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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12Q |
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管理番号 | 1248633 |
審判番号 | 不服2008-32236 |
総通号数 | 146 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-02-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-12-22 |
確定日 | 2011-12-06 |
事件の表示 | 特願2000-539172「診断用核酸リガンドバイオチップ」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 6月24日国際公開、WO99/31275、平成14年 3月19日国内公表、特表2002-508191〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願(以下、「本願」という。)は、1998年12月14日(優先権主張 1997年12月15日 米国)を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。 平成17年12月13日 手続補正書 平成19年1月25日 手続補正書 平成20年6月2日付け 拒絶理由通知 平成20年9月2日 意見書、手続補正書 平成20年9月26日付け 拒絶査定 平成20年12月22日 審判請求書 平成21年1月21日 手続補正書 平成21年3月5日 手続補正書(方式) 平成21年3月16日付け 審査前置移管 平成21年4月3日付け 前置報告書 平成21年4月10日付け 前置審査解除 平成23年1月18日付け 審尋 平成23年5月11日 回答書 第2 平成21年1月21日付け手続補正書についての補正の却下の決定 1.本件補正 平成21年1月21日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の 「【請求項1】被験混合物中の1以上のターゲット分子を検出するためのバイオチップであって、固体支持体を含み、この支持体が空間的に定められた複数のアドレスを含み、各アドレスに単一種の核酸リガンドの少なくとも1コピーが付着しており、核酸リガンド種それぞれが被験混合物に含有される疑いのあるターゲット分子の1つに対し特異的親和性をもち、核酸リガンド種それぞれが非ワトソン-クリック相互作用によりターゲット分子に結合しているか、または結合しうる、バイオチップ。」 を 「【請求項1】被験混合物中の1以上のターゲット分子を検出するためのバイオチップであって、固体支持体を含み、この支持体が空間的に定められた複数のアドレスを含み、各アドレスに少なくとも個々の種の核酸リガンドが付着しており、核酸リガンド種それぞれが被験混合物に含有される疑いのあるターゲット分子の1つに対し特異的親和性をもち、核酸リガンド種それぞれが非ワトソン-クリック相互作用によりターゲット分子に結合しているか、または結合しうる、バイオチップ。」 とする補正を含むものである。 2.補正の適否 上記補正は、補正前の「各アドレスに単一種の核酸リガンドの少なくとも1コピーが付着しており」の記載について、「各アドレスに少なくとも個々の種の核酸リガンドが付着しており」と補正するものである。 しかしながら、上記補正は、平成20年6月2日付け拒絶理由通知及び平成20年9月26日付け拒絶査定において、当該記載が明りょうでないとの指摘がなされたことによる補正ではないから、特許法第17条の2第4項第4号の「・・・(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る」に該当するとはいえない。また、上記補正は、補正前の「各アドレス」に「単一種の核酸リガンドの少なくとも1コピーが付着」しているという明りょうな記載を、「各アドレスに少なくとも個々の種の核酸リガンドが付着」と補正するものであるが、却って「各アドレス」毎にどのような「核酸リガンド」が付着しているものか明りょうではなくなったといえる。したがって、上記補正は、第17条の2第4項第4号の「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものということができない。 さらに、上記補正は、「請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するもの」ということもできないので、特許法第17条の2第4項第2号の「特許請求の範囲の減宿」を目的とするものということもできない。また、同法同条同項第1号の「請求項の削除」、同法同条同項第3号の「誤記の訂正」を目的とするものと評価することもできない。 したがって、上記補正は、平成18年法律55号改正附則第3条第1項により、なお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項各号のいずれの目的にも該当しないから、却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成21年1月21日付け手続補正書は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成20年9月2日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】被験混合物中の1以上のターゲット分子を検出するためのバイオチップであって、固体支持体を含み、この支持体が空間的に定められた複数のアドレスを含み、各アドレスに単一種の核酸リガンドの少なくとも1コピーが付着しており、核酸リガンド種それぞれが被験混合物に含有される疑いのあるターゲット分子の1つに対し特異的親和性をもち、核酸リガンド種それぞれが非ワトソン-クリック相互作用によりターゲット分子に結合しているか、または結合しうる、バイオチップ。」 2.刊行物に記載された事項 (1)刊行物1に記載された事項 本願の優先権主張の日前である平成9年2月に頒布された刊行物であるF.F.Bier and J.P.Furste, "Nucleic and based sensors" , Frontier in Biosensoric I(EXS,Vol.80)(1997.2)p.97-120(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。 (1a)「The future development of new biosensors is likely to benefit from recent advancement in the understanding of basic nature of nucleic acid.・・・The power of this method derive from the inherent nature of some nucleic acids to combaine both, a genotype(nucleic sequence) and a phenotype(ligand binding or catalytic activity), into one molecule. Taking advantage of this property, oligonucleotide ligands with high affinities for a striking variety of molecular targets have been identified through directed evolution.The procedure for identifying oligonucleotide ligands is called SELEX(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment; Tuerk and Gold, 1990).The specific oligonucleotides emerging from this method have been called aptamers(Ellington and Szostak,1990). 」(第110頁27行?第111頁第2行) (当審訳:今後の新しいバイオセンサの開発は、近年の核酸の基本的性質の理解の進展によってもたらされるだろう。・・・この方法は、核酸の固有の性質、すなわち、遺伝子型(核酸配列)及び表現型(リガンド結合や触媒活性)とが組み合わさって1つの分子になる性質によるものである。この性質を利用して、様々な分子ターゲットに対して高い親和性を有するオリゴヌクレオシドが、定方向進化により特定されてきている。オリゴヌクレオチド・リガンドを特定する方法はSELEX法(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment; Tuerk and Gold, 1990)と呼ばれる。そして、この方法により産生された特異的なオリゴヌクレオチドは、「アプタマー」と呼ばれている(Ellington and Szostak,1990)。」 (1b)「Ligand-binding DNAs were selected for small dye molecules(Ellington and Szostak,1992), ATP(Huizenga and Szostak,1995) and proteins, like HIV-1 reverse transcriptase, elastase and human thrombin(Bock ar al.,1992).The thrombin-specific ligands have anticlotting activity and are thus candidates for new lead compounds.」(第114頁3?7行) (当審訳:リガンド結合するDNAは、小さい色素分子(Ellington and Szostak,1992)、ATP(Huizenga and Szostak,1995)、HIV-1逆転写酵素やエラスターゼ、ヒト・トロンビンのようなタンパク質(Bock ar al.,1992)に対して選定されてきた。このトロンビンに対して特異的なリガンドは、抗血液凝固活性があることから、新しいリード化合物の候補となっている。) (1c)「The interactions of thtombin and aptamer were also evaluated by applying surface plusmon resonance, either by attaching a biotinylated DNA aptamer to a sensor chip and measuring thrombin binding or by immobilizing thrombin on the sensor surface and monitoring the binding of aptamers.」(第114頁第9?13行) (当審訳:トロンビンとアプタマーの相互作用は、ビオチン標識されたDNAアプタマーをセンサーチップに付着させてトロンビンとの結合を測定する場合でも、あるいは、センサー表面にトロンビンを固定してアプタマーとの結合を観察する場合でも、表面プラズモン共鳴により評価することができる。) (2)刊行物2に記載された事項 本願の優先権主張の日前である平成7年4月6日に頒布された刊行物であるR.J.Lipshutz, D.Morris, M.Chee, E.Hubbell, M.J.Kozal, N.Shah, N.Shen, R.Yang and S.P.A.Fodor, "Using Oligonucleotide Probe Arrays To Access Genetic Diversity", BioTechniques,Vol.19,No.3(1995.4.6)p.442-447(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。 (2a)「Results from this application strongly suggest that oligonucleotide probe arrays will be powerfull tool for rapid investigations in sequence checking, pathogen detection, expression monitoring and DNA molecular recognition.」(第443頁左欄下から1?6行) (当審訳:この適用により得られた結果から、オリゴヌクレオチドプローブアレイは、配列の確認、病原体の検出、発現の監視及びDNA分子の認識について迅速な調査を行うための強力なツールになることが示唆される。) (2b)「High-density oligonucleotide arrays are created using light-directed chemical synthesis . Light-directed chemical synthesis combines semiconductor-based photolithography and solid-phase chemical synthesis(3). To begin the process(Figure 1A), linkers modified with photochemically removable protecting groups(12) are attached to a solid subtrate. Light is directed through a photolithographic mask to specific areas of synthesis surface, activating those areas for chemical coupling (Figure 1B). The first of a series of nucleosides(MeNPOC-dT in this instance) harboring a photo-labile protecting group at the 5' end(12) is incubated with the array, and chemicalcoupling occurs at those sites that have been illuminated in the preceding step(Figure 1C).Next, light in directed to a different region of the substrate through a new mask(Figure 1D), and the chemical cycle ( with MeNPOC-dT in this instance) is repeated(Figure 1E). The process is repeated(Figure 1F). Using the proper sequence of masks and chemical steps, a defined collection of oligonucleotides can be constructed, each in a predefined position on the surface of the array.」(第443頁右欄下から2行?第444頁右欄第29行) (当審訳:高密度オリゴヌクレオチドアレイは、光指向性化学合成法により作成される。光指向性化学合成法は、半導体を使用したフォトリソグラフィーと固相の化学反応を組み合わせたものである(3)。この工程を始めるにあたって(図1A)、光化学的に除去可能な保護基(12)で修飾したリンカーを固体基質に付着させる。フォトリソグラフィーマスクから光を合成表面の特定の部位に照射することによって、化学共役を起こす領域を活性化させる(図1B)。5'末端において、感光性保護基のある最初の一連のヌクレオシド(この場合は、MeNPOC-dT)(12)をアレイでインキュベートすると、前述の段階で照射された部位で化学共役が起こる(図1C)。次に、新しいマスクから基質の別の領域に光を向けて(図1D)、化学サイクル(この場合は、MeNPOC-dTを用いて)を繰り返し行う。これらの工程を繰り返し行う(図1F)。マスク及び化学的工程の適切な配列を用いて、それぞれアレイの表面上の予め決められた位置に、オリゴヌクレオチドの確定群を形成することができる。) (2c) (第444頁下) (3)刊行物3に記載された事項 本願の優先権主張の日前である平成7年5月2日に頒布された刊行物である米国特許第5412087号明細書(以下、「刊行物3」という。)には、以下の事項が記載されている。 (3a)「The present invention relates generally to methods and compositions useful for immobilizaing oligonucleotides and other biological polymers on surface.The immobilized biological polymers, which can be, for example, oligonucleotides or polypeptides, are useful in a variety of screening and assay methodologies.」(第1欄第6?11行) (当審訳:本発明は、オリゴヌクレオチドや他のバイオポリマーを表面に付着させるのに有益な方法や装置に関連するものである。付着した生物学的ポリマーは、例えば、オリゴヌクレオチドやポリペプチドが例示されるが、多様なスクリーニングやアッセイの方法に有用なものである。) (3b)「Recent approaches to genetic analysis are increasingly placing importance on performing parallel hybridizations in an array format. Applications of the parallel hybridization format include generating diagnostic arrays for tissue typing or diagnosis of genetic disorders (see PCT patent publication No. 89/11548, incorporated herein by reference), DNA sequencing by hybridization, DNA fingerprinting, and genetic mapping (see U.S. patent application Ser. Nos. 624,114, now abandoned and 626,730, filed Dec. 6, 1990, each of which is incorporated herein by reference; see also Khrapko et al., 1991, J. DNA, Seq. Map. 375-388). In these applications of probe arrays, the information content of the array increases as the number of probes is increased. 」(第2欄第40?53行) (当審訳:近年の遺伝子解析のアプローチでは、アレイ形式での複数のハイブリダイゼーションを一度に行うことにますます重点が置かれている。この並列型のハイブリダイゼーションの出願には、遺伝障害の組織判定や診断(参照のために引用すると、PCT国際公開89/11548号公報を参照)、ハイブリダイゼーションによるDNA配列の決定、DNA指紋検査法、遺伝子地図の作成(米国特許出願624,114号(現在放棄されている)や、1990年12月6日に出願された米国特許出願626,730号。それぞれ参照のために引用。また、Khrapko et al., 1991, J. DNA, Seq. Map. 375-388を参照。)についてのものがある。これらのプローブ・アレイの適用により、アレイの情報量は、プローブの数に従って増加することになる。) (3c)「Novel methods and compositions of matter are provided for immobilizing oligonucleotides and other biological polymers on predefined regions of a surface of a solid support. The methods involve attaching to the surface a thiol functional group protected with a photochemical protecting group so that the thiol has very low reactivity for other functional groups reactive with thiols. The protected thiol is convertible by irradiation to a fully reactive thiol capable of immobilizing a desired biological polymer such as a nucleic acid, protein, or polysaccharide. Predefined regions of the surface are selectively irradiated to convert the protected thiols in the predefined regions to reactive thiol groups. The desired biological polymers subsequently can be immobilized on the activated regions of the surface.」(第2欄第下から3行?第3欄第12行) (当審訳:本発明の主題の新規な方法や装置は、固体支持体の表面の予め定められた領域に、オリゴヌクレオシドや他のバイオポリマーを付着するためのものである。まず、この方法では、チオール基は他の官能基との反応性がとても低いので、光化学保護基により保護されたチオール基を表面に付着させる。保護されたチオール基は、照射により、核酸、タンパク質、ポリオリゴサッカライドのような所望のバイオポリマーと付着するのに十分な反応性を有するものとなる。固体支持体の予め定められた領域に選択的に照射することにより、所望の領域の保護されたチオール基を、反応性の高いチオール基に変換することができる。その結果、所望のバイオポリマーを、固体支持体の活性領域に付着することができるようになる。) (3d)「Thus, the present invention can be used to activate discrete, predetermined locations on the surface for attachment of biological polymers. The resulting surface will have a variety of uses. For example, direct binding assays can be performed in which nucleic acids in a sample can be simultaneously tested for affinity to a number of different oligonucleotide probes attached to the surface. Binding can be detected by a technique such as autoradiography when one of the binding moieties is radioactively labelled. Alternatively, fluorescence and optical measuring techniques can be used to detect the binding. By determining the locations and amount of label on the surface, one can simultaneously screen ligands for affinity to a plurality of anti-ligands.」(第4欄第下から2行?第5欄第14行) (当審訳:このように、本発明は、バイオポリマーを付着する固体支持体表面の別々の予め定めされた領域を活性化するのに使用できる。得られた固体支持体表面は、多様な用途に用いることができる。例えば、被検体中の核酸と、固体表面に付着したいくつかの異なるオリゴヌクレオチドプローブとの親和性を同時に試験するといった、直接的な結合をみるアッセイに用いることができる。その結合部位の一部が放射性物質により標識されていれば、オートラジオグラフィーのような方法で検出できる。結合を検出する別の方法として、蛍光や光学的な方法も用いることができる。固体表面上の位置や標識物質の量を検出することにより、同時に、リガンドと多くのアンチーリガンドとの親和性をスクリーニングすることもできる。) 3.刊行物1に記載された発明 刊行物の上記摘記事項(1c)には、「トロンビンとアプタマーの相互作用は、ビオチン標識されたDNAアプタマーをセンサーチップに付着させてトロンビンとの結合を測定する場合でも、・・・表面プラズモン共鳴により評価することができる」ことが記載されており、「センサーチップ」は「ビオチン標識されたDNAアプタマー」を付着しているものであって、「ビオチン標識されたDNAアプタマー」と「トロンビン」との結合を測定するためのものであり、「ビオチン標識されたDNAアプタマー」と「トロンビン」とは相互作用して結合しうるものといえる。 そうすると、刊行物1には、 「トロンビンとアプタマーとの結合を測定するセンサーチップであって、センサーチップにはビオチン標識されたDNAアプタマーが付着しており、DNAアプタマーとトロンビンとが相互作用し得る、センサーチップ」 の発明(以下「引用発明」という)が記載されているといえる。 4.対比 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「ビオチン標識されたDNAアプタマー」について、上記摘記事項(1a)によれば「アプタマー」とは、「SELEX法により産生された」「様々な分子ターゲットに対して高い親和性を有するオリゴヌクレオシド」といえること、本願明細書の段落【0018】には、「”核酸リガンド”は、・・・望ましい様式でターゲット分子に作用する核酸を意味する。・・・本発明にはSELEX法で同定した核酸リガンドと実質的に同じ核酸リガンドも含まれる」と、本願明細書の段落【0022】には「SELEX法には、選択したオリゴヌクレオチドと選択した他のオリゴヌクレオチドおよび非オリゴヌクレオチド官能単位を結合させるものが包含される。・・・基本的SELEX法の変更について記載した前記特許出願の全体を本明細書に援用する。・・・、親和性基(たとえばビオチン)、・・・、または他のSELEXターゲットの結合部位配列を取り込ませることができるいかなるSELEX変法も本発明に使用できる」と記載されていることから、引用発明における「ビオチン標識されたDNAアプタマー」は本願発明における「核酸リガンド」に相当するといえる。 引用発明における「トロンビン」はタンパク質であり、本願明細書の段落【0012】には、「・・・”ターゲット分子”・・・は、本明細書において、・・・核酸が作用しうる任意の化合物を意味する。SELEXターゲット分子は、タンパク質・・・などであってよく・・・」と記載されており、引用発明における「トロンビン」は、「核酸リガンド」である「ビオチン標識されたDNAアプタマー」と相互作用・結合するものであるから、本願発明における「ターゲット分子」に相当する。 引用発明における「ビオチン標識されたDNAアプタマー」は「トロンビン」と相互作用・結合するものであるから、「トロンビン」に対し「特異的親和性」をもつものといえる。また、「ビオチン標識されたDNAアプタマー」と「トロンビン」との結合は、本願発明と同様に、核酸同士の結合である「ワトソン-クリック相互作用」による「結合」ではなく、「非ワトソン-クリック相互作用」による結合をしているといえる。 引用発明における「センサーチップ」は、「ビオチン標識されたDNAアプタマー」を付着させるものであるから「固体表面」を有する「固体支持体」を含むものであるといえ、さらに、本願明細書の段落【0021】の「”バイオチップ”は、分子が共有結合または非共有結合により付着できるミクロ加工した任意の固体表面」であることから、本願発明における「バイオチップ」と同義であるといえる。 したがって、両者は、 「1以上のターゲット分子を検出するためのバイオチップであって、固体支持体を含み、固体支持体に単一種の核酸リガンドの少なくとも1コピーが付着しており、核酸リガンド種がターゲット分子の1つに対し特異的親和性をもち、核酸リガンド種それぞれが非ワトソン-クリック相互作用によりターゲット分子に結合しているか、または結合しうる、バイオチップ。」 という点で一致するが、以下の点で相違する。 相違点:バイオチップの構造について、本願発明では、固体「支持体が空間的に定められた複数のアドレスを含み、各アドレスに単一種の核酸リガンドの少なくとも1コピーが付着して」おり、「被験混合物中の1以上のターゲット分子を検出する」ものであるのに対し、引用発明では、センサーチップ上には「トロンビン」と相互作用・結合する「ビオチン標識されたDNAアプタマー」が記載されているのみで、「アドレス」について記載はなく、「トロンビン」だけでなく複数種類の「ターゲット分子」を検出できるか明らかでない点。 5.判断 (1)相違点について 刊行物2の上記摘記事項(2b)(2c)及び刊行物3の上記摘記事項(3c)(3d)に記載されているように、バイオチップにおいて、予め定められた領域に、異なる種類のオリゴヌクレオチドを付着させること、すなわち、「支持体が空間的に定められた複数のアドレスを含み」、「各アドレス」に「核酸リガンド」を付着させることは、本願の優先日の時点において周知・慣用されている技術である(この点について、他にも、特開平7-39399号公報の段落【0009】?【0010】及び図1?図4や特開平5-322817号公報の請求項1?2、段落【0018】?【0021】及び図1?3を参照。)。また、刊行物2の上記摘記事項(2b)(2c)及び刊行物3の上記摘記事項(3c)(3d)の記載からみて、予め定められた領域には、「単一種の核酸リガンド(オリゴヌクレオチド)の少なくとも1コピー」が付着しているといえる(この点について、他にも、特開平5-322817号公報の段落【0018】?【0021】及び図1?3を参照。)。 さらに、刊行物2の上記摘記事項(2a)及び刊行物3の上記摘記事項(3a)(3b(3d)の記載からみて、予め定められた領域に異なる種類のオリゴヌクレオチドを付着させたバイオチップを用いて、複数の被検出物質を含む試料中の、オリゴヌクレオチドプローブと特異的親和性を有する物質を検出する、すなわち、「被験混合物中の1以上のターゲット分子を検出する」ことも、本願の優先日当時において周知の技術であったといえる(この点について、他にも、特開平5-322817号公報の段落【0002】、【0058】?【0059】を参照。特に、複数の被検出物質を含む試料中について、刊行物1の上記摘記事項(1c)で用いられている検出方法である表面プラズモン共鳴により検出する例として、特開平1-308946号公報の特許請求の範囲及び第4頁右下欄第20?第5頁右上欄15行、特開平2-59646号公報の特許請求の範囲及び第5頁左下欄第16行?右下欄第11行、第7頁左下欄第第17行?第8頁左下欄第4行を参照)。 そして、刊行物1の上記摘記事項(1a)の「様々な分子ターゲットに対して高い親和性を有するオリゴヌクレオシドが、定方向進化により特定されてきている。オリゴヌクレオチド・リガンドを特定する方法はSELEX法・・・と呼ばれる。」の記載、上記摘記事項(1b)の「リガンド結合するDNAは、・・・HIV-1逆転写酵素やエラスターゼ、ヒト・トロンビンのようなタンパク質(Bock ar al.,1992)に対して選定されてきた。」の記載からみて、SLEX法等を用いることにより、「トロンビン」以外の他のターゲット分子が選定できることは、本願の優先日当時において周知の事項であったといえる。 そうすると、引用発明において、「センサーチップ」を「支持体が空間的に定められた複数のアドレスを含」むものとし、「各アドレス」に、それぞれが被験混合物に含有される疑いのあるターゲット分子の1つに対し特異的親和性」をもつ「単一種の核酸リガンド(オリゴヌクレオチド)の少なくとも1コピー」を付着させること、さらに、この「センサーチップ」を用いて、「被験混合物中の1以上のターゲット分子を検出」することは、当業者が容易に想到し得たことといえる。 (2)本願発明の効果について 本願発明の効果として、請求人は、平成20年9月2日付け意見書において、「本願発明は被験溶液中のターゲット分子、特に体液中に含有される医学的関連のある分子を検出しうるものであり、本願出願人は本願発明に基づき、患者のサンプル中にあるタンパク質標的(複数)を同時に測定することのできる、multiplexedフォーマットで多数の異なる核酸リガンドを含むアプタマー(核酸リガンド)・アレイを開発してきました。これにより、サンプル中のタンパク質の痕跡に基づくサンプルの臨床診断が可能になります。このような本願発明の効果は引用例の記載からは予測することのできない極めて顕著なものであります」と主張している。 しかしながら、引用発明も医学的関連のある分子である「トロンビン」を検出しうるものであり、刊行物2の上記摘記事項(2a)及び刊行物3の上記摘記事項(3a)(3b)(3d)の記載からみて、予め定められた領域に異なる種類のオリゴヌクレオチドを付着させたバイオチップは、「配列の確認、病原体の検出、発現の監視及びDNA分子の認識」等の多様なスクリーニングやアッセイの方法に用いることができるものであるから、本願発明の「サンプル中のタンパク質の痕跡に基づくサンプルの臨床診断が可能」になるという効果は、引用発明及び刊行物2?3に記載された発明から、当業者が予測し得る範囲内のものといえる。 さらに、請求人は、平成20年12月22日付け審判請求書に対する平成21年3月5日付け手続補正書において、「レイチェル・オストロフ博士による宣誓書」及び同博士による論文を添付して、「この宣誓書は、異なるターゲットに対する複数の核酸リガンドを含有した多重アレイを記載したいくつかの実験について説明しています。いずれの実験も、本願当初出願明細書に記載の方法に従って実施されています。これらの実験は、複数の核酸リガンドが、個別のターゲットと相互作用する互いの能力に干渉することなく、首尾よくバイオチップに固定化されうることを実証しています。また、これらの実験は、サンプルが精製されたたんぱく質であるか、または血清のような“被検混合物”であるかにかかわらず、固定化された複数の核酸リガンドがそのターゲットを検出することができることをも実証しています。このような本願発明の顕著な効果は、当業者が引用文献1-4を参照したとしても、容易に想到できるものではありません」と主張している。 しかしながら、固体支持体に複数の種類のオリゴヌクレオチドやポリペプチドを固定したバイオチップを用いる場合において、それぞれのオリゴヌクレオチドやポリペプチドが互いに干渉することなく、それぞれに特異的に作用するターゲット分子と結合し、その結合の検出が可能であることは通常常期待されるべき効果であるから、請求人のこの主張も採用することができない。 (3)まとめ したがって、本願発明は、刊行物1?3に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 6.その他 なお、平成21年1月21日付け手続補正書は、「第2 平成21年1月21日付け手続補正書についての補正の却下の決定」で検討したとおり却下すべきものと認めるが、その請求項1に係る発明(以下「本願補正発明1」という。)についても一応検討する。 本願補正発明1は、以下のとおりに特定されるものである。 「【請求項1】被験混合物中の1以上のターゲット分子を検出するためのバイオチップであって、固体支持体を含み、この支持体が空間的に定められた複数のアドレスを含み、各アドレスに少なくとも個々の種の核酸リガンドが付着しており、核酸リガンド種それぞれが被験混合物に含有される疑いのあるターゲット分子の1つに対し特異的親和性をもち、核酸リガンド種それぞれが非ワトソン-クリック相互作用によりターゲット分子に結合しているか、または結合しうる、バイオチップ。」 そして、本願補正発明1は、上記「第2 平成21年1月21日付け手続補正書についての補正の却下の決定」「2.補正の適否」で述べたように、本願発明における「各アドレスに単一種の核酸リガンドの少なくとも1コピーが付着しており」の記載について、「各アドレスに少なくとも個々の種の核酸リガンドが付着しており」と補正するものであるが、本願発明においても「各アドレス」毎に異なる「個々の種の核酸リガンドが付着」しているものであるから、本願補正発明と本願発明とは実質的に同一であるといえる。さらに、「各アドレス」毎に異なる「個々の種の核酸リガンドが付着」しているバイオチップは、「第3 本願発明について」の5(1)で検討したとおり、刊行物2の上記摘記事項(2b)(2c)及び刊行物3の上記摘記事項(3b)(3c)に記載されている。 そうすると、本願補正発明1についても、上記「第3 本願発明について」で検討したとおり、刊行物1?3に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 7.むすび 以上のとおりであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-07-13 |
結審通知日 | 2011-07-14 |
審決日 | 2011-07-27 |
出願番号 | 特願2000-539172(P2000-539172) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C12Q)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 三原 健治 |
特許庁審判長 |
秋月 美紀子 |
特許庁審判官 |
郡山 順 杉江 渉 |
発明の名称 | 診断用核酸リガンドバイオチップ |
代理人 | 江尻 ひろ子 |
代理人 | 社本 一夫 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 増井 忠弐 |