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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H04B 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H04B |
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管理番号 | 1247675 |
審判番号 | 不服2008-12692 |
総通号数 | 145 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-01-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-05-19 |
確定日 | 2011-12-01 |
事件の表示 | 特願2004-518764「トランスポンダの半導体回路の電力供給」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月15日国際公開、WO2004/006175、平成17年10月27日国内公表、特表2005-532722〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続きの経緯・本願発明 本願は、2003年7月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年7月9日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成19年6月27日付けで拒絶理由が通知され、同年11月6日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成20年2月5日付けで拒絶査定され、これに対して同年5月19日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものであって、「トランスポンダ回路」に関するものと認める。 2.原査定の理由及び請求人の主張 2-1.平成19年6月27日付けの拒絶理由の概要 「A. この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 (1)【0008】の「高品質共振器の入力インピーダンスが半導体回路の負荷インピーダンスに適合」は、意味が不明である。 また何のために、高品質共振器の入力インピーダンスを半導体回路の負荷インピーダンスに適合させるのか不明である。 (2)発明の詳細な説明は、請求項4の「励振信号の周波数が共振器の共振周波数に追従させられる」を実施することができる程度に記載されていない。 なお、【0019】の「選択的に、後方散乱信号からトラッキング信号を導き出すことが可能であり、これにより変調周波数は共振器に同調させることができ、必要なら追従させることができる(DE0019621354参照)。」という記載では、DE0019621354のどういう事項を引用しているのか不明である。 (3)発明の詳細な説明は、請求項20の「記憶されたデータがセンサの校正に使用される」を実施することができる程度に記載されていない。 よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-20に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 B. この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 (1)省略 (2)請求項1の「高品質共振器(8)の入力インピーダンスが半導体回路(11)の負荷インピーダンスに適合」は、意味が不明である。 (3)上記(1),(2)は、請求項1を引用した請求項についても同様である。 よって、請求項1-20に係る発明は明確でない。」 2-2.平成19年11月6日付けの意見書における請求人の主張 上記拒絶理由の通知に対し、請求人は、特許請求の範囲の【請求項20】、及び、発明の詳細な説明の段落【0014】について、誤記であった「校正」を平成19年11月6日付け手続補正書により「較正」に補正するとともに、同日付けで提出された意見書において、次のように主張している。 「本願の拒絶理由に対する出願人の意見は次のとおりである。 項目A(1)に関連して、審査官殿は本発明の解決上の目的と同様その意味についても不明瞭であると述べている。段落[0008]に依れば、本発明の解決策は高品質因子を有する共振器の入力インピーダンスをインピーダンス変成を使用することでエネルギー蓄積器内で半導体回路用の供給電圧が得られるよう半導体回路の負荷インピーダンスに一致させる点にある。従って、本発明の基本的概念は高品質因子を有する共振器の入力インピーダンスと半導体回路の負荷インピーダンスとの間で好適な同調を可能とすることにあり、即ち、トランスポンダ回路の異なる特殊な構成要素のインピーダンス同調が行なわれる。(段落[0009])従って、読み取り装置とトランスポンダのアンテナは広帯域に設計することができ、そのため、干渉があれば、この干渉がない周波数へ切り替えることができる(段落[0020])。他の利点はこの基本的機能を損なうことなくトランスポンダと読み取り装置を利用目的にとって最も適した搬送周波数に適合する可能性である(段落[0021])。 項目A(2)に関連して、審査官殿は請求項4の主題が明細書に開示されていないことを主張している。励振信号の周波数が共振器の共振周波数に追従させられる(トラッキング)というその他の好適実施態様を開示している段落[0011]を参照願いたい。 更に、項目A(2)において、審査官殿はどの主題が段落[0019]内の最後の文章にある引用文書DE0019621354と関係があるのかも不明であると述べている。この文章中に述べられた全ての特徴は選択的に後方散乱信号からトラッキング信号を導き出すことができ、変調周波数を共振器に同調させることが出来、且つ、若し、必要であれば追従させることが出来ると、この引用された文書で開示されている。 項目A(3)に関連して、審査官殿は請求項20の主題が明細書中に開示されていないとも述べている。記憶されたデータがセンサの較正目的に使用されるその他の好適実施態様に関連性がある請求項20の主題は段落[0014]に開示されている。なお、請求項20及び段落[0014]に記載されている「校正」の「校」の字は誤字であるので、意見書と同時提出の手続補正書にて、「較」の字に訂正しました。 項目B(1)乃至B(3)に関連して、審査官殿は「高品質因子」という用語が不明瞭であると主張している。第一に、「品質因子」という技術用語は揺動回路のダンピングの繰り返しである段落[0012]の説明文中に説明されている。従って、高品質因子のダンピングは低い。本発明の主題は特にRFIDトランスポンダ回路として公知の同定作業用のトランスポンダを採用しているトランスポンダ回路に関するものである(段落[0002])。これらトランスポンダ回路、特にRFIDトランスポンダ回路は、段落[0002]乃至段落[0006]で記載されているように、先行技術として知られている。トランスポンダ回路を達成するには、高品質因子を有する共振器が必要である(段落[0003])。本発明のトランスポンダ回路実現のため高品質因子共振器に関する多くの事例が与えられている(段落[0013]とこの段落後の考えられる高品質因子共振器に関する後続のリストを参照戴きたい)。トランスポンダ技術の主題は無線周波数技術に関するため、専門家は品質因子がトランスポンダ回路の構成と設計上での必須パラメーターであるので、高品質因子トランスポンダの意味することを熟知している。トランスポンダ回路を取り扱っている技術者にとって高い又は低い品質因子を意味する回路の低い又は高いダンピングが存在するか否かが唯一の関心事である。従って、特定の値範囲を有する品質因子に関連して高い又は低い値を定義付けすることは普通ではない。共振器に関連して高品質因子が意味する内容は専門家にとっては明らかであるため、請求項1及び請求項1に従属する全ての請求項は当方の見解では明らかなものである。」 2-3.平成20年2月5日付けの拒絶査定 上記意見書の主張を踏まえた上での審査官の平成20年2月5日付けの拒絶査定は、次の内容を含むものである。 「この出願については、平成19年 6月27日付け拒絶理由通知書に記載した理由A,Bによって、拒絶をすべきものです。 なお、意見書並びに手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。 備考 〔理由Aについて〕 (1)【0008】には「インピーダンス変成によってエネルギー蓄積器内で半導体回路用の供給電圧が得られることによって解決される。」と記載されているが、「インピーダンス変成」とは、図1において何をどうすることであるのか不明であり、また「インピーダンス変成」が、整流器9やエネルギー蓄積器10を含む図1の実施例において、どのように行われるのか不明である。 また、「インピ-ダンス整合」という事項は、「前段の回路の出力が後段の回路の入力となっている場合に、前段の回路の出力インピーダンスを後段の回路の入力インピーダンスと等しくすること」として周知であるが、【0008】の「高品質共振器の入力インピーダンスが半導体回路の負荷インピーダンスに適合されて、」という場合に、「前段の回路」、「前段の回路の出力インピーダンス」、「後段の回路」、「後段の回路の入力インピーダンス」が、それぞれ何に相当するのか不明である。 したがって、理由Aの(1)が依然として解消していない。 (2)【0011】の記載は請求項4の繰り返しに過ぎず、請求項4を実施できる程度に記載されているとは認められない。 また、DE0019621354のパテントファミリーである特表2000-517073号公報の請求項1には「共振器が、供給周波数とは異なる測定周波数で、測定システム内の受信機に測定値情報を送信すること」が記載されているが、「励振信号の周波数が共振器の共振周波数に追従させられる」を実施することができる程度に記載されているとは、認められない。 したがって、理由Aの(2)が依然として解消していない。 (3)【0014】の記載は請求項20の繰り返しに過ぎず、請求項20を実施できる程度に記載されているとは認められない。 センサがどこにあり、「記憶されているデータ」がどういう種類のデータであり、そのデータによりどのように較正するのか全く記載されていない。 したがって、理由Aの(3)が依然として解消していない。 〔理由Bについて〕 (1)省略 (2)上記〔理由Aについて〕の(1)と同じ理由により、理由Bの(2)が依然として解消していない。 (3)理由Bの(3)が依然として解消していない。」 2-4.審判請求書における請求人の主張 上記拒絶査定に対し、請求人は、平成20年8月5日に提出した手続補正書(方式)の「請求の理由」において、次のように主張している。 「3.本願発明が特許されるべき理由 本願の拒絶理由に対する出願人の意見は次のとおりである。 項目A(1)に関連して、審査官殿は本発明の解決上の目的と同様その意味についても不明瞭であると述べている。段落 【0008】 に依れば、本発明の解決策は高品質因子を有する共振器の入力インピーダンスをインピーダンス変成を使用することでエネルギー蓄積器内で半導体回路用の供給電圧が得られるよう半導体回路の負荷インピーダンスに一致させる点にある。従って、本発明の基本的概念は高品質因子を有する共振器の入力インピーダンスと半導体回路の負荷インピーダンスとの間で好適な同調を可能とすることにあり、即ち、トランスポンダ回路の異なる特殊な構成要素のインピーダンス同調が行なわれる。(段落 【0009】 )従って、読み取り装置とトランスポンダのアンテナは広帯域に設計することができ、そのため、干渉があれば、この干渉がない周波数へ切り替えることができる(段落 【0020】 )。他の利点はこの基本的機能を損なうことなくトランスポンダと読み取り装置を利用目的にとって最も適した搬送周波数に適合する可能性である(段落 【0021】 )。 項目A(2)に関連して、審査官殿は請求項4の主題が明細書に開示されていないことを主張している。励振信号の周波数が共振器の共振周波数に追従させられる(トラッキング)というその他の好適実施態様を開示している段落 【0011】 を参照願いたい。 更に、項目A(2)において、審査官殿はどの主題が段落 【0019】 内の最後の文章にある引用文書DE0019621354と関係があるのかも不明であると述べている。この文章中に述べられた全ての特徴は選択的に後方散乱信号からトラッキング信号を導き出すことができ、変調周波数を共振器に同調させることが出来、且つ、若し、必要であれば追従させることが出来ると、この引用された文書で開示されている。 項目A(3)に関連して、審査官殿は請求項20の主題が明細書中に開示されていないとも述べている。記憶されたデータがセンサの較正目的に使用されるその他の好適実施態様に関連性がある請求項20の主題は段落 【0014】に開示されている。 項目B(1)乃至B(3)に関連して、審査官殿は「高品質因子」という用語が不明瞭であると主張している。第一に、「品質因子」という技術用語は揺動回路のダンピングの繰り返しである段落 【0012】 の説明文中に説明されている。従って、高品質因子のダンピングは低い。本発明の主題は特にRFIDトランスポンダ回路として公知の同定作業用のトランスポンダを採用しているトランスポンダ回路に関するものである(段落 【0002】 )。これらトランスポンダ回路、特にRFIDトランスポンダ回路は、段落 【0002】 乃至段落 【0006】 で記載されているように、先行技術として知られている。トランスポンダ回路を達成するには、高品質因子を有する共振器が必要である(段落 【0003】 )。本発明のトランスポンダ回路実現のため高品質因子共振器に関する多くの事例が与えられている(段落 【0013】 とこの段落後の考えられる高品質因子共振器に関する後続のリストを参照戴きたい)。トランスポンダ技術の主題は無線周波数技術に関するため、専門家は品質因子がトランスポンダ回路の構成と設計上での必須パラメーターであるので、高品質因子トランスポンダの意味することを熟知している。トランスポンダ回路を取り扱っている技術者にとって高い又は低い品質因子を意味する回路の低い又は高いダンピングが存在するか否かが唯一の関心事である。従って、特定の値範囲を有する品質因子に関連して高い又は低い値を定義付けすることは普通ではない。共振器に関連して高品質因子が意味する内容は専門家にとっては明らかであるため、請求項1及び請求項1に従属する全ての請求項は当方の見解では明らかなものである。」 3.当審の判断 3-1.査定の理由Aの(1)に関して 本願特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、次のものである。 「【請求項1】 高品質共振器(8)と復調器(7)とを有するトランスポンダ回路であって、送受信機(2、3)から送出されるAM変調信号が、その復調後、高品質共振器(8)の共振周波数に一致した、高品質共振器(8)を励振するための周波数を有するものにおいて、トランスポンダ回路が付加的に整流器(9)とエネルギー蓄積器(10)と半導体回路(11)とを有し、これらが共振器の後段に設けられており、高品質共振器(8)の入力インピーダンスが半導体回路(11)の負荷インピーダンスに適合されて、インピーダンス変成によってエネルギー蓄積器(10)内で半導体回路(11)用の供給電圧が得られえることを特徴とするトランスポンダ回路。」 上記請求項1の記載のうち、査定の理由Aの(1)の「高品質共振器の入力インピーダンスが半導体回路の負荷インピーダンスに適合」の記載について検討する。 上記記載に関し、発明の詳細な説明には、段落【0008】、【0009】、【0017】に、次の記載がなされている。 「【0008】 この課題は、トランスポンダ回路が付加的に整流器とエネルギー蓄積器と半導体回路とを有し、これらが共振器の後段に設けられており、高品質共振器の入力インピーダンスが半導体回路の負荷インピーダンスに適合されて、インピーダンス変成によってエネルギー蓄積器内で半導体回路用の供給電圧が得られることによって解決される。」 「【0009】 つまり本発明の基本的考えは高品質共振器の入力インピーダンスと半導体回路の負荷インピーダンスとの間で好適な同調を可能とすることにある。すなわち、トランスポンダ回路の異なる特殊な部材のインピーダンス同調が行われる。」 「【0017】 トランスポンダの情報の読取りは2ステップで行われる。まず送信機(2)からAM変調搬送周波数が送出される。復調(7)後、変調信号は高品質共振器(8)の励振に役立つ。AM変調周波数は共振器の共振周波数に一致する。高品質によってインピーダンス変成が起き、これによりエネルギー蓄積器(10)内で半導体回路(11)用に不可欠な比較的高い供給電圧が得られる。この時点で半導体回路は静止状態で運転され、こうしてエネルギー消費がごく僅かとなり、これは高いインピーダンスと同意である。」 また、本願図面のFig.1には、復調器(7)の後段に高品質共振器(8)が接続され、高品質共振器(8)の後段に整流器(9)が接続され、整流器(9)の後段にエネルギー蓄積器(10)が接続され、エネルギー蓄積器(10)の後段に半導体回路(11)が接続されたトランスポンダの構成が記載されている。 上記の記載から、本願の発明の詳細な説明には「高品質共振器の入力インピーダンスが半導体回路の負荷インピーダンスに適合」されて、「インピーダンス変成によってエネルギー蓄積器内で半導体回路用の供給電圧が得られる」ことになることが記載されているが、「半導体回路用の供給電圧」を得るために、「高品質共振器の入力インピーダンス」をなぜ「半導体回路の負荷インピーダンス」に適合させなければならないのか記載されておらず、また、「適合」とはいかなることであるか不明なものとなっている。 そこで、「インピーダンス変成」が一般にインピーダンス整合を行うためのインピーダンス調整として適用されていること、上記段落【0017】では高品質共振器の「高品質によってインピーダンス変成が起き」ることが記載されていることから、「高品質共振器」がインピーダンス変成を起こして高品質共振器の入力インピーダンスを半導体回路の負荷インピーダンスに合わせるとの一応の解釈を採用することもできる。 しかしながら、回路間で信号電力を効率的に伝達させるためには、前段回路の出力インピーダンスと後段回路の入力インピーダンスとの整合を図る必要があることは電気通信の分野では自明であり、本願図面のFig.1には、高品質共振器の前段には復調器が接続されていることから、高品質共振器の入力インピーダンスを復調器の出力インピーダンスと合わせることでインピーダンス整合を図る必要があるところ、本願発明の構成では、高品質共振器の入力インピーダンスは半導体回路の負荷インピーダンスに合った値とされるため、復調回路とはインピーダンス整合を図ることができず、高品質共振器には復調回路から十分な出力信号の電力が供給されるとはいえない構成になっている。その結果、高品質共振器からエネルギー蓄積器にも十分な電力が供給されるとはいえないため、上記の一応の解釈が成り立たず、依然として「高品質共振器の入力インピーダンスが半導体回路の負荷インピーダンスに適合」の意味が不明であり、かつ、何のために、高品質共振器の入力インピーダンスを半導体回路の負荷インピーダンスに適合させるのか不明となっている。 この点に関し、請求人は、上記「2-4.」に摘記した審判請求書の請求の理由において、 「段落【0008】に依れば、本発明の解決策は高品質因子を有する共振器の入力インピーダンスをインピーダンス変成を使用することでエネルギー蓄積器内で半導体回路用の供給電圧が得られるよう半導体回路の負荷インピーダンスに一致させる点にある。従って、本発明の基本的概念は高品質因子を有する共振器の入力インピーダンスと半導体回路の負荷インピーダンスとの間で好適な同調を可能とすることにあり、即ち、トランスポンダ回路の異なる特殊な構成要素のインピーダンス同調が行なわれる。(段落【0009】)従って、読み取り装置とトランスポンダのアンテナは広帯域に設計することができ、そのため、干渉があれば、この干渉がない周波数へ切り替えることができる(段落【0020】)。他の利点はこの基本的機能を損なうことなくトランスポンダと読み取り装置を利用目的にとって最も適した搬送周波数に適合する可能性である(段落【0021】)。」 と主張しているが、上記で摘記した記載は、いずれも「高品質共振器の入力インピーダンスが半導体回路の負荷インピーダンスに適合」されることで、どのようにして「インピーダンス変成によってエネルギー蓄積器内で半導体回路用の供給電圧が得られる」かを説明するものではない。 以上から、査定の理由Aの(1)の拒絶理由は依然として解消しておらず、本願発明の実施可能要件を満足するものとはいえない。 3-2.査定の理由Aの(2)に関して 本願特許請求の範囲の請求項4に記載された発明は、次のものである。 「【請求項4】 励振信号の周波数が共振器の共振周波数に追従させられる(トラッキング)ことを特徴とする請求の範囲第1項記載のトランスポンダ回路。」 上記請求項4の記載のうち、査定の理由Aの(2)の「励振信号の周波数が共振器の共振周波数に追従させられる」の記載について検討する。 上記記載に関し、発明の詳細な説明には、段落【0001】、【0010】、【0011】、【0016】、【0017】、【0019】に、次の記載がなされている。 「【0001】 本発明は、高品質共振器と復調器とを有するトランスポンダ回路に関する。送受信機から送出されるAM変調信号はその復調後、高品質共振器の共振周波数に一致した、高品質共振器を励振するための周波数を有する。」 「【0010】 好ましい1実施形態では広帯域信号が共振器の励振に使用される。同様に、2音信号も共振器の励振に使用することができる。 【0011】 他の好ましい1実施形態において励振信号の周波数は共振器の共振周皮数に追従させられる(トラッキング)。」 「【0016】 第1図は送信機(2)と受信機(3)を一体化した読取装置(1)とトランスポンダ(12)とを示す。読取装置(1)とトランスポンダ(12)との間の無線接続は読取装置のアンテナ(4)とトランスポンダのアンテナ(13)とを介して行われる。トランスポンダのアンテナ整合(5)後、信号は復調器(7)に、引き続き高品質共振器(8)に供給されてこれを振動励起する。共振器(8)の後段に整流器(9)、エネルギー蓄積器( 10)、半導体回路(11)が接続されている。引き続き信号は後方散乱変調器(6)を介してトランスポンダのアンテナ(13)へと戻される。 【0017】 トランスポンダの情報の読取りは2ステップで行われる。まず送信機(2)からAM変調搬送周波数が送出される。復調(7)後、変調信号は高品質共振器(8)の励振に役立つ。AM変調周波数は共振器の共振周波数に一致する。高品質によってインピーダンス変成が起き、これによりエネルギー蓄積器(10)内で半導体回路(11)用に不可欠な比較的高い供給電圧が得られる。この時点で半導体回路は静止状態で運転され、こうしてエネルギー消費がごく僅かとなり、これは高いインピーダンスと同意である。」 「【0019】 共振器(8)の高品質は正確な共振周波数での励振を必要とする。しかしこの共振周波数は、製造公差または外的影響(例えば温度または老化)による離調によって、さしあたり厳密には既知でない。DE19535543に述べられたような共振器は広帯域で励振することができるが、しかしながら変調エネルギーの微量部分のみが励振用に利用できる。選択的に、後方散乱信号からトラッキング信号を導き出すことが可能であり、これにより変調周波数は共振器に同調させること ができ、必要なら追従させることができる(DE0019621354参照)。」 上記の記載では、請求項4に記載された「励振信号の周波数が共振器の共振周波数に追従させられる」の発明特定事項は、段落【0011】に 「他の好ましい1実施形態において励振信号の周波数は共振器の共振周皮数に追従させられる(トラッキング)。」と記載され、段落【0019】には「選択的に、後方散乱信号からトラッキング信号を導き出すことが可能であり、これにより変調周波数は共振器に同調させることができ、必要なら追従させることができる(DE0019621354参照)」と記載されているが、本願発明の詳細な説明には、図1に記載された構成要素からどのようにして励振信号の周波数を高品質共振器の共振周皮数に追従させるかについては記載されていない。 この点に関し、平成20年2月5日付け拒絶査定における、 「DE0019621354のパテントファミリーである特表2000-517073号公報の請求項1には『共振器が、供給周波数とは異なる測定周波数で、測定システム内の受信機に測定値情報を送信すること』が記載されているが、『励振信号の周波数が共振器の共振周波数に追従させられる』を実施することができる程度に記載されているとは、認められない。」 との指摘に対して、請求人は上記「2-4.」に摘記した審判請求書の請求の理由において、 「審査官殿はどの主題が段落【0019】内の最後の文章にある引用文書DE0019621354と関係があるのかも不明であると述べている。この文章中に述べられた全ての特徴は選択的に後方散乱信号からトラッキング信号を導き出すことができ、変調周波数を共振器に同調させることが出来、且つ、若し、必要であれば追従させることが出来ると、この引用された文書で開示されている。」 と主張しているが、当該主張は単に段落【0019】の記載内容を繰り返したにすぎず、「励振信号の周波数が共振器の共振周波数に追従させられる」ことをどのように実施するかについて釈明したものではない。 以上から、査定の理由Aの(2)の拒絶理由は依然として解消しておらず、本願発明の実施可能要件を満足するものとはいえない。 3-3.査定の理由Aの(3)に関して 本願特許請求の範囲の請求項20に記載された発明は、次のものである。 「【請求項20】 記憶されたデータがセンサの較正に使用されることを特徴とする請求の範囲第1項?第19項のいずれかに記載のトランスポンダ回路。」 上記請求項20の記載のうち、査定の理由Aの(3)の「記憶されたデータがセンサの較正に使用される」の記載について検討する。 上記記載に関し、発明の詳細な説明には、段落【0014】に、 「【0014】 他の好ましい実施形態において、記憶されたデータはセンサを較正するのに使用される。」 と記載されているように、請求項20の記載と大差なくそれ以上の説明をもたらすものではないため、発明の詳細な説明の記載では、どのような構成要素がどのような処理により「記憶されたデータはセンサを較正する」のかが不明となっている。 この点に関し、平成20年2月5日付け拒絶査定における、 「センサがどこにあり、『記憶されているデータ』がどういう種類のデータであり、そのデータによりどのように較正するのか全く記載されていない。」 との指摘に対して、請求人は上記「2-4.」に摘記した審判請求書の請求の理由において、 「項目A(3)に関連して、審査官殿は請求項20の主題が明細書中に開示されていないとも述べている。記憶されたデータがセンサの較正目的に使用されるその他の好適実施態様に関連性がある請求項20の主題は段落【0014】に開示されている。」 と主張している。 しかしながら、当該主張は請求項20の記載と大差ない段落【0014】を指摘したにすぎず、「センサがどこにあり、『記憶されているデータ』がどういう種類のデータであり、そのデータによりどのように較正するのかについて釈明したものではない。 以上から、査定の理由Aの(3)の拒絶理由は依然として解消しておらず、本願発明の実施可能要件を満足するものとはいえない。 3-4.査定の理由Bの(2)、(3)に関して 請求項1に記載された「高品質共振器(8)の入力インピーダンスが半導体回路(11)の負荷インピーダンスに適合」の点は、上記3-1.に記載したように、発明の詳細な説明を参酌しても、「高品質共振器の入力インピーダンスが半導体回路の負荷インピーダンスに適合」の意味が不明であり、かつ、何のために、高品質共振器の入力インピーダンスを半導体回路の負荷インピーダンスに適合させるのか不明となっているので、依然として請求項1乃至20に係る発明は不明確であるといわざるを得ない。 4.むすび したがって、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-07-01 |
結審通知日 | 2011-07-06 |
審決日 | 2011-07-21 |
出願番号 | 特願2004-518764(P2004-518764) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
Z
(H04B)
P 1 8・ 537- Z (H04B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 江口 能弘 |
特許庁審判長 |
長島 孝志 |
特許庁審判官 |
久保 正典 飯田 清司 |
発明の名称 | トランスポンダの半導体回路の電力供給 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 二宮 浩康 |
代理人 | 山崎 利臣 |
代理人 | 二宮 浩康 |
代理人 | 星 公弘 |
代理人 | 矢野 敏雄 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 久野 琢也 |
代理人 | 矢野 敏雄 |
代理人 | 星 公弘 |
代理人 | 山崎 利臣 |
代理人 | 久野 琢也 |