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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02M |
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管理番号 | 1248314 |
審判番号 | 不服2010-6637 |
総通号数 | 146 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-02-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-03-30 |
確定日 | 2011-07-28 |
事件の表示 | 特願2001-561907「排気ガス再循環バルブの制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 8月30日国際公開、WO01/63114〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、2000年2月25日を国際出願日とする出願であって、平成21年5月15日付け拒絶理由通知に対し、同年7月17日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年9月25日付け拒絶理由通知に対し、同年11月27日付けで意見書が提出されたが、平成22年1月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 2.本願発明 本願の請求項1及び2に係る発明は、平成21年7月17日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 制御弁の開方向または閉方向の一方向にリターントルクを付与する付勢手段と、 制御弁の開方向または閉方向にモータトルクを付与する直流モータとを有し、この両トルクのトルクバランスにより開閉される排気ガス再循環バルブの制御装置において、 前記制御弁の目標開閉位置に対応する入力データと該制御弁の現開閉位置の検出データとの偏差を入力とするPI制御量演算部と、 このPI制御量演算部の出力量からヒステリシス補正量を求めるヒステリシス補正部と、 前記PI制御量演算部の出力量と前記ヒステリシス補正量との加算結果を受けて前記直流モータに供給する電圧に変換するモータ駆動電圧変換部 とを備えたことを特徴とする排気ガス再循環バルブの制御装置。」 3.引用刊行物の記載事項 (1)原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である、特開平11-159405号公報(以下、「刊行物」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。 (ア)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、排気ガスの再循環系中に備わるEGR(Exhaust GasRecirculation)バルブの制御装置に関するものである。」(第2ページ第2欄第21ないし25行) (イ)「【0020】B.「駆動方式」 このように構成されたEGRバルブは、いわゆるトルクバランス方式により駆動される。 【0021】すなわち、EGRバルブに対し、付勢手段としてのコイルスプリング19によってバルブ11の閉動方向に所定のリターントルクを付与し、かつ直流モータ20の一方向の通電によってバルブ11の開動方向に可変のモータトルクを付与し、それらのトルクバランスによりバルブ11が開閉制御される。モータトルクは、ロータ21の回転量に応じて上下動するモータシャフト31がバルブシャフト14を下方に押すことによって、バルブ11に伝達される。」(第4ページ第6欄第3ないし14行) (ウ)「【0023】このような構成のEGRバルブの作動特性は、図4のようのヒステリシスをもつことになる。図4中の横軸は直流モータ20の駆動デューティー、縦軸は、ロータ21の回動位置に対応するポジションセンサ40のセンサ出力値(電圧)である。・・・(中略)・・・ 【0024】また、図4中のラインA、A′、B、B′、C、C′、D、D′、E、E′上の制御エリアにおけるEGRバルブの動作は次のとおりである。 【0025】(ラインA上の制御エリア)渦巻きばね32のセットトルクのため、ロータ21は動かない。このとき、ロータ21は、渦巻きばね32のセットトルクによって一方の回動限位置に止められており、モータシャフト31とバルブシャフト14との間には所定の遊びSが形成されている。 【0026】(ラインB上の制御エリア)P1時点からモータトルクが渦巻きばね32のセットトルクを上回り、ロータ21が回動し、それに伴ってモータシャフト31が下動する。 【0027】(ラインC上の制御エリア)P2時点からモータシャフト31がバルブシャフト14に突き当たるものの、コイルスプリング19のリターントルクのためにロータ21の回動が止められる。 【0028】(ラインD上の制御エリア)P3時点からモータトルクがコイルスプリング19のリターントルクを上回り、ロータ21が回動し、それに伴ってモータシャフト31が下動する。このラインD上にて、バルブ11が開動制御されることになる。 【0029】(ラインE上の制御エリア)P4時点からロータ21の他方向の回動がストッパー(ストッパープレート31、ストッパー部2A)により規制され、モータトルクが増大してもロータ21は回動しない。 【0030】(ラインE′上の制御エリア)ロータ軸受部(ベアリング26、27の部分など)、ブラシ29、ポジションセンサ40などの接触部にフリクションがあるため、モータトルクを減少させてもロータ21は戻らない。 【0031】(ラインD′、C′、B′、A′上の制御エリア)ラインD、C、B、Aをフリクション分スライドさせたかたちとして現れる。ラインD′上にて、バルブ11が閉動制御されることになる。 【0032】バルブ11の開閉動作時のラインD、D′は、コイルスプリング19のばね定数により傾きKが変化し、そのセットトルクの大きさにより図4中の左右にシフトする。」(第4ページ第6欄第37行ないし第5ページ第7欄第37行) (エ)「【0036】図3は、制御部50によって構成される制御系を説明するための概略のブロック図である。 【0037】図3において61は、運転状態量センサ57の検出信号に基づいてEGRバルブの最適な開閉位置を求めるための目標位置演算部であり、目標位置に対応する電圧(以下、「目標値」という)を出力する。この演算部61には、変更目標位置設定手段61Aと変更手段61Bが備えられており、これらによって、EGRバルブを閉成(全閉)させるときの目標値が後述するように変更される。62は、ポジションセンサ40の検出信号をA/D変換する変換部であり、EGRバルブの現在の開閉位置に対応する電圧(以下、「現在値」という)を出力する。これらの目標値と現在値の偏差に基づいて、PID制御量演算部63が比例成分(P成分)、積分成分(I成分)、微分成分(D成分)を合わせたPID制御量(電圧)を演算して出力する。そのPID制御量は、駆動デューティー演算部64によって直流モータ20の駆動デューティー(PID制御用駆動デューティー)に変換される。その演算部64は、前述した図4のリターントルクによる作動特性の傾きKを考慮して{(PID制御量)/K}の補正を加え、リターントルクによる作動特性の影響を小さくする。」(第5ページ第8欄第13ないし34行) (オ)「【0040】65はオープンループ制御部であり、前述した図4中のラインD、D′のようなセンサ出力値(目標値)と駆動デューティーとの関係から、目標値に対応する直流モータ20の駆動デューティーを演算して出力する。本例の制御部65は、直流モータ20の回動方向つまりバルブ11の開閉方向を検知する開動方向検知部66の検知方向に応じて、異なる駆動デューティーを演算して出力する。すなわち、バルブ11が開動するときは、前述した図4中のラインDの関係から目標値に対応する駆動デューティーを算出し、一方、バルブ11が閉動するときは、図4中のラインD′の関係から目標値に対応する駆動デューティーを算出する。検知部66は、現在値と、それよりも一時刻前の現在値とを比較し、それらの差がプラスであるかマイナスであるかによって、直流モータ20の回動方向を検知する。このようにして、現在値に応じて直流モータ20を制御するオープンループ制御系が構成されている。 【0041】フィードバック制御系とオープンループ制御系のそれぞれからの駆動デューティーは加算されて、モータ駆動デューティーとして出力される。したがって、オープンループ制御系によって、リターントルク分のモータトルク発生用の駆動電圧がバルブ11の開閉方向に応じて常に加えられ、それによる現在値と目標値との偏差分(オープンループ制御の過不足分)を補うように、フィードバック制御系がPID制御することになる。この結果、バルブ11の開閉方向の如何に拘わらずフィードバック制御量を比較的小さくして、振動の発生を抑制できることになる。 【0042】D.「制御動作」 図5は、制御部50の動作を説明するためのフローチャートである。 【0043】まず、目標値と現在値を読み込み(ステップS1)、その目標値がEGRバルブを閉成(全閉)させるときの目標値(以下、「バルブ閉成用目標値」という)でないことを条件として、それらの偏差を求める(ステップS2、S3)。・・・(中略)・・・ 【0044】ステップS3にて求められた偏差が許容範囲L内に収まっていないときは、その偏差に基づいて演算部63がPID制御量を演算する(ステップS5、S6)。そして、そのPID制御量をデューティー演算部64がPID制御用駆動デューティーに変換する(ステップS8)。また、オープンループ制御系においては、検知部66が直流モータ20の開動方向を検知し(ステップS9)、その検知方向に応じて、制御部65が開動時のオフセット制御用駆動デューティーまたは閉動時のオフセット制御用駆動デューティーを算出する(ステップS10、S11)。そして、PID制御用駆動デューティーとオフセット制御用駆動デューティーとを加算してモータ駆動デューティーとし(ステップS12)、現在値が後述する変更目標値SA以上であることを条件として、そのモータ駆動デューティーによって直流モータ20を駆動する(ステップS13、S14)。現在値が変更目標値SAよりも小さくなったときは、後述するように駆動デューティーを“0”とする(ステップS13、S15)。」(第6ページ第9欄第6行ないし第10欄第17行) (2)ここで、上記(1)の(ア)ないし(オ)及び図面の記載からみて、次のことが分かる。 (カ)上記記載事項(エ)の「これらの目標値と現在値の偏差に基づいて、PID制御量演算部63が比例成分(P成分)、積分成分(I成分)、微分成分(D成分)を合わせたPID制御量(電圧)を演算して出力する。」との記載によれば、PID制御量演算部は、「バルブ11の目標位置に対応する電圧と該バルブ11の現在の開閉位置に対応する電圧との偏差を入力とする」ものであるといえる。 (キ)上記記載事項(ウ)及び(オ)によれば、オープンループ制御系は、図4に示されたEGRバルブのヒステリシス特性に対応した駆動デューティー(オフセット制御用駆動デューティー)を演算して出力するものであることから、このオープンループ制御系は、「ヒステリシス補正量を求め」ているといえる。 (3)上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物には、次の発明(以下、「刊行物に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。 「バルブ11の閉動方向にリターントルクを付与する付勢手段と、 バルブ11の開動方向にモータトルクを付与する直流モータとを有し、それらのトルクバランスにより開閉制御されるEGRバルブの制御装置において、 前記バルブ11の目標位置に対応する電圧と該バルブ11の現在の開閉位置に対応する電圧との偏差を入力とするPID制御量演算部と、 ヒステリシス補正量を求めるオープンループ制御系と、 前記PID制御量演算部から出力されるPID制御量を前記直流モータの駆動デューティー(PID制御用駆動デューティー)に変換する駆動デューティー演算部 とを備え、前記PID制御用駆動デューティーと前記オープンループ制御系から出力されるオフセット制御用駆動デューティーとを加算しモータ駆動デューティーとして出力するEGRバルブの制御装置。」 4.対比・判断 本願発明と刊行物に記載された発明とを対比すると、その構造または技術的意義からみて、刊行物に記載された発明における「バルブ11」は、本願発明における「制御弁」に相当し、以下同様に、「閉動方向」は「開方向または閉方向の一方向」に、「開動方向」は「開方向または閉方向」に、「それらの」は「この両トルクの」に、「開閉制御」は「開閉」に、「EGRバルブ」は「排気ガス再循環バルブ」に、「目標位置に対応する電圧」は「目標開閉位置に対応する入力データ」に、「現在の開閉位置に対応する電圧」は「現開閉位置の検出データ」に、「オープンループ制御系」は「ヒステリシス補正部」に、それぞれ相当する。 また、刊行物に記載された発明における「PID制御量演算部」は、本願発明における「PI制御量演算部」と、「制御量演算部」という限りにおいて相当する。 さらに、刊行物に記載された発明における「PID制御量演算部から出力されるPID制御量を直流モータの駆動デューティー(PID制御用駆動デューティー)に変換する駆動デューティー演算部」は、本願発明における「PI制御量演算部の出力量とヒステリシス補正量との加算結果を受けて直流モータに供給する電圧に変換するモータ駆動電圧変換部」と、「制御量を直流モータに供給する電圧に変換するモータ駆動電圧変換部」という限りにおいて相当する。 したがって、本願発明と刊行物に記載された発明とは、 「制御弁の開方向または閉方向の一方向にリターントルクを付与する付勢手段と、 制御弁の開方向または閉方向にモータトルクを付与する直流モータとを有し、この両トルクのトルクバランスにより開閉される排気ガス再循環バルブの制御装置において、 前記制御弁の目標開閉位置に対応する入力データと該制御弁の現開閉位置の検出データとの偏差を入力する制御量演算部と、 ヒステリシス補正量を求めるヒステリシス補正部と、 制御量を直流モータに供給する電圧に変換するモータ駆動電圧変換部 とを備えた排気ガス再循環バルブの制御装置。」 である点で一致し、次の2点で相違する。 [相違点1] 制御量演算部について、本願発明は「PI制御量演算部」であるのに対し、刊行物に記載された発明は「PID制御量演算部」である点(以下、「相違点1」という。)。 [相違点2] 本願発明は、ヒステリシス補正部が「制御量演算部の出力量からヒステリシス補正量を求め」るものであり、モータ駆動電圧変換部が「前記制御量演算部の出力量と前記ヒステリシス補正量との加算結果を受けて直流モータに供給する電圧に変換する」ものであるのに対し、刊行物に記載された発明は、ヒステリシス補正部が、制御量演算部の出力量からヒステリシス補正量を求めるものではなく、また、モータ駆動電圧変換部が、制御量演算部の出力量をモータに供給する電圧(PID制御用駆動デューティー)に変換するものであり、変換されたPID制御用駆動デューティーとオープンループ制御系から出力されるオフセット制御用駆動デューティーとを加算する点(以下、「相違点2」という。)。 上記各相違点について検討する。 [相違点1について] フィードバック制御によって制御量を演算する方法として、PI制御及びPID制御は、本願出願前において周知であり(例えば、特開平11-351033号公報(特に、段落【0014】及び【0030】)及び特開平10-89157号公報(特に、段落【0072】)参照)、PI制御あるいはPID制御のどちらを採用するかは当業者が適宜選択し得る設計的事項というべきであるので、刊行物に記載された発明における「制御量演算部」を、相違点1に係る本願発明の発明特定事項のように「PI制御量演算部」とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 [相違点2について] ヒステリシス補正を行う制御装置において、「制御量演算部の出力量からヒステリシス補正量を求める」ことは、本願出願前に周知の技術(例えば、特開平3-12704号公報及び実願昭58-81270号(実開昭59-187804号)のマイクロフィルム参照。以下、「周知技術」という。)である。 また、本願発明及び刊行物に記載された発明は、両者ともに、制御量演算部の出力量とヒステリシス補正量という2つの制御量を加算した結果により直流モータを駆動するものであって、そのための駆動デューティーを出力するにあたり、2つの制御量を加算してから駆動デューティーに変換するのか、2つの制御量を駆動デューティーに変換した後に加算するのかは、当業者が適宜選択し得る設計的事項というべきである。 そうすると、刊行物に記載された発明において、相違点2に係る本願発明の発明特定事項のように、ヒステリシス補正部が「制御量演算部の出力量からヒステリシス補正量を求め」るものとし、モータ駆動電圧変換部を「制御量演算部の出力量とヒステリシス補正量との加算結果を受けて直流モータに供給する電圧に変換する」ものとすることは当業者が容易に想到し得ることである。 そして、本願発明による効果も、刊行物に記載された発明及び周知技術から当業者が容易に予測し得るものであって、格別なものとはいえない。 したがって、本願発明は、刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。 5.むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-05-26 |
結審通知日 | 2011-05-31 |
審決日 | 2011-06-15 |
出願番号 | 特願2001-561907(P2001-561907) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F02M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 石黒 雄一 |
特許庁審判長 |
小谷 一郎 |
特許庁審判官 |
柳田 利夫 安井 寿儀 |
発明の名称 | 排気ガス再循環バルブの制御装置 |
代理人 | 濱田 初音 |
代理人 | 田澤 英昭 |