効果を奏功する。
(2)補正の根拠の明示
請求項1の上記補正事項は、当初明細書の段落0019等に記載されていたものであり、当該補正は特許請求の範囲の減縮に相当する。
(3)本願発明と引用文献等との対比(新規性進歩性)
引用文献1は、「窓部(A)と窓枠部(B)とが熱可塑性樹脂により一体成形された合成樹脂製窓(C)の成形方法であって」(請求項1)、「窓部(A)が室外側の表面を構成するシート(D)と室内側の表面を構成するシート(E)をそれぞれ金型キャビティサイドとコアサイドに装着し、型閉後金型キャビティ内に熱可塑性樹脂を射出注入して得られた一体の積層樹脂ガラスであることを特徴とする車両用合成樹脂製窓の成形方法」(請求項2)に関し、具体的には、「厚み0.5mmのポリカーボネート製シート(以下、シート)のそれぞれ片面にハードコート処理したもの(外装用)と防曇処理したシート(内装用)を窓形状より小さめに(軟質樹脂の積層代分)切断して成るシートを、窓部キャビティの両面に処理面が金型面に接する方向にして装着」(実施例1)する工程よりなるものであるが、当該工程は上記した本願配置工程には全然相当しない。
・・・・
したがって、本願配置工程が引用文献1および参考例には全然開示も示唆もされていないものである以上、本願発明は引用文献1等に対して明らかに新規性進歩性を有するものということができる。」と主張している。

しかし、本願配置工程については、上記3-4に記載の相違点1及び2において検討したとおりであって、審判請求人の主張は採用できない。

(2)審判請求人の提示する補正案の検討
審判請求人は、当審からの審尋に対する平成23年4月27日提出の回答書において、下記の補正案を提示して、補正案の特許性を主張している。
<補正案>
「成形型の実質的に平坦でない底部の少なくとも一部に予め熱成形されたシートを配置し、前記シートは対応する形状であり断熱されており、続いて、前記製品に前記シートを固定することができる熱可塑性樹脂をこの成形型に射出する、少なくとも部分的に透明であり窓ガラスと同等の高い光学的品質を有する製品の製造方法であって、必要な光学品質を得るために、前記シートが供給される底部を有する前記成形型の一部は、前記シートがない場合に必要となる温度よりも低温に維持され、
あらかじめ熱成形されている前記シートが、前記熱可塑性樹脂が射出される前に、吸引手段および/または吹き込み手段、および/または静電作用によって前記成形型の底部に維持される
ことを特徴とする方法。」(以下、「補正案発明1」という。)

しかし、あらかじめ熱成形されているシートが、熱可塑性樹脂が射出される前に、吸引手段によって前記成形型の底部に維持されることは、インサート射出成形法において周知の技術事項(必要ならば、特開平10-278069号公報の段落【0024】、特開平6-170883号公報の段落【0021】等参照)であって、この点は当業者が必要性に応じて適宜おこない得たことである。そして、その効果について検討しても、「折れ曲がらずにシートと成形型底部がぴったりと接触」することは、当業者が当然に想定している効果にすぎず、格別なものとはいえない。
なお、審判請求人が主張する「静電作用を使用する場合にこのような接触はより十分となり、この接触は前述のように本発明により成形型底部の温度が低下するとより効果的となる」との効果については、補正案発明1において、静電作用の使用は「および/または静電作用によって」と記載されていることから選択的なものであり、静電作用を使用しない場合を包含する補正案発明1の特有の効果の主張としては失当であるし、静電作用による維持についてもインサート部材の固定手段として周知の技術であること(特表2002-518207号公報の請求項17、特開平7-195428号公報の【0038】等参照)から、当業者が適宜おこない得たことであり、その効果についても格別なものがあるとはいえない。
したがって、補正案発明1としたとしても、引用文献1に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
そうすると、審判請求人が回答書において提示した補正案は受け入れられるものではない。

3-6.まとめ
よって、補正発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成20年8月8日付けの手続補正書による補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成20年3月3日提出の手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。

「成形型の底部の少なくとも一部にシートを配置し、前記シートは対応する形状であり断熱されており、続いて、前記製品に前記シートを固定することができる熱可塑性樹脂をこの成形型に射出する、少なくとも部分的に透明であり窓ガラスと同等の高い光学的品質を有する製品の製造方法であって、必要な光学品質を得るために、前記シートが供給される底部を有する前記成形型の一部は、前記シートがない場合に必要となる温度よりも低温に維持されることを特徴とする方法。」

2.原査定の理由の概要
原査定の理由とされた、平成19年8月31日付け拒絶理由通知書に記載した理由1は、以下のとおりである。

「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
・・・・

1)請求項1-6,17/理由1,2/引用文献1
引用文献1には、「厚み0.5mmのポリカーボネート製シートのそれぞれ片面にハードコート処理したもの(外装用)と防曇処理したシート(内装用)を窓形状より小さめに(軟質樹脂の積層代分)切断して成るシートを、窓部キャビティの両面に処理面が金型面に接する方向にして装着した後、ポリカーボネート樹脂を樹脂温度285℃、金型温度60℃、射出圧力(ゲージ圧 1600kgf/cm2 )の条件で射出注入し、該成形材料の射出成形の熱、圧力により該シートまたは取付用金具を射出樹脂と一体化させた車両用合成樹脂製窓の成形方法」(【請求項1】、段落【0001】、【0024】、【0025】)が開示されており、さらに「窓部は熱可塑性樹脂の単一シートを使用することができる」(段落【0006】)こと、および「上記シートとして、厚みは限定されないが、好ましくは0.1mm?2.0mmのものを使用することで製品外観、成形性は向上する」(段落【0008】)ことが開示されている。
そして、上記「金型温度60℃」は、本願実施例と同じく、ポリカーボネート製シートとポリカーボネート樹脂を用い板樹脂製窓における金型温度であり、本願実施例に記載された温度と同じ温度であるから、本願請求項1の「前記シートがない場合に必要となる温度よりも低温に維持されている」といえる。
また、請求項17は、製造方法を特定した「自動車用窓ガラス」であるが、該製造方法によって、「自動車用窓ガラス」としての差異が生じるとは解されないから、引用文献1の「車両用合成樹脂製窓」と差異がないといえる。

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開平06-170881号公報
2.略
3.略
4.略」

3.当審の判断
3-1.刊行物の記載事項及び刊行物に記載された発明
拒絶理由で提示された引用文献等1の特開平6-170881号公報(以下、前記第2.3.と同様に「引用文献1」という。)には、前記第2.3.3-2に記載した刊行物の記載事項及び刊行物に記載された発明が記載されている。

3-2.対比・判断
本願発明1と引用発明とを対比すると、前記第2.3.3-3に記載のとおり、両者は、上記第2.3.3-3に記載の点で一致し、前記第2.3.3-3に記載の相違点3及び4で一応相違しているが、上記第2.3.3-4において、相違点3及び4について検討したとおり、相違点3及び4は実質的に相違点とはいえないものである。
したがって、本願発明1は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

第4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由は妥当なものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-29 
結審通知日 2011-07-05 
審決日 2011-07-19 
出願番号 特願2002-571277(P2002-571277)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (B29C)
P 1 8・ 121- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 細井 龍史奥野 剛規  
特許庁審判長 小林 均
特許庁審判官 ▲吉▼澤 英一
大島 祥吾
発明の名称 プラスチックガラスの製造方法  
代理人 坪倉 道明  
代理人 渡邉 千尋  
代理人 川口 義雄  
代理人 金山 賢教  
代理人 小野 誠  
代理人 大崎 勝真  

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