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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1248595
審判番号 不服2010-4540  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-01 
確定日 2011-12-08 
事件の表示 特願2004-329504「燃料電池の電極及び膜電極接合体並びに燃料電池システム」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月 1日出願公開、特開2006-140061〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年11月12日の出願であって、平成21年9月4日付けで拒絶理由が通知され、同年11月6日付けで手続補正がされ、同年11月26日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成22年3月1日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、手続補正がされたものであり、当審において、平成23年4月15日付けで前置報告に基づく審尋を行ったところ、同年6月18日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成22年3月1日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年3月1日付けの手続補正を却下する。

[理由]
I.補正の内容
平成22年3月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の記載を、以下の(A)から(B)とする補正事項を含む(下線部は補正箇所を示す。)。

(A)「【請求項1】ガス透過性を有する基材と、該基材の一面に形成された触媒層とを有し、該触媒層は、カーボン粉末に触媒金属を担持してなる無数の触媒担持カーボンと、各該触媒担持カーボンを互いに結合するとともに該基材に結合する高分子電解質とを含む燃料電池の電極であって、
前記触媒層は、前記高分子電解質及び互いに接触する前記各触媒担持カーボンを含み、該高分子電解質と各該触媒担持カーボンとの間には親水層が形成され、該親水層は各該触媒担持カーボン周りで水によって互いに連続していることを特徴とする燃料電池の電極。
【請求項2】前記親水層は、前記高分子電解質のイオン交換基が前記触媒担持カーボン側に配向することにより薄膜状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の燃料電池の電極。
【請求項3】 電解質膜と、該電解質膜の一面に接合されて空気が供給されるカソード極と、該電解質膜の他面に接合されて燃料が供給されるアノード極とを有する燃料電池の膜電極接合体において、
前記カソード極及び前記アノード極の少なくとも一方は、ガス透過性を有する基材と、該基材の前記電解質側の面に形成された触媒層とを有し、
該触媒層は、カーボン粉末に触媒金属を担持してなる無数の触媒担持カーボンと、各該触媒担持カーボンを互いに接触させながら結合するとともに該基材に結合する高分子電解質とを含み、該高分子電解質と各該触媒担持カーボンとの間には親水層が形成され、該親水層は各該触媒担持カーボン周りで水によって互いに連続していることを特徴とする燃料電池の膜電極接合体。
【請求項4】
前記親水層は、前記高分子電解質のイオン交換基が前記触媒担持カーボン側に配向することにより薄膜状に形成されていることを特徴とする請求項3記載の燃料電池の膜電極接合体。
【請求項5】前記カソード極及び前記アノード極の少なくとも一方は、前記基材の他面に形成され、前記空気又は前記燃料を拡散する拡散層を有することを特徴とする請求項3又は4記載の燃料電池の膜電極接合体。
【請求項6】 請求項3、4又は5記載の膜電極接合体と、前記カソード極に空気を供給する空気供給手段と、前記アノード極に前記燃料を供給する燃料供給手段とを備えたことを特徴とする燃料電池システム。」

(B)「【請求項1】電解質膜と、該電解質膜の一面に接合されて空気が供給されるカソード極と、該電解質膜の他面に接合されて燃料が供給されるアノード極とを有する燃料電池の膜電極接合体において、
前記カソード極及び前記アノード極の少なくとも一方は、ガス透過性を有する基材と、該基材の前記電解質側の面に形成された触媒層とを有し、
該触媒層は、カーボン粉末に触媒金属を担持してなる無数の触媒担持カーボンと、各該触媒担持カーボンを互いに接触させながら結合するとともに該基材に結合する高分子電解質とを含み、該高分子電解質と各該触媒担持カーボンとの間には親水層が形成され、
該親水層は、各該触媒担持カーボンの表面に生成された水酸基と、各該触媒担持カーボン側に配向した該高分子電解質のイオン交換基とによって薄膜状に構成され、各該触媒担持カーボン周りで水によって互いに連続していることを特徴とする燃料電池の膜電極接合体。
【請求項2】前記カソード極及び前記アノード極の少なくとも一方は、前記基材の他面に形成され、前記空気又は前記燃料を拡散する拡散層を有することを特徴とする請求項1記載の燃料電池の膜電極接合体。
【請求項3】請求項1又は2記載の膜電極接合体と、前記カソード極に空気を供給する空気供給手段と、前記アノード極に前記燃料を供給する燃料供給手段とを備えたことを特徴とする燃料電池システム。」

II.補正の目的
ア 上記補正事項は、補正前の請求項1、2を削除し、補正前の請求項3に記載の「親水層」について、「各該触媒担持カーボンの表面に生成された水酸基と、各該触媒担持カーボン側に配向した該高分子電解質のイオン交換基とによって薄膜状に構成され」という限定を付加して新たな請求項1とし、補正前の請求項5,6を新たな請求項2,3に繰り上げるとともに、引用項を整理するものである。

イ したがって、上記の補正事項は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法(以下、「旧法」という。)第17条の2第1,2及び4項に掲げる請求項の削除、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的としたものに該当する。

ウ そこで、特許請求の範囲の減縮された補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(旧法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下検討する。

III.独立特許要件について
1.本願補正発明
本願補正発明は、上記「(B)」に記載された事項により特定されるから、その親水層は、「各該触媒担持カーボンの表面に生成された水酸基と、各該触媒担持カーボン側に配向した該高分子電解質のイオン交換基とによって薄膜状に構成され、各該触媒担持カーボン周りで水によって互いに連続している」ものである。

2.発明の詳細な説明の記載
これに対し、明細書及び図面には、本願補正発明の親水層に関し、以下の記載がある。

【課題を解決するための手段】
(a)「【0014】
発明者の知見によれば、燃料電池のセルにおいて、固体高分子膜等の電解質膜は水を良好に移動させるものの、その電解質膜に接合されるアノード極やカソード極は水を良好に移動させることができない。アノード極やカソード極は、上述のように、無数の触媒担持カーボンと高分子電解質とを含むものであることから、その原因は、これらが水を局部的に含んでいなかったり、これらにおいては、各触媒担持カーボン同士の接触が阻害されていたり、高分子電解質と各触媒担持カーボンとの間に水によって互いに連続する親水層が形成されていなかったりすることにあると発明者は推論した。」

(b)「【0018】
本発明の燃料電池の電極は、ガス透過性を有する基材と、該基材の一面に形成された触媒層とを有し、該触媒層は、カーボン粉末に触媒金属を担持してなる無数の触媒担持カーボンと、各該触媒担持カーボンを互いに結合するとともに該基材に結合する高分子電解質とを含む燃料電池の電極であって、
前記触媒層は、前記高分子電解質及び互いに接触する前記各触媒担持カーボンを含み、該高分子電解質と各該触媒担持カーボンとの間には親水層が形成され、該親水層は各触媒担持カーボン周りで水によって互いに連続していることを特徴とする。」

【発明を実施するための最良の形態】
(c)「【0046】
MEA10の断面を2万倍に拡大した顕微鏡写真を図12に示す。また、カソード触媒層13a又はアノード触媒層12aの部分の100万倍の顕微鏡写真を図13に示す。図12及び図13からは必ずしも明らかではないが、上記のようにカソード極13のカソード触媒層13a及びアノード極12のアノード触媒層12aを製造していることからすれば、これらにおいては、図15に示すように、各触媒担持カーボン81同士の接触が維持され、かつ高分子電解質82と各触媒担持カーボン81との間に水32によって互いに連続する親水層72が形成されていることが推論される。このため、アノード触媒層12aで生じたプロトンは、形成されている親水層72を伝わってアノード触媒層12a内を移動するのでアノード触媒層12a内のイオン抵抗が低くなり、結果的にアノード触媒層12a内を移動し易いと考えられる。そして、それらのプロトンは、図17に示すように、アノード触媒層12aから電解質膜11内へのイオン抵抗も親水層72が連続しているので低くなり、電解質膜11内に移動し易く、かつ親水層72を伝わってカソード触媒層13a内を移動するのでカソード触媒層13a内のイオン抵抗が低くなり、結果的にカソード触媒層13a内を移動し易いと考えられる。こうして、このMEA10のアノード極12やカソード極13は親水層72を介してプロトンが移動しやすいと考えられるのである。」

(d)「【0048】
また、カソード触媒層13a及びアノード触媒層12aにおいては、図16に示すように、スルホン基によって極性を有する高分子電解質82が好適に配向していることが推論される。このため、カーボン粉末81a及び触媒金属81bの表面上にスルホン基が向けられ、カーボン粉末81aとスルホン基との間には親水層72が形成される。こうして、このMEA10では、プロトンの移動に親水層72が有効に活用されると考えられるのである。」

(e)「【0049】
こうして、親水層72は、各触媒担持カーボン81の表面に生成された水酸基と、高分子電解質82のイオン交換基82aとによって薄膜状に構成されるものと考えられる(PFF(Proton Film Flow)構造)。このため、この燃料電池システムは、MEA10のアノード極12、電解質膜11及びカソード極13で薄膜状の親水層72を伝わってH_(3)Oが良好に移動する。このように、水の通路として親水層72が予め形成されているので、外部から過剰な水をアノード電極12や電解質膜11に供給することを低減でき、さらに過剰な水によるフラッディング等も起こり難いので、軽加湿又は無加湿でありながら高出力が得られるのである。」

【図面の簡単な説明】
(f)「【図12】MEAの断面を2万倍に拡大した顕微鏡写真である。
【図13】カソード触媒層又はアノード触媒層の部分の100万倍の顕微鏡写真である。

【図15】実施例のカソード触媒層又はアノード触媒層を示す模式拡大断面図である。
【図16】実施例の燃料電池システムに係り、図15のXIV部分の模式拡大断面図である。
【図17】実施例のMEAを示す模式拡大断面図である。」

3.当審の判断
ア 発明の詳細な説明の(a)には、本願補正発明の解決すべき課題として、電解質膜に接合されるアノード極やカソード極は水を良好に移動させることができないこと、その原因として、アノード極やカソード極が水を局部的に含んでいなかったり、各触媒担持カーボン同士の接触が阻害されていたり、高分子電解質と各触媒担持カーボンとの間に水によって互いに連続する親水層が形成されていなかったりすることにあると推論されることが記載され、(b)には、本件補正前の請求項1に対応する記載がされ、(c)には、本願補正発明の実施形態について、図12、図13の顕微鏡写真からは必ずしも明らかではないが、図15に示すように、各触媒担持カーボン同士の接触が維持され、かつ高分子電解質と各触媒担持カーボンとの間に水によって互いに連続する親水層が形成されていることが推論されることが記載され、(d)には、カソード触媒層及びアノード触媒層においては、図16に示すように、スルホン基によって極性を有する高分子電解質が好適に配向するとし、各触媒担持カーボンの表面上にスルホン基が向けられ、各触媒担持カーボンとスルホン基との間に親水層が形成されると推論されることが記載され、(e)には、親水層が、各触媒担持カーボンの表面に生成された水酸基と、高分子電解質のイオン交換基とによって薄膜状(PFF(Proton Film Flow)構造)に構成されるものと考えられることが記載されている。

イ そして、図面の簡単な説明の(f)及び図面の記載によると、図15?17は、いずれも上記の推論に基づく模式図であって、図16にスルホン基とカルボキシル基の記載はあるものの、水酸基については記載されていない。
図12は、MEAの顕微鏡写真であるが、触媒層の親水層について、何も示唆するところがない。
図13は、カソード触媒層又はアノード触媒層の顕微鏡写真であって、薄い灰色の地が高分子電解質を、多数の黒い小点が触媒を、濃い灰色の球が触媒を担持したカーボンを、中間の灰色が水又は親水層を示しているとすると(発明の詳細な説明にそのような対応関係は示されていないが)、触媒層において、高分子電解質(薄い灰色の地)中に、多数の触媒(黒い小点)を担持した複数のカーボン(濃い灰色の球)が互いに接触する状態で存在し、該カーボンの周りには水によって互いに連続する薄膜状の親水層(中間の灰色)が存在することを示唆するものといえる。

ウ 以上の記載によると、本願補正発明における親水層は、(e)に記載の「この燃料電池システムは、…軽加湿又は無加湿でありながら高出力が得られるのである」という現象を説明するために、発明者が「各触媒担持カーボンの表面に生成された水酸基と、各触媒担持カーボン側に配向した高分子電解質のイオン交換基とによって薄膜状に構成され、各該触媒担持カーボン周りで水によって互いに連続している」と推論した事項に基いて特定されたものと認められる。
そして、「軽加湿又は無加湿でありながら高出力が得られる」とは、アノード触媒層での含水率の低下をカソード触媒層で生成する水を移動させることで補っていると考えることには一定の合理性があること、及び図13の記載から、触媒層において、各触媒担持カーボンが互いに接触する状態で存在し、各触媒担持カーボンの周りに水によって互いに連続する親水層が形成され、当該親水層が薄膜状に連なって水の移動通路となっていることが、一応把握できることから、上記親水層の特定事項である「各該触媒担持カーボン周りで水によって互いに連続している」こと、「薄膜状に構成され」ることは、発明の詳細な説明に記載された事項であると認めることができる。
しかし、その親水層が「各触媒担持カーボンの表面に生成された水酸基と、各触媒担持カーボン側に配向した高分子電解質のイオン交換基とによって…構成され」ていることを示す証拠は、何も示されていないし、技術常識から自明な事項であるとまではいえない。

エ そうすると、本願補正発明における親水層が、「各触媒担持カーボンの表面に生成された水酸基と、各触媒担持カーボン側に配向した高分子電解質のイオン交換基とによって…構成され」ることは、明細書及び図面の全ての記載を参酌しても、実質的に記載されているとはいえないし、自明な事項でもない。
したがって、本件補正後の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていないから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでない。

オ なお、仮に、「軽加湿又は無加湿でありながら高出力が得られる」燃料電池の場合、その触媒層におけるカーボンの親水層が、その表面に生成された水酸基と、高分子電解質のイオン交換基とによって構成されることが技術常識から自明な事項であるとすると、以下の「第3」に示す原査定に引用した刊行物にも「無加湿状態で運転される」燃料電池の触媒層が記載され、当該触媒層の親水性カーボンも、本願補正発明と同じ親水層を有することが技術常識から自明な事項であるといえる。
そうすると、「第3」に示すのと同様の理由により、本願補正発明は、引用刊行物に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するから、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.まとめ
以上のとおりであるから、上記補正事項を有する本件補正は、旧法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 原査定の理由についての検討
I.本願発明
平成22年3月1日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?6に係る発明は、平成21年11月6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明は上記「第2 I.(A)」に【請求項1】として示すとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。

II.原査定の理由の概要
原審における本願発明に対する拒絶理由の一つは、概略、次のとおりである。

本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

<引用刊行物>
特開2002-100367号公報

III.引用刊行物の記載事項
[a]「【請求項1】 高分子イオン交換成分を有する電解質膜(2)と,その電解質膜(2)を挟む一対の電極(3,4)とを備え,両電極(3,4)は,高分子イオン交換成分と,カーボンブラック粒子の表面に触媒金属を担持させた複数の触媒粒子とを有する,無加湿状態で運転される固体高分子型燃料電池であって,前記カーボンブラック粒子は,60℃の飽和水蒸気圧下における水吸着量AがA≧150cc/gである,といった親水性を持ち,前記高分子イオン交換成分の配合重量をWpとし,また前記カーボンブラック粒子の配合重量をWcとしたとき,両配合重量Wp,Wcの比Wp/Wcが0.4≦Wp/Wc≦1.25であることを特徴とする固体高分子型燃料電池。」

[b]「【0006】カーボンブラック粒子に前記のような親水性を保持させると,空気供給側の電極では水の生成,生成水の保有,その生成水の電解質膜への逆拡散が発生し,その逆拡散水は電解質膜内でプロトンの移動に伴う同伴水として用いられる外,水素供給側の電極に流入して,そこに保有される。このように両電極が常に水を保有することから電解質膜の湿潤状態が確保され,その膜内では生成水の逆拡散およびプロトン同伴,が繰返し行われるため,無加湿下においてプロトン伝導が確保される。両電極において過剰の水は外部に排出される。ただし,カーボンブラック粒子の前記水吸着量AがA<150cc/gでは前記逆拡散を発生させることが困難となる。」

[c]「【0008】【発明の実施の形態】図1において,固体高分子型燃料電池(セル)1は無加湿状態で運転されるもので,電解質膜2と,その電解質膜2を挟んでその両側にそれぞれ密着する一対の電極,つまり空気極3および燃料極4と,それら両極3,4にそれぞれ密着する一対の拡散層5,6と,それら両拡散層5,6に密着する一対のセパレータ7,8とよりなる。この場合,電解質膜-電極集成体9には,電解質膜2,空気極3,燃料極4および両拡散層5,6が含まれる。
【0009】電解質膜2は,プロトン伝導性を有する高分子イオン交換成分,実施例では芳香族炭化水素系高分子イオン交換成分より構成されている。空気極3および燃料極4は,それぞれ,カーボンブラック粒子の表面に複数の触媒金属としてのPt粒子を担持させた複数の触媒粒子ならびにプロトン伝導性およびバインダとしての機能を有し,且つ前記と同一または異なる高分子イオン交換成分,実施例では芳香族炭化水素系高分子イオン交換成分とよりなる。
【0010】各拡散層5,6は多孔質のカーボンペーパ,カーボンプレート等よりなり,また各セパレータ7,8は,同一の形態を有するように黒鉛化炭素より構成され,空気極3側のセパレータ7に存する複数の溝10に空気が,また燃料極4側のセパレータ8に在って前記溝10と交差する関係の複数の溝11に水素がそれぞれ供給される。
【0011】芳香族炭化水素系高分子イオン交換成分は,無フッ素であって溶剤に可溶であるといった特性を有する。この種の高分子イオン交換成分としては・・・各種の,芳香族炭化水素系高分子のスルホン化物が用いられる。」

[d]「【0019】以下,具体例について説明する。
I.電極の製造
60℃の飽和水蒸気圧下における水吸着量AがA=370cc/gである親水性カーボンブラック粒子(商品名:ケッチェンブラックEC)に複数のPt粒子を担持させて触媒粒子を調製した。触媒粒子におけるPt粒子の含有量は50wt%である。
〔例-I〕芳香族炭化水素系高分子イオン交換成分として・・・PEEKスルホン化物を用意し,このPEEKスルホン化物を・・・NMPに還流溶解した。この溶液におけるPEEKスルホン化物の含有量は6wt%である。このPEEKスルホン化物含有溶液に,PEEKスルホン化物の配合重量Wpとカーボンブラック粒子の配合重量Wcとの比Wp/WcがWp/Wc=0.2となるように触媒粒子を混合し,次いでボールミルを用いて触媒粒子の分散を図り,電極用スラリを調製した。このスラリを,Pt量が0.5mg/cm^(2) となるように複数の多孔質カーボンペーパの一面にそれぞれ塗布し,乾燥して,複数の,拡散層を持つ電極を得た。」

IV.当審の判断
1.引用発明
引用刊行物の[a]には、「高分子イオン交換成分を有する電解質膜(2)と,その電解質膜(2)を挟む一対の電極(3,4)とを備え,両電極(3,4)は,高分子イオン交換成分と,カーボンブラック粒子の表面に触媒金属を担持させた複数の触媒粒子とを有する,無加湿状態で運転される固体高分子型燃料電池」であって、「前記カーボンブラック粒子は,60℃の飽和水蒸気圧下における水吸着量AがA≧150cc/gである,といった親水性を持」つ電池について記載されており、[1c]には、当該固体高分子型燃料電池(セル)1は、電解質膜2、空気極3、燃料極4と、空気極3と燃料極4にそれぞれ密着する拡散層5,6よりなる電解質膜-電極集成体9とセパレータ7,8とよりなること、一対の電極の有する高分子イオン交換成分がプロトン伝導性及びバインダとしての機能を有すること、各拡散層5、6が多孔質のカーボンペーパであることが記載され、[1d]には、拡散層を持つ電極の具体的な製造方法として、水吸着量が370cc/gである親水性カーボンブラック粒子に複数のPt粒子を担持させた触媒粒子と、高分子イオン交換成分であるPEEKスルホン化物とを混合し、ボールミルを用いて分散して調製した電極スラリを、多孔質カーボンペーパの一面に塗布、乾燥して拡散層を持つ電極を得ることが記載されている。
以上によると、引用刊行物に記載された固体高分子型燃料電池の電解質膜-電極集成体における「電極」とは、一対の拡散層5,6と、該拡散層に密着した一対の電極(空気極3、燃料極4)よりなる拡散層を持つ電極であるから、引用刊行物には、「固体高分子燃料電池の電極」について、以下の発明が記載されているといえる。

「一対の多孔質のカーボンペーパよりなる拡散層と、該拡散層に密着した一対の電極とを有し、該一対の電極は、60℃の飽和水蒸気圧下における水吸着量AがA≧150cc/gである親水性カーボン粉末に触媒金属を担持してなる複数の触媒粒子と、プロトン伝導性及びバインダとして機能する高分子イオン交換成分とを含む固体高分子型燃料電池の電極であって、
前記一対の電極は、前記高分子イオン成分及び触媒粒子を含む電極」(以下、「引用発明」という。)

2.本願発明と引用発明との対比
ア 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「拡散層」は、多孔質のカーボンペーパよりなるから、ガス透過性であることが明らかであり、また、一対の電極を密着させる基材といえるから、本願発明の「基材」に相当する。

イ 次に、引用発明の「一対の電極」は、「…触媒粒子と、…高分子イオン交換成分とを含む」から、本願発明の「触媒層」に相当する。

ウ そして、引用発明の「触媒粒子」は、「…カーボン粉末に触媒金属を担持してなる」から、本願発明の「触媒担持カーボン」に相当し、引用発明の「高分子イオン交換成分」は「バインダとして機能する」から、各触媒粒子を互いに結合するとともに拡散層に結合する機能を有するといえるので、本願発明の「高分子電解質」に相当する。

エ さらに、引用発明のカーボン粉末は「親水性」であるから、この粉末に触媒金属を担持してなる触媒粒子も親水性であり、親水性触媒粒子とバインダとして機能する高分子イオン交換成分を含む一対の電極においては、高分子イオン交換成分と親水性触媒粒子との間に親水層が形成されることが明らかであるから、引用発明の「一対の電極」は、高分子イオン交換成分と各触媒粒子のと間に親水層が形成されているものといえる。

オ 以上によると、両者は以下の点で一致する。

「ガス透過性を有する基材と、該基材の一面に形成された触媒層とを有し、該触媒層は、カーボン粉末に触媒金属を担持してなる無数の触媒担持カーボンと、各該触媒担持カーボンを互いに結合するとともに該基材に結合する高分子電解質とを含む燃料電池の電極であって、
前記触媒層は、前記高分子電解質及び前記各触媒担持カーボンを含み、該高分子電解質と各該触媒担持カーボンとの間には親水層が形成されていることを特徴とする燃料電池の電極」

カ そして、両者は、以下の点で、一応相違する。

本願発明は、触媒層が、互いに接触する各触媒担持カーボンを含み、高分子電解質と各触媒担持カーボンとの間に形成される親水層が各該触媒担持カーボン周りで水によって互いに連続しているのに対して、引用発明は、触媒層が、触媒担持カーボンを含むが、その各々が互いに接触しているかは不明であり、高分子電解質と各触媒担持カーボンとの間に親水層が形成されるが、該親水層が各該触媒担持カーボン周りで水によって互いに連続しているのか不明である点

3.相違点についての判断
ア 引用発明の燃料電池は、[a]の記載によると、無加湿状態で運転されるものであり、[b]の記載によると、カーボン粉末に水吸着量AがA≧150cc/gの親水性をもたせることにより、空気供給側の電極では水の生成、生成水の保有、その生成水の電解質膜への逆拡散が発生し、その逆拡散水は、水素供給側の電極に流入してそこに保有されるため、両電極は常に水を保有し、かつ、両電極において過剰の水は外部に排出される現象が起こっている。

イ ところで、空気供給側の電極(空気極)で生成水の電解質膜への逆拡散が起こり、水素供給側の電極(燃料極)でその逆拡散水を保有し、両電極が常に水を保有する現象は、両電極(触媒層)に水が流れる通路が連続して形成されていなければ起こり得ないことが明らかである。
そして、引用発明において、当該現象がカーボン粒子の親水性が一定程度以上に大きい場合に生起することに鑑みれば、引用発明の触媒層は、親水層において互いに接触する各触媒担持カーボンを有し、接触した親水層同士で連続して水が流れる通路を形成している、すなわち、親水層が各該触媒担持カーボン周りで水によって互いに連続しているものと認められる。
そうすると、上記相違点は、実質的な相違点であるとはいえないから、本願発明は引用刊行物に記載された発明である。

第4 むすび
以上のとおりであるから、原査定は妥当である。
したがって、請求項2?6に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-29 
結審通知日 2011-10-04 
審決日 2011-10-26 
出願番号 特願2004-329504(P2004-329504)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (H01M)
P 1 8・ 575- Z (H01M)
P 1 8・ 113- Z (H01M)
P 1 8・ 537- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡部 朋也  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 野田 定文
長者 義久
発明の名称 燃料電池の電極及び膜電極接合体並びに燃料電池システム  
代理人 特許業務法人ぱてな  

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