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審決分類 |
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C12N 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N |
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管理番号 | 1248492 |
審判番号 | 不服2008-24858 |
総通号数 | 146 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-02-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-09-29 |
確定日 | 2011-11-24 |
事件の表示 | 平成10年特許願第550153号「核酸結合ポリペプチドライブラリー」拒絶査定不服審判事件〔平成10年11月26日国際公開、WO98/53057、平成14年 1月22日国内公表、特表2002-502238〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続きの経緯 本願は,1998年5月26日(パリ条約による優先権主張1997年5月23日,英国)を国際出願日とする出願であって,平成19年8月6日付けで手続補正がなされたが,平成20年6月23日付で拒絶査定がなされ,これに対して平成20年9月29日に審判請求がなされるとともに,平成20年10月29日に手続補正がなされたものである。 第2 平成20年10月29日の手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成20年10月29日の手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正により,請求項1は, 「複数のジンクフィンガーポリペプチドをコードしている核酸ライブラリーであって,各々のポリペプチドは3つのジンクフィンガーをコードし,無作為化の範囲が第1のジンクフィンガーにおいて位置-1,1,2,3,5および6をカバーし,第2のC末端ジンクフィンガーにおいて位置-1,1,2および3をカバーするように,各々のポリペプチドがすくなくとも部分的に無作為化されている,核酸ライブラリー。」 から, 「複数のジンクフィンガーポリペプチドをコードしている核酸ライブラリーであって,各々のポリペプチドは3つのジンクフィンガーをコードし,無作為化の範囲が第1のジンクフィンガーにおいて位置-1,1,2,3,5および6をカバーし,第2のC末端ジンクフィンガーにおいて位置-1,1,2および3をカバーするように,各々のポリペプチドが無作為化されており,少なくとも2つのジンクフィンガーポリペプチドのαヘリックスの3,4,5または6アミノ酸残基が無作為化されている,核酸ライブラリー。」に補正された。 2.当審の判断 上記補正により加えられた,「少なくとも2つのジンクフィンガーポリペプチドのαヘリックスの3,4,5または6アミノ酸残基が無作為化されている」点についての本願の出願当初の明細書等の記載を検討する。 明細書8頁15?17行に,「有利なように,各ジンクフィンガーでより多数の位置を変えることができる。好ましくは,第1ジンクフィンガーでは位置-1,1,2,3,5および6から選択された残基がそして,第2ジンクフィンガーでは位置-1,1,2および3が改変される。」と記載され, 明細書9頁4?6行には,「好ましい実施様態では,3つのフィンガータンパク質の選択のための2つのライブラリー系は,第1ライブラリーにおいて,F1位置-1,1,2,3,5および6で改変され,F2位置-1,1,2および3で改変される。」と記載され, 表2及び実施例3には,第1ジンクフィンガーでは5アミノ酸残基が無作為化され,第2ジンクフィンガーでは4アミノ酸残基が無作為化されているものが記載されている。 これらの記載からすれば,第1のジンクフィンガーにおいては,5又は6アミノ酸残基が無作為化されているもの,及び第2のジンクフィンガーにおいては,4アミノ酸残基が無作為化されているものは記載されているものの,第1のジンクフィンガーにおいて,3又は4アミノ酸残基が無作為化されているもの,及び第2のジンクフィンガーにおいては,3,5又は6アミノ酸残基が無作為化されているものは記載されていない。また,どの位置のアミノ酸残基を何箇所無作為化するは,ライブラリーの有用性に大きく影響を与えるものと認められる。したがって,これらの事項が,明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であるとも認められない。 また,「少なくとも2つのジンクフィンガーポリペプチドのαヘリックスの3,4,5または6アミノ酸残基が無作為化されている」と,2つのジンクフィンガーの位置が,第1及び第2ジンクフィンガーと特定されていないのであるから,例えば,第2のジンクフィンガーでは,1又は2アミノ酸残基が無作為され,第1及び第3のジンクフィンガーでは,3,4,5または6アミノ酸残基が無作為化されているものをも意味することになるが,そのような事項は,出願当初の明細書に記載されていないし,上記と同様の理由により,そのすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であるとも認められない。 したがって,本件補正は,平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 また仮に,改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反しないとした場合について,念のために検討しておく。 本件補正は,補正前の請求項1の,「少なくとも部分的に無作為化されている」について,「少なくとも2つのジンクフィンガーポリペプチドのαヘリックスの3,4,5または6アミノ酸残基が無作為化されている」と限定するものであるので,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかどうか)について,以下に検討する。 (1)本願補正発明 本件補正後の前記請求項1には,「複数のジンクフィンガーポリペプチドをコードしている核酸ライブラリーであって,各々のポリペプチドは3つのジンクフィンガーをコードし,無作為化の範囲が第1のジンクフィンガーにおいて位置-1,1,2,3,5および6をカバーし,第2のC末端ジンクフィンガーにおいて位置-1,1,2および3をカバーするように,各々のポリペプチドが無作為化されており,少なくとも2つのジンクフィンガーポリペプチドのαヘリックスの3,4,5または6アミノ酸残基が無作為化されている,核酸ライブラリー。」と記載されている。 この記載において,カバーすると定められていない範囲の位置については,無作為化されていないとは定められていないので,無作為化されていても無作為化されていなくともよいものと解釈できる。このことは,「少なくとも2つのジンクフィンガーポリペプチドのαヘリックスの3,4,5または6アミノ酸残基が無作為化されている」と,第1及び第2のジンクフィンガーのみならず,第3のジンクフィンガーの無作為化も意図した記載から明らかであるし,また,同様に,カバーする無作為化の範囲を特定する請求項2を引用する請求項3において,請求項2においてカバーされていない無作為化の範囲である,第3のジンクフィンガーの位置5及び6において,無作為化されることが記載されていることからも明らかである。 また,該請求項1の記載からは,カバーすると定められた範囲の位置すべてが無作為化されることを意味しているか,その一部が無作為されているものも意味しているか,一見明らかでないが,「少なくとも2つのジンクフィンガーポリペプチドのαヘリックスの3,4,5または6アミノ酸残基が無作為化されている」ものであるから,位置-1,1,2,3,5および6がカバーされた第1のジンクフィンガーにおける無作為化の範囲の6アミノ酸残基のうち,その一部の3,4又は5アミノ酸残基のみが無作為化されたものも意味していることは明らかである。またこのことは,同様の記載のある請求項4を引用する請求項7を,さらに引用する請求項8において,位置-1,1,2,3,5及び6がカバーされた第1のジンクフィンガーにおける無作為化の範囲のうち,位置1において無作為化することが記載されていないことや,請求項1の核酸ライブラリーを引用して記載する請求項9において,-1,+2,+3などの位置が無作為化されていないものが記載されていることからも明らかである。 以上のことから,本願補正発明は,本件補正後の請求項1に記載されたものであるが,カバーすると定められていない範囲の位置については,無作為化されていても無作為化されていなくともよいものであり,また,カバーすると定められた範囲の位置の少なくとも一部が無作為化されているものを意味しているものと認められる。 なお,C末端ジンクフィンガーは,3つのジンクフィンガーの第3のジンクフィンガーがC末端になるのであるから,「C末端ジンクフィンガー」は「ジンクフィンガー」の誤記であり,また,核酸がポリペプチドをコードするのであるから,「各々のポリペプチドは3つのジンクフィンガーをコードし」の「ポリペプチド」は「核酸」の誤記と認められる。 (2)引用文献 本願優先日前に頒布された刊行物である国際特許公開第96/6166号(以下,平成19年1月25日付け拒絶理由通知の「先行技術文献調査結果の記録」の欄におけると同様に,「先行技術文献」という。)には, 請求の範囲2に,「複数のDNA配列のライブラリであって,その各配列がウイルス粒子上での提示のための亜鉛フィンガー結合ポリペプチドの少なくとも中央フィンガーにおける亜鉛フィンガー結合モチーフをコードし,該配列は,位置-1,+2,+3および+6においてアミノ酸がランダムに割当てられた結合モチーフをコードする,DNA配列のライブラリ。」と記載され, 「第1の局面で,本発明はDNA配列のライブラリを提供し,各々の配列はウィルス粒子上での提示(ディスプレイ)のために少なくとも1つの亜鉛フィンガー結合モチーフをコードし,該配列は,位置-1,+2,+3,+6,ならびに位置+1,+5および+8の少なくとも1つでアミノ酸がランダムに割当てられている亜鉛フィンガー結合モチーフをコードする。 亜鉛フィンガー結合モチーフは,当業者には周知の,亜鉛フィンガー結合タンパク質において見られるαヘリックス構造モチーフである。上記の番号付けでは,亜鉛フィンガー結合モチーフのαヘリックスにおける最初のアミノ酸が位置+1となっている。位置-1のアミノ酸残基は厳密に言えば亜鉛結合フィンガーモチーフのαヘリックスの一部を構成しないことは当業者には明らかであろう。しかしながら,-1の残基は機能的に大変重要であることがわかったので,本発明の目的のため結合モチーフαヘリックスの一部として考える。 配列は,位置+1,+5および+8のすべてにランダムな割当てを有する亜鉛フィンガー結合モチーフをコードし得る。また,該配列は他の位置(たとえば位置+9,ただしこの位置ではアルギニンまたはリシン残基を保持することが一般に好ましい)で無作為化(ランダム化)され得る。さらに,指定された「ランダム」な位置におけるアミノ酸の割当ては,純粋にランダムとすることができるが,それらの位置には疎水性残基(Phe,TrpまたはTyr)またはシステイン残基を避けることが好ましい。 亜鉛フィンガー結合モチーフは,(逆平行βシートを含む)亜鉛フィンガーを形成するように他のアミノ酸のコンテクスト内に存在する(亜鉛フィンガータンパク質に存在してもよい)ことが好ましい。さらに,亜鉛フィンガーは,好ましくは亜鉛フィンガーポリペプチドの一部として提示され,このポリペプチドは介在リンカーペプチドにより結合される複数の亜鉛フィンガーを含む。典型的には,配列のライブラリは,該亜鉛フィンガーポリペプチドが,アミノ酸配列が規定された(一般的には野性型配列の)2つまたはそれ以上の亜鉛フィンガーと,上記で規定された態様で無作為化された亜鉛フィンガー結合モチーフを有する1つの亜鉛フィンガーを含むようになっている。このポリペプチドの無作為化されたフィンガーは,規定された配列をもつ2つまたはそれ以上のフィンガーの間に位置することが好ましい。この規定された複数のフィンガーは,このポリペプチドのDNAに対する結合の「相」を成立させ,そのことによって無作為化されたフィンガーの結合特異性の増大を助ける。 好ましくはこれらの配列はZif268ポリペプチドの中央のフィンガーの無作為化された結合モチーフをコードする。これらの配列で好都合なのは,野性型Zif268における中央のフィンガーのアミノ酸N末端とC末端をもコードし,それぞれ第1および第3の亜鉛フィンガーをコードすることである。特定の具体例においては,配列はZif268ポリペプチドの全体をコードする。当業者であれば,ここでリンカーペプチドの配列および/または亜鉛フィンガーポリペプチドのβシートに対しても各種改変を行ない得る点が理解されるであろう。 さらなる局面において,本発明はDNA配列のライブラリを提供し,その各々の配列は,ウィルス粒子上での提示のための亜鉛フィンガー結合ポリペプチドの少なくとも中央のフィンガーの亜鉛フィンガー結合モチーフをコードし,これらの配列は,位置-1,+2,+3および+6にアミノ酸がランダムに割当てられる結合モチーフをコードする。亜鉛フィンガーポリペプチドはZif268であることが好都合である。」(5頁2行?6頁14行)と記載され, 「さらに,すべてのトリプレットにより選択されたフィンガーのすべての組合せからなる大型(予め組立てられた)ライブラリを,9bp.またはそれよりずっと長いDNAフラグメントを使用するDNA結合タンパク質の単一ステップ選択用に開発することもできる。この特定の用途では新規な3フィンガータンパク質の大変大きいライブラリが必要になるが,ファージディスプレイ以外の選択方法,たとえばタンパク質およびmRNAが連結されている,(アフィマックス(Affimax)が開発した)ストールされたポリソーム(Stalled Polysomes)を使用することが好ましい。」(11頁下から6行?最下行)と記載され, 図13とともに,「図13は,誂えられる亜鉛フィンガータンパク質の設計に関する他の戦略法を示す。(A)3フィンガーDNA結合モチーフは3つの無作為化されたフィンガーのライブラリからひとまとめにして選択される。(B)3フィンガーDNA結合モチーフは1つの無作為化されたフィンガー(たとえばZif268の中央のフィンガー)のライブラリからそれぞれ独立して選択されたフィンガーから組立てられる。(C)3フィンガーDNA結合モチーフは,無作為化された亜鉛フィンガーの3つの位置的に特異的なライブラリからそれぞれ独立して選択されたフィンガーから組立てられる。」(28頁14?19行)と記載されている。 (3)対比,判断 先行技術文献の請求の範囲2には,上記摘記から明らかなように,ジンクフィンガーの,位置-1,+2,+3及び+6においてアミノ酸が無作為化された結合モチーフをコードする,DNA配列のライブラリーが記載され,これはジンクフィンガーポリペプチドのαヘリックスの4アミノ酸残基が無作為化されているものである。 そこで,本願補正発明における第1のジンクフィンガーと先行技術文献の請求の範囲2に記載のジンクフィンガーを比較すると,前者においてカバーされる無作為化の範囲の位置-1,1,2,3,5及び6のうち,後者においては,その一部である位置-1,2,3及び6が無作為化されており,両者の間に相違はない。 また,本願補正発明における第2のジンクフィンガーと先行技術文献の請求の範囲2に記載のジンクフィンガーを比較すると,前者においてカバーされる無作為化の範囲の位置-1,1,2,及び3のうち,後者においては,その一部である位置-1,2及び3が無作為化されており,無作為化の範囲における無作為化に相違はないし,後者において,本願補正発明において,無作為化されていても無作為化されていなくともよい位置6が無作為化されているが,両者の間に相違はないことになる。 さらに,本願補正発明における第3のジンクフィンガーと先行技術文献の請求の範囲2に記載のジンクフィンガーを比較すると,前者においては,無作為化の範囲が定められておらず,どの位置も無作為化されていても無作為化されていなくともよいから,両者の間に相違はない。 そうすると,本願補正発明と先行技術文献の請求の範囲2に記載のジンクフィンガーを比較すると,本願補正発明においては,3つのジンクフィンガーポリペプチドをコードしている核酸ライブラリーにおいて,無作為化の範囲と無作為化されるアミノ酸残基の個数が特定されているのに対し,先行技術文献の請求の範囲2においては,1つのジンクフィンガーポリペプチドが特定されているだけである点で相違している。 ところが,先行技術文献には,図13に関連して説明されるように,3つのフィンガーを無作為化したライブラリーが記載されているのであるから,3つのフィンガーとも,請求の範囲2に記載されるように,その位置-1,+2,+3及び+6においてアミノ酸が無作為化された結合モチーフをコードする,DNA配列のライブラリーとすることは当業者が容易に想到できることである。 そして,そのように3つのフィンガーとも,請求の範囲2に記載されるように,その位置-1,+2,+3及び+6においてアミノ酸が無作為化された結合モチーフとしたものは,上述したように第1,第2及び第3のジンクフィンガーとも本願補正発明のものと相違はしないし,3つのジンクフィンガーポリペプチドのαヘリックスの4アミノ酸残基が無作為化されているものとなり,本願補正発明のものと相違しない。 そして,本願補正発明において,先行技術文献に記載された発明から予測できないような格別顕著な効果が奏されているものとも認められない。 以上のことから,本願補正発明は,先行技術文献に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものである。 したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 平成20年10月29日の手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成19年8月6日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のものであるが,請求項1と同様の記載のある請求項4を引用する請求項7を,さらに引用する請求項8において,位置-1,1,2,3,5及び6がカバーされた第1のジンクフィンガーにおける無作為化の範囲のうち,位置1において無作為化することが記載されていないことから,カバーすると定められた範囲の位置の必ず全部ではなく,その少なくとも一部が部分的に無作為化されているものをも意味しているものと認められるし,請求項1の核酸ライブラリーを引用して記載する請求項9において,-1,+2,+3などの位置が無作為化されていないものが記載されていることからも,カバーすると定められた範囲の位置の必ず全部ではなく,その少なくとも一部が部分的に無作為化されているものをも意味していることは明らかである。 「複数のジンクフィンガーポリペプチドをコードしている核酸ライブラリーであって,各々のポリペプチドは3つのジンクフィンガーをコードし,無作為化の範囲が第1のジンクフィンガーにおいて位置-1,1,2,3,5および6をカバーし,第2のC末端ジンクフィンガーにおいて位置-1,1,2および3をカバーするように,各々のポリペプチドがすくなくとも部分的に無作為化されている,核酸ライブラリー。」 なお,本願補正発明と同様に,C末端ジンクフィンガーは,3つのジンクフィンガーの第3のジンクフィンガーがC末端になるのであるから,「C末端ジンクフィンガー」は「ジンクフィンガー」の誤記であり,また,核酸がポリペプチドをコードするのであるから,「各々のポリペプチドは3つのジンクフィンガーをコードし」の「ポリペプチド」は「核酸」の誤記と認められる。 第4 当審の判断 1.引用文献 原査定の拒絶の理由に引用され,本願優先日前に頒布された刊行物であるProc. Natl. Acad. Sci. USA, 1996, Vol.93, pp.12834-12839(以下,平成19年1月25日付け拒絶理由通知におけると同様に,「引用文献1」という。)には, 12834頁右欄の材料と方法の項に,「Zif268ファージディスプレイライブラリーの設計。・・・ 別のファージディスプレイライブラリー(ZL26)はキュンケル突然変異生成(20)によって構築された。フレームシフト位置でSalI制限酵素サイトを含んでいるZif268ファージディスプレイ・ベクター,pZF910(7)のフレームシフトされた誘導体は,単鎖のテンプレートの準備に使用された。ライブラリーは2つの突然変異を起こし得るオリゴヌクレオチドを使用して構築された:(i)5′TGC GAT CGT CGA TTT TCT CGC TCG GAT NNS CTT ACC NNS CAT ATC CGC ATC CAC3′,Nが4つの可能な塩基のいずれかで,SがGかCのいずれかである場合で,それは,ジンクフィンガー発現用のリーディング・フレームを回復し,さらに,フィンガー1において,位置3及び6でランダム置換を導入する,;(ii)5′ATG CGT AAC TTC AGT NNS AGT NNS CAC CTT ACC ACC CAC3′,それはフィンガー2認識ヘリックス(アミノ酸位置用の図1aを参照)上の,位置-1及び2においてランダム置換を導入する。これらの置換は,PavletichおよびPabo(1),Fairallらによってともに示唆された(2)(図1c),主としてフィンガー1の結合部位の5′位置の相補的塩基と潜在的に相互作用するフィンガー2に対する位置2の残基のための選択するために導入された。位置-1および2の残基は,Zif268オペレーター・シーケンス,GCG TGG GCGの3′末端のグアニン(G)との特定の相互作用を形成するフィンガー1において変更されていない。」と記載され, 図1(c), が記載されている。 原査定の拒絶の理由に引用され,本願優先日前に頒布された刊行物であるScience, Jan 1997, Vol.275, pp.657-661(以下,平成19年1月25日付け拒絶理由通知におけると同様に,「引用文献2」という。)には, 図2, が記載され,脚注に,「(A)無作為化されたフィンガー1ライブラリーがpZif12ファージミド・ディスプレイ・ベクター(36)へクローン化された。また,このライブラリーを備えた選択はTATA,p53およびNREサイト(17)で平行して行なわれた。」と記載されている。 2.対比 引用文献1に記載されるファージディスプレイライブラリー(ZL26)は,上記摘記から明らかなように,フィンガー1において,位置3及び6でランダム置換を導入し,フィンガー2において,位置-1及び2でランダム置換を導入したものである。 そこで,本願発明と引用文献1に記載された発明を比較すると,引用文献1に記載される第1のジンクフィンガーであるフィンガー1は位置3及び6で無作為化されているが,これは本願発明においてカバーされている無作為化の範囲,位置-1,1,2,3,5および6の一部に相当するものである。また,引用文献1に記載される第2のジンクフィンガーであるフィンガー2は位置-1及び2で無作為化されているが,これは本願発明においてカバーされている無作為化の範囲,-1,1,2および3の一部に相当するものである。 そうすると,本願発明と引用文献1に記載される発明を比較すると,「複数のジンクフィンガーポリペプチドをコードしている核酸ライブラリーであって,無作為化の範囲が第1のジンクフィンガーにおいて位置-1,1,2,3,5および6をカバーし,第2のC末端ジンクフィンガーにおいて位置-1,1,2および3をカバーするように,各々のポリペプチドがすくなくとも部分的に無作為化されている,核酸ライブラリー。」である点で一致しているが,本願発明は,3つのジンクフィンガーをコードするものであるのに対し,引用文献1の図1(c)には,フィンガー1とフィンガー2の2つのジンクフィンガーしか図示されていない点で相違している。 3.判断 引用文献2の図2Aに記載されているように,無作為化したジンクフィンガーにおいて,その他の部分には,野生型のZif268のものを用いて3つのジンクフィンガーとし,ライブラリーを構築することはよく知られたことであり,引用文献1に記載の結果が確かに得られるか確認しようとし,引用文献1の図1(c)に記載されるフィンガー1とフィンガー2に加えて,野生型のZif268のフィンガー3を設ける程度のことは,当業者が容易になしえることにすぎない。 そして,本願発明において,引用文献1及び2に記載された発明から予測できないような格別顕著な効果が奏されているものとも認められない。 したがって,本願発明は,引用文献1及び2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものである。 第5 むすび 以上のとおりであるから,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。 したがって,本願に係るその他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 第6 付記 平成23年5月10日に提出された回答書に補正案が記載されているが,本願を分割して出願した特願2008-278701号において,平成23年4月25日に提出した手続補正書により補正された内容と同じであって,該出願において審査されるから,本件において,重複して検討することはしない。 |
審理終結日 | 2011-06-22 |
結審通知日 | 2011-06-28 |
審決日 | 2011-07-11 |
出願番号 | 特願平10-550153 |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N) P 1 8・ 561- Z (C12N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 飯室 里美 |
特許庁審判長 |
平田 和男 |
特許庁審判官 |
田中 耕一郎 鵜飼 健 |
発明の名称 | 核酸結合ポリペプチドライブラリー |
代理人 | 石井 貞次 |
代理人 | 藤田 節 |
代理人 | 平木 祐輔 |