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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16L
管理番号 1248386
審判番号 不服2010-22316  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-04 
確定日 2011-09-22 
事件の表示 特願2009-548255「ねじ継ぎ手製品の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年10月 8日国際公開、WO2009/123034〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成21年3月27日(優先権主張平成20年3月31日、日本国)を国際出願日とする特許出願であって、同21年12月25日付けで拒絶の理由が通知され、同22年3月1日に意見書とともに特許請求の範囲及び明細書について手続補正書が提出され、同22年3月24日付けでさらに拒絶の理由が通知され、同22年5月31日に意見書が提出されたが、同22年6月28日付けで拒絶をすべき旨の査定がされた。これに対し、平成22年10月4日に本件審判の請求がされ、同23年5月12日付けで当審から拒絶の理由が通知され、同23年7月14日に意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本件出願の請求項1ないし3に係る発明は、平成22年3月1日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、その請求項1の記載は以下のとおりである。
「【請求項1】
外削前の鋼管のねじ切り部の表面にショットブラストによる脱スケールを実施した後、ねじ切り部の表面を外削し、さらに、ねじ加工を施すことを特徴とするねじ継ぎ手製品の製造方法。」(以下請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

第3 引用刊行物記載の発明
これに対して、当審での平成23年5月12日付けの拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開平9-57535号公報(以下「刊行物1」という。)、特開2005-320606号公報(以下「刊行物2」という。)には、以下の発明、あるいは事項が記載されている。

1 刊行物1
刊行物1には、「鋼管のねじ切り方法」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ア 段落【0001】?【0002】
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、油井管等の管端に、高精度なねじを形成するための方法に関する。
【0002】
【従来の技術】油井管の管端に形成されるねじ、特に特殊ねじは、継手による管相互の接続が確実で、かつ接続部が完全にシールされることが必要である。図2は、このような油井管の継手部を示す説明図であり、・・・(後略)」

イ 段落【0025】?【0026】
「【0025】(前略)・・・図1(g)に示すように、外面加工チップ11によって、鋼管1の端部外面に、第一の外削部14aとこれに続く第二の傾斜外削部14bとからなる外削部14が、鋼管1の半径方向および管軸方向に工具位置を制御可能なNC面取り機により形成される。
【0026】次いで、上述した面取り機によって予備面取り加工、内面取り加工および外削加工が施された鋼管1を、固定された鋼管の中心軸の回りに工具が回転するように構成されたねじ切り機に送り込む。・・・(後略)」

ウ 段落【0027】?【0029】
「【0027】ねじ切り機は、図1(h)に示すように、回転する切削工具として、シール加工チップ15とチェザー16を有している。そして、シール加工チップ15によって、鋼管1端面の予備面取り加工部12に対する精密加工が施される。
【0028】次いで、第一の外削部14aに対する精密なシール加工および傾斜外削加工が施される。このような加工をとおして、鋼管1にシールのための端面1a、球面部1bが形成される。
【0029】次いで、図1(i)に示すように、面取り機による外面テーパー加工により、余肉が残っていない外面テーパー部に、チェザー16によりねじ切り加工がほぼ同時に施され、鋼管1の端部外面に精密なテーパー雄ねじ17が形成される。」

上記摘記事項ア及びウより、鋼管1にテーパー雄ねじ17が形成されて油井管の継手部となるところ、これは、ねじ継手部を有する油井管、ということができる。
そこで、刊行物1の摘記事項アないしウを、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて本願発明に照らして整理すると、刊行物1には以下の発明が記載されていると認める。
「鋼管のねじ切り部の外面を外削し、さらに、ねじ切り加工を施す、ねじ継手部を有する油井管の製造方法。」(以下「刊行物1発明」という。)

2 刊行物2
刊行物2には、鋳鋼品の製造方法に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

エ 特許請求の範囲の請求項7
「【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のオーステナイト系鋳鋼品の製造方法であって、鋳造後、均質化熱処理を施し、その後、ショットブラスト処理を施すことにより前記スケール除去面を形成することを特徴とするオーステナイト系鋳鋼品の製造方法。」

オ 段落【0008】?【0009】
「【0008】
通常、鋳鋼品の製造工程は、鋳造、均質化熱処理を経て、製品の切削加工が行われる。また、鋳造後には砂落しのためのショットブラスト処理が、均質加熱処理後には熱処理で発生した酸化スケールを除去するためのショットブラスト処理が、それぞれ行われる。
「ショットブラスト処理」とは、被処理面に対して鋼等からなる小粒子等の投射材多数を高速度で投射することにより、被処理面を加工して一定の粗面にする表面処理法である。
しかしながら、スケール除去のためのショットブラスト処理を、例えば、砂落しのためのショットブラスト処理と同等の条件で行った場合等には、表層に厚い加工硬化層が形成されてしまい、これにより切削加工が困難となる。
【0009】
そこで、本発明者は、スケール除去のためのショットブラスト処理を、加工硬化層がほぼ形成されないように、通常よりも弱いもの(例えば、砂落しのショットブラスト処理よりも弱いもの)で、且つ、酸化スケールを除去可能な必要最小限な程度で行うことで、酸化スケールが除去された面(スケール除去面)において「表層硬さが350HV以下」及び/又は「加工硬化層の厚さが0.05mm以下(0を含む)」が達成され、鋳鋼品の被削性が良好になるとの知見を得た。」

上記摘記事項エ及びオを技術常識を踏まえ整理すると、刊行物2には以下の事項が記載されていると認める。
「ショットブラスト処理を酸化スケールを除去可能な必要最小限な程度で行うことで、加工硬化層が形成されて切削加工が困難になることを抑制すること。」

第4 対比
本願発明と刊行物1発明とを対比すると以下のとおりである。
刊行物1発明の「外面」が本願発明の「表面」に相当することは、明らかであり、以下同様に、「ねじ切り加工」は「ねじ加工」に、「ねじ継手部を有する油井管」は「ねじ継ぎ手製品」にそれぞれ相当することも明らかである。

したがって、本願発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「ねじ切り部の表面を外削し、さらに、ねじ加工を施す、ねじ継ぎ手製品の製造方法。」

そして、本願発明と刊行物1発明とは、以下の点で相違している。
<相違点>
本願発明は、外削前の鋼管のねじ切り部の表面にショットブラストによる脱スケールを実施するのに対し、刊行物1発明は、外削前の鋼管のねじ切り部の表面にそのような処理を行っているか不明である点。

第5 相違点の検討
1 相違点について
まず、刊行物1発明のようなねじ継手部を有する油井管の製造方法において、ショットブラスト等による脱スケールを実施する必要性があることは、例えば国際公開第00/70112号(第3ページ第2?第7行、第10ページ第1行?第5行参照、原査定の引用文献1)に示されるように、従来周知の事項である。

また、一般に金属加工において、付着した酸化スケールを次加工工程前にショットブラスト等により除去することも、例えば、特開平10-58013(段落【0028】等参照)、特開平5-177542号公報(段落【0001】?段落【0002】等参照)に示されるように、当業者によく知られている従来周知の事項である。

そして、刊行物1発明において、かかる周知事項を適用して、スケールが付着している油井管に、外削という次の加工工程前の鋼管のねじ切り部にショットブラストによる脱スケールを行うことを試みることは、一般的には、当業者が容易に行い得ることといえる。

もっとも、ショットブラストによる脱スケールに関連して、本件出願の明細書【0007】?【0008】段落に、
「【0007】
酸化スケールを除去する方法としては、ショットブラストなどの機械的除去手段が知られている。一般に広く知られているように、ショットブラストを行うと、ピーニング効果により鋼材の硬度が上昇する。このため、鋼管の外削前の処理としてショットブラストその他の機械的除去手段が採用されることはなかった。
【0008】
しかし、本発明者らの研究により、ピーニング効果による鋼管表面の硬度の上昇の影響は、硬質酸化スケールの除去による硬度低減効果に比較すると小さいことが判明した。そして、本発明者らは、外削前の鋼管のねじ切り部にショットブラストを実施することにより、外削工具の寿命を向上させ、ひいては、チェザーの寿命も向上させることができることを見出し、本発明を完成させた。」と記載されている。

すなわち、本願発明において「外削前の鋼管のねじ切り部の表面にショットブラストによる脱スケールを実施」しているのは、ショットブラストによって鋼材表面の硬度の上昇してしまう可能性というショットブラストを妨げる事情があることを認識しつつも、敢えて従来周知の次加工工程前のショットブラスト処理を行っているものと考えられる。

一方、上記第3の2にて指摘したように、刊行物2には、「ショットブラスト処理を酸化スケールを除去可能な必要最小限な程度で行うことで、加工硬化層が形成されて切削加工が困難になることを抑制すること」が記載されえいるところ、これを本願発明の用語を用いて表現すれば、刊行物2記載の「ショットブラスト処理」、「酸化スケールを除去」及び「切削加工」は、それぞれ本願発明の「ショットブラスト」、「脱スケール」及び「外削」に相当するから、刊行物2には、ショットブラストを脱スケール可能な必要最小限な程度で行うことで、加工硬化層が形成されて外削が困難になることを抑制すること、が記載されているといえる。

そうしてみると、刊行物1発明において、外削前の鋼管のねじ切り部にショットブラストによる脱スケールを行うことを試みることを妨げる事情、すなわち、鋼材表面の硬度の上昇を当業者が認識するとしても、ショットブラストを脱スケール可能な必要最小限な程度で行い加工硬化層が形成されて外削が困難になることを抑制するという刊行物2記載の事項に接した場合、従来周知の次加工工程前のショットブラスト処理を適用して、多少硬化層が形成されることを厭わず敢えて外削前の鋼管のねじ切り部にショットブラストによる脱スケールを行うことを試みる程度のことは、当業者が容易に想到し得ることと解するのが相当である。

よって、刊行物2記載の事項及び従来周知の事項を刊行物1発明に適用して、相違点に係る発明特定事項を本願発明のものとすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

2 本願発明の効果について
本願発明によって、「ピーニング効果による鋼管表面の硬度の上昇の影響は、硬質酸化スケールの除去による硬度低減効果に比較すると小さ」く「外削工具の寿命を向上させ、ひいては、チェザーの寿命も向上させることができる」という効果が得られるとしても、それは刊行物1発明、刊行物2に記載された事項及び上記従来周知の事項から、予測できない格別顕著なものということはできない。

3 したがって、本願発明は、刊行物1発明、刊行物2に記載された事項及び上記従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1発明、刊行物2に記載された事項及び従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることがないものである。
したがって、本願は、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-25 
結審通知日 2011-07-26 
審決日 2011-08-09 
出願番号 特願2009-548255(P2009-548255)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西村 泰英  
特許庁審判長 豊原 邦雄
特許庁審判官 藤井 眞吾
長屋 陽二郎
発明の名称 ねじ継ぎ手製品の製造方法  
代理人 千原 清誠  
代理人 杉岡 幹二  

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