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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1248261
審判番号 不服2009-2497  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-02-05 
確定日 2011-05-19 
事件の表示 特願2004-569914「記憶装置、および記憶媒体破壊プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月 7日国際公開、WO2004/086368〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判の請求に係る特許出願(以下、「本願」という。)は、平成15年3月24日を国際出願日とする出願であって、平成20年9月18日付け拒絶理由通知に対して、同年12月1日付けで手続補正がされたが、同年12月19日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成21年2月5日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年3月6日付けで手続補正がされたものである。
その後、平成22年11月30日付けで前置報告書を利用した審尋を行ったところ、平成23年2月7日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成21年3月6日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年3月6日付けの手続補正を却下する。

[理 由]
1.本件補正
平成21年3月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするもので、本件補正前に

(a)「【請求項1】
記憶面を有する記憶媒体と、
前記記憶媒体を破壊することを指示する指示部と、
前記記憶媒体に対して少なくとも情報の読み込みまたは書き込みの何れかを電流が電流の許容値未満で供給されることで行うヘッドを含むヘッド部と、
前記ヘッド部を前記記憶媒体における記憶面に沿って移動させる移動部と、
前記ヘッド部のヘッドへの電流を制御する電流制御部を有し、
前記指示部が前記記憶媒体を破壊することを指示した場合、前記電流制御部は、前記記憶媒体に対する情報の書き込み時における前記ヘッドに供給する前記電流の許容値以上の電流を前記ヘッドに供給する、記憶装置。
【請求項2】
前記移動部によって前記ヘッド部が前記記憶面上を移動する際に、
前記記憶面上に対する前記ヘッド部の垂直位置を制御する、位置制御部を有し、
前記指示部が前記記憶媒体を破壊することを指示した場合、前記位置制御部は、前記ヘッド部の垂直位置を前記記憶面に接触する位置に制御する、
請求項1に記載の記憶装置。
【請求項3】
前記位置制御部は、
前記ヘッド部を前記記憶面に押圧する押圧部をさらに有し、
前記指示部が前記記憶媒体を破壊することを指示した場合、前記押圧部は前記ヘッド部を前記記憶面に接触させる、
請求項2に記載の記憶装置。
【請求項4】
前記記憶媒体が円形記憶媒体である場合に、当該円形記憶媒体を所定の回転方向に回転させる回転部をさらに有し、
前記指示部が前記記憶媒体を破壊することを指示した場合、前記回転部は、前記ヘッド部を前記記憶面に接触させた状態で、前記円形記憶媒体を回転させる、
請求項2または3に記載の記憶装置。
【請求項5】
前記ヘッド部のヘッドは、前記円形記憶媒体の前記所定の回転方向の回転数が所定値以上である場合に前記記憶面と接触せず、前記円形記憶媒体の前記所定の回転方向の回転数が前記所定値未満である場合に前記記憶面と接触し、
前記指示部が前記記憶媒体を破壊することを指示した場合、前記位置制御部は、
前記回転部の回転数を前記所定値未満に減少させる速度制御部を有する、請求項4に記載の記憶装置。
【請求項6】
前記ヘッド部のヘッドは、前記円形記憶媒体の回転方向が前記所定の回転方向と逆の回転方向である場合に前記記憶面と接触し、
前記位置制御部は、
前記回転部の回転方向を前記所定の回転方向と逆の回転方向に変更する回転方向変更制御部を有し、
前記指示部が前記記憶媒体を破壊することを指示した場合、前記回転方向変更制御部は、前記回転部の回転方向を前記所定の回転方向と逆の回転方向に変更する、
請求項4または5に記載の記憶装置。
【請求項7】
前記ヘッド部のヘッドは、前記記憶媒体に対する少なくとも情報の読み込みまたは書き込みの何れかを、磁界を磁界の許容値未満で発生することで行い、
前記ヘッド部のヘッドから発生する磁界を制御する磁界制御部をさらに有し、
前記指示部が前記記憶媒体を破壊することを指示した場合、前記磁界制御部は、前記記憶媒体に対する情報の書き込み時における前記ヘッドに供給する前記磁界の許容値以上の磁界を前記ヘッドから発生させる請求項1に記載の記憶装置。
【請求項8】
記憶面を有する記憶媒体を破壊する、コンピュータで実行可能なプログラムであって、
前記コンピュータに、記憶媒体に対して情報の読み込みまたは書き込みの何れかを電流の許容値未満の電流が供給されることで行うヘッドを含むヘッド部を前記記憶媒体における記憶面に沿って移動させる、移動ステップと、
前記記憶媒体に対する書き込み時における電流の許容値以上の電流を前記ヘッドに供給することによって前記記憶媒体を破壊する、破壊制御ステップとを実行させる、記憶媒体破壊プログラム。
【請求項9】
前記破壊制御ステップでは、
前記移動によって前記ヘッド部が前記記憶面上を移動する際に、
前記記憶面上に対する前記ヘッド部の垂直位置を前記記憶面に接触する位置に制御する位置制御ステップをさらに備える、請求項8に記載の記憶媒体破壊プログラム。」

とあったものを、

(b)「【請求項1】
記憶面を有する記憶媒体と、
前記記憶媒体を破壊することを指示する指示部と、
前記記憶媒体に対して少なくとも情報の読み込みまたは書き込みの何れかを電流が電流の許容値未満で供給されることで行うヘッドを含むヘッド部と、
前記ヘッド部を前記記憶媒体における記憶面の全体に沿って移動させる移動部と、
前記ヘッド部のヘッドへの電流を制御する電流制御部を有し、
前記指示部が前記記憶媒体を破壊することを指示した場合、前記電流制御部は、前記記憶媒体に対する情報の書き込み時における前記ヘッドに供給する前記電流の許容値以上の電流を前記記憶面の全体に沿って移動する前記ヘッド部の前記ヘッドに供給する、記憶装置。
【請求項2】
前記移動部によって前記ヘッド部が前記記憶面上を移動する際に、
前記記憶面上に対する前記ヘッド部の垂直位置を制御する、位置制御部を有し、
前記指示部が前記記憶媒体を破壊することを指示した場合、前記位置制御部は、前記ヘッド部の垂直位置を前記記憶面に接触する位置に制御する、
請求項1に記載の記憶装置。
【請求項3】
前記位置制御部は、
前記ヘッド部を前記記憶面に押圧する押圧部をさらに有し、
前記指示部が前記記憶媒体を破壊することを指示した場合、前記押圧部は前記ヘッド部を前記記憶面に接触させる、
請求項2に記載の記憶装置。
【請求項4】
前記記憶媒体が円形記憶媒体である場合に、当該円形記憶媒体を所定の回転方向に回転させる回転部をさらに有し、
前記指示部が前記記憶媒体を破壊することを指示した場合、前記回転部は、前記ヘッド部を前記記憶面に接触させた状態で、前記円形記憶媒体を回転させる、
請求項2または3に記載の記憶装置。
【請求項5】
前記ヘッド部のヘッドは、前記円形記憶媒体の前記所定の回転方向の回転数が所定値以上である場合に前記記憶面と接触せず、前記円形記憶媒体の前記所定の回転方向の回転数が前記所定値未満である場合に前記記憶面と接触し、
前記指示部が前記記憶媒体を破壊することを指示した場合、前記位置制御部は、
前記回転部の回転数を前記所定値未満に減少させる速度制御部を有する、請求項4に記載の記憶装置。
【請求項6】
前記ヘッド部のヘッドは、前記円形記憶媒体の回転方向が前記所定の回転方向と逆の回転方向である場合に前記記憶面と接触し、
前記位置制御部は、
前記回転部の回転方向を前記所定の回転方向と逆の回転方向に変更する回転方向変更制御部を有し、
前記指示部が前記記憶媒体を破壊することを指示した場合、前記回転方向変更制御部は、前記回転部の回転方向を前記所定の回転方向と逆の回転方向に変更する、
請求項4または5に記載の記憶装置。
【請求項7】
前記ヘッド部のヘッドは、前記記憶媒体に対する少なくとも情報の読み込みまたは書き込みの何れかを、磁界を磁界の許容値未満で発生することで行い、
前記ヘッド部のヘッドから発生する磁界を制御する磁界制御部をさらに有し、
前記指示部が前記記憶媒体を破壊することを指示した場合、前記磁界制御部は、前記記憶媒体に対する情報の書き込み時における前記ヘッドに供給する前記磁界の許容値以上の磁界を前記ヘッドから発生させる請求項1に記載の記憶装置。
【請求項8】
記憶面を有する記憶媒体を破壊する、コンピュータで実行可能なプログラムであって、
前記コンピュータに、記憶媒体に対して情報の読み込みまたは書き込みの何れかを電流の許容値未満の電流が供給されることで行うヘッドを含むヘッド部を前記記憶媒体における記憶面の全体に沿って移動させる、移動ステップと、
前記記憶媒体に対する書き込み時における電流の許容値以上の電流を前記記憶面の全体に沿って移動する前記ヘッド部の前記ヘッドに供給することによって前記記憶媒体を破壊する、破壊制御ステップとを実行させる、記憶媒体破壊プログラム。
【請求項9】
前記破壊制御ステップでは、
前記移動によって前記ヘッド部が前記記憶面上を移動する際に、
前記記憶面上に対する前記ヘッド部の垂直位置を前記記憶面に接触する位置に制御する位置制御ステップをさらに備える、請求項8に記載の記憶媒体破壊プログラム。」

としようとするものである。

本件補正は、次の補正事項を含む。
(ア)補正前の請求項1に係る発明が備える「前記ヘッド部を前記記憶媒体における記憶面に沿って移動させる移動部」につき、「前記ヘッド部を前記記憶媒体における記憶面の全体に沿って移動させる移動部」と限定する補正事項。

(イ)補正前の請求項1に係る発明が備える「前記ヘッド」につき、「前記記憶面の全体に沿って移動する前記ヘッド部の前記ヘッド」と限定する補正事項。

(ウ)補正前の請求項8に係る発明が備える「前記コンピュータに、記憶媒体に対して情報の読み込みまたは書き込みの何れかを電流の許容値未満の電流が供給されることで行うヘッドを含むヘッド部を前記記憶媒体における記憶面に沿って移動させる、移動ステップ」につき、「前記コンピュータに、記憶媒体に対して情報の読み込みまたは書き込みの何れかを電流の許容値未満の電流が供給されることで行うヘッドを含むヘッド部を前記記憶媒体における記憶面の全体に沿って移動させる、移動ステップ」と限定する補正事項。

(エ)補正前の請求項8に係る発明が備える「前記ヘッド」につき、「前記記憶面の全体に沿って移動する前記ヘッド部の前記ヘッド」と限定する補正事項。

2.独立特許要件について
補正事項(ア)ないし(エ)は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定する要件を満たすか)を、請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)について、以下に検討する。

3.引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-221403号公報(平成4年8月11日公開。以下、「引用例」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、コンピュータシステムの外部記憶装置である磁気記憶装置に関するもので、磁気記憶装置を外部に持ち出した場合における情報の漏洩を防止するため、磁気記憶装置を外部に持ち出す前に磁気記憶媒体に書き込まれた情報を意図的に消去させる情報消去機能をこの磁気記憶装置にもたせたものである。
【0002】
【従来の技術】図3は従来一般のコンピュータシステムの磁気記憶装置である周知の磁気ディスク装置の概要図で、図4は従来一般の磁気ディスク装置の内部を示す平面図であり、1は磁気ディスク装置で、そのケース1aに次ぎのような各部材が取り付けられている。すなわち、2は磁気記録媒体である磁気ディスク、3は磁気ディスク2を保持して回転させるスピンドル、4はスピンドル3を回転させるスピンドルモータ、5は磁気ディスク2へ情報のリード/ライトを行うリード/ライト機構を構成するリード/ライト・ヘッドで、ヘッドアーム6の先端部に取り付けられ、このヘッドアーム6の基端部は回動可能なキャリッジ7に取り付けられており、このキャリッジ7はリード/ライト時にボイスコイルモータ8によって回動されるようになっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】前記のような磁気ディスク装置1においては、磁気ディスク2に情報が書き込まれた磁気ディスク装置1を、修理やその他の何らかの理由により外部に持ち出す必要が生じた場合は、磁気ディスク2に書き込まれた情報の漏洩を防ぐため、コンピュータシステムのオペレータがプログラムにしたがった操作によって、磁気ディスク2に書き込まれた情報の消去を行っていた。
【0004】この情報の消去作業は、オペレータがコンピュータシステムのプログラムにしたがって行っているので、オペレータ以外の一般の人がそれを容易に行うことが難しく、また、コンピュータシステムから切り離されて外部に持ち出されようとする、磁気ディスク装置1の磁気ディスク2に書き込まれた情報が、確実に消去されているか否かを確認することは難しい、といった課題があった。
【0005】この発明は、前記のような課題を解決するため、磁気記憶装置を外部に持ち出すような場合には、これを外部に持ち出す前にオペレータがコンピュータシステムのプログラムにしたがった操作をしなくても、オペレータ以外の一般の管理人のみが持っているケーブルを接続することにより、またはキースイッチを操作することにより、磁気記憶装置の磁気記憶媒体に書き込まれた情報を確実に消去して、情報の漏洩を防止することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】この発明は、前記目的を達成するために、磁気記憶装置9のケース9a内に、磁気記憶媒体10と、この磁気記憶媒体10へ情報のリード/ライトを行うリード/ライト機構11を設けるとともに、情報消去回路12を設け、管理者が有するケーブル13の接続またはキースイッチ17の操作によって、前記情報消去回路12から消去電流をリード/ライト機構11を構成するリード/ライト・ヘッドに流して、磁気記憶媒体10に書き込まれた情報を消去するように構成した磁気記憶装置としたものである。
【0007】
【作用】修理などのために磁気記憶装置9を外部に持ち出す場合には、これを外部に持ち出す前に管理者がケーブル13の接続またはキースイッチ17の操作によって、情報消去回路12から消去電流をリード/ライト機構11を構成するリード/ライト・ヘッドに一斉に流すことにより、磁気記憶媒体10に書き込まれた情報を確実に消去することができ、外部に持ち出された磁気記憶装置の磁気記憶媒体の情報がリードされて、その情報が漏洩されるようなことが全く無くなる。
【0008】
【実施例】以下、この発明の実施例を図1および図2にしたがって説明する。図1はこの発明の磁気記憶装置の第一実施例の概要図であり、9は磁気記憶装置で、このケース9aには次ぎのような各部材が取り付けられている。すなわち、10は磁気ディスクのような磁気記録媒体、11はこの磁気記憶媒体10へ情報のリード/ライトを行うリード/ライト機構11であり、磁気記憶媒体10が磁気ディスクの場合には、図示しないが、ヘッドアームの先端部に取り付けられたリード/ライト・ヘッドと、このヘッドアームの基端部が取り付けられた回動可能なキャリッジなどで構成されており、このキャリッジはリード/ライト時にボイスコイルモータによって回動されるようになっている。12は情報消去回路、13は情報消去回路12に接続されたコネクタ14とリード/ライト機構11に接続されたコネクタ15とに接続するケーブルであり、このケーブル13を管理者がコネクタ14,15間に接続すると、情報消去回路12からの消去電流(たとえば直流電流)がリード/ライト機構11を構成する図示しないリード/ライト・ヘッドに一斉に流れ、磁気記憶媒体10に書き込まれた情報を確実に消去することができる。なお、16はこの磁気記憶装置9をコンピュータシステムに接続するためのコネクタである。」

上記記載事項及び図面を総合勘案し、磁気記憶装置についてみると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「磁気ディスクと、
磁気ディスクへ情報のリード/ライトを行うリード/ライト機構と、
情報消去回路と、
情報消去回路に接続されたコネクタと、
リード/ライト機構に接続されたコネクタと
を備え、
リード/ライト機構は、ヘッドアームの先端部に取り付けられたリード/ライト・ヘッドと、このヘッドアームの基端部が取り付けられた回動可能なキャリッジなどで構成されており、このキャリッジはリード/ライト時にボイスコイルモータによって回動されるようになっており、
情報消去回路に接続されたコネクタとリード/ライト機構に接続されたコネクタとの間にケーブルを接続すると、情報消去回路からの消去電流(たとえば直流電流)がリード/ライト機構を構成するリード/ライト・ヘッドに一斉に流れ、磁気ディスクに書き込まれた情報を確実に消去することができる
磁気記憶装置。」

4.対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「磁気ディスク」は、技術常識を参酌するに、記憶面を有するから、本願補正発明の「記憶面を有する記憶媒体」に相当する。

(2)本願補正発明の「記憶媒体を破壊する」は、本願の明細書及び図面からみて、記憶媒体のデータを破壊して、データを読み込み不能にすることを意味するものである。
すると、引用発明の「磁気ディスクに書き込まれた情報を確実に消去する」は、本願補正発明の「記憶媒体を破壊する」に相当する。

(3)引用発明の
「情報消去回路に接続されたコネクタと、
リード/ライト機構に接続されたコネクタ」
及び「ケーブル」は、
「情報消去回路に接続されたコネクタとリード/ライト機構に接続されたコネクタとの間にケーブルを接続すると、情報消去回路からの消去電流(たとえば直流電流)がリード/ライト機構を構成するリード/ライト・ヘッドに一斉に流れ、磁気ディスクに書き込まれた情報を確実に消去することができる」
からみて、本願補正発明の「前記記憶媒体を破壊することを指示する指示部」に相当する。

(4)引用発明の「リード/ライト・ヘッド」は、技術常識を参酌するに、磁気ディスクのリード/ライトを電流が電流の許容値未満で供給されることで行うから、本願補正発明の「前記記憶媒体に対して少なくとも情報の読み込みまたは書き込みの何れかを電流が電流の許容値未満で供給されることで行うヘッド」に相当する。

(5)引用発明の「ヘッドアームの先端部」は、「ヘッドアームの先端部に取り付けられたリード/ライト・ヘッド」からみて、本願補正発明の「前記記憶媒体に対して少なくとも情報の読み込みまたは書き込みの何れかを電流が電流の許容値未満で供給されることで行うヘッドを含むヘッド部」を備えている。

(6)引用発明の「キャリッジ」は、「ヘッドアームの基端部が取り付けられた回動可能なキャリッジ」、「ヘッドアームの先端部に取り付けられたリード/ライト・ヘッド」及び「このキャリッジはリード/ライト時にボイスコイルモータによって回動される」からみて、本願補正発明の「前記ヘッド部を前記記憶媒体における記憶面」「に沿って移動させる移動部」に相当する。

(7)引用発明の「情報消去回路」は、「情報消去回路に接続されたコネクタとリード/ライト機構に接続されたコネクタとの間にケーブルを接続すると、情報消去回路からの消去電流(たとえば直流電流)がリード/ライト機構を構成するリード/ライト・ヘッドに一斉に流れ」からみて、本願補正発明の「前記ヘッド部のヘッドへの電流を制御する電流制御部」を備えている。

(8)引用発明の「情報消去回路に接続されたコネクタとリード/ライト機構に接続されたコネクタとの間にケーブルを接続すると」は、「情報消去回路に接続されたコネクタとリード/ライト機構に接続されたコネクタとの間にケーブルを接続すると、情報消去回路からの消去電流(たとえば直流電流)がリード/ライト機構を構成するリード/ライト・ヘッドに一斉に流れ、磁気ディスクに書き込まれた情報を確実に消去することができる」からみて、本願補正発明の「前記指示部が前記記憶媒体を破壊することを指示した場合」に相当する。

(9)引用発明の「情報消去回路に接続されたコネクタとリード/ライト機構に接続されたコネクタとの間にケーブルを接続すると、情報消去回路からの消去電流(たとえば直流電流)がリード/ライト機構を構成するリード/ライト・ヘッドに一斉に流れ」は、本願補正発明の「前記指示部が前記記憶媒体を破壊することを指示した場合、前記電流制御部は」「電流を」「前記ヘッド部の前記ヘッドに供給する」に相当する。

(10)引用発明の「磁気記憶装置」は、本願補正発明の「記憶装置」に相当する。

したがって、本願補正発明と引用発明との<一致点>及び<相違点>は、次のとおりである。

<一致点>
「記憶面を有する記憶媒体と、
前記記憶媒体を破壊することを指示する指示部と、
前記記憶媒体に対して少なくとも情報の読み込みまたは書き込みの何れかを電流が電流の許容値未満で供給されることで行うヘッドを含むヘッド部と、
前記ヘッド部を前記記憶媒体における記憶面に沿って移動させる移動部と、
前記ヘッド部のヘッドへの電流を制御する電流制御部を有し、
前記指示部が前記記憶媒体を破壊することを指示した場合、前記電流制御部は、電流を前記ヘッド部の前記ヘッドに供給する、記憶装置。」

<相違点>
(相違点1)
移動部につき、本願補正発明は、ヘッド部を記憶媒体における記憶面「の全体」に沿って移動させるとの特定を有するのに対し、引用発明は、そのような特定を有しない点。

(相違点2)
指示部が記憶媒体を破壊することを指示した場合のヘッド部につき、本願補正発明は、「前記記憶面の全体に沿って移動する」との特定を有するのに対し、引用発明は、そのような特定を有しない点。

(相違点3)
指示部が記憶媒体を破壊することを指示した場合のヘッドに供給する電流につき、本願補正発明は、「前記記憶媒体に対する情報の書き込み時における前記ヘッドに供給する前記電流の許容値以上の」電流との特定を有するのに対し、引用発明は、そのような特定を有しない点。

5.当審の判断
(1)相違点1及び2について
引用発明は、引用例の段落【0005】からみて、磁気記憶装置を外部に持ち出すような場合には、これを外部に持ち出す前に磁気記憶装置の磁気ディスクに書き込まれた情報を確実に消去して、情報の漏洩を防止することを目的とするものである。
一方、情報の漏洩を防止するべく上書きによりハードディスクのデータを完璧に消去する際に、ハードディスク全体に対してデータの消去を行うことは周知技術(例えば、
PC Japan、ソフトバンクパブリッシング株式会社、第7巻、第4号、2002年4月1日、第72,73頁(特に、第73頁第3第6行目?第4欄第4行目の「ハードディスク上のデータを完壁に消去するには,「NecroFile」や「Persephone」というツールを利用するとよい(図7)。これらのツールは,ハードディスクの全セクタに対して「0」や「1」のデータを書き込むことで,元のデータを読み取れないようにする。」)、
茂木龍太、「知らないとコワい データ抹消法」、日経パソコン、日経BP社、2001年2月19日、第379号、第190?195頁(特に、第191頁下図の「抹消ソフトでハードディスクを完全消去」、「パシフィックネットの「PCホワイト」。フロッピーディスクから起動して、指示に従ってキーを押していくだけで、パーティションに関係なくハードディスクを隅から隅まで、無意味なデータ(このソフトでは16進数の「F6」)で埋めていく」)参照)である。
ここで、上記周知技術においては、ハードディスク全体に対して上書きを行うから、ヘッドをハードディスクにおける記憶面の全体に沿って移動させることは明らかである。
すると、引用発明において、磁気ディスクに書き込まれた情報を確実に消去する際に、データを完璧に消去するために周知技術のハードディスク全体に対してデータの消去を行う点を採用することにより、リード/ライト・ヘッドが取り付けられたヘッドアームの先端部をディスクにおける記憶面の全体に沿ってキャリッジにより移動させながら消去を行い、本願補正発明のヘッド部を記憶媒体における記憶面「の全体」に沿って移動させる移動部、及び、指示部が記憶媒体を破壊することを指示した場合「前記記憶面の全体に沿って移動する」ヘッド部とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(2)相違点3について
引用発明の「情報消去回路からの消去電流(たとえば直流電流)」は、「情報消去回路に接続されたコネクタとリード/ライト機構に接続されたコネクタとの間にケーブルを接続すると、情報消去回路からの消去電流(たとえば直流電流)がリード/ライト機構を構成するリード/ライト・ヘッドに一斉に流れ」からみて、通常のライト時(情報消去回路に接続されたコネクタとリード/ライト機構に接続されたコネクタとの間にケーブルを接続していないとき)には使用されない電流であるから、通常のライトにおいてヘッドに供給する電流とは独立したものである。
そして、引用発明においても、通常のライト時には、ヘッドの適正な動作、データの確実な書き込み等を保証するために、ヘッドに供給される電流に何らかの許容値が存在するのは自明と解されるところ、消去電流は、「磁気ディスクに書き込まれた情報を確実に消去する」ためのものであって、通常、大きい方がより確実な消去が期待できることが明らかであるとともに、逆に消去電流を「前記許容値より小さい」ものとすべき理由が見当たらないことからすると、前記消去電流を、通常のライトにおいてヘッドに供給する許容値以上の電流(本願補正発明の「前記記憶媒体に対する情報の書き込み時における前記ヘッドに供給する前記電流の許容値以上の」電流に相当する)とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(3)効果について
本願補正発明の効果は、引用発明及び周知技術から当業者が十分に予測可能なものであって、格別顕著なものがあるとはいえない。

(4)本願補正発明の容易想到性についてのむすび
したがって、本願補正発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

6.補正却下についてのむすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
1.本願発明
平成21年3月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成20年12月1日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2[理由] 1.本件補正 (a)」に本件補正前の請求項1として記載したとおりである。

2.引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、引用例の記載事項、及び引用発明は、前記「第2[理由] 3.引用発明」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2[理由]」で検討した本願補正発明に対して、「前記ヘッド部を前記記憶媒体における記憶面の全体に沿って移動させる移動部」を「前記ヘッド部を前記記憶媒体における記憶面に沿って移動させる移動部」と拡張するとともに、「前記記憶面の全体に沿って移動する前記ヘッド部の前記ヘッド」を「前記ヘッド」と拡張したものに相当する。
そうすると、本願発明の特定事項をすべて含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2[理由] 5.当審の判断」に記載したとおり、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-18 
結審通知日 2011-03-22 
審決日 2011-04-05 
出願番号 特願2004-569914(P2004-569914)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
P 1 8・ 575- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橘 均憲  
特許庁審判長 山田 洋一
特許庁審判官 早川 学
関谷 隆一
発明の名称 記憶装置、および記憶媒体破壊プログラム  
代理人 遠山 勉  
代理人 高田 大輔  
代理人 松倉 秀実  
代理人 平川 明  

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